アンパンマンパッド
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万一わたしが妙な気でも出したら、姐さん、お前さんはどうしなさるね?」 新公はだんだん冗談だか、真面目だか、わからない口調になつた。 しかし澄んだお富の目には、恐怖らしい影さへ見えなかつた。 唯その頬には、さつきよりも、一層血の色がさしたらしかつた。 お富は彼女自身嚇かすやうに、一足新公の側へ寄つた。 肩に金切れなんぞくつけてゐたつて、風の悪いやつらも多い世の中だ。 新公は残らず云はない内に、したたか頭を打ちのめされた。 お富は何時か彼の前に、大黒傘をふり上げてゐたのだつた。 が、傘はその途端に、古湯帷子の肩を打ち据ゑてゐた。 この騒ぎに驚いた猫は、鉄鍋を一つ蹴落しながら、荒神の棚へ飛び移つた。 と同時に荒神の松や油光りのする燈明皿も、新公の上へ転げ落ちた。 新公はやつと飛び起きる前に、まだ何度もお富の傘に、打ちのめされずにはすまなかつた。 が、新公は打たれながらも、とうとう傘を引つたくつた。 のみならず傘を投げ出すが早いか猛然とお富に飛びかかつた。 この立ち廻りの最中に、雨は又台所の屋根へ、凄まじい音を湊め出した。 光も雨音の高まるのと一しよに、見る見る薄暗さを加へて行つた。 新公は打たれても、引つ掻かれても、遮二無二お富をぢ伏せようとした。 しかし何度か仕損じた後、やつと彼女に組み付いたと思ふと、突然又弾かれたやうに、水口の方へ飛びすさつた。 新公は障子を後ろにしたなり、ぢつとお富を睨みつけた。 何時か髪も壊れたお富は、べつたり板の間に坐りながら、帯の間に挾んで来たらしい剃刀を逆手に握つてゐた。 それは殺気を帯びてもゐれば、同時に又妙に艶めかしい、云はば荒神の棚の上に、背を高めた猫と似たものだつた。 二人はちよいと無言の儘、相手の目の中を窺ひ合つた。 が、新公は一瞬の後、わざとらしい冷笑を見せると、懐からさつきの短銃を出した。 それでも彼女は口惜しさうに、新公の顔を見つめたきり、何とも口を開かなかつた。 新公は彼女が騒がないのを見ると、今度は何か思ひついたやうに、短銃の先を上に向けた。 その先には薄暗い中に、琥珀色の猫の目が仄めいてゐた。 新公は相手をじらすやうに、笑ひを含んだ声を出した。 「この短銃がどんと云ふと、あの猫が逆様に転げ落ちるんだ。 お富は今までとは打つて変つた、心配さうな目つきをしながら、心もち震へる唇の間に、細かい歯並みを覗かせてゐた。 このスレッドは1000を超えました。
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