園芸民が異世界転生したらどうするよ?
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園芸民の得意分野で中世ヨーロッパ風の異世界をどう生き抜くか?
どう内政チートするか議論しあうスレです
ただしチートとジャガイモは禁止な トラクターと一緒に飛ばされてくるのはチートですか? ガーデンセンターで特売のチューリップ球根を山盛り買って
帰る途中で転移 「ガラス瓶と綿栓に錫箔。圧力鍋は無いから蒸し器で3回滅菌かな・・
白砂糖と寒天はある・・微粉ハイポネックスなんてものは無いよなあ・・
MS培地?うわー面倒くせぇ・・錬成は宮廷錬金術師の嬢ちゃんに丸投げしよう。
あとは次亜塩素酸か・・あ、浄化魔法って滅菌までできるのか?」
異世界でバイオ錬金術師を目指す山田に忍び寄る宮廷庭師の陰謀。
暗躍するプラントハンターギルドの黒い影。帝国に向かった青年商人の商談は如何に。
次回「夜盗魔蟲の襲来」お楽しみに! 園芸民の程度じゃアイルランドのジャガイモ飢饉の二の舞を起こして
処刑されるのが関の山だよ >>6
ロリっ娘召喚師の使役する巨大ジガバチの助けを借りて野盗魔蟲を撃退した山田。
だがそれは物語の序章にすぎなかった。
天空から飛蝗のごとく飛来する無数の魔アブラムシ。
空中に浮かぶ数字は、騎士団の魔法攻撃が農作物ごと焼き払う刻限へのカウントダウン。
農薬使用禁止の王宮農場で、山田がとった秘策とは?
次回「魔法のポーション、その名は牛乳」
石灰上澄み液を加えるのが効果を高めるポイントです。 人頭癌腫病。
それは薔薇騎士団の女騎士にとりついた、語るもおぞましき病い。
外科手術でも治療魔術でも根治はかなわず、彼女の願うは安らかなる死。
その時、山田が選んだのは禁断の異世界黒魔術「丑の刻参り」だった。
次回「菌にもよく効く、藁人形」
ターゲットはアグロバクテリウム由来T-DNA領域、腫瘍細胞を呪殺せよ! 山田の開発した分子標的呪術は異端審問にかけられた。
黒魔術使用の罪で、7日後の処刑が言い渡される。
裏に表に、仲間たちの必死の助命工作は続く。
そんな時、国王の一人娘が謎の奇病に倒れる。
次回「王女サクラの天狗巣病」
ヒト天狗巣病って絵に描いたらすっごくグロい。 偉けりゃ黒でも白になる。
王女を助けた山田は死刑囚から准男爵にクラスチェンジ。
辺境の領地に向かう途中、幻の花を追い続ける一人の多肉ハンターと出会う。
次回「疾走!追走!サボテンダー錦」
いつの世もマニアが追うのはレア個体。 黄金の魔法草が咲き乱れていたという「最果ての花園」
前領主の乱穫で、今の呼び名は「焼け野原」。
特産物を失った貧しき土地で、新領主・山田が一軒の農家の庭に見つけたものとは。
次回「最後の黄金マンドラゴラ」
実在するMandragora属と同様、栄養繁殖しづらく自家不和合という設定でございます。 「黄花変種と紫花母種を交配して、得られた実生に親黄花を戻し交配すれば
孫世代での潜性発現率50%。地球のマンドラゴラのアントシアニン欠損変異は
オーレアでなくアルバだから遺伝様式が違ってる気もするが」
山田が何を言っているのか理解できた者はいなかったが、とりあえず人工増殖が開始された。
だがまだ山田は知らない。マンドラゴラの種子はある条件が満たされなければ
永久に発芽しないということを。
次回「たったひとつの生えたやりかた」
マンドラゴラの輸入種子、古いと低温処理しても発芽はしない 古い伝承に曰く、マンドラゴラは落雷によって大地から生まれる。
落雷時の野火によって土中埋没種子の休眠が打破されると推測した山田は
オーストラリアの山火事発芽樹木の実生法を参考に、煙を溶かした水に
種子を一晩浸けることで発芽に成功する。
次なる領地開発は温泉の掘削、貴族リゾートの建設と地元野菜を使った農家レストラン。
だが魔法世界の伝統野菜と、日本料理の融合により斜め上の料理が爆誕する。
次回「見知らぬ、天丼」
大盛りはサービス、サービスゥ! 秘して愛でるも園芸なれど、友と競うもまた園芸。
全国大会出場は、貴族の社交か闘争か。
この世界での園芸は、強敵と書いて友と読む。
次回「植物最強決定戦」
ゆけヘレボルス!はっぱカッターだ! ドライアド。緑色の髪の美しい女性の姿をした植物系モンスター。
隣国には幼女の姿をしたドライアドが、愛玩用に売買されている市場があるという。
山田がそこで見たものは、ドライアドの身体を切り刻んで小型化し、
不老不死のドライアドをロリババアに魔改造している魔導師達だった。
転生者が考案したというその技術の呼び名は、山田には聞き覚えのあるものだった。
次回「盆栽市」
この場合、幼女でなく幼樹と呼ぶのが正しい。 山田は愛玩獣市場で、ナナと呼ばれるドライアドの幼女と出会う。
衰弱して処分されかかっていた彼女を買い取り、肥料とブドウ糖を飲ませて回復させた。
彼女はボンサイ化されたロリババア達とは異なり、数年分の人生記憶しか持っていなかった。
流通ルートを調べた山田が知ったのは
ドライアドの断片から完全な体を再生する植物用の究極再生魔法の存在。
そして魔導士の工房で見たものは、檻の中で出荷を待つ
ナナとまったく同じ顔をした幼女達だった。
次回「クローン系統7番ロット」
力なき者が背負って歩けるのは、一人だけ。 樹木医。植物再生魔法を唯一使える呪術医の一族。
「芋を2つに切ってこの魔法をかければ1個が2個に。30回繰り返したら1億7千万個。
食料問題解決、農地開拓の必要なし。内政チート万歳」
だが老人は静かに山田に語る。
植物魔法が封印された理由、かつてアイルドラン島でおきた芋飢饉の惨劇を。
次回「誰も働かなくなった島」
単一作物依存は、魔法耐性菌が出現すると崩壊します。 クローン・ドライアドを貴族の玩具として提供することで、野生のドライアドの
生活が守られる。頭では理解できたが、ナナを連れて自領に戻った山田の心は
晴れなかった。しかし今の山田には自領と領民の生活を守るのが精一杯だった。
窒素・リン酸・カリ・魔力。この世界における肥料の4大要素である。
褐炭を原材料にした窒素錬成術式の構築、ワイバーン・グアノの採掘、
カリ鉱床ダンジョンの攻略は順調に進んでいたが、魔力に関しては
高価な魔力ポーションを散布するか、討伐したアンデッドを畑にすき込む、
魔力量の多い勇者や大賢者の排泄物を利用するなどの方法しか見つかっていなかった。
そんな時、山田は魔王の呪いによって魔力の枯渇した土地でも
大地の精霊の加護によって育つ植物の存在を知る。
次回「根っこに棲んでるちっちゃいおっさん」
この世界の植物達は地中の精霊を通じて複雑な魔力ネットワークを構築している。蟲師っぽい。 <幕間>
後日、「根圏共生精霊の魔力固定特性と、輪作導入時の精霊への礼儀作法」
と題した論文が王国魔法学雑誌に発表された。
この論文は農業協力ギルド(略称:農協)のポーション専売利権に
多大な影響を与えるのだが、それはのちの話である。 王立ジュー植物園で、冒険者が南の島から持ち帰った新種の植物が公開された。
地球のバナナの木に似ており、黄色い実はとろけるように甘く、
たとえようのない芳香がある。だがその香りにつられて近寄ってきた動物に
マシンガンのように大量の種子を撃ち込んで倒し、その死体を苗床に
実生が育つという凶悪な生活史をもつ。
山田は植物園で育った実生の中に、妙に肉厚で緑色が濃く、種子が大きい個体が
混じっていることに気がつく。宮廷錬金術師に頼んで鑑定魔法をかけてもらい、
解析結果を検討したところ、その変異個体は地球で言うところの
4倍体ではないかと推測された。
山田はつぶやいた。「勝利の法則は、決まった!」
次回「仮説の検証」
人工的に作る場合はコルヒチンとかオリザリンとか古代エルフのロストマジックとか。 仮説を確かめるためには変異個体と標準個体を交配する必要がある。
山田の体力では上級防具は「そうび できない」ため初級防具で挑むことになった。
後衛の錬金術師から防御力上昇と回復の支援をうけたが、何回も死にかけた。
ようやく交配に成功した時には思わず口から変な声がもれた。
次回「バナナに種ができぬわけ」
その後、野生での花粉媒介者である妖精族は近寄っても攻撃されないことが判明し
「俺の苦労は何だったんだぁぁ〜〜!」と叫ぶことになるのだが、
未知の植物の栽培ではよくある話である。 予想どおり、交配によってできた3倍体には種子を作る能力がなかった。
さらに実が両親のどちらよりも大きく、味や香りにも遜色がなかった。
山田はこの植物をバナナと名付け、山田領で育てることにした。
次回より新章「通信販売ができるまで」
しばらく植物から離れるけど、続けていい? <追記>
なお、3倍体でも種子を作る能力は完全にゼロではないため
世話をする者は身代わりの腕輪と、炭素錬成繊維を編み込んだチョッキを
装備することとし、AEDステーションに似た回復ポーション置き場も用意された。
しかし幸いにして今日まで狙撃事故はおきていない。 なんかの間違いで漫画化ぐらいはいけるポテンシャルがあるな 書かれたら数巻くらいになりそうな内容と密度だな
すげーワクワクする 山田領の開発は順調に進んでいた。
古代ローマ時代から転生してきた硬派な浴場設計技師の指導のもと、
温泉熱を利用した観光温室施設も新たに完成していた。
山田領では観光地として他領との差別化をはかるべく、領内での錬金肥料の
使用を制限し、緑肥輪作と竜糞堆肥を主体にした有機農業を積極的に進めていた。
異端審問を避けるために雑草の呪殺はせず、マルチングフィルム的な錬金素材によって
雑草抑制をしていたが、このことは結果的に残留呪力を気にする自然信者の
ハイソなエルフの方々、ハイエルフ達から高い評価を与えられた。
山田領で生産される有機魔法野菜と、討伐されたオーガの肉を苗床にして育てた
オーガ肉バナナは山田領の特産品としてブランド野菜としての地位を
着実に高めつつあった。
次回「起業準備その1」
ここからが長い。 この世界には転移門や飛空船を利用した高速移送技術が存在していたが、
コストの点からそれらの利用は兵站の輸送などの大量物流に限定されていた。
通常の物流には個人商人の魔動車輸送か、運送ギルドの配達人による配送が
利用されていた。しかし一般的なアイテムボックスは生物の収納ができないため
輸送できる農産物は精白された穀類、乾燥させた芋や果実などに限定されていた。
仮に鉢植えにして運んだとしても長期輸送による風味の減退は著明であり、
領外への生鮮野菜の輸送はほぼ皆無であった。
だが誰もやっていないということは、手付かずのブルーオーシャンが広がっていると
いうことでもある。現代日本の物流システムを知る山田には、一つのアイデアが浮かんだ。
しかしそれを実現するためには、さまざまな法律的、神学的な規制をクリアする
必要があった。
次回「起業準備その2」
続く。 降雨魔法――血みどろの水争いを終わらせるはずの力が招いたのは、より苛烈な水戦争だった。
「あいつらが雨雲をみんな持っていっちまうんだ。もう生かしておくわけにはいかない」
焦熱魔法師と風使いによる火災旋風で隣国の町を焼き尽くす計画を知ってしまった鈴木は、その力を以て海水温上昇と低気圧をもたらす案を思い付く。
だがそこに現れたのは「海の使い」と名乗る青い髪の少女。
世界は変わっても気象操作はやはり遠い夢のままなのか?
「そもそも俺は気象学者じゃねえんだよ…」 >>32
まず最初は国王への謁見。
「偉大なる国王陛下と、美しき王女殿下に至高の野菜を定期的に献上したく存じます」
これで配送業起業許可の勅令をゲット。
王宮御用達の看板があれば、他人にマウントするためなら金を惜しまない、
いやむしろ商品が高価であればあるほど喜ぶ貴族達は絶好のカモ・・げふんげふん、
新興企業を援助してくださる素晴らしいパトロンになっていただける算段である。
続いて後で難癖をつけてきそうな王宮官僚、地区司教、各種ギルド長をご招待し
接待と賄賂、もとい山田領特産の黄金色のお菓子を進呈。
取引現場は「こんなこともあろうかと」的事態を想定して
王宮錬金術師の「嬢ちゃん」にこっそり念写しておいてもらう。
聖協会総本山への寄進と、教皇猊下個人にもお菓子を進呈。
ここまでが地盤固めである。
次回「起業準備その3」
まだ続く。 さてここからが大変である。
事業計画書の提出から始まって、領地経営状況調査表、王国納税証明書、
ついでなので魔族就業特区開設許可も申請した。
就業者の領邦内通行税免除資格者登録、スキルボード調査票、第二種魔術使用者免許講習、
黒魔術使用免罪符下賜申請、「ぼうけんのしょ」登録申請、
事業者負担によるアンデッド特約付蘇生保険加入、対人対物対結界損害保険、
就業時健康鑑定魔法結果表などなどなどの提出。
王都内侵入禁止区域の確認、通行計画書の策定と各種省庁およびギルドへの書類提出、
法律学者と神学者のダブルチェックによる問題点の洗い出しと計画修正。
「勇者のしるし」一個で無条件パスの恵まれたパーティは爆発しろという感じである。
山田家の領主机の上には書類が山積みになり、家令は過労死寸前で青い顔をしていたが
山田は家臣団に丸投げして逃亡した。
次回「起業準備その4」
まだちょっとだけ続くんじゃ。 <推敲>
>>34
国王陛下でなく国王陛下ご夫妻。まあ王妃が死んでる事にしてもいいんだけど。
開業起業許可の勅令でなくて起業の勅許。
げふんげふんの前後はFUNAさんの「ろうきん」にほぼ同じ描写があったような・・
無意識に剽窃してる気がするので調べて要リライト。
宮廷錬金術師と王宮錬金術師は同じ人のつもりなのでどちらかに統一が必要。
長い文章書くと次々にボロが出てくるな・・ 聖協会でなく聖教会だな・・まだあるけどとりあえず続ける <幕間>
というわけで、本日の山田は観光温室の中でバナナを食べながら、
ワニと名付けた新種の小型ドラゴンの飼育設備をチェックしていた。
バナナとワニを温室の目玉にした事に実用的な意味はなかったが、
それは山田の、二度とは戻れぬ故郷への想いが発露したものだった。
もしこの世界に、山田と同郷の転生者がいたならば、山田領の偉人であるアタガウァの
名を冠したこの動植物園の名前を耳にした時、不思議に思って訪ねてきてくれるかも
しれない ー そういう淡い期待もあった。
ちなみにこの施設は、新大陸産の根の無い着生植物のコレクションでは王国一である。
山田がやりたかったのは異世界の動植物の飼育・栽培であり、領地経営はそのための
経済的基盤を獲得する手段にすぎなかった。中央での出世や権力争いには最初から
興味がなかったし、スキルだバトルだ俺TUEEEだ、そういうものは自分とは無縁だと
思っていたし、事実そうでもあった。
ハーレム展開?それはひとまずこちらに置いておく。
閑話休題。 生きた野菜はアイテムボックスに収納できなかったが、加熱調理してからであれば
できたての状態で保存することができた。農家レストランで作られた怪しい・・ではなく、
異世界で再構成された新しい日本料理は、地球の冷凍食品のように広域に運ばれて販売され、
山田領の外貨獲得手段の一つとなっていた。
しかし味よりも料理の外見・ステータスのほうを重要視する貴族達にとって、農家の
主婦が作った料理は「下々の下賤な民が食する餌」という認識であった。
それゆえ上層階級への販路拡大はまったく期待できなかった。
将来的にはフランスの田舎にある三ツ星レストランのように、一流シェフを招聘して
山田領内で宮廷料理を作ってもらう計画もあった。しかし現状では辺境まで移住してくる
奇特、いや野心的な料理人は見つかっておらず、高級料理の領内生産計画は
今のところは絵に描いたペミカンでしかなかった。
次回「起業準備その5」
やっと半分ぐらいだな・・こんなもん読んでる人がいるのだろうか・・ 中世っつってもバカにできんからな、
むしろある分野の絶頂期はとても現代人には勝てないレベルに到達してるのもあるし
日本刀も現代日本の最高レベルの技術者もかつての名刀クラスの刀はできないと言われてるし
クラシックもベートベンやモーツアルトレベルの作曲家はいない
絵画もルネサンス時代のレベルには到達できない
俺的にはハーブ栽培が趣味だが中世ヨーロッパで盛んにおこなわれてた時代はきっと凄いレベルだったと思うよ、うん >>39
