園芸民が異世界転生したらどうするよ?
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薬用植物か果樹の種かな
葉物野菜は人間がいる世界なら現地のものがあるだろうし日常的に多用する(大量生産が前提)ものなので
貴族や大地主の息子にでも転生して広い土地がないと詰みそう
鑑賞目的にしか使えない植物は社会が一定以上豊かで文化的でないとそもそも需要がないだろうし
実用性があってかつ少量しか生産しなくても十分な利益が得られる植物が望ましい
というわけで自分はブドウ 昨年にリクエストがあったので、挿話その2を投入。
試しにバトルシーン未省略フルバージョンで書いてみたら
投稿サイト3話分ぐらいになった。スレ用に分割して150回弱。
本来なら創作スレでやるか、投稿サイトに出すべきなのだが
せっかくなので2ヶ月くらいかけて順次投入していく。
廃スレを使った壁打ち行為なので生暖かく無視してほしい。
つーか文才あったら最初から投稿サイトで書く。出来は察してくれ。
酷評があったら心が折れて途中で逃亡するかもしれん。
んじゃ行ってみる。 それは、かまいたちが静かに鳴く、ある夜のことだった。
現代日本の園芸知識を持ったまま、とある剣と魔法の異世界に転生し、
ご都合主義と主人公補正で貴族にまで成りあがった一人の男。
中身の人生経験は合計50年越えであるにもかかわらず、前世でも今世でもいまだ
女性経験を持たぬヘタレ、山田準男爵は領館内の自分の寝室で、何か異様な気配を
感じて目を覚ました。
新規読者にフレンドリーな解説的描写である。
寝室の入口横にある魔石燭台から広がる淡い光。その明かりを背にして黒い人影が
立っていた。 驚いた山田は声にならぬ叫びをあげるとベッドから飛び起き、入口から離れた壁に
背中ではりついた。影の正体は魔物か、それともアサシンギルドの手の者か。
防犯警報の魔道具と、複数の魔術結界を設置している領主寝室に、どうやって
入りこんだのだろう。
よく見れば、その影はヒトの影ではなかった。 頭の上に突き出た大きなネコミミ。その形に見覚えがある。
山田領内の猫メイド喫茶で働いている猫獣人の若い娘、略して猫娘。
言うまでもないが、鬼○郎のパートナーの妖怪少女とは無関係である。
しいて言うとアニメ版6期のニャンニャン娘を、もう少し大人寄りに魔改造したと
でも言おうか、少女と大人の境界に棲む優美にして妖しい魔性の獣。
どうでもいいが猫○が着用しているランジェリーが実物商品化されるとか、
恐ろしい時代である。何考えているのかバン○イ。ふざけんなもっとやれ。 山田は一気に体の力が抜けた。侵入者が猫娘なら、命を狙いに来たのではない。
それ以外の危険はあったり無かったりするが、とりあえず置いておく。
彼女はいかなる方法を使うのか、防犯魔道具を回避して山田の寝室に忍び込み
仕事をさぼってフカフカの高級寝台で惰眠をむさぼるのが日課である。
以前は夜中に、狩りで捕えたネズミ的な小動物を枕元に並べに来たこともある。
だが今回は、獲物を口にくわえてはいない。
しなやかな肢体に薄布の夜着をまとい、大きく空いた胸元から控え目に薄く生えた
柔らかそうな体毛が覗いている。 彼女の髪の毛は純白で、オレンジと黒のメッシュが入っているので、おそらく
体毛も同色なのだろうが、薄暗くて色まではよく判らない。
彼女は、ぷるる、と小さく震えると、ヒトとは異質な動きで山田に顔を向けた。
素足が床の上をするりと動き、足音も無く近づいてくる。
薄闇の中で大きく開いた丸い瞳孔。黒水晶のような瞳が、整った顔立ちに映える。
どこか人間離れした、猫獣人の中でも上位に属する美貌。
光の加減でぎらりと一瞬、眼が赤く光る。
秘密めいた怪しく見つめるキャッツアイ。 おっさん連中から緑色に光るんじゃないのか、という突っ込みが入りそうだが、
猫の網膜下反射層(タペタム)の反射色は個体によって異なるのである。
余談だが、某なろう作家の愛猫「翠星石」は金目銀目(オッドアイ)だが
右目が赤、左目が緑に光る。閑話休題。
彼女は山田の前で立ち止まると、「あふぅ」と小さく妙な声を出した。
そして固まっている山田をうるんだ眼でじっと見つめ、山田の体にそっと両腕を回した。
ぎゅ、と抱きしめてくる細い腕。密着してくる華奢な熱い体。薄布越しに
むにっと体に押しあてられてくる、柔らかくそれでいて弾力のある双丘。 猫娘は一旦離れると、今度は山田の胸元に顔をうずめてグリグリと動かし、
くふ、と息を吐いて上目遣いで見上げると、口元を少しゆるませた。
整った口から小さな牙がちらりと見える。猫娘は荒い呼吸をしてから
かわいらしい舌で唇を湿らせると、濡れた唇をゆっくりと山田の顔に近づけた。
そして突如として始まる、情熱的で激しく荒々しい行為。
彼女は山田の鼻の頭を舐めはじめた。
ぞりぞりぞりぞりぞりぞり。鼻が痛い。痛い痛い痛い鼻が削れてしまう。
猫の舌にはオロシガネ状の棘が生えている。バター犬はいてもバター猫がいない
理由がよく判る。
おそらく獣人独特の愛情表現なのだろうが、状況がよく理解できない。 どうも様子が普通ではない。話しかけても返答が支離滅裂で、ヒトであれば
完全な酔っ払いである。何か変なものでも食べたのだろうか。
山田は顔にかかる彼女の熱い吐息の中に、かすかに果物のような香りを感じた。
肉食女子の彼女は、通常は果物など食べはしない。…もしかすると。
山田は毒殺避けに常時装備している「解毒の指輪」を自分の指からはずし、
猫娘の指に嵌めた。効力が発動した時の赤い光が明滅すると、猫娘の体から
力が抜け、くたくたと床に崩れおちた。彼女は機嫌良さげにゴロゴロと喉を
鳴らしたあと、床の上で、もぞもぞと丸くなって寝息をたてはじめた。
その姿を見て、山田は大きくため息をついた。 「これが原因でしょうか」
翌朝、猫娘の宿舎を調べた黒髪美少女メイド(本職)のミヤゲが、かじりかけの小さな
果実を発見した。緑橙色の砲弾型で、内部に黒い小さな種子が散在している。
「タタビの木の実のようだが…」山田は首をかしげた。
タタビは王国内に自生する蔓性の樹木である。その実には猫獣人の性フェロモンに似た
成分が含まれ、猫系の獣人が口にすると特殊な高揚感がある。山田領内でも猫獣人の
ストレス解消用、あるいは媚薬的な効果を期待して販売されているが、その効力は
それほど強いものではなく、効果も短時間で消失してしまうため薬物扱いは
されていない。 昨夜の猫娘の状況を、タタビの影響と考えるのは納得がいかない。
確認のため識別魔法で果実を調べた山田は、鑑定結果に息を飲んだ。
向精神成分が異常に高く、含有魔力も魔力草並みである。普通のタタビと比較した場合
その効力には天然のコカノキの葉と粗製コカインぐらいの違いがある。
「これは…魔タタビだ」
魔タタビ。古代エルフ族が遺伝子工学によって作り出したデザイナーズ・プランツの
一つ。現在では魔薬取締法、および遺伝子操作生物条約カルヘタナ議定書によって
一般流通が禁止されている魔法植物である。 だが、山田が驚いたのは違法ドラッグだったからではない。魔タタビはエルフの里以外では
結実しないとされているからである。王立植物園でも数系統の個体が許可をうけて
栽培されているが、人工授粉で他系と交配しても稀に小さな実ができるだけで、
完熟前にすべて落果してしまう。完熟果実はエルフの里から門外不出とされており、
実物を見たことのあるヒト族がほとんどいない、幻の果実だったのである。
現在ではエルフの里から魔タタビの実を持ち出すのはオーストラリアからカモノハシを
持ち出すよりも難しく、個人であれば合法・非合法を問わずほぼ不可能と言ってもよい。
密輸を試みて発覚すれば種族間問題に発展し、犯人は勇者から直々に討伐される
ような品物である。そんなものがどうしてここにあるのか。
不謹慎な話であるが、山田は植物屋として限りなく興奮を感じていた。 正気に戻った猫娘から事情聴取したところ、魔タタビの実は猫メイドカフェに来た
冒険者風の男性客から貰ったものだという。
「気持ちの良くなる猫オヤツだよ。試してみない?」と言って渡されたそうだが、
天然ボケの猫娘は「ありがとうなのニャ(はぁと)ここで(注文したお茶が出てくる
まで)待っててほしいのニャ」(注:語尾にニャをつけるのは営業用の仕込みである)
と言ってポケットに入れると何か貰ったことはその場で忘れ、客のことを放置プレイで
帰ってきてしまったという。だって猫だし。 夜中に着替えた時にメイド服のポケットから見つけ、味見してみたあと彼女の
記憶は飛んでいた。
というか制服着たまま宿舎に帰ってはいけないと、山田に何度言われたら判るのか
猫娘。着替えを一回で済ませようとしてはいけない。それと下着は着用しろ。
猫娘を酔わせて店外に連れ出し、アレとかコレとかしてやろうと画策していたであろう
男性客は、あとで悶絶したことだろう。それにしても、種族間問題の発端になるような
特殊ドラッグを持ち歩いていた者が、普通の冒険者だとも思えない。 それ以上にドラッグの来歴が問題である。生きた植物には一般的な収納魔法が
効かないため、遠方から時間停止状態で輸送したとは考えにくい。
日持ちしない果実でもあるので、近在で栽培されたものである可能性が高い。
魔タタビはそこそこ大型になる植物なので、魔リファナのように魔法照明を
使って押入れの中で育てたりはしないだろう。おそらく屋外で栽培されたものだ。
領内で人目につかず、なおかつ凶暴な大型魔獣が出没するほど奥地ではない場所。
それらしき候補地をいくつかピックアップし、山田のことが気に入って領内に
住みついているロリっ娘、もとい山田の協力者である伝説の召喚士が使役する
偵察用小型飛竜によって航空幻像調査をおこなった。 その技術を請われて山田領の魔導技術主任にスカウトされた、地球人基準で十代と
言っても通用する外見の知的な美人のお姉さん、もとい元宮廷錬金術師による
幻像解析の結果、東の領境に近いハゲワロスの森の一部が切り開かれており、
昨年までは存在していなかった小屋のようなものが設営されていることが判明した。
ナイスミドルな家令のエンガワが書類を調べてみたが、開拓申請も居住登録も
提出されておらず、あきらかに怪しい。
山田は領主としての使命感と生来の野次馬根性から、暇潰しに一緒について
いくことにした召喚士と共に、魔薬農場だと疑われる場所へ調査に行く事にした。 ハゲワロスの森の周囲には「不可避の大草原」と呼ばれる風衝植生が広がっている。
この草原には地竜という地下棲の魔物が棲息しており、人間が草原に入り込むと
足音などの振動に反応して地中から襲いかかってくる。
一度ロックオンされると、土魔法によって土中を高速で掘りすすむ地竜から
逃げることは難しい。草原には樹木や岩場のような捕食から逃れられる場所
が無く、これが不可避と呼ばれている理由である。 地竜の内臓を取り除いて干したものには解熱効果があり、地竜エキスに加工して
感冒薬の錬成素材にするが、それほど高価な素材ではない。
素材採取の危険に見合う魔物ではないため狩りに来る冒険者も稀で、大草原に
近寄る人間はほとんどいなかった。その中央に位置する森は、魔薬業者の
アジトにはうってつけの場所である。 大草原の外縁にたどりついた山田と召喚士は、王都の魔道士ソーガン卿が開発した
遠視の魔道具で森の状況を観察していた。もし魔薬業者のアジトがあるならば、
うかつに近寄れば索敵魔法で感知され、攻撃されたり逃亡されてしまうかも
しれない。まずは情報収集からである。
「暇だのう。面倒臭いから炎精魔人でも召喚して、あの森ごとすべて灰に」
「ちょ、乱暴な事言わないでくだ…あれ?誰だ、あんなところに…」 はっきりと確認できないが、森の奥から金髪の少女らしき誰かが走り出てきた。
草原の中を走るのは、地竜に「御飯ですよ」と言っているようなものである。
どう見ても正気の沙汰とは思えない。
そのあとを追って、森の中から3人の陸(おか)サーファーが現れた。
陸サーファー(注:原語ではそれに対応する異世界語)とは、地表すれすれを
飛翔するサーフボードのような魔道具に乗り、地面に触れることなく移動する
スキルを持つ者のことである。 3人は少女を取り囲むように移動すると、全員で周囲をぐるぐると回りはじめ、少女の
走りを止めた。少女は疲れ果てたように膝をつき、地面に倒れた。
「行って手助けします!」
「おぬし、どっちを助けr」
「女!」
「あー、そう言うと思ったわ。しかし事情も判らんのに首を突っ込むのか?
終日営業の雑貨屋で万引きした女学生を、店員が捕縛したのかもしれん」
「こんな場所に雑貨屋はないです!それに、どんな事情があったとしても
俺は女の子の味方です!」 「おぬし、かっこいい事を言ってるという顔だが、発言内容に問題があるとは思わんか」
「援護頼みます!山田、行きまーす!」
「おいちょっと待たんか」
山田は少女に向かって草原を走り出した。どう見ても正気の沙汰とは思えない。
走ってくる山田を見た陸サーファー達は、一瞬とまどった様子を示したが
すぐに無言でエアギターの構えをとった。
なんと、陸サーファーはエアギタリスト(原語では以下略)でもあったのだ。 エアギターとはこの世界の魔法技術の一つで、体の前で魔法力を練り上げて
超音波の刃を作り出して放ち、相手を殺傷する魔法である。
人間にとっては無音かつ目に見えない攻撃であり、攻撃者の手の動きを見て
すばやく反応するか、魔法力を感知あるいは妨害するスキル・魔道具を使用
する以外に対抗手段は無い。
男達が体をのけぞらせて、激しくエアギターを奏でた。目には見えないが、
山田に向かって無数の音の斬撃が飛んできているはずである。 山田は護身用の魔導刀「洞爺湖」を抜き放ち、エア斬撃を放った。
エア斬撃とは、魔導武器を使って魔法力でできた斬撃を作り出し放つ、無音の
目に見えない攻撃である。それはまるで、ただの素振りであるかのように見える。
世界樹の枝を加工して作られた「洞爺湖」には膨大な魔法力が秘められている。
目には何も見えず感じられもしないが、すさまじいエア斬撃が空中を走った。
エアギターの攻撃はすべて相殺され消滅した。男達は驚きに目を見張った。
「いきなり攻撃してくるとは、貴様らは悪者で確定だな」
むろん山田に確信があったわけではない。たまたま正解だっただけである。 山田は間髪を入れずエア手榴弾を男達に投げつけた。
エア手榴弾とは、魔法力のみで構築された非物質の見えない「爆弾」である。
「爆発の概念」を相手に投げつけ、物理的な効果を発生させることなく爆発したという
結果のみを生じさせる、いわゆる概念魔法の一つである。
男達が新たに放ったエアギターの見えない攻撃と接触し、爆発の概念がまきおこった。
3人のうち2人は爆風の概念によって体のバランスを崩し、空飛ぶサーフボードから
落下した。すかさず山田がエア斬撃でダメージの概念を与え、体の自由を奪う。 残った一人は概念の直撃をまぬがれ、あわてて体勢を立て直そうとしたが
サーフボードの上で大きくよろけた。
初級の浮遊魔法で体を引き上げようとしたらしく、体の重心が不自然に移動した。
あたかも上半身にハーネスがつけられていて、上方からワイヤーアクション
で引っ張ったかのような動きである。服が変にひきつれて、肩のあたりに
過剰な魔法力が放出された時のモアレ状のちらつきが見える。
修正技術が素人レベルであることが一目瞭然である。 山田はその隙を見逃すことなく、奥義「エア真空斬」を放ち、男を空中から
撃ち落とした。エアにして真空であるが、そういう名前の魔法なので気にしたら
負けである。男は頭から落ちて気を失った。
筆舌ではとうてい伝わらぬ、激しい攻防であった。もし映像化されたならば、
視聴者は壮絶な目に見えぬ戦いに、唖然として言葉を失うことであろう。
山田はほっと息をつき、魔導刀を仕舞い、追われていた少女のほうへと近づいた。
少女は地面に倒れ伏したまま、ぐったりして動かない。
息はあるようだが、無事かどうか確かめてみねばならない。 そう思った時、地面がズン、ズンと振動し、山田から一番離れた場所に
倒れていた男の下がいきなり陥没し、サーフボードごと地中に吸い込まれた。
ギギギギギャイーーーンギャリギャリギャリンッ
ドカシッゴボッグガガガガガガボガボ
ガココココココバキバキバキャキャキャ
ガコッガコッガコッガコッグゴゴゴゴゴ
グモッチュイーーンボゴゴゴゴゴ
固いものをミキサーでむりやり粉砕するかのような、嫌な音が響いた。 続いてその隣の男が悲鳴と共に地面に吸い込まれ、再度グモったらしき音が
聞こえた。謎の動詞はググるな危険。
三人目の気絶していた男が目を覚まして頭を振り、はいずるように動いてサーフボードの
上に乗った。そして空中に高く飛びあがった瞬間、地面を突き破って、ぬめぬめした
腐肉色の円柱が飛びだしてきた。そして円柱の先端が大きく漏斗状に広がり、一瞬で男を
サーフボードごと吸い込んだ。ふくれあがった円柱は、もずもずと動きつつ土中
へと戻っていった。地面の中から何かが砕けていく鈍い音がする。 山田は一歩も動けない。地面から、まだ魔物が潜んでいることを示す振動が
伝わってくる。足音をたてれば、その瞬間に殺(や)られる。
諦めて去っていくまで、どれぐらい時間がかかるだろう。
地球時間で1時間か、半日か、それとも1ヶ月か。
あの金髪少女も、目を覚まして動いたなら即アウトである。
「お困りかな、ご領主殿」
「空飛ぶ座布団」に正座した召喚士が、魔法の瓶から熱いお茶をマイ湯呑に注いで
飲みながら、地表近くをすべるように移動してきた。 「お困りです。助けてください」
「だから言ったであろう。困ったのーこの座布団は一人乗りだからのー(棒)」
「俺が経営してる食堂の定食無料券、1ヶ月分」
「うーんどうするかのー。いつものアレも付けてくれれば考えよう」
「え” もしかして人間椅子?」
山田の顔が引きつった。 「嫌ならいいぞ。邪魔したな、ご領主殿」
「あああああ、判りました人間椅子でも足裏舐めでもいいです。
くっ!俺の背中に、こんな貧相な体の小娘の薄い尻を乗せねばならぬとは!
何という屈辱!」
「ふふふふふ、良いのう、その顔。ゾクゾクするのう何か出そうじゃ」
「いいから早くして」
「ふ、気の短い奴だの」 召喚士は指先で空中に術式印を描くと、召喚呪の詠唱を始めた。
「暗く深き地の底に棲みし盲目の獣よ、わが命(めい)に従い、疾(と)く来たりて
汝に与えられし贄(にえ)を屠(ほふ)れ」
草原に光り輝く巨大な魔法陣が出現し、地響きをたてながら魔法陣の中の土が
盛り上がって小山を成した。 魔法陣召喚。地球の西洋魔術にも召喚術はあるが、西洋の場合は術者の周囲に
魔法円結界を手描きし、魔法円の外に対象を召喚する。術者は召喚中に結界外に
一歩も出ることができず、映像的には似て否なる術である。
魔法陣内に魔物を召喚する様式は、初代勇者の故郷において天才大魔道士ミズキ・シゲル
が創始したもので、彼が考案した「魔法陣」という造語と共にこの世界に広まった
ものだと伝えられている。詳細はググってご確認頂きたい。
召喚の地鳴りに驚いたのだろうか、目鼻の無い腐肉色の、巨大な蛇のような魔物が
山田の後ろの地表を突き破り、土砂を撒き散らしながら地上に飛び出してきた。
あの男達を襲った魔物、地竜である。 地竜は山田の事はもう眼中に無い様子で、いや元々眼は無いのだが、肉質の体を
ばるんばるんと左右に蛇行させ大暴れで草原をハゲ散らかしながら、魔法陣と
反対の方向に人間が走るよりも速く移動しはじめた。
そのあとすぐ、どずん、と突き上げるような振動と共に草原が波打った。
直下型地震のような激しい揺れと共に、地竜に向かって地面の下を巨大な何かが
移動していき、地表に地割れが走った。 そして地割れが地竜の真下まで到達すると、大きく地面が陥没した。
地竜は逃れようとして暴れ、激しくのたうちまわったが土煙と共に巨大な
穴の中に崩落していった。
どこかからギュイーギューィィィ…とくぐもった悲鳴のような鳴き声が響く。
断続的に揺れが続いたが、やがて、ばちゅん、と大きな破裂音がした。
しばらくの間、ぐちゃぐちゃと咀嚼するような湿った音が続いていたが、
やがて聞こえなくなった。 召喚士が再び指で空中に呪印を描くと、地面に巨大な送還魔法陣が光り、
草原には静寂が戻った。
「た、助かりました…何ですか今のは」
「地竜の天敵の土竜じゃ。栄養剤ハニーゼリヲンを与えて、わしが育てた。
ヒトを地竜が喰い、その地竜を土竜が喰う。大自然の理(ことわり)よ」
「喰われた連中の蘇生は?」
「某書によれば、消化されてウ○コになってしまうと蘇生できぬらしい」
「そして肥料となり草木を育てる…ああ、彼らは大自然の輪廻に
還ったのですね…」
山田は名も知らぬモブ男達のために黙祷した。 「今の騒ぎで他の地竜共はしばらく近寄らぬだろう。あの連中の仲間が来たら
面倒ゆえ、今のうちに一旦退却しようかの。…それにしても、おぬしはどうやら
厄介なものを拾ったらしいぞ」
金髪少女を見て、召喚士はそう言った。
くすんだ淡緑青色の農作業服。地球人であれば十代前半というところか。
少し古びた奴隷用の首輪がつけられている。 汚れてはいるが、それでも輝くような光沢を失っていない長い金髪。
透けるような白い肌、ほっそりした体に均整な長い手足、人形のような整った顔。
閉じた目にかかる色素の薄い長い睫毛(まつげ)。
そして先の尖った長い耳。
言わずと知れたファンタジーの定番、エルフ族であった。
プライドが高く、対応を間違うと民族間問題が国際紛争で軍事衝突の人達である。
禁じられた事案にいけない興味を持つと逮捕されてしまう、危険が危ない種族である。
洋炉?その単語は何のことかよく判らない。 ともあれ『少女』は領館の療術室に運ばれ、美人錬金術師が鑑定魔法で容体を識別した。
療術は専門外なのだが、とりあえず一次救急、状態確認である。
「で、この子の状態は?」
「栄養状態が良くない以外には問題なさそう。あ、それと識別結果だと『女の子』
じゃないわよ。こういう外見だけど、ヤマダより年が」
「ああああ、それ以上言わないで!いいの女の子で!
見た目が女の子なら女の子!女の子って事にしておいて!
事件のヒロインは可憐な少女でないと話が盛り上がらないから!」
「…まあ、ヤマダがそう言うならそれでもいいけど、何なのその拘りは」 「ウゥ…」
「お、目を覚ましたか。あー、ごほん。ご気分は悪くございませんか?」
「தภา¥ษา!$ไทยமி яę*ы@к^ëழ்#!!!!」
「おぅ、全力で警戒している!汚物を見るような冷たい目!
