園芸民が異世界転生したらどうするよ?
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園芸民の得意分野で中世ヨーロッパ風の異世界をどう生き抜くか?
どう内政チートするか議論しあうスレです
ただしチートとジャガイモは禁止な 翌日から山田は、領内を回って聞き込み調査を始めた。やっていることがほとんど私立探偵か
秘密諜報員である。山田領の領主の仕事はどうなっているのか山田。がんばれ家令。
「こんにちわー。いや怪しい者ではありません。ご領主様にご許可をいただいて、珍しい
地場野菜がないか探している山田と言います。こちらはお姉さんの畑ですか?
ん〜〜、これは美味しそうですねえ。この葉の紫と黄色の水玉の色艶が何とも。
根はどうなってます?え?抜いていい?・・ではお言葉に甘えて・・よいしょっと。
おおお、生きがいいなあ、すっごく走り回ってる。食べ方は?ふむふむ、煮付けと・・
活き造り?私の故郷ではサラダと呼んでますよ。
こういう新鮮な野菜を毎日食べてると美容にいいでしょ?だってお姉さん、お肌がツヤッツヤだし。
とてもお孫さんがいるようには見えないですよーいやホント。
あ、あと、このへんの森ではどんな山菜や魔物が採れるんでしょうかね?」
こうして農家のおばちゃん、もといお姉さんに聞き込みを続けた。そしてある集落で
一つの情報を得た。
「このあいだ、あの領主がむさい男達と一緒にうちの家に来たんだよ。森に魔物狩りに
行くから食い物をよこせって言うの。貧乏人から徴発しないで自分で用意してほしいよねぇ。
金?あのドケチ領主が払うわけないさ。あ、私が話した事は領主の奴には内緒だよ。
どこに向かったかって?あっちの森だね。何を狩りに行ったんだかは知らないよ。」
どうやら向かうべき場所が絞り込まれてきたようである。
次回「その6」 こうして山田は問題の森へと向かった。領主であれば自領での狩猟採集は自由であるが、
他領の者の場合は申請して許可をもらう必要があった。しかし今回の場合、許可がもらえる
とは思えなかったので、黙って森に入った。不法侵入である。
というか、本来であれば冒険者ギルドへの届け出もなく森に入るのは自殺行為である。
この世界の森には魔獣が出没するので、大雪山山系のヒグマのテリトリーに入山届けを
しないで単独行するようなものである。高確率で魔獣さんこんにちわ、三毛別羆事件
になってヒャッホーイである。知らない人はググるな危険。いやマジで。
とはいえ山田も「魔の森」で魔獣に襲われて学習していたので、光学迷彩に加えて
体臭と体温の隠蔽効果のある「隠れ外套ロイヤルセレブ」(命名:山田)を着用していた。
そのため魔獣との戦いは免れた。
しかし森の中に入り込んでいくうちに携帯占術板が圏外になっていてプチパニック。
岩から滑落し、食料をアイテムボックスごと落とし、鍛えてない足がつった。
しかし数々の苦難を乗り越えてそのまま道に迷・・森の奥へと進んだ。
次回「その7」 ここで解説を加えておくが、自生地で希少植物を見つけることは思うほど簡単ではない。
自生地内にある程度の個体数が散在している場合には、漠然と歩き回っているだけでも
意外と見つけられるものである。
しかし限られた1地点にしか自生していない、という場合には「○○山の✕号登山道の稜線側」
などという具体的な情報があっても、見つけきれずに戻ってくることがしばしばある。
その場所に詳しい案内人がいるか、GPSロガーによる詳細な位置情報が入手できなければ、
そう簡単に出会えるものではないのだ。
しかし山田の場合は違っていた。彼のステータス値は「知性」と「怪しさ」を除いて
すべてが微妙な数値であったが、隠しパラメータである「運命」はレベルMAXで数値が
カンスト状態だったのである。そのため彼は大きな運命の歯車に動かされ、ある場所
へと向かっていた。そうでないとストーリーが進まないからだとか、ご都合主義だとか、
そんなチャチなものでは断じてない。
次回「その8」 そして山田は、地面が妙に荒らされている一帯を見つけた。
これは・・人間が入り込んだのか?・・周囲を見てみると、落ち葉を集めて積み重ねている