そんなある日、山田は領内の畑で野菜をチェックしている不審な男を見とがめた。
領主として職務質問したところ、彼は王都からやってきた宮廷の総料理長であった。
領館で山田領の野菜を試食したぐるぐるマユ毛の若い総料理長は、伝統野菜の
良い意味で癖の強い風味、とりたての自然な甘み、自分が見たことのない魔力属性を
高く評価した。
「王都より天才料理人来たる!」の報を聞きつけて集まった山田の友人達によって、
いつのまにか山田領の野菜を使った宮廷料理の試食会が開催されることになっていた
翌日の試食会において、供された料理の3皿目を完食した山田は
「う・ま・いっ・ぞっおぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」と叫ぶと同時に
全身の魔力が暴走し、服がすべてはじけ飛んで全裸になるハプニングを披露した。
女性達はみな見て見ぬふりをしていたが、ロリっ娘召喚師だけはガン見、
もとい白い目で見ていた。
料理長は、いままでにこれほどの料理が作れたことは無いと語り、
必ずや王宮に野菜を届けてくれるよう山田と約束して固く耳を握り合い、
王都へと戻っていった。
次回「起業準備その6」
次からは配達員探し。 ここでぶっちゃけて言うと、山田が想定していたのは現代日本で言えばバイク便である。
小回りのきく移動手段によってノンストップで王宮まで野菜を運び、鮮度が落ちない
うちに届ける。大量輸送は望めなかったが、産地直送朝採りフレッシュのうちに
調理を済ましておけば、あとは業務用魔蔵庫に収納して長期保存しておけば良い。
定期的に作りためておいて、宮中晩餐会に供することは十分に可能であった。
だがこの場合、高速移動のスキルを有する配達員の存在が必須である。
輸送中の盗賊やモンスターの襲撃を考慮に入れれば、攻撃魔法も使えたほうが望ましい。
だが飛翔系モンスターを使役できたり、飛翔呪文が使えるような高位の魔術師の
ほとんどは帝都で王宮関係の仕事に従事していたし、考えているような都合の良い人材が
本当に集まるかどうかは不確定だった。山田は最悪の場合、自領で1から人材を
育てることも考えていた。
次回「起業準備その7」
求人広告を出します。 もっと昔であれば、山田がこのように頭を悩ませる必要はなかっただろう。
都市と都市の間を一瞬で移動できる、使い捨てのマジックアイテムが存在していたからだ。
しかしそのアイテムの錬金素材となるモンスターは、この世界では冒険者達の乱獲によって
絶滅しかかっていた。現在では素材モンスターはワーシントン条約の附属書Tに
記載されており、マジックアイテムも学術研究目的を除いて入手できなくなっていた。
余談になるが、のちに山田はそのモンスターの人工繁殖に成功し、王国公認の
シリアルナンバー入りマジックアイテムを再流通させるに至る。
その売却益によってモンスターの生息地を買い取り、保護区を設立し、
密猟者を密猟対策レンジャーに転職させるという偉業をなしとげる。
しかしその件に関しては園芸と無関係な物語になるためここでは省略する。
閑話休題。
ひとまず山田は、冒険者ギルドに依頼して王国領邦全域に、求人の張り紙を出すことにした。
次回「起業準備その8」
求人結果です。 勇者のパーティにいるような瞬間移動呪文使いや、竜騎士から転職した飛竜に乗れる
運び屋が応募してくれれば、この件は一気に解決したことだろう。しかし王宮でも数える
ほどしかいないレアな呪文使いや、あらゆる異世界を探しても2人いるかどうかという
変態職が見つかることは期待すらしていなかった。
仮に応募があったとしても、配送員が一人だけのワンオペであったら、退職された時点で
業務が崩壊してしまう。
現実的な線としては走鳥乗りか、二輪魔動車の免許保持者を雇用してまんまバイク便。
あるいは三倍速移動やニンジャ走りで飛脚便を試験的に運用して人材が育つまでの
つなぎにする。それが山田の想定であった。
しかし実際に求人してみると、平民には通常は手に入れることができない
黒魔術使用免罪符が取得できるという雇用条件が功を奏し、表の職種では就業が難しい
異端スキル所有者から多数の応募があった。書類選考を経て山田が面接し、容貌、性格、
胸囲などを参考にして、地球人であれば十代に相当する外見の女性3名の採用を決定した。
次回「起業準備その9」
新入社員の研修です。 王国労働安全法では、雇い入れ時に
(1)就業時の外敵の種類・危険性と対応についての教育
(2)事故時等に際しての緊急蘇生法の教習(山田領の場合は模造の「不死鳥の尾」を使用)
が義務付けられているが、これらは一日あれば覚えられる内容であった。
問題は実技だったので、山田は採用者に対して独自の実技研修を課した。
まず各自の技能スキルをそのまま維持した状態で、配達員に転職させた。
次に領内で実際に配達を実施し、さらにパワーレベリングによってレベル上昇を図った。
女性であるため泣き出したり、逃げ出したりすることを山田は危惧したが、全員が命がけの
雇い入れ時研修を乗り越え、研修修了時には山田が驚くほど職業レベルが上昇していた。
また彼女達は、配達時に王都で山田温泉リゾートを宣伝することを提案し、山田は快諾した。
山田は自分の故郷での宣伝方法であると説明して、彼女達に歌のレッスンと踊りの振り付け、
さらに衣装・・ではなく制服の作成、演出および音響の魔法構築を発注した。
どこに行くのか山田。
次回「起業準備その10」
いよいよ大詰め。 また、山田は研修実施と平行し、配達時に通過する予定の各領の領主を順番に
山田リゾートに招待し、根回しと接待とハニートラップを完了した。
各領には領主の他にも小物、ではなく地域に密着した実力者が多数存在していたが、
貧・・収入に制限のある山田には全員を接待することは不可能だったため、優先順位の
決定に非常に頭を悩ませることになった。頑張れ家令。回復ポーション飲むか?
こうして山田デリバリー商会はようやく営業できる準備が整った。
その業態は王都では斬新なものだったが、もし現代日本人が見たとすれば、そうは
思わなかったことだろう。なぜならば先人のパクリ、いやオマージュであることが
一目瞭然だったからだ。
そしてついに、営業初日を迎えた。
三人娘の初フライトの日である。
次回「魔女の配達便」
「行きます!」「い、行きます」「行くわよ!」 <幕間1>
「こちら領館管制室。魔導通信感度良好。いや教官でも商会長でもない、社長と呼べ。
そうそう、ん〜〜良い響きだ。飛行状況を報告せよ。すっごく綺麗?
ああ、雲海(うんかい)と言うんだ。見渡すかぎり薄紅色?ちょうど朝日が登る時間帯
だからな。嬢ちゃんの新型箒(ほうき)と、お前達の実力があって初めて見られる風景だ。
この世界で見たことのある奴はほとんどいないんじゃないか?
索敵魔法と「風の加護」はそのまま展開を維持。進行方向は魔導羅針盤の指示通り。
羅針盤が光るまで高度はそのまま、巡航速度を保て。
いや本気出さないで。チャック・イェーガーにならなくていいから。安全優先で。
野菜の鮮度は大事だが、お前達より大事な野菜は無いから。
その速度なら公演・・じゃなくて宣伝を済ましてからでも暗くなる前に戻れるな。
王都が見えてきたらまた連絡しろ。通信を終わる。」 <幕間2>
「うう、肩こった・・次の連絡があるまで管制監視はメイドのミヤゲに任せる。
え何? うげ、あれだけの通信で魔力費そんなにかかるの?
そりゃ王宮と大貴族しか使ってないわけだ・・
これで商売がうまくいかなかったら、貴族達からの出資金が返せなくて破産だな・・。
いや今は心配しなくていい。俺の取り分はいいから、頑張ってくれた皆への報奨を優先しろ。
そうだ嬢ちゃんにもだ。開発費以外はいらないと言うだろうが受け取らせろ。
あいつは自分の価値が全然わかってない。企業の要は社長でなく技術者だ。
あーそれとだな、んーごほん。
今回の一番の功労者は家令のお前である。よって特別報奨と、30日間の特別有給休暇を
与える。わが領の温泉リゾートで酒池肉り・・接待用無料サービスの無制限利用も許可する。
存分に満喫するがよい。・・あれ、どうしたの?
先に療術室?・・ちょ、ここで倒れないで!」 王宮からの管制で王都結界内に進入した配達員達は、衛兵の誘導により王宮屋上の
飛竜発着場に着陸。興奮状態の総料理長が駐竜場で待機しており、配達員達から直接
空輸野菜の箱を受け取った。
そこまでは順調だったが、その後の広報活動において予期せぬ事態が発生した。
山田は、従来の「邪悪な黒魔女」のイメージを払拭すべく、配達員達の制服には
ファンシーでカラフルなデザインを選択した。具体的に言うと日曜朝の女児向けアニメの
主人公の服装を参考にした。
そうして用意された配達員達の制服姿は、山田の目にはごく普通のコスプレ美少女にすぎなかった。
しかし王都の住民にとって、それは文字通り異世界の装束だったのである。
彼女達の姿を見た人々は、東京都心に宇宙人が出現したかのような好奇心と恐怖の
混ざった表情になった。路上ゲリラライブ、ではなく山田リゾートの広報活動に
何事かと集まってきた王都民は、最初は恐る恐る遠巻きにして様子を眺めていた。
しかし彼女達が箒に乗って空中パフォーマンスを始めた時点で彼女達の正体に気づき、
騒然とした状態に陥った。
(続く) 「魔女だ!」と叫んで逃げ出す者、ひざまづいて神に祈り始める者、口をあけたまま
固まる者。あるいは「見えた・・」とつぶやいて赤い顔で鼻から血を流す若者。
念写を始める魔導士に、天啓に打たれて創作を始める吟遊詩人。
赤ん坊が泣き、羽毛竜が騒ぎ、愛玩獣が吠えた。
空飛ぶ美少女に道ゆく人がふりかえり、窓から人々が身を乗り出した。
運転手がよそ見をして魔動車事故が多発し、王都は大渋滞。
騎士団長に出世していた女騎士までもが交通整理に呼び出される始末。
もし入念な根回しを怠っていたら、責任者である山田は首をはねられ、
生き生首の刑に処せられていたことだろう。
山田領からは静養中だった家令のエンガワーが呼び出され、事後処理に走り回ることになった。
次回「その後の顛末」
すまん家令。家令?・・ああ大変だ!エンガワーが息をしていない!
誰か蘇生魔法を! だが、この騒動によって三人の配達員は王都では知らぬ者のいない存在となり、
王都円形劇場で広報活動をするほどの人気野菜配達となった。
また彼女達の勤務地である山田温泉リゾートへの旅行は、王都の貴族子弟に「聖地巡礼」
と呼ばれるようになり、山田領は貴族の保養地としての名声が高まった。
一方、王宮総料理長は空輸された野菜を使っていくつもの新しい料理を考案し、どの料理も
国王から激賞の言葉を賜った。総料理長は王都貴族達に「魔力の高い貴族にしか
食することのあたわぬ、まことの宮廷料理を創りし者」と賞され、平民からは
「奪衣の料理術士」と呼ばれ恐れられた。
空輸された野菜はほぼ全量が王宮への献上、および商会への出資貴族への販売にあてられたが
ごく一部は他の貴族達にも抽選で販売された。抽選会場には貴族達の代理人が多数
押しかけたが、ある貴族子弟は「なんとしても配達員とお話して握手がしたい」という
動機から、多数の人を雇って抽選会場に並ばせた。その行為は他の貴族達に顰蹙を買い、
しばらくして貴族子弟は何者からかの依頼を受けたアサシンギルドにより
蘇生のできない方法を使って暗殺された。
次回「エピローグ」
次で最後・・の前にちょっと脱線してみる。 剣と魔法の世界の害虫ってそうとう手強そうだな
こちらの世界なら1mmもないような指で潰せる虫も1cmくらいですごい羽音立てて飛んできそう <コラム>
三人の配達員は王都の大きなお友達、もとい貴族子弟達によって名付けられた
「赤炎の巨乳様、黄光の眼鏡ちゃん、青風のツインテ姫」(訳者注:原語ではそれらに
類似した意味の異世界スラング)という異名でよく知られている。
王国時代には彼女達を題材にした数多くの芸術作品が作成されており、特に卓上人物像に
おいて優れた作品が多い。また宮廷画家のベラケススが描いた彼女達の肖像画は、
のちの印象派の萌え絵に大きな影響を及ぼし、かのルーノアルもベラケススの色使いを
絶賛する書簡を遺している。 その後、山田が宮廷を訪れた際には貴族達から「配達員をもっと増員してほしい」と
いう要望がしばしば寄せられた。しかし山田は「魔女を集めて航空歩兵部隊を創り、
謀反をたくらんでいると思われたら嫌ですので」と言って断るのが常だった。
実際、その後も「卒業」などによって配達員が入れ替わることはあったが、人数は
3人以上になることはなかった。
が、たまたま横にいた帝国大使がその会話を聞き、魔女の軍事利用という概念が
帝国へと伝わって帝国航空魔女兵団が設立されるきっかけとなった。
魔女兵団の乙女達は、ゴーレム技術を利用した可変式人型決戦箒(ほうき)に騎乗し、
復活した魔王との最終決戦において山田と共に、闇が吠えて震えている帝都に
躍り出ることになるのだが、その物語は園芸とはこれっぽっちも関係ないため
このスレで語られる予定は無い。
このようにして山田は多忙な日々を送っていたが、その忙しさのために
身近な者に重大な変化がおきていることに、まだ気づいてはいなかった。
次回「治療法の無い病い」
植物ネタに戻してサクサク進めます。一転してシリアス&ハードなプロブレム。 >>54
朝起きてカーテンを開けると秋田犬ぐらいのナメクジがいて
ベランダの鉢植えを舐めている >>57
7メートルぐらいのコウガイビルがあらわれてナメクジ丸のみ
ま、まあ益蟲だしな、と思って引きつつ見ていたら
家から出てきた母ちゃんが悲鳴をあげてメラゾーマで焼き尽くした >>56
植物モンスターであるドライアドのナナが、不治の病であるモザイク病を発症した。
山田と出会う前に、すでに感染していたらしい。
この世界では死んでも蘇生が可能である。しかしその魔法は、死者の体を健康体に
回復させてから「ぼうけんのしょ」から死者の魂を召喚して蘇生させるという術式
だった。従って、「健康体に回復する」ということのできない老衰死、人狼・吸血鬼化、
あるいは持続性ウイルス感染症には意味をもたなかった。
モザイク病を発症した者は長い間苦しみ続け、しだいに衰弱して最終的には死を迎える
ことが多かった。そのため発症が確認された時点で安楽死を選択し、遺体は感染防止のため
焼却処分するのが常識とされていた。
だが山田は、ナナの場合は治療できるのではないかと考えた。ナナにはクローン姉妹が
存在するため、ウイルスに感染していない姉妹からクローン体を作成し、そこにナナの
魂を召喚すれば健康体に戻せると推測したのだ。
山田はナナの姉妹を探しに、ふたたび隣国を尋ねることにした。
次回「盆栽市への再訪」
ー だが、山田はそこで園芸の闇を見る。 耐病性の低いナナシリーズは生産中止。販売されたナナの姉妹達は貴族の玩具となって
全員がすでに死亡。現在生き残っているのはナナが最後。それが山田の知った事実だった。
量産園芸品種を本気で育てている趣味家は、山田以外に存在していなかったのだ。
何か方法は無いものかと樹木医を訪ねた山田は、過去に一度だけ、今は亡き大賢者が
モザイク病にかかった植物モンスターのウイルスフリー化に成功していることを知る。
それは選択浄化魔法によって全身のウイルス感染細胞をすべて分解消去、体内に
わずかに残っているウイルス未感染の幹細胞から全身を再生し、蘇生させるという
術式だった。だがその術式は極度に難しく、その後に挑戦した者は全員が失敗している。またドライアドでは試した例すら無い。
もし失敗すれば被術者の体は消滅し、ナナは永久に失われる。
チャンスは一度、ぶっつけ本番。山田は悩んだ末に心に決める。
次回「メリステム・クローン」
山田は今、誰も挑戦したことのない領域に挑む。 普通に面白そうだから書いてくれ
