日本学術会議の会員改選で、学術会議が推薦した候補者105人のうち6人を、菅義偉首相が任命しなかった。朝日、毎日、東京の3紙が、学問の自由を脅かす暴挙と政府を激しく非難し、撤回を求めたのに対し、産経は、学問の自由の侵害には当たらず、推薦候補をそのまま任命する従来のやり方こそ改めるべきだと主張した。

 現行制度になった平成16年度以降、推薦候補が任命されなかったのは初めてだ。朝日など3紙は、昭和58年の政府の国会答弁などを根拠に、推薦候補の見送り自体が間違っているとの立場を取る。加藤勝信官房長官は「人事は話せる内容に限界がある」として、理由の具体的な説明を避けたが、3紙は、背景としておもに次の2点を挙げた。

 一つは、学術会議が「軍事研究を認めない」との立場を取り、防衛装備庁の研究支援制度発足を受け平成29年、声明で改めてその旨を研究機関に通告したことだ。「政府は科学技術振興を国の成長戦略の柱と位置づける。一環として防衛装備庁は、軍事転用が可能なロボット技術研究などを支援する制度を創設した。だが、学術会議の声明の影響もあって、応募は思うように増えていない」(毎日)「(声明に加え、新旧会長らが)政権の科学技術政策に批判的な姿勢を示したこともあり、自民党内には根強い批判や不満があるという」(朝日)「政府にとっては煙たい存在なのだろう」(東京)

 もう一つは、6人が、安保法制や一連の「共謀罪」論議で、安倍晋三前政権に反対、もしくは批判的だったということである。「過去の発言に基づいて意に沿わない学者を人事で排除する意図があったとすれば、憲法23条が保障する『学問の自由』を侵害しかねない」(毎日)「(6人の)任命を拒否することで、他の研究者、さらには学術会議の今後の動きを牽制(けんせい)しようとしているのではないかとの見方が広がる」(朝日)

産経は「そもそも学術会議メンバーに任命されないことがなぜ学問の自由の侵害に当たるのか。会員にならなければ自由な研究ができないわけでもあるまい」と指摘した。軍事研究を行わないとした声明にも言及し、「技術的優位を確保する日本の取り組みを阻害しかねない内容だ。声明の作成過程では、自衛隊の合憲性に疑義が出るなど、浮世離れした意見が続出した」「一方で、海外から集めた先端技術の軍事利用を図る中国から、多数の科学者を受け入れている事実には目を伏せたままだ」と学術会議を批判し、活動内容などの抜本的改革を要求した。

 日経は、声明や安保法制への6人の立場などを指摘しつつ、「政府は異例の決定に至った経緯と理由をきちんと説明すべきである」とするにとどめた。

 読売は他の5紙に3日遅れてこのテーマを取り上げ、「学術研究に関わる組織を政争の場にしてはならない。問題の所在をきちんと整理すべきだ」と説いた。その上で、政府には判断の根拠や理由について丁寧な説明を求め、学術会議に対しては、「情報技術が飛躍的に発展した現在、科学の研究に『民生』と『軍事』の境界を設けるのは、無理がある。旧態依然とした発想を改めることも必要ではないか」と注文を付けた。

 学術会議が6人の任命見送りの撤回を求め、野党が菅首相の手法への批判を強める中、河野太郎行政改革担当相が学術会議を行革の対象とし、見直しに着手する考えを明らかにした。学術会議改革は、菅政権発足早々の重要課題となった。(内畠嗣雅)



 ■日本学術会議をめぐる主な社説

【産経】

 ・人事を機に抜本改革せよ (3日付)

 ・前例に囚われず大ナタを (8日付)

 ・行革の対象に聖域はない (10日付)

【朝日】

 ・学問の自由脅かす暴挙 (3日付)

 ・説得力ない首相の説明 (6日付)

 ・論点すり替え目に余る (9日付)

 ・首相は説明責任果たせ (13日付)

【毎日】

 ・看過できない政治介入だ (3日付)

 ・これでは説明にならない (7日付)

 ・理由示せないなら撤回を (10日付)

 ・誰が6人を除外したのか (13日付)

【読売】

 ・混乱回避へ丁寧な説明が要る (6日付)

【日経】

 ・なぜ学者6人を外したのか (3日付)

【東京】

 ・任命拒否の撤回求める (3日付)

 ・説明拒む政府の不誠実 (8日付)

 ・強権的手法は許されぬ (10日付)

産経新聞 2020.10.14 09:00
https://www.sankei.com/column/news/201014/clm2010140004-n1.html