6年前、京郷新聞の企画記事は台湾人が自分たちの国を「鬼島(グイダオ)」と呼ぶと書いた。「呪われた島」という意味が込められているという。当時の大卒初任給は80万ウォン(約8万2000円)程度と低く、非合理的な職場文化、住宅価格の高騰、旧態依然の政治などがその原因として挙げられた。

 一時台湾は日本に追随するアジアの先進圏国家だった。1971年までは国連常任理事国として、韓国の兄貴分と認識されたこともある。1980年代に開発途上国で最も早く先進国に分類され、ギリシャの1人当たり国民所得を抜いた。当時台湾の国内総生産(GDP)は人口が50倍の中国の40%に達するほどだった。国民所得1万ドルも韓国より2年早い1992年に達成した。カラーテレビも自家用車も韓国より先に普及した。

 そんな台湾がいつの間にか韓国人に忘れられる国になった。2000年代に入り、台湾の主力産業であるITのバブルが崩壊し、08年の世界的な金融危機で大きな被害を受けた。韓国の政治でほぼ姿を消した肉弾戦議会が台湾で繰り広げられたのもこのころだ。格下だと思っていた韓国が国家全体の規模で大きくリードし、1人当たり国民所得でも2003年に抜かれ、プライドを失った台湾人には奇妙な嫌韓感情が生じた。

台湾に再び目を向けたのは、数日前に台湾の1人当たり国民所得が19年ぶりに韓国を抜くかもしれないという記事を読んだからだ。GDPは為替レートの影響を受けるため、両国の経済を正確に反映するとは言えない。実際には年末に異なる結果が出る可能性もある。しかし、韓国と台湾の政治経済状況を見れば、「台湾の韓国超え」が実際に起きてもおかしくないように思える。それだけ最近の台湾は活気に満ちており、韓国はその反対だからだ。

 京郷新聞が「鬼島」と書いた記事が出た当時、台湾は民進党の蔡英文総統へと政権交代が成し遂げられた。翌年、韓国では文在寅(ムン・ジェイン)政権が誕生した。両国の政権下で経済を象徴するのが台湾積体電路製造(TSMC)とサムスン電子だ。TSMCは順調に成長したが、サムスン電子は総帥が刑務所におり、今も裁判を受けることが「主な業務」だ。TSMCは時価総額ベースで世界の半導体企業でトップとなり、サムスン電子の株価は連日最安値を更新している。

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盧武鉉政権からは韓国の国家議題の中心が経済から国内政治に変わった。1980年代に社会運動に参加した人々が政治に本格的に進出した時期と重なる。時が過ぎるにつれ、韓国はどこに向かっているのか分からなくなった。「稼ぐ人よりも使う人が先」になった文在寅政権が代表的だ。巨額の借金をして、ばらまいたことを「業績」と呼ぶ国になった。民主党出身のベテラン政治家は「過去10年間の政治は政治ばかりをしてきた」と言った。その言葉は間違っているだろうか。

 21世紀は企業の世紀だ。科学技術と企業が国民を食べさせ、国防まで担う。「企業優先」の国が勝ち、「使う人ではなく稼ぐ人が先」の国の国民が結局はより幸せになる。世界は自国の産業に破格の支援を行っている。韓国は過去5年間、研究開発者が研究室にとどまれない硬直した労働時間週52時間上限制、世界で最も厳しい環境・安全規制などを導入した。必要な制度とはいえ、しっぽが胴体を揺さぶるのではないかと心配だ。SKハイニックスの竜仁半導体クラスターは、環境影響評価の遅延に加え、補償問題などで3年たっても着工できず、サムスン電子平沢半導体工場では住民の反発で5年間送電線を設置できない事態まで起きた。企業トップの最大の関心は依然として政治、司法的リスクだ。巨大労組は怪物になった。もはや企業はできれば工場を海外に建設しようとする。そうしたことの積み重ねが「台湾の韓国超え」予想につながっている。

 ソウル大経済学部のキム・セジク教授は、朝鮮日報とのインタビューで、「韓国の長期成長率が任期5年の政権ごとに規則的に1ポイントずつ低下している」と指摘した。長期成長率は基準となる時期以前の5年と以後5年の合計10年間の成長率を平均したもので、真の「経済実力」の指標になるという。金泳三政権期は6%だったが、文在寅政権期は1%と推定され、尹錫烈(ユン・ソクヨル)政権では0%になると予測した。キム教授は、0%の長期成長率を「経済氷河期」と呼んだ。 民主化以後、韓国は体には良いが、口には苦い薬の代わりに砂糖水ばかり飲んできた。それも「5年ごとにマイナス1%の法則」に影響を及ぼしたと思われる。尹次期大統領にもこのインタビューを一度読んでみることを勧めたい。

楊相勲(ヤン・サンフン)主筆

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