あと巨大魔スリップスと魔コナカイガ、魔ネジラミとの戦いとかも >>60
山田はナナの再生に失敗した。
幹細胞の抽出には成功した。しかしその後の魔力に乱れがあり、細胞がカルス化したのだ。
そこには手足も目鼻も無い、ただ増殖を続けるだけの崩れた細胞の塊があった。
だがカルスからでも植物体を再分化させることは可能である。山田はそれを試みた。
しかし再び魔力量の調整がうまくいかなかった。再生体は2体に分裂し、ナナの他に
メリクロン変異体であるナナ・ツーが生まれてしまったのである。二人は同じ記憶を
持ち、外見的にも頭のアホ毛の本数ぐらいしか差は無かったが、性格や行動に大差が
あり山田を悩ませることになった。
山田は走り回る二人を眺めながら、幹細胞はメリステムでなくステムセルなのだけれど
突っ込まないでほしいと思うのだった。
そんなある日、山田領に出入りする青年商人が使役しているドライアドの美女、
ハオルシアが失踪した。どうやら就眠中に何者かに連れ去られたらしい。
犯人は誰なのか。またその目的は。
次回「盗まれたハオルシア」
隣国の者曰く、わが国の価値基準では盗まれるほうが悪い。 山田は失踪したドライアドの特徴を尋ねた。
眼はややタレ目でまつ毛が長く、目元には泣きボクロのようなアントシアニン斑。
唇はふっくらしていて髪の毛は緑と鮮やかな黄色のメッシュ。株元はすらりと長く、
ウエストは細いが腰にはむっちりと澱粉が蓄積されており、胸にある2個の貯水球が
ゆっさゆっさ、たゆんたゆんしているという。
それを聞いた山田は、彼女と共通の特徴を持つ植物系モンスター達が、隣領の
園芸オークションに出品されているという情報に思い当たる。それらの特徴を持つ者は
いずれも領主であるチャイナー大公に高額で落札されているのだ。
もし隣領に連れ出されてしまえば、二度と彼女は取り戻せなくなる。
一刻の猶予もならない。山田は手分けをして捜索をはじめた。
次回「斑入りを集める大公」
「ねー、やまだー。『ちょすいきゅう』って、おおきいほうがえらいの?」
「一般的には好みの問題だな。だが塊根マニアは違うぞ。あいつらは貯水球の大小で
植物の値打ちを判断するから」 使い魔達からハオルシアに似た者、怪しい者の情報を知らせてもらい、魔女の配達員が
緊急救助用箒「雷鳥1号」でその都度飛んでいって確認した。しかしよく似た別株だったり、
ただの人食い魔獣遣いだったりした。手がかりがないまま時間が過ぎ、じれた山田は
双葉マークなのに自分で魔動車を運転して探しに出てしまった。
夜中になり、山田領のはずれの廃ダンジョンにちらついた明かりを目ざとく見つけた山田は
隠れ外套を使って忍び込んだ。するとハオルシアを含めた数株の斑入りがそこに集められ、
人相の悪い男達がどこかへの移動準備を始めていた。もはや応援を呼んでいる時間的余裕は無い。
ナナ達の護身用に魔動車に積んであった女児用魔杖、マハリクピーリカキュアエールを
使用して山田は魔法の戦士フラワーヤマリンに変身。誘拐団を倒しハオルシア達を救出した。
しかしその変身は山田にとって黒歴史だったため、異様なものを見てしまったハオルシアは
固く口止めをされ、救出劇に関してはその後も多く語られることはなかった。
そして間髪を入れずまた事件がおこる。お題をうけて大害虫である巨大魔スリップス、
図鑑記載名ミナミキイロアザミウ魔の大群が山田領の畑に襲来したのだ。
呪殺耐性を獲得した害虫に山田の呪術は通用せず、地球のトノサマバッタ大の虫が
口器で刺してくるため領民もうかつに近づけない。山田領の野菜危うし!
だがそこに現れたロリっ娘召喚士が不敵に笑う。
「ふはははは、どうやら久しぶりに我の出番のようだな山田っ!!!」
次回「紫の聖光」
「今回も私の錬金薬を撒いて退治してはどうでしょう」
「怖いからやめて。また人死にが出てしまう」 ロリっ娘召喚士が畑上空に展開した魔法陣から、地球の単位で波長405nmに発光ピークを
持つ紫色光が照射された。アザミウ魔には何の効果もない光だったが、その光は
アザミウ魔の天敵である魔ハナヒメカメムシを誘引召喚した。
アザミウ魔は次々とカメムシに捕食され、農業被害は終息を迎えた。
召喚士はこれからの農業は農薬でなく天敵防除だ!と言い、無い胸を張ってドヤ顔をした。
山田は無料で解決できてラッキー!と思ったが、嗜虐趣味を持つ召喚士の機嫌を取るため
くっ!領主である俺がお前のような小娘に頭を下げねばならぬとは!と思いっきり悔しそうな
顔をしておいた。だが、ちっちゃい足裏を舐めさせられるのにはさすがに閉口した。
次回「領民たち」
「なー、山田ぁー。あたいも髪の毛を斑入りにしたら、いい女になれるのかなぁ?」
「すべての植物は最初から美しい。美しいと思える人間がそこにいるかどうかの問題だ。
というか、髪の毛を脱色すると葉緑体が痛むからやめなさい」 山田領の畑の復旧とさらなる開拓は進んでいた。山田には他の貴族達のように
自分で土魔法を使って土木工事をする力量は無かったので、領民の力を借りて
少しずつ灌漑水路や防衛用食獣植物林の整備をしていた。
王都の広報活動でのグッズ独占販売権を国王に献上し、代わりに山田領から収める税金を
少し減額してもらって開拓費に充てた。
領民には山田リゾートのバイキングの食べ残・・余剰食品を使用した弁当と、
現代日本であれば最低賃金の10分の1・・もとい、気持ちだけはこめた給金で
働いてもらったのだが、前領主の強制労役しか知らなかった領民からは神のごとく
崇められ、領主としての人気は昇竜上りであった。
ついには自分の初夜権(実在しました。詳しくはググれ)を領主様に献上したいという
若い娘までが現れた。さあどうする山田。
次回「モテ期到来」
とうとう魔法使いを卒業か。山田の返答はいかに。 山田は応援に感謝しつつ娘の手をとった。そして
頬を染め、うるんだ眼で山田を見つめる娘の耳にささやいた。
「ありがとう・・僕は君の気持ちを受け入れようと思う。
でも君の ’はじめて’ は、君が本当に愛する男性を見つけた時に捧げるべきものだ。
君から受け取るのは気持ちだけでいい。僕はそれを一生大切にして生きていこう」
そう言って、オークに似た娘の申し出を辞退した。
その話が領内に伝わると、山田の株はますます上昇し、領内の視察のたびに
ゴブリンに似た娘やミノタウロスに似た娘も山田に熱い視線を送るのだった。
そんなある日、家令のエンガワが深刻な顔で領主執務室に現れた。
「ご領主様、私事で申し訳ないのですが、ご相談したいことがあるのです・・」
次回「倒れた母親」
いつまでも あると思うな 親と花。 家令のエンガワの母親は、夫が古龍に丸かじりされてからは一人でエンガワと
その3人の弟妹を育てあげた女傑であった。しかしその苦労がたたったのか、最近に
なって地球で言うところの自己免疫疾患のような難病にかかってしまった。
特殊な病気だけに療術治療も思わしい効果があがらず、このままでは命の危険もある
状態であった。
だが幸い、その病気には特効薬が存在していた。「龍舌樹の花蜜」を飲ませれば完治する
という。エンガワの相談とは、その花蜜を山田の領主としての伝手で入手できないか、
というものだった。
だが、龍舌樹は100年に一度しか開花しない事が最大の問題であった。
次回「センチュリー・フラワー」
エルフ族曰く、寿命の短きヒトの身にては、その樹の苗を植えし者が花を見ることは、
けっしてかなわぬ望みなりと。 ミナミキイロアザミウ魔で大草原不可避
でかいと顕微鏡なくても判別できて楽ですわ……(震え声) >>70
山田は王立植物園の龍舌樹がちょうど開花期であることを思い出し、植物園に向かった。
しかし時遅く、花蜜はすでに王立療術院の患者に投与され、一滴も残っていなかった。
