台湾の総統選が13日、投開票される。
世論調査では、中国との関係で現状維持を唱える与党「民主進歩党」の頼清徳(らい・せいとく)副総統が優位に立ち、
親中国の野党「中国国民党」の侯友宜(こう・ゆうぎ)新北市長が追う展開だ。
野党「台湾民衆党」の柯文哲(か・ぶんてつ)前台北市長は出遅れている。

だが、2004年の総統選では、投票前日に民進党候補だった陳水扁(ちん・すいへん)氏が銃撃されて負傷し、
僅差で勝利する「事件」が起きた。柯氏の支持者が勝利をあきらめて、侯氏支持に流れる展開もあり得る。
柯氏自身が、それを呼びかける可能性もゼロとは言えない。直前まで、予断は許さない。

中国は頼氏の落選を願っている。一方で、中国は繰り返し、戦闘機などを中台境界線を超えて台湾側に侵入させ、
武力による挑発を繰り返してきた。にもかかわらず、頼氏が勝利すれば、中国にとっては「挑発作戦の失敗」を意味する。
台湾との統一を悲願とする習近平政権には、大打撃である。

だからといって、中国が台湾に武力侵攻できるか、といえば、それも難しい。国内経済はガタガタ、
外相も国防相も交代させたばかりで、政権基盤は揺らいでいる。
そんな状態で大規模な侵攻作戦に踏み切れば、自ら墓穴を掘るも同然だ。

現代の戦争は戦場だけで戦うわけではない。ウクライナに侵攻したロシアのように、国際的非難にさらされ、厳しい経済制裁に遭い、
長期の国際的な孤立化を覚悟しなければならない。習体制が、それに耐えられるのか。

世論調査によれば、台湾では、いまや自分を「台湾人」と認識している人が6割を超えた。
つまり、「台湾は台湾であって、中国ではない」と認識している人々が多数派なのだ。
そんな台湾に対して武力挑発を強めれば、中国に屈するどころか、逆に台湾人の結束を一段と高めてしまうに違いない。

結局、頼氏が勝利した場合、習氏に残された手は限られてくる。台湾人を離反させる結果になっても、悔し紛れに武力挑発を強めるか。
それとも、武力侵攻の選択肢を残したまま、平和的統一という名の「目に見えない侵略」路線にかじを切るか。

習氏は昨年11月の米中首脳会談で、ジョー・バイデン米大統領に「平和的統一への支持」を訴えた。
私は、これが習氏の本音とみるが、うまくいくとはかぎらない。

頼氏が勝利すれば、新政権は一層、台湾のアイデンティティー(自己認識)を強める施策を展開するだろう。
いわば「台湾の台湾化」が、さらに加速するのだ。それは「中国との平和的統一」とは、逆のベクトルである。

今回の総統選で、台湾は彼らの民主主義が一段と成熟した事実を世界に示すはずだ。結果がどうあれ、それこそが最大の成果であり、
独裁体制の中国がもっとも恐れる「台湾の現実」にほかならない。

中国は当面、11月の米大統領選まで様子見するしかない。「米国第一」を掲げる共和党のドナルド・トランプ氏が勝つか、
それともバイデン氏が再選するか。台湾と中国の将来にとっても、次の大きなヤマ場になる。

■長谷川幸洋
2024.1/12 15:30
https://www.zakzak.co.jp/article/20240112-HU74F4WIFJKNZJDF6R6T6JKAUQ/