中国の習近平国家主席がアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を「積極的に検討する」と表明した。

 米国が離脱したTPPへの参加意欲を示すことで、先に署名した地域的な包括的経済連携(RCEP)と合わせて、自由貿易の推進役を標榜(ひょうぼう)する思惑があるのだろう。

 米中対立が激化する中、政権交代期の米国の機先を制して、アジア太平洋地域における影響力を高めようとする戦略的な発言だと受け止めるべきである。

 そうでなくともTPPは、RCEPよりも高水準の関税撤廃や共通ルールが明記されている。一党独裁の政治経済体制をも揺るがしかねないTPPの規律を、中国が本気で受け入れようとしているのかは疑わしい。習氏が送る秋波に安易に乗るわけにはいかない。

 TPPには本来、中国に対抗して公正で自由な広域経済圏を構築する狙いがある。このことを今一度、想起する必要がある。

 例えばTPPには、外国企業よりも国有企業を優遇することなどを禁じる規定がある。これは、国有企業を通じて経済を管理する中国の国家資本主義の根幹にかかわるものだ。

 RCEPでデジタル分野のルール作りが進展したといっても、中国を念頭に置いたTPP3原則の一つ、コンピューターソフトの設計図にあたる「ソースコード」の開示を外資に求めることを禁じる規定は盛り込まれなかった。

 中国がTPP参加に向けて乗り越えるべきハードルは極めて高いのが現実である。同じくTPP参加に意欲的な英国や台湾などと同列に扱うことはできない。

 米国が抜けたTPPを11カ国で発効させるための交渉を主導した日本は、他の加盟国が中国の経済力に引き寄せられて前のめりに対応することがないよう警戒を強めるべきである。もちろん、習主席の参加意欲を軽々に歓迎することなどあってはならない。

 問題は米国である。大統領選で勝利を確実にした民主党のバイデン前副大統領には、早急にTPPに復帰する方針を明言してほしい。対応が遅れると、その分、この地域での中国の存在感が高まろう。これを避けるためにも、日本政府はバイデン氏に復帰を強く促していくべきである。

産経新聞 2020.11.22 05:00
https://www.sankei.com/world/news/201122/wor2011220002-n1.html

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