北朝鮮による日本人拉致問題をめぐり、岸田文雄政権の〝熱量〟が上がっている。
岸田首相が5月末に交渉実現を呼びかけたのに対し、北朝鮮が異例の反応を示したことで、官邸内外で進展への期待は高まっている。
ただ、北朝鮮は世論工作を含む情報戦や、嘘も交えた狡猾(こうかつ)な「外交戦」で知られる。
拉致被害者家族らが求めるのは「全員救出に向けた着実な成果」である。

松野博一官房長官兼拉致問題担当相は6月29日夜、東京都千代田区で行われた拉致問題に関する国連シンポで、
「一瞬たりとも無駄にせず、今こそ大胆に現状を変えなければならない」「問題解決には日本が主体的に動き、
トップ同士の関係を構築することが極めて重要だ」と語った。

岸田首相と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記による、日朝首脳会談への強い意欲を示したものだ。

今回のシンポについて、北朝鮮は前日(28日)、朝鮮中央通信のウェブサイトに、
「尊厳の高いわが共和国(北朝鮮)の国際的イメージに泥を塗り、
集団的な圧迫の雰囲気をつくり出そうとする敵対勢力の断末魔さながらのあがきに過ぎない」と、
北朝鮮外務省関係機関の研究員名で、こき下ろす論評を発信していた。

『格』高いと言えず

この研究員は例年、シンポを批判しており、公安関係者は「目新しい反応とはいえず、発信者の『格』も高いとは言えない」という。
日本政府関係者は「ハイレベルな発信ではない」と、冷静な受け止めだ。

今回、日朝交渉への期待感が高まったのは、岸田首相が5月27日、国民大集会に参加して、
「私直轄のハイレベル協議を行う」と、近年になく踏み込んだ発言をしたことだ。
この直後、北朝鮮外務次官が「日本が新たな決断を下し、関係改善の活路を模索しようとするなら会えない理由はない」
などとする談話を公表した。

拉致被害者や家族は高齢化し、早急な解決が求められる。被害者家族は「被害者全員の帰国」を切望している。
日本国内の報道も活気づき、岸田首相の熱意は加速しているとされる。

ただ、内閣支持率が低下するなか、前のめりの日朝交渉は、「拉致事件の幕引き」を図る北朝鮮の術中にはまるリスクを高める。

情報当局関係者は「北朝鮮は、日本の政権基盤の強靱(きょうじん)さや、世論を詳細に分析している。
経済支援などの『成果』が得られると判断すれば、交渉に乗り出す可能性はある。
ただ、先代の金正日(キム・ジョンイル)総書記が下した『拉致問題は解決済み』などの決断や説明は絶対だ。
2002年の日朝首脳会談で示した被害者の安否を覆し、帰国を実現するには、相当なハードルがある」と語る。

極めて難易度高い

岸田首相は、どのような戦略を描き、交渉実現につなげるのか。注目度はより、高まりそうだ。

ある日朝関係筋は「北朝鮮には『日本が02年に約束した経済支援をせず、裏切った』という認識もある。
閉鎖的な独裁国家に捕らわれた被害者の安否情報を得るのは、容易ではない。
日本の動向をつぶさに観察する北朝鮮が示す『反応』を、注視すべきだ。
新たな会談で北朝鮮が示す情報や条件に対し、どう応じるのか。極めて難易度の高い外交交渉になる」と強調している。

夕刊フジ 2023.7/2 10:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20230702-74Z6RBEGGZMI5IDOGSIE3EO6GY/