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アンパンマンパッド
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0855名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:39:14.69ID:UiJm6bjZ
よし又死なずにすんだ所が、この先二度とお前と一しよに掃溜めあさりはしないつもりだ。
0858名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:40:01.92ID:UiJm6bjZ
雲も棟瓦を煙らせる程、近々に屋根に押し迫つたのであらう。
0860名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:40:33.31ID:UiJm6bjZ
が、乞食は顔も挙げず、やつと検べ終つた短銃へ、丹念に弾薬を装填してゐた。
0862名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:41:04.89ID:UiJm6bjZ
いや、猫と云ふやつは三年の恩も忘れると云ふから、お前も当てにはならなさうだな。――
0867名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:42:23.52ID:UiJm6bjZ
短銃をしまふのと振り返るのと、乞食にはそれが同時だつた。
0868名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:42:39.29ID:UiJm6bjZ
いや、その外に水口の障子ががらりと明けられたのも同時だつた。
0869名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:42:55.04ID:UiJm6bjZ
乞食は咄嗟に身構へながら、まともに闖入者と眼を合せた。
0870名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:43:10.78ID:UiJm6bjZ
すると障子を明けた誰かは乞食の姿を見るが早いか、反つて不意を打たれたやうに、「あつ」とかすかな叫び声を洩らした。
0872名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:43:42.21ID:UiJm6bjZ
彼女は殆ど衝動的に、もと来た雨の中へ飛び出さうとした。
0873名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:43:57.84ID:UiJm6bjZ
が、最初の驚きから、やつと勇気を恢復すると、台所の薄明りに透かしながら、ぢつと乞食の顔を覗きこんだ。
0874名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:44:13.59ID:UiJm6bjZ
乞食は呆気にとられたのか、古湯帷子の片膝を立てた儘、まじまじ相手を見守つてゐた。
0875名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:44:29.35ID:UiJm6bjZ
もうその眼にもさつきのやうに、油断のない気色は見えなかつた。
0881名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:46:03.78ID:UiJm6bjZ
あんまり降りが強いもんだから、つい御留守へはひこみましたがね――
0884名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:46:51.04ID:UiJm6bjZ
いくら明き巣狙ひぢやないと云つたつて、図々しいにも程があるぢやないか?」
0895名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:49:44.26ID:UiJm6bjZ
彼女はまだ業腹さうに、乞食の言葉には返事もせず、水口の板の間へ腰を下した。
0896名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:49:59.90ID:UiJm6bjZ
それから流しへ泥足を伸ばすと、ざあざあ水をかけ始めた。
0897名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:50:15.68ID:UiJm6bjZ
平然とあぐらをかいた乞食は髭だらけの顋をさすりながら、じろじろその姿を眺めてゐた。
0898名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:50:31.33ID:UiJm6bjZ
彼女は色の浅黒い、鼻のあたりに雀斑のある、田舎者らしい小女だつた。
0899名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:50:47.08ID:UiJm6bjZ
なりも召使ひに相応な手織木綿の一重物に、小倉の帯しかしてゐなかつた。
0900名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:51:02.84ID:UiJm6bjZ
が、活き活きした眼鼻立ちや、堅肥りの体つきには、何処か新しい桃や梨を聯想させる美しさがあつた。
0901名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:51:18.74ID:UiJm6bjZ
「この騒ぎの中を取りに返るのぢや、何か大事の物を忘れたんですね。
0906名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:52:37.58ID:UiJm6bjZ
が、ふと何か思ひついたやうに、新公の顔を見上げると、真面目にこんな事を尋ね出した。
0910名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:53:40.36ID:UiJm6bjZ
すると猫は何時の間にか、棚の擂鉢や鉄鍋の間に、ちやんと香箱をつくつてゐた。
0911名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:53:56.01ID:UiJm6bjZ
その姿は新公と同時に、忽ちお富にも見つかつたのであらう。
0912名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:54:11.76ID:UiJm6bjZ
彼女は柄杓を捨てるが早いか、乞食の存在も忘れたやうに、板の間の上に立ち上つた。
0913名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:54:27.52ID:UiJm6bjZ
さうして晴れ晴れと微笑しながら、棚の上の猫を呼ぶやうにした。
0914名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:54:43.15ID:UiJm6bjZ
新公は薄暗い棚の上の猫から、不思議さうにお富へ眼を移した。
0920名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:56:17.48ID:UiJm6bjZ
と、お富はもう一度、腹立たしさに頬を火照らせながら、いきなり新公に怒鳴りつけた。
0921名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:56:33.11ID:UiJm6bjZ
家のお上さんは三毛を忘れて来たつて、気違ひの様になつてゐるんぢやないか?
0922名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:56:48.78ID:UiJm6bjZ
三毛が殺されたらどうしようつて、泣き通しに泣いてゐるんぢやないか?
0923名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:57:04.41ID:UiJm6bjZ
わたしもそれが可哀さうだから、雨の中をわざわざ帰つて来たんぢやないか?――」
0928名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:58:22.89ID:UiJm6bjZ
明日にも『いくさ』が始まらうと云ふのに、高が猫の一匹や二匹――
0930名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 05:58:54.36ID:UiJm6bjZ
お前さんの前だけれども、一体此処のお上さん位、わからずやのしみつたれはありませんぜ。
0935名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 06:00:13.03ID:UiJm6bjZ
のみならずしげしげ彼女の姿に無遠慮な視線を注いでゐた。
0938名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 06:01:00.01ID:UiJm6bjZ
それらは何処を眺めても、ぴつたり肌についてゐるだけ、露はに肉体を語つてゐた。
0940名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 06:01:31.55ID:UiJm6bjZ
新公は彼女に目を据ゑたなり、やはり笑ひ声に話し続けた。
0941名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 06:01:47.29ID:UiJm6bjZ
「第一あの三毛公を探しに、お前さんをよこすのでもわかつてゐまさあ。
0944名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 06:02:34.45ID:UiJm6bjZ
して見れば町家は並んでゐても、人のゐない野原と同じ事だ。
0945名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 06:02:50.21ID:UiJm6bjZ
まさか狼も出まいけれども、どんな危い目に遇ふかも知れない――
0947名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 06:03:21.61ID:UiJm6bjZ
「そんな余計な心配をするより、さつさと猫をとつておくれよ。――
0948名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 06:03:37.29ID:UiJm6bjZ
これが『いくさ』でも始まりやしまいし、何が危い事があるものかね。」
0950名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 06:04:08.68ID:UiJm6bjZ
若い女の一人歩きが、かう云ふ時に危くなけりや、危いと云ふ事はありませんや。
0951名無しさん@3周年
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2018/03/07(水) 06:04:24.50ID:UiJm6bjZ
早い話が此処にゐるのは、お前さんとわたしと二人つきりだ。
レス数が950を超えています。1000を超えると書き込みができなくなります。

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