鈴をころがすようなかわいい声だけど、意味が判らない!」
「エルフ語よ。種族依存言語だから、翻訳スキルが無いヤマダには
言語化けして聞こえてると思う」 「何と言っているんだ?」
「うーん、俗語表現なので、うまく翻訳するのは難しいのだけれど…」
「おおまかな意味だけ判れば」
「“私に接触したとき、性欲の抑制が不自由な進化の途上にある野生哺乳類には
実力が行使され、男性生殖器が強制的に躯体から分離されるでしょう”」
「なんか、すっごく可憐でない発言らしい事は理解した」 「いや、言葉は判らなくても、きっと通じ合える…コワクナイヨー。
ワタ−シ、アナータ、トモダーチ。えーと、汎種族語…
キエテ・コシ・キレキレテ」
「君ノ汎種族語ハ、判リニクイ」
「おぅっふ!、王国語が話せるのか!それなら最初から言って!」
「大丈夫ですよ。ここにおられるのは山田領のご領主様と、お若いけれどとても偉い
召喚士様。この方々が、エルフ様を悪い人達から助けたのです」
「助ケタ…?アナタ達、悪イ人間、違ウ?」
「そうです。ですから安心してください」
エルフは少し表情をゆるめたが、あらためて山田と召喚士を見て複雑な顔になった。 「…領主様、背中ニ、召喚士様、座ッテイル。何故?」
「あー…え〜〜と、これはですね、特別な事情があると申しますか、う〜〜んまあその…
エルフ様をお助けする時に、ご領主様が背中に特殊な魔法攻撃をうけてしまって
召喚士様がその治療をなさっておられるのです(嘘)」
「ソ、ソウナノカ…倒錯行為、勘違イ。怪我、私ノセイ、スマナイ」
勘違いではないが話を進めよう。
「私は山田領勤めの錬金術師、ファナと申します。エルフ様のお名前は?
お嫌でしたら無理には伺いませんが」
「…ミライア・カリ。森えるふ族。花守リ(はなもり)ノ一族」 「なななな、花守り?あの伝説の?それじゃエルフの里の花の話をですね」
「ごめんヤマダ、その話は後で、ね?」
「う、確かにそういう場合では…おおっと、すまぬが錬金術師殿、今は人前というか
エルフ前であるがゆえ、ほれその、お判りであるな?」
「あ、ごめ…げふん、失礼いたしましたご領主様」
召喚士が、何やってるんだ、という顔でため息をついた。
「おぬしら、あいかわらずどっちが領主でどっちが家臣だか、よく判らん感じだのう」 セイジュンとかいう極悪プラントブローカーが出てこないかな 「それはその、錬金術師殿は俺、じゃなくてわたくしがこの国に来た時、スライムに捕食
されかけてボロボロになっていたところを助けてくれた、命の恩人でありますゆえ」
「当初は私のほうが身分が上で、ご領主様はただの居候で、その関係の名残というか」
召喚士は苦笑しながら、二人の顔を見比べた。
「考えてみれば餓死寸前で拾われた、身元不明の怪しい男がずいぶん出世したものだの。
まあその話はどうでもいいが、ご領主殿、錬金術師殿の邪魔をするでない。
しばらく黙って床の皿から水を飲んでおれ。わしが良しと言うまで、そのまま
背中でわしを支えていろ。おぬしの出番はもう少し後だ」
「く〜〜ん(泣)」
「アナタ達ノ身分関係、全然判ラナイ。ケレド、ナントナク、力関係、判ッタ」
この人達の関係は考えてもよく判らない。考えるのではない、感じるのだ。 「?…首輪ガ無イ…」
「ああ、『隷属の首輪』ですね。邪魔そうだったので外しました」
エルフは驚いた顔で目を丸くする。
「外シタ?ソレ、無理ニ外ス、死ンデシマウ。
死ンダ時、蘇生デキナクスル、呪イノ首輪」
「管理者権限の術式を書き換えて、普通に外せるようにしました」
錬金術師がにっこりと微笑む。
「??? 術式、暗号化。多重防護、改変デキナイ」
「最新の量子術式でもないですし、術式の脆弱性を突けば普通に上書き
できます」
「イヤ、ソノ理屈ハ、オカシイ」
エルフは混乱している。 「外シタ首輪、ドコ? アノ首輪、固有魔力、発信スル。
私ノ位置情報、アイツラ判ル。キット今日ノ夜ニモ、連レ戻シ、来ル」
「はい、そうではないかと思い、首輪だけ別の場所に移しておきました。
いつ来ても心配はありません。むしろ来い? うふふふふふ」
「何ソレ怖イ」
「それよりも、あいつらとは誰です?さしつかえなければ、何があったのか
最初から教えていただけませんか?」
エルフは錬金術師から時々さしはさまれる質問に答えつつ、自分の事や、
これまでに何があったのか、知っている事を語り始めた。 花守り。森エルフ族が過去に品種改良によって作り出した栽培植物を保全育成
している、特定家系エルフの世襲職である。
魔タタビも、花守りが管理対象としているエルフの秘木の一つである。
門外不出とされてはいたが、長い年月のうちには何本かの魔タタビが、エルフの
里から外に持ち出されていた。ほとんどの場合、植物園や大貴族の庭園で厳重な
監視の下に栽培されていたが、そこからさらに枝が盗みだされ、挿し木などで増殖
されて闇市場に出回ることがあった。しかしそれらが結実したことは一度もないと
言われ、そのため今までは大きな事件に発展した事はなかった。 ところが、その魔タタビを闇ルートで買い集め、魔タタビ農園を作り上げた男がいた。
陸(おか)海賊の頭目、賞金首のニシューハ・タシェジューンである。
陸にいたら海賊ではなく陸賊、あるいは山賊か盗賊ではないのか?と思われる
かもしれないが、この世界ではそういう呼び名なのである。宇宙にいても宙賊ではなく
宇宙海賊である。魚で言えばトゲナシトゲウナギ。ちょっと違うか。
世界一のトレジャーハンターを自称し、「炎上のニシューハ」という二つ名を持つ
この頭目は、世界各国で数多くの略奪を繰り返している悪名高い人物である。
念のため申し上げておくが、これは異世界の物語であって地球に存在する人物・
団体等とは無関係である。 彼はもともと古い陸海賊の家系であったが、ある日、大頭目である父親と意見が
対立して大喧嘩となった。そして配下の一部を引き連れて実家を飛び出し、新たな
陸海賊団を結成した。その後、あちこちの都市を襲って炎上させ、何をしでかすか
わからぬ男として恐怖と共に語られる存在となっていた。やがて、ある野望の達成
にむけて遠大な計画を練り上げ、それまでに蓄財した資金を使って、闇に隠れながら
行動を進めていた。
繰り返し申し上げるが、地球のどこかに似たような経歴の人物がいたとしても偶然の
一致である。そしてこの頭目はここから当エピソードのラスボスとして醸成されていく、
完全なるオリジナル設定のキャラである。 って、さらっとネタバレ来たコレである。
地球の人の話なんかしてる場合じゃねえのである。 頭目の野望ロードマップ第一段階、それが魔タタビの大量生産であった。
量産化に成功した暁には、頭目は真の目的に向けて行動を開始する予定だった。
その目的とは猫獣人の里を急襲し、魔タタビの洗脳効果によって住人すべてを支配する
電撃的侵略計画である。反抗する雄獣人は皆殺しにし、すべての猫女子を魔タタビに
よって従順な奴隷と化し、思う存分モフり放題、やわっこいお腹に顔をうずめて
猫吸い放題やりたい放題の猫まみれ王国を築く。それが頭目の野望だったのである。
冬のお布団の中で猫ハーレム開催は全世界の男の夢、モフモフ王に俺はなる!
そういう願望を抱くのは一部の人だけですかそうですか。 こうして誰も近寄らぬ「不可避の大草原」の中央にある森に魔タタビの苗が集められ、
配下の者達のブラックな農業研修生活、もとい地上の星になることを目指した挑戦者たちの
新しい農業プロジェクトが始まった。ガイアの夜が明け、下町の町工場がロケット開発を
試みるよりも困難な異業種への参入である。
当然ながら新規就農は順調にはいかなかったが、試行錯誤の末に魔タタビの苗が
どうにか育てられるようになった。ついに開花もしたが、まったく結実しない。
戦いと略奪のみに生きてきた彼らは栽培に関しては素人であり、人工交配という
言葉すら知らなかった。 というか、むしろ素人なのに育てあげてしまったことのほうが驚きである。
頭目の壮大な夢に向けた尽きぬ情熱と、脅迫もとい心情に応えた配下達の命がけの
努力があったからこそ成しとげられた事である。
だが、そこから先に進むにはどうしたら良いか、彼らには判らなかった。
しかし頭目は、そうなることは最初から織り込み済みであった。
自分にできない事は他人にやらせれば良い。自分でやろうと思うのが間違いであると。
面倒な事は誰かに丸投げし、成果と利益は自分が総取り。強き者にはその権利がある。
自分に媚びて従う者は利用して絞りつくし、従わぬ者は容赦なくこの世から消す。
それが頭目の考え方であった。 大樹ユグドラシルが魔科学兵器で枯れそうとな世界に転生した園芸民ダオス >>302
(予告編)
大樹ユグドラシル。世界樹の名で知られるエルフの聖なる木。その神木を切り倒し、
冒険者用のバングルに加工して売りさばく邪悪な企み。首謀者ニシューハが操る
古代ワトランティス文明の魔科学兵器「発掘陸戦艦」がエルフの里に迫る。
花守りミライアを助けるため、山田は神にも悪魔にもなれる黒鉄の城の封印を解く。
次回「世界一の巨木」
アナザーストーリーはこれ以上続かない。
>>303
ww 魔タタビは、エルフの里の花守りが、特別な方法で世話した時にのみ結実すると
言われていた。その手法は花守りの一族にのみ口伝で伝えられており、森エルフで
あっても花守り以外は詳細を知らないという。
ならば、花守りを誘拐してきて魔タタビの世話をさせれば実が成る。頭目はそう考えた。
ものすごく短絡的な思考であるが、あながち間違いとも言えない。短絡的でも実行して
みたら結果的に正解、という事もあろう。だが今回は「実行」の部分に難があった。
そもそも陸海賊達のように犯罪歴のある者は、エルフの里への入里許可が出ない。
仮に里に入り込めたとしても花守りの居場所は非公開で、どこに行けば会えるのか
情報が皆無である。 さらに結界の通行門を通って里を出る時にも、厳重な出里審査と所持品検査がある。
常識的に考えて誘拐などできるはずが無いのだが、頭目達にとって偶然と幸運が重なった。
それは山田領が所属する王国領邦で、昨年度に55年ぶりに開催された万国博覧会の時
であった。その際に森エルフの出展パビリオンに魔導植物が展示され、エルフの花守りが
解説係として駐留したのである。
頭目は、その千載一遇の機会を逃さなかった。 万博開催中のその日、王国の北方海上でタラ魔蟹の密討伐をしていた冒険者の
一団は、海域に異常な魔力の乱れを察知した。
雲一つ無い青空に白い雲の渦が生まれ、徐々に大きくなり、やがてそれは
黒雲渦巻く空の大穴と化した。
その中から雲の尾を引きながら、ゆっくりと沈むように降りてくる巨大な
卵型の塊。表面に血管のような筋が走っている。
全体が姿を現すと魔法力でそのまま空中に留まり、やがてその輪郭が
もぞり、と動いた。人工物ではない。何か大型の生き物だ。 塊の上端がほどけ、蛇のような無毛の首が持ちあがって眼が開いた。
血のように赤い虹彩に、縦長の瞳孔。鋭角に尖った口に並ぶ、サメのような鋭い歯。
頭頂部は平坦で、後方に向かって耳にも角のようにも見える突起が突き出た
矢尻型の頭。
魔物は丸めていた体と尾を伸ばすと、準備運動のように鉤爪のある下肢を
軽く動かした。そしてゆるゆると、コウモリに似た指骨のある膜質の両翼を大きく広げた。
龍種。「人喰い」と呼ばれる凶悪な大型魔獣、飛龍(ワイバーン)である。 大騒ぎになった船上の冒険者達には目もくれず、飛龍は翼に風魔法を込め、
飛翔体勢に移った。そして瞬時に目にもとまらぬ速さで飛び始め、一瞬だけ
水蒸気の円錐を纏ったのが見えたあと視界から消え去った。
爆発的な衝撃音が冒険者達のところに届き、彼らは鼓膜を破られて転倒した。
これが事件の始まりだった。 「北方海上に転移門反応。所属不明の飛翔体が領空内に侵入。
魔力識別…ワイバーン!!王都方面に南下中」
「転移だと!!そんな大呪文、無許可で誰が使ったんだ! 戦争でも始めるつもりか!!
しかもワイバーンだと!勇者案件じゃないか!!!」
「高度32000、速度720、なお南下中。要撃飛翔士、上がりました。
百里204騎士団よりウィザード03、ミサワ303聖教会からプリースト21。
ウィザード03管制下に入ります。会敵予想時刻2の刻04」 「目標の進路は」
「なおも南下中。大森林上空を通過…万博会場に向かっています!」
「勇者様に緊急連絡、最優先だ。王宮への報告は後でいい。イルマ地区の第一高射
魔砲群に発令、ただちに迎撃態勢。極大魔法および追尾式噴進弾の使用を許可する。
会場に到達させるな。墜とせなくてかまわん。
勇者様が来るまで持たせろ。何としてもだ」 だが要撃の飛翔士達は飛龍の進行を止められなかった。大空を自らの領域とする魔物は
空を飛ぶのがやっとのヒト族など、遊び相手としか思っていないようだった。
飛龍が雲を切り裂き、天空を駆ける。
高速水平飛行から上方に90度垂直旋回、空中停止して木の葉落とし。瞬時に
再加速して追尾式魔法弾を回避しつつヴァーティカルローリングシザーズ。
かと思えば瞬間停止と瞬間加速で残像分身を残しつつ真横に滑って左捻り込み、
飛翔士に向かって神速の牙突。相打ち狙いの大呪文を察知すると即時に上方宙返りに
転換し後方かかえ込み2回転2/3ひねり、高速ハイドロブレーディングで回避軌道を
華麗にフィニッシュ。 空力魔法、重力魔法、慣性魔法を駆使し、物理法則を無視した動きで空間を自在に
舞う変態軌道(エキゾチック・マニューバ)。
見る者に息をもつかせぬ空中サーカスである。
飛龍には地球の鳥類の気嚢のような呼吸システムがあるので、空気の薄い高々度でも
活動が可能である。一方でヒトは高度が上がれば酸素錬成が必要になり、それだけで
激しく魔力を消費する。さらに空気抵抗の多い人間の体を飛翔させつつ魔法戦を行う
のである。上位の飛翔士であっても短時間で魔力切れになり、次々に戦闘から脱落
していった。 空に残った飛龍は飛翔士達を誂(からか)うように、長く尾を引く飛龍雲で青き大空に
ラブサインを描く。
飛翔士達との「遊び」を終えた飛龍はそのまま南下。高々度を飛行する飛龍には
地上からの高射魔法が到達せず、王国自慢の追尾式噴進弾も飛龍の龍息(ブレス)
により一撃で破壊された。絶対防衛線を突破した飛龍は、万博会場上空に達すると
急降下して会場を強襲した。
とはいえ王国も無策では無い。こういう世界であるから、こんなこともあろうかと予想
していた工作班長の指示によって、万博会場は強固な防御障壁に包まれていた。 前回の万博時と同じように、空飛ぶ大亀怪獣を倒す大魔獣が襲来しようが、
光の巨人と互角に戦う古代怪獣が近在で城を破壊しようが、万博に影響はない。
安全安心、鉄壁を超えたオリハルコン壁の防護体制である。
が、来場者のほうは安全と言われても安心ではなかった。
轟音を立てて障壁に体当たりし、紫電色の干渉波を散らす巨大な龍種を見て
大パニックが発生した。
来場者達は血相を変えて逃げ惑い、係員の誘導など聞きはしない。それ以前に
係員も警備の騎士団も一目散に逃げ出した。
まあ怖がるなというほうが無理がある。戦っても勝てる可能性は1ミリも無く、
もし喰われればその末路は○ンコである。 障壁内には何の影響も無かったにもかかわらず、逃げる者同士で突き飛ばしあい、
転倒した者が踏みつけられ、死者こそ出なかったものの大勢の負傷者が発生した。
まもなく勇者の一行が到着すると、飛龍は間髪を入れず全速力で索敵不能空域
へと飛び去り行方をくらました。この事件の詳細は関係者に箝口令が出され、
王国民には勇者が野生のはぐれ飛龍を撃退したと報道された。防衛責任者の
騎士団長が更迭され、第二席の女騎士が昇格して表向きには「事象」は収束した。
事件を事象と呼んで問題はおきていないことにする。王国官僚の得意技である。 このパニックの最中に、一人の森エルフの花守りが行方不明になっていた。しかし
それについては民族間紛争を避けたい王国官僚と、管理責任を問われたくない
森エルフ現場長によって、里の外の世界に触れたエルフが「家出」をした
という報告書が作成され、行方不明の件は揉み消された。
実はこの事件をおこした飛龍は、陸海賊頭目が転移呪文を使って送り込んだ、彼の使役獣
であった。派手な万博襲撃はただの搖動であり、真相に気づかせぬための目くらましに
すぎなかった。騒ぎの最中に、陸海賊の手の者が花守りのエルフを誘拐する事が、
真の目的だったのである。 誘拐された花守り、ミライアには反抗や逃亡ができぬよう隷属の首輪が嵌められ、
大草原の中央の森で魔タタビ栽培に従事させられる事になった。
そして万が一、勇者案件となった場合にも単純な、もとい純粋な心をお持ちの勇者様に
ご説明すれば納得していただけるように「奴隷ではなく、外国人の農業技能実習生である」
という形式が整えられた。そして労働に対して報酬も支払われたのである。
とはいえ、それは実質的には報酬と呼べるものではなかった。
周知のように近年は、通常の契約奴隷・派遣奴隷に対しての報酬は個人所有魔石
への魔力振込みという形式がとられる事が多い。しかし今回の場合、報酬として
与えられたのは頭目が作って「ペリーカ」と名付けた、紙製の商品引換券であった。 この券は農場内において実際に商品と交換できたが、実態はただの紙切れである。
しかも支払われた報酬から実習費・施設利用費・食費・光熱魔力費などが差し引かれ
実際に手にするのは全報酬の1割以下であった。ちなみにこのような報酬様式は
地球においても各国に現実に存在しているもので、日本でも古くは江戸時代の「鉱山札」、
現在も一部のブラックな職場で形を変えて引き継がれている搾取方法である。
食事は支給されたが、食材の多くが昆虫や土壌生物で、エルフ族の口に合う食物は少なかった。
手元のペリーカは全額を穀物や芋類と交換したが、満足できるような質・量にはならなかった。
やむなく花守りは森の中で食べられる植物を採捕したり、農地の隅で自分用に食用作物を
育成せざるをえなかった。 農場ですべき仕事は実質的に魔タタビの交配作業しかなかったので、監視付きでは
あったものの、森の中であればほとんど自由に行動できた。その自由時間を花守りは食料にする
野生植物との戦闘や解体・剥ぎ取り、作物類の放牧・調教のために使うことにした。
その結果、夜以外に寝ている余裕は無くなり、起きている時間の4分の1以上を労働に
費やす事もあった。望まぬ仕事をしなくても良い日は4日に1日あれば良いほうだった。
自発的であったとはいえ、エルフ基準では奴隷以外の者がこのような労働をする事は
考えられなかった。労働が深刻な健康被害をもたらす行為であることは、誰もが
知っている明白な事実だったからだ。 趣味や娯楽から逸脱した就労は緩慢な自殺と同義であり、知性のある種族がする行為
では無いと見なされていた。現実には奴隷落ちしている者も存在してはいたが、それは
犯罪奴隷や債務奴隷、美形貴族の家畜人に志願した者など、例外的な事例に限られていた。
花守りの農場生活は、エルフの里であれば労働基準監督士に訴えられてエルフ権問題になる
ほどの過重労働であった。しかし生きるためには仕事を続けねばならなかった。精神的にも
肉体的にも過酷きわまりない、非エルフ道的な労務が続けられた。
やがて農場で魔タタビの花が咲きはじめ、花守りは交配作業を強要された。
大量の魔タタビが結実すれば頭目は最終目的にむけて行動を開始し、大勢の
獣人達が命を落とすだろう。 しかし、もし結実しなければ、エルフの里に飛龍がさしむけられて花守りの家族が
襲われることになると通告されていた。
やむなく花守りは数果実だけを結実させ、気候の違いがあるため、それを把握する
のに時間がかかると説明した。頭目は納得していない様子ではあったが、それでも
初めて手にした魔薬の実に上機嫌で「こいつの効力を試す」と言って、どこかへ
果実を持っていった。
猫メイドカフェに魔タタビを持ち込んだのが何者であったか定かではないが、
頭目が猫美少女をモフれる機会を誰かに譲る理由は無い。 猫娘に魔タタビの実を渡して放置プレイをされた残念な男が誰であったかは、想像するに
難くない。どうも策士が策に溺れたという印象である。
実を渡した花守りは悩んだ。今回はこれで誤魔化したが、この次は魔タタビを量産
しなければ許されないだろう。かと言って量産したならば、その時にはーー
悩んだ末に花守りは農場から逃げ出した。そして森の外へと走った。
草原で自分は地竜に襲われるに違いない。だが自分がこの世から消えれば、
問題はすべて解決する。花守りはそう思ったのだ。 「…デモ、ヤツラニ、見ツケラレタ。ソレ、私、領主様ニ、助ケラレタ」
「だいたい判った。つまりその頭目をやっつければ問題は解決するんだな?」
「無理。頭目、飛龍、使ウ。飛龍、倒セル、勇者様ダケ。領主様、勇者違ウ」
「うーん、ご領主様には荷が重いかもしれませんね。勇者様に依頼するのは個人では
難しいですし…召喚士様なら倒せますか?」
「ふむ、飛龍とはなかなか大物だの。わしの手持ちの最強級召喚獣でも
単独召喚だと無傷で倒すのは難しいな」
「無傷でなければ倒せると。というか、単独ではなく複数召喚も可能なのですか?」 「最強級だと3匹ぐらいが限度かの。魔力補充すれば魔獣総進撃もできぬ事はないが」
そう言って召喚士はメイドのミヤゲが持ってきた熱いコーヒー的な飲み物をすすり、
召喚士以外の全員の顔がちょっと引きつった。
余談であるが、この異世界コーヒーは山田領に出入りしているジャコウネコ獣人の
エキゾチックで色っぽい綺麗なお姉さんが、秘伝の製法で加工した豆を使用している。
地球で最高価格のコーヒー、麝香猫珈琲(コピ・ルアク)に相当するもので、
貴族しか飲めぬ高級品である。あ、そこの君、製法に興味を持たないように。
「ちょっと待って。ここはこの山田がですね、一肌ぬいで悪者を倒す流れで」
「は?ヤマ…ご領主様が?その意気込みは評価しますけれど」 「むろん俺にはできん!だが俺にはできなくても、お前なら必ず何とかする!
俺の事は信じなくてもいい!お前はお前を信じるんだ!俺が信じるお前を信じろ!」
「…意味が良く判りませんが、なんとかしてくれと言うのは伝わりました」
やれやれ、またか、という表情で錬金術師は立ち上がった。そしてエルフにゆっくり
休んでくださいね、私は今から準備がありますので、と言って部屋から退出していった。
そのあと山田の背中から降りた召喚士に、良し、と言われた山田が腰を
さすりながら立ち上がった。あとでメイドに身の回りの世話をさせます、
あなたは私が助けますから心配しないでください、と告げてエルフに会釈的な
挨拶をし、つまづいて盛大にコケたあと、あわてて錬金術師の後を追っていった。 残されたエルフは、状況がよく飲み込めないという顔で固まっていた。
「ドウシテ、私、助ケル?助ケテモ、私、えるふノ秘密、アナタ方ニ、教エナイ。
アナタ達、戦ウ、無益、意味ガ無イ」
「いや山田殿は、助けた代償に秘密を教えてもらおうとは思っておらんだろう。
くだらない、意味がない、そういうモノやコトほど面白い、とても良い。
あやつはそういう考えで動いておる奴だからの。損得や名誉を勘定に入れて
おらぬのは、この国の貴族としては異端すぎる」
召喚士は山田が立ち去ったほうを見ながら、独り言を言うかのようにつぶやいた。 「それとな…あやつは自分の領地に来た者は、笑顔にして国に帰そうと努めている。
花守り殿だけではない、泣いている者を見た時には全力で助けようとする。
そういう時、あやつは自分では気付いておらぬようだが、見ていてとても苦しそうな
顔をするのだ。気の毒だから助けたいというよりは、助けなければ自分が救われぬ、
という感じでな…何というのか、まるで過去の贖罪でも求めているかのように見える」
「ショクザイ?…悪イ事ヲシタ、罪滅ボシ?」
「いや、そんな風に見えてしまう、というだけだがな。実際のところは、あやつが昔の事を
あまり語りたがらぬのでよく判らん。まあ理由はともあれ、益の無い事を領主自身がやるのは、
二重にくだらないし意味が無い。だからこそ、それはあやつにとって二重に面白い事なのだろう。
花守り殿にはご迷惑だろうが、あやつの道楽に付き合ってやってくれんか」 「…人間ノ思考、理解デキナイ」
「いや、あやつが変なだけだぞ?わしもあの阿呆の事をいまだに理解できん」
そう言って召喚士は面白そうにクスクスと笑い、肩をすくめた。
夕刻、山田領領館内の応接室。
遠方の光景が見られる「魔法の鏡」が多数運び込まれ、各種の魔道具を設置した
応接室は今までとは似ても似つかぬ内装となっていた。実写映画であれば
HGP明朝Eフォントで「山田領領館内 作戦本部司令室」とテロップが入りそうな
雰囲気である。
「『隷属の首輪』は新魔道具・射爆実験場の実験用家屋に運びこみました。
あそこに陸海賊の一味を引き寄せ、戦って殲滅します。
その状況はこの部屋で、有線で確認できます」 「有線トハ?」
「水晶を錬成した細い糸を使って、光学魔法を遠くから引いてくる技術です。
雷撃魔法を銅線で誘導するようなものですね。
音声も有線ならば、魔素の影響無しに双方向で届けられます。
現場のヤマダさ〜〜ん、聞こえますか〜〜?」
魔法の鏡に山田の姿が映った。
「はいこちら山田。有線会話機の感度良好。索敵魔法に反応があれば指示を頼む。
実験家屋内での戦闘待機を続ける」 「了解。第一魔鏡、幻像良好。第二魔鏡以下、順次有線接続。各地点からの暗視幻像を投影。
エンガワさん、実験場の錬金街灯の光量調整は?いえ標準なら問題無いです。
襲撃時には全音声端末を双方向通話で作動してください。領域魔法用の魔力蓄積量、
9割5分まで上昇を確認、魔力圧異常なし。第一から第三魔法術式を同期、積層展開。
無詠唱即時発動の術前励起、構築完了。ご領主様はそのまま屋内で待機。緊急時には
床下の防魔壕に退避できるよう準備していてください。こちらで広域索敵を続けます」
「了解した。頼りにしてるぞ」
錬金術師は、ふう、とため息をつくと、両目をとじて指でもみほぐした。
「お疲れかの。…錬金術師殿もいかがかな?」
召喚士が、名状しがたい奇怪な物体が乗った皿を錬金術師に手渡した。 緑色の斑点がある、くすんだ紫色のいびつな球体が皿の上に並べられ、周囲に
熱せられた蒸気が渦巻いていた。禍々しいあばた状の表面にはわずかに焦げ目があり、
内部から正体不明の小さな触手がはみ出している。上面が血糊のような赤黒い
ドロリとした汁に濡れ、膿汁のような黄白色の粘液が筋状にかかっている。
生命反応は感知できないが、表面に付着した鱗片がうねうねと動いている。
動く屍(アンデッド)の一種だろうか。錬金術師はそう思った。
「…何ですかこれ」 「山田殿の故郷の食べ物で、タコヤキと言うそうじゃ。色は多少違うらしいが
味に関しては完璧に再現したと言っておったぞ…おおぅ、熱ひ、はふはふはふ、
表面はカリっとひて中ゎトロっと、見はへはちょっとアレひゃがはふはふ、
ほぅ熱ひ、これふぁ美味ひぞ。ほふふほ。
収納魔法を使うと、いつでもアツアツで食べられるのが嬉しいの」
「…ありがとうございます。でも今はちょっと食欲が無くて」
「心配かの?」
「え?いえ、それほど心配という訳ではありません。私とご領主様は契約上の
雇用主と被雇用者というだけで、個人的に心配してさしあげるような間柄でもありませんし」 「誰も山田殿の事だとは言っておらんぞ」
「!」
「まあいざとなったらわしが出るから安心せい。花守り殿も何か召し上がるかの?
甘い物がよいかな。これはタルトという菓子だそうだが」
召喚士はタコヤキの皿を収納し、別の食べ物を取り出した。
「良イ香リ」
「見たことのないお菓子ですね。丸くて、模様がかわいいです」
「穀物粉と卵で作ったフワフワの焼き菓子に、果物で香りをつけた紫豆の裏ごしを
塗って巻いたものらしい。あやつの故郷には人々に祝福を与えるタ○ト人という
ゆるい感じの魔物がおって、そやつの顔に似せて作った菓子だそうじゃ」 「コレ美味イ…イヤ、食ベテル場合、違ウ。大丈夫ナノカ」
「まあ相手の戦力にもよるが。一味の人数は何人かの」
「人間ノ配下、3人ダケダッタ」
「はあ?3人?…ということは、もう手下は全滅しているのか?」
「人間、只ノ使イ走リ。戦力、別ニイル」
「飛龍のことかの?」
エルフが何か言いかけた時、錬金術師が動いた。 「来ました!隠蔽魔法を使っていますけど、その程度の魔術では隠せませんよ…っと」
「この反応は…アンデッド系列の魔物かの」
「動きから見て陸上歩行性の中型種ですね。数は13体」
「飛龍以外にも手駒がいたようだの。あー山田殿、聞こえるか、どうやら出番らしいぞ」
「了解!むはははは、ヘタレと呼ばれ続けた俺がついに勇者となる時が来た!」
「ご領主様、装備している錬金武装の起動詠唱は覚えましたか?」
「あ」
錬金術師は、あーやっぱりね、という顔で話を続けた。 「両足をふんばって、右手を開いて頭の上に上げたあと起動呪を詠唱しつつ
握った両手を胸の前で交差させ、腕に力を込めながら勢いよく左右に広げてください。
起動呪は、
『蒸気立ち上る山田温泉の源泉噴出孔より来たりし地熱よこの場に集いて顕現し
荒れ狂う熱湯の力をわが身を覆う無敵の鎧に変え熱き勇気と共に今ここに装着』
唱え終わった瞬間に、魔法の鎧が錬成されてご領主様の全身を覆います」
「長ぇよ!覚えきれないだろ!覚えてても唱えてるうちに攻撃されて死ぬ!」
「そう仰ると思って、9割8分の能力になりますが短縮詠唱でも起動するように
設定しておきました。最初と最後の一文字だけ詠唱すれば大丈夫です」
「お、おお流石(さすが)だ。えーと、最初と最後の一文字というと…」 山田は起動動作をしつつ短縮詠唱を唱えた。山田の体の周りに光り輝く粒子が集まり、
白銀の全身鎧となって具現化した。その所要時間は、地球時間にしてわずか
0,05秒にすぎない。
「山田領の平和は俺が守る! 魔法の騎士・俺、参上!」
ビシっとポーズを決める。
かっこいいデザインの鎧であるが、中にいる山田の体型が反映されている。 続けて山田は魔法武器を起動した。こちらには特定の起動呪は無く、使用者の
イメージによって剣の他、戦斧や槍などさまざまな形の武器に変化する。
山田は光の剣っぽい名前を唱え、そのイメージで武器の形を具現化した。
剣の名前に合わせてアクションポーズもつけてみたが、特に必要ではない。
この鎧を装着している時には、そうしなければいけない気がしただけである。
ヴン、という起動音と共に、持っていた柄から光でできている剣が出現した。
ちなみに実際の起動は無音であり、音をたてて剣が出現するのはデジカメの
シャッター音と同様に単なる演出である。 「さあ来るがいい魔物共。光の剣の錆にしてくれるわ」
光の剣はサビないのだが、話を先に進めよう。
周囲の林の中から二本足で歩く魔物が1体、2体と現れはじめた。
暗闇の中、魔物達はゆっくりと実験家屋を囲むように集まってくる。
魔法鎧の暗視モードを使い、窓から魔物の姿をそっと見た山田は息を飲んだ。
「なんだあれは…」
魔物として見るのは初めてだったが、その姿形は山田が良く知っているものだった。 領館でも、監視していた召喚士と錬金術師が魔物の姿を視認した。
「動く鎧(リビングアーマー)でしょうか?」
「いや、少し違うな。見たことがない種類だの」
装着者がいない虚ろな鎧が動いて襲ってくる魔物、リビングアーマー。
今、彼らが見ているのはこれまでに出現記録の無い、その上位種だった。
その名は「動く強化外骨格(リビングパワードスーツ)」である。 強化外骨格。それは最新の錬金技術により作られた、人体の筋力を数倍に増幅する
作業用の甲冑である。農作業時の足腰の負担を軽減し、高齢農夫や非力な農業婦人
でも重い収穫物を楽々と運搬できるようにする、農家の力強い味方である。
魔力の乏しい農民が、襲い来る獰猛な巨大害虫と闘うための刃(やいば)である。
そのアシストスーツが、装着者のいない虚ろな状態で動き、魔力によって歩いていた。
言うまでもない事だが、あえて言おう。中の人などいない。
人間が装着していて動くのがやっとの重い鎧でも、魔物と化した時には
普通に動き回る。それが今回は、人間の筋力よりはるかに強い力をもった錬金装備が
魔物と化しているのである。その動き、力はいかなるものだろうか。 今回の強化外骨格には非常に単純なものではあったが、人工知能的な術式も
付与されていた。そのため魔物と化した「彼ら」は依然として心を持たぬ「モノ」に
留まってはいたが、自発的に「声」を発する存在となっていた。
「カクゴカンリョウ」
「インガオホー」
「チェスト、セキガハラ」
「アッハイ、ゴウランガ」
意味不明の単語を濁った「声」で抑揚無く発しながら、「彼ら」はゴトリ、ゴトリと
動いて実験用家屋を囲んでいく。使役している者は例の頭目なのか?
家屋の中に目的のエルフがいる、と騙されてくれているだろうか。 1体の強化外骨格が、侵入防止結界を破壊して家屋の前に歩み寄った。
魔物は鍵の部分に手をねじこんでむりやり壊すと、戸口を開けた。
その時、奥のほうから銀色の風となった山田が走り寄り、剣をふるった。
一閃。
光の剣が強化外骨格の肩口に振り下ろされた。
シュババッ!!と火花が散って強化外骨格の肩が若干焦げ、魔物は首をかしげた。
「切れないぞ!!」山田が近くにあった電話機っぽい端末に向かって叫ぶ。
「ご領主様の魔力量だと瞬間切断は無理です。長時間当てていれば切れます」
「つっ…使えねえぇぇ」 その時、周囲にいた強化外骨格達の動きが瞬時に変化した。
今の「彼ら」はヒトの動きに追従するだけの、安全装置のかかった錬金道具では
なかった。自らの最大出力、最高速度を瞬間的に発揮し、獣のように走り、
襲いかかってきた。それはもはや錬金された獣、錬金獣とでも呼ぶべき存在であった。
「彼ら」はそれぞれが異なる武器を所有していた。それらをしっかりと「装備」すると、
躊躇なく非人間的な動きで、一斉に山田を攻撃してきた。 ある者は草刈り鎌(かま)を握り、ある者は鍬(くわ)を持ち、またある者は
高枝切り鋏(はさみ)、細目鋸(のこぎり)に枝打ち鉈(なた)に農業用フォーク、
レーキにシャベルに大熊手。13種類の武器が次々に山田を襲った。山田は光の剣を
振り回すが、実体の無い剣は魔物の武器をすり抜けてしまい防御効果が上がらない。
格好つけて光の剣など出さずに、釘バットでも具現化していれば良かったのだ山田。
山田は攻撃を素早く回避、するつもりだったが、残念ながら中の人は武道の心得も
無い単なる素人である。行動に今ひとつ切れが欠けている。強化外骨格の動物的な動きに
追随できず、しだいに数の力に押されていく。囲まれた山田はついに攻撃を避け
きれなくなった。殺到する魔物達の武器が、山田の体にバッキバキに命中していく。 だが魔法鎧には傷一つつかない!
「おお!さすが魔法の鎧だ、何ともないぜ!」
「まあ相手の武器も普通の農具ですから」
「とはいえ、こっちの武器も通用しないぞ。どうすればいい?」
「う〜〜ん、殴る、とか?」
「は?」
会話中に一体の強化外骨格が、チェーンソー的な魔道具をふりかざして襲ってきた。
山田は思わず、相手のアイスホッケーマスク的なデザインの顔をグーで殴った。
ガッチョーン!と金属音がしてパンチが当たった部分が凹み、魔物は転倒した。
「え?」
「魔法鎧が筋力を数十倍に増幅していますので、格闘戦のほうが効果的かと」
「それを早く言って!」 山田は寄ってくる魔物にガンガン鉄拳を打ち込んだ。やがてパンチよりもキックのほうが
より効果的である事に気がついた。そしてついに必殺技に開眼した。
増幅された筋力で助走をつけ、魔法力を込めた超高速の飛び蹴りである。
「うおおおおおおおおっ!!!!うっりゃあああぁぁ!!!」
大地を蹴って山田の体は今、銀色の流星となった!
「山田ァァ〜〜キィィッック!!!!」
ぼげどぐわぼばっしょ〜〜〜ぅぅぅ〜〜んんんんl!!!!(特大文字)
キックが命中した強化外骨格は、大音響と共に爆散した。
そしてまた走っては蹴り、蹴っては走った。命を燃やすぜ的に飛ぶオメガなスラッシュ、
疾走する本能が放つクリムゾンのスマッシュ。 ロケットっぽいドリルなキックで未来を創り、
ダークネスでムーンなブレイクが運命(さだめ)の鎖を解き放つ。
魔物達は次々に繰り出される必殺技の前に、成すすべもなく全滅した。 ところが戦いが終わった時、山田は苦しみはじめた。
「うう…違う…まさかこんな事になるとは…」
山田は崩れるように膝をついた。
OTL「俺は…俺は納得がいかない!必殺技と、この姿が合致していない!」
山田は山田にしかわからない理由で、自分自身を許さなかった。
だが、感傷に流されている場合ではなかった。
「ヤマダ!上!」
近くの電話機的な端末から、錬金術師の焦った声が聞こえた。口調が素に戻っている。
はっとして上体を起こした瞬間、山田のいた場所に金色の閃光が走り
地面にざっくりと切断されたような溝ができた。 「逃げて!次の龍息(ブレス)が来る!」山田は空を見上げた。
暗視モードの視界に、夜空を切り裂いて向かってくる大型魔獣の龍影が見えた。
音響龍息(ソニックブレス)。俗に超音波尖刃刀(せんじんとう)と呼ばれる、飛龍の
音魔法攻撃である。魔法力によって強制的に振動させられた空気が金色の光芒を放ち、
あたかも飛龍の口からビームが放たれたかのような場景となる。
命中した物体は分子振動破壊によって切断され、魔法防護されていなければ
たとえ鉄であろうとも鋭利な刃物で切り離したかのように真っ二つとなる。
ギャオス!と鳴き声をあげた飛龍は次々と龍息を放った。
音速で到達する音響龍息を回避するのは現実的に不可能なはずだが、混乱した
山田がおたおたと予測不能な怪しい動きをしたため飛龍の狙いが定まらなかった。 音響龍息がピンポイント攻撃であったこと、音速といえども遠方からの到達には
タイムラグがあった事も幸いした。もし広域攻撃魔法や、光魔法によるゼロ時間差
狙撃であったならば回避できなかったはずである。
じらされた飛龍は龍息を止め、直接攻撃(ダイレクトアタック)に移行した。
暗視モードに映る、空の彼方に踊る影がみるみるうちに近づいて、巨大な龍の姿になる。
飛龍は羽音も立てずに上空から舞い降りてくると、逃げる山田を右足の鉤爪で引っ掛けて
転倒させた。鎧のおかげで爪攻撃にも無傷ではあったが、山田が起き上がるには時間を
要した。飛龍はそのチャンスを逃さない。ふたたび巨大な影が、嵐のごとく山田に襲いかかった。 飛龍は瞬時にして山田にのしかかり、両足で地面にめりこむほどに押さえつけた。
ウルルル、という鳴き声と共に、牙の生えた巨大な口が山田を食いちぎろうと
近づいてくる。さすがの鎧も龍の顎(あぎと)の力に勝てはすまい。
食いつかれれば最後で終わりでジエンドである。
「そうはさせない!」
その時、領館で錬金術師が遠隔操作によって山田の周囲に領域魔法を発動させた。
山田のいる場所を中心に巨大な魔法陣が出現し、一帯が乳白色の光に包まれた。
飛龍は驚いて山田を襲うのを止め、とまどうように頭を上げた。そしてそのままバランスを崩し
地面に倒れた。 山田は飛龍の足から開放されたが、動作が鈍く、うまくおきあがれない。
「う…うう、か、体が重い…何だこれ…」
「「「ヤマダ、大丈夫?聞こえてる!?」」」
あちこちに設置されている電話機的な端末から、同時に錬金術師の声が響く。
「あー聞こえてる。何がおきた?」
「うう良かったぁ…あ、時間がないわ。魔法力中和結界を展開したの。少しの時間だけど、
その場所では魔法力が効きづらくなる。一度しか使えない術式だから、今のうちに
飛龍をやっつけて。ヤマダの鎧は、もう少しで自動的に錬金動力に切り替わるから」
「了解…時間制限バトルだな!」
鎧が一瞬緑色に光ったあと、山田はのそりと立ち上がった。両手を下に下げたノーガードの
構えである。ちなみにガードの有無は、この場合あまり関係ない。 飛龍は地面から起き上がれず、動こうとしても自由にならない体にとまどっているように
見えた。この世界で大型の魔獣が活動できるのは魔法力で自分の体を強化しているから
であり、魔法力が減少してしまうと物理力だけでは自分の体重を支えることすら
困難になる。
「卑怯のような気もするが、俺を喰おうとした奴に手加減はしない」
山田は飛龍の頭のほうに歩み寄る。
飛龍は必死で頭を上げると、かろうじて使える魔力をすべて収束し、龍息を放った。
きゅりゅりゅりゅりゅうううぅぅ〜〜〜ビシュ!ちゅっどーーーーんんん!!!
近接射撃の龍息が山田に命中し、金色の爆発と共に山田は後方に吹き飛ばされた。
大丈夫か山田!死ぬな山田! 音響超振動が熱気に変わり、陽炎が立ち上る。周囲に粉塵が舞いあがる。
魔法陣の光で白い霧のように霞んでいるその中で、何かが動く。
今、ゆっくりと白銀の鎧が起き上がった。
山田は生きている。
あちこちに小さな傷はついているが、ほぼ無傷である。
飛龍の渾身の攻撃も、魔法力が足りず大幅に効果が減弱していたのだろう。
むしろこの状況で、よく頑張ったぞ飛龍。
「ふはははは、効かぬわ!」ふたたび近づいてくる山田に、飛龍が怯えたような
甲高い声をあげる。龍息を再度撃とうとするが、ふしゅ、と息が出ただけで不発に終わる。 「これで終わりだ!必殺!ギャラクティカドラゴンフィニッシュブローッ!!」
飛龍の頭部左側面に、山田のえぐりこむような普通の右フックが炸裂した。
ちなみに必殺技名は山田のアドリブで、通常であればそれほど必殺な技ではない。
ぽきゃぴんこしゅっ!
軽快な破壊音と共に飛龍の頭部は大きく凹み、飛龍の頭は力を失ってぐらりと揺れた。
そしてそのまま、ぽんしゃかぽっしゅん、と音を立てて側方に倒れ伏した。
ちなみに飛龍は高速飛行に特化しているため、身体構造が極限まで軽量化されている。
魔法力で強化されていない状態だと、防御力は紙同然である。 ジェット戦闘機は空にいれば無敵だが、駐機場に止まっていればハンマーを持った小学生が
ボッコボコに壊せるのである。
飛龍、戦闘不能。山田WINである。
周辺の結界が消滅し、山田の鎧は白い光を放つと通常モードに復帰した。
「勝った…」山田は肩で大きく息をした。
ジャンジャカジャカジャカジャン♪
ギター的な音がした。地球の拍手に相当する、この世界の楽器音響である。
「誰だ!誰だ誰だ!」山田が問う。 暗闇の中から錬金街灯の明かりが射す場所へと、一人の男が現れた。
地球人であれば40歳前後か。エアでないギター的な弦楽器を抱えている。
灰色の和服に似た装束。縮れた長髪をポニーテールのように後ろに束ね、顎髭(あごひげ)
を左右に分けて三つ編みにしている。ポニーテールと髭の三つ編みは、この世界では
陸海賊のトレードマークである。地球で言うと海賊の頭目が海賊帽と眼帯をつけて
いるような、ちょっとベタすぎるファッションである。
一方で戦いの場にギターを弾いて登場するのは、この世界の基準でも少々異端なのだが、
まあ地球でも探してみれば一人ぐらいはそういう者がいるかもしれない。 「まさか飛龍がやられるとはなぁ…凄ぇなぁ、あんた一体何者よ?」
「…人に名前を聞く時は、まず自分から名乗れと習わなかったか?」
「おっと失礼。ハゲワロス農業試験場の主任、ニシュエモンだ」
「嘘はやめろ頭目…お前らの事は全部すべてまるっとスリっとゴリっとエブリシングお見通しだ!」
「あれ?嘘なんか言ったかなぁ?…で、あんたの名前は?」
「通りすがりの仮面騎士だ!」
「おやおや…まあいい、エルフは何処だ?そこの小屋にあったのは首輪だけだった。
壊れてはいないようだが、どうやって外した?」
男は「隷属の首輪」を収納袋から取り出し、地面にぽん、と投げ出した。 「いつの間に…家の中にも防犯結界があったはずだが…」
「お留守のお宅を訪問するのも仕事でなぁ。しかしここまで面倒な事になるとはなぁ。
エルフさえ渡してくれればあんたに用は無いんだが。あ、いやまて…そうじゃねぇ、
用はあった。あんた、オレの仲間にならねぇか?飛龍を倒すほどの男だ、厚遇するぞ」
「…採用条件は?どうせ副頭目にしてやるとか、その程度の」
「この世界の総収益の半分をやろう。しかも非課税だ」
「え、ちょっと待って」
山田は少しの間考えた。 「いやいやいや絶対嘘だね!世界を支配してもいない奴にそんな事できないし!
そうやって法螺話で人を騙して、大切な人を裏切るような仕事をさせる気だ!
何をさせられていたのか気づいた時には、指示されてた仕事まで俺が勝手にやった事に
されてて、不当解雇に給与不払いの退職金無しで追い出されるんだ!何も考えられなく
なって雨に濡れながらフラフラ歩いていると、居眠り運転のトラックに轢かれるんだ!」
「何を言っているのか判らんが、オレの申し出を断るんだなぁ」?」
「当たり前だ!嘘つきを上司に持ったら人生が詰むと、俺の経験が言っている!」
山田はきっぱりと断った。ちょっと悩んだことは忘れてあげてほしい。 「残念だな、エルフも返してはもらえないのか?」
「あの子は、お前の所有物じゃない!」
「あの子ぉ??何を言って…いやまて、もしかしてあんた、ああいうのが趣味なのか?
だったら、夜はあんたが好きにしてもいいぞ。普通なら物欲しげな目で見ただけで
通報されてしまうエルフ様に、思うがままあんな事やこんな事を」
「人の性癖を勝手に決めるなあぁぁぁ!!!!」
あまり強く否定すると図星だったと思われるぞ山田。 「あんた、もっと好き勝手に生きないと死ぬ時に後悔するぜ。
まあ…あんたはここで…死ぬんだがなぁっ!!」
男はいきなり剣を抜いて切りかかり、それを山田は避ける間もなかった。
ぱっきょきょきょーん!
男の剣は山田の鎧に命中し、魔法防護と干渉しあって見事にへし折れた。
「おぅわっ!ダンジョン産の貴重な魔剣『リストカッター』があぁっっ!!」
「おぅすまん!って俺が謝る理由無いよね!?というか魔剣なのに強度が農具以下なの?」
まああれだ、カミソリはよく切れるけど脆い、みたいなものだ山田。
「ゆ…ゆるさん…絶対に許さんぞ!!!」
逆恨みである。 「オレは学んだ…人間は策を弄すれば弄するほど予期せぬ事態で策が崩れ去る…
目的を果たすために、オレは人間を超えるものにならねばな…」
「何のことだ?何を言っている?」
「もう迷いはない!オレは人間をやめるぞ!」
男は懐(ふところ)の中からルビーのように紅く光る魔石のついた、石造りの眼鏡を
取り出すと、自分の目に当てた。
「デュワッ!!」
ズキュウウウゥンメメタアァゲッパホン!!という音と共に、男の体は輝く光に
包まれた。 「うおぉぉぉぉ…力が…力がみなぎる!!!全身の細胞が!内臓が!
脳までもが力に変わっていくようだ! オレは新しい存在に生まれ変わる!
祝え! 新しい王の誕生を!」
男の全身がメキメキと盛り上がり、背が伸び骨が作られ筋肉増量1500%の
異様な身体バランスの筋肉怪人、いやビッグでナイスなマッチョガイと化した。
「すごいちからだ! すごくすごい!すごくすごくすごい!あひゃひゃひゃひゃ」
「…もしかしてそれ、使ったら人として駄目になるやつ?」
山田は引いている。 領館で監視魔鏡を見ていた者達も引いていた。
「むぅ…あれは『力のダンジョン』のダンジョンボスが低確率でドロップするという
レアアイテム『進化の秘具』」
「し、知っておられるのですか召喚士様」
「噂を聞いて、わしも100回ぐらいボスを倒してみたが一度も出たことが無い」
「うわ…驚きました、いろいろな意味で。そんなものをどうして持っているのでしょうか?」
「う〜〜む…課金かのう?」
課金とはオークションで購入するという意味である。
ちなみに課金ではなく盗品である。 「それと召喚士様、アイテム名がおかしいと思います」
「おかしいのか?」
「『進化』というのは一つの種族が別の種族に変化していく現象です。
あれは個体が別の形態に変化するだけですから『変態』が正しい用語です」
「なるほど、ではあれは『変態の秘具』か」
「『変態の秘具』ですね」
この世界に一つ、新しい名詞が生まれた。 変態の秘具によって新しい世界に目覚めた男のパワーはすさまじかった。
男が腕を振ると、魔力のこもった拳圧だけで山田はふきとんだ。
「うわ!?」
転倒した山田にマッチョガイが駆け寄り、連続パンチを繰り出す。
姿に反して目にもとまらぬ反応速度である。
「おらおらおらおらおらおらおらおららああぁぁぁぁぁ!!!!!」
山田の鎧に傷はつかないが、慣性制御が追いつかず中の山田はパンチの振動で
グダグダである。乗り物酔い状態になってリバースすれば窒息する危険がある。
山田ピーンチ!!!
強いぞマッチョガイ。力をあげて物理で殴る。原始的だが効果的。
パワーは力、力こそパワーである。 一瞬の隙を見て、山田は地面にころがって連続攻撃から逃れた。
起き上がると同時に地面を蹴り、全力でパンチをマッチョガイの腹に叩き込んだ。
ドズン、という鈍い音がして、マッチョガイの動きが止まる。
マッチョガイは山田に顔を向け、にこっと怪しい笑みを浮かべた。
「あは。ぜ〜〜んぜんきかないねぇ〜〜」
そして目にもとまらぬ速さで手を伸ばし、逃げようとする山田の腕をむんずと掴む。
次の瞬間、山田の体もろとも空中に振り上げ、すさまじい速度で地面に叩きつけた。
激しい打撃音の中にブキャバキ!と嫌な音色が混じる。 そしてまた持ち上げ、さらに力を込めて叩きつけた。3回。4回。土砂が舞う。
衝撃で銀色の鎧がゆがんだ。山田の腕が捻じれて関節でない部分から折れ曲がり、
あらぬ方向に向いている。
マッチョガイは山田の体を両手で持ち上げ、力一杯地面に叩きつけた。さらに倒れている
山田の顔を足でドス!バス!ゲス!と踏みはじめる。頭部の強度が高く、踏まれても
形を保っているが後頭部がだんだん地面にめり込んでいく。 「駄目ダ!領主、死ンデシマウ!!!」
「さすがに拙いかの。助けに行くか」
「…待ってください」
錬金術師が思いつめたような表情で止めた。
「…魔法鎧の目が光を失っていません。まだヤマダは戦えます」
「無理ダ!魔法陣、モウ使エナイ。勝テナイ。領主、殺サレル!」
「ヤマダはエルフ様を助ける約束をしたと言ってました。彼は一度約束した事は
死んでも守る男です」 「本当ニ死ヌゾ!」
「…私が責任を持って蘇生します。それに彼は自分でやりたいのだと、私のことを信じていると
言いました。私はその思いと信頼を裏切ることはできません。だから…」
錬金術師がそう言いかけた時、魔鏡に映る山田の魔法鎧に変化がおきた。
目に灯っていた白い光が…フッと消えて暗くなった。
山田はもうピクリとも動かない。激しく息をしながら、満面の笑みをたたえてそれを見つめる
マッチョガイ。しばらく山田の様子を見ていたが、とどめをさそうと思ったか、ゆっくりと
大きく片足を上げた。
ああどうしたんだ山田!立て、立つんだ山田! 「領主ガ!!!!」
「おう、とうとう力尽きたか!?」
「いいえ…違います。今、覚醒が始まります」
その言葉と同時に、動きを止めていた魔法鎧の目が闇の中で赤く点灯した。
次の瞬間。
今までとは明らかに違う動物的な動きで、踏みつける足から鎧が飛び退いた。
おや、という表情でマッチョガイの顔から笑いが消える。
魔法鎧は、捉えようとするマッチョガイの手を四足歩行で素早くかいくぐり、少し離れた場所へ
しゅるしゅると移動した。折れていた腕がメキメキと正しい形に修復されていく。
「むう…何がおきているのか」
「魔法の鎧の自動防衛機構です。装着者の意識が失われた場合、鎧のほうが装着者を動かし、
状況を自動解析しつつ戦いを継続します」 「折れた腕が戻っているな」
「鎧の内側から棘が突き出て正しい位置に戻し、肉を貫いてむりやり骨を固定します。
痛覚麻痺の術式が付与されるので、痛みも感じなくなります」
「ちょっと待て。それは」
「あー判ってます。すみません、とある有名な魔法甲冑の構成術式をそのまま…えーと、
参考にしております」そう、あくまで参考である。
言うまでもない事だがこれは異世界の物語であり、地球によく似た設定の宇宙の警官とか、
降臨した者の遺産だとか、狂った戦士の装備とかが存在したとしても偶然の一致である。
ちなみに書籍化を目標とする投稿サイトの場合、盗用・歌詞引用・過剰なパロディがあった
作品は商品にできないため即刻抹消、作者はガチで容赦なく無慈悲に永久追放である。
「…知っておろう、あの甲冑を使った者がどうなるかを。装着者はどれほど傷ついても苦痛を
感じず、死ぬまで戦い続けてしまう。そういう部分を改作もせず採用したのは何故じゃ。
そもそも捻りの無い劣化模倣などただの盗作、創作者にとって恥だと判っておるのか」
「う…その通りで…返す言葉もございません」 「激痛にもだえ苦しみながら、死なぬ程度に治癒をうけつつ耐えて戦うのが萌えと
いうものではないか。山田殿の容姿では役不足だが、良い男が血と汗にまみれて、
苦痛に顔をゆがめつつ、声をあげぬよう必死で歯をくいしばっている姿こそが尊いのだ」
「えええ、改作って、そういう方向ですか?」
それはそれで山口貴ゆk…げふんげふん。
山田、いや山田を内部に入れた魔法鎧は素早くマッチョガイに走り寄り、右足を蹴って
バランスを崩させた。同時に体重のかかっている左足に自分の足をからめて転倒させる。
小内刈りである。体格差があるがスピードを乗せて見事に決まった。
魔法鎧はすかさずマッチョガイの背中に乗ってバックマウントポジションを取り、
光の剣の魔力回路から高圧魔力を流し込んだ。体内魔力を一時的に混乱させる
魔力版スタンガンである。マッチョガイの体がうわらばっ! と痙攣硬直する。 おもむろに光の剣を延髄に当て、ジュウジュウと焼きながら切断していく。
マッチョガイが悲鳴を上げるが容赦しない。すると動けないはずのマッチョガイが
大きく手を振って、その反動で一気に起きあがった。振り落とされた魔法鎧が
体勢を立て直して身構える。
マッチョガイの体には不規則な痙攣が続き、手足が統一感無く動いている。
見れば頚椎が完全に切り離され、ちぎれかかった首がぶらぶらと胸元で動いている。
傷口が焦げていて出血は無いが、どう見ても致命傷、というか動けるのがおかしい。
いやニワトリなら動くか。偉いぞ脊髄反射。 マッチョガイはブンブンと手を振り回しながら歩きはじめ、触れたものを攻撃して壊していく。
脳から指令が届いていなくても活動する肉体。さすが人間をやめた者は一味違う。
いや感心している場合ではない。
魔法鎧はマッチョガイに走り寄り、大きくジャンプして背中に飛び乗った。魔法鎧の重みが
加わってもマッチョガイは止まらない。魔法鎧は大きく揺り動かされるが、首の傷口に
両手を突っ込み、両足をマッチョガイの腰に回して振り落とされぬように体を固定する。
隙を見て片手でちぎれかけた首をたぐり寄せ、力まかせにひきちぎって遠くに投げ捨てた。
だが首が無くなってもマッチョガイの体は歩くことをやめない。それどころか魔法鎧を背負ったまま
走りはじめた。無目的に藪の中に突っ込んで触った低木を引き抜いて投げ、足に触れたものを
反射的に蹴りとばす。 魔法鎧はマッチョガイの首から焦げた肉をむしりとった。動脈からプシッビジュルルプッシャー!と
血液が噴出し、白銀の鎧が赤く染まっていく。
マッチョガイの体はそれでもなお走り回り、ひきつった動きで暴れ続けた。しかし出血多量で
しだいに動きが鈍りはじめ、足がよろけて倒れた。地面にころがってもまだ手足を乱雑に振り回して
いたが、、しばらくすると激しい痙攣がおきた。ブシュ、と首の断面から空気と共に霧状の血液を吹き、
傷口にブクブクと赤い泡が盛り上がったあと手足から力が抜け、とうとう動かなくなった。
すると魔法鎧の頭部が狼の頭を思わせる形状にぐねぐねと変形し、目を赤く光らせながら
遠吠えのような声をあげた。鎧の口が牙の生えた獣のような形に変わり、四つん這いになると
マッチョガイの傷口に噛みついてジュルジュルと吸いはじめた。魔力を吸収している
らしいが、まるで生き血を吸っているかのようである。 「おおお、いかん、いかんぞ。これは許される一線を超えておる」召喚士は焦っていた。
何ということだろう、魔法鎧の行動は元ネタを愛する識者が激怒して、パクリ作品許すまじと
立ち上がる領域に達していた。駄目だこの作者、早く何とかしないと。
横にいたエルフは一連の猟奇シーンを魔鏡で見てしまい、耐えきれずにリバースしていた。
一部リョナニスト御用達の炉リバース。いや何でもない忘れて。
「錬金術師殿、原典の甲冑と同…参考にした術式ならば、山田殿は『戻れなくなっている』のでは?」
「戻します。私が」錬金術師は青ざめた顔で、しかし落ち着いた声で言った。
「できるのだな?」
「私があそこに行けば」
「そうか、ならばあの場に転送してやろう。一刻も早く山田殿を回収し、今回の話は無かったことにするのだ」
「ええっ!それは…いえそれよりも召喚士様、転移呪文ですか?」 「陸海賊ごときにも使える呪文、わしが使えぬとでも思っていたか?
使えることを知られると強制的に軍属に登録されるゆえ、秘密にしているだけじゃ。
私有地内の移動であれば国の使用許可証は必要ない。
もはや猶予はならん。人目に触れぬうちに急いで終わらせよう」
もし通報されればこのスレは消滅する。はたして最後まで書ききれるのだろうか。
っておいこらまて。
召喚士が呪文を詠唱すると、錬金術師の周りに魔法陣が現れ、白い霧のようなものが
錬金術師の周囲に渦を巻きはじめた。錬金術師が会釈的な礼をした時、その姿は
渦の中で掻き消すように消えた。 >>383
まさか山田の肉体が消失しているとかないよな? 山田は暗い闇の中を歩いていた。どこに居るのかよく判らない。
周囲には誰もいない。
いくら歩いても、何も見えてこない。何も聞こえない。
何か大切な事があったような気がするが、思い出せない。
忘れるぐらいだから、最初から大切な事ではなかったのかもしれない。
助けてほしかった。…何を?
助けてあげたかった。…誰を?…判らない。思い出せない。
助けてもらえなかった。助けてあげられなかった。それだけは覚えている。
何もかも駄目だった。
何もしない奴らが駄目だった。何もできない自分も駄目だった。 諦めて目を塞いだ。耳を塞いだ。何かできると思ったのが間違いだった。
必要だったのは納得でなく服従。大事だったのは向上でなく同調。
善悪はどうでも良かった。空気を読むべきだった。損得だけを考えれば良かった。
理想など捨てて現実を見るべきだった。
世の中は自分以外のすべてが餌。思い入れは害悪。
理解しようと思ったら負け。判ってもらおうとするのは無駄。
誰も本気で考えてなどいない…いや違う。貴女(あなた)だけは本気だった。
本気で助けようとした。だから俺はそういう貴女を守ろうと。それなのに。
苦しい。もう何もできない。苦しいくるしいクルシイ
「ヤマダ!」
…や?…ま…だ? 「ヤマダ!」
山田?…誰?
「ヤマダ!戻ってきて!」
あの声は…ああ、そうか…俺は…戻っていいんだな…お前のところに。
好きに生きられる二度目の人生。それは俺にとって救いなのか、呪いなのか。
あの日。俺は諦(あきら)めてしまった。
救うことも、救われることも。
もしあの時に、今の俺だったなら。今の仲間がいたなら。
…俺は…貴女を泣かせなくて済んだのだろうか。 血にまみれた魔法鎧の手が錬金術師の首を締めようとした時、魔法鎧の起動が解除された。
生身の体に戻った山田がぐらり、と倒れかかる。
あわてて錬金術師が抱き取るように体をささえ、山田の体に重力制御の術式を付与した。
空中に浮かぶ山田の周囲に光魔法を展開し、山田の状態を確認する。
山田の顔は血と汗と涙と鼻水とリバースでドロドロである。
錬金術師は手に汚れがつくことも意に介さず、彼の顔をぬぐい、清浄化と治癒の
術式を付与した。
それからグシャグシャになった山田の髪の毛をなでつけて、泣きそうにも半笑いにも
見える表情になり、意識の無い彼の顔を見つめて言った。 「…心配させないでよ、ヤマダ…こんなになるまで無茶するなんて。本当に…
あなたって、ほんっとに馬鹿なんだから…」
錬金術師はもう一度山田の顔をよく見て、まだ意識が戻っていないことを確かめた。
そして少しためらったあと、おずおずと山田に身を寄せ、彼の胸にそっと顔をうずめた。
光魔法が静かに消えて、二人を夜が包みゆく。
空には星がまたたいて、ふわりと優しく夜風が流れ、遠くかすかにかまいたちが鳴く。
魔鏡で様子を見ながら、家令のエンガワに現場照明をフェードアウトするよう指示して
いた演出係、もとい召喚士はほっとした顔になって、安楽椅子に体を投げ出した。
「今回は色々と危ない部分がありすぎた。…だがその苦難を救うもの、それが愛じゃ」
「愛ナノカ」
「愛じゃ」
なお今回、自分から志願した山田は馬鹿であるが、無茶をさせていたのは錬金術師だと思われる。 その後すぐに家令のエンガワが山田達の迎えを手配し、家臣団に現場の後始末を指示した。
メイドのミヤゲは急いで着替えを用意しに行った。
翌朝。
「ううう、体が痛ぇ!治癒してくれ治癒!」
「それはレベルが上がった時の成長痛ですので、治癒呪文は効きません。
体の傷はもう全快しているはずです」
「山田殿、今回のような危ない事は二度とやってはならぬぞ。それにしても、あのまま
戻ってこられなかったら大変だったのう」
「戻せると確信していましたから」
「錬金術師殿の愛で、かの?」
「いえ、『戻ってきて』を起動解除の音声符丁に設定していましたので。
私の声紋を登録して、私の声でいつでも解除できるように」 「愛、違ッタ」
「…少々予想と違っておったが、それなら魔道具で声を伝えるだけでも解除
できたような気がするがの」
「え?いやまあその、それは肉声で直接に解除したほうが確実ですし。
錬金術師としては、現場での実証見聞が必要であると」
「…顔が赤いぞ」
「あーこの部屋、空調魔法が効きすぎてませんー?あー暑いなー」
「暑いか?俺はむしろ寒く…」
「おぬしもなあ…それだからいつまでも魔法使いを卒業できんのだこのヘタレが」 藪の中にころがっていたマッチョガイの首は、山田領防衛隊(農民有志。幼児含む)によって
回収された。連絡をうけて来領した王都騎士団に引き渡され、首実検のため首桶に収められて
王都に回送されていった。首は恨めしそうな表情でこちらを睨み、何か言いたそうに口をパクパク
動かしていたが、声を出せないので何を言おうとしているのかは判らなかった。
桶に入れられて符術封印される時に、悲しそうな表情をしたのが山田が最後に見た姿だった。
「賞金首在中」の荷札を貼られて運ばれていったあと、首塚に埋められて祀られたとも、
海底深く沈められたとも噂されたが実情は確認できていない。第三部で誰かの体を
乗っ取って復活してきたりしない事を祈るのみである。
なお、マッチョな体のほうはアンデッド化しないように退魔結界内に収容された。刻んで穀物滓や
竜糞、枯れ草などと混ぜて発酵菌を振りかけ、雨を当てないようにして熟成が進められている。
後日、畑葬に付される予定である。 エルフはしばらく山田領に滞在し、体調が回復してから里に帰ることになった。
山田とも徐々に打ち解け、山田はエルフの里の植物の話を聞けてとても喜んだ。
そしてエルフが里に帰る日がやってきた。
エルフの里から迎えの竜車が来て、見送りの者が集まっていた。
「錬金術師殿、ヘタレの姿が見当たらぬの」
「イリスの世話をしてから来る、と伺っております」
「イリス?」
「ご領主様が倒した飛龍です。使役していた頭目もご領主様が倒したので、山田領の
使役獣になったとか。イリスというのはご領主様の故郷で愛玩獣につける名前だそうです。
飛龍とどういう関係があるのかは判りませんが」
「はあ?あの生きた暴風雨を飼う?飛龍は餌がアレじゃし、代謝が高くて脱皮殻の粉が
大量に舞うし排泄は所かまわぬし不消化物は吐き散らすし、通常空間で飼うと何気に地獄じゃぞ?
…まあ、あやつなら飼いきるだろうがなあ。なぜにそういう事だけマメなのだマニアという人種は」 「あーすまん、ちょっと遅くなった」
山田がようやく現れた。
その姿を見たエルフが、恥ずかしそうな顔をしながら山田に近づいた。
山田に対する態度が、最初の頃とだいぶ違っている。
「領主様、今マデ、アリガトウ。…コレ、感謝ノ品」
美しい織物に包まれた瓶が、山田にそっと差し出された。
山田が受け取ると、ちゃぽん、と音がする。
「ん?もしかして酒かな?」
「魔たたび酒。飲ム、病気、カカリニククナル」
「おー、そんな効果があるのか。素晴らしい。しかし魔タタビにはまだ俺の知らない事が
色々あるなあ…交配して結実しない理由もいまだに判らない」
「…知リタイ?」
「え!?教えてくれるの?」
「誰ニモ話サナイ?」
「約束する」 「領主様、約束、死ンデモ守ル人。ダカラ教エル」
エルフは山田を少し離れた場所に連れていき、小声で説明をした。
要約する。
魔タタビの木は雌雄異株である。王国で栽培されている複数系統にはどれも雄蕊と雌蕊が
あるため両性花だと思われているが、実際は雌株である。花粉に見えるのは訪花昆虫を
惹きつけるための疑花粉と呼ばれる粒子で、稔性は無い。結実させるには雄蕊だけを持つ
雄花から真正の花粉を採取し、それを雌蕊につけてやらねばならない。雄木はエルフの
里の立入禁止区域に1本あるだけで、花守りはそこから採取した花粉を乾燥休眠させ、
収納できる状態にして持ち歩いている。 「雌蕊ダケノ、雌花ガ咲ク木モアル。ソノ事、人間、知ラナイ。人間ノ国、『両性花』ダケ」
「うーむ、判ってしまえば単純だなあ…それで結実しなかったのか…」
「デモ、花粉、アゲラレナイ。ソレハ花守リノ掟」
「ああ、それは当然だよ。魔タタビ酒は大丈夫なのか?」
「えるふ同士デモ、普通渡サナイ。渡ス、特別ナ…大切ナ人ダケ」
「へええ、それは嬉しいなあ。俺が受け取っていいのか?」
「領主様、特別。私ノ…」
「すみませんエルフ様、召喚士様が贈り物をくださるそうです。どうぞこちらへ」
「ソ、ソウカ。判ッタ錬金術師殿。領主様、マタ後デ」 エルフは移動中に、錬金術師にこっそり話しかけた。
「領主様ニ、魔タタビ酒、渡シタ。アレ、特別ナ酒」
「特別?」
「飲ム、酔ッテイル時、惚レ易クナル」
「え、それは」
「ソノ時、口説ク、簡単、落チル」
「えええ、どうしてそれを私に」
「頑張ッテ」
「いやそのですね、何を頑張れと。意味が判らないです」
「私、伴侶、ソレデ落トシタ」
「はああ?エルフ様、既婚者だったのですか!?」
「子供モ、二人」
「…ご領主様には黙っていてくださいね。あの人、衝撃うけそうだから」 こうして魔タタビ事件は終わりを迎えた。
誘拐されていた地球歴換算で今年56歳になる花守りのおっさんは、山田と再開を約束した後、
無事に妻子の元へと戻っていった。女の子?誰がそんな事言った?
なおその後、山田は猫娘が食べ残した魔タタビの実の種子を実生してみたのだが
その中から花粉のできる雄木も育ってしまった。それによってふたたび大騒動が勃発
するのだが、それはのちの話になる。 なお、前世のトラウマで恋愛恐怖症気味のヘタレ男と、研究一筋に生きてきた
素直でない理系女子の間に、恋愛関係というものがはたして成立しうるのか?
というテーマに関しては、園芸とは無関係であるためこのスレで語られる予定はない。
(劇場版・剣と魔法の怪しい園芸「エルフの秘木と魔獣大戦争」
エンディングテーマ「異世界の花々」 (C)中二病ラノベ制作委員会)
*この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・作品等とは関係ないことになーれ
(記憶消去の呪文)
(了) ということで終了です。ネットではある程度広まっている言い回しでも一般的には
知られていませんし、原典が特定困難な知名度の低い文章・設定も大量に流用して
おります。よって本作を、元ネタが周知であることを前提とした「パロディ」であると
主張するのは無理があり、盗作パッチワークと呼ぶのが妥当かと思われます。
当然ながら投稿者の著作権などは主張できませんし、園芸板に埋めておくことすら
危険な放射性廃棄物となっております。削除カモン。
言い回し、設定、ストーリー展開などどこから盗用してきたか、引用文献一覧とかつけないと
マイナーな元ネタは大部分の方が判らないかと。まあつけてもアウトなんですが。
もはや荒らし行為と化しているので、これで連作の投稿は終わりにします。
皆様に良き園芸ライフがありますように。 家庭菜園程度のゴミスキルでも異世界行けば嫁くらいできる ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています