メンデルスゾーン・ピアノ名曲集 東芝音楽工業株式会社 AA-8167
(ピアノ) ヘルムート・ロロフ

厳格なる変奏曲ニ短調作品54

 この曲は、ドイツのロマン派の大作曲家メンデルスゾーン(1809-1847)のピアノ独奏曲のなかで、もっとも重要な曲である。

 1841年すなわち32才のころ作曲され、その翌年出版された。

 半音ずつ下降してゆく形を数多く使った下降的ムードのあふれる悲しい主題と、17の変奏および休みなしに接続しているコーダ(結尾)からなる作品である。

 メンデルスゾーンが、他のいかなる作品にも使った例がないような手法まで、随所にちりばめであるので、変化に富み、短調の曲の暗さの底に豪華けんらんとしたものが秘められている感じである。

 この一曲を作曲しただけでもメンデルスゾーンは、ウェーパー、シューベルト、シューマンとならぶロマン派の大作曲家とよばれ得たにちがいないといわれている。

 この曲は、ピアノの変奏曲の歴史を語る場合にも、逸することができない作品である。すなわち、バッハのゴールドベルク変奏曲、ベートーヴェンの数々の変奏曲(その代表としてたとえばディアベリー変奏曲をあげることができる)の伝統を継ぐ、これは変奏曲であり、古い変奏曲と後続のブラームスのへンデル変奏曲、ハイドン変奏曲、レーガーのバッハおよびテレマンの主題に基づく変奏曲などとの橋渡し役を果しているユニークな作品として重要なのである。(解説 藤田晴子)