やむなく山田は冒険者ギルドに採取依頼を出すべく、手配書に使うための念画を資料室で
選んでいた。すると画像を見た黒髪美少女メイドのミヤゲが、首をかしげながら
これって「蜜の木」ですよね・・?とつぶやいた。
詳しく聞いてみると、彼女の生まれ育った集落には「蜜の木」がたくさん植えられているという。
翌日、彼女の案内で訪れた小さな集落には、いたるところに龍舌樹が育っていた。
今年植えられたばかりの実生苗から、見上げるばかりの成木まで。数日後には開花しそうな木も
数本あった。聞けば、この集落には人生の節目に龍舌樹を植える習俗があるのだという。
自分が生まれた日。成人の仲間入りをした元服祭の日。婚礼の日。妻が娘を生んだ日。
娘が嫁入りした日。孫が生まれた日。妻がこの世を去った日。そして子供や孫に囲まれて
自分が見送られた日。
その節目に龍舌樹は誰かに種を蒔かれ、子供と共に育ち、孫と共に生長し、逝く者を見送り、
やがて樹は花を咲かせ種を結んで枯れ、その種を曾孫が蒔き・・
誰が始めた習俗なのか、知る者はいなかった。あるいは家族を難病で亡くした者が
供養のために植えたことがきっかけだったのかもしれない。今は理由も忘れ去られ、
龍舌樹は、たださわさわと風に葉をそよがせ集落に木陰を作っていた。人々はその下で笑い、
泣き、怒り、喧嘩をし、また愛し合い・・ただ静かに、人の営みが続けられていた。
数日後、山田は龍舌樹の花蜜を採取してエンガワに渡し、それを服用した母親は
ほどなくして回復した。
(続く) エンガワから母親についての報告を受けた夜。山田は自室で一人、花蜜の蒸留酒割りの
盃を傾けつつ物想いにふけっていた。
皆に愛される植物は、龍舌樹のように100年後も残っていることだろう。
だが自分の育てている植物達は、自分がいなくなっても大事にしてもらえるだろうか。
ナナ達は誰かが引き継いで育ててくれるだろうか。それとも無価値な量産品と
思われて、自分がいなくなったあとは皆に見捨てられ、枯れはてているだろうか。
それとも魔王が復活して王国が滅び、そもそも園芸を楽しむ世ではなくなっていて・・
それならそれで諦めもつくか。
いずれにしても、神ならざる身には考えても無意味なことではあった。
今はただ、自分の背中に背負える分、自分の歩けるうちは大事に守っていこう。
そう思うだけだった。
バルコニーに出た山田は酒盃を夜空の二つの月にかざし、
100年前に龍舌樹を植えてくれた顔も名も判らない誰かに、感謝の意を捧げつつ
酒盃を干すのだった。
なおその後、一時は歩けなくなるまで弱ってしまっていたエンガワの母親は、体を復調させる
ために機甲拳の再修行を開始した。時々はリハビリのために豪傑熊を素手で倒して
いるという。
そして場面は王宮へと移る。
次回「笑わなくなった花嫁」
それは山田が、泥棒さんになる物語。 白絹病、軟腐病、ネコブセンチュウ、ネカイガラとかもヤバイね
菌類と共生する種族とかどうだろう? クラリスド・ヤギオストロ・アルバ。
前王時代に探検隊が暗黒大陸から採集してきた、ヤギオストロ草の白花個体である。
かつては王宮筆頭庭師が世話をして咲かせ、その美しい花が毎年王宮に飾られていた。
前王が「純白の花嫁」と呼び、最も愛した花であった。
しかし7年前の火事で筆頭庭師が亡くなってからは、一度も花を咲かせたことがなかった
現在の筆頭庭師は「あの株は老化して花が咲かなくなったのでございます」と現王に
説明しており、王宮では「笑わない花嫁」と呼ばれるようになっていた。
現庭師は宮中工作に熱心な某伯爵と結託し、貴族達の妻や娘達への贈呈用の花を
熱心に育てては横流ししていた。それ以外の植物の扱いはいたって適当で、部下達もそれに
追随していたので、ここ数年の「花嫁」の世話は、雑用係をしている前庭師の孫娘に
すべて任せられていた。孫娘は肥料や用土、灌水量などをいろいろ工夫してみたが
株が茂るばかりで花を咲かせる気配はまったく無かった。
(続く) 山田は宮中で「花嫁」の噂を聞いて興味を持った。
しかし現庭師は、あの花はもう駄目だよと笑うばかりで、話しても得られるものは無かった。
山田は温室に出向いて、泥にまみれながら「花嫁」の世話をしている孫娘を見つけ、
ようやく詳しい話を聞くことができた。
「花嫁」は亡くなった祖父が一人で育てており、詳しい育て方は家族にも秘密にしていたこと。
隠しているのは簡単すぎて知られればすぐ真似されるからで、お前が庭師になった時は
秘密を種明かししてやると言って頭をなでてくれたということ。
祖父の残した栽培手帳に、一つだけ意味の判らない文章が書かれていたということ。
「光と影を結び 花咲く時を告ぐる日 誇り高きヤギの陽に向かいし眼(まなこ)が
開かれん」
お役に立ちますか、と不安げに言う孫娘に、山田は立ちます立ちますと明るく答えた。
その文章を聞いた山田は、ただちに一つの仮説に思い至っていたのである。
次回「ヤギオストロの白」
山田が花と絆を結ぶ秘伝、それは燃え盛る愛。 山田は謎の文章が、日長時間のことを示唆するのではないかと推測した。
自生地の気候・日長、王国の気候・日長を比較して必要なのは短日条件と予想し、
前庭師の家の倉庫で暗幕を見つけた時に確信に至った。
そして日長時間を一日の3分の1に制限し、それを30日間続けて花芽分化に成功した。
その後の出来事は園芸とは無関係なので概略に留める。
この件が気にいらない某伯爵により、山田は暗殺者を送りつけられたり地下牢獄に
落とされたりしたが協力者と一緒に頑張って最終的には全部解決した。
そして上作はまだできない孫娘から、一つだけ何かを盗んで山田は去っていった。
考えてみたらこの話では去る必要が無いぞ山田。おーい。
以上ノーカットだと上映時間100分。(意味不明)
そして次の話は山田領の近在。
次回「緑の魔境」
お題:病虫害。 山田領に隣接する未開拓の原生林、マンガの森。そこは他の土地ではすでに絶滅した
貴重な動植物の宝庫であると同時に、人間の命をおびやかす数多くの危険な生物が生息
する「魔の森」でもあった。
人体に無数の卵を産み付けて、孵化した幼虫が文字を書くかのように皮下を掘り進み、
腹部に達すると内臓に潜って食い荒らすハラモグリバエ。
下肢に無数の肉腫を発生させ、しだいに足を腐らせていくアシコブセンチュウ。
死者をゾンビ化するネクロキセラ(ブードゥー・ネアブラムシ)。
体のすべての穴という穴から潜り込み、何年も陰湿に吸血を続けるインシツアナジラミ。
「猫をモフらないと死んでしまう病」を媒介して、猫を飼いながらでなければ生活の
できない体にしてしまうネコカイナガラムシ。
さらには股間白絹病、陰嚢軟腐病、尿道サビ病、俗に男根腐れ病と呼ばれる男性器立枯病。
人間の尊厳をふみにじる各種の風土病もまた猖獗(しょうけつ)を極めていた。
魔力の低い者が防毒面を装備せずに森の奥へ進めば、立ち込める瘴気(しょうき)が
肺を腐らせる魔境。古くは「腐界」と呼ばれ、とある小国の蟲愛ずる姫君を除けば
近寄る者さえほとんどいない緑の地獄。それがこの森であった。
だがその森の最深部には清浄の地があり、そこには巨大な真紅のイチゴが存在している。
山田領にはそういう伝説が伝わっていた。
ある日、その伝説の真偽を確かめるべく一人の若者が山田領を訪れた。
次回「伝説のイチゴ」
今、若き匠の覚悟が、森の奥で試される。 イチゴ匠。王室行事であるイチゴ狩りに使用される、イチゴの管理と育成をする伝統職で
ある。
過去にも王国のイチゴ匠達は数々の名イチゴを世に送り出してきた。しかしその中でも現在の
イチゴ匠長が育てあげたイチゴ「アマ王」は歴史に残る名イチゴと讃えられており、
その名声は世界各国にまで響き渡っていた。
弟子達は皆、早々に師を超えることを諦めていたが、ただ一人だけ師を越えんとして
研鑽を積む者がいた。若い娘の身でありながら師への弟子入りを志願し、その剣の技と
卓越したイチゴさばきの腕前によって弟子入りを認められた若きイチゴ匠。
それが彼女であった。
だが、凡庸なイチゴではけっして師のイチゴを超えることはかなわぬ。
そう考えた彼女は、かの伝説のイチゴを自らのものとすべく、山田領を訪れたのである。
以前から自分も「魔の森」の調査をしてみたいと考えていた山田は、自分に加えて召喚士、
錬金術師、女匠のプチハーレム的4人パーティーを組み、「魔の森」の奥へと向かった。
(続く) その探索行は、幾度となく一行の命をおびやかす過酷なものだった。
ある時は山田を襲ってきた魔獣を女匠が倒し、またある時は召喚士に山田が助けられた。
時には錬金術師が山田の命を救うこともあった。
こうして最深部に至った一行は、ついに伝説のイチゴに対峙した。
その姿の紅玉色の輝きに皆が見とれている時、イチゴはぶるりと体を震わせ、長き眠りから
目を覚ました。その赤い瞳と目が合った時、一同の頭の中に人間とは異質な生き物の
思念が流れ込んできた。それはヒトの言葉では表現できぬものであったが、思念の意味は
明確に理解できた。
ーー 小さき者よ、我があるじとなるにふさわしき者であるか否か、自らの力をもって
我に示せーー
女匠は片刃の鍛造剣をかまえて必殺剣技の構えをとり、錬金術師は魔杖を握って全体防御魔法の
準備をし、召喚士は極大攻撃呪文の予備詠唱を開始、山田は邪魔にならない距離に
素早く退避し固唾を飲んで見守った。
その時、イチゴは真紅の巨大な翼を広げると、大きく羽ばたいて空へと舞い上がった。
次回「天空の覇者イチゴ」
女匠の命をかけた戦いがはじまった。 <脚注>
イチゴ狩り:
炎龍ストロベリーの亜種であるイチゴを使役し、ゴブリンやオークを狩る王族のスポーツ。
トクガー王家の開祖、イエヤス王が無類のイチゴ狩り好きであったため王室行事となったと
伝えられている。 バトルシーン省略。
かくして女匠は真紅の雌イチゴに主人として認められ、イチゴを「アキ姫」と名付けて
王都へと連れ帰った。その後「アマ王」と「アキ姫」は王国の双龍と呼ばれるようになり、
のちに2頭は番いとなって、その間に数々の名イチゴを生み出したという。
山田? 魔の森で酸っぱい味のする新種の草を発見して「スコンブ」と名付け、
それを栽培して売り出し、ちょっとだけ儲けた。以上である。
次回「茸人を統べる妖花の女王」
お題:菌類と共生する種族。 バンパイア・ドライアド。通称フセイラン。
植物系の魔物であるが葉緑素を持たず、菌類系魔物のマイコニド(姿が人間に似た歩くキノコ。
ファンタジー系ではわりと定番)の首筋に噛みつき、生命力を吸い取って生活する魔物である。
言ってみれば植物版の吸血鬼というか、吸茸鬼である。
フセイランは魔力によって茸人(と書いてマイコニドと読む)を下僕と化し、自分に
生命力を捧げさせていた。しかし一方でフセイランは下僕に「女王の黄金水」と呼ばれる
魔力のこめられた液体を与え、茸人はそれを頭にかけられることで活力を得ていた。
つまり両者はある種の共生関係を築いていた。
フセイランのしなやかな肢体、透けるように白い肌、輝く銀髪と血のように赤い目には
凄みのある美しさがあり、茸人を下僕として使役する生態と相まって「妖花の女王」という
異名がつけられていた。「女王」を手元に置いてみたいと考える貴族は多く、懸賞金をかけられて
フセイランは次々と乱穫された。しかし「餌」となる茸人は森の中の特定の樹木から
引き離すと、なぜか衰弱して死亡してしまう性質があった。そのため茸人を森から引き離す
ことは不可能であり、それゆえフセイランもまた人里に連れ出すことはできなかった。
しかしその事実が周知された頃には、すでにフセイラン族は狩りつくされていた。
そして貴族の館に捕らえられていた全員が次々に衰弱して死亡。
こうして数十年前にフセイラン族は絶滅した。
ーー と、そう考えられていた。
次回「その2」 ところがある日、ヤーフ領のオークションに突如として生きたフセイランが出品された。
現代日本で言うとニホンカワウソの生体が出品されたような状況である。
絶滅種とされていたため売買を規制する法律が無く、出品停止にする根拠は無かった。
すぐに入札合戦が開始され、あれよあれよと言う間に価格が高騰。最後には「からかって
架空入札しただけだよね?」と言いたくなる値段で落札された。
この件は園芸家の間で大いに話題となり、「あれ見た?」「見た見た。でもあれって、
幻覚魔法で作った画像で、実在しないんじゃね?」などといろいろな憶測が飛びかった。
ほとんどの者はすぐに忘れてしまったが、本気で詳しく調べてみようと思った男がいた。
おなじみ山田の登場である。
次回「その3」
今回のエピソードもけっこう長くなります。 山田は、フセイランと同時出品されている安価な商品をさりげなく落札しておいた。
それによって出品者の所在と名前を確認し、とある小領の領主である事を知った。
そして、その領主への突撃取材を試みた。
とは言っても門前払いされぬよう、あらかじめ国王から紹介状をもらい、アポを取って
からの話である。ところが領主は、自分の臨時収入の話を聞きつけて王都から徴税人が
やってきた、と勘違いしてガクブル状態であった。
いえいえ、わたくしは官司ではありませぬ。山田デリバリー商会と申しまして、
と自己紹介すると、
え?あ、ああ・・あの有名な。・・では徴税のお話ではない・・のですか、と、領主は
心底ホッとした表情になった。
じつは領邦内の各地に残っている伝統野菜の調査収集をしております。オークションで
お取引させていただいたのも何かのご縁、こちらの領内での野菜収集をご領主様に
ご許可いただけないものかと思い、お願いに参上いたしました次第でして。
は、まあ、そ、そういう事でしたら、も、問題はないでしょう。
しかし何ですな、商会長様が直々に調査に回られているのですな。
やはり王室御用達になられる方は熱意が違いますなあ・・。
などと徐々に警戒心が解けていき、やがて交渉成立を祝してその晩に山田が一席設ける、
という話がまとまった。
次回「その4」 というわけで近在の高級宿の併設酒場、地球で言うと地方の中堅ホテルの最上階レストラン
個室席、といった感じの場所で酒席が設けられた。
領主から調査許可の書状を受け取ったあと、ここは私の奢りですのでご遠慮なさらずに、
と言ってどんどん酒を勧めた。ちなみに山田が飲んでいたのは酒に似た色の安い茶である。
領主に酔いが回ってきた頃を見計らって、
そういえばご領主様はフセイランもご出品なさっておられましたが、あのような珍種を
捕えるまでの遠征旅行は、さぞかし大変だった事でしょうな、
などと話を振ってみた。
そしてポロポロと口をすべらした話を総合してみると、どうやら領内で魔獣の猟師が
偶然にフセイランを見つけ、その話を聞いた領主が領兵と共に猟師の案内で現地に
おもむき、捕えてきたものであるらしかった。
ーー もう一匹も、もっと育っておれば捕まえてきて売り物にできたのだがな ーー
領主が酔いつぶれる前に言った言葉を、山田は聞き逃さなかった。
次回「その5」 翌日から山田は、領内を回って聞き込み調査を始めた。やっていることがほとんど私立探偵か
秘密諜報員である。山田領の領主の仕事はどうなっているのか山田。がんばれ家令。
「こんにちわー。いや怪しい者ではありません。ご領主様にご許可をいただいて、珍しい
地場野菜がないか探している山田と言います。こちらはお姉さんの畑ですか?
ん〜〜、これは美味しそうですねえ。この葉の紫と黄色の水玉の色艶が何とも。
根はどうなってます?え?抜いていい?・・ではお言葉に甘えて・・よいしょっと。
おおお、生きがいいなあ、すっごく走り回ってる。食べ方は?ふむふむ、煮付けと・・
活き造り?私の故郷ではサラダと呼んでますよ。
こういう新鮮な野菜を毎日食べてると美容にいいでしょ?だってお姉さん、お肌がツヤッツヤだし。
とてもお孫さんがいるようには見えないですよーいやホント。
あ、あと、このへんの森ではどんな山菜や魔物が採れるんでしょうかね?」
こうして農家のおばちゃん、もといお姉さんに聞き込みを続けた。そしてある集落で
一つの情報を得た。
「このあいだ、あの領主がむさい男達と一緒にうちの家に来たんだよ。森に魔物狩りに
行くから食い物をよこせって言うの。貧乏人から徴発しないで自分で用意してほしいよねぇ。
金?あのドケチ領主が払うわけないさ。あ、私が話した事は領主の奴には内緒だよ。
どこに向かったかって?あっちの森だね。何を狩りに行ったんだかは知らないよ。」
どうやら向かうべき場所が絞り込まれてきたようである。
次回「その6」 こうして山田は問題の森へと向かった。領主であれば自領での狩猟採集は自由であるが、
他領の者の場合は申請して許可をもらう必要があった。しかし今回の場合、許可がもらえる
とは思えなかったので、黙って森に入った。不法侵入である。
というか、本来であれば冒険者ギルドへの届け出もなく森に入るのは自殺行為である。
この世界の森には魔獣が出没するので、大雪山山系のヒグマのテリトリーに入山届けを
しないで単独行するようなものである。高確率で魔獣さんこんにちわ、三毛別羆事件
になってヒャッホーイである。知らない人はググるな危険。いやマジで。
とはいえ山田も「魔の森」で魔獣に襲われて学習していたので、光学迷彩に加えて
体臭と体温の隠蔽効果のある「隠れ外套ロイヤルセレブ」(命名:山田)を着用していた。
そのため魔獣との戦いは免れた。
しかし森の中に入り込んでいくうちに携帯占術板が圏外になっていてプチパニック。
岩から滑落し、食料をアイテムボックスごと落とし、鍛えてない足がつった。
しかし数々の苦難を乗り越えてそのまま道に迷・・森の奥へと進んだ。
次回「その7」 ここで解説を加えておくが、自生地で希少植物を見つけることは思うほど簡単ではない。
自生地内にある程度の個体数が散在している場合には、漠然と歩き回っているだけでも
意外と見つけられるものである。
しかし限られた1地点にしか自生していない、という場合には「○○山の✕号登山道の稜線側」
などという具体的な情報があっても、見つけきれずに戻ってくることがしばしばある。
その場所に詳しい案内人がいるか、GPSロガーによる詳細な位置情報が入手できなければ、
そう簡単に出会えるものではないのだ。
しかし山田の場合は違っていた。彼のステータス値は「知性」と「怪しさ」を除いて
すべてが微妙な数値であったが、隠しパラメータである「運命」はレベルMAXで数値が
カンスト状態だったのである。そのため彼は大きな運命の歯車に動かされ、ある場所
へと向かっていた。そうでないとストーリーが進まないからだとか、ご都合主義だとか、
そんなチャチなものでは断じてない。
次回「その8」 そして山田は、地面が妙に荒らされている一帯を見つけた。
これは・・人間が入り込んだのか?・・周囲を見てみると、落ち葉を集めて積み重ねている
場所がある。何だろう? そう思って木の枝を拾い、落ち葉の山を崩してみた。
するとその中から出てきたのは・・
死体だった。
土気色に変色した手が、落ち葉の中から現れた。
「”#$ぎ%&ぇ&;よf^!!!!」山田は文字にも書けぬ悲鳴をあげた。
幸い、さきほど排尿したばかりだったので、失禁はまぬがれた。
だがこの死体が登録済の冒険者なら、教会に連れていけば蘇生できるかもしれない。
少し冷静さを取り戻した山田は、死体をあらためて見てみた。
するとその死体はどうやらヒトではなく、頭を潰された茸人のようだった。
死後だいぶ時間が経過しているようで分解が進んでおり、枝で強く押すとその体は
土塊のようにボロリと崩れた。
さらに探すと、同じような落ち葉の山がいくつも見つかった。
ある落ち葉の中には火炎魔法をうけたと思われる、一部が炭化した死体。
また別の落ち葉の中は刃物でざっくり切られたと思われる死体。
「こんぼう」を握りしめた死体もあった。誰かに一撃でも反撃しようとしていたので
あろうか。
どうやら「女王」がこの場所から拐われたのは間違いなさそうだった。これらの死体は
抵抗しようとした茸人の下僕達だろう。生き残りはいないのだろうか。
その時、山田の視界の隅に、何かがごそりと動くのが映った。
次回「その9」 魔獣か!
山田はその場で動きを止めた。隠れ外套を着用しているので、音を立てなければ普通の
者には山田の姿が見えないはずである。
しかし、下草をかきわけてゴソゴソと現れたのは、枯れ葉を両手にかかえた茸人の幼児だった。
幼児は死体を隠してある落ち葉の山の上に、新しい枯れ葉を加えた。それから山田が
乱した落ち葉を整え、落ち葉の山に向かって祈るようなしぐさをし、フヨフヨと踊りはじめた。
死体を落ち葉で隠し、その前で踊るというのが茸人の一般的な習俗なのか、それとも
幼児が発案したオリジナルなのか、山田には判らなかった。だが、少なくとも茸人は
仲間の死を悼む心を持っている種族のようだ。山田はそう判断した。
この幼児が一人だけ生き残って、大人全員の死体を弔って回っているのだろうか?
そっと近づこうとした時、山田は足元の枯れ枝を踏み折って、ばきりと音をたてた。
幼児はビクッとして、踊りをやめて一目散に逃げ出した。
・・とはいえ、その逃げ足の速さは人間の幼児のヨチヨチ歩きと大差がなかったので、
山田がそのあとを追跡するのは容易だった。
次回「その10」 少し移動すると、周囲の空気が変化していることに山田は気づいた。
明らかに魔力濃度が高く、山田の体力も妙に回復しているような感覚がある。
その魔力の流れの中心にあったのは、樹齢もわからぬほどに年老いた一本の巨木。
山田にも名前のわからぬその木は、山田の知識にない聖なる魔力属性を帯びており、
山田の知っている言葉で言うならば「ご神木」とでも呼ぶのがふさわしい存在だった
そして、その神木の根本に、一人の大人の茸人が横たわっていた。領主の配下と戦った
時の負傷であろうか、頭の茸笠が半分もげていて汁が流れ、片目はつぶれ全身が傷だらけ。
あちこちに虫がたかってブンブン飛んでいる。
その体にさきほどの幼児がしがみついて、だんだん近づいてくる見えない何かに怯え、
ブルブルと震えていた。
そして山田が何よりも驚いたのは、死を目前にしているらしき茸人の、力のない腕の中に
抱かれている裸のーー ひどくやせた、小さな赤ん坊の存在であった。
その赤ん坊の肌は透き通るように白く、髪の毛は輝くような銀色だった。
次回「その11」 山田は理解した。
ここにいるのが、最後の「女王」と、生き残ったすべての臣民なのだと。
人間の蹂躙を受けた「王国」が、終焉をむかえる時に自分は立ち会っているのだと。
彼らは、この地を離れれば生きてはいけない。人間が悠久の昔から続く「王国」を壊し、
仲間の命を奪い、「女王」に辱めを加えたとしても、ここから逃げるという選択肢は無い。
そして逃げずに戦った者は、人間に返り討ちにされて落ち葉の下に還ったのだ。
拐われた「女王」は、赤ん坊の母株なのだろうか? 美しい「女王」を人里に招きたい、
という気持ちは理解できる。だが、その行為が彼女の命を奪うということは、
今の時代であれば、少し調べればすぐに判ることではないか!!
いや違う。領主の思考はおそらくそうではなく・・
ーー ふぎゃあぁぁ、ふぎゃぁぁぁ ーー
山田は赤ん坊の泣き声で、はっと我に帰った。
ええええ、何?お腹すいてる?ミ、ミルク?このへんにコンビニとかドラッグストアとか無い?
冷静になれ山田。
次回「その12」 フセイランに必要なのは母乳ではない。
それに気付いた山田は、緊急使用を想定して分散して持ち運んでいた回復ポーションを
すべて取り出した。そして大人の茸人にどんどん与えた。
通常のポーションでは身体の欠損部位を再生するほどの効力は無かったが、生命力だけは
完全に回復できたようで、死にかけていた茸人の茸色はみるみる改善した。
茸人は起き上がって胸にかかえていた赤ん坊を抱き直し、神木の太い根に腰、でなく
茸軸をかけた。そして赤ん坊を持ち上げると、その口を自分の首筋にそっと添わせた。
赤ん坊は泣くのをやめ、長い間チュウチュウと茸人の首筋を吸っていた。やがて口を離すと、
満足そうに大きなゲップをし、ことん、と寝てしまった。
茸人は山田に向かって・・と言っても山田の姿が見えなかったので、だいぶ方向が
ずれていたのだが・・何度も感謝の意を伝えるしぐさをしていた。
あるいは姿の見えない神様が降臨して、自分達を救ってくれたと思ったかもしれない。
山田はそれを見届けると、フニュフニュと謎踊りをしている茸人の幼児に向かって
怖がらせてすまなかったな、と言ってその場を立ち去った。
ちなみに帰路もさんざん道に迷い、ポケットに残っていた腐ったパンと、雑草を食べて
空腹をごまかしつつ、夜中になってからようやく人里へとたどりついた。
次回「その13」 ただのネタスレかと思って覗いてみたらすごく面白いな
フセイランとか知らないのもあって勉強になる イチジクとイチジクコバチ、アングレカム・セスキペダレどキサントパンスズメガの関係性とかもいいネタになりそう ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています