園芸民が異世界転生したらどうするよ?
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園芸民の得意分野で中世ヨーロッパ風の異世界をどう生き抜くか?
どう内政チートするか議論しあうスレです
ただしチートとジャガイモは禁止な トラクターと一緒に飛ばされてくるのはチートですか? ガーデンセンターで特売のチューリップ球根を山盛り買って
帰る途中で転移 「ガラス瓶と綿栓に錫箔。圧力鍋は無いから蒸し器で3回滅菌かな・・
白砂糖と寒天はある・・微粉ハイポネックスなんてものは無いよなあ・・
MS培地?うわー面倒くせぇ・・錬成は宮廷錬金術師の嬢ちゃんに丸投げしよう。
あとは次亜塩素酸か・・あ、浄化魔法って滅菌までできるのか?」
異世界でバイオ錬金術師を目指す山田に忍び寄る宮廷庭師の陰謀。
暗躍するプラントハンターギルドの黒い影。帝国に向かった青年商人の商談は如何に。
次回「夜盗魔蟲の襲来」お楽しみに! 園芸民の程度じゃアイルランドのジャガイモ飢饉の二の舞を起こして
処刑されるのが関の山だよ >>6
ロリっ娘召喚師の使役する巨大ジガバチの助けを借りて野盗魔蟲を撃退した山田。
だがそれは物語の序章にすぎなかった。
天空から飛蝗のごとく飛来する無数の魔アブラムシ。
空中に浮かぶ数字は、騎士団の魔法攻撃が農作物ごと焼き払う刻限へのカウントダウン。
農薬使用禁止の王宮農場で、山田がとった秘策とは?
次回「魔法のポーション、その名は牛乳」
石灰上澄み液を加えるのが効果を高めるポイントです。 人頭癌腫病。
それは薔薇騎士団の女騎士にとりついた、語るもおぞましき病い。
外科手術でも治療魔術でも根治はかなわず、彼女の願うは安らかなる死。
その時、山田が選んだのは禁断の異世界黒魔術「丑の刻参り」だった。
次回「菌にもよく効く、藁人形」
ターゲットはアグロバクテリウム由来T-DNA領域、腫瘍細胞を呪殺せよ! 山田の開発した分子標的呪術は異端審問にかけられた。
黒魔術使用の罪で、7日後の処刑が言い渡される。
裏に表に、仲間たちの必死の助命工作は続く。
そんな時、国王の一人娘が謎の奇病に倒れる。
次回「王女サクラの天狗巣病」
ヒト天狗巣病って絵に描いたらすっごくグロい。 偉けりゃ黒でも白になる。
王女を助けた山田は死刑囚から准男爵にクラスチェンジ。
辺境の領地に向かう途中、幻の花を追い続ける一人の多肉ハンターと出会う。
次回「疾走!追走!サボテンダー錦」
いつの世もマニアが追うのはレア個体。 黄金の魔法草が咲き乱れていたという「最果ての花園」
前領主の乱穫で、今の呼び名は「焼け野原」。
特産物を失った貧しき土地で、新領主・山田が一軒の農家の庭に見つけたものとは。
次回「最後の黄金マンドラゴラ」
実在するMandragora属と同様、栄養繁殖しづらく自家不和合という設定でございます。 「黄花変種と紫花母種を交配して、得られた実生に親黄花を戻し交配すれば
孫世代での潜性発現率50%。地球のマンドラゴラのアントシアニン欠損変異は
オーレアでなくアルバだから遺伝様式が違ってる気もするが」
山田が何を言っているのか理解できた者はいなかったが、とりあえず人工増殖が開始された。
だがまだ山田は知らない。マンドラゴラの種子はある条件が満たされなければ
永久に発芽しないということを。
次回「たったひとつの生えたやりかた」
マンドラゴラの輸入種子、古いと低温処理しても発芽はしない 古い伝承に曰く、マンドラゴラは落雷によって大地から生まれる。
落雷時の野火によって土中埋没種子の休眠が打破されると推測した山田は
オーストラリアの山火事発芽樹木の実生法を参考に、煙を溶かした水に
種子を一晩浸けることで発芽に成功する。
次なる領地開発は温泉の掘削、貴族リゾートの建設と地元野菜を使った農家レストラン。
だが魔法世界の伝統野菜と、日本料理の融合により斜め上の料理が爆誕する。
次回「見知らぬ、天丼」
大盛りはサービス、サービスゥ! 秘して愛でるも園芸なれど、友と競うもまた園芸。
全国大会出場は、貴族の社交か闘争か。
この世界での園芸は、強敵と書いて友と読む。
次回「植物最強決定戦」
ゆけヘレボルス!はっぱカッターだ! ドライアド。緑色の髪の美しい女性の姿をした植物系モンスター。
隣国には幼女の姿をしたドライアドが、愛玩用に売買されている市場があるという。
山田がそこで見たものは、ドライアドの身体を切り刻んで小型化し、
不老不死のドライアドをロリババアに魔改造している魔導師達だった。
転生者が考案したというその技術の呼び名は、山田には聞き覚えのあるものだった。
次回「盆栽市」
この場合、幼女でなく幼樹と呼ぶのが正しい。 山田は愛玩獣市場で、ナナと呼ばれるドライアドの幼女と出会う。
衰弱して処分されかかっていた彼女を買い取り、肥料とブドウ糖を飲ませて回復させた。
彼女はボンサイ化されたロリババア達とは異なり、数年分の人生記憶しか持っていなかった。
流通ルートを調べた山田が知ったのは
ドライアドの断片から完全な体を再生する植物用の究極再生魔法の存在。
そして魔導士の工房で見たものは、檻の中で出荷を待つ
ナナとまったく同じ顔をした幼女達だった。
次回「クローン系統7番ロット」
力なき者が背負って歩けるのは、一人だけ。 樹木医。植物再生魔法を唯一使える呪術医の一族。
「芋を2つに切ってこの魔法をかければ1個が2個に。30回繰り返したら1億7千万個。
食料問題解決、農地開拓の必要なし。内政チート万歳」
だが老人は静かに山田に語る。
植物魔法が封印された理由、かつてアイルドラン島でおきた芋飢饉の惨劇を。
次回「誰も働かなくなった島」
単一作物依存は、魔法耐性菌が出現すると崩壊します。 クローン・ドライアドを貴族の玩具として提供することで、野生のドライアドの
生活が守られる。頭では理解できたが、ナナを連れて自領に戻った山田の心は
晴れなかった。しかし今の山田には自領と領民の生活を守るのが精一杯だった。
窒素・リン酸・カリ・魔力。この世界における肥料の4大要素である。
褐炭を原材料にした窒素錬成術式の構築、ワイバーン・グアノの採掘、
カリ鉱床ダンジョンの攻略は順調に進んでいたが、魔力に関しては
高価な魔力ポーションを散布するか、討伐したアンデッドを畑にすき込む、
魔力量の多い勇者や大賢者の排泄物を利用するなどの方法しか見つかっていなかった。
そんな時、山田は魔王の呪いによって魔力の枯渇した土地でも
大地の精霊の加護によって育つ植物の存在を知る。
次回「根っこに棲んでるちっちゃいおっさん」
この世界の植物達は地中の精霊を通じて複雑な魔力ネットワークを構築している。蟲師っぽい。 <幕間>
後日、「根圏共生精霊の魔力固定特性と、輪作導入時の精霊への礼儀作法」
と題した論文が王国魔法学雑誌に発表された。
この論文は農業協力ギルド(略称:農協)のポーション専売利権に
多大な影響を与えるのだが、それはのちの話である。 王立ジュー植物園で、冒険者が南の島から持ち帰った新種の植物が公開された。
地球のバナナの木に似ており、黄色い実はとろけるように甘く、
たとえようのない芳香がある。だがその香りにつられて近寄ってきた動物に
マシンガンのように大量の種子を撃ち込んで倒し、その死体を苗床に
実生が育つという凶悪な生活史をもつ。
山田は植物園で育った実生の中に、妙に肉厚で緑色が濃く、種子が大きい個体が
混じっていることに気がつく。宮廷錬金術師に頼んで鑑定魔法をかけてもらい、
解析結果を検討したところ、その変異個体は地球で言うところの
4倍体ではないかと推測された。
山田はつぶやいた。「勝利の法則は、決まった!」
次回「仮説の検証」
人工的に作る場合はコルヒチンとかオリザリンとか古代エルフのロストマジックとか。 仮説を確かめるためには変異個体と標準個体を交配する必要がある。
山田の体力では上級防具は「そうび できない」ため初級防具で挑むことになった。
後衛の錬金術師から防御力上昇と回復の支援をうけたが、何回も死にかけた。
ようやく交配に成功した時には思わず口から変な声がもれた。
次回「バナナに種ができぬわけ」
その後、野生での花粉媒介者である妖精族は近寄っても攻撃されないことが判明し
「俺の苦労は何だったんだぁぁ〜〜!」と叫ぶことになるのだが、
未知の植物の栽培ではよくある話である。 予想どおり、交配によってできた3倍体には種子を作る能力がなかった。
さらに実が両親のどちらよりも大きく、味や香りにも遜色がなかった。
山田はこの植物をバナナと名付け、山田領で育てることにした。
次回より新章「通信販売ができるまで」
しばらく植物から離れるけど、続けていい? <追記>
なお、3倍体でも種子を作る能力は完全にゼロではないため
世話をする者は身代わりの腕輪と、炭素錬成繊維を編み込んだチョッキを
装備することとし、AEDステーションに似た回復ポーション置き場も用意された。
しかし幸いにして今日まで狙撃事故はおきていない。 なんかの間違いで漫画化ぐらいはいけるポテンシャルがあるな 書かれたら数巻くらいになりそうな内容と密度だな
すげーワクワクする 山田領の開発は順調に進んでいた。
古代ローマ時代から転生してきた硬派な浴場設計技師の指導のもと、
温泉熱を利用した観光温室施設も新たに完成していた。
山田領では観光地として他領との差別化をはかるべく、領内での錬金肥料の
使用を制限し、緑肥輪作と竜糞堆肥を主体にした有機農業を積極的に進めていた。
異端審問を避けるために雑草の呪殺はせず、マルチングフィルム的な錬金素材によって
雑草抑制をしていたが、このことは結果的に残留呪力を気にする自然信者の
ハイソなエルフの方々、ハイエルフ達から高い評価を与えられた。
山田領で生産される有機魔法野菜と、討伐されたオーガの肉を苗床にして育てた
オーガ肉バナナは山田領の特産品としてブランド野菜としての地位を
着実に高めつつあった。
次回「起業準備その1」
ここからが長い。 この世界には転移門や飛空船を利用した高速移送技術が存在していたが、
コストの点からそれらの利用は兵站の輸送などの大量物流に限定されていた。
通常の物流には個人商人の魔動車輸送か、運送ギルドの配達人による配送が
利用されていた。しかし一般的なアイテムボックスは生物の収納ができないため
輸送できる農産物は精白された穀類、乾燥させた芋や果実などに限定されていた。
仮に鉢植えにして運んだとしても長期輸送による風味の減退は著明であり、
領外への生鮮野菜の輸送はほぼ皆無であった。
だが誰もやっていないということは、手付かずのブルーオーシャンが広がっていると
いうことでもある。現代日本の物流システムを知る山田には、一つのアイデアが浮かんだ。
しかしそれを実現するためには、さまざまな法律的、神学的な規制をクリアする
必要があった。
次回「起業準備その2」
続く。 降雨魔法――血みどろの水争いを終わらせるはずの力が招いたのは、より苛烈な水戦争だった。
「あいつらが雨雲をみんな持っていっちまうんだ。もう生かしておくわけにはいかない」
焦熱魔法師と風使いによる火災旋風で隣国の町を焼き尽くす計画を知ってしまった鈴木は、その力を以て海水温上昇と低気圧をもたらす案を思い付く。
だがそこに現れたのは「海の使い」と名乗る青い髪の少女。
世界は変わっても気象操作はやはり遠い夢のままなのか?
「そもそも俺は気象学者じゃねえんだよ…」 >>32
まず最初は国王への謁見。
「偉大なる国王陛下と、美しき王女殿下に至高の野菜を定期的に献上したく存じます」
これで配送業起業許可の勅令をゲット。
王宮御用達の看板があれば、他人にマウントするためなら金を惜しまない、
いやむしろ商品が高価であればあるほど喜ぶ貴族達は絶好のカモ・・げふんげふん、
新興企業を援助してくださる素晴らしいパトロンになっていただける算段である。
続いて後で難癖をつけてきそうな王宮官僚、地区司教、各種ギルド長をご招待し
接待と賄賂、もとい山田領特産の黄金色のお菓子を進呈。
取引現場は「こんなこともあろうかと」的事態を想定して
王宮錬金術師の「嬢ちゃん」にこっそり念写しておいてもらう。
聖協会総本山への寄進と、教皇猊下個人にもお菓子を進呈。
ここまでが地盤固めである。
次回「起業準備その3」
まだ続く。 さてここからが大変である。
事業計画書の提出から始まって、領地経営状況調査表、王国納税証明書、
ついでなので魔族就業特区開設許可も申請した。
就業者の領邦内通行税免除資格者登録、スキルボード調査票、第二種魔術使用者免許講習、
黒魔術使用免罪符下賜申請、「ぼうけんのしょ」登録申請、
事業者負担によるアンデッド特約付蘇生保険加入、対人対物対結界損害保険、
就業時健康鑑定魔法結果表などなどなどの提出。
王都内侵入禁止区域の確認、通行計画書の策定と各種省庁およびギルドへの書類提出、
法律学者と神学者のダブルチェックによる問題点の洗い出しと計画修正。
「勇者のしるし」一個で無条件パスの恵まれたパーティは爆発しろという感じである。
山田家の領主机の上には書類が山積みになり、家令は過労死寸前で青い顔をしていたが
山田は家臣団に丸投げして逃亡した。
次回「起業準備その4」
まだちょっとだけ続くんじゃ。 <推敲>
>>34
国王陛下でなく国王陛下ご夫妻。まあ王妃が死んでる事にしてもいいんだけど。
開業起業許可の勅令でなくて起業の勅許。
げふんげふんの前後はFUNAさんの「ろうきん」にほぼ同じ描写があったような・・
無意識に剽窃してる気がするので調べて要リライト。
宮廷錬金術師と王宮錬金術師は同じ人のつもりなのでどちらかに統一が必要。
長い文章書くと次々にボロが出てくるな・・ 聖協会でなく聖教会だな・・まだあるけどとりあえず続ける <幕間>
というわけで、本日の山田は観光温室の中でバナナを食べながら、
ワニと名付けた新種の小型ドラゴンの飼育設備をチェックしていた。
バナナとワニを温室の目玉にした事に実用的な意味はなかったが、
それは山田の、二度とは戻れぬ故郷への想いが発露したものだった。
もしこの世界に、山田と同郷の転生者がいたならば、山田領の偉人であるアタガウァの
名を冠したこの動植物園の名前を耳にした時、不思議に思って訪ねてきてくれるかも
しれない ー そういう淡い期待もあった。
ちなみにこの施設は、新大陸産の根の無い着生植物のコレクションでは王国一である。
山田がやりたかったのは異世界の動植物の飼育・栽培であり、領地経営はそのための
経済的基盤を獲得する手段にすぎなかった。中央での出世や権力争いには最初から
興味がなかったし、スキルだバトルだ俺TUEEEだ、そういうものは自分とは無縁だと
思っていたし、事実そうでもあった。
ハーレム展開?それはひとまずこちらに置いておく。
閑話休題。 生きた野菜はアイテムボックスに収納できなかったが、加熱調理してからであれば
できたての状態で保存することができた。農家レストランで作られた怪しい・・ではなく、
異世界で再構成された新しい日本料理は、地球の冷凍食品のように広域に運ばれて販売され、
山田領の外貨獲得手段の一つとなっていた。
しかし味よりも料理の外見・ステータスのほうを重要視する貴族達にとって、農家の
主婦が作った料理は「下々の下賤な民が食する餌」という認識であった。
それゆえ上層階級への販路拡大はまったく期待できなかった。
将来的にはフランスの田舎にある三ツ星レストランのように、一流シェフを招聘して
山田領内で宮廷料理を作ってもらう計画もあった。しかし現状では辺境まで移住してくる
奇特、いや野心的な料理人は見つかっておらず、高級料理の領内生産計画は
今のところは絵に描いたペミカンでしかなかった。
次回「起業準備その5」
やっと半分ぐらいだな・・こんなもん読んでる人がいるのだろうか・・ 中世っつってもバカにできんからな、
むしろある分野の絶頂期はとても現代人には勝てないレベルに到達してるのもあるし
日本刀も現代日本の最高レベルの技術者もかつての名刀クラスの刀はできないと言われてるし
クラシックもベートベンやモーツアルトレベルの作曲家はいない
絵画もルネサンス時代のレベルには到達できない
俺的にはハーブ栽培が趣味だが中世ヨーロッパで盛んにおこなわれてた時代はきっと凄いレベルだったと思うよ、うん >>39
そんなある日、山田は領内の畑で野菜をチェックしている不審な男を見とがめた。
領主として職務質問したところ、彼は王都からやってきた宮廷の総料理長であった。
領館で山田領の野菜を試食したぐるぐるマユ毛の若い総料理長は、伝統野菜の
良い意味で癖の強い風味、とりたての自然な甘み、自分が見たことのない魔力属性を
高く評価した。
「王都より天才料理人来たる!」の報を聞きつけて集まった山田の友人達によって、
いつのまにか山田領の野菜を使った宮廷料理の試食会が開催されることになっていた
翌日の試食会において、供された料理の3皿目を完食した山田は
「う・ま・いっ・ぞっおぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」と叫ぶと同時に
全身の魔力が暴走し、服がすべてはじけ飛んで全裸になるハプニングを披露した。
女性達はみな見て見ぬふりをしていたが、ロリっ娘召喚師だけはガン見、
もとい白い目で見ていた。
料理長は、いままでにこれほどの料理が作れたことは無いと語り、
必ずや王宮に野菜を届けてくれるよう山田と約束して固く耳を握り合い、
王都へと戻っていった。
次回「起業準備その6」
次からは配達員探し。 ここでぶっちゃけて言うと、山田が想定していたのは現代日本で言えばバイク便である。
小回りのきく移動手段によってノンストップで王宮まで野菜を運び、鮮度が落ちない
うちに届ける。大量輸送は望めなかったが、産地直送朝採りフレッシュのうちに
調理を済ましておけば、あとは業務用魔蔵庫に収納して長期保存しておけば良い。
定期的に作りためておいて、宮中晩餐会に供することは十分に可能であった。
だがこの場合、高速移動のスキルを有する配達員の存在が必須である。
輸送中の盗賊やモンスターの襲撃を考慮に入れれば、攻撃魔法も使えたほうが望ましい。
だが飛翔系モンスターを使役できたり、飛翔呪文が使えるような高位の魔術師の
ほとんどは帝都で王宮関係の仕事に従事していたし、考えているような都合の良い人材が
本当に集まるかどうかは不確定だった。山田は最悪の場合、自領で1から人材を
育てることも考えていた。
次回「起業準備その7」
求人広告を出します。 もっと昔であれば、山田がこのように頭を悩ませる必要はなかっただろう。
都市と都市の間を一瞬で移動できる、使い捨てのマジックアイテムが存在していたからだ。
しかしそのアイテムの錬金素材となるモンスターは、この世界では冒険者達の乱獲によって
絶滅しかかっていた。現在では素材モンスターはワーシントン条約の附属書Tに
記載されており、マジックアイテムも学術研究目的を除いて入手できなくなっていた。
余談になるが、のちに山田はそのモンスターの人工繁殖に成功し、王国公認の
シリアルナンバー入りマジックアイテムを再流通させるに至る。
その売却益によってモンスターの生息地を買い取り、保護区を設立し、
密猟者を密猟対策レンジャーに転職させるという偉業をなしとげる。
しかしその件に関しては園芸と無関係な物語になるためここでは省略する。
閑話休題。
ひとまず山田は、冒険者ギルドに依頼して王国領邦全域に、求人の張り紙を出すことにした。
次回「起業準備その8」
求人結果です。 勇者のパーティにいるような瞬間移動呪文使いや、竜騎士から転職した飛竜に乗れる
運び屋が応募してくれれば、この件は一気に解決したことだろう。しかし王宮でも数える
ほどしかいないレアな呪文使いや、あらゆる異世界を探しても2人いるかどうかという
変態職が見つかることは期待すらしていなかった。
仮に応募があったとしても、配送員が一人だけのワンオペであったら、退職された時点で
業務が崩壊してしまう。
現実的な線としては走鳥乗りか、二輪魔動車の免許保持者を雇用してまんまバイク便。
あるいは三倍速移動やニンジャ走りで飛脚便を試験的に運用して人材が育つまでの
つなぎにする。それが山田の想定であった。
しかし実際に求人してみると、平民には通常は手に入れることができない
黒魔術使用免罪符が取得できるという雇用条件が功を奏し、表の職種では就業が難しい
異端スキル所有者から多数の応募があった。書類選考を経て山田が面接し、容貌、性格、
胸囲などを参考にして、地球人であれば十代に相当する外見の女性3名の採用を決定した。
次回「起業準備その9」
新入社員の研修です。 王国労働安全法では、雇い入れ時に
(1)就業時の外敵の種類・危険性と対応についての教育
(2)事故時等に際しての緊急蘇生法の教習(山田領の場合は模造の「不死鳥の尾」を使用)
が義務付けられているが、これらは一日あれば覚えられる内容であった。
問題は実技だったので、山田は採用者に対して独自の実技研修を課した。
まず各自の技能スキルをそのまま維持した状態で、配達員に転職させた。
次に領内で実際に配達を実施し、さらにパワーレベリングによってレベル上昇を図った。
女性であるため泣き出したり、逃げ出したりすることを山田は危惧したが、全員が命がけの
雇い入れ時研修を乗り越え、研修修了時には山田が驚くほど職業レベルが上昇していた。
また彼女達は、配達時に王都で山田温泉リゾートを宣伝することを提案し、山田は快諾した。
山田は自分の故郷での宣伝方法であると説明して、彼女達に歌のレッスンと踊りの振り付け、
さらに衣装・・ではなく制服の作成、演出および音響の魔法構築を発注した。
どこに行くのか山田。
次回「起業準備その10」
いよいよ大詰め。 また、山田は研修実施と平行し、配達時に通過する予定の各領の領主を順番に
山田リゾートに招待し、根回しと接待とハニートラップを完了した。
各領には領主の他にも小物、ではなく地域に密着した実力者が多数存在していたが、
貧・・収入に制限のある山田には全員を接待することは不可能だったため、優先順位の
決定に非常に頭を悩ませることになった。頑張れ家令。回復ポーション飲むか?
こうして山田デリバリー商会はようやく営業できる準備が整った。
その業態は王都では斬新なものだったが、もし現代日本人が見たとすれば、そうは
思わなかったことだろう。なぜならば先人のパクリ、いやオマージュであることが
一目瞭然だったからだ。
そしてついに、営業初日を迎えた。
三人娘の初フライトの日である。
次回「魔女の配達便」
「行きます!」「い、行きます」「行くわよ!」 <幕間1>
「こちら領館管制室。魔導通信感度良好。いや教官でも商会長でもない、社長と呼べ。
そうそう、ん〜〜良い響きだ。飛行状況を報告せよ。すっごく綺麗?
ああ、雲海(うんかい)と言うんだ。見渡すかぎり薄紅色?ちょうど朝日が登る時間帯
だからな。嬢ちゃんの新型箒(ほうき)と、お前達の実力があって初めて見られる風景だ。
この世界で見たことのある奴はほとんどいないんじゃないか?
索敵魔法と「風の加護」はそのまま展開を維持。進行方向は魔導羅針盤の指示通り。
羅針盤が光るまで高度はそのまま、巡航速度を保て。
いや本気出さないで。チャック・イェーガーにならなくていいから。安全優先で。
野菜の鮮度は大事だが、お前達より大事な野菜は無いから。
その速度なら公演・・じゃなくて宣伝を済ましてからでも暗くなる前に戻れるな。
王都が見えてきたらまた連絡しろ。通信を終わる。」 <幕間2>
「うう、肩こった・・次の連絡があるまで管制監視はメイドのミヤゲに任せる。
え何? うげ、あれだけの通信で魔力費そんなにかかるの?
そりゃ王宮と大貴族しか使ってないわけだ・・
これで商売がうまくいかなかったら、貴族達からの出資金が返せなくて破産だな・・。
いや今は心配しなくていい。俺の取り分はいいから、頑張ってくれた皆への報奨を優先しろ。
そうだ嬢ちゃんにもだ。開発費以外はいらないと言うだろうが受け取らせろ。
あいつは自分の価値が全然わかってない。企業の要は社長でなく技術者だ。
あーそれとだな、んーごほん。
今回の一番の功労者は家令のお前である。よって特別報奨と、30日間の特別有給休暇を
与える。わが領の温泉リゾートで酒池肉り・・接待用無料サービスの無制限利用も許可する。
存分に満喫するがよい。・・あれ、どうしたの?
先に療術室?・・ちょ、ここで倒れないで!」 王宮からの管制で王都結界内に進入した配達員達は、衛兵の誘導により王宮屋上の
飛竜発着場に着陸。興奮状態の総料理長が駐竜場で待機しており、配達員達から直接
空輸野菜の箱を受け取った。
そこまでは順調だったが、その後の広報活動において予期せぬ事態が発生した。
山田は、従来の「邪悪な黒魔女」のイメージを払拭すべく、配達員達の制服には
ファンシーでカラフルなデザインを選択した。具体的に言うと日曜朝の女児向けアニメの
主人公の服装を参考にした。
そうして用意された配達員達の制服姿は、山田の目にはごく普通のコスプレ美少女にすぎなかった。
しかし王都の住民にとって、それは文字通り異世界の装束だったのである。
彼女達の姿を見た人々は、東京都心に宇宙人が出現したかのような好奇心と恐怖の
混ざった表情になった。路上ゲリラライブ、ではなく山田リゾートの広報活動に
何事かと集まってきた王都民は、最初は恐る恐る遠巻きにして様子を眺めていた。
しかし彼女達が箒に乗って空中パフォーマンスを始めた時点で彼女達の正体に気づき、
騒然とした状態に陥った。
(続く) 「魔女だ!」と叫んで逃げ出す者、ひざまづいて神に祈り始める者、口をあけたまま
固まる者。あるいは「見えた・・」とつぶやいて赤い顔で鼻から血を流す若者。
念写を始める魔導士に、天啓に打たれて創作を始める吟遊詩人。
赤ん坊が泣き、羽毛竜が騒ぎ、愛玩獣が吠えた。
空飛ぶ美少女に道ゆく人がふりかえり、窓から人々が身を乗り出した。
運転手がよそ見をして魔動車事故が多発し、王都は大渋滞。
騎士団長に出世していた女騎士までもが交通整理に呼び出される始末。
もし入念な根回しを怠っていたら、責任者である山田は首をはねられ、
生き生首の刑に処せられていたことだろう。
山田領からは静養中だった家令のエンガワーが呼び出され、事後処理に走り回ることになった。
次回「その後の顛末」
すまん家令。家令?・・ああ大変だ!エンガワーが息をしていない!
誰か蘇生魔法を! だが、この騒動によって三人の配達員は王都では知らぬ者のいない存在となり、
王都円形劇場で広報活動をするほどの人気野菜配達となった。
また彼女達の勤務地である山田温泉リゾートへの旅行は、王都の貴族子弟に「聖地巡礼」
と呼ばれるようになり、山田領は貴族の保養地としての名声が高まった。
一方、王宮総料理長は空輸された野菜を使っていくつもの新しい料理を考案し、どの料理も
国王から激賞の言葉を賜った。総料理長は王都貴族達に「魔力の高い貴族にしか
食することのあたわぬ、まことの宮廷料理を創りし者」と賞され、平民からは
「奪衣の料理術士」と呼ばれ恐れられた。
空輸された野菜はほぼ全量が王宮への献上、および商会への出資貴族への販売にあてられたが
ごく一部は他の貴族達にも抽選で販売された。抽選会場には貴族達の代理人が多数
押しかけたが、ある貴族子弟は「なんとしても配達員とお話して握手がしたい」という
動機から、多数の人を雇って抽選会場に並ばせた。その行為は他の貴族達に顰蹙を買い、
しばらくして貴族子弟は何者からかの依頼を受けたアサシンギルドにより
蘇生のできない方法を使って暗殺された。
次回「エピローグ」
次で最後・・の前にちょっと脱線してみる。 剣と魔法の世界の害虫ってそうとう手強そうだな
こちらの世界なら1mmもないような指で潰せる虫も1cmくらいですごい羽音立てて飛んできそう <コラム>
三人の配達員は王都の大きなお友達、もとい貴族子弟達によって名付けられた
「赤炎の巨乳様、黄光の眼鏡ちゃん、青風のツインテ姫」(訳者注:原語ではそれらに
類似した意味の異世界スラング)という異名でよく知られている。
王国時代には彼女達を題材にした数多くの芸術作品が作成されており、特に卓上人物像に
おいて優れた作品が多い。また宮廷画家のベラケススが描いた彼女達の肖像画は、
のちの印象派の萌え絵に大きな影響を及ぼし、かのルーノアルもベラケススの色使いを
絶賛する書簡を遺している。 その後、山田が宮廷を訪れた際には貴族達から「配達員をもっと増員してほしい」と
いう要望がしばしば寄せられた。しかし山田は「魔女を集めて航空歩兵部隊を創り、
謀反をたくらんでいると思われたら嫌ですので」と言って断るのが常だった。
実際、その後も「卒業」などによって配達員が入れ替わることはあったが、人数は
3人以上になることはなかった。
が、たまたま横にいた帝国大使がその会話を聞き、魔女の軍事利用という概念が
帝国へと伝わって帝国航空魔女兵団が設立されるきっかけとなった。
魔女兵団の乙女達は、ゴーレム技術を利用した可変式人型決戦箒(ほうき)に騎乗し、
復活した魔王との最終決戦において山田と共に、闇が吠えて震えている帝都に
躍り出ることになるのだが、その物語は園芸とはこれっぽっちも関係ないため
このスレで語られる予定は無い。
このようにして山田は多忙な日々を送っていたが、その忙しさのために
身近な者に重大な変化がおきていることに、まだ気づいてはいなかった。
次回「治療法の無い病い」
植物ネタに戻してサクサク進めます。一転してシリアス&ハードなプロブレム。 >>54
朝起きてカーテンを開けると秋田犬ぐらいのナメクジがいて
ベランダの鉢植えを舐めている >>57
7メートルぐらいのコウガイビルがあらわれてナメクジ丸のみ
ま、まあ益蟲だしな、と思って引きつつ見ていたら
家から出てきた母ちゃんが悲鳴をあげてメラゾーマで焼き尽くした >>56
植物モンスターであるドライアドのナナが、不治の病であるモザイク病を発症した。
山田と出会う前に、すでに感染していたらしい。
この世界では死んでも蘇生が可能である。しかしその魔法は、死者の体を健康体に
回復させてから「ぼうけんのしょ」から死者の魂を召喚して蘇生させるという術式
だった。従って、「健康体に回復する」ということのできない老衰死、人狼・吸血鬼化、
あるいは持続性ウイルス感染症には意味をもたなかった。
モザイク病を発症した者は長い間苦しみ続け、しだいに衰弱して最終的には死を迎える
ことが多かった。そのため発症が確認された時点で安楽死を選択し、遺体は感染防止のため
焼却処分するのが常識とされていた。
だが山田は、ナナの場合は治療できるのではないかと考えた。ナナにはクローン姉妹が
存在するため、ウイルスに感染していない姉妹からクローン体を作成し、そこにナナの
魂を召喚すれば健康体に戻せると推測したのだ。
山田はナナの姉妹を探しに、ふたたび隣国を尋ねることにした。
次回「盆栽市への再訪」
ー だが、山田はそこで園芸の闇を見る。 耐病性の低いナナシリーズは生産中止。販売されたナナの姉妹達は貴族の玩具となって
全員がすでに死亡。現在生き残っているのはナナが最後。それが山田の知った事実だった。
量産園芸品種を本気で育てている趣味家は、山田以外に存在していなかったのだ。
何か方法は無いものかと樹木医を訪ねた山田は、過去に一度だけ、今は亡き大賢者が
モザイク病にかかった植物モンスターのウイルスフリー化に成功していることを知る。
それは選択浄化魔法によって全身のウイルス感染細胞をすべて分解消去、体内に
わずかに残っているウイルス未感染の幹細胞から全身を再生し、蘇生させるという
術式だった。だがその術式は極度に難しく、その後に挑戦した者は全員が失敗している。またドライアドでは試した例すら無い。
もし失敗すれば被術者の体は消滅し、ナナは永久に失われる。
チャンスは一度、ぶっつけ本番。山田は悩んだ末に心に決める。
次回「メリステム・クローン」
山田は今、誰も挑戦したことのない領域に挑む。 普通に面白そうだから書いてくれ
あと巨大魔スリップスと魔コナカイガ、魔ネジラミとの戦いとかも >>60
山田はナナの再生に失敗した。
幹細胞の抽出には成功した。しかしその後の魔力に乱れがあり、細胞がカルス化したのだ。
そこには手足も目鼻も無い、ただ増殖を続けるだけの崩れた細胞の塊があった。
だがカルスからでも植物体を再分化させることは可能である。山田はそれを試みた。
しかし再び魔力量の調整がうまくいかなかった。再生体は2体に分裂し、ナナの他に
メリクロン変異体であるナナ・ツーが生まれてしまったのである。二人は同じ記憶を
持ち、外見的にも頭のアホ毛の本数ぐらいしか差は無かったが、性格や行動に大差が
あり山田を悩ませることになった。
山田は走り回る二人を眺めながら、幹細胞はメリステムでなくステムセルなのだけれど
突っ込まないでほしいと思うのだった。
そんなある日、山田領に出入りする青年商人が使役しているドライアドの美女、
ハオルシアが失踪した。どうやら就眠中に何者かに連れ去られたらしい。
犯人は誰なのか。またその目的は。
次回「盗まれたハオルシア」
隣国の者曰く、わが国の価値基準では盗まれるほうが悪い。 山田は失踪したドライアドの特徴を尋ねた。
眼はややタレ目でまつ毛が長く、目元には泣きボクロのようなアントシアニン斑。
唇はふっくらしていて髪の毛は緑と鮮やかな黄色のメッシュ。株元はすらりと長く、
ウエストは細いが腰にはむっちりと澱粉が蓄積されており、胸にある2個の貯水球が
ゆっさゆっさ、たゆんたゆんしているという。
それを聞いた山田は、彼女と共通の特徴を持つ植物系モンスター達が、隣領の
園芸オークションに出品されているという情報に思い当たる。それらの特徴を持つ者は
いずれも領主であるチャイナー大公に高額で落札されているのだ。
もし隣領に連れ出されてしまえば、二度と彼女は取り戻せなくなる。
一刻の猶予もならない。山田は手分けをして捜索をはじめた。
次回「斑入りを集める大公」
「ねー、やまだー。『ちょすいきゅう』って、おおきいほうがえらいの?」
「一般的には好みの問題だな。だが塊根マニアは違うぞ。あいつらは貯水球の大小で
植物の値打ちを判断するから」 使い魔達からハオルシアに似た者、怪しい者の情報を知らせてもらい、魔女の配達員が
緊急救助用箒「雷鳥1号」でその都度飛んでいって確認した。しかしよく似た別株だったり、
ただの人食い魔獣遣いだったりした。手がかりがないまま時間が過ぎ、じれた山田は
双葉マークなのに自分で魔動車を運転して探しに出てしまった。
夜中になり、山田領のはずれの廃ダンジョンにちらついた明かりを目ざとく見つけた山田は
隠れ外套を使って忍び込んだ。するとハオルシアを含めた数株の斑入りがそこに集められ、
人相の悪い男達がどこかへの移動準備を始めていた。もはや応援を呼んでいる時間的余裕は無い。
ナナ達の護身用に魔動車に積んであった女児用魔杖、マハリクピーリカキュアエールを
使用して山田は魔法の戦士フラワーヤマリンに変身。誘拐団を倒しハオルシア達を救出した。
しかしその変身は山田にとって黒歴史だったため、異様なものを見てしまったハオルシアは
固く口止めをされ、救出劇に関してはその後も多く語られることはなかった。
そして間髪を入れずまた事件がおこる。お題をうけて大害虫である巨大魔スリップス、
図鑑記載名ミナミキイロアザミウ魔の大群が山田領の畑に襲来したのだ。
呪殺耐性を獲得した害虫に山田の呪術は通用せず、地球のトノサマバッタ大の虫が
口器で刺してくるため領民もうかつに近づけない。山田領の野菜危うし!
だがそこに現れたロリっ娘召喚士が不敵に笑う。
「ふはははは、どうやら久しぶりに我の出番のようだな山田っ!!!」
次回「紫の聖光」
「今回も私の錬金薬を撒いて退治してはどうでしょう」
「怖いからやめて。また人死にが出てしまう」 ロリっ娘召喚士が畑上空に展開した魔法陣から、地球の単位で波長405nmに発光ピークを
持つ紫色光が照射された。アザミウ魔には何の効果もない光だったが、その光は
アザミウ魔の天敵である魔ハナヒメカメムシを誘引召喚した。
アザミウ魔は次々とカメムシに捕食され、農業被害は終息を迎えた。
召喚士はこれからの農業は農薬でなく天敵防除だ!と言い、無い胸を張ってドヤ顔をした。
山田は無料で解決できてラッキー!と思ったが、嗜虐趣味を持つ召喚士の機嫌を取るため
くっ!領主である俺がお前のような小娘に頭を下げねばならぬとは!と思いっきり悔しそうな
顔をしておいた。だが、ちっちゃい足裏を舐めさせられるのにはさすがに閉口した。
次回「領民たち」
「なー、山田ぁー。あたいも髪の毛を斑入りにしたら、いい女になれるのかなぁ?」
「すべての植物は最初から美しい。美しいと思える人間がそこにいるかどうかの問題だ。
というか、髪の毛を脱色すると葉緑体が痛むからやめなさい」 山田領の畑の復旧とさらなる開拓は進んでいた。山田には他の貴族達のように
自分で土魔法を使って土木工事をする力量は無かったので、領民の力を借りて
少しずつ灌漑水路や防衛用食獣植物林の整備をしていた。
王都の広報活動でのグッズ独占販売権を国王に献上し、代わりに山田領から収める税金を
少し減額してもらって開拓費に充てた。
領民には山田リゾートのバイキングの食べ残・・余剰食品を使用した弁当と、
現代日本であれば最低賃金の10分の1・・もとい、気持ちだけはこめた給金で
働いてもらったのだが、前領主の強制労役しか知らなかった領民からは神のごとく
崇められ、領主としての人気は昇竜上りであった。
ついには自分の初夜権(実在しました。詳しくはググれ)を領主様に献上したいという
若い娘までが現れた。さあどうする山田。
次回「モテ期到来」
とうとう魔法使いを卒業か。山田の返答はいかに。 山田は応援に感謝しつつ娘の手をとった。そして
頬を染め、うるんだ眼で山田を見つめる娘の耳にささやいた。
「ありがとう・・僕は君の気持ちを受け入れようと思う。
でも君の ’はじめて’ は、君が本当に愛する男性を見つけた時に捧げるべきものだ。
君から受け取るのは気持ちだけでいい。僕はそれを一生大切にして生きていこう」
そう言って、オークに似た娘の申し出を辞退した。
その話が領内に伝わると、山田の株はますます上昇し、領内の視察のたびに
ゴブリンに似た娘やミノタウロスに似た娘も山田に熱い視線を送るのだった。
そんなある日、家令のエンガワが深刻な顔で領主執務室に現れた。
「ご領主様、私事で申し訳ないのですが、ご相談したいことがあるのです・・」
次回「倒れた母親」
いつまでも あると思うな 親と花。 家令のエンガワの母親は、夫が古龍に丸かじりされてからは一人でエンガワと
その3人の弟妹を育てあげた女傑であった。しかしその苦労がたたったのか、最近に
なって地球で言うところの自己免疫疾患のような難病にかかってしまった。
特殊な病気だけに療術治療も思わしい効果があがらず、このままでは命の危険もある
状態であった。
だが幸い、その病気には特効薬が存在していた。「龍舌樹の花蜜」を飲ませれば完治する
という。エンガワの相談とは、その花蜜を山田の領主としての伝手で入手できないか、
というものだった。
だが、龍舌樹は100年に一度しか開花しない事が最大の問題であった。
次回「センチュリー・フラワー」
エルフ族曰く、寿命の短きヒトの身にては、その樹の苗を植えし者が花を見ることは、
けっしてかなわぬ望みなりと。 ミナミキイロアザミウ魔で大草原不可避
でかいと顕微鏡なくても判別できて楽ですわ……(震え声) >>70
山田は王立植物園の龍舌樹がちょうど開花期であることを思い出し、植物園に向かった。
しかし時遅く、花蜜はすでに王立療術院の患者に投与され、一滴も残っていなかった。
やむなく山田は冒険者ギルドに採取依頼を出すべく、手配書に使うための念画を資料室で
選んでいた。すると画像を見た黒髪美少女メイドのミヤゲが、首をかしげながら
これって「蜜の木」ですよね・・?とつぶやいた。
詳しく聞いてみると、彼女の生まれ育った集落には「蜜の木」がたくさん植えられているという。
翌日、彼女の案内で訪れた小さな集落には、いたるところに龍舌樹が育っていた。
今年植えられたばかりの実生苗から、見上げるばかりの成木まで。数日後には開花しそうな木も
数本あった。聞けば、この集落には人生の節目に龍舌樹を植える習俗があるのだという。
自分が生まれた日。成人の仲間入りをした元服祭の日。婚礼の日。妻が娘を生んだ日。
娘が嫁入りした日。孫が生まれた日。妻がこの世を去った日。そして子供や孫に囲まれて
自分が見送られた日。
その節目に龍舌樹は誰かに種を蒔かれ、子供と共に育ち、孫と共に生長し、逝く者を見送り、
やがて樹は花を咲かせ種を結んで枯れ、その種を曾孫が蒔き・・
誰が始めた習俗なのか、知る者はいなかった。あるいは家族を難病で亡くした者が
供養のために植えたことがきっかけだったのかもしれない。今は理由も忘れ去られ、
龍舌樹は、たださわさわと風に葉をそよがせ集落に木陰を作っていた。人々はその下で笑い、
泣き、怒り、喧嘩をし、また愛し合い・・ただ静かに、人の営みが続けられていた。
数日後、山田は龍舌樹の花蜜を採取してエンガワに渡し、それを服用した母親は
ほどなくして回復した。
(続く) エンガワから母親についての報告を受けた夜。山田は自室で一人、花蜜の蒸留酒割りの
盃を傾けつつ物想いにふけっていた。
皆に愛される植物は、龍舌樹のように100年後も残っていることだろう。
だが自分の育てている植物達は、自分がいなくなっても大事にしてもらえるだろうか。
ナナ達は誰かが引き継いで育ててくれるだろうか。それとも無価値な量産品と
思われて、自分がいなくなったあとは皆に見捨てられ、枯れはてているだろうか。
それとも魔王が復活して王国が滅び、そもそも園芸を楽しむ世ではなくなっていて・・
それならそれで諦めもつくか。
いずれにしても、神ならざる身には考えても無意味なことではあった。
今はただ、自分の背中に背負える分、自分の歩けるうちは大事に守っていこう。
そう思うだけだった。
バルコニーに出た山田は酒盃を夜空の二つの月にかざし、
100年前に龍舌樹を植えてくれた顔も名も判らない誰かに、感謝の意を捧げつつ
酒盃を干すのだった。
なおその後、一時は歩けなくなるまで弱ってしまっていたエンガワの母親は、体を復調させる
ために機甲拳の再修行を開始した。時々はリハビリのために豪傑熊を素手で倒して
いるという。
そして場面は王宮へと移る。
次回「笑わなくなった花嫁」
それは山田が、泥棒さんになる物語。 白絹病、軟腐病、ネコブセンチュウ、ネカイガラとかもヤバイね
菌類と共生する種族とかどうだろう? クラリスド・ヤギオストロ・アルバ。
前王時代に探検隊が暗黒大陸から採集してきた、ヤギオストロ草の白花個体である。
かつては王宮筆頭庭師が世話をして咲かせ、その美しい花が毎年王宮に飾られていた。
前王が「純白の花嫁」と呼び、最も愛した花であった。
しかし7年前の火事で筆頭庭師が亡くなってからは、一度も花を咲かせたことがなかった
現在の筆頭庭師は「あの株は老化して花が咲かなくなったのでございます」と現王に
説明しており、王宮では「笑わない花嫁」と呼ばれるようになっていた。
現庭師は宮中工作に熱心な某伯爵と結託し、貴族達の妻や娘達への贈呈用の花を
熱心に育てては横流ししていた。それ以外の植物の扱いはいたって適当で、部下達もそれに
追随していたので、ここ数年の「花嫁」の世話は、雑用係をしている前庭師の孫娘に
すべて任せられていた。孫娘は肥料や用土、灌水量などをいろいろ工夫してみたが
株が茂るばかりで花を咲かせる気配はまったく無かった。
(続く) 山田は宮中で「花嫁」の噂を聞いて興味を持った。
しかし現庭師は、あの花はもう駄目だよと笑うばかりで、話しても得られるものは無かった。
山田は温室に出向いて、泥にまみれながら「花嫁」の世話をしている孫娘を見つけ、
ようやく詳しい話を聞くことができた。
「花嫁」は亡くなった祖父が一人で育てており、詳しい育て方は家族にも秘密にしていたこと。
隠しているのは簡単すぎて知られればすぐ真似されるからで、お前が庭師になった時は
秘密を種明かししてやると言って頭をなでてくれたということ。
祖父の残した栽培手帳に、一つだけ意味の判らない文章が書かれていたということ。
「光と影を結び 花咲く時を告ぐる日 誇り高きヤギの陽に向かいし眼(まなこ)が
開かれん」
お役に立ちますか、と不安げに言う孫娘に、山田は立ちます立ちますと明るく答えた。
その文章を聞いた山田は、ただちに一つの仮説に思い至っていたのである。
次回「ヤギオストロの白」
山田が花と絆を結ぶ秘伝、それは燃え盛る愛。 山田は謎の文章が、日長時間のことを示唆するのではないかと推測した。
自生地の気候・日長、王国の気候・日長を比較して必要なのは短日条件と予想し、
前庭師の家の倉庫で暗幕を見つけた時に確信に至った。
そして日長時間を一日の3分の1に制限し、それを30日間続けて花芽分化に成功した。
その後の出来事は園芸とは無関係なので概略に留める。
この件が気にいらない某伯爵により、山田は暗殺者を送りつけられたり地下牢獄に
落とされたりしたが協力者と一緒に頑張って最終的には全部解決した。
そして上作はまだできない孫娘から、一つだけ何かを盗んで山田は去っていった。
考えてみたらこの話では去る必要が無いぞ山田。おーい。
以上ノーカットだと上映時間100分。(意味不明)
そして次の話は山田領の近在。
次回「緑の魔境」
お題:病虫害。 山田領に隣接する未開拓の原生林、マンガの森。そこは他の土地ではすでに絶滅した
貴重な動植物の宝庫であると同時に、人間の命をおびやかす数多くの危険な生物が生息
する「魔の森」でもあった。
人体に無数の卵を産み付けて、孵化した幼虫が文字を書くかのように皮下を掘り進み、
腹部に達すると内臓に潜って食い荒らすハラモグリバエ。
下肢に無数の肉腫を発生させ、しだいに足を腐らせていくアシコブセンチュウ。
死者をゾンビ化するネクロキセラ(ブードゥー・ネアブラムシ)。
体のすべての穴という穴から潜り込み、何年も陰湿に吸血を続けるインシツアナジラミ。
「猫をモフらないと死んでしまう病」を媒介して、猫を飼いながらでなければ生活の
できない体にしてしまうネコカイナガラムシ。
さらには股間白絹病、陰嚢軟腐病、尿道サビ病、俗に男根腐れ病と呼ばれる男性器立枯病。
人間の尊厳をふみにじる各種の風土病もまた猖獗(しょうけつ)を極めていた。
魔力の低い者が防毒面を装備せずに森の奥へ進めば、立ち込める瘴気(しょうき)が
肺を腐らせる魔境。古くは「腐界」と呼ばれ、とある小国の蟲愛ずる姫君を除けば
近寄る者さえほとんどいない緑の地獄。それがこの森であった。
だがその森の最深部には清浄の地があり、そこには巨大な真紅のイチゴが存在している。
山田領にはそういう伝説が伝わっていた。
ある日、その伝説の真偽を確かめるべく一人の若者が山田領を訪れた。
次回「伝説のイチゴ」
今、若き匠の覚悟が、森の奥で試される。 イチゴ匠。王室行事であるイチゴ狩りに使用される、イチゴの管理と育成をする伝統職で
ある。
過去にも王国のイチゴ匠達は数々の名イチゴを世に送り出してきた。しかしその中でも現在の
イチゴ匠長が育てあげたイチゴ「アマ王」は歴史に残る名イチゴと讃えられており、
その名声は世界各国にまで響き渡っていた。
弟子達は皆、早々に師を超えることを諦めていたが、ただ一人だけ師を越えんとして
研鑽を積む者がいた。若い娘の身でありながら師への弟子入りを志願し、その剣の技と
卓越したイチゴさばきの腕前によって弟子入りを認められた若きイチゴ匠。
それが彼女であった。
だが、凡庸なイチゴではけっして師のイチゴを超えることはかなわぬ。
そう考えた彼女は、かの伝説のイチゴを自らのものとすべく、山田領を訪れたのである。
以前から自分も「魔の森」の調査をしてみたいと考えていた山田は、自分に加えて召喚士、
錬金術師、女匠のプチハーレム的4人パーティーを組み、「魔の森」の奥へと向かった。
(続く) その探索行は、幾度となく一行の命をおびやかす過酷なものだった。
ある時は山田を襲ってきた魔獣を女匠が倒し、またある時は召喚士に山田が助けられた。
時には錬金術師が山田の命を救うこともあった。
こうして最深部に至った一行は、ついに伝説のイチゴに対峙した。
その姿の紅玉色の輝きに皆が見とれている時、イチゴはぶるりと体を震わせ、長き眠りから
目を覚ました。その赤い瞳と目が合った時、一同の頭の中に人間とは異質な生き物の
思念が流れ込んできた。それはヒトの言葉では表現できぬものであったが、思念の意味は
明確に理解できた。
ーー 小さき者よ、我があるじとなるにふさわしき者であるか否か、自らの力をもって
我に示せーー
女匠は片刃の鍛造剣をかまえて必殺剣技の構えをとり、錬金術師は魔杖を握って全体防御魔法の
準備をし、召喚士は極大攻撃呪文の予備詠唱を開始、山田は邪魔にならない距離に
素早く退避し固唾を飲んで見守った。
その時、イチゴは真紅の巨大な翼を広げると、大きく羽ばたいて空へと舞い上がった。
次回「天空の覇者イチゴ」
女匠の命をかけた戦いがはじまった。 <脚注>
イチゴ狩り:
炎龍ストロベリーの亜種であるイチゴを使役し、ゴブリンやオークを狩る王族のスポーツ。
トクガー王家の開祖、イエヤス王が無類のイチゴ狩り好きであったため王室行事となったと
伝えられている。 バトルシーン省略。
かくして女匠は真紅の雌イチゴに主人として認められ、イチゴを「アキ姫」と名付けて
王都へと連れ帰った。その後「アマ王」と「アキ姫」は王国の双龍と呼ばれるようになり、
のちに2頭は番いとなって、その間に数々の名イチゴを生み出したという。
山田? 魔の森で酸っぱい味のする新種の草を発見して「スコンブ」と名付け、
それを栽培して売り出し、ちょっとだけ儲けた。以上である。
次回「茸人を統べる妖花の女王」
お題:菌類と共生する種族。 バンパイア・ドライアド。通称フセイラン。
植物系の魔物であるが葉緑素を持たず、菌類系魔物のマイコニド(姿が人間に似た歩くキノコ。
ファンタジー系ではわりと定番)の首筋に噛みつき、生命力を吸い取って生活する魔物である。
言ってみれば植物版の吸血鬼というか、吸茸鬼である。
フセイランは魔力によって茸人(と書いてマイコニドと読む)を下僕と化し、自分に
生命力を捧げさせていた。しかし一方でフセイランは下僕に「女王の黄金水」と呼ばれる
魔力のこめられた液体を与え、茸人はそれを頭にかけられることで活力を得ていた。
つまり両者はある種の共生関係を築いていた。
フセイランのしなやかな肢体、透けるように白い肌、輝く銀髪と血のように赤い目には
凄みのある美しさがあり、茸人を下僕として使役する生態と相まって「妖花の女王」という
異名がつけられていた。「女王」を手元に置いてみたいと考える貴族は多く、懸賞金をかけられて
フセイランは次々と乱穫された。しかし「餌」となる茸人は森の中の特定の樹木から
引き離すと、なぜか衰弱して死亡してしまう性質があった。そのため茸人を森から引き離す
ことは不可能であり、それゆえフセイランもまた人里に連れ出すことはできなかった。
しかしその事実が周知された頃には、すでにフセイラン族は狩りつくされていた。
そして貴族の館に捕らえられていた全員が次々に衰弱して死亡。
こうして数十年前にフセイラン族は絶滅した。
ーー と、そう考えられていた。
次回「その2」 ところがある日、ヤーフ領のオークションに突如として生きたフセイランが出品された。
現代日本で言うとニホンカワウソの生体が出品されたような状況である。
絶滅種とされていたため売買を規制する法律が無く、出品停止にする根拠は無かった。
すぐに入札合戦が開始され、あれよあれよと言う間に価格が高騰。最後には「からかって
架空入札しただけだよね?」と言いたくなる値段で落札された。
この件は園芸家の間で大いに話題となり、「あれ見た?」「見た見た。でもあれって、
幻覚魔法で作った画像で、実在しないんじゃね?」などといろいろな憶測が飛びかった。
ほとんどの者はすぐに忘れてしまったが、本気で詳しく調べてみようと思った男がいた。
おなじみ山田の登場である。
次回「その3」
今回のエピソードもけっこう長くなります。 山田は、フセイランと同時出品されている安価な商品をさりげなく落札しておいた。
それによって出品者の所在と名前を確認し、とある小領の領主である事を知った。
そして、その領主への突撃取材を試みた。
とは言っても門前払いされぬよう、あらかじめ国王から紹介状をもらい、アポを取って
からの話である。ところが領主は、自分の臨時収入の話を聞きつけて王都から徴税人が
やってきた、と勘違いしてガクブル状態であった。
いえいえ、わたくしは官司ではありませぬ。山田デリバリー商会と申しまして、
と自己紹介すると、
え?あ、ああ・・あの有名な。・・では徴税のお話ではない・・のですか、と、領主は
心底ホッとした表情になった。
じつは領邦内の各地に残っている伝統野菜の調査収集をしております。オークションで
お取引させていただいたのも何かのご縁、こちらの領内での野菜収集をご領主様に
ご許可いただけないものかと思い、お願いに参上いたしました次第でして。
は、まあ、そ、そういう事でしたら、も、問題はないでしょう。
しかし何ですな、商会長様が直々に調査に回られているのですな。
やはり王室御用達になられる方は熱意が違いますなあ・・。
などと徐々に警戒心が解けていき、やがて交渉成立を祝してその晩に山田が一席設ける、
という話がまとまった。
次回「その4」 というわけで近在の高級宿の併設酒場、地球で言うと地方の中堅ホテルの最上階レストラン
個室席、といった感じの場所で酒席が設けられた。
領主から調査許可の書状を受け取ったあと、ここは私の奢りですのでご遠慮なさらずに、
と言ってどんどん酒を勧めた。ちなみに山田が飲んでいたのは酒に似た色の安い茶である。
領主に酔いが回ってきた頃を見計らって、
そういえばご領主様はフセイランもご出品なさっておられましたが、あのような珍種を
捕えるまでの遠征旅行は、さぞかし大変だった事でしょうな、
などと話を振ってみた。
そしてポロポロと口をすべらした話を総合してみると、どうやら領内で魔獣の猟師が
偶然にフセイランを見つけ、その話を聞いた領主が領兵と共に猟師の案内で現地に
おもむき、捕えてきたものであるらしかった。
ーー もう一匹も、もっと育っておれば捕まえてきて売り物にできたのだがな ーー
領主が酔いつぶれる前に言った言葉を、山田は聞き逃さなかった。
次回「その5」 翌日から山田は、領内を回って聞き込み調査を始めた。やっていることがほとんど私立探偵か
秘密諜報員である。山田領の領主の仕事はどうなっているのか山田。がんばれ家令。
「こんにちわー。いや怪しい者ではありません。ご領主様にご許可をいただいて、珍しい
地場野菜がないか探している山田と言います。こちらはお姉さんの畑ですか?
ん〜〜、これは美味しそうですねえ。この葉の紫と黄色の水玉の色艶が何とも。
根はどうなってます?え?抜いていい?・・ではお言葉に甘えて・・よいしょっと。
おおお、生きがいいなあ、すっごく走り回ってる。食べ方は?ふむふむ、煮付けと・・
活き造り?私の故郷ではサラダと呼んでますよ。
こういう新鮮な野菜を毎日食べてると美容にいいでしょ?だってお姉さん、お肌がツヤッツヤだし。
とてもお孫さんがいるようには見えないですよーいやホント。
あ、あと、このへんの森ではどんな山菜や魔物が採れるんでしょうかね?」
こうして農家のおばちゃん、もといお姉さんに聞き込みを続けた。そしてある集落で
一つの情報を得た。
「このあいだ、あの領主がむさい男達と一緒にうちの家に来たんだよ。森に魔物狩りに
行くから食い物をよこせって言うの。貧乏人から徴発しないで自分で用意してほしいよねぇ。
金?あのドケチ領主が払うわけないさ。あ、私が話した事は領主の奴には内緒だよ。
どこに向かったかって?あっちの森だね。何を狩りに行ったんだかは知らないよ。」
どうやら向かうべき場所が絞り込まれてきたようである。
次回「その6」 こうして山田は問題の森へと向かった。領主であれば自領での狩猟採集は自由であるが、
他領の者の場合は申請して許可をもらう必要があった。しかし今回の場合、許可がもらえる
とは思えなかったので、黙って森に入った。不法侵入である。
というか、本来であれば冒険者ギルドへの届け出もなく森に入るのは自殺行為である。
この世界の森には魔獣が出没するので、大雪山山系のヒグマのテリトリーに入山届けを
しないで単独行するようなものである。高確率で魔獣さんこんにちわ、三毛別羆事件
になってヒャッホーイである。知らない人はググるな危険。いやマジで。
とはいえ山田も「魔の森」で魔獣に襲われて学習していたので、光学迷彩に加えて
体臭と体温の隠蔽効果のある「隠れ外套ロイヤルセレブ」(命名:山田)を着用していた。
そのため魔獣との戦いは免れた。
しかし森の中に入り込んでいくうちに携帯占術板が圏外になっていてプチパニック。
岩から滑落し、食料をアイテムボックスごと落とし、鍛えてない足がつった。
しかし数々の苦難を乗り越えてそのまま道に迷・・森の奥へと進んだ。
次回「その7」 ここで解説を加えておくが、自生地で希少植物を見つけることは思うほど簡単ではない。
自生地内にある程度の個体数が散在している場合には、漠然と歩き回っているだけでも
意外と見つけられるものである。
しかし限られた1地点にしか自生していない、という場合には「○○山の✕号登山道の稜線側」
などという具体的な情報があっても、見つけきれずに戻ってくることがしばしばある。
その場所に詳しい案内人がいるか、GPSロガーによる詳細な位置情報が入手できなければ、
そう簡単に出会えるものではないのだ。
しかし山田の場合は違っていた。彼のステータス値は「知性」と「怪しさ」を除いて
すべてが微妙な数値であったが、隠しパラメータである「運命」はレベルMAXで数値が
カンスト状態だったのである。そのため彼は大きな運命の歯車に動かされ、ある場所
へと向かっていた。そうでないとストーリーが進まないからだとか、ご都合主義だとか、
そんなチャチなものでは断じてない。
次回「その8」 そして山田は、地面が妙に荒らされている一帯を見つけた。
これは・・人間が入り込んだのか?・・周囲を見てみると、落ち葉を集めて積み重ねている
場所がある。何だろう? そう思って木の枝を拾い、落ち葉の山を崩してみた。
するとその中から出てきたのは・・
死体だった。
土気色に変色した手が、落ち葉の中から現れた。
「”#$ぎ%&ぇ&;よf^!!!!」山田は文字にも書けぬ悲鳴をあげた。
幸い、さきほど排尿したばかりだったので、失禁はまぬがれた。
だがこの死体が登録済の冒険者なら、教会に連れていけば蘇生できるかもしれない。
少し冷静さを取り戻した山田は、死体をあらためて見てみた。
するとその死体はどうやらヒトではなく、頭を潰された茸人のようだった。
死後だいぶ時間が経過しているようで分解が進んでおり、枝で強く押すとその体は
土塊のようにボロリと崩れた。
さらに探すと、同じような落ち葉の山がいくつも見つかった。
ある落ち葉の中には火炎魔法をうけたと思われる、一部が炭化した死体。
また別の落ち葉の中は刃物でざっくり切られたと思われる死体。
「こんぼう」を握りしめた死体もあった。誰かに一撃でも反撃しようとしていたので
あろうか。
どうやら「女王」がこの場所から拐われたのは間違いなさそうだった。これらの死体は
抵抗しようとした茸人の下僕達だろう。生き残りはいないのだろうか。
その時、山田の視界の隅に、何かがごそりと動くのが映った。
次回「その9」 魔獣か!
山田はその場で動きを止めた。隠れ外套を着用しているので、音を立てなければ普通の
者には山田の姿が見えないはずである。
しかし、下草をかきわけてゴソゴソと現れたのは、枯れ葉を両手にかかえた茸人の幼児だった。
幼児は死体を隠してある落ち葉の山の上に、新しい枯れ葉を加えた。それから山田が
乱した落ち葉を整え、落ち葉の山に向かって祈るようなしぐさをし、フヨフヨと踊りはじめた。
死体を落ち葉で隠し、その前で踊るというのが茸人の一般的な習俗なのか、それとも
幼児が発案したオリジナルなのか、山田には判らなかった。だが、少なくとも茸人は
仲間の死を悼む心を持っている種族のようだ。山田はそう判断した。
この幼児が一人だけ生き残って、大人全員の死体を弔って回っているのだろうか?
そっと近づこうとした時、山田は足元の枯れ枝を踏み折って、ばきりと音をたてた。
幼児はビクッとして、踊りをやめて一目散に逃げ出した。
・・とはいえ、その逃げ足の速さは人間の幼児のヨチヨチ歩きと大差がなかったので、
山田がそのあとを追跡するのは容易だった。
次回「その10」 少し移動すると、周囲の空気が変化していることに山田は気づいた。
明らかに魔力濃度が高く、山田の体力も妙に回復しているような感覚がある。
その魔力の流れの中心にあったのは、樹齢もわからぬほどに年老いた一本の巨木。
山田にも名前のわからぬその木は、山田の知識にない聖なる魔力属性を帯びており、
山田の知っている言葉で言うならば「ご神木」とでも呼ぶのがふさわしい存在だった
そして、その神木の根本に、一人の大人の茸人が横たわっていた。領主の配下と戦った
時の負傷であろうか、頭の茸笠が半分もげていて汁が流れ、片目はつぶれ全身が傷だらけ。
あちこちに虫がたかってブンブン飛んでいる。
その体にさきほどの幼児がしがみついて、だんだん近づいてくる見えない何かに怯え、
ブルブルと震えていた。
そして山田が何よりも驚いたのは、死を目前にしているらしき茸人の、力のない腕の中に
抱かれている裸のーー ひどくやせた、小さな赤ん坊の存在であった。
その赤ん坊の肌は透き通るように白く、髪の毛は輝くような銀色だった。
次回「その11」 山田は理解した。
ここにいるのが、最後の「女王」と、生き残ったすべての臣民なのだと。
人間の蹂躙を受けた「王国」が、終焉をむかえる時に自分は立ち会っているのだと。
彼らは、この地を離れれば生きてはいけない。人間が悠久の昔から続く「王国」を壊し、
仲間の命を奪い、「女王」に辱めを加えたとしても、ここから逃げるという選択肢は無い。
そして逃げずに戦った者は、人間に返り討ちにされて落ち葉の下に還ったのだ。
拐われた「女王」は、赤ん坊の母株なのだろうか? 美しい「女王」を人里に招きたい、
という気持ちは理解できる。だが、その行為が彼女の命を奪うということは、
今の時代であれば、少し調べればすぐに判ることではないか!!
いや違う。領主の思考はおそらくそうではなく・・
ーー ふぎゃあぁぁ、ふぎゃぁぁぁ ーー
山田は赤ん坊の泣き声で、はっと我に帰った。
ええええ、何?お腹すいてる?ミ、ミルク?このへんにコンビニとかドラッグストアとか無い?
冷静になれ山田。
次回「その12」 フセイランに必要なのは母乳ではない。
それに気付いた山田は、緊急使用を想定して分散して持ち運んでいた回復ポーションを
すべて取り出した。そして大人の茸人にどんどん与えた。
通常のポーションでは身体の欠損部位を再生するほどの効力は無かったが、生命力だけは
完全に回復できたようで、死にかけていた茸人の茸色はみるみる改善した。
茸人は起き上がって胸にかかえていた赤ん坊を抱き直し、神木の太い根に腰、でなく
茸軸をかけた。そして赤ん坊を持ち上げると、その口を自分の首筋にそっと添わせた。
赤ん坊は泣くのをやめ、長い間チュウチュウと茸人の首筋を吸っていた。やがて口を離すと、
満足そうに大きなゲップをし、ことん、と寝てしまった。
茸人は山田に向かって・・と言っても山田の姿が見えなかったので、だいぶ方向が
ずれていたのだが・・何度も感謝の意を伝えるしぐさをしていた。
あるいは姿の見えない神様が降臨して、自分達を救ってくれたと思ったかもしれない。
山田はそれを見届けると、フニュフニュと謎踊りをしている茸人の幼児に向かって
怖がらせてすまなかったな、と言ってその場を立ち去った。
ちなみに帰路もさんざん道に迷い、ポケットに残っていた腐ったパンと、雑草を食べて
空腹をごまかしつつ、夜中になってからようやく人里へとたどりついた。
次回「その13」 ただのネタスレかと思って覗いてみたらすごく面白いな
フセイランとか知らないのもあって勉強になる イチジクとイチジクコバチ、アングレカム・セスキペダレどキサントパンスズメガの関係性とかもいいネタになりそう 今回の件については、山田に深い考えがあったわけではない。
「ニホンカワウソ発見!? やっべ、俺、生息地だけでも見に行ってくるわ」的なノリである。
その結果として死にかけていた茸人を助け、最後の「女王」も救ったのだが、
これは終焉を若干先延ばししただけで、よく考えれば何の解決にもなっていない。
ここで想像してみていただきたい。あの赤ん坊が無事に育ち、しなやかな肢体をもつ
小学生ぐらいの銀髪美少女に生長した姿を。すると例の領主が領兵をつれてやってくる。
「おぅおぅおぅ、ずいぶん育ったではないか。これなら十分に客がつくよなぁ〜〜?
お前ら、この娘を連れていけえぇ〜ヒャッハー!」「「「ヒャッハー!!!」」」(以上山田妄想)
もし山田が、全国を世直しのため漫遊している勇者様ご一行であるなら話は簡単である。
「ひかえおろう!この『勇者のしるし』が目に入らぬか!何?改心せぬと申すか!
ならば俺の名が引導代わりだ!どうりゃあぁぁズッパパーン(勇者スラッシュ命中)」
しかし山田は地方都市の中小企業の社長にすぎない。他領の領主様に指図ができるような
身分ではないのである。
次回「その14」 山田とか女王とか
山田養蜂場の社員か?w
てか生産系なろう小説と被ってるの大杉 ならば本物の勇者様に頼んで、と言いたいところだが、これがどうも現実的ではない。
勇者様は植物に関して、まともな知識をお持ちではなかったのだ。
異世界から苦労して召喚した貴重な水生穀物の種子を、乾燥した墓地に覆土もせずにバラ蒔いて、
「この墓地の下には、この穀物を愛した老人が眠っている。だからここに蒔けば実るのだ!」
などと言ってしまう、ちょっとアレなお方だったのである。
そのため勇者様を希少植物の保護活動に参加させた場合、ほぼ確実に「無能な働き者は、
有能な盗掘者よりも恐ろしい」と言われる状況におちいっていたのである。
それゆえ、山田は極力勇者様には関わりたくなかった。
そうなると、あとは領主の権限を抑圧するためには領法よりも上位の法律、つまり
王国法に頼るぐらいしか方法はなかった。
次回「その15」 たとえば王国文化財保護法による、王国天然記念物への指定。
しかし、これもまた山田個人の力でどうにかなる範疇を超えていた。
ある程度まで世間の興味が高まり、保護指定に向けた世論の動きが認められてからで
なければ、王国行政はけっして動こうとしないのが通例だったからだ。
とはいえ、現在、世の中は「採集消費の時代」から「保護して持続的に利用する時代」
へと確実にパラダイムシフトが進んでいた。それは10年単位でしか違いのわからない、
非常にゆっくりした動きではあったが、少なくとも「保護」を訴えた者が、世の中から
変人のように見られるようなことはすでに無くなっていた。
そして、王国環境庁が策定したある法律の実施が、昨年度にすでに閣議決定されており、
施行が目前にせまっているという情報を、山田はまだ把握していなかった。
次回「その16」 良いものを見せていただきました
お礼に鶏糞を置いていきます だが、この物語の結末を伝える前に語っておかねばならぬ事がある。
オークションで落札されたフセイランの成株はどうなったのか、である。
その行方は山田が探すまでもなく判明した。
王都のとある貴族が、落札したフセイランを他の貴族達に大いに自慢し、披露パーティー
を開催したり、宮廷画家に肖像画を依頼したりしたからである。
山田はその貴族とは交流が無かったが、知人を通じて接触をはかった。そして
ぜひとも私もご貴族様の貴重な栽培株を拝見させていただきたく存じます、と頼み込んで
了承を得た。
貴族の邸宅を訪問、しばらく歓談したあとに広間に移動し、フセイランが連れてこられた。
身にまとった装束や装身具は「妖花の女王」の呼び名にふさわしい豪華なもので、王妃様と
対抗できるほどの品々であった。彼女の凛とした立ち居振る舞いは貴族だと言っても
誰も疑わないほどのものであったが、豪奢なドレスの影にちらちらと見える奴隷用の
逃亡防止の術式をこめた首輪や手足の枷が、彼女の立場を物語っていた。
そしてその容貌は伝えられる通りの美しさではあったが、驚くほどにやせ細っていた。
元来の肌色の白さもあって、屍術士が墓地から呼び出した幽鬼を思わせるような
姿だった。
次回「その17」 山田は内心では大いに思うところがあったが、表面上はあくまで友好的にふるまった。
おおお、実に素晴らしい。このような珍しい魔物が見られるとは眼福の極み。
こやつがお手元に得られた事は、まさにご貴族様のご権勢の象徴でございましょう。
いやいや、それほどでもないのだがな、と言いながら、それほどでもある態度で
ドヤ顔をしている貴族はたいへん上機嫌だった。
・・ですが、フセイランは人里では長くは生きられぬという噂を聞いておりますが、
と山田が切り出すと、貴族は
貴公はよく知っておるなぁ、普通は知らぬ者が多いのだが、と答えた。
何と!すぐに死んでしまう魔物と知っていて、あれほどの高額で落札なさったのですか!
ああ、承知の上で買ったのだ。わしが必要だったのは社交界で自慢するための道具
だからな。その役目は十分に果たしてくれた。世界最後のフセイランを所有していた男、
という名誉を得て歴史にも残るであろう。それを考えれば安い買い物だったぞ。
枯れ果てたら、あとは剥製にでもして応接室に飾っておこうかと思っておる。
山田は、お前はコスモドラグーンで撃たれてしまえ、と思いつつ会話を続けた。
次回「その18」 貴族は言った。
森から連れてきて50年共に暮らしたとて、結局最後に枯らしてしまうのであれば
5日で枯らすのとどこが違うのだ。長く生きていたから栽培成功、などと言うのは
しょせんは自己評価、自己満足にすぎぬ。ならば自分が満足できさえすれば、
栽培期間の長短など問題ではない。栽培は成功したのだ。貴公はどう思われる?
・・え、まあその、そういうお考えもあるかと。
ですが、フセイランはいざしらず、普通の植物であれば長く栽培するほど増殖も
いたしますし・・
ああ、貴公も殖やして楽しむ派なのか・・あの男のようにならねば良いのだがな。
・・あの男?
わが貴族家に仕えていた園丁だよ。栽培増殖の技術は一流だった。
だが・・奴は勘違いをして身を滅ぼした。
貴族は使用人に、この場に新しい茶を用意して持ってくるように命じた。
次回「その19」 奴はわしが子供の頃も、わしを子供扱いせずに真摯に植物の事を教えてくれた。
自分が殖やした希少植物を王国中に広めて、絶滅しかかっている植物を普通の植物に
格下げしてやるのだ、と目を輝かせて語ってくれたものだ。
だがな、奴は勘違いしていたのだ。自分以外の園芸家も、自分と同じように植物を
愛しているのだとな。普通の園芸家にとって、園芸植物は使い捨ての、根のついた切り花だ。
だから奴が心血を注いで殖やし、配布した希少植物も、まともな扱いはされなかった。
1年たつと半分枯れ、5年たつと1割も生き残っておらず、10年後に育てているのは奴一人に
戻っておった。
それでも奴は諦めなかった。自分が育てるのを止めてしまったら、希少植物は王国から
絶滅してしまうと言ってな。傍から見ていると、自分一人で血を吐きながら悲しいマラソンを
続けているかのようだったわ。
・・だがな、ある日奴はとうとう壊れた。奴が苗を送ってやった相手がたずねてきてな。
また苗をわけてくれと言ったのだ。「植替えしないでいたら枯れちゃってさー。また
苗をくれよ。たくさんあるんだから問題ないだろ?」とな。
奴は無言でそやつに水をかけて追い返した。赤い顔になって怒りで震えておった。
だからわしは言ったのだ。「草ごときの事で、あまり心を病むな」とな。
・・その夜に奴は温室に油をまいて火をつけ、その中に飛び込んで命を断ったのだ。
次回「その20」 今思うに、奴にとって自分が育てているものは「草ごとき」ではなかったのだ。
自分の一番身近にいた者ですらその気持ちを理解していなかった。それを知ってしまって
絶望したのだろうな。・・橋の上で水面を眺めていた自殺志願者の背中を、わしは
押してしまったのだよ。
自分の愛した草を残していくのは心残り。さりとて託せる相手もいない。
結局、花と無理心中したのだな・・結局、奴はあまりにも生真面目すぎたのだ。
貴公も草ごときに過度に思い入れをすれば、その身を滅ぼすぞ。
ああそうだ。「草ごとき」だ。わしにとって植物とは、自分の欲望を満たすための
道具にすぎぬ。園芸などしょせんは暇つぶしの娯楽、命を削ってまでやるものではない。
花を愛したがゆえに苦しむのなら・・
愛などいらぬ。
そう言って茶をあおった貴族の顔は、どこか寂しそうに見えた。
次回「その21」 >>76 です
軽く振ったつもりでしたが
こんなに中身の濃い長編になるとは
面白いです その考えは間違っています、とは山田には言えなかった。
当然ながら貴族に対し、フセイランの扱いについて考えてください、と言い出せる雰囲気
ではなかったし、仮に言っても聞いてはもらえなかっただろう。
では、その時に山田には何ができたのだろうか。
このフセイランを譲ってください、譲っていただいた事は絶対に口外しません、
私の全財産をお渡ししますから、と言ってドゲーザをして懇願すれば、あるいは譲って
もらえたかもしれない。だが、山田領には神木も茸人も存在しない。連れて帰ったと
しても「女王」のその後の運命に変わりはない。
では故郷の森に帰してやるか。しかし、「女王」2人の命を支えられる人数の茸人はもう
残っていない。仮に茸人が残っていたとしても、森で健康が回復した時点で再度あの領主に
狩られるだけの話である。
ならばその場から連れて逃げて、彼女が力尽きたあとは黒く干からびた屍体を匣(はこ)
に入れて背中に背負い、一緒に全国を旅して回れば満足できるだろうか。
山田がそれを解決策だと思える人間だったならば、この物語がそういう結末で終わった
可能性もあったのだが・・
結局、山田がしたのは黙って貴族の館を立ち去ることだった。
山田はこれから彼女がどうなるか、すべて理解していた。その上でーー
彼女を見殺しにした。
次回「その22」 山田が貴族と話をしている時、「女王」は目の前で自分の死について語っている
デリカシーの無い男達に対して、何の怒りも悲しみも示していなかった。
何かを悟ったかのように、ただおだやかな表情だった。
その目は、ここではないどこか遠くを見つめていた。
山田には、その目が二度とは戻れぬ生まれ故郷の森を思い出しているかのように思えた
その表情が、山田がフセイランを見た最後の記憶となった。
「女王」は与えられた人間用の食事を口にしようとはせず、体力回復用に与えられた
霊薬エリクサーも効果がなく、その後ほどなくしてこの世を去った、という話を
山田は聞かされた。
なお、彼女の死体は剥製にはされず、王立科学博物館に標本として寄贈されたという。
次回「その23」 それからしばらくの間、山田はひどく機嫌が悪かった。
普段は山田の部屋に入り込んで仕事の邪魔をしているナナ&ナナ・ツーも遠慮して近寄らず、
家令のエンガワの頭に登って仕事を邪魔していた。
そんなある日、王国環境庁から山田に書状が届いた。
野生動植物を保護するための新しい法律が創設され、保護指定種を決定する科学委員会が
発足することになった。その委員に山田を任命するというのである。
その法律の名は、「特定第二種王国内希少野生動植物種」制度という。
この法律は従来の「王国内の絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」
通称「王国種の保存法」を補完するもので、簡単に言うとオークションでの希少な生物の
販売を禁止することに特化したかのような法律である。
この法律の指定種となった場合、第一種の希少動植物種のように捕獲・採集が規制
されることは無いのだが、販売することは許されない。そのため衆人環視で行われる
オークション取引には、出品することがほぼ不可能になる。
昨年度に実施は閣議決定済だったが、まだ施行されてはおらず、具体的な規制種の指定は
今後時間をかけて順次決定されていく予定であった。
その決定内容について討議・検討するのが山田の仕事というわけである。
次回「その24」
*この物語はフィクションであり、実在する人物・組織・法律などとは以下略 厳密に言うと「特定第二種」の場合、人工増殖個体であれば販売は可能である。
だが、増殖方法が確立されておらず、野生採取のみが流通している動植物の場合は
事実上販売はできなくなる。一方で野生からの採取個体が捨て値で大量販売されることが
無くなるため、本当に人工増殖されている動植物の場合は販売価格が安定し
増殖業者の利益につながる。そういう想定がなされていた。
山田は、この法律の指定種にフセイランを加えようと考えた。
人工増殖できないフセイランの場合、指定イコール販売禁止になるというわけである。
しかし、この提案は他の委員からは難色を示された。
というのも、もともと特定第二種は二次的自然に生息する動植物、つまり里地・里山で
生きている身近な生き物を選んで指定することが前提とされていたからである。
具体的には第一回の指定として、農業用のため池に棲む有皿緑色水魔の捕獲、
草原性の小妖精の採集、平地性の火精サラマンダーの卵塊採取などが規制される
予定であり、植物系の魔物については今のところ検討対象では無かったというのもある。。
そもそも絶滅寸前の種であるならば第一種の希少動植物種に指定して、捕獲・採取を
禁止すべきであり、特定第二種への指定は筋違いである。それが他の委員達の
意見であった。
次回「その25」 だが、この世界において捕獲・採取の禁止は、領主の狩りの権利に制限を加えることに
つながっていた。そのため王国官僚が第一種への指定に対して及び腰であり、追加種の
選定は遅々として進んでいなかった。
そのため、代替策として特定第二種への指定が重要かつ現実的である。山田はそう主張
した。そして山田の説得により、最終的に他の委員も山田の意見に賛成した。
「では、山田委員の意見を採択するということで(あーもうコイツ何とかしてほしいわー
空気読めねぇし完全に頭おかしいよなー。でもなー王様のお気に入りみたいだし喧嘩しても
俺が損するだけだしなー。考えてみたら指定種なんて何だろうが俺と関係ねーし、適当に
決めて早く帰ろーぜ。あー尻かゆい)」という議長の締めの言葉によって、指定種への
追加が決定した。
こうして、山田はフセイランの販売禁止を勝ち取ったのである。
そしてその後、フセイランが販売されることはもう二度と無かった。
次回「その26」 この法律が施行され、フセイランが販売禁止になったという情報が、例のフセイラン狩りの
領主にもたらされた。その時には、領主は「ああ、もう見つけても売れないのか・・」
とたいへん落胆した。しかしそのあと、憑き物が落ちたような明るい表情になった。
自分はハンターではなく領主である。領主の本分とは、領内の開拓を進めて最新の産業を
誘致し、関係者からリベートを受け取って私腹を肥やすことである。そう思い至ったのだ。
その後、領主は熱心に本分に励み、のちに最新事業に関係した巨大汚職と脱税が発覚して
領主の座を追われたという。
次回「その27」 山田の人生の流れにおいては、ここでフセイランとの関わりが一旦中断する。
そして新たなお題への挑戦が始まっていく。
しかし時系列を入れ替えて、そのあとフセイランがどうなったのかを語っておこう。
ーーーーーーーーーー
それから数年ののち、数々の事件が一段落した山田は、ふとフセイランのことを思い出した。
もしあの赤ん坊が順調に育っていたならば、今頃は全裸の美幼女に生長して森の中を
走り回っているはずである。母親は救うことができなかったが、あの子にはその分、
罪滅ぼしに手助けをしてやりたい。今、何か困っていることはないだろうか。
そう思った山田は、ふたたびフセイランの森を訪ねることにした。
今回は迷子にならぬようにと、レンタル騎乗獣(騎乗用具標準装備、隠れ外套オプション)
を利用した。行き先や道順を騎乗獣が覚えてくれるので、いわばカーナビ付きである。
♪そなたは森で わたしは里で 共に生きよう暮らしていこう 会いに行こうよ
騎乗獣に乗って♪
鼻歌を歌いつつ、のどかにポクポクと進んでいった。
空は青く晴れ、吹き渡る風はさわやか。まさに観光気分である。
次回「その28」 ところが、途中でどうも様子がおかしいことに気がついた。
周辺の木が切り払われて草原になっており、森へと向かう細い道が幅の広い
石畳の街道になっている。
これは!・・
胸騒ぎがした山田は、騎乗獣を急がせた。
進むにつれて嫌な予感はますます高まっていった。
そして行き着いた先に・・
森は無かった。
整地された平原に、領内の人々を幸せにするための最新の事業設備ーー
太陽光から光の精霊の魔力を抽出するための黒いパネルが、一面に並んでいた。
そこには木も草も無くーー
ーー 生き物の姿は、もうどこにも見当たらなかった。
次回「後日談その1」
あと数回でラスト。 そして、それからさらに数年後。
元・宮廷錬金術師(その頃には王宮を退職)は、山田に頼まれた買い物のため、隣国の
盆栽市を訪れていた。その時、露店で植物を物色している一人の男を見かけた。
見た瞬間、彼女は全身が総毛立つような戦慄を覚えた。魔道士のローブを着たその男は、
見た目にはただのさえない中年男にすぎなかった。しかし彼女の魔力知覚は、その男ーー
否、その「何か」は、この世ならざる場所に実体をもつ、名状しがたい怪しさの宝石箱
であることを告げていた。その身に纏う病的かつ冒涜的な禍々しい混沌とした変態の
オーラは、明らかに人間のものではありえなかった。
しかし、恐怖に駆られ、その場を逃げ出そうとした彼女の足が止まった。
その「何か」ーー便宜上「その男」と呼ぶがーーの隣にいた二人の女性を見た時、
錬金術師としての好奇心が恐怖を上回ったのである。
女性のうち一人はすらりとした長身の、凄みのある美女。もう一人はその女性に
よく似た顔のまだ幼い女の子。その二人は共に透き通るように肌が白く、髪の毛は
輝くような銀髪で、目が血のように赤かった。
次回「後日談その2」 意を決した彼女は、あの・・突然申し訳ありません。私は山田領の錬金術師で
ございますが・・と思い切って話しかけてみた。すると意外なことに、その男は
ああ、山田殿の・・彼の事はよく存じております、と答えた。
いえ、面識があるわけではないのですがね・・この子の・・
男のローブの裾を握っている女の子の頭を撫でて、男は続けた。
この子の乳母が、私がこの世界を留守にしている間に、姿の見えない神様に命を
救ってもらったというのでね。何があったのか「過去視の水晶玉」で調べたのです。
それで山田殿が何をしておられたのかを知りました。実に面白い方だ。
・・あの、こちらのご婦人は?・・まさか、そんな事が・・
ああ、保存されていた身体を盗み出してくれば、蘇生自体は簡単ですよ。
大変だったのは復活時に生命力を分けてくれる茸人達を、培養して殖やすことでした。
そ、それはどのような・・
そう問う錬金術師に男は言った。
次回「後日談その3」 「三者間共生培養」その一言だけで山田殿ならばご理解なさると思います。
が・・もし判らなかったとしても、意味を調べる必要はありません。
ヒトの身で、神木と茸人の秘密に関われば命を削られます。
「頑張れば育てられる」それは裏を返せば「少しでもつまずいた時は、すべて枯れる」
という意味でもあるのです。
永遠に頑張れるヒトなどおりません。血を吐きながら走り続けても、最後には自分の
身を滅ぼして背負う者と共倒れになるか、休むために背負っていたものを投げ捨てざるを
えなくなるか、どちらにしても最後に待っているのは絶望でしかありません。
栽培というものはね、頑張ろうと思った時点ですでに負けなのです。
そして挫折した自分を責めて自らの身を焼き尽くしても、心のどこかで諦めきれて
いなかった業の深い者は・・どれほど血を吐き続けても死ぬことのかなわぬ身に転生し、
魔の者とヒトが同じ場所で、共に幸せに暮らせる術(すべ)を見つけ出すことを夢見て、
終わりの見えない道を走り続けねばならぬ呪いをうけるのです・・
錬金術師が男の言葉を手帳に書き写している間に、男とその連れ達は雑踏の中に姿を消し、
あわてて探したが、それきり見つからなかった。
次回「後日談その4」 「頑張れば育てられる」それは裏を返せば「少しでもつまずいた時は、すべて枯れる」(至言 山田領に戻った錬金術師がその話を山田に伝えると、山田はしばらくポカンと口をあけていたが
やがて大笑いしはじめた。
「いやぁ参った。人間にはおこがましい事だとは思っていたが、この世界には人間でない
連中がいる事を忘れていた、こいつは本間先生もびっくりだ」
え?何?意味がわからない。ホンマって誰なの?と錬金術師が尋ねたが、山田は聞いては
いなかった。「よし、その男に弟子入りだ!」と叫んでそのまま外に飛び出していった。
そして数日後に「見つからなかった・・」と言ってシオシオと戻ってきた。
その男が何者で、どこから来て、どこに行ったのかはその後もとうとう判らなかった。
そして錬金術師は山田が何を理解し、何を言っていたのか最後まで全然わからなかった。
この章終了。ちょっと長くなりすぎたようです。
次回「樹木人(トレント)の悩み」
お題:イチジクコバチ。 魔道士のローブを着た男ってまさか「その19」で話題に出てきた…
真相不明のままでいいけど読んでてわくわくする 樹人族トレント。樹木系のモンスターで、なおかつ自力で歩き回れる種族の総称。
その形態は生息している異世界ごとに異なっている。切り株に目鼻がついたような種族、
樹木が根をうごめかせながら這いずり回る種族、人間型で肌が樹皮に覆われたような
種族など、きわめて多様性に富んでおり、エルフのように定型的なイメージでは語れない。
そしてこの世界のトレント種族群は(種族によってかなりの違いはあったが)多くの種族
では美しい女性の姿をしていた。なお、この物語に登場する植物系の魔物がどれも
美女の姿をしているのは執筆者の趣味ではなく、収斂進化の奇跡と呼ばれる現象に
よるものである。
そして今回は、王都から山田を尋ねてトレントの夫婦が訪れてきていた。
濃緑色の肌に白い髪の毛の美形で、胸のニ個の貯水球はそれほど大きくはないが、
たいへん整った形状で素晴らしい弾力性を有している。
ちなみに彼らは雌雄異株であるが、カタセタム族のような性的ニ型ではない。
外見的には雌雄ともに人間の美女にしか見えない。そのためこの夫婦は、見た目には
樹木ではなく百合である。
次回「トレントその2」 この夫婦は結婚してだいぶ年月が経っているのだが、いまだに子供ができずに悩んでいた。
二人とも、王都ドームでおこなわれた園芸展で、王立園芸協会のメダル審査のオリハルコンメダルを
受賞した優良個体であり、周囲からは優秀な実生苗を生産することを期待されていた。
そのため特に妻の精神的プレッシャーが高く、最近では心を病みはじめてる兆候すらあった。
子供ができない原因を、植物の繁殖に詳しい山田に調べてほしいというのが夫妻の希望だった。
山田には療術師の資格は無いが、数々の難病・奇病を治した実績は王都ではよく知られていた。
「辺鄙(へんぴ)な土地に住み、女の子の助手を使って、誰にも治せない病気を次々と
治療している無免許の天才療術師」というのが山田の人物像として定着していたのである。
そして山田が夫妻の話を聞いてみたところ、夫妻は「子供の作り方」をまったく知らない、
ということが判明した。
次回「トレントその3」
「あの・・子供って、どうやって作るのですか?」
「えーとですね、オシベとメシベが・・」
「うあ?・・あ、あの、ご領主様、ストレートにそういう単語を口に出されると、
聞いているほうが恥ずかしくなってしまうのですけれど・・
(ピー)とか(ピーピー)とか、そういう言葉を使って説明できませんか」 ここで一般的なトレントの受粉過程について解説しておく。あたかも二人の美女が身体的な
接触を試みているかのような描写となるが、あくまでヒトに酷似した外見の植物が樹体を
接しているにすぎない。そこに扇情的な要素は微塵も無いことをあらかじめ申し上げておく。
受粉を試みるニ株は、樹体を覆う衣服、あるいはそれに類する被覆物をあらかじめ除去
しておく。次に受粉パートナー相互の樹体を、接触面積が最大になるような体勢で密着
させる。しかるのちに相互にパートナーの樹体に、さまざまな方法で刺激を加えていく。
積算刺激量が一定の閾値に達すると開花が開始される。膨張した花弁は大きく開かれ、
柱頭からは粘液が分泌、葯からは花粉が放出される。花蜜が生産され、あえぎ声と共に
花器から花粉媒介者を誘引するための揮発性物質が外部へと流出しはじめる。
この時点で周辺から花粉媒介者である、トレントコバチ(以下コバチ)と呼ばれる
小魔虫が集まってくる。ここでは詳細な解説は省略するが、トレントはコバチが
いなければ受粉できず、またコバチはトレントが存在しなければ繁殖ができない。
トレントの種族ごとに花粉を運ぶコバチの種類もほぼ決まっており、長く続いた
共進化の末に、1種対1種と言ってもさしつかえない密接な共生関係を築いている。
次回「トレントその4」 したがって受粉を希望するトレント夫婦の場合、彼らの種族に対応するコバチの生息域に
出向いて、そこで受粉パートナーと共に屋外受粉行為に励まねばならない。
そしてコバチによって雄株から雌株へと花粉を媒介してもらうのである。
問題の夫婦の場合、そのコバチがどのような種類で、どこに生息しているのかという
知識がまったく無かった。それ以前にコバチが必要であるという事実すら知らなかった。
とはいえ、人間であれば、むしろそういう特殊な知識を有する者のほうが珍しい。
通常はトレントの親から子供へと、性教育として伝えられるはずの知識であった。
だがこの夫婦の場合は、その知識を伝えられる前に親がいなくなっていた。
彼らは暗黒大陸から移民してきたシングルマザーの母親から生まれた双子の姉弟であるが、
母親は二人がまだ小さいうちに魔ナメクジに舐められ、この世を去っていたのである。
ちなみに姉と弟で子作りをするというのは、人間であれば非常にいけない行為である。
しかし、植物には自家受粉で子孫を作ってもまったく近交弱勢をおこさないような種類
も多いので、近親交配という行為が(実際には問題になる種類もかなり多いのだが)
ほとんど問題視されていない。判りやすく言えば、シブリングクロスごときで騒ぐ
園芸家はいないのである。
次回「トレントその5」 花粉媒介者がわからないのであれば、人工授粉するしかない。山田はちょうど開花中
だったトレントの花を詳細に観察し、構造をよく調べた。
ちなみにトレントの花は臍(へそ。トレントは地球のマングローブのように胎生種子で、
体内で実生を育てるため人間と同じように臍がある)の下方、右足の親指と左足の親指の
間に咲く。色は薄いピンク(個体差あり)で、地球のクリトリアの花に似ている。
すると、花の構造が他種族のトレントと大きく異なっていることが判った。
雄蘂(ゆうずい=おしべ)がすべて融合し、花粉は大きな集合塊となっている。
柱頭(ちゅうとう=めしべ先端)もそれに応じて巨大化している。この特徴から考えると
コバチが花粉媒介者だとは考えられない。
次回「トレントその6」
「話は変わりますが、メダル審査とはどういうものなのですか?」
「私達が足を広げて、審査員達が花を観察します。そして花の大きさや形、色艶などに対して
点数をつけていきます。その合計点に対応した各賞のメダルが取得できるという審査会です。
フラグランス審査というのもあって、私はそちらでも高得点でした」 さらに、蜜腺が体内の奥深くに位置しており、花粉塊のある場所から蜜腺までの距離が
人間の前腕の長さほどもある。
山田は首をかしげつつ人工授粉を進めた。そして作業中に考えた仮説はこうである。
彼らの生まれ故郷である暗黒大陸では、コバチではないまったく別の花粉媒介者が
トレントの受粉に関与していて、その何者かは体内深くの蜜腺まで届くような長い
採蜜器官を持っている、と。
のちに暗黒大陸で山田の予言したとおりの特徴を持つ魔物が発見され、
その魔物には「予言された」という意味をもつ学術名がつけられることになった。
次回「トレントその7」 その魔物は寝ているトレントの美女へと忍び寄る。そしてぬめぬめとした赤く長い舌を
トレントの花へと差し込み、その蜜壺に(以下描写自粛)
山田の人工授粉によってトレントの妻は無事に結実し、珠のような雄株の実生苗を
授かった。その後も次々と実生繁殖を続け、アングレカム族のセスキとペダレの夫婦は
幸せに暮らしたという。
よく考えてみたらラン科は樹木ではなかったことに気がついたが、たぶんこの世界では
ランは樹木なのだ。うん、そういうことにしておこう。
そして次の事件がおこる。山田領の北部に巨大な火球が落下した。
次回「宇宙から落ちてきたもの」
マクロな空を貫き、山田領を雷(いかづち)が撃つ。 まさかオーバーテクノロジーでデカルチャーなものが…… 山田領の北部平原、火球落下跡の巨大クレーターの底から、馬車ほどもある巨大な
焼け焦げた塊が発見された。
当初は隕石だと思われていたが、左右対称の形状は自然の隕石だとは考えにくかった。
魔力探査による調査の結果、強靭な外殻と比較的柔らかい内部構造に分かれており、
内部からは生命反応が探知されることが判明した。
「この中には、宇宙から飛来した生命体が存在している」
その結論に山田領は震撼した。もしや飛翔魔法を遥かに超える、星間飛行魔法で飛ぶ宇宙船
だったのだろうか?
だが、識別魔法による鑑定は驚くべき結果を示した。
「宇宙巨大植物 レギオソプラントの種子」
それが謎の物体の正体だったのである。
山田は宇宙植物に造詣が深いといわれる、精霊島に住む精霊王を尋ねて対応策を乞う事にした。
次回「その名は精霊王」
そして山田が精霊島へと向かったその日の夜、クレーター内で雨にうたれた巨大種子には
びしり、とひびが入り、吸水を開始していた。 「はい、そういうわけでわしが精霊王です。セイちゃんと呼んでください」
「精霊王様、軽いです」
「あーいいのよヤマちゃん。趣味家ってのは趣味の分野ではみんな対等だからね。
立場とか肩書なんて無視していいの。あたしらの間では竜王はリュウちゃんだし、
海神王はカイちゃんだし。あー・・マーちゃん?あの人は当分封印されててほしいのう。
敬遠される人って、どうして『あの人』って呼ばれるんかね?」
「他人のふりをしたいからでは?そんな事より宇宙植物の件ですが」
「ああ、外宇宙の深淵から飛来した巨大植物じゃね。たぶん文明が滅ぼされたり
共生している巨大怪獣の群れが人間を襲ったり、街がふっとんだりはしないと思う。
しないんじゃないかな。まあ多少は覚悟しておけと」
「んな適当な。滅ぼされると滅ぼされないでは大違いなんですが」
「いやいや専門家って、断定はしないもんなのよ?いろいろ可能性を考えるからね。
それにねー、植物には個体差ってものがあってね。
あー、もうちょっと納得できるように説明したほうがいいかの?」
「年寄りの長い話は嫌われるんですけど・・ぜひお願いします」
「本音出とるよヤマちゃん。もう少し社交辞令というものをじゃね」
次回「個体差がうんたらかんたら」
その頃、宇宙植物は発芽を開始していた。 「たとえばじゃね、ヤマちゃんの寝室にサキュバスが現れたとするわな」
「サキュバスって・・女の淫魔ですよね?男性とエロい事して精力を吸い取る魔物」
「そうそう、男性の理想の女性に化けて、あんな事やこんな事をしてくれる女魔物。
自分の理想っちゅー部分が重要じゃね。ヤマちゃんは巨乳と貧乳とどっちが好きかの?」
「どちらかというと・・いや、私の性癖はこっちに置いといてですね、
それと植物とどういう関係が」
「まあそのうち判るから。で、ヤマちゃんのストライクゾーンど真ん中の女の子が
フェロモン全開で、すっげーエロい服装して現れて、頬を染めながら上目使いで
『山田さま・・』とか言ってくるわけね。んで、そこは寝室で、密室で、人目も無いと。」
「・・・すいません領館に戻って対魔結界消してサキュバス呼んでいいですか」
「悪霊も入ってくるから現実には駄目じゃけどね。で、ヤマちゃんは思わず彼女に
抱きついてキスしてしまう」
「そして高まるムードと共に彼女をベッドに押し倒して」
「んにゃ、真っ赤になって泣き出した彼女にひっぱたかれる」
「ええええええ何その展開。サキュバスですよ?淫魔ですよエロですよR18ですよ?」
次回「宇宙植物の話はどうなったんだよヲイ」
その頃、宇宙植物は種子の殻がうまく脱げなくて困っていた。 「何故かと言うと、その子は男性経験の無い純朴でオボコいサッちゃんだったのじゃね」
「純朴な淫魔って何ですかそれ。そんなものいるわけ・・いるんですか?」
「わしが知ってるキャラだけで数人おるね。エロい種族なのにウブい小娘、という設定が
たまらん、という客層は意外と多いらしくての」
「私の故郷で言うところの『ギャップ萌え』というやつですか」
「で、ちょっと聞いておきたいのじゃけど、ヤマちゃんは『抱きついてキスする』
って場面で、その先の展開に何も疑問を持たなかったじゃろ?」
「え、だってサキュバスですし」
「問題はそこなんじゃよね」
「え?」
「『サキュバスはエロい事を受け入れてくれる』それはまあ、一般論としては正しい。
しかしの、生物集団というのは例外の集合体みたいなもんじゃからね。
『エロい事をすると嫌われるサキュバス』というイレギュラーな個体もおる。
これが『個体差』というものじゃね」
次回「ようやく植物の話に戻るぞ」
その頃、宇宙植物はどうしても殻が脱げずに小休止していた。 「そうは言ってもそういうのは例外でしょう」
「では聞くが、ヤマちゃんは人間の女の子にいきなりキスするかの?」
「いや、さすがに人間相手なら、相手の反応を見ながら」
「『サキュバスにも純朴な個体がいる』と思っていれば、人間相手と同じ用心をしてるじゃろ?
サキュバスだから楽勝だー!という先入観で行動して、個体差なんて頭に無かったじゃろ?」
「それはまあ」
「植物栽培でもな、そういう御仁が多い。量産園芸種や野菜の固定種ならば
性質が一定じゃからマニュアル栽培でええんじゃけど、野生植物の場合にはそれでは
駄目なんじゃよね。個体差というものを考えて手を出さないと、突然ひっぱたかれる」
次回「宇宙植物の出番はまだですか」
その頃、宇宙植物は殻脱ぎを再開していた。 「つまり種名で判断することなく、個体特性を見て栽培を変えなければ駄目だと」
「まあそういう事じゃね。とはいえ宇宙植物なんぞという栽培情報が皆無のものじゃと
特性を把握するまでに長い時間がかかって大変じゃったが」
「おお、宇宙植物を育てるとかマッド錬金術師のような。てか育てたんスか!」
「宇宙植物は漢(おとこ)のロマン」
「まあそこは否定しませんけどもね。生長して暴れだしたりしませんでしたか?」
「わしが育てた株はどれも大人しかったのう。とはいえ凶暴な個体がいてもおかしくない、
というのが個体差というものでの」
「いやちょっとその、いきなり人類SOSになったら困るんですが」
「まあそういう時はリュウちゃんに煉獄滅神ブレスを2,3発たたきこんでもらって
宇宙植物に教育的指導を」
「何ですかその怪獣大戦争」
次回「宇宙植物はこう育てる」
その頃、ガタガタ動く巨大種子の周りに領民が集まりはじめていた。 「というか、今『育てた株はどれも』って言いませんでした?複数株を育てたんですか?」
「おお、3株ほどだがの」
「うわ・・宇宙植物3株って何それ凄い」
「いや、別に凄くないじゃろ。『女性3人と付き合ったから俺は女性について語るぞ!』
っていう男がいたらただの痛い人じゃろ。威張れるのは女を知らない連中を相手に
している場合だけじゃよね。まあ栽培自慢ってそういう痛い人が多いんじゃけど」
「辛辣ですね精霊王様。それはともかく、宇宙植物ってどういう花が咲くんですか?」
「それがよく判らんのよ。うちで一番古い株は種子から育てて150年ぐらいになるん
じゃけども、一度も咲いたことがない。種子の大きさから考えて10階建ての建物ぐらいに
生長してもおかしくないと思うんじゃけど、一定の大きさから全然大きくならんからのう。
この星の気候に合わんのかもしれんの」
「150年とかあっさり言ってくれますね。えーと、大きくならないんですか?」
「そうじゃね、2階建ての建物の屋根を越えるぐらいで止まるかの。背丈は半年ぐらいで
急速にそこまで育つんじゃけど、そこで止まってあとは外見的にほとんど変化せんね」
「まあそれでも十分に大きい気がしますが。室内栽培は無理ですねそれ」
「いや巨人族のご家庭ならば何とか」
「その発想は無かった」
次回「宇宙植物の特徴」
その頃、巨大種子の周りに近寄らないように警戒線が張られていた。 「いずれにしても、宇宙植物の栽培に興味が出てきました。育ててみましょうかね」
「ヤマちゃんならそう言うとは思ったがの。ま、ヒトの身で育てられるものには限界が
あるからの。自信が無い時はやめておくのも選択肢じゃからの」
「あー・・園芸を極めようとすると、栽培やめますか、人間やめますか、と問われる領域に
なってくるんですね・・まあ芸事ってのは本来そういうものですけど、この世界の場合は
『人間やめる』が比喩じゃないからなあ・・」
「ヒトの身を捨てる決心がついた時には相談にのるからの」
「まあ死ぬまでには考えておきます。あ、聞き忘れてましたけど、宇宙植物の樹形と
いうのはどんな感じなのですか?」
「まあ普通の植物じゃね。この星の植物と外見的に大きな違いはないわの」
「・・この星の植物の普通って、怪獣ですよねそれ」
次回「宇宙植物目覚める」
その頃、山田領防衛隊が宇宙植物の周囲に布陣を完了していた。 「怪獣という感じではないがの。一番近い姿なのはドライアドかの」
「ああなるほど、ドライ・・え?」
「ドライアド」
「えーと・・植物系の魔物で、緑色の髪の女の子」
「そう、それ」
「背丈が2階建ての建物の屋根を越えるぐらいの」
「うん、正しく理解しとるね」
「・・宇宙巨大植物がどうして女の子の姿をしているんですか!」
「それは収斂進化の」
「うわあああ、こういう展開だとは思わなかったあああ」
次回「そういうわけで」
そのころ、おおきなたね は ぱかん、とわれて、なかから げんきな おんなのこが
うまれました。 その後しばらくして、山田のことを「お父様」と呼ぶ巨大美少女の肩に乗って、
領内を視察する山田の姿を山田領で見かけるようになった。
彼女は、のちに山田領に開業した巨人族用の喫茶店「お帰りなさいませご主人様」で
バイトをするようになり、異世界の装束を参考にした、個性的なデザインの店員制服が
よく似合う巨大看板娘となったという。
ヤック・デカルチャー(ドワーフ語で「めでたしめでたし」の意)
次回「新しい産業」
お題>>102 聖ヨウミツバチ。妖蜜蜂族の中で最も貯蜜の風味が良い魔蟲である。
山田領ではこの蟲を使役して妖蜜を生産することに成功し、領主の名を冠した妖蜂場の
経営を開始していた。
しかし最近になって急激に妖蜜の生産量が低下していた。妖蜂の女王の話を召喚士に通訳
してもらったところ、黒い妖蜂の集団が出没して盗蜜しているという。
山田と召喚士は苦労して黒い妖蜂の女王を見つけ、話を聞いてみた。すると彼女達は
精妖王魔ルハナ蜂と呼ばれる魔界の蟲であった。農場で花粉媒介のブラック労働を
させるために魔界から強制召喚された、人間の被害者とも言うべき蟲達だった。
そして自由を求めて脱走し、今日に至ったということが判明した。
次回「侵略的外来種」
黒幕にいるのは、いつも人間。 山田は黒い妖蜂達を魔界に送り返す方法を探し出した。
そして領民達を集め、樹木医の一族に伝わる集団舞踏魔術「蟲送り踊り」によって
魔界へとつながる転移門を呼び出した。
黒い妖蜂達は夜空に飛び上がり、感謝の意を伝える集団発光飛翔を舞いながら
大きく、そして高く燃え上がる篝火の上を超え、転移門の向こうへと還っていった。
そしてまたもや起きた事件。
アサシンギルドに資金提供をうけた一人の男が試みた、暗殺者を人工的に作り出す技。
次回「禁断の錬金術」
その姿、愛らしく可憐なることが優れた暗殺者の資質なり。 ・・おや、お嬢さん、目が覚めてしまったかな?施術が終わるまで眠っていてもらう
予定だったのだけれど・・
あ、動いてはいけない。手足が寝台に固定してあるから、無理に動いたら痛いよ。
もう一度寝ようね。今お薬を体に入れるから。
あー騒がないで。お嬢ちゃんは病気になっていたから、今治療をしているんだ。
心配しないで早く元気になろう。体が良くなればお父さんやお母さんの
ところに戻れるから。
ん?おじさんの赤い服が気になるのかい?ん〜ふふふ、素敵な服だろう?
これはねぇ、劇辛愛好会の限定商品なんだ。辛い食べ物って素晴らしいよねぇ。
熱さとも痛みともつかない刺激が脳をゆさぶるあの恍惚感・・うふうふうふうふふふ。
毒を持つ動物は多いけれど、あんな麻薬的な刺激成分を持つ動物なんて存在しない。
あれこそ植物の神秘・・溶血毒や心臓毒も凄いけれど、辛さこそが至高の植物成分だ。
お嬢ちゃんも・・そう思うよね?うふうふふふふ。
おじさんは思ったんだ。人間の姿と、激辛植物の辛さが一つになった時、素晴らしい
暗殺生物が生まれるって。あの人達は猛毒植物のほうがいい、って言ってたけど、何も
わかってないよね。激辛が一番なんだ。そうあの赤い赤い辛さが熱さがうふうふふ。
ああ、よけいな事を話しすぎたようだ・・そろそろお薬が効いてきたかな?
安心して眠りなさい。次にお嬢ちゃんが目が覚めた時には、素敵な体になっていて
みんなが褒めてくれるからね。
どうして泣くんだい?これが済んだらお父さんやお母さんのところに戻れるからね。
嘘だ?これからお化けにされるんだ、もう二度と家に帰してもらえない、って?
どうしてそんな事を考えたのかなあ?・・さあ眠りなさい。おじさんはねぇ・・
・・君のような勘のいいガキは嫌いだよ。
次回「許されざる命」
山田領防衛隊が現場に踏み込んだのは、少女の生体錬成が終了した後だった。 暗殺用の合成生物、毒娘。体に流れる血潮はカプサイシン、その存在は歩くデス・ソース。
触れた者には辛さが染み渡り、皮膚が爛れて気道が腫れ塞がる呪われた少女。
生物錬成施設から助け出された彼女はただ一言だけつぶやいた。「・・死にたい」と。
山田は彼女の姿を見た時に驚いた。とても良く似ている・・前世の初恋の少女の面影に。
その絶望の涙を見た時に山田は思った。
自分が知っている、あの話と同じ結末にしてはならぬと。
たとえそれが、不可能と言われている事であったとしても。
次回「鋼の心の錬金術師」
「お前が死ぬ必要はない!なぜならば、俺が元の体に戻してやるからだっ!!!」 >>152
少女はその後、食事を摂ろうとはせず、しだいに衰弱していった。
だが、山田は結局、その苦しみの日々に終わりが来るまで何もできなかった。
生体錬成の術式は複雑きわまり、天才錬金術師でもなければ内容すら理解できない
ものだった。専門知識の無い山田がいかに意気込んだところで、どうにかなるもの
ではなかったのだ。それを悟った時、山田はーー
隣にいた天才錬金術師の肩をたたいて「頼むわー。費用は俺に回してくれ」
かくて錬金術師は無茶を言う山田に呪いの言葉を吐きつつも、不可能と言われている
生体再錬成に挑戦した。少女の両親の遺伝子構成と魔力属性を調べ、合成錬成体の
構成と比較。少女の体のオリジナル要素ではないと思われる構成因子を特定した。
次に外部由来の要素を排除するための膨大な術式を、並列式液浸型ゴーレム演算脳に
よる高速情報処理によって作成。これらの一連の処理をおこなわせる演算指示術式の
構築のため、錬金術師は徹夜の術式記述が続いた。しかし鋼の精神力によって
それを成し遂げた。
そしてついに、少女を元の体に戻すための並列三次元錬成魔法陣が完成したのである。
次回「そして」
山田は体力を使い果たした錬金術師におかゆ的な療養食を作った。 こうして少女は、生体錬成前の体に戻ることができた。
「元の・・あたしの体・・ご領主様・・あ、あああ・・」
泣き崩れる少女の背中を山田が優しく叩くと、少女の顔は少し赤くなった。
その後、彼女は無事に両親の元へと送りとどけられた。
「ご領主様、本当にありがとうございます。あ、あの・・ご領主様にまた会いに
行ってもよろしいですか?」山田は笑って、いつでも遊びにおいでと答えた。
「私・・ご領主様のことを・・す・・ええと、素晴らしい方だと思います」
そう言って真っ赤になった彼女は両親のところへ走っていった。
そして人間の姿から、激辛唐辛子キャロライナ・リーパーに似た肉塊のような姿に戻った
植物魔物の少女は、赤くて辛い汁を分泌しながら、帰っていく山田に向かっていつまでも
真っ赤な触手を振りつづけるのだった。
その後、錬金術師からの請求書を見た山田は泡を吹いて卒倒したという。
そして次の事件。山田領のはずれの廃屋に、猫獣人の浮浪者が住み着いた。
次回「野良猫が来た」
猫、それは害獣にして園芸家の天敵。 ある日、どこから来たのか、山田領に一人の猫獣人が現れた。
地球人であれば15歳か16歳ぐらいに見える若い娘でありながら、衣服を着たと言うよりも、
ボロ布を体に巻いたと言ったほうが適切な、すさまじい恰好をしていた。
その娘が一人で領境の廃屋に寝起きするようになった時、その噂はすぐに領内へと
広まった。彼女が人目を引いたのは、本来なら都市にしか生活していないはずの浮浪者が
辺境の地に現れるという異常な状況だったからでもある。だがそれ以上に
彼女の容貌が領民の興味を引き付けた。彼女は異様に可愛かったのである。
純白のつややかな髪に、オレンジと黒のメッシュという毛色も珍しかったが
黒目がちの大きな瞳に、整った小さな口の横から見える真っ白い小さい牙、
すらりと伸びた猫耳のバランスもまことに申し分なかった。人間の美少女の可憐さと
子猫の愛らしさに、さらに野獣の美しさを加えて3で割らずにそのまま、と
いった外見は、普通ですら可愛い猫獣人の標準をさらに上回っていた。
彼女ほどのお猫様ならば、下僕になりたがる人間はいくらでもいるはずである。
常識的に考えて、浮浪者になって廃屋で寝起きする必要はない。
何か特別な事情があって辺境まで逃げてきたのか、あるいは極度の人間嫌いか。
次回「野良猫その2」 どうやって生活していくつもりだろう? 領民の疑問はすぐに解消した。
専門知識も資格もない彼女が、生きるために選んだのは、体だけで始められる仕事。
人類最古の職業と言われる仕事の一つであり、普通の若い乙女ならば、考えただけで
躊躇するであろう汚れた生き方。
すなわち盗賊である。
最初に狙われたのは、なんと山田が暮らしている領館であった。
いかなる方法で忍び込んだのか、白昼堂々と数々の防犯結界をかいくぐり、
さらに警備の目も盗んで、領主室で仕事をしている山田ですら気づかぬうちに
ひそかに領主室に侵入していた。そして部屋に運ばれてきた昼食を食べようとして、
山田が手を洗いに行った隙に、彼女は領主机にそっと忍び寄った。
山田が領主室に戻ってきた時、美しき女盗賊は山田の昼食の焼き魚を口にくわえ、
二階の窓から風のように逃げ去っていった。
次に狙われたのは温泉旅館山田屋である。真夜中に金庫室前の警備当直室に
忍び込み、警備員の隙を見て鍵束を盗み取った。そして調理室の鍵を開け、収納庫内に
保管してあった、翌日の宿泊客の朝食に使われるはずだった魔獣サケハラスの切り身を
食い荒らした。
次回「野良猫その3」 その後、主婦の買い物かごから生魚が強奪される、愛玩獣の餌が横取りされるなど、
領民にも被害が広がった。そこで防衛隊が出動し、猫獣人の捕獲を試みた。
しかし姿を見つけて追跡してもすぐに見失い、また遠隔魔法の狙撃圏内までは
けっして近づいてこなかった。住居となっている廃屋を見張っていても、
敏感に気配を感じ取るのか、監視員がいる時には姿を見せなかった。
そこで山田は、餌付けを試みることにした。
食事を与えて満腹にしておけば、食糧が盗まれることはなくなると予想したのだ。
領館の家臣用食堂に定食が用意され、監視魔法で観察が行われた。しかし監視している
間は手つかずのまま放置されていた。そこで試しに監視を切ってみたところ、短時間の
うちに完食されていた。その後も猫獣人はほとんど姿を見せなかったが、
人がいなくなった時に食堂に来て定食を食べているようだった。この餌やりによって
領内での食料品の盗難はおさまった。
次回「野良猫その4」 しかし盗難に代わって、領館敷地内での猫獣人による乱暴狼藉が新たな問題となった。
雨の日に泥足で入り込んで廊下中に足跡をつけていったり、家具で爪を研いだり、
室内に抜け毛を撒き散らしたりした。
さらに植物栽培場に入り込んで鉢植えを棚から落として割り、猫草に似た細長い葉の
植物は手当たり次第に葉先をかじられた。かじった時に力加減を間違えて鉢から草を
引き抜いてしまい、裸苗になった植物がころがっていたりもする。
とどめに、食べた草と一緒に毛玉を吐いて周辺を汚している。
ぐぬぬ、このような悪行でも可愛いから許されるというのだろうか>>157
苗を植えたばかりの花壇はほじくられて用を足され、庭園に来た妖精が追いかけ回されて
領館に寄り付かなくなった。裏庭で平飼いされている庭竜は、猫獣人が出入りをする
ストレスで卵を産まなくなった。
山田も頭をかかえたが、飼い獣人にして躾をしようと思っても、人慣れしていない
のではどうにもならない。家臣からは、あくまで冗談ではあったが、食事に魔動車用の
不凍液を混ぜてはどうか、などという不穏な発言まで出るようになっていた。
次回「野良猫その5」 そんなある日のこと、メイドのミヤゲが困惑した顔で山田を呼びに来た。
聞けば、猫娘が領館の屋根の上で、避雷針にしがみついてガタガタと震えながら、
変な声でうなっているという。
山田が屋根に昇ってみるとミヤゲの言葉通りに猫獣人がそこにおり、見るからに
様子がおかしい。近づいても逃げようとはせず、虚ろな目で避雷針を握ったまま
時々ピクピクと変な痙攣をしている。
ひとまず鎮静魔法で眠らせて、療術室で診察してみることにした。
彼女の体を調べてみると、背中が妙に白く、その部分が弾力を失って硬くなっている。
山田はこの症状を見て、昔読んだ学術書の記述を思いだした。
「病状が進行すると精神錯乱をおこして高い所に登りはじめ、やがて何かにしがみついた
状態で体が固まってきて、まもなく命を落とす」
まさに今回の症状と一致している。
それは猫獣人の間で最も恐れられている、凶悪きわまりない伝染病だったのだ。
次回「冬猫夏草」
彼女は明日になれば全身から子実体が伸びてきて、周囲に胞子を撒き散らす。 異世界もののなろう小説のセリフに鹿沼土とか出てきて爆笑した。 そして山田の抗真菌呪術により、彼女の治療はあっさり終了した。
魔法世界なので、有効な術式がある場合にはその場で治るのである。
だが彼女は、正気に戻ったとたん周囲の人間をシャー、フーと威嚇しはじめ、
隙を見て病衣のまま外へと逃げだしてしまった。
しかし自分が病気を治してもらった恩義はしっかりと理解していた。
その夜、猫美少女は山田の寝室にそっと忍び込んできた。そして、自分には
これぐらいしかできるお礼が無いの・・と恥ずかしそうに言うと、寝ている山田の
枕元に、ネズミに似た小動物の死骸をたくさん並べて帰っていった。
それ以降、徐々に気を許した彼女は山田達の姿を見ても逃げなくなった。そして
食事の時間になると家臣食堂に来て、ニャーニャーと鳴いて食事を要求するように
なった。食後に食堂で丸くなって昼寝をしたり、山田が近づいて頭をなでても
指に噛み付くだけで逃げないぐらいまで馴れたので、隷属証明の首輪(枝に引っかかった
時には強く引っ張ると分解するタイプ。鈴付き)を与えられ、領館の一員となった。
その後、「働かざるもの食うべからず」の方針により彼女はメイド服を与えられ、
新しくできたカフェで働くことになった。職場ではほぼ終日寝ていて、起きた時に
毛づくろいをしたり、たまにお客さんからオヤツを貰ったりして接客に努めたという。
次回「猫の日常」
今はまだ、平和な日々が続いていた。 そして本日はたいへん良い天気である。
猫娘は勤務先のカフェを抜け出して、領館の裏庭を散歩していた。
猫なので勤労に関しては特に意識していない。
花壇の土がやわらかくて具合が良かったので、掘って用を足していると
庭園の隅にキラリと光るものが見えた。花壇を埋め戻してから近寄ってみると、
それは金色の指輪だった。
彼女は、誰が落としたのか、などと深く考えることもなく指輪を拾って
ポケットにしまった。拾得物として報告しようとは思っていない。
猫にそのような行為を期待してはいけない。
なんと、その指輪は古代森エルフの王が所有していた伝説の魔道具だった。
それを手にした者はあらゆる植物の生育と死を支配し、王の中の王となって
この世のすべてを我が物となすこともできる恐るべき指輪。
神にも悪魔にもなれる力を、今、彼女は手にしたのだ。
次回「緑指王の指輪」
その大それた力のことを彼女はまだ知らない。 緑指王の指輪。それは森エルフの(中略)深い地中に埋もれ(中略)
長い時を経て(中略)領館の庭に現れた。
その新たな所有者となった猫娘は、家臣食堂の調理のおばちゃんに指輪を見せた。
おばちゃんが興味を持ったので、猫娘はシシャモ的な魚の干物3本と指輪を交換した。
猫は指輪になど興味は無いのである。
かくて究極の魔道具の所有権はおばちゃんへと移った。
おばちゃんの指は太くて指輪が入らなかったので、指輪に革紐を通して、ペンダント
として使う事にした。この使い方だと指輪の魔力は発動しない。
おばちゃんにとって、それはただの綺麗なペンダントであった。
そして誰も気づかず、誰も知らず、事件は何もおこらなかった。
空は青く澄み、世界は今日も平和であった。
明日もまた、平和な日が来ることだろう。
誰もがそう思っていた。その日までは。
明日も今日と変わりない日がやってくる、そんな保証はどこにも無いというのに。
最終章「終わりの始まり」
その日の夜、北の島のほこらにあった魔王の封印が何者かに破られた。
雷鳴が鳴り響いて大地震がおこり、島は砕けて住民と共に海中に飲み込まれた。 ついに園芸界最凶と恐れられた存在、魔王ガーデナーが復活した。
配下の邪培十傑衆が再集結し、全世界への侵攻が始まった。
魔王は入手した植物をすべて自己流の栽培法で育て、それに適応できぬ植物は枯れた。
適応できた植物は飽きて放置され枯らされた。
園芸初心者には上から目線で半可通な栽培法を押し付け、納得せぬ者は発酵堆肥の山に
生きたまま埋められた。園芸歴の長い者を老害と呼んで新しい植物の栽培を強要し、
逆らえば肉骨粉にして有機ボカシに加工した。
園芸オークションでは相場を無視した高額で入札し、落札してから出品者への
無償提供を強要した。それを拒否した者は一族もろとも野菜屑と混ぜられ、発酵槽へと
送られた。畑の土はみるみるうちに肥えていったが、肥料の原料を知っている人々は
そこで作物を育てようとはしなかった。
園芸界にもはや希望の太陽は無く、園芸関連株の取引きは魔王への恐怖でたちまち
凍りついた。世話する者を失った花は枯れ、飛龍は空を捨て、人は微笑みを無くして
いった。
次回「魔王その2」 それでもなお逆らおうとする人間達を、魔王は許さなかった。
魔王の極大魔法によって地軸はねじまがり、大陸は引き裂かれて海に沈み、
地上は核の炎につつまれて総人口の半分を死に至らしめた。
精霊王達の力をもってしてもこの惨劇を防ぐことはかなわず、
その後の修復と蘇生には3日を要した。
この事態に対し、世界人族王会議は緊急動議によって魔王への対抗策を
協議した。そして国家の枠組みを越え、異なる種族同士が手を取り合った。
勇者を中核として各国からヒトと亜人の精鋭を集結させることが決定し、
史上最強のアベンジャーズ・パーティーが結成されたのである。
次回「無敵の勇者、ここに見参!」
その頃、山田は赤黒く染まった空を見上げながら、世界の終わる時、自分に何が
できるのか考えていた。そして今は、ただ一人で畑で水を撒いていた。 優秀な植物系戦士を挿し木したり組織培養で増やすべきだ 勇者一行は魔王に敗北した。
園芸に関する知識が皆無であったため、邪培十傑衆の植物攻撃に、見当違いの対応を
して自滅したのだ。
魔王は山田領から「緑指王の指輪」を奪い去って生態系を改変し、すべての植物は
魔王のしもべとなった。
ついに世界を統べた魔王は言う。栽培とは、飢えた心を満たすための捕食だと。
園芸家は、植物の命を食い殺さねば心が保てない生き物なのだと。
それに応えて一人の男が言う。
ならば花を育て、殖やし、守りながら我々の飢えも満たしていこう。
食い殺す相手が滅びてしまえば、我々も飢えて死ぬのだからと。
凡人はたとえ未来を信じても、一人でそこにたどり着く力はない。
だが男は、彼を信じる仲間達の助けを得て、まだ見ぬ光景を目指して進んでいく。
昨日の妄想は今日の希望となる。そして明日は。
彼の想いは、いがみあう国々の間に絆を結び、人々の心に種を播く。
最終回「あの丘の向こうに」
山田の最後の戦いが始まる。その結末は、生か、死か。 <翻訳者あとがき>
邦題「転生者山田の、剣と魔法の怪しい園芸」を公開する機会を得たことを嬉しく
思う。発表の機会を提供してくださったスレ主と、読む事が苦痛でしかないクソのような
駄文の連投を、生暖かく放置してくださった寛大なスレ住人に御礼を申し上げる。
本書は原題「qあwせdrftgyふじこlp」、通称「ルルイエの薄い本」と呼ばれる奇書で
ある。太平洋グアム島沖の深海に発生した異世界転移ゲートの、破壊後サルベージ調査
において、解析不能の箱に納められた状態で、日本語の手書き辞書と共に発見された
ものである。そこには山田と呼ばれる人物が無職のニートから、錬金術師の家の居候を
経て、自らの園芸知識によって貴族にまで成りあがっていく過程が記録されている。
その内容には意味不明の単語、理解不能な表現が頻出し、翻訳に苦労させられたが、
できるかぎり意味が通じるよう訳出に努めた。
(続く) (続き)
しかし文体の統一感の無さ、誤字脱字、あーしまった変な文章を投稿した等々の欠陥と、
全体に漂う中二病臭&頭の悪そうな内容がものひどい。
これらは即興で書き進めたことにもよるが、主たる原因は翻訳者の文才の無さに起因
する。もし真面目にお読みくださった方がいらしたならば、深くお詫びを申し上げて
おく。馬鹿が書く文章には第三者の視点による査読と校正、ストーリー修正が不可欠
であることを改めて痛感した。
なお、本書で最終回と呼ばれる部分に関しては発見時にすでに失われており、
この物語がどのような結末を迎えたかについては想像するしかない。
新たな資料が発見された時には、改めてご報告したいと思う。
2018年8月3日 翻訳者 花咲 那奈志
―完― 最後世界がどうなったかより、こういう終わりの方がらしいというか
自分はすごく楽しませてもらったよ ありがとう 少し膨らませて、なろうとかで連載したら、デイリーランクインは硬いクオリティだったと思う 流石になろうのランキングには無理だろう
そもそも普通の人には園芸で使う用語がわからない
かといって解説つけたら無駄に文字数使って余計読まれない >>186
そだねー
専門的な用語や概念が多すぎて一般には無理っぽいね
園芸家には面白かったけど ご感想ありがとうございます>皆様
下書き段階で誰かに読んでもらって反応を見ないと、どこがウケてどこがキモがられるのか
全然わからないので書き進めにくいんですよねー。
ご指摘通り「なろう」で書ける内容ではないです。仮に書くとしたら専門家の爺さん博士と
素人青年のコンビが異世界転移して話が始まる。
「むう、これはモザイク病」「し、知っているのですか雷電博士」
「人間で言えばエイズに相当する不治の病。しかも治療薬が見つかっていない」
(民明堂新光社からの引用解説文が入る)
みたいな流れで進める事になるでしょうか。
まあ、一般向けであれば植物は判りにくいので動物ネタで進めます。
昆虫美少女しかいない異世界「むしフレンズ」でハーレムを目指す主人公とか。
トゲオオハリアリのお姫様に言い寄られる。「私のはじめての人になって・・
あなたとの子供で王国を作っていきたい・・」
「博士、やります!」「早まるな。トゲオオハリアリでググれ」
みたいな。いやまて、需要あるのかその話。
ご意見、ご感想は今後の参考にさせていただきます。でも罵倒は凹むので勘弁してね。
痛い話を書いてる自覚はあるんで。 カマキリ美女やクモ美少女とお付き合いするのも命がけだね うーん、持ちネタはだいたい使い尽くしたので・・。
残ってるネタは園芸成分が足りなくて没にしたものしか残ってませんので・・。
・・まあどうせ数人しか読んでないだろうし、
くっっだらねぇ水着回とか書いても、止めに来る人はいないかもですが。
いや冗談ですからね?今まで登場した女性キャラを総登場させて水着コンテスト話とか
書けなくはないけども、イラスト無しの駄文だけでは萌える要素がないわーw ガタッ
塩素入り水だと良くない植物少女のために浄化効果のあるスライム水(トロミ有り)で満たしたプールとかですか ムチプリで棘があるサボテン娘
普段はシワシワのババアだが風呂に入ると絶世の美女になるテマリカタヒバ(復活草)娘
樹上で生活しウブ毛が美しいチランジア娘
痩せると男に太ると女になるテンナンショウ人間 むしろ逆に、異世界から現代に転生してきた魔法使い見習いに、現代の植物のイロハや使えない雑学を教える的な小説が読みたいw
くっさいくっさい花嗅いで悶絶したり、アガベからテキーラ蒸留したり、メープルの木からシロップとったり。
ダメかな >>196
「何?モヤシ?何だそれは・・今晩はそれを炒めて、穀物の上に乗せたものが晩飯?
他には何も無い?そ、それがこの世界の常識的な食事だというのか!」 >>197
むしろ
「なんだこの真っ白な食材は!…これが植物だと?しかもなんだ、日光を当てずに水だけで育てるなんて、常識外れだ!」
みたいなところから責めないと園芸である意味ないじゃん。
で、転生してきた奴が可哀想だからと日光に当てて育てて別物になるまでが園芸w >>199
リクエストされると書きたくなるからやめてwww ――これは魔王との最終決戦に至る前、まだ平和な頃の山田の物語であるーー
ある夏の日、王国南方の海上でタイフーが発生した。
タイフーとは、南大海において大自然の魔素(マナ)が局所的に集積し、巨大なドラゴン
の姿となって、陸地に上陸してくる現象である。その姿は幻であり実体は伴っていないが、
タイフーの進路に当たった都市は、タイフー周辺の魔力のこもった暴風雨により多大な
被害をうける。近年では、チバ領にあった私立の食虫植物女子学園が壊滅した事例がある。
多数の肉食系美少女が犠牲になり、学園長が失意のうちに亡くなられた事が悼ましい。
また、かつて王国南部のウチナー領には私設のバナナ園があったが、タイフーによって温室が
半壊し、誰もが閉園を予想した。ところが園主はくじけずに資金を調達し、地球の単位で
風速70mにも耐える強化温室に改築して再開園し、人々を驚かせた。そして改築後まもなく
最大瞬間風速80mの巨大タイフーがやってきて廃園となった。
かようにタイフーの被害は甚大である。
屋外に置いてある鉢植えなどはすべて吹き飛ばされるため、屋内に移動しなければならない。
人々はタイフーを静めるという伝承のある、ゆでて潰した芋に炒めたひき肉を混ぜ、衣を
まぶして油で揚げた料理を祭壇に捧げ、忌み籠りをしながらタイフーが通り過ぎるのを
待つのが常であった。
次回「その2」 ――これは魔王との最終決戦に至る前、まだ平和な頃の山田の物語であるーー
ある夏の日、王国南方の海上でタイフーが発生した。
タイフーとは、南大海において大自然の魔素(マナ)が局所的に集積し、巨大なドラゴン
の姿となって、陸地に上陸してくる現象である。その姿は幻であり実体は伴っていないが、
タイフーの進路に当たった都市は、タイフー周辺の魔力のこもった暴風雨により多大な
被害をうける。近年では、チバ領にあった私立の食虫植物女子学園が壊滅した事例がある。
多数の肉食系美少女が犠牲になり、学園長が失意のうちに亡くなられた事が悼ましい。
また、かつて王国南部のウチナー領には私設のバナナ園があったが、タイフーによって温室が
半壊し、誰もが閉園を予想した。ところが園主はくじけずに資金を調達し、地球の単位で
風速70mにも耐える強化温室に改築して再開園し、人々を驚かせた。そして改築後まもなく
最大瞬間風速80mの巨大タイフーがやってきて廃園となった。
かようにタイフーの被害は甚大である。
屋外に置いてある鉢植えなどはすべて吹き飛ばされるため、屋内に移動しなければならない。
人々はタイフーを静めるという伝承のある、ゆでて潰した芋に炒めたひき肉を混ぜ、衣を
まぶして油で揚げた料理を祭壇に捧げ、忌み籠りをしながらタイフーが通り過ぎるのを
待つのが常であった。
次回「その2」 だが、タイフーの上陸には恩恵もあった。
海洋からの膨大な魔素が内陸にもたらされ、動植物の生育が著しく活性化するのである。
そして、今回のタイフー上陸時を狙って、一つの実験がおこなわれようとしていた。
それは、大気に満ちた魔素を利用して、古代遺跡から発掘された謎の植物の種子の
休眠を打破するという試みであった。
しばらく前、古代ジョーモン時代の遺跡の調査において二粒の種子が発見された。
当時に湿地帯だった場所において、無酸素状態の泥に埋もれていたために、当時の状態の
まま残っていたものだと推測された。識別魔法で「名称不明・生命反応あり」と解析
されたため、王立植物園で植物育成魔術によって発芽が試みられた。ところが、
きわめて強大な魔力によって休眠の封印がほどこされており、通常の育成魔術では
休眠を打破できなかった。
そこで植物園は、タイフーが運んでくる厖大な魔素を種子に集積させ、休眠術式を
強制的に解呪する複合魔法陣群を考案した。そして今回、台風が直撃する山田領での
試験実施を企画したのである。
珍しい植物好き、および新しいもの好きな領主・山田は、自分も実験に参加させてもらう
ことを条件に、この計画を了承した。ただ、ここで問題になるのは、タイフー来襲時に
屋外に出ているのは、非常に危険だという点にあった。
次回「その3」 暴風雨による物理的な危険は防御魔術で対応できる。しかし大気中の魔素の状態が
不安定で、いつ魔力落雷がおきてもおかしくない状態になっている。魔力吸収スキルの
ある高位の魔術師や、魔素を養分として吸収できる植物系の魔物の場合、風雨防御の
術式が付与された衣服を装備しておけば、タイフーの時でも野外で活動できる。
ところが山田のような一般人は、魔素を完全に防御する装備を身につけていなければ、
魔力落雷が発生した場合には急性魔素中毒で死亡する危険があった。
だが、その程度のことで諦める山田ではない。体全体を包み、魔力的に外部と絶縁する
防水着「雨中服(うちゅうふく)」を錬金術師に開発させたのである。
地球のヘルメット潜水服のような無骨な装備を着込んでまで参加しようとする山田に、
錬金術師は少々あきれ気味であったが、いつもの事なのであえて意見は言わなかった。
そしてタイフー上陸の日。灰色の空には黒い雷雲が渦巻きつつ流れ、渦の中央の
雲の無い部分にはタイフーの目が赤く光っていた。地上では風雨が強くなるに伴い、
異常集積した魔素によって皮膚がビリビリする感覚が感じられるようになってきた。
領内各所に設置された魔素集積魔法陣では、領内の山田の家臣だけでなく、王都から
集まってきた物好き・・いや熱意に満ちた山田の知人達も、実験準備を手伝っていた。
次回「その4:ではこの世界の、水に濡れても安心な防具の数々を語っていこう」 実験目的の種子が設置された中央魔法陣において、防護服を着用して記録準備をして
いるのは、王立植物園の若き学芸員達である。ちなみに園長は領館の中に退避してお茶を
飲んでいる。彼は今回の実験が失敗した場合、山田に責任が及ばぬように名目上の責任者
として連れてこられたお飾りであり、最初から何も期待されていない。
実質的な指示は錬金術師が出している。
錬金術師は水に濡れても安心なプラグ・・もとい、ウエットスーツ的な、体のラインが
明確に判別できる防護服を身につけている。防御魔術が付与されているので服の厚みは薄いが、
物理防御力は鋼の鎧に匹敵する。体の動きにともなって、若い女性の身体的要素が
強調された状態で視認できる仕様である。ある意味では硬質素材のビキニアーマーよりも
攻撃力が高い。若い男性研究員達が必死になって横目で見ている。
全身タイツフェチの一名は、どうして顔が覆われていないのかと嘆き悲しんでいる。
その横では雨中服で全身を包んだ山田が、熱心に種子のチェックをしている。
隣にいる若い女性の身体的特徴よりも、植物に目がいくのは男性としてどうなのか。
これでは植物以外に付き合う相手がいなくなってしまう。なぜか書いていて胸が痛い。
山田の近くでは植物魔物のナナ&ナナ・ツーが、色違いのワンピース的な、幼女水着風の
かわいい防護服で走りまわっている。植物魔物には魔素たっぷりの大気はご馳走である。
たくさん食べると、ちょすいきゅーが大きくなるんだよー、と言いながら空気を食べる
真似をしている。実験の役には立っていないが場の雰囲気がなごんでいる。
次回「その5」 少し離れた場所にある主力補助魔法陣では、召喚士が術式の副監督として待機している。
彼女の防護服は、かつて異世界から召喚された初代勇者が、冥王との戦いに挑む際に
愛する少女を守るために作り上げたと伝えられる伝説の防具である。異世界の言葉で
スクミズと呼ばれる紺色の防護服は、胴体のみを覆う形状であるが、魔法付与によって
全身の防御力を著しく高める効力がある。召喚士に装備可能な防具としては、「精霊の羽衣」
と並んで最強クラスの装備である。さらに、特定の属性を持つ者は、着用者の姿を見た
だけで「魅了(チャーム)」の魔法がかかるという特殊効果も付与されている。
しかも召喚士は独自に凶悪な改造を加えており、魅了された者が、装備者の名前を
聞いただけで下僕と化すような視覚的符術を防護服に施している。すなわち、自分の
名前を白くて四角い術符に書き記し、胸に張り付けてある。
これによって特定属性の者に対する魅了効果は飛躍的に高まっている。
この防護服は伸縮率に富み、膨らみかけとも言うべき身体的特徴を隠すことなく表出
させている。彼女はこの特徴を無駄の無い機能美と考えており、他者の無駄な脂肪を
憐れんですらいる。この思想が男性視点の社会において、どの程度の割合で共有されうる
かについては調査する必要がある。
次回「その6」 召喚士のアシスタントをしているのは宇宙から来た巨大植物娘である。巨大な姿だと
細かい作業ができないためマイクロー・・小人化の魔法によって一時的に人間大に
なっている。彼女は防御力が高いので、水着的な防護服は着用せずに普通の服で参加
している。
雨で濡れている彼女を見て学芸員が心配し、雨具を持ってきた。しかし彼女は、
植物魔物には雨に打たれると腐る子もいますけれど、私は雨に当たっているほうが
調子が良くなるんですよ、と言って微笑んでいた。
だが、この行動は本人には問題なくても、周囲の人間は心おだやかでない。
彼女の服装は山田が普段着として用意したものだが、デザイン的には現代日本の
女子高校生の服装を参考にしている。すなわち白い半袖のスクールブラウスで
襟元にスクールリボン、紺色のスカートである。地球人であれば十台前半に見える
美少女が、この服装でしっとりと雨に濡れている。白いスクールブラウスが
肌にはりついて服の下のあれこれが透け、風紀的にけしからんとしか表現できない。
彼女は「人前では服を着るものだ」という教育をうけてはいるが、どうして服を着る
のかという本質を理解しているわけではない。そのため学芸員に見られても気にする
様子は無い。彼女は宇宙から来た娘さんなので、常識に欠ける部分もある程度はやむを
えない。だが山田は早く気付かねば保護者として失格である。だが、困ったことにまだ
何も気付いていないので、このまま話を進めていくことにする。スカートも濡れて腰の
ラインまでもがしだいに露わになってきている。召喚士は気付いているが、学芸員の反応
が面白いので放置している。
次回「その7」 別の地点にある第二補助魔法陣は、魔法技術は高くないが魔力耐性のある者達が手伝って
いる。王都からは女騎士団長と、庭師見習いの娘、イチゴ遣いの女匠が来領した。
女騎士団長は地球人であれば20代後半に相当するが、20代前半と言っても誰も疑わぬ
引き締まった肢体である。セミロングの金髪を結い上げ、防護服はミスリル糸を編み込んだ
銀色のワンピース水着風である。胸と腰以外はレース編み的な構造で素肌が見える。
女性用のあでやかなデザインであるが、同時に騎士鎧をモチーフにした勇壮さを合わせ持つ。
禁欲的な雰囲気もありながら、着用者の隠しきれぬ大人の女性の魅力が混じり合う。
相反する属性を両立させた装備が、えもいわれぬ怪しい雰囲気を醸し出している。
庭師見習いの娘は半袖短パンのセパレート水着風である。可憐で明るい色彩の、若い
女性らしい防護服である。さらにその上から救命用具と植物採集用具の入ったベストと
無属性の園芸用具をつるしたベルトを着用している。長靴的な履物と、軍手的な手袋も
身につけているので全体的な雰囲気は農ガールである。マリンレジャーではないので
方向性としてはむしろ正しいのだが、清楚なかわいい娘さんが残念な人になっている。
山田にまた会えたと喜んでいるが、山田は植物のほうに夢中である。
「なろう」であれば女性側から積極アプローチがあってハーレム要員なのだが、園芸板
なのでこれ以上の進展はなさそうである。
次回「その8」 バカなっ、スク○までは予想していたが濡れスケ服とな イチゴ遣いの女匠は、水着ではなく防護術式をほどこした布を体にまきつけた姿である。
具体的に言うと、胸にサラシ的な白布を巻いて下半身は布の下帯、つまりフ〇ドシである。
布地で覆われている面積はわずかで、肌の大部分が露わになっている。固くひきしまった腕、
修行で鍛えぬかれた割れた腹筋。魔力焼けで全身むらなく淡い褐色に染まった肌に、白い
布の対比が映える。若き女剣士の力強い身体が、雨の中でつややかに濡れそぼりつつ
躍動する。何かあった時は私が守ってやる!という表情がまことに凛々しい。
サクラ王女も見学したがっていたが、さすがに王族の参加は問題が多すぎて見送りと
なった。そのため高貴なる姫君の初々しい水着姿が描写されることはない。
山田領からは野菜配達員の魔女っ娘三人娘が手伝いに参加している。各自のテーマカラー
である赤、青、黄の防護服を着用している。デザインが統一されていないのでユニット
構成としては問題があるが、今回は広報活動ではないのでその点は追求されない。
「赤炎の巨乳様」の赤を基調としたビキニ風防護服は、フリルとリボンを装飾に使用した
女性的で華やかなデザインである。そして地球人であれば十代後半の、まだ幼さすら
感じられる容貌とは不釣り合いな、偉大なる母性の象徴がそこにあった。されど揺れ動く
大塊に認められるつややかな張りは、まだ成熟しきらぬ少女の肌のなめらかさである。
そしてウエストも少女らしい細さであることが、これまた不釣り合いな危うさである。
次回「その9」 「青風のツインテ姫」はネービーブルーに水色ラインの、競泳水着風のハイレグ防護服で
ある。背中が広く空いてクロスバックになっており、露わになった肩甲骨が艶めかしい。
一見するとスクミズに類似したデザインにも思えるが、着用者の違いから明らかに別物と
なっている。その腰周りは少女から大人の女性に変わりゆく境界時間を象徴するかの
ように、儚さと豊かさを合わせ持っている。
そして大きくはないが立派に充実しつつある膨らみが、召喚士の思想とは異なる方向性
がこの世界に存在することを示している。
「黄光の眼鏡ちゃん」は発展途上の体型を人前に晒すことを好まず、得意の光学魔法に
よって外観を隠蔽している。彼女の防護服はチラチラ動く光のモザイク模様に覆われて
具体的な形状が視認できないが、おそらく黄色いワンピース水着的なデザインであると
推測される。ちなみに索敵魔法によって魔力感知画像を描出すれば、光学隠蔽をされて
いても、隠されている若干控えめな物件の形状を確認することが可能である。
第三補助魔法陣では一般人と一般植物魔物が手伝っている。黒髪美少女メイドのミヤゲ嬢は、
白黒でフリルとリボンを多用した、いわばメイド風水着とも言うべき個性的な防護服を
着用している。この防具の防護力はきわめて強力で、過剰魔素だけでなく風雨も完全に
防ぐ。そのため大雨でも着用者の体は髪の毛一本たりとも濡れることがない。
ただし泳ごうとして水に入った場合には、ウォーターベッドのようにふよんふよんした
状態の水上を匍匐移動することになる。
ミヤゲ嬢は着痩せするタイプで、いろいろと微妙にはみ出しそうになる防護服にとまどいを
隠せず、赤くなって服のズレを直しつつ手伝いを続けている。
次回「その10」 植物魔物のハオルシア嬢は、以前に誘拐された経歴があるため「隠れ外套」を使用して
姿を見せずに作業に参加している。時々外套を脱いで空中の魔素を吸収しているが、外套
の下から現れたのは黒いレザー調の、フロントジッパー水着的な防護服を身につけた
豊満な草体である。この防護服は襟元を締めたまま、ジッパーを開けて胸元のみ開放する
のが装備時における重要なポイントである。装着者の見本画像を、人目の無い場所で
ググって頂ければご理解いただけるであろう。普段からゆっさゆっさ、たゆんたゆんの
貯水球が吸水してぱっつんぱっつん、ばいんばいんに肥大し、ジッパー開放によって大変な
ことになっている。その中に何かをはさんだとすれば、ぷにぷにのぷるんぷるんであると予想される。
同じく植物魔物のセスキは、木の葉で要所を部分的に隠しているが実質的に全裸である。
若い学芸員がセスキの花器に興味を示したので、木の葉をはずして披露している。
フラグランス審査で優秀な成績をおさめた芳香に、学芸員はとろけるような顔になっている。
みみみ、蜜の味も知りたいです、と言って了承され、息を荒くしている。
植物の生殖器を詳細に観察している、と書くととても人前でする行為とは思えないが、
「花を見ている」を難しく言っているだけである。扇情的な要素はまったくない。
ちなみにセスキは外見は美女だが、雄株である。学芸員はそれを知らない。
なお、セスキの妻のペダレは懐妊中のため自宅で待機している。
また領民の若い娘三人が、作業を手伝っている。領主の山田に女性としての魅力をアピール
すべく、「悩殺のマイクロビキニ」、「貝殻の胸当て&貝殻の下腹当て」、「危ない水着・危険度LV76」
を着用している。それぞれオークに似た娘、ゴブリンに似た娘、ミノタウロスに似た娘の
装備である。彼女達の固有スキルによって、これらの装備には状態異常への抵抗力が低い
者に対する石化、混乱、麻痺などの付属効果が発生する。
次回「その11」 遠くの林の中では魔道士のローブを着た男が、独自に魔素収集の魔法陣を組んでいる。
傍らで銀色の髪の一糸まとわぬ美女と、同じく幼女が魔素を吸収しながら虹色の燐光を放っている。
雨が嫌いな猫娘は作業に参加せずに領館で待機している。山田の寝台に勝手に入り込んで、
高級寝台は寝心地が良いニャ、と言いながら丸くなって寝ている。
ちなみに語尾にニャをつけるのは、召喚士がそのほうがウケが良いと指導したためである。
抜け毛が敷布について掃除が大変そうである。あとでメイドのミヤゲ嬢が怒ることであろう。
猫娘の水着姿をどうして出さぬのだ!とお怒りのケモナーの方は、代わりに名作漫画
「ダ○ジョン飯」のイヅツミ嬢の画像を検索し、お着換え場面を探し出して萌えていただきたい。
こうして準備が整い、いよいよ実験が開始された。補助魔法陣が順次作動し、中央魔法陣への
魔素転送が開始された。中央魔法陣に設置された種子の容器に魔素が集積し、虹色の光芒を
放ちはじめた。時折り小さく火花が散る。
「封印呪の中和開始。進行率5割・・8割・・9割・・9割7分・・9分。術式停止!」
絶妙なタイミングで錬金術師が中和術式の停止を指示し、作業は終了した。
「魔力探知、鑑定設定にて展開・・封印消失を確認。成功しました!」
皆の歓声があがる。今夜は参加者一同で成功を祝って宴席である。
タイフーの風雨の中にもかかわらず、明るい笑い声がひびくのだった。
そして、彼らは種子が厳重に封印されていた理由を知ることになる。
次回「その12」 <幕間>
宴席のあと、女性陣は寝間着に着替えてガールズトークの時間である。
ここで誰の寝間着が一番かわいいか、描写が入る。
・・はずだったが、勘の良い召喚士は気付いた。
宇宙植物娘の姿が見えない。
召喚士のスクミズを抑えて人気第一位を奪った彼女である。
きっとまた何かやらかすに違いない。
おそらく普通の寝間着ではなく、素肌の上に山田の男物ワイシャツを着て現れたりするのだ。
という予想の斜め上を行き、彼女はナナの女児用キャミソールを素肌にまとって現れた。
サイズがまったく合っていないため、あちこちがピチピチで身体的特徴が強調されている。
裾丈も合っておらず、大腿部がほとんど全部露出している。
召喚士はつぶやいた。「こやつ、すべてが無自覚なのか・・むう、勝てる気がせぬ・・」 封印を解かれた二粒の種子は、王立植物園と山田領で一粒ずつ培養されることになった。
植物美少女が生えてくるのか?という予想を裏切り、滅菌用土に埋めた種子から発芽
してきたのは、赤紫色で剛毛の生えた、うねうねと動く奇怪な植物魔物だった。栽培条件
は不明だったが、発見場所からみて水生植物ではないか、との推測により、鉢に移植して
腰水栽培が試みられた。
翌朝になると鉢土に引き抜かれたような穴が空いており、植物本体が見当たらなくなって
いた。あわてて探してみたところ、温室内の温水池に浮かんで浮葉を伸ばし、時々小魚を
捕食していた。どうやら浮葉性・水生植物系の魔物らしい。とりあえず「ハス」と仮称しておき、
そのまま温水池で育てられることになった。この情報は植物園にも伝えられ、もう一株も
植物園の温室池で育成が開始された。
さて、育ててみるとこの「ハス」は意外と曲者であった。山田がさわろうとすると水中に
潜ってしまい出てこない。餌でおびきよせようとすると、いきなり水を吹いて餌だけ叩き
落とし、ツルを伸ばして奪い取る。
温室内に入ってきた家臣に溶血毒をもった棘を刺してきたり、麻痺毒を霧状にして温室内に
ただよわせたり、どれをとっても有害魔獣としか言いようのない行動であった。
家臣達は嫌がって温室に近寄らなくなったが、山田は辛抱強く世話を続けた。魔獣は危険な
存在だが、危険であるほど魔獣遣い(テイマー)にとっては有用でもある。いずれにしても、
まずは使役者のほうが格上の存在だと対戦して知らしめねばならない。魔獣が大きく育って
しまうと山田の戦闘力では屈服させられなくなる可能性があったので、幼植物のうちに
調教しておく事にした。
例の雨中服はレベル1の毒棘や毒霧ならほぼ完全に防護できたので、それを装備した山田が
みずから水中に入り、「ハス」と格闘して倒した。まあ、幼児とケンカして勝ったようなもの
なのであまり自慢にはならない。
次回「その13」 「ハス」が屈服したところで餌を与えて懐柔し、ご主人様に従うとご褒美がもらえるという
教育をほどこし、専門的な調教を続けた。こうして「ハス」は山田の忠実な使役植物となり、
与えられた死肉を消化液で溶かして吸収して急激に生長していった。そして最終的に、
全体に無数の毒棘を持つ、巨大な赤黒い植物魔物へと変貌した。
地球の植物で言うなら、蓮ではなく鬼蓮という感じである。そこで山田は、このジョーモン
時代から甦った古代植物を「オーガ蓮」と名付けることにした。
さて一方で、植物園で育てられていたもう一株のほうは、だいぶ異なる状況になっていた。
動いて毒棘を刺してくる植物に好んで近づく栽培担当者はおらず、調教されないまま勝手に
生長を続けていた。不幸だったのは王立植物園の学芸員達は植物学者であり、植物の栽培知識が
乏しかった事である。そう言うと、植物学者なのに栽培に詳しくないのか?と不思議に
思われる方がおられるかもしれない。だが、それは珍しくない話なのだ。
植物の栽培愛好会に、植物に関する優れた学術論文を書く会員がいたとしよう。彼の業績は
会の仲間から称賛されることはない。なぜならば、愛好会は植物をどうやって育てるか
考える会であり、研究論文を書く能力は評価の対象ではない。会長をはじめとする全会員が
論文を書いた経験がなく、会員が論文を書いても、それを読んで内容が優れているか
どうかを評価できる者は一人もいない。
次回「その14」 学者の世界ではこれが逆になる。論文を書ける者が偉く、植物の栽培能力は評価の対象
にならない。鉢植えを見て、栽培技術の巧拙を見ぬくような達人はいない。
そのため植物園のように栽培が重要な業務の施設であっても、「普通の」学者しかいない
場合には、施設の栽培技術を高めるという発想がない。
時には研究材料になりそうな植物のコレクションを増やすことだけ一生懸命で、実際の
栽培はアルバイトに丸投げしていたりもする。さらにひどくなると収容する植物すら
造園業者に一任して、栽培現場をまともに見ていない。というか見ても栽培内容を解析
できるほどの知識がないので、現場が工夫しても手抜きをしても違いがわからない。
そういう状況にならぬよう責任者が施設の方向性に修正を加えていけば良いのだが、園長も
学者で、栽培技術に対する認識が欠落していたりする。まして文系の公務員が責任者に
なったりすれば生物自体に興味が無く、管理書類の数字しか見ようとしない。地植えで勝手に
殖えた植物も、名人芸で殖やした植物も書類上では違いが無いので、栽培に時間や手間暇を
かけた者は経費を無駄にした、仕事の効率を悪くしていると責められ、現場から去っていく事になる。
次回「その15」 猫娘ならイヅツミ嬢より転生したら剣でしたのフランちゃんの方が好みだ
http://denshi-birz.com/tenken/ 誰も愛してくれる者のいない施設で、ネグレクトされて育った植物が問題をおこしたとしても
意外性は無いが、今回の場合は問題が大きかった。オーガ蓮から毒霧を吹き付けられ、怒った
アルバイト員が草刈り魔道具で切りかかったところ、オーガ蓮は彼を毒蔓でめった打ちにして、
全力で遠くに放り投げた。温室のガラスをつきやぶった彼の体は屋外庭園に投げ出され、
ぐしゃりと潰れて中身が四散した。
駆けつけた警備騎士達はアルバイト員の体を拾い集めて蘇生所に搬送する一方で、オーガ蓮
を討伐しようとした。ところがオーガ蓮の草体は切りつけた剣をすさまじい弾力ではじき返し、
騎士が逆に傷を負った。さらに魔法攻撃もカウンター反射され、睡眠ポーションや麻痺
ポーションも効かなかった。
相手が物理攻撃反射、魔法反射、状態異常無効の裏ボス級モンスターであると気付いた
時には、警備騎士達はすでに全員が戦闘不能となっていた。
じつはオーガ蓮は、かつて古代エルフが冥王と戦わせるために、生物工学によって作り上げた
無敵の生物兵器だったのである。
攻撃されて怒りに燃えたオーガ蓮は、何本もの毒蔓を振り回して温室を粉砕すると、王城
の方向を目指してゆっくりと動きはじめた。
だが、その前に一人の男が立ちふさがった。
「精霊王から正体を聞いて、様子を見に来たのは正解だったな・・まずは暴れるのを止めようか。
無敵の生物兵器が、お前だけだと思ったら大間違いだぞ。 いでよわがしもべ、召喚獣オーガ蓮1号!」
山田の前に出現した光輝く魔法陣の中から、赤黒い巨大な植物魔物が地響きをたてながら出現した。 「山田よ。我の魔力で召喚した魔物なのに、おぬしが呼び出したような言い方だな」
「いやぁ、一度言ってみたかったんで。行くぞ1号!」
大地を揺るがす激しい戦いが始まったが、園芸と無関係な部分なので省略させていただく。
どこかで園芸と関係ない流れもあったように感じるが、おそらく気のせいである。
こうして最終的に調伏された植物園のオーガ蓮は、山田領に引き取られて調教される
ことになった。「植物園でうまく育てられなかった魔物を、上手に育てている山田様は凄い」
という評判が立ったが、それに対して山田は言った。
「オーガ蓮は『世話をして育てる』」タイプでしたから・・。もしも、『環境で育つ』植物
だったなら、環境が不安定な個人栽培場よりも、むしろ植物園で暮らすほうが良かったはずです。
たまたまあの子達ーーオーガ蓮には、山田領の育て方のほうが合っていただけなのです。
環境で勝手に育っている植物を、栽培していると勘違いすれば、栽培技術は腐ります。
栽培技術がすべてを解決すると過信すれば、環境という壁にぶつかって倒れます。
植物園でしか育てられぬ植物もあれば、個人の技術がないと殖やせぬ植物もある。
そして、その両輪を結びつける車軸があれば、栽培の世界はさらに先に進む力を
得るはずです。私は皆でその車軸を作って、『その先』に行ってみたいのです。」
その後、2株のオーガ蓮は個体名をサンダーとガイラーと名付けられ、山田領の魔物闘技場に
おいて、無敵の双王者として長く君臨した。その戦いぶりは観光客におおいに評判になったという。
(了) 水着から寝間着と流れるままかと思ったらちゃんと園芸で終わってた
サンダー、ガイラー、闘技場に心当たりあってフイタわw 毎回うまいね 山田シリーズの一遍を考えてみたが
途中まで書いて出来が微妙なので投稿保留中
3行ギャグなら勢いだけで誤魔化せるが
プロットに肉付けすると文才の無さが響いてくるわ
3行以内なら
カンカンカンカンキンキンキンキン(打撃音)
な、なんという強さだ凄いですお兄様そして世界は救われたハーレムEND
って描写でも許される(違 植物の種を何か一種類だけ携えて転生するとしたら何持っていく? >>237
薬用植物か果樹の種かな
葉物野菜は人間がいる世界なら現地のものがあるだろうし日常的に多用する(大量生産が前提)ものなので
貴族や大地主の息子にでも転生して広い土地がないと詰みそう
鑑賞目的にしか使えない植物は社会が一定以上豊かで文化的でないとそもそも需要がないだろうし
実用性があってかつ少量しか生産しなくても十分な利益が得られる植物が望ましい
というわけで自分はブドウ 昨年にリクエストがあったので、挿話その2を投入。
試しにバトルシーン未省略フルバージョンで書いてみたら
投稿サイト3話分ぐらいになった。スレ用に分割して150回弱。
本来なら創作スレでやるか、投稿サイトに出すべきなのだが
せっかくなので2ヶ月くらいかけて順次投入していく。
廃スレを使った壁打ち行為なので生暖かく無視してほしい。
つーか文才あったら最初から投稿サイトで書く。出来は察してくれ。
酷評があったら心が折れて途中で逃亡するかもしれん。
んじゃ行ってみる。 それは、かまいたちが静かに鳴く、ある夜のことだった。
現代日本の園芸知識を持ったまま、とある剣と魔法の異世界に転生し、
ご都合主義と主人公補正で貴族にまで成りあがった一人の男。
中身の人生経験は合計50年越えであるにもかかわらず、前世でも今世でもいまだ
女性経験を持たぬヘタレ、山田準男爵は領館内の自分の寝室で、何か異様な気配を
感じて目を覚ました。
新規読者にフレンドリーな解説的描写である。
寝室の入口横にある魔石燭台から広がる淡い光。その明かりを背にして黒い人影が
立っていた。 驚いた山田は声にならぬ叫びをあげるとベッドから飛び起き、入口から離れた壁に
背中ではりついた。影の正体は魔物か、それともアサシンギルドの手の者か。
防犯警報の魔道具と、複数の魔術結界を設置している領主寝室に、どうやって
入りこんだのだろう。
よく見れば、その影はヒトの影ではなかった。 頭の上に突き出た大きなネコミミ。その形に見覚えがある。
山田領内の猫メイド喫茶で働いている猫獣人の若い娘、略して猫娘。
言うまでもないが、鬼○郎のパートナーの妖怪少女とは無関係である。
しいて言うとアニメ版6期のニャンニャン娘を、もう少し大人寄りに魔改造したと
でも言おうか、少女と大人の境界に棲む優美にして妖しい魔性の獣。
どうでもいいが猫○が着用しているランジェリーが実物商品化されるとか、
恐ろしい時代である。何考えているのかバン○イ。ふざけんなもっとやれ。 山田は一気に体の力が抜けた。侵入者が猫娘なら、命を狙いに来たのではない。
それ以外の危険はあったり無かったりするが、とりあえず置いておく。
彼女はいかなる方法を使うのか、防犯魔道具を回避して山田の寝室に忍び込み
仕事をさぼってフカフカの高級寝台で惰眠をむさぼるのが日課である。
以前は夜中に、狩りで捕えたネズミ的な小動物を枕元に並べに来たこともある。
だが今回は、獲物を口にくわえてはいない。
しなやかな肢体に薄布の夜着をまとい、大きく空いた胸元から控え目に薄く生えた
柔らかそうな体毛が覗いている。 彼女の髪の毛は純白で、オレンジと黒のメッシュが入っているので、おそらく
体毛も同色なのだろうが、薄暗くて色まではよく判らない。
彼女は、ぷるる、と小さく震えると、ヒトとは異質な動きで山田に顔を向けた。
素足が床の上をするりと動き、足音も無く近づいてくる。
薄闇の中で大きく開いた丸い瞳孔。黒水晶のような瞳が、整った顔立ちに映える。
どこか人間離れした、猫獣人の中でも上位に属する美貌。
光の加減でぎらりと一瞬、眼が赤く光る。
秘密めいた怪しく見つめるキャッツアイ。 おっさん連中から緑色に光るんじゃないのか、という突っ込みが入りそうだが、
猫の網膜下反射層(タペタム)の反射色は個体によって異なるのである。
余談だが、某なろう作家の愛猫「翠星石」は金目銀目(オッドアイ)だが
右目が赤、左目が緑に光る。閑話休題。
彼女は山田の前で立ち止まると、「あふぅ」と小さく妙な声を出した。
そして固まっている山田をうるんだ眼でじっと見つめ、山田の体にそっと両腕を回した。
ぎゅ、と抱きしめてくる細い腕。密着してくる華奢な熱い体。薄布越しに
むにっと体に押しあてられてくる、柔らかくそれでいて弾力のある双丘。 猫娘は一旦離れると、今度は山田の胸元に顔をうずめてグリグリと動かし、
くふ、と息を吐いて上目遣いで見上げると、口元を少しゆるませた。
整った口から小さな牙がちらりと見える。猫娘は荒い呼吸をしてから
かわいらしい舌で唇を湿らせると、濡れた唇をゆっくりと山田の顔に近づけた。
そして突如として始まる、情熱的で激しく荒々しい行為。
彼女は山田の鼻の頭を舐めはじめた。
ぞりぞりぞりぞりぞりぞり。鼻が痛い。痛い痛い痛い鼻が削れてしまう。
猫の舌にはオロシガネ状の棘が生えている。バター犬はいてもバター猫がいない
理由がよく判る。
おそらく獣人独特の愛情表現なのだろうが、状況がよく理解できない。 どうも様子が普通ではない。話しかけても返答が支離滅裂で、ヒトであれば
完全な酔っ払いである。何か変なものでも食べたのだろうか。
山田は顔にかかる彼女の熱い吐息の中に、かすかに果物のような香りを感じた。
肉食女子の彼女は、通常は果物など食べはしない。…もしかすると。
山田は毒殺避けに常時装備している「解毒の指輪」を自分の指からはずし、
猫娘の指に嵌めた。効力が発動した時の赤い光が明滅すると、猫娘の体から
力が抜け、くたくたと床に崩れおちた。彼女は機嫌良さげにゴロゴロと喉を
鳴らしたあと、床の上で、もぞもぞと丸くなって寝息をたてはじめた。
その姿を見て、山田は大きくため息をついた。 「これが原因でしょうか」
翌朝、猫娘の宿舎を調べた黒髪美少女メイド(本職)のミヤゲが、かじりかけの小さな
果実を発見した。緑橙色の砲弾型で、内部に黒い小さな種子が散在している。
「タタビの木の実のようだが…」山田は首をかしげた。
タタビは王国内に自生する蔓性の樹木である。その実には猫獣人の性フェロモンに似た
成分が含まれ、猫系の獣人が口にすると特殊な高揚感がある。山田領内でも猫獣人の
ストレス解消用、あるいは媚薬的な効果を期待して販売されているが、その効力は
それほど強いものではなく、効果も短時間で消失してしまうため薬物扱いは
されていない。 昨夜の猫娘の状況を、タタビの影響と考えるのは納得がいかない。
確認のため識別魔法で果実を調べた山田は、鑑定結果に息を飲んだ。
向精神成分が異常に高く、含有魔力も魔力草並みである。普通のタタビと比較した場合
その効力には天然のコカノキの葉と粗製コカインぐらいの違いがある。
「これは…魔タタビだ」
魔タタビ。古代エルフ族が遺伝子工学によって作り出したデザイナーズ・プランツの
一つ。現在では魔薬取締法、および遺伝子操作生物条約カルヘタナ議定書によって
一般流通が禁止されている魔法植物である。 だが、山田が驚いたのは違法ドラッグだったからではない。魔タタビはエルフの里以外では
結実しないとされているからである。王立植物園でも数系統の個体が許可をうけて
栽培されているが、人工授粉で他系と交配しても稀に小さな実ができるだけで、
完熟前にすべて落果してしまう。完熟果実はエルフの里から門外不出とされており、
実物を見たことのあるヒト族がほとんどいない、幻の果実だったのである。
現在ではエルフの里から魔タタビの実を持ち出すのはオーストラリアからカモノハシを
持ち出すよりも難しく、個人であれば合法・非合法を問わずほぼ不可能と言ってもよい。
密輸を試みて発覚すれば種族間問題に発展し、犯人は勇者から直々に討伐される
ような品物である。そんなものがどうしてここにあるのか。
不謹慎な話であるが、山田は植物屋として限りなく興奮を感じていた。 正気に戻った猫娘から事情聴取したところ、魔タタビの実は猫メイドカフェに来た
冒険者風の男性客から貰ったものだという。
「気持ちの良くなる猫オヤツだよ。試してみない?」と言って渡されたそうだが、
天然ボケの猫娘は「ありがとうなのニャ(はぁと)ここで(注文したお茶が出てくる
まで)待っててほしいのニャ」(注:語尾にニャをつけるのは営業用の仕込みである)
と言ってポケットに入れると何か貰ったことはその場で忘れ、客のことを放置プレイで
帰ってきてしまったという。だって猫だし。 夜中に着替えた時にメイド服のポケットから見つけ、味見してみたあと彼女の
記憶は飛んでいた。
というか制服着たまま宿舎に帰ってはいけないと、山田に何度言われたら判るのか
猫娘。着替えを一回で済ませようとしてはいけない。それと下着は着用しろ。
猫娘を酔わせて店外に連れ出し、アレとかコレとかしてやろうと画策していたであろう
男性客は、あとで悶絶したことだろう。それにしても、種族間問題の発端になるような
特殊ドラッグを持ち歩いていた者が、普通の冒険者だとも思えない。 それ以上にドラッグの来歴が問題である。生きた植物には一般的な収納魔法が
効かないため、遠方から時間停止状態で輸送したとは考えにくい。
日持ちしない果実でもあるので、近在で栽培されたものである可能性が高い。
魔タタビはそこそこ大型になる植物なので、魔リファナのように魔法照明を
使って押入れの中で育てたりはしないだろう。おそらく屋外で栽培されたものだ。
領内で人目につかず、なおかつ凶暴な大型魔獣が出没するほど奥地ではない場所。
それらしき候補地をいくつかピックアップし、山田のことが気に入って領内に
住みついているロリっ娘、もとい山田の協力者である伝説の召喚士が使役する
偵察用小型飛竜によって航空幻像調査をおこなった。 その技術を請われて山田領の魔導技術主任にスカウトされた、地球人基準で十代と
言っても通用する外見の知的な美人のお姉さん、もとい元宮廷錬金術師による
幻像解析の結果、東の領境に近いハゲワロスの森の一部が切り開かれており、
昨年までは存在していなかった小屋のようなものが設営されていることが判明した。
ナイスミドルな家令のエンガワが書類を調べてみたが、開拓申請も居住登録も
提出されておらず、あきらかに怪しい。
山田は領主としての使命感と生来の野次馬根性から、暇潰しに一緒について
いくことにした召喚士と共に、魔薬農場だと疑われる場所へ調査に行く事にした。 ハゲワロスの森の周囲には「不可避の大草原」と呼ばれる風衝植生が広がっている。
この草原には地竜という地下棲の魔物が棲息しており、人間が草原に入り込むと
足音などの振動に反応して地中から襲いかかってくる。
一度ロックオンされると、土魔法によって土中を高速で掘りすすむ地竜から
逃げることは難しい。草原には樹木や岩場のような捕食から逃れられる場所
が無く、これが不可避と呼ばれている理由である。 地竜の内臓を取り除いて干したものには解熱効果があり、地竜エキスに加工して
感冒薬の錬成素材にするが、それほど高価な素材ではない。
素材採取の危険に見合う魔物ではないため狩りに来る冒険者も稀で、大草原に
近寄る人間はほとんどいなかった。その中央に位置する森は、魔薬業者の
アジトにはうってつけの場所である。 大草原の外縁にたどりついた山田と召喚士は、王都の魔道士ソーガン卿が開発した
遠視の魔道具で森の状況を観察していた。もし魔薬業者のアジトがあるならば、
うかつに近寄れば索敵魔法で感知され、攻撃されたり逃亡されてしまうかも
しれない。まずは情報収集からである。
「暇だのう。面倒臭いから炎精魔人でも召喚して、あの森ごとすべて灰に」
「ちょ、乱暴な事言わないでくだ…あれ?誰だ、あんなところに…」 はっきりと確認できないが、森の奥から金髪の少女らしき誰かが走り出てきた。
草原の中を走るのは、地竜に「御飯ですよ」と言っているようなものである。
どう見ても正気の沙汰とは思えない。
そのあとを追って、森の中から3人の陸(おか)サーファーが現れた。
陸サーファー(注:原語ではそれに対応する異世界語)とは、地表すれすれを
飛翔するサーフボードのような魔道具に乗り、地面に触れることなく移動する
スキルを持つ者のことである。 3人は少女を取り囲むように移動すると、全員で周囲をぐるぐると回りはじめ、少女の
走りを止めた。少女は疲れ果てたように膝をつき、地面に倒れた。
「行って手助けします!」
「おぬし、どっちを助けr」
「女!」
「あー、そう言うと思ったわ。しかし事情も判らんのに首を突っ込むのか?
終日営業の雑貨屋で万引きした女学生を、店員が捕縛したのかもしれん」
「こんな場所に雑貨屋はないです!それに、どんな事情があったとしても
俺は女の子の味方です!」 「おぬし、かっこいい事を言ってるという顔だが、発言内容に問題があるとは思わんか」
「援護頼みます!山田、行きまーす!」
「おいちょっと待たんか」
山田は少女に向かって草原を走り出した。どう見ても正気の沙汰とは思えない。
走ってくる山田を見た陸サーファー達は、一瞬とまどった様子を示したが
すぐに無言でエアギターの構えをとった。
なんと、陸サーファーはエアギタリスト(原語では以下略)でもあったのだ。 エアギターとはこの世界の魔法技術の一つで、体の前で魔法力を練り上げて
超音波の刃を作り出して放ち、相手を殺傷する魔法である。
人間にとっては無音かつ目に見えない攻撃であり、攻撃者の手の動きを見て
すばやく反応するか、魔法力を感知あるいは妨害するスキル・魔道具を使用
する以外に対抗手段は無い。
男達が体をのけぞらせて、激しくエアギターを奏でた。目には見えないが、
山田に向かって無数の音の斬撃が飛んできているはずである。 山田は護身用の魔導刀「洞爺湖」を抜き放ち、エア斬撃を放った。
エア斬撃とは、魔導武器を使って魔法力でできた斬撃を作り出し放つ、無音の
目に見えない攻撃である。それはまるで、ただの素振りであるかのように見える。
世界樹の枝を加工して作られた「洞爺湖」には膨大な魔法力が秘められている。
目には何も見えず感じられもしないが、すさまじいエア斬撃が空中を走った。
エアギターの攻撃はすべて相殺され消滅した。男達は驚きに目を見張った。
「いきなり攻撃してくるとは、貴様らは悪者で確定だな」
むろん山田に確信があったわけではない。たまたま正解だっただけである。 山田は間髪を入れずエア手榴弾を男達に投げつけた。
エア手榴弾とは、魔法力のみで構築された非物質の見えない「爆弾」である。
「爆発の概念」を相手に投げつけ、物理的な効果を発生させることなく爆発したという
結果のみを生じさせる、いわゆる概念魔法の一つである。
男達が新たに放ったエアギターの見えない攻撃と接触し、爆発の概念がまきおこった。
3人のうち2人は爆風の概念によって体のバランスを崩し、空飛ぶサーフボードから
落下した。すかさず山田がエア斬撃でダメージの概念を与え、体の自由を奪う。 残った一人は概念の直撃をまぬがれ、あわてて体勢を立て直そうとしたが
サーフボードの上で大きくよろけた。
初級の浮遊魔法で体を引き上げようとしたらしく、体の重心が不自然に移動した。
あたかも上半身にハーネスがつけられていて、上方からワイヤーアクション
で引っ張ったかのような動きである。服が変にひきつれて、肩のあたりに
過剰な魔法力が放出された時のモアレ状のちらつきが見える。
修正技術が素人レベルであることが一目瞭然である。 山田はその隙を見逃すことなく、奥義「エア真空斬」を放ち、男を空中から
撃ち落とした。エアにして真空であるが、そういう名前の魔法なので気にしたら
負けである。男は頭から落ちて気を失った。
筆舌ではとうてい伝わらぬ、激しい攻防であった。もし映像化されたならば、
視聴者は壮絶な目に見えぬ戦いに、唖然として言葉を失うことであろう。
山田はほっと息をつき、魔導刀を仕舞い、追われていた少女のほうへと近づいた。
少女は地面に倒れ伏したまま、ぐったりして動かない。
息はあるようだが、無事かどうか確かめてみねばならない。 そう思った時、地面がズン、ズンと振動し、山田から一番離れた場所に
倒れていた男の下がいきなり陥没し、サーフボードごと地中に吸い込まれた。
ギギギギギャイーーーンギャリギャリギャリンッ
ドカシッゴボッグガガガガガガボガボ
ガココココココバキバキバキャキャキャ
ガコッガコッガコッガコッグゴゴゴゴゴ
グモッチュイーーンボゴゴゴゴゴ
固いものをミキサーでむりやり粉砕するかのような、嫌な音が響いた。 続いてその隣の男が悲鳴と共に地面に吸い込まれ、再度グモったらしき音が
聞こえた。謎の動詞はググるな危険。
三人目の気絶していた男が目を覚まして頭を振り、はいずるように動いてサーフボードの
上に乗った。そして空中に高く飛びあがった瞬間、地面を突き破って、ぬめぬめした
腐肉色の円柱が飛びだしてきた。そして円柱の先端が大きく漏斗状に広がり、一瞬で男を
サーフボードごと吸い込んだ。ふくれあがった円柱は、もずもずと動きつつ土中
へと戻っていった。地面の中から何かが砕けていく鈍い音がする。 山田は一歩も動けない。地面から、まだ魔物が潜んでいることを示す振動が
伝わってくる。足音をたてれば、その瞬間に殺(や)られる。
諦めて去っていくまで、どれぐらい時間がかかるだろう。
地球時間で1時間か、半日か、それとも1ヶ月か。
あの金髪少女も、目を覚まして動いたなら即アウトである。
「お困りかな、ご領主殿」
「空飛ぶ座布団」に正座した召喚士が、魔法の瓶から熱いお茶をマイ湯呑に注いで
飲みながら、地表近くをすべるように移動してきた。 「お困りです。助けてください」
「だから言ったであろう。困ったのーこの座布団は一人乗りだからのー(棒)」
「俺が経営してる食堂の定食無料券、1ヶ月分」
「うーんどうするかのー。いつものアレも付けてくれれば考えよう」
「え” もしかして人間椅子?」
山田の顔が引きつった。 「嫌ならいいぞ。邪魔したな、ご領主殿」
「あああああ、判りました人間椅子でも足裏舐めでもいいです。
くっ!俺の背中に、こんな貧相な体の小娘の薄い尻を乗せねばならぬとは!
何という屈辱!」
「ふふふふふ、良いのう、その顔。ゾクゾクするのう何か出そうじゃ」
「いいから早くして」
「ふ、気の短い奴だの」 召喚士は指先で空中に術式印を描くと、召喚呪の詠唱を始めた。
「暗く深き地の底に棲みし盲目の獣よ、わが命(めい)に従い、疾(と)く来たりて
汝に与えられし贄(にえ)を屠(ほふ)れ」
草原に光り輝く巨大な魔法陣が出現し、地響きをたてながら魔法陣の中の土が
盛り上がって小山を成した。 魔法陣召喚。地球の西洋魔術にも召喚術はあるが、西洋の場合は術者の周囲に
魔法円結界を手描きし、魔法円の外に対象を召喚する。術者は召喚中に結界外に
一歩も出ることができず、映像的には似て否なる術である。
魔法陣内に魔物を召喚する様式は、初代勇者の故郷において天才大魔道士ミズキ・シゲル
が創始したもので、彼が考案した「魔法陣」という造語と共にこの世界に広まった
ものだと伝えられている。詳細はググってご確認頂きたい。
召喚の地鳴りに驚いたのだろうか、目鼻の無い腐肉色の、巨大な蛇のような魔物が
山田の後ろの地表を突き破り、土砂を撒き散らしながら地上に飛び出してきた。
あの男達を襲った魔物、地竜である。 地竜は山田の事はもう眼中に無い様子で、いや元々眼は無いのだが、肉質の体を
ばるんばるんと左右に蛇行させ大暴れで草原をハゲ散らかしながら、魔法陣と
反対の方向に人間が走るよりも速く移動しはじめた。
そのあとすぐ、どずん、と突き上げるような振動と共に草原が波打った。
直下型地震のような激しい揺れと共に、地竜に向かって地面の下を巨大な何かが
移動していき、地表に地割れが走った。 そして地割れが地竜の真下まで到達すると、大きく地面が陥没した。
地竜は逃れようとして暴れ、激しくのたうちまわったが土煙と共に巨大な
穴の中に崩落していった。
どこかからギュイーギューィィィ…とくぐもった悲鳴のような鳴き声が響く。
断続的に揺れが続いたが、やがて、ばちゅん、と大きな破裂音がした。
しばらくの間、ぐちゃぐちゃと咀嚼するような湿った音が続いていたが、
やがて聞こえなくなった。 召喚士が再び指で空中に呪印を描くと、地面に巨大な送還魔法陣が光り、
草原には静寂が戻った。
「た、助かりました…何ですか今のは」
「地竜の天敵の土竜じゃ。栄養剤ハニーゼリヲンを与えて、わしが育てた。
ヒトを地竜が喰い、その地竜を土竜が喰う。大自然の理(ことわり)よ」
「喰われた連中の蘇生は?」
「某書によれば、消化されてウ○コになってしまうと蘇生できぬらしい」
「そして肥料となり草木を育てる…ああ、彼らは大自然の輪廻に
還ったのですね…」
山田は名も知らぬモブ男達のために黙祷した。 「今の騒ぎで他の地竜共はしばらく近寄らぬだろう。あの連中の仲間が来たら
面倒ゆえ、今のうちに一旦退却しようかの。…それにしても、おぬしはどうやら
厄介なものを拾ったらしいぞ」
金髪少女を見て、召喚士はそう言った。
くすんだ淡緑青色の農作業服。地球人であれば十代前半というところか。
少し古びた奴隷用の首輪がつけられている。 汚れてはいるが、それでも輝くような光沢を失っていない長い金髪。
透けるような白い肌、ほっそりした体に均整な長い手足、人形のような整った顔。
閉じた目にかかる色素の薄い長い睫毛(まつげ)。
そして先の尖った長い耳。
言わずと知れたファンタジーの定番、エルフ族であった。
プライドが高く、対応を間違うと民族間問題が国際紛争で軍事衝突の人達である。
禁じられた事案にいけない興味を持つと逮捕されてしまう、危険が危ない種族である。
洋炉?その単語は何のことかよく判らない。 ともあれ『少女』は領館の療術室に運ばれ、美人錬金術師が鑑定魔法で容体を識別した。
療術は専門外なのだが、とりあえず一次救急、状態確認である。
「で、この子の状態は?」
「栄養状態が良くない以外には問題なさそう。あ、それと識別結果だと『女の子』
じゃないわよ。こういう外見だけど、ヤマダより年が」
「ああああ、それ以上言わないで!いいの女の子で!
見た目が女の子なら女の子!女の子って事にしておいて!
事件のヒロインは可憐な少女でないと話が盛り上がらないから!」
「…まあ、ヤマダがそう言うならそれでもいいけど、何なのその拘りは」 「ウゥ…」
「お、目を覚ましたか。あー、ごほん。ご気分は悪くございませんか?」
「தภา¥ษา!$ไทยமி яę*ы@к^ëழ்#!!!!」
「おぅ、全力で警戒している!汚物を見るような冷たい目!
鈴をころがすようなかわいい声だけど、意味が判らない!」
「エルフ語よ。種族依存言語だから、翻訳スキルが無いヤマダには
言語化けして聞こえてると思う」 「何と言っているんだ?」
「うーん、俗語表現なので、うまく翻訳するのは難しいのだけれど…」
「おおまかな意味だけ判れば」
「“私に接触したとき、性欲の抑制が不自由な進化の途上にある野生哺乳類には
実力が行使され、男性生殖器が強制的に躯体から分離されるでしょう”」
「なんか、すっごく可憐でない発言らしい事は理解した」 「いや、言葉は判らなくても、きっと通じ合える…コワクナイヨー。
ワタ−シ、アナータ、トモダーチ。えーと、汎種族語…
キエテ・コシ・キレキレテ」
「君ノ汎種族語ハ、判リニクイ」
「おぅっふ!、王国語が話せるのか!それなら最初から言って!」
「大丈夫ですよ。ここにおられるのは山田領のご領主様と、お若いけれどとても偉い
召喚士様。この方々が、エルフ様を悪い人達から助けたのです」
「助ケタ…?アナタ達、悪イ人間、違ウ?」
「そうです。ですから安心してください」
エルフは少し表情をゆるめたが、あらためて山田と召喚士を見て複雑な顔になった。 「…領主様、背中ニ、召喚士様、座ッテイル。何故?」
「あー…え〜〜と、これはですね、特別な事情があると申しますか、う〜〜んまあその…
エルフ様をお助けする時に、ご領主様が背中に特殊な魔法攻撃をうけてしまって
召喚士様がその治療をなさっておられるのです(嘘)」
「ソ、ソウナノカ…倒錯行為、勘違イ。怪我、私ノセイ、スマナイ」
勘違いではないが話を進めよう。
「私は山田領勤めの錬金術師、ファナと申します。エルフ様のお名前は?
お嫌でしたら無理には伺いませんが」
「…ミライア・カリ。森えるふ族。花守リ(はなもり)ノ一族」 「なななな、花守り?あの伝説の?それじゃエルフの里の花の話をですね」
「ごめんヤマダ、その話は後で、ね?」
「う、確かにそういう場合では…おおっと、すまぬが錬金術師殿、今は人前というか
エルフ前であるがゆえ、ほれその、お判りであるな?」
「あ、ごめ…げふん、失礼いたしましたご領主様」
召喚士が、何やってるんだ、という顔でため息をついた。
「おぬしら、あいかわらずどっちが領主でどっちが家臣だか、よく判らん感じだのう」 セイジュンとかいう極悪プラントブローカーが出てこないかな 「それはその、錬金術師殿は俺、じゃなくてわたくしがこの国に来た時、スライムに捕食
されかけてボロボロになっていたところを助けてくれた、命の恩人でありますゆえ」
「当初は私のほうが身分が上で、ご領主様はただの居候で、その関係の名残というか」
召喚士は苦笑しながら、二人の顔を見比べた。
「考えてみれば餓死寸前で拾われた、身元不明の怪しい男がずいぶん出世したものだの。
まあその話はどうでもいいが、ご領主殿、錬金術師殿の邪魔をするでない。
しばらく黙って床の皿から水を飲んでおれ。わしが良しと言うまで、そのまま
背中でわしを支えていろ。おぬしの出番はもう少し後だ」
「く〜〜ん(泣)」
「アナタ達ノ身分関係、全然判ラナイ。ケレド、ナントナク、力関係、判ッタ」
この人達の関係は考えてもよく判らない。考えるのではない、感じるのだ。 「?…首輪ガ無イ…」
「ああ、『隷属の首輪』ですね。邪魔そうだったので外しました」
エルフは驚いた顔で目を丸くする。
「外シタ?ソレ、無理ニ外ス、死ンデシマウ。
死ンダ時、蘇生デキナクスル、呪イノ首輪」
「管理者権限の術式を書き換えて、普通に外せるようにしました」
錬金術師がにっこりと微笑む。
「??? 術式、暗号化。多重防護、改変デキナイ」
「最新の量子術式でもないですし、術式の脆弱性を突けば普通に上書き
できます」
「イヤ、ソノ理屈ハ、オカシイ」
エルフは混乱している。 「外シタ首輪、ドコ? アノ首輪、固有魔力、発信スル。
私ノ位置情報、アイツラ判ル。キット今日ノ夜ニモ、連レ戻シ、来ル」
「はい、そうではないかと思い、首輪だけ別の場所に移しておきました。
いつ来ても心配はありません。むしろ来い? うふふふふふ」
「何ソレ怖イ」
「それよりも、あいつらとは誰です?さしつかえなければ、何があったのか
最初から教えていただけませんか?」
エルフは錬金術師から時々さしはさまれる質問に答えつつ、自分の事や、
これまでに何があったのか、知っている事を語り始めた。 花守り。森エルフ族が過去に品種改良によって作り出した栽培植物を保全育成
している、特定家系エルフの世襲職である。
魔タタビも、花守りが管理対象としているエルフの秘木の一つである。
門外不出とされてはいたが、長い年月のうちには何本かの魔タタビが、エルフの
里から外に持ち出されていた。ほとんどの場合、植物園や大貴族の庭園で厳重な
監視の下に栽培されていたが、そこからさらに枝が盗みだされ、挿し木などで増殖
されて闇市場に出回ることがあった。しかしそれらが結実したことは一度もないと
言われ、そのため今までは大きな事件に発展した事はなかった。 ところが、その魔タタビを闇ルートで買い集め、魔タタビ農園を作り上げた男がいた。
陸(おか)海賊の頭目、賞金首のニシューハ・タシェジューンである。
陸にいたら海賊ではなく陸賊、あるいは山賊か盗賊ではないのか?と思われる
かもしれないが、この世界ではそういう呼び名なのである。宇宙にいても宙賊ではなく
宇宙海賊である。魚で言えばトゲナシトゲウナギ。ちょっと違うか。
世界一のトレジャーハンターを自称し、「炎上のニシューハ」という二つ名を持つ
この頭目は、世界各国で数多くの略奪を繰り返している悪名高い人物である。
念のため申し上げておくが、これは異世界の物語であって地球に存在する人物・
団体等とは無関係である。 彼はもともと古い陸海賊の家系であったが、ある日、大頭目である父親と意見が
対立して大喧嘩となった。そして配下の一部を引き連れて実家を飛び出し、新たな
陸海賊団を結成した。その後、あちこちの都市を襲って炎上させ、何をしでかすか
わからぬ男として恐怖と共に語られる存在となっていた。やがて、ある野望の達成
にむけて遠大な計画を練り上げ、それまでに蓄財した資金を使って、闇に隠れながら
行動を進めていた。
繰り返し申し上げるが、地球のどこかに似たような経歴の人物がいたとしても偶然の
一致である。そしてこの頭目はここから当エピソードのラスボスとして醸成されていく、
完全なるオリジナル設定のキャラである。 って、さらっとネタバレ来たコレである。
地球の人の話なんかしてる場合じゃねえのである。 頭目の野望ロードマップ第一段階、それが魔タタビの大量生産であった。
量産化に成功した暁には、頭目は真の目的に向けて行動を開始する予定だった。
その目的とは猫獣人の里を急襲し、魔タタビの洗脳効果によって住人すべてを支配する
電撃的侵略計画である。反抗する雄獣人は皆殺しにし、すべての猫女子を魔タタビに
よって従順な奴隷と化し、思う存分モフり放題、やわっこいお腹に顔をうずめて
猫吸い放題やりたい放題の猫まみれ王国を築く。それが頭目の野望だったのである。
冬のお布団の中で猫ハーレム開催は全世界の男の夢、モフモフ王に俺はなる!
そういう願望を抱くのは一部の人だけですかそうですか。 こうして誰も近寄らぬ「不可避の大草原」の中央にある森に魔タタビの苗が集められ、
配下の者達のブラックな農業研修生活、もとい地上の星になることを目指した挑戦者たちの
新しい農業プロジェクトが始まった。ガイアの夜が明け、下町の町工場がロケット開発を
試みるよりも困難な異業種への参入である。
当然ながら新規就農は順調にはいかなかったが、試行錯誤の末に魔タタビの苗が
どうにか育てられるようになった。ついに開花もしたが、まったく結実しない。
戦いと略奪のみに生きてきた彼らは栽培に関しては素人であり、人工交配という
言葉すら知らなかった。 というか、むしろ素人なのに育てあげてしまったことのほうが驚きである。
頭目の壮大な夢に向けた尽きぬ情熱と、脅迫もとい心情に応えた配下達の命がけの
努力があったからこそ成しとげられた事である。
だが、そこから先に進むにはどうしたら良いか、彼らには判らなかった。
しかし頭目は、そうなることは最初から織り込み済みであった。
自分にできない事は他人にやらせれば良い。自分でやろうと思うのが間違いであると。
面倒な事は誰かに丸投げし、成果と利益は自分が総取り。強き者にはその権利がある。
自分に媚びて従う者は利用して絞りつくし、従わぬ者は容赦なくこの世から消す。
それが頭目の考え方であった。 大樹ユグドラシルが魔科学兵器で枯れそうとな世界に転生した園芸民ダオス >>302
(予告編)
大樹ユグドラシル。世界樹の名で知られるエルフの聖なる木。その神木を切り倒し、
冒険者用のバングルに加工して売りさばく邪悪な企み。首謀者ニシューハが操る
古代ワトランティス文明の魔科学兵器「発掘陸戦艦」がエルフの里に迫る。
花守りミライアを助けるため、山田は神にも悪魔にもなれる黒鉄の城の封印を解く。
次回「世界一の巨木」
アナザーストーリーはこれ以上続かない。
>>303
ww 魔タタビは、エルフの里の花守りが、特別な方法で世話した時にのみ結実すると
言われていた。その手法は花守りの一族にのみ口伝で伝えられており、森エルフで
あっても花守り以外は詳細を知らないという。
ならば、花守りを誘拐してきて魔タタビの世話をさせれば実が成る。頭目はそう考えた。
ものすごく短絡的な思考であるが、あながち間違いとも言えない。短絡的でも実行して
みたら結果的に正解、という事もあろう。だが今回は「実行」の部分に難があった。
そもそも陸海賊達のように犯罪歴のある者は、エルフの里への入里許可が出ない。
仮に里に入り込めたとしても花守りの居場所は非公開で、どこに行けば会えるのか
情報が皆無である。 さらに結界の通行門を通って里を出る時にも、厳重な出里審査と所持品検査がある。
常識的に考えて誘拐などできるはずが無いのだが、頭目達にとって偶然と幸運が重なった。
それは山田領が所属する王国領邦で、昨年度に55年ぶりに開催された万国博覧会の時
であった。その際に森エルフの出展パビリオンに魔導植物が展示され、エルフの花守りが
解説係として駐留したのである。
頭目は、その千載一遇の機会を逃さなかった。 万博開催中のその日、王国の北方海上でタラ魔蟹の密討伐をしていた冒険者の
一団は、海域に異常な魔力の乱れを察知した。
雲一つ無い青空に白い雲の渦が生まれ、徐々に大きくなり、やがてそれは
黒雲渦巻く空の大穴と化した。
その中から雲の尾を引きながら、ゆっくりと沈むように降りてくる巨大な
卵型の塊。表面に血管のような筋が走っている。
全体が姿を現すと魔法力でそのまま空中に留まり、やがてその輪郭が
もぞり、と動いた。人工物ではない。何か大型の生き物だ。 塊の上端がほどけ、蛇のような無毛の首が持ちあがって眼が開いた。
血のように赤い虹彩に、縦長の瞳孔。鋭角に尖った口に並ぶ、サメのような鋭い歯。
頭頂部は平坦で、後方に向かって耳にも角のようにも見える突起が突き出た
矢尻型の頭。
魔物は丸めていた体と尾を伸ばすと、準備運動のように鉤爪のある下肢を
軽く動かした。そしてゆるゆると、コウモリに似た指骨のある膜質の両翼を大きく広げた。
龍種。「人喰い」と呼ばれる凶悪な大型魔獣、飛龍(ワイバーン)である。 大騒ぎになった船上の冒険者達には目もくれず、飛龍は翼に風魔法を込め、
飛翔体勢に移った。そして瞬時に目にもとまらぬ速さで飛び始め、一瞬だけ
水蒸気の円錐を纏ったのが見えたあと視界から消え去った。
爆発的な衝撃音が冒険者達のところに届き、彼らは鼓膜を破られて転倒した。
これが事件の始まりだった。 「北方海上に転移門反応。所属不明の飛翔体が領空内に侵入。
魔力識別…ワイバーン!!王都方面に南下中」
「転移だと!!そんな大呪文、無許可で誰が使ったんだ! 戦争でも始めるつもりか!!
しかもワイバーンだと!勇者案件じゃないか!!!」
「高度32000、速度720、なお南下中。要撃飛翔士、上がりました。
百里204騎士団よりウィザード03、ミサワ303聖教会からプリースト21。
ウィザード03管制下に入ります。会敵予想時刻2の刻04」 「目標の進路は」
「なおも南下中。大森林上空を通過…万博会場に向かっています!」
「勇者様に緊急連絡、最優先だ。王宮への報告は後でいい。イルマ地区の第一高射
魔砲群に発令、ただちに迎撃態勢。極大魔法および追尾式噴進弾の使用を許可する。
会場に到達させるな。墜とせなくてかまわん。
勇者様が来るまで持たせろ。何としてもだ」 だが要撃の飛翔士達は飛龍の進行を止められなかった。大空を自らの領域とする魔物は
空を飛ぶのがやっとのヒト族など、遊び相手としか思っていないようだった。
飛龍が雲を切り裂き、天空を駆ける。
高速水平飛行から上方に90度垂直旋回、空中停止して木の葉落とし。瞬時に
再加速して追尾式魔法弾を回避しつつヴァーティカルローリングシザーズ。
かと思えば瞬間停止と瞬間加速で残像分身を残しつつ真横に滑って左捻り込み、
飛翔士に向かって神速の牙突。相打ち狙いの大呪文を察知すると即時に上方宙返りに
転換し後方かかえ込み2回転2/3ひねり、高速ハイドロブレーディングで回避軌道を
華麗にフィニッシュ。 空力魔法、重力魔法、慣性魔法を駆使し、物理法則を無視した動きで空間を自在に
舞う変態軌道(エキゾチック・マニューバ)。
見る者に息をもつかせぬ空中サーカスである。
飛龍には地球の鳥類の気嚢のような呼吸システムがあるので、空気の薄い高々度でも
活動が可能である。一方でヒトは高度が上がれば酸素錬成が必要になり、それだけで
激しく魔力を消費する。さらに空気抵抗の多い人間の体を飛翔させつつ魔法戦を行う
のである。上位の飛翔士であっても短時間で魔力切れになり、次々に戦闘から脱落
していった。 空に残った飛龍は飛翔士達を誂(からか)うように、長く尾を引く飛龍雲で青き大空に
ラブサインを描く。
飛翔士達との「遊び」を終えた飛龍はそのまま南下。高々度を飛行する飛龍には
地上からの高射魔法が到達せず、王国自慢の追尾式噴進弾も飛龍の龍息(ブレス)
により一撃で破壊された。絶対防衛線を突破した飛龍は、万博会場上空に達すると
急降下して会場を強襲した。
とはいえ王国も無策では無い。こういう世界であるから、こんなこともあろうかと予想
していた工作班長の指示によって、万博会場は強固な防御障壁に包まれていた。 前回の万博時と同じように、空飛ぶ大亀怪獣を倒す大魔獣が襲来しようが、
光の巨人と互角に戦う古代怪獣が近在で城を破壊しようが、万博に影響はない。
安全安心、鉄壁を超えたオリハルコン壁の防護体制である。
が、来場者のほうは安全と言われても安心ではなかった。
轟音を立てて障壁に体当たりし、紫電色の干渉波を散らす巨大な龍種を見て
大パニックが発生した。
来場者達は血相を変えて逃げ惑い、係員の誘導など聞きはしない。それ以前に
係員も警備の騎士団も一目散に逃げ出した。
まあ怖がるなというほうが無理がある。戦っても勝てる可能性は1ミリも無く、
もし喰われればその末路は○ンコである。 障壁内には何の影響も無かったにもかかわらず、逃げる者同士で突き飛ばしあい、
転倒した者が踏みつけられ、死者こそ出なかったものの大勢の負傷者が発生した。
まもなく勇者の一行が到着すると、飛龍は間髪を入れず全速力で索敵不能空域
へと飛び去り行方をくらました。この事件の詳細は関係者に箝口令が出され、
王国民には勇者が野生のはぐれ飛龍を撃退したと報道された。防衛責任者の
騎士団長が更迭され、第二席の女騎士が昇格して表向きには「事象」は収束した。
事件を事象と呼んで問題はおきていないことにする。王国官僚の得意技である。 このパニックの最中に、一人の森エルフの花守りが行方不明になっていた。しかし
それについては民族間紛争を避けたい王国官僚と、管理責任を問われたくない
森エルフ現場長によって、里の外の世界に触れたエルフが「家出」をした
という報告書が作成され、行方不明の件は揉み消された。
実はこの事件をおこした飛龍は、陸海賊頭目が転移呪文を使って送り込んだ、彼の使役獣
であった。派手な万博襲撃はただの搖動であり、真相に気づかせぬための目くらましに
すぎなかった。騒ぎの最中に、陸海賊の手の者が花守りのエルフを誘拐する事が、
真の目的だったのである。 誘拐された花守り、ミライアには反抗や逃亡ができぬよう隷属の首輪が嵌められ、
大草原の中央の森で魔タタビ栽培に従事させられる事になった。
そして万が一、勇者案件となった場合にも単純な、もとい純粋な心をお持ちの勇者様に
ご説明すれば納得していただけるように「奴隷ではなく、外国人の農業技能実習生である」
という形式が整えられた。そして労働に対して報酬も支払われたのである。
とはいえ、それは実質的には報酬と呼べるものではなかった。
周知のように近年は、通常の契約奴隷・派遣奴隷に対しての報酬は個人所有魔石
への魔力振込みという形式がとられる事が多い。しかし今回の場合、報酬として
与えられたのは頭目が作って「ペリーカ」と名付けた、紙製の商品引換券であった。 この券は農場内において実際に商品と交換できたが、実態はただの紙切れである。
しかも支払われた報酬から実習費・施設利用費・食費・光熱魔力費などが差し引かれ
実際に手にするのは全報酬の1割以下であった。ちなみにこのような報酬様式は
地球においても各国に現実に存在しているもので、日本でも古くは江戸時代の「鉱山札」、
現在も一部のブラックな職場で形を変えて引き継がれている搾取方法である。
食事は支給されたが、食材の多くが昆虫や土壌生物で、エルフ族の口に合う食物は少なかった。
手元のペリーカは全額を穀物や芋類と交換したが、満足できるような質・量にはならなかった。
やむなく花守りは森の中で食べられる植物を採捕したり、農地の隅で自分用に食用作物を
育成せざるをえなかった。 農場ですべき仕事は実質的に魔タタビの交配作業しかなかったので、監視付きでは
あったものの、森の中であればほとんど自由に行動できた。その自由時間を花守りは食料にする
野生植物との戦闘や解体・剥ぎ取り、作物類の放牧・調教のために使うことにした。
その結果、夜以外に寝ている余裕は無くなり、起きている時間の4分の1以上を労働に
費やす事もあった。望まぬ仕事をしなくても良い日は4日に1日あれば良いほうだった。
自発的であったとはいえ、エルフ基準では奴隷以外の者がこのような労働をする事は
考えられなかった。労働が深刻な健康被害をもたらす行為であることは、誰もが
知っている明白な事実だったからだ。 趣味や娯楽から逸脱した就労は緩慢な自殺と同義であり、知性のある種族がする行為
では無いと見なされていた。現実には奴隷落ちしている者も存在してはいたが、それは
犯罪奴隷や債務奴隷、美形貴族の家畜人に志願した者など、例外的な事例に限られていた。
花守りの農場生活は、エルフの里であれば労働基準監督士に訴えられてエルフ権問題になる
ほどの過重労働であった。しかし生きるためには仕事を続けねばならなかった。精神的にも
肉体的にも過酷きわまりない、非エルフ道的な労務が続けられた。
やがて農場で魔タタビの花が咲きはじめ、花守りは交配作業を強要された。
大量の魔タタビが結実すれば頭目は最終目的にむけて行動を開始し、大勢の
獣人達が命を落とすだろう。 しかし、もし結実しなければ、エルフの里に飛龍がさしむけられて花守りの家族が
襲われることになると通告されていた。
やむなく花守りは数果実だけを結実させ、気候の違いがあるため、それを把握する
のに時間がかかると説明した。頭目は納得していない様子ではあったが、それでも
初めて手にした魔薬の実に上機嫌で「こいつの効力を試す」と言って、どこかへ
果実を持っていった。
猫メイドカフェに魔タタビを持ち込んだのが何者であったか定かではないが、
頭目が猫美少女をモフれる機会を誰かに譲る理由は無い。 猫娘に魔タタビの実を渡して放置プレイをされた残念な男が誰であったかは、想像するに
難くない。どうも策士が策に溺れたという印象である。
実を渡した花守りは悩んだ。今回はこれで誤魔化したが、この次は魔タタビを量産
しなければ許されないだろう。かと言って量産したならば、その時にはーー
悩んだ末に花守りは農場から逃げ出した。そして森の外へと走った。
草原で自分は地竜に襲われるに違いない。だが自分がこの世から消えれば、
問題はすべて解決する。花守りはそう思ったのだ。 「…デモ、ヤツラニ、見ツケラレタ。ソレ、私、領主様ニ、助ケラレタ」
「だいたい判った。つまりその頭目をやっつければ問題は解決するんだな?」
「無理。頭目、飛龍、使ウ。飛龍、倒セル、勇者様ダケ。領主様、勇者違ウ」
「うーん、ご領主様には荷が重いかもしれませんね。勇者様に依頼するのは個人では
難しいですし…召喚士様なら倒せますか?」
「ふむ、飛龍とはなかなか大物だの。わしの手持ちの最強級召喚獣でも
単独召喚だと無傷で倒すのは難しいな」
「無傷でなければ倒せると。というか、単独ではなく複数召喚も可能なのですか?」 「最強級だと3匹ぐらいが限度かの。魔力補充すれば魔獣総進撃もできぬ事はないが」
そう言って召喚士はメイドのミヤゲが持ってきた熱いコーヒー的な飲み物をすすり、
召喚士以外の全員の顔がちょっと引きつった。
余談であるが、この異世界コーヒーは山田領に出入りしているジャコウネコ獣人の
エキゾチックで色っぽい綺麗なお姉さんが、秘伝の製法で加工した豆を使用している。
地球で最高価格のコーヒー、麝香猫珈琲(コピ・ルアク)に相当するもので、
貴族しか飲めぬ高級品である。あ、そこの君、製法に興味を持たないように。
「ちょっと待って。ここはこの山田がですね、一肌ぬいで悪者を倒す流れで」
「は?ヤマ…ご領主様が?その意気込みは評価しますけれど」 「むろん俺にはできん!だが俺にはできなくても、お前なら必ず何とかする!
俺の事は信じなくてもいい!お前はお前を信じるんだ!俺が信じるお前を信じろ!」
「…意味が良く判りませんが、なんとかしてくれと言うのは伝わりました」
やれやれ、またか、という表情で錬金術師は立ち上がった。そしてエルフにゆっくり
休んでくださいね、私は今から準備がありますので、と言って部屋から退出していった。
そのあと山田の背中から降りた召喚士に、良し、と言われた山田が腰を
さすりながら立ち上がった。あとでメイドに身の回りの世話をさせます、
あなたは私が助けますから心配しないでください、と告げてエルフに会釈的な
挨拶をし、つまづいて盛大にコケたあと、あわてて錬金術師の後を追っていった。 残されたエルフは、状況がよく飲み込めないという顔で固まっていた。
「ドウシテ、私、助ケル?助ケテモ、私、えるふノ秘密、アナタ方ニ、教エナイ。
アナタ達、戦ウ、無益、意味ガ無イ」
「いや山田殿は、助けた代償に秘密を教えてもらおうとは思っておらんだろう。
くだらない、意味がない、そういうモノやコトほど面白い、とても良い。
あやつはそういう考えで動いておる奴だからの。損得や名誉を勘定に入れて
おらぬのは、この国の貴族としては異端すぎる」
召喚士は山田が立ち去ったほうを見ながら、独り言を言うかのようにつぶやいた。 「それとな…あやつは自分の領地に来た者は、笑顔にして国に帰そうと努めている。
花守り殿だけではない、泣いている者を見た時には全力で助けようとする。
そういう時、あやつは自分では気付いておらぬようだが、見ていてとても苦しそうな
顔をするのだ。気の毒だから助けたいというよりは、助けなければ自分が救われぬ、
という感じでな…何というのか、まるで過去の贖罪でも求めているかのように見える」
「ショクザイ?…悪イ事ヲシタ、罪滅ボシ?」
「いや、そんな風に見えてしまう、というだけだがな。実際のところは、あやつが昔の事を
あまり語りたがらぬのでよく判らん。まあ理由はともあれ、益の無い事を領主自身がやるのは、
二重にくだらないし意味が無い。だからこそ、それはあやつにとって二重に面白い事なのだろう。
花守り殿にはご迷惑だろうが、あやつの道楽に付き合ってやってくれんか」 「…人間ノ思考、理解デキナイ」
「いや、あやつが変なだけだぞ?わしもあの阿呆の事をいまだに理解できん」
そう言って召喚士は面白そうにクスクスと笑い、肩をすくめた。
夕刻、山田領領館内の応接室。
遠方の光景が見られる「魔法の鏡」が多数運び込まれ、各種の魔道具を設置した
応接室は今までとは似ても似つかぬ内装となっていた。実写映画であれば
HGP明朝Eフォントで「山田領領館内 作戦本部司令室」とテロップが入りそうな
雰囲気である。
「『隷属の首輪』は新魔道具・射爆実験場の実験用家屋に運びこみました。
あそこに陸海賊の一味を引き寄せ、戦って殲滅します。
その状況はこの部屋で、有線で確認できます」 「有線トハ?」
「水晶を錬成した細い糸を使って、光学魔法を遠くから引いてくる技術です。
雷撃魔法を銅線で誘導するようなものですね。
音声も有線ならば、魔素の影響無しに双方向で届けられます。
現場のヤマダさ〜〜ん、聞こえますか〜〜?」
魔法の鏡に山田の姿が映った。
「はいこちら山田。有線会話機の感度良好。索敵魔法に反応があれば指示を頼む。
実験家屋内での戦闘待機を続ける」 「了解。第一魔鏡、幻像良好。第二魔鏡以下、順次有線接続。各地点からの暗視幻像を投影。
エンガワさん、実験場の錬金街灯の光量調整は?いえ標準なら問題無いです。
襲撃時には全音声端末を双方向通話で作動してください。領域魔法用の魔力蓄積量、
9割5分まで上昇を確認、魔力圧異常なし。第一から第三魔法術式を同期、積層展開。
無詠唱即時発動の術前励起、構築完了。ご領主様はそのまま屋内で待機。緊急時には
床下の防魔壕に退避できるよう準備していてください。こちらで広域索敵を続けます」
「了解した。頼りにしてるぞ」
錬金術師は、ふう、とため息をつくと、両目をとじて指でもみほぐした。
「お疲れかの。…錬金術師殿もいかがかな?」
召喚士が、名状しがたい奇怪な物体が乗った皿を錬金術師に手渡した。 緑色の斑点がある、くすんだ紫色のいびつな球体が皿の上に並べられ、周囲に
熱せられた蒸気が渦巻いていた。禍々しいあばた状の表面にはわずかに焦げ目があり、
内部から正体不明の小さな触手がはみ出している。上面が血糊のような赤黒い
ドロリとした汁に濡れ、膿汁のような黄白色の粘液が筋状にかかっている。
生命反応は感知できないが、表面に付着した鱗片がうねうねと動いている。
動く屍(アンデッド)の一種だろうか。錬金術師はそう思った。
「…何ですかこれ」 「山田殿の故郷の食べ物で、タコヤキと言うそうじゃ。色は多少違うらしいが
味に関しては完璧に再現したと言っておったぞ…おおぅ、熱ひ、はふはふはふ、
表面はカリっとひて中ゎトロっと、見はへはちょっとアレひゃがはふはふ、
ほぅ熱ひ、これふぁ美味ひぞ。ほふふほ。
収納魔法を使うと、いつでもアツアツで食べられるのが嬉しいの」
「…ありがとうございます。でも今はちょっと食欲が無くて」
「心配かの?」
「え?いえ、それほど心配という訳ではありません。私とご領主様は契約上の
雇用主と被雇用者というだけで、個人的に心配してさしあげるような間柄でもありませんし」 「誰も山田殿の事だとは言っておらんぞ」
「!」
「まあいざとなったらわしが出るから安心せい。花守り殿も何か召し上がるかの?
甘い物がよいかな。これはタルトという菓子だそうだが」
召喚士はタコヤキの皿を収納し、別の食べ物を取り出した。
「良イ香リ」
「見たことのないお菓子ですね。丸くて、模様がかわいいです」
「穀物粉と卵で作ったフワフワの焼き菓子に、果物で香りをつけた紫豆の裏ごしを
塗って巻いたものらしい。あやつの故郷には人々に祝福を与えるタ○ト人という
ゆるい感じの魔物がおって、そやつの顔に似せて作った菓子だそうじゃ」 「コレ美味イ…イヤ、食ベテル場合、違ウ。大丈夫ナノカ」
「まあ相手の戦力にもよるが。一味の人数は何人かの」
「人間ノ配下、3人ダケダッタ」
「はあ?3人?…ということは、もう手下は全滅しているのか?」
「人間、只ノ使イ走リ。戦力、別ニイル」
「飛龍のことかの?」
エルフが何か言いかけた時、錬金術師が動いた。 「来ました!隠蔽魔法を使っていますけど、その程度の魔術では隠せませんよ…っと」
「この反応は…アンデッド系列の魔物かの」
「動きから見て陸上歩行性の中型種ですね。数は13体」
「飛龍以外にも手駒がいたようだの。あー山田殿、聞こえるか、どうやら出番らしいぞ」
「了解!むはははは、ヘタレと呼ばれ続けた俺がついに勇者となる時が来た!」
「ご領主様、装備している錬金武装の起動詠唱は覚えましたか?」
「あ」
錬金術師は、あーやっぱりね、という顔で話を続けた。 「両足をふんばって、右手を開いて頭の上に上げたあと起動呪を詠唱しつつ
握った両手を胸の前で交差させ、腕に力を込めながら勢いよく左右に広げてください。
起動呪は、
『蒸気立ち上る山田温泉の源泉噴出孔より来たりし地熱よこの場に集いて顕現し
荒れ狂う熱湯の力をわが身を覆う無敵の鎧に変え熱き勇気と共に今ここに装着』
唱え終わった瞬間に、魔法の鎧が錬成されてご領主様の全身を覆います」
「長ぇよ!覚えきれないだろ!覚えてても唱えてるうちに攻撃されて死ぬ!」
「そう仰ると思って、9割8分の能力になりますが短縮詠唱でも起動するように
設定しておきました。最初と最後の一文字だけ詠唱すれば大丈夫です」
「お、おお流石(さすが)だ。えーと、最初と最後の一文字というと…」 山田は起動動作をしつつ短縮詠唱を唱えた。山田の体の周りに光り輝く粒子が集まり、
白銀の全身鎧となって具現化した。その所要時間は、地球時間にしてわずか
0,05秒にすぎない。
「山田領の平和は俺が守る! 魔法の騎士・俺、参上!」
ビシっとポーズを決める。
かっこいいデザインの鎧であるが、中にいる山田の体型が反映されている。 続けて山田は魔法武器を起動した。こちらには特定の起動呪は無く、使用者の
イメージによって剣の他、戦斧や槍などさまざまな形の武器に変化する。
山田は光の剣っぽい名前を唱え、そのイメージで武器の形を具現化した。
剣の名前に合わせてアクションポーズもつけてみたが、特に必要ではない。
この鎧を装着している時には、そうしなければいけない気がしただけである。
ヴン、という起動音と共に、持っていた柄から光でできている剣が出現した。
ちなみに実際の起動は無音であり、音をたてて剣が出現するのはデジカメの
シャッター音と同様に単なる演出である。 「さあ来るがいい魔物共。光の剣の錆にしてくれるわ」
光の剣はサビないのだが、話を先に進めよう。
周囲の林の中から二本足で歩く魔物が1体、2体と現れはじめた。
暗闇の中、魔物達はゆっくりと実験家屋を囲むように集まってくる。
魔法鎧の暗視モードを使い、窓から魔物の姿をそっと見た山田は息を飲んだ。
「なんだあれは…」
魔物として見るのは初めてだったが、その姿形は山田が良く知っているものだった。 領館でも、監視していた召喚士と錬金術師が魔物の姿を視認した。
「動く鎧(リビングアーマー)でしょうか?」
「いや、少し違うな。見たことがない種類だの」
装着者がいない虚ろな鎧が動いて襲ってくる魔物、リビングアーマー。
今、彼らが見ているのはこれまでに出現記録の無い、その上位種だった。
その名は「動く強化外骨格(リビングパワードスーツ)」である。 強化外骨格。それは最新の錬金技術により作られた、人体の筋力を数倍に増幅する
作業用の甲冑である。農作業時の足腰の負担を軽減し、高齢農夫や非力な農業婦人
でも重い収穫物を楽々と運搬できるようにする、農家の力強い味方である。
魔力の乏しい農民が、襲い来る獰猛な巨大害虫と闘うための刃(やいば)である。
そのアシストスーツが、装着者のいない虚ろな状態で動き、魔力によって歩いていた。
言うまでもない事だが、あえて言おう。中の人などいない。
人間が装着していて動くのがやっとの重い鎧でも、魔物と化した時には
普通に動き回る。それが今回は、人間の筋力よりはるかに強い力をもった錬金装備が
魔物と化しているのである。その動き、力はいかなるものだろうか。 今回の強化外骨格には非常に単純なものではあったが、人工知能的な術式も
付与されていた。そのため魔物と化した「彼ら」は依然として心を持たぬ「モノ」に
留まってはいたが、自発的に「声」を発する存在となっていた。
「カクゴカンリョウ」
「インガオホー」
「チェスト、セキガハラ」
「アッハイ、ゴウランガ」
意味不明の単語を濁った「声」で抑揚無く発しながら、「彼ら」はゴトリ、ゴトリと
動いて実験用家屋を囲んでいく。使役している者は例の頭目なのか?
家屋の中に目的のエルフがいる、と騙されてくれているだろうか。 1体の強化外骨格が、侵入防止結界を破壊して家屋の前に歩み寄った。
魔物は鍵の部分に手をねじこんでむりやり壊すと、戸口を開けた。
その時、奥のほうから銀色の風となった山田が走り寄り、剣をふるった。
一閃。
光の剣が強化外骨格の肩口に振り下ろされた。
シュババッ!!と火花が散って強化外骨格の肩が若干焦げ、魔物は首をかしげた。
「切れないぞ!!」山田が近くにあった電話機っぽい端末に向かって叫ぶ。
「ご領主様の魔力量だと瞬間切断は無理です。長時間当てていれば切れます」
「つっ…使えねえぇぇ」 その時、周囲にいた強化外骨格達の動きが瞬時に変化した。
今の「彼ら」はヒトの動きに追従するだけの、安全装置のかかった錬金道具では
なかった。自らの最大出力、最高速度を瞬間的に発揮し、獣のように走り、
襲いかかってきた。それはもはや錬金された獣、錬金獣とでも呼ぶべき存在であった。
「彼ら」はそれぞれが異なる武器を所有していた。それらをしっかりと「装備」すると、
躊躇なく非人間的な動きで、一斉に山田を攻撃してきた。 ある者は草刈り鎌(かま)を握り、ある者は鍬(くわ)を持ち、またある者は
高枝切り鋏(はさみ)、細目鋸(のこぎり)に枝打ち鉈(なた)に農業用フォーク、
レーキにシャベルに大熊手。13種類の武器が次々に山田を襲った。山田は光の剣を
振り回すが、実体の無い剣は魔物の武器をすり抜けてしまい防御効果が上がらない。
格好つけて光の剣など出さずに、釘バットでも具現化していれば良かったのだ山田。
山田は攻撃を素早く回避、するつもりだったが、残念ながら中の人は武道の心得も
無い単なる素人である。行動に今ひとつ切れが欠けている。強化外骨格の動物的な動きに
追随できず、しだいに数の力に押されていく。囲まれた山田はついに攻撃を避け
きれなくなった。殺到する魔物達の武器が、山田の体にバッキバキに命中していく。 だが魔法鎧には傷一つつかない!
「おお!さすが魔法の鎧だ、何ともないぜ!」
「まあ相手の武器も普通の農具ですから」
「とはいえ、こっちの武器も通用しないぞ。どうすればいい?」
「う〜〜ん、殴る、とか?」
「は?」
会話中に一体の強化外骨格が、チェーンソー的な魔道具をふりかざして襲ってきた。
山田は思わず、相手のアイスホッケーマスク的なデザインの顔をグーで殴った。
ガッチョーン!と金属音がしてパンチが当たった部分が凹み、魔物は転倒した。
「え?」
「魔法鎧が筋力を数十倍に増幅していますので、格闘戦のほうが効果的かと」
「それを早く言って!」 山田は寄ってくる魔物にガンガン鉄拳を打ち込んだ。やがてパンチよりもキックのほうが
より効果的である事に気がついた。そしてついに必殺技に開眼した。
増幅された筋力で助走をつけ、魔法力を込めた超高速の飛び蹴りである。
「うおおおおおおおおっ!!!!うっりゃあああぁぁ!!!」
大地を蹴って山田の体は今、銀色の流星となった!
「山田ァァ〜〜キィィッック!!!!」
ぼげどぐわぼばっしょ〜〜〜ぅぅぅ〜〜んんんんl!!!!(特大文字)
キックが命中した強化外骨格は、大音響と共に爆散した。
そしてまた走っては蹴り、蹴っては走った。命を燃やすぜ的に飛ぶオメガなスラッシュ、
疾走する本能が放つクリムゾンのスマッシュ。 ロケットっぽいドリルなキックで未来を創り、
ダークネスでムーンなブレイクが運命(さだめ)の鎖を解き放つ。
魔物達は次々に繰り出される必殺技の前に、成すすべもなく全滅した。 ところが戦いが終わった時、山田は苦しみはじめた。
「うう…違う…まさかこんな事になるとは…」
山田は崩れるように膝をついた。
OTL「俺は…俺は納得がいかない!必殺技と、この姿が合致していない!」
山田は山田にしかわからない理由で、自分自身を許さなかった。
だが、感傷に流されている場合ではなかった。
「ヤマダ!上!」
近くの電話機的な端末から、錬金術師の焦った声が聞こえた。口調が素に戻っている。
はっとして上体を起こした瞬間、山田のいた場所に金色の閃光が走り
地面にざっくりと切断されたような溝ができた。 「逃げて!次の龍息(ブレス)が来る!」山田は空を見上げた。
暗視モードの視界に、夜空を切り裂いて向かってくる大型魔獣の龍影が見えた。
音響龍息(ソニックブレス)。俗に超音波尖刃刀(せんじんとう)と呼ばれる、飛龍の
音魔法攻撃である。魔法力によって強制的に振動させられた空気が金色の光芒を放ち、
あたかも飛龍の口からビームが放たれたかのような場景となる。
命中した物体は分子振動破壊によって切断され、魔法防護されていなければ
たとえ鉄であろうとも鋭利な刃物で切り離したかのように真っ二つとなる。
ギャオス!と鳴き声をあげた飛龍は次々と龍息を放った。
音速で到達する音響龍息を回避するのは現実的に不可能なはずだが、混乱した
山田がおたおたと予測不能な怪しい動きをしたため飛龍の狙いが定まらなかった。 音響龍息がピンポイント攻撃であったこと、音速といえども遠方からの到達には
タイムラグがあった事も幸いした。もし広域攻撃魔法や、光魔法によるゼロ時間差
狙撃であったならば回避できなかったはずである。
じらされた飛龍は龍息を止め、直接攻撃(ダイレクトアタック)に移行した。
暗視モードに映る、空の彼方に踊る影がみるみるうちに近づいて、巨大な龍の姿になる。
飛龍は羽音も立てずに上空から舞い降りてくると、逃げる山田を右足の鉤爪で引っ掛けて
転倒させた。鎧のおかげで爪攻撃にも無傷ではあったが、山田が起き上がるには時間を
要した。飛龍はそのチャンスを逃さない。ふたたび巨大な影が、嵐のごとく山田に襲いかかった。 飛龍は瞬時にして山田にのしかかり、両足で地面にめりこむほどに押さえつけた。
ウルルル、という鳴き声と共に、牙の生えた巨大な口が山田を食いちぎろうと
近づいてくる。さすがの鎧も龍の顎(あぎと)の力に勝てはすまい。
食いつかれれば最後で終わりでジエンドである。
「そうはさせない!」
その時、領館で錬金術師が遠隔操作によって山田の周囲に領域魔法を発動させた。
山田のいる場所を中心に巨大な魔法陣が出現し、一帯が乳白色の光に包まれた。
飛龍は驚いて山田を襲うのを止め、とまどうように頭を上げた。そしてそのままバランスを崩し
地面に倒れた。 山田は飛龍の足から開放されたが、動作が鈍く、うまくおきあがれない。
「う…うう、か、体が重い…何だこれ…」
「「「ヤマダ、大丈夫?聞こえてる!?」」」
あちこちに設置されている電話機的な端末から、同時に錬金術師の声が響く。
「あー聞こえてる。何がおきた?」
「うう良かったぁ…あ、時間がないわ。魔法力中和結界を展開したの。少しの時間だけど、
その場所では魔法力が効きづらくなる。一度しか使えない術式だから、今のうちに
飛龍をやっつけて。ヤマダの鎧は、もう少しで自動的に錬金動力に切り替わるから」
「了解…時間制限バトルだな!」
鎧が一瞬緑色に光ったあと、山田はのそりと立ち上がった。両手を下に下げたノーガードの
構えである。ちなみにガードの有無は、この場合あまり関係ない。 飛龍は地面から起き上がれず、動こうとしても自由にならない体にとまどっているように
見えた。この世界で大型の魔獣が活動できるのは魔法力で自分の体を強化しているから
であり、魔法力が減少してしまうと物理力だけでは自分の体重を支えることすら
困難になる。
「卑怯のような気もするが、俺を喰おうとした奴に手加減はしない」
山田は飛龍の頭のほうに歩み寄る。
飛龍は必死で頭を上げると、かろうじて使える魔力をすべて収束し、龍息を放った。
きゅりゅりゅりゅりゅうううぅぅ〜〜〜ビシュ!ちゅっどーーーーんんん!!!
近接射撃の龍息が山田に命中し、金色の爆発と共に山田は後方に吹き飛ばされた。
大丈夫か山田!死ぬな山田! 音響超振動が熱気に変わり、陽炎が立ち上る。周囲に粉塵が舞いあがる。
魔法陣の光で白い霧のように霞んでいるその中で、何かが動く。
今、ゆっくりと白銀の鎧が起き上がった。
山田は生きている。
あちこちに小さな傷はついているが、ほぼ無傷である。
飛龍の渾身の攻撃も、魔法力が足りず大幅に効果が減弱していたのだろう。
むしろこの状況で、よく頑張ったぞ飛龍。
「ふはははは、効かぬわ!」ふたたび近づいてくる山田に、飛龍が怯えたような
甲高い声をあげる。龍息を再度撃とうとするが、ふしゅ、と息が出ただけで不発に終わる。 「これで終わりだ!必殺!ギャラクティカドラゴンフィニッシュブローッ!!」
飛龍の頭部左側面に、山田のえぐりこむような普通の右フックが炸裂した。
ちなみに必殺技名は山田のアドリブで、通常であればそれほど必殺な技ではない。
ぽきゃぴんこしゅっ!
軽快な破壊音と共に飛龍の頭部は大きく凹み、飛龍の頭は力を失ってぐらりと揺れた。
そしてそのまま、ぽんしゃかぽっしゅん、と音を立てて側方に倒れ伏した。
ちなみに飛龍は高速飛行に特化しているため、身体構造が極限まで軽量化されている。
魔法力で強化されていない状態だと、防御力は紙同然である。 ジェット戦闘機は空にいれば無敵だが、駐機場に止まっていればハンマーを持った小学生が
ボッコボコに壊せるのである。
飛龍、戦闘不能。山田WINである。
周辺の結界が消滅し、山田の鎧は白い光を放つと通常モードに復帰した。
「勝った…」山田は肩で大きく息をした。
ジャンジャカジャカジャカジャン♪
ギター的な音がした。地球の拍手に相当する、この世界の楽器音響である。
「誰だ!誰だ誰だ!」山田が問う。 暗闇の中から錬金街灯の明かりが射す場所へと、一人の男が現れた。
地球人であれば40歳前後か。エアでないギター的な弦楽器を抱えている。
灰色の和服に似た装束。縮れた長髪をポニーテールのように後ろに束ね、顎髭(あごひげ)
を左右に分けて三つ編みにしている。ポニーテールと髭の三つ編みは、この世界では
陸海賊のトレードマークである。地球で言うと海賊の頭目が海賊帽と眼帯をつけて
いるような、ちょっとベタすぎるファッションである。
一方で戦いの場にギターを弾いて登場するのは、この世界の基準でも少々異端なのだが、
まあ地球でも探してみれば一人ぐらいはそういう者がいるかもしれない。 「まさか飛龍がやられるとはなぁ…凄ぇなぁ、あんた一体何者よ?」
「…人に名前を聞く時は、まず自分から名乗れと習わなかったか?」
「おっと失礼。ハゲワロス農業試験場の主任、ニシュエモンだ」
「嘘はやめろ頭目…お前らの事は全部すべてまるっとスリっとゴリっとエブリシングお見通しだ!」
「あれ?嘘なんか言ったかなぁ?…で、あんたの名前は?」
「通りすがりの仮面騎士だ!」
「おやおや…まあいい、エルフは何処だ?そこの小屋にあったのは首輪だけだった。
壊れてはいないようだが、どうやって外した?」
男は「隷属の首輪」を収納袋から取り出し、地面にぽん、と投げ出した。 「いつの間に…家の中にも防犯結界があったはずだが…」
「お留守のお宅を訪問するのも仕事でなぁ。しかしここまで面倒な事になるとはなぁ。
エルフさえ渡してくれればあんたに用は無いんだが。あ、いやまて…そうじゃねぇ、
用はあった。あんた、オレの仲間にならねぇか?飛龍を倒すほどの男だ、厚遇するぞ」
「…採用条件は?どうせ副頭目にしてやるとか、その程度の」
「この世界の総収益の半分をやろう。しかも非課税だ」
「え、ちょっと待って」
山田は少しの間考えた。 「いやいやいや絶対嘘だね!世界を支配してもいない奴にそんな事できないし!
そうやって法螺話で人を騙して、大切な人を裏切るような仕事をさせる気だ!
何をさせられていたのか気づいた時には、指示されてた仕事まで俺が勝手にやった事に
されてて、不当解雇に給与不払いの退職金無しで追い出されるんだ!何も考えられなく
なって雨に濡れながらフラフラ歩いていると、居眠り運転のトラックに轢かれるんだ!」
「何を言っているのか判らんが、オレの申し出を断るんだなぁ」?」
「当たり前だ!嘘つきを上司に持ったら人生が詰むと、俺の経験が言っている!」
山田はきっぱりと断った。ちょっと悩んだことは忘れてあげてほしい。 「残念だな、エルフも返してはもらえないのか?」
「あの子は、お前の所有物じゃない!」
「あの子ぉ??何を言って…いやまて、もしかしてあんた、ああいうのが趣味なのか?
だったら、夜はあんたが好きにしてもいいぞ。普通なら物欲しげな目で見ただけで
通報されてしまうエルフ様に、思うがままあんな事やこんな事を」
「人の性癖を勝手に決めるなあぁぁぁ!!!!」
あまり強く否定すると図星だったと思われるぞ山田。 「あんた、もっと好き勝手に生きないと死ぬ時に後悔するぜ。
まあ…あんたはここで…死ぬんだがなぁっ!!」
男はいきなり剣を抜いて切りかかり、それを山田は避ける間もなかった。
ぱっきょきょきょーん!
男の剣は山田の鎧に命中し、魔法防護と干渉しあって見事にへし折れた。
「おぅわっ!ダンジョン産の貴重な魔剣『リストカッター』があぁっっ!!」
「おぅすまん!って俺が謝る理由無いよね!?というか魔剣なのに強度が農具以下なの?」
まああれだ、カミソリはよく切れるけど脆い、みたいなものだ山田。
「ゆ…ゆるさん…絶対に許さんぞ!!!」
逆恨みである。 「オレは学んだ…人間は策を弄すれば弄するほど予期せぬ事態で策が崩れ去る…
目的を果たすために、オレは人間を超えるものにならねばな…」
「何のことだ?何を言っている?」
「もう迷いはない!オレは人間をやめるぞ!」
男は懐(ふところ)の中からルビーのように紅く光る魔石のついた、石造りの眼鏡を
取り出すと、自分の目に当てた。
「デュワッ!!」
ズキュウウウゥンメメタアァゲッパホン!!という音と共に、男の体は輝く光に
包まれた。 「うおぉぉぉぉ…力が…力がみなぎる!!!全身の細胞が!内臓が!
脳までもが力に変わっていくようだ! オレは新しい存在に生まれ変わる!
祝え! 新しい王の誕生を!」
男の全身がメキメキと盛り上がり、背が伸び骨が作られ筋肉増量1500%の
異様な身体バランスの筋肉怪人、いやビッグでナイスなマッチョガイと化した。
「すごいちからだ! すごくすごい!すごくすごくすごい!あひゃひゃひゃひゃ」
「…もしかしてそれ、使ったら人として駄目になるやつ?」
山田は引いている。 領館で監視魔鏡を見ていた者達も引いていた。
「むぅ…あれは『力のダンジョン』のダンジョンボスが低確率でドロップするという
レアアイテム『進化の秘具』」
「し、知っておられるのですか召喚士様」
「噂を聞いて、わしも100回ぐらいボスを倒してみたが一度も出たことが無い」
「うわ…驚きました、いろいろな意味で。そんなものをどうして持っているのでしょうか?」
「う〜〜む…課金かのう?」
課金とはオークションで購入するという意味である。
ちなみに課金ではなく盗品である。 「それと召喚士様、アイテム名がおかしいと思います」
「おかしいのか?」
「『進化』というのは一つの種族が別の種族に変化していく現象です。
あれは個体が別の形態に変化するだけですから『変態』が正しい用語です」
「なるほど、ではあれは『変態の秘具』か」
「『変態の秘具』ですね」
この世界に一つ、新しい名詞が生まれた。 変態の秘具によって新しい世界に目覚めた男のパワーはすさまじかった。
男が腕を振ると、魔力のこもった拳圧だけで山田はふきとんだ。
「うわ!?」
転倒した山田にマッチョガイが駆け寄り、連続パンチを繰り出す。
姿に反して目にもとまらぬ反応速度である。
「おらおらおらおらおらおらおらおららああぁぁぁぁぁ!!!!!」
山田の鎧に傷はつかないが、慣性制御が追いつかず中の山田はパンチの振動で
グダグダである。乗り物酔い状態になってリバースすれば窒息する危険がある。
山田ピーンチ!!!
強いぞマッチョガイ。力をあげて物理で殴る。原始的だが効果的。
パワーは力、力こそパワーである。 一瞬の隙を見て、山田は地面にころがって連続攻撃から逃れた。
起き上がると同時に地面を蹴り、全力でパンチをマッチョガイの腹に叩き込んだ。
ドズン、という鈍い音がして、マッチョガイの動きが止まる。
マッチョガイは山田に顔を向け、にこっと怪しい笑みを浮かべた。
「あは。ぜ〜〜んぜんきかないねぇ〜〜」
そして目にもとまらぬ速さで手を伸ばし、逃げようとする山田の腕をむんずと掴む。
次の瞬間、山田の体もろとも空中に振り上げ、すさまじい速度で地面に叩きつけた。
激しい打撃音の中にブキャバキ!と嫌な音色が混じる。 そしてまた持ち上げ、さらに力を込めて叩きつけた。3回。4回。土砂が舞う。
衝撃で銀色の鎧がゆがんだ。山田の腕が捻じれて関節でない部分から折れ曲がり、
あらぬ方向に向いている。
マッチョガイは山田の体を両手で持ち上げ、力一杯地面に叩きつけた。さらに倒れている
山田の顔を足でドス!バス!ゲス!と踏みはじめる。頭部の強度が高く、踏まれても
形を保っているが後頭部がだんだん地面にめり込んでいく。 「駄目ダ!領主、死ンデシマウ!!!」
「さすがに拙いかの。助けに行くか」
「…待ってください」
錬金術師が思いつめたような表情で止めた。
「…魔法鎧の目が光を失っていません。まだヤマダは戦えます」
「無理ダ!魔法陣、モウ使エナイ。勝テナイ。領主、殺サレル!」
「ヤマダはエルフ様を助ける約束をしたと言ってました。彼は一度約束した事は
死んでも守る男です」 「本当ニ死ヌゾ!」
「…私が責任を持って蘇生します。それに彼は自分でやりたいのだと、私のことを信じていると
言いました。私はその思いと信頼を裏切ることはできません。だから…」
錬金術師がそう言いかけた時、魔鏡に映る山田の魔法鎧に変化がおきた。
目に灯っていた白い光が…フッと消えて暗くなった。
山田はもうピクリとも動かない。激しく息をしながら、満面の笑みをたたえてそれを見つめる
マッチョガイ。しばらく山田の様子を見ていたが、とどめをさそうと思ったか、ゆっくりと
大きく片足を上げた。
ああどうしたんだ山田!立て、立つんだ山田! 「領主ガ!!!!」
「おう、とうとう力尽きたか!?」
「いいえ…違います。今、覚醒が始まります」
その言葉と同時に、動きを止めていた魔法鎧の目が闇の中で赤く点灯した。
次の瞬間。
今までとは明らかに違う動物的な動きで、踏みつける足から鎧が飛び退いた。
おや、という表情でマッチョガイの顔から笑いが消える。
魔法鎧は、捉えようとするマッチョガイの手を四足歩行で素早くかいくぐり、少し離れた場所へ
しゅるしゅると移動した。折れていた腕がメキメキと正しい形に修復されていく。
「むう…何がおきているのか」
「魔法の鎧の自動防衛機構です。装着者の意識が失われた場合、鎧のほうが装着者を動かし、
状況を自動解析しつつ戦いを継続します」 「折れた腕が戻っているな」
「鎧の内側から棘が突き出て正しい位置に戻し、肉を貫いてむりやり骨を固定します。
痛覚麻痺の術式が付与されるので、痛みも感じなくなります」
「ちょっと待て。それは」
「あー判ってます。すみません、とある有名な魔法甲冑の構成術式をそのまま…えーと、
参考にしております」そう、あくまで参考である。
言うまでもない事だがこれは異世界の物語であり、地球によく似た設定の宇宙の警官とか、
降臨した者の遺産だとか、狂った戦士の装備とかが存在したとしても偶然の一致である。
ちなみに書籍化を目標とする投稿サイトの場合、盗用・歌詞引用・過剰なパロディがあった
作品は商品にできないため即刻抹消、作者はガチで容赦なく無慈悲に永久追放である。
「…知っておろう、あの甲冑を使った者がどうなるかを。装着者はどれほど傷ついても苦痛を
感じず、死ぬまで戦い続けてしまう。そういう部分を改作もせず採用したのは何故じゃ。
そもそも捻りの無い劣化模倣などただの盗作、創作者にとって恥だと判っておるのか」
「う…その通りで…返す言葉もございません」 「激痛にもだえ苦しみながら、死なぬ程度に治癒をうけつつ耐えて戦うのが萌えと
いうものではないか。山田殿の容姿では役不足だが、良い男が血と汗にまみれて、
苦痛に顔をゆがめつつ、声をあげぬよう必死で歯をくいしばっている姿こそが尊いのだ」
「えええ、改作って、そういう方向ですか?」
それはそれで山口貴ゆk…げふんげふん。
山田、いや山田を内部に入れた魔法鎧は素早くマッチョガイに走り寄り、右足を蹴って
バランスを崩させた。同時に体重のかかっている左足に自分の足をからめて転倒させる。
小内刈りである。体格差があるがスピードを乗せて見事に決まった。
魔法鎧はすかさずマッチョガイの背中に乗ってバックマウントポジションを取り、
光の剣の魔力回路から高圧魔力を流し込んだ。体内魔力を一時的に混乱させる
魔力版スタンガンである。マッチョガイの体がうわらばっ! と痙攣硬直する。 おもむろに光の剣を延髄に当て、ジュウジュウと焼きながら切断していく。
マッチョガイが悲鳴を上げるが容赦しない。すると動けないはずのマッチョガイが
大きく手を振って、その反動で一気に起きあがった。振り落とされた魔法鎧が
体勢を立て直して身構える。
マッチョガイの体には不規則な痙攣が続き、手足が統一感無く動いている。
見れば頚椎が完全に切り離され、ちぎれかかった首がぶらぶらと胸元で動いている。
傷口が焦げていて出血は無いが、どう見ても致命傷、というか動けるのがおかしい。
いやニワトリなら動くか。偉いぞ脊髄反射。 マッチョガイはブンブンと手を振り回しながら歩きはじめ、触れたものを攻撃して壊していく。
脳から指令が届いていなくても活動する肉体。さすが人間をやめた者は一味違う。
いや感心している場合ではない。
魔法鎧はマッチョガイに走り寄り、大きくジャンプして背中に飛び乗った。魔法鎧の重みが
加わってもマッチョガイは止まらない。魔法鎧は大きく揺り動かされるが、首の傷口に
両手を突っ込み、両足をマッチョガイの腰に回して振り落とされぬように体を固定する。
隙を見て片手でちぎれかけた首をたぐり寄せ、力まかせにひきちぎって遠くに投げ捨てた。
だが首が無くなってもマッチョガイの体は歩くことをやめない。それどころか魔法鎧を背負ったまま
走りはじめた。無目的に藪の中に突っ込んで触った低木を引き抜いて投げ、足に触れたものを
反射的に蹴りとばす。 魔法鎧はマッチョガイの首から焦げた肉をむしりとった。動脈からプシッビジュルルプッシャー!と
血液が噴出し、白銀の鎧が赤く染まっていく。
マッチョガイの体はそれでもなお走り回り、ひきつった動きで暴れ続けた。しかし出血多量で
しだいに動きが鈍りはじめ、足がよろけて倒れた。地面にころがってもまだ手足を乱雑に振り回して
いたが、、しばらくすると激しい痙攣がおきた。ブシュ、と首の断面から空気と共に霧状の血液を吹き、
傷口にブクブクと赤い泡が盛り上がったあと手足から力が抜け、とうとう動かなくなった。
すると魔法鎧の頭部が狼の頭を思わせる形状にぐねぐねと変形し、目を赤く光らせながら
遠吠えのような声をあげた。鎧の口が牙の生えた獣のような形に変わり、四つん這いになると
マッチョガイの傷口に噛みついてジュルジュルと吸いはじめた。魔力を吸収している
らしいが、まるで生き血を吸っているかのようである。 「おおお、いかん、いかんぞ。これは許される一線を超えておる」召喚士は焦っていた。
何ということだろう、魔法鎧の行動は元ネタを愛する識者が激怒して、パクリ作品許すまじと
立ち上がる領域に達していた。駄目だこの作者、早く何とかしないと。
横にいたエルフは一連の猟奇シーンを魔鏡で見てしまい、耐えきれずにリバースしていた。
一部リョナニスト御用達の炉リバース。いや何でもない忘れて。
「錬金術師殿、原典の甲冑と同…参考にした術式ならば、山田殿は『戻れなくなっている』のでは?」
「戻します。私が」錬金術師は青ざめた顔で、しかし落ち着いた声で言った。
「できるのだな?」
「私があそこに行けば」
「そうか、ならばあの場に転送してやろう。一刻も早く山田殿を回収し、今回の話は無かったことにするのだ」
「ええっ!それは…いえそれよりも召喚士様、転移呪文ですか?」 「陸海賊ごときにも使える呪文、わしが使えぬとでも思っていたか?
使えることを知られると強制的に軍属に登録されるゆえ、秘密にしているだけじゃ。
私有地内の移動であれば国の使用許可証は必要ない。
もはや猶予はならん。人目に触れぬうちに急いで終わらせよう」
もし通報されればこのスレは消滅する。はたして最後まで書ききれるのだろうか。
っておいこらまて。
召喚士が呪文を詠唱すると、錬金術師の周りに魔法陣が現れ、白い霧のようなものが
錬金術師の周囲に渦を巻きはじめた。錬金術師が会釈的な礼をした時、その姿は
渦の中で掻き消すように消えた。 >>383
まさか山田の肉体が消失しているとかないよな? 山田は暗い闇の中を歩いていた。どこに居るのかよく判らない。
周囲には誰もいない。
いくら歩いても、何も見えてこない。何も聞こえない。
何か大切な事があったような気がするが、思い出せない。
忘れるぐらいだから、最初から大切な事ではなかったのかもしれない。
助けてほしかった。…何を?
助けてあげたかった。…誰を?…判らない。思い出せない。
助けてもらえなかった。助けてあげられなかった。それだけは覚えている。
何もかも駄目だった。
何もしない奴らが駄目だった。何もできない自分も駄目だった。 諦めて目を塞いだ。耳を塞いだ。何かできると思ったのが間違いだった。
必要だったのは納得でなく服従。大事だったのは向上でなく同調。
善悪はどうでも良かった。空気を読むべきだった。損得だけを考えれば良かった。
理想など捨てて現実を見るべきだった。
世の中は自分以外のすべてが餌。思い入れは害悪。
理解しようと思ったら負け。判ってもらおうとするのは無駄。
誰も本気で考えてなどいない…いや違う。貴女(あなた)だけは本気だった。
本気で助けようとした。だから俺はそういう貴女を守ろうと。それなのに。
苦しい。もう何もできない。苦しいくるしいクルシイ
「ヤマダ!」
…や?…ま…だ? 「ヤマダ!」
山田?…誰?
「ヤマダ!戻ってきて!」
あの声は…ああ、そうか…俺は…戻っていいんだな…お前のところに。
好きに生きられる二度目の人生。それは俺にとって救いなのか、呪いなのか。
あの日。俺は諦(あきら)めてしまった。
救うことも、救われることも。
もしあの時に、今の俺だったなら。今の仲間がいたなら。
…俺は…貴女を泣かせなくて済んだのだろうか。 血にまみれた魔法鎧の手が錬金術師の首を締めようとした時、魔法鎧の起動が解除された。
生身の体に戻った山田がぐらり、と倒れかかる。
あわてて錬金術師が抱き取るように体をささえ、山田の体に重力制御の術式を付与した。
空中に浮かぶ山田の周囲に光魔法を展開し、山田の状態を確認する。
山田の顔は血と汗と涙と鼻水とリバースでドロドロである。
錬金術師は手に汚れがつくことも意に介さず、彼の顔をぬぐい、清浄化と治癒の
術式を付与した。
それからグシャグシャになった山田の髪の毛をなでつけて、泣きそうにも半笑いにも
見える表情になり、意識の無い彼の顔を見つめて言った。 「…心配させないでよ、ヤマダ…こんなになるまで無茶するなんて。本当に…
あなたって、ほんっとに馬鹿なんだから…」
錬金術師はもう一度山田の顔をよく見て、まだ意識が戻っていないことを確かめた。
そして少しためらったあと、おずおずと山田に身を寄せ、彼の胸にそっと顔をうずめた。
光魔法が静かに消えて、二人を夜が包みゆく。
空には星がまたたいて、ふわりと優しく夜風が流れ、遠くかすかにかまいたちが鳴く。
魔鏡で様子を見ながら、家令のエンガワに現場照明をフェードアウトするよう指示して
いた演出係、もとい召喚士はほっとした顔になって、安楽椅子に体を投げ出した。
「今回は色々と危ない部分がありすぎた。…だがその苦難を救うもの、それが愛じゃ」
「愛ナノカ」
「愛じゃ」
なお今回、自分から志願した山田は馬鹿であるが、無茶をさせていたのは錬金術師だと思われる。 その後すぐに家令のエンガワが山田達の迎えを手配し、家臣団に現場の後始末を指示した。
メイドのミヤゲは急いで着替えを用意しに行った。
翌朝。
「ううう、体が痛ぇ!治癒してくれ治癒!」
「それはレベルが上がった時の成長痛ですので、治癒呪文は効きません。
体の傷はもう全快しているはずです」
「山田殿、今回のような危ない事は二度とやってはならぬぞ。それにしても、あのまま
戻ってこられなかったら大変だったのう」
「戻せると確信していましたから」
「錬金術師殿の愛で、かの?」
「いえ、『戻ってきて』を起動解除の音声符丁に設定していましたので。
私の声紋を登録して、私の声でいつでも解除できるように」 「愛、違ッタ」
「…少々予想と違っておったが、それなら魔道具で声を伝えるだけでも解除
できたような気がするがの」
「え?いやまあその、それは肉声で直接に解除したほうが確実ですし。
錬金術師としては、現場での実証見聞が必要であると」
「…顔が赤いぞ」
「あーこの部屋、空調魔法が効きすぎてませんー?あー暑いなー」
「暑いか?俺はむしろ寒く…」
「おぬしもなあ…それだからいつまでも魔法使いを卒業できんのだこのヘタレが」 藪の中にころがっていたマッチョガイの首は、山田領防衛隊(農民有志。幼児含む)によって
回収された。連絡をうけて来領した王都騎士団に引き渡され、首実検のため首桶に収められて
王都に回送されていった。首は恨めしそうな表情でこちらを睨み、何か言いたそうに口をパクパク
動かしていたが、声を出せないので何を言おうとしているのかは判らなかった。
桶に入れられて符術封印される時に、悲しそうな表情をしたのが山田が最後に見た姿だった。
「賞金首在中」の荷札を貼られて運ばれていったあと、首塚に埋められて祀られたとも、
海底深く沈められたとも噂されたが実情は確認できていない。第三部で誰かの体を
乗っ取って復活してきたりしない事を祈るのみである。
なお、マッチョな体のほうはアンデッド化しないように退魔結界内に収容された。刻んで穀物滓や
竜糞、枯れ草などと混ぜて発酵菌を振りかけ、雨を当てないようにして熟成が進められている。
後日、畑葬に付される予定である。 エルフはしばらく山田領に滞在し、体調が回復してから里に帰ることになった。
山田とも徐々に打ち解け、山田はエルフの里の植物の話を聞けてとても喜んだ。
そしてエルフが里に帰る日がやってきた。
エルフの里から迎えの竜車が来て、見送りの者が集まっていた。
「錬金術師殿、ヘタレの姿が見当たらぬの」
「イリスの世話をしてから来る、と伺っております」
「イリス?」
「ご領主様が倒した飛龍です。使役していた頭目もご領主様が倒したので、山田領の
使役獣になったとか。イリスというのはご領主様の故郷で愛玩獣につける名前だそうです。
飛龍とどういう関係があるのかは判りませんが」
「はあ?あの生きた暴風雨を飼う?飛龍は餌がアレじゃし、代謝が高くて脱皮殻の粉が
大量に舞うし排泄は所かまわぬし不消化物は吐き散らすし、通常空間で飼うと何気に地獄じゃぞ?
…まあ、あやつなら飼いきるだろうがなあ。なぜにそういう事だけマメなのだマニアという人種は」 「あーすまん、ちょっと遅くなった」
山田がようやく現れた。
その姿を見たエルフが、恥ずかしそうな顔をしながら山田に近づいた。
山田に対する態度が、最初の頃とだいぶ違っている。
「領主様、今マデ、アリガトウ。…コレ、感謝ノ品」
美しい織物に包まれた瓶が、山田にそっと差し出された。
山田が受け取ると、ちゃぽん、と音がする。
「ん?もしかして酒かな?」
「魔たたび酒。飲ム、病気、カカリニククナル」
「おー、そんな効果があるのか。素晴らしい。しかし魔タタビにはまだ俺の知らない事が
色々あるなあ…交配して結実しない理由もいまだに判らない」
「…知リタイ?」
「え!?教えてくれるの?」
「誰ニモ話サナイ?」
「約束する」 「領主様、約束、死ンデモ守ル人。ダカラ教エル」
エルフは山田を少し離れた場所に連れていき、小声で説明をした。
要約する。
魔タタビの木は雌雄異株である。王国で栽培されている複数系統にはどれも雄蕊と雌蕊が
あるため両性花だと思われているが、実際は雌株である。花粉に見えるのは訪花昆虫を
惹きつけるための疑花粉と呼ばれる粒子で、稔性は無い。結実させるには雄蕊だけを持つ
雄花から真正の花粉を採取し、それを雌蕊につけてやらねばならない。雄木はエルフの
里の立入禁止区域に1本あるだけで、花守りはそこから採取した花粉を乾燥休眠させ、
収納できる状態にして持ち歩いている。 「雌蕊ダケノ、雌花ガ咲ク木モアル。ソノ事、人間、知ラナイ。人間ノ国、『両性花』ダケ」
「うーむ、判ってしまえば単純だなあ…それで結実しなかったのか…」
「デモ、花粉、アゲラレナイ。ソレハ花守リノ掟」
「ああ、それは当然だよ。魔タタビ酒は大丈夫なのか?」
「えるふ同士デモ、普通渡サナイ。渡ス、特別ナ…大切ナ人ダケ」
「へええ、それは嬉しいなあ。俺が受け取っていいのか?」
「領主様、特別。私ノ…」
「すみませんエルフ様、召喚士様が贈り物をくださるそうです。どうぞこちらへ」
「ソ、ソウカ。判ッタ錬金術師殿。領主様、マタ後デ」 エルフは移動中に、錬金術師にこっそり話しかけた。
「領主様ニ、魔タタビ酒、渡シタ。アレ、特別ナ酒」
「特別?」
「飲ム、酔ッテイル時、惚レ易クナル」
「え、それは」
「ソノ時、口説ク、簡単、落チル」
「えええ、どうしてそれを私に」
「頑張ッテ」
「いやそのですね、何を頑張れと。意味が判らないです」
「私、伴侶、ソレデ落トシタ」
「はああ?エルフ様、既婚者だったのですか!?」
「子供モ、二人」
「…ご領主様には黙っていてくださいね。あの人、衝撃うけそうだから」 こうして魔タタビ事件は終わりを迎えた。
誘拐されていた地球歴換算で今年56歳になる花守りのおっさんは、山田と再開を約束した後、
無事に妻子の元へと戻っていった。女の子?誰がそんな事言った?
なおその後、山田は猫娘が食べ残した魔タタビの実の種子を実生してみたのだが
その中から花粉のできる雄木も育ってしまった。それによってふたたび大騒動が勃発
するのだが、それはのちの話になる。 なお、前世のトラウマで恋愛恐怖症気味のヘタレ男と、研究一筋に生きてきた
素直でない理系女子の間に、恋愛関係というものがはたして成立しうるのか?
というテーマに関しては、園芸とは無関係であるためこのスレで語られる予定はない。
(劇場版・剣と魔法の怪しい園芸「エルフの秘木と魔獣大戦争」
エンディングテーマ「異世界の花々」 (C)中二病ラノベ制作委員会)
*この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・作品等とは関係ないことになーれ
(記憶消去の呪文)
(了) ということで終了です。ネットではある程度広まっている言い回しでも一般的には
知られていませんし、原典が特定困難な知名度の低い文章・設定も大量に流用して
おります。よって本作を、元ネタが周知であることを前提とした「パロディ」であると
主張するのは無理があり、盗作パッチワークと呼ぶのが妥当かと思われます。
当然ながら投稿者の著作権などは主張できませんし、園芸板に埋めておくことすら
危険な放射性廃棄物となっております。削除カモン。
言い回し、設定、ストーリー展開などどこから盗用してきたか、引用文献一覧とかつけないと
マイナーな元ネタは大部分の方が判らないかと。まあつけてもアウトなんですが。
もはや荒らし行為と化しているので、これで連作の投稿は終わりにします。
皆様に良き園芸ライフがありますように。 家庭菜園程度のゴミスキルでも異世界行けば嫁くらいできる ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています