道中で山賊が登場し、乗客を襲い、金品を強奪すると噂の長距離バスに乗り、
私はラオスの古都ポーンサワンから北西へ直線で約100キロに位置するルアンパバーンを目指した。

「これ、本当に山賊が出るのでは?」と不安になるくらいに鬱蒼(うっそう)とした森を結構な頻度で通った。
山賊が出てほしいとまではさすがに思わないが、彼らが一体どんなルックスをしているかはとても気になる。

フィクションの作品でよく目にする海賊ですら、本当のルックスはどんなものなのかわからないのに、山賊なんて想像もつかない。
カラーギャングのようにバンダナを口に巻いたりしているのだろうか。
しかし、ルアンパバーンに着くまでの8時間で山賊に遭遇することはなかった。

周りの乗客も山賊の噂は心得ているようで、バスに乗り込んだ時点から車内には緊張感が漂っていた。
それだけに、ルアンパバーンの道路標識が見えたときには、みんな安心した表情を浮かべていた。

ラオスの山奥というのは、本当に森しかない。建物もなければトイレの類いもない。
バスの乗客の多くは欧米人のバックパッカーだったが、その中には女性の姿もあった。

一人の女性が運転手に「トイレに行きたい」と言うと、「ここでしろ」と運転手は原っぱにバスを止めた。
これでは窓から彼女が排尿する姿が丸見えである。
旅慣れた様子の女性もさすがに耐えられないようで運転手に抗議をしているが、
「ここでしろ」の一点張りだ。確かに、この先にトイレがあるようには思えないのだ。

最終的に端正な顔立ちをしたハンサムな白人男性が乗客全員にカーテンを閉めさせ、
「これで見られることはない」と女性を諭したことで丸く収まった。私もハンサム男の指示に従い、
隙間ができないように窓のカーテンを閉めた。
モテるヤツとモテないヤツの差が浮き彫りになったような気がして、こっそりのぞくなんてことをする勇気は出ない。

しばらくすると、わらと竹と木で作られた掘っ立て小屋が十軒程度並ぶ小さな集落でバスが止まり、そこで小休憩をすることになった。
男たちは今の時間は働きに出ているのか、集落には女の人しかいない。彼女たちは川で洗濯をしていた。
今の時代、そんな昔話みたいな光景があるのかと思ったが、それだけではない。
全裸になり、洗濯をするついでに川の水で風呂に入っていたのだ。

バスの乗客たちは男女ともにその様子にくぎ付けだが、集落の女性たちにこちらを気にする様子はない。
それからというもの、バスの運転手に文句をたれる乗客は誰もいなくなった。
おもむろにバスが止まると勝手に外に出ていき、女性もそのへんの岩陰や草むらで適当に用を足すようになった。
■國友公司

夕刊フジ 2023.10/6 11:00
https://www.zakzak.co.jp/article/20231006-DIY46EJKJBPUDMCWDH2TXT6S3Q/