この人がDENONレーベルに吹き込んだベートーヴェン第9は、当時としては一つのスタンダードでした。

第2楽章のスケルツォ主部第一主題再現部で、
「ミッミミ ラシド シドレ ドシラ ファミレ ドシラ #ソラシ ラ#ソラ・・・(ニ短調)」の「ファミレ ド」を、
楽譜どおりに1オクターブ低く弾かせていたのは、当時は古いクレンペラー盤を除けばこの人ぐらいしかいませんでした。

第4楽章767小節目からの「歓喜よ、楽園の乙女よ!」の女声と男声の掛け合いを、出版譜には
「Freude, Tochter aus Elysium! Freude, Tochter aus Elysium! Freude, Tochter aus Elysium! Freude, Tochter aus Elysium!」
とあるところを、スウィトナーは
「Freude, Tochter aus Elysium! Freude, Tochter aus Elysium! Tochter, Tochter aus Elysium! Tochter, Tochter aus Elysium!」
と歌わせていましたが、これもベートーヴェン自筆草稿などの資料が豊富な東ベルリンで長年研究しながら振ってきた見識の高さを覗わせる判断でした。

古楽器演奏が台頭した後の今日では、当たり前ないし部分的には時代遅れのことですが、あの当時にこういう録音をやることができたスウィトナーの先見の明は、忘れられない功績だと思います。