場所がある。何だろう? そう思って木の枝を拾い、落ち葉の山を崩してみた。
するとその中から出てきたのは・・
死体だった。
土気色に変色した手が、落ち葉の中から現れた。
「”#$ぎ%&ぇ&;よf^!!!!」山田は文字にも書けぬ悲鳴をあげた。
幸い、さきほど排尿したばかりだったので、失禁はまぬがれた。
だがこの死体が登録済の冒険者なら、教会に連れていけば蘇生できるかもしれない。
少し冷静さを取り戻した山田は、死体をあらためて見てみた。
するとその死体はどうやらヒトではなく、頭を潰された茸人のようだった。
死後だいぶ時間が経過しているようで分解が進んでおり、枝で強く押すとその体は
土塊のようにボロリと崩れた。
さらに探すと、同じような落ち葉の山がいくつも見つかった。
ある落ち葉の中には火炎魔法をうけたと思われる、一部が炭化した死体。
また別の落ち葉の中は刃物でざっくり切られたと思われる死体。
「こんぼう」を握りしめた死体もあった。誰かに一撃でも反撃しようとしていたので
あろうか。
どうやら「女王」がこの場所から拐われたのは間違いなさそうだった。これらの死体は
抵抗しようとした茸人の下僕達だろう。生き残りはいないのだろうか。
その時、山田の視界の隅に、何かがごそりと動くのが映った。
次回「その9」 魔獣か!
山田はその場で動きを止めた。隠れ外套を着用しているので、音を立てなければ普通の
者には山田の姿が見えないはずである。
しかし、下草をかきわけてゴソゴソと現れたのは、枯れ葉を両手にかかえた茸人の幼児だった。
幼児は死体を隠してある落ち葉の山の上に、新しい枯れ葉を加えた。それから山田が
乱した落ち葉を整え、落ち葉の山に向かって祈るようなしぐさをし、フヨフヨと踊りはじめた。
死体を落ち葉で隠し、その前で踊るというのが茸人の一般的な習俗なのか、それとも
幼児が発案したオリジナルなのか、山田には判らなかった。だが、少なくとも茸人は
仲間の死を悼む心を持っている種族のようだ。山田はそう判断した。
この幼児が一人だけ生き残って、大人全員の死体を弔って回っているのだろうか?
そっと近づこうとした時、山田は足元の枯れ枝を踏み折って、ばきりと音をたてた。
幼児はビクッとして、踊りをやめて一目散に逃げ出した。
・・とはいえ、その逃げ足の速さは人間の幼児のヨチヨチ歩きと大差がなかったので、
山田がそのあとを追跡するのは容易だった。
次回「その10」 少し移動すると、周囲の空気が変化していることに山田は気づいた。
明らかに魔力濃度が高く、山田の体力も妙に回復しているような感覚がある。
その魔力の流れの中心にあったのは、樹齢もわからぬほどに年老いた一本の巨木。
山田にも名前のわからぬその木は、山田の知識にない聖なる魔力属性を帯びており、
山田の知っている言葉で言うならば「ご神木」とでも呼ぶのがふさわしい存在だった
そして、その神木の根本に、一人の大人の茸人が横たわっていた。領主の配下と戦った
時の負傷であろうか、頭の茸笠が半分もげていて汁が流れ、片目はつぶれ全身が傷だらけ。
あちこちに虫がたかってブンブン飛んでいる。
その体にさきほどの幼児がしがみついて、だんだん近づいてくる見えない何かに怯え、
ブルブルと震えていた。
そして山田が何よりも驚いたのは、死を目前にしているらしき茸人の、力のない腕の中に
抱かれている裸のーー ひどくやせた、小さな赤ん坊の存在であった。
その赤ん坊の肌は透き通るように白く、髪の毛は輝くような銀色だった。
次回「その11」 山田は理解した。
ここにいるのが、最後の「女王」と、生き残ったすべての臣民なのだと。
人間の蹂躙を受けた「王国」が、終焉をむかえる時に自分は立ち会っているのだと。
彼らは、この地を離れれば生きてはいけない。人間が悠久の昔から続く「王国」を壊し、
仲間の命を奪い、「女王」に辱めを加えたとしても、ここから逃げるという選択肢は無い。
そして逃げずに戦った者は、人間に返り討ちにされて落ち葉の下に還ったのだ。
拐われた「女王」は、赤ん坊の母株なのだろうか? 美しい「女王」を人里に招きたい、
という気持ちは理解できる。だが、その行為が彼女の命を奪うということは、
今の時代であれば、少し調べればすぐに判ることではないか!!
いや違う。領主の思考はおそらくそうではなく・・
ーー ふぎゃあぁぁ、ふぎゃぁぁぁ ーー
山田は赤ん坊の泣き声で、はっと我に帰った。
ええええ、何?お腹すいてる?ミ、ミルク?このへんにコンビニとかドラッグストアとか無い?
冷静になれ山田。
次回「その12」 フセイランに必要なのは母乳ではない。
それに気付いた山田は、緊急使用を想定して分散して持ち運んでいた回復ポーションを
すべて取り出した。そして大人の茸人にどんどん与えた。
通常のポーションでは身体の欠損部位を再生するほどの効力は無かったが、生命力だけは
完全に回復できたようで、死にかけていた茸人の茸色はみるみる改善した。
茸人は起き上がって胸にかかえていた赤ん坊を抱き直し、神木の太い根に腰、でなく
茸軸をかけた。そして赤ん坊を持ち上げると、その口を自分の首筋にそっと添わせた。
赤ん坊は泣くのをやめ、長い間チュウチュウと茸人の首筋を吸っていた。やがて口を離すと、
満足そうに大きなゲップをし、ことん、と寝てしまった。
茸人は山田に向かって・・と言っても山田の姿が見えなかったので、だいぶ方向が
ずれていたのだが・・何度も感謝の意を伝えるしぐさをしていた。
あるいは姿の見えない神様が降臨して、自分達を救ってくれたと思ったかもしれない。
山田はそれを見届けると、フニュフニュと謎踊りをしている茸人の幼児に向かって
怖がらせてすまなかったな、と言ってその場を立ち去った。
ちなみに帰路もさんざん道に迷い、ポケットに残っていた腐ったパンと、雑草を食べて
空腹をごまかしつつ、夜中になってからようやく人里へとたどりついた。
次回「その13」 ただのネタスレかと思って覗いてみたらすごく面白いな
フセイランとか知らないのもあって勉強になる イチジクとイチジクコバチ、アングレカム・セスキペダレどキサントパンスズメガの関係性とかもいいネタになりそう 今回の件については、山田に深い考えがあったわけではない。
「ニホンカワウソ発見!? やっべ、俺、生息地だけでも見に行ってくるわ」的なノリである。
その結果として死にかけていた茸人を助け、最後の「女王」も救ったのだが、
これは終焉を若干先延ばししただけで、よく考えれば何の解決にもなっていない。
ここで想像してみていただきたい。あの赤ん坊が無事に育ち、しなやかな肢体をもつ
小学生ぐらいの銀髪美少女に生長した姿を。すると例の領主が領兵をつれてやってくる。
「おぅおぅおぅ、ずいぶん育ったではないか。これなら十分に客がつくよなぁ〜〜?
お前ら、この娘を連れていけえぇ〜ヒャッハー!」「「「ヒャッハー!!!」」」(以上山田妄想)
もし山田が、全国を世直しのため漫遊している勇者様ご一行であるなら話は簡単である。
「ひかえおろう!この『勇者のしるし』が目に入らぬか!何?改心せぬと申すか!
ならば俺の名が引導代わりだ!どうりゃあぁぁズッパパーン(勇者スラッシュ命中)」
しかし山田は地方都市の中小企業の社長にすぎない。他領の領主様に指図ができるような
身分ではないのである。
次回「その14」 山田とか女王とか
山田養蜂場の社員か?w
てか生産系なろう小説と被ってるの大杉 ならば本物の勇者様に頼んで、と言いたいところだが、これがどうも現実的ではない。
勇者様は植物に関して、まともな知識をお持ちではなかったのだ。
異世界から苦労して召喚した貴重な水生穀物の種子を、乾燥した墓地に覆土もせずにバラ蒔いて、
「この墓地の下には、この穀物を愛した老人が眠っている。だからここに蒔けば実るのだ!」
などと言ってしまう、ちょっとアレなお方だったのである。
そのため勇者様を希少植物の保護活動に参加させた場合、ほぼ確実に「無能な働き者は、
有能な盗掘者よりも恐ろしい」と言われる状況におちいっていたのである。
それゆえ、山田は極力勇者様には関わりたくなかった。
そうなると、あとは領主の権限を抑圧するためには領法よりも上位の法律、つまり
王国法に頼るぐらいしか方法はなかった。
次回「その15」 たとえば王国文化財保護法による、王国天然記念物への指定。
しかし、これもまた山田個人の力でどうにかなる範疇を超えていた。
ある程度まで世間の興味が高まり、保護指定に向けた世論の動きが認められてからで
なければ、王国行政はけっして動こうとしないのが通例だったからだ。
とはいえ、現在、世の中は「採集消費の時代」から「保護して持続的に利用する時代」
へと確実にパラダイムシフトが進んでいた。それは10年単位でしか違いのわからない、
非常にゆっくりした動きではあったが、少なくとも「保護」を訴えた者が、世の中から
変人のように見られるようなことはすでに無くなっていた。
そして、王国環境庁が策定したある法律の実施が、昨年度にすでに閣議決定されており、
施行が目前にせまっているという情報を、山田はまだ把握していなかった。
次回「その16」 良いものを見せていただきました
お礼に鶏糞を置いていきます だが、この物語の結末を伝える前に語っておかねばならぬ事がある。
オークションで落札されたフセイランの成株はどうなったのか、である。
その行方は山田が探すまでもなく判明した。
王都のとある貴族が、落札したフセイランを他の貴族達に大いに自慢し、披露パーティー
を開催したり、宮廷画家に肖像画を依頼したりしたからである。
山田はその貴族とは交流が無かったが、知人を通じて接触をはかった。そして
ぜひとも私もご貴族様の貴重な栽培株を拝見させていただきたく存じます、と頼み込んで
了承を得た。
貴族の邸宅を訪問、しばらく歓談したあとに広間に移動し、フセイランが連れてこられた。
身にまとった装束や装身具は「妖花の女王」の呼び名にふさわしい豪華なもので、王妃様と
対抗できるほどの品々であった。彼女の凛とした立ち居振る舞いは貴族だと言っても
誰も疑わないほどのものであったが、豪奢なドレスの影にちらちらと見える奴隷用の
逃亡防止の術式をこめた首輪や手足の枷が、彼女の立場を物語っていた。
そしてその容貌は伝えられる通りの美しさではあったが、驚くほどにやせ細っていた。
元来の肌色の白さもあって、屍術士が墓地から呼び出した幽鬼を思わせるような
姿だった。
次回「その17」 山田は内心では大いに思うところがあったが、表面上はあくまで友好的にふるまった。
おおお、実に素晴らしい。このような珍しい魔物が見られるとは眼福の極み。
こやつがお手元に得られた事は、まさにご貴族様のご権勢の象徴でございましょう。
いやいや、それほどでもないのだがな、と言いながら、それほどでもある態度で
ドヤ顔をしている貴族はたいへん上機嫌だった。
・・ですが、フセイランは人里では長くは生きられぬという噂を聞いておりますが、
と山田が切り出すと、貴族は
貴公はよく知っておるなぁ、普通は知らぬ者が多いのだが、と答えた。
何と!すぐに死んでしまう魔物と知っていて、あれほどの高額で落札なさったのですか!
ああ、承知の上で買ったのだ。わしが必要だったのは社交界で自慢するための道具
だからな。その役目は十分に果たしてくれた。世界最後のフセイランを所有していた男、
という名誉を得て歴史にも残るであろう。それを考えれば安い買い物だったぞ。
枯れ果てたら、あとは剥製にでもして応接室に飾っておこうかと思っておる。
山田は、お前はコスモドラグーンで撃たれてしまえ、と思いつつ会話を続けた。
次回「その18」 貴族は言った。
森から連れてきて50年共に暮らしたとて、結局最後に枯らしてしまうのであれば
5日で枯らすのとどこが違うのだ。長く生きていたから栽培成功、などと言うのは
しょせんは自己評価、自己満足にすぎぬ。ならば自分が満足できさえすれば、
栽培期間の長短など問題ではない。栽培は成功したのだ。貴公はどう思われる?
・・え、まあその、そういうお考えもあるかと。
ですが、フセイランはいざしらず、普通の植物であれば長く栽培するほど増殖も
いたしますし・・
ああ、貴公も殖やして楽しむ派なのか・・あの男のようにならねば良いのだがな。
・・あの男?
わが貴族家に仕えていた園丁だよ。栽培増殖の技術は一流だった。
だが・・奴は勘違いをして身を滅ぼした。
貴族は使用人に、この場に新しい茶を用意して持ってくるように命じた。
次回「その19」 奴はわしが子供の頃も、わしを子供扱いせずに真摯に植物の事を教えてくれた。
自分が殖やした希少植物を王国中に広めて、絶滅しかかっている植物を普通の植物に
格下げしてやるのだ、と目を輝かせて語ってくれたものだ。
だがな、奴は勘違いしていたのだ。自分以外の園芸家も、自分と同じように植物を
愛しているのだとな。普通の園芸家にとって、園芸植物は使い捨ての、根のついた切り花だ。
だから奴が心血を注いで殖やし、配布した希少植物も、まともな扱いはされなかった。
1年たつと半分枯れ、5年たつと1割も生き残っておらず、10年後に育てているのは奴一人に
戻っておった。
それでも奴は諦めなかった。自分が育てるのを止めてしまったら、希少植物は王国から
絶滅してしまうと言ってな。傍から見ていると、自分一人で血を吐きながら悲しいマラソンを
続けているかのようだったわ。
・・だがな、ある日奴はとうとう壊れた。奴が苗を送ってやった相手がたずねてきてな。
また苗をわけてくれと言ったのだ。「植替えしないでいたら枯れちゃってさー。また
苗をくれよ。たくさんあるんだから問題ないだろ?」とな。
奴は無言でそやつに水をかけて追い返した。赤い顔になって怒りで震えておった。
だからわしは言ったのだ。「草ごときの事で、あまり心を病むな」とな。
・・その夜に奴は温室に油をまいて火をつけ、その中に飛び込んで命を断ったのだ。
次回「その20」 今思うに、奴にとって自分が育てているものは「草ごとき」ではなかったのだ。
自分の一番身近にいた者ですらその気持ちを理解していなかった。それを知ってしまって
絶望したのだろうな。・・橋の上で水面を眺めていた自殺志願者の背中を、わしは
押してしまったのだよ。
自分の愛した草を残していくのは心残り。さりとて託せる相手もいない。
結局、花と無理心中したのだな・・結局、奴はあまりにも生真面目すぎたのだ。
貴公も草ごときに過度に思い入れをすれば、その身を滅ぼすぞ。
ああそうだ。「草ごとき」だ。わしにとって植物とは、自分の欲望を満たすための
道具にすぎぬ。園芸などしょせんは暇つぶしの娯楽、命を削ってまでやるものではない。
花を愛したがゆえに苦しむのなら・・
愛などいらぬ。
そう言って茶をあおった貴族の顔は、どこか寂しそうに見えた。
次回「その21」 >>76 です
軽く振ったつもりでしたが
こんなに中身の濃い長編になるとは
面白いです その考えは間違っています、とは山田には言えなかった。
当然ながら貴族に対し、フセイランの扱いについて考えてください、と言い出せる雰囲気
ではなかったし、仮に言っても聞いてはもらえなかっただろう。
では、その時に山田には何ができたのだろうか。
このフセイランを譲ってください、譲っていただいた事は絶対に口外しません、
私の全財産をお渡ししますから、と言ってドゲーザをして懇願すれば、あるいは譲って
もらえたかもしれない。だが、山田領には神木も茸人も存在しない。連れて帰ったと
しても「女王」のその後の運命に変わりはない。
では故郷の森に帰してやるか。しかし、「女王」2人の命を支えられる人数の茸人はもう
残っていない。仮に茸人が残っていたとしても、森で健康が回復した時点で再度あの領主に
狩られるだけの話である。
ならばその場から連れて逃げて、彼女が力尽きたあとは黒く干からびた屍体を匣(はこ)
に入れて背中に背負い、一緒に全国を旅して回れば満足できるだろうか。
山田がそれを解決策だと思える人間だったならば、この物語がそういう結末で終わった
可能性もあったのだが・・
結局、山田がしたのは黙って貴族の館を立ち去ることだった。
山田はこれから彼女がどうなるか、すべて理解していた。その上でーー
彼女を見殺しにした。
次回「その22」 山田が貴族と話をしている時、「女王」は目の前で自分の死について語っている
デリカシーの無い男達に対して、何の怒りも悲しみも示していなかった。
何かを悟ったかのように、ただおだやかな表情だった。
その目は、ここではないどこか遠くを見つめていた。
山田には、その目が二度とは戻れぬ生まれ故郷の森を思い出しているかのように思えた
その表情が、山田がフセイランを見た最後の記憶となった。
「女王」は与えられた人間用の食事を口にしようとはせず、体力回復用に与えられた
霊薬エリクサーも効果がなく、その後ほどなくしてこの世を去った、という話を
山田は聞かされた。
なお、彼女の死体は剥製にはされず、王立科学博物館に標本として寄贈されたという。
次回「その23」 それからしばらくの間、山田はひどく機嫌が悪かった。
普段は山田の部屋に入り込んで仕事の邪魔をしているナナ&ナナ・ツーも遠慮して近寄らず、
家令のエンガワの頭に登って仕事を邪魔していた。
そんなある日、王国環境庁から山田に書状が届いた。
野生動植物を保護するための新しい法律が創設され、保護指定種を決定する科学委員会が
発足することになった。その委員に山田を任命するというのである。
その法律の名は、「特定第二種王国内希少野生動植物種」制度という。
この法律は従来の「王国内の絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」
通称「王国種の保存法」を補完するもので、簡単に言うとオークションでの希少な生物の
販売を禁止することに特化したかのような法律である。
この法律の指定種となった場合、第一種の希少動植物種のように捕獲・採集が規制
されることは無いのだが、販売することは許されない。そのため衆人環視で行われる
オークション取引には、出品することがほぼ不可能になる。
昨年度に実施は閣議決定済だったが、まだ施行されてはおらず、具体的な規制種の指定は
今後時間をかけて順次決定されていく予定であった。
その決定内容について討議・検討するのが山田の仕事というわけである。
次回「その24」
*この物語はフィクションであり、実在する人物・組織・法律などとは以下略 厳密に言うと「特定第二種」の場合、人工増殖個体であれば販売は可能である。
だが、増殖方法が確立されておらず、野生採取のみが流通している動植物の場合は
事実上販売はできなくなる。一方で野生からの採取個体が捨て値で大量販売されることが
無くなるため、本当に人工増殖されている動植物の場合は販売価格が安定し
増殖業者の利益につながる。そういう想定がなされていた。
山田は、この法律の指定種にフセイランを加えようと考えた。
人工増殖できないフセイランの場合、指定イコール販売禁止になるというわけである。
しかし、この提案は他の委員からは難色を示された。
というのも、もともと特定第二種は二次的自然に生息する動植物、つまり里地・里山で
生きている身近な生き物を選んで指定することが前提とされていたからである。
具体的には第一回の指定として、農業用のため池に棲む有皿緑色水魔の捕獲、
草原性の小妖精の採集、平地性の火精サラマンダーの卵塊採取などが規制される
予定であり、植物系の魔物については今のところ検討対象では無かったというのもある。。
そもそも絶滅寸前の種であるならば第一種の希少動植物種に指定して、捕獲・採取を
禁止すべきであり、特定第二種への指定は筋違いである。それが他の委員達の
意見であった。
次回「その25」 だが、この世界において捕獲・採取の禁止は、領主の狩りの権利に制限を加えることに
つながっていた。そのため王国官僚が第一種への指定に対して及び腰であり、追加種の
選定は遅々として進んでいなかった。
そのため、代替策として特定第二種への指定が重要かつ現実的である。山田はそう主張
した。そして山田の説得により、最終的に他の委員も山田の意見に賛成した。
「では、山田委員の意見を採択するということで(あーもうコイツ何とかしてほしいわー
空気読めねぇし完全に頭おかしいよなー。でもなー王様のお気に入りみたいだし喧嘩しても
俺が損するだけだしなー。考えてみたら指定種なんて何だろうが俺と関係ねーし、適当に
決めて早く帰ろーぜ。あー尻かゆい)」という議長の締めの言葉によって、指定種への
追加が決定した。
こうして、山田はフセイランの販売禁止を勝ち取ったのである。
そしてその後、フセイランが販売されることはもう二度と無かった。
次回「その26」 この法律が施行され、フセイランが販売禁止になったという情報が、例のフセイラン狩りの
領主にもたらされた。その時には、領主は「ああ、もう見つけても売れないのか・・」
とたいへん落胆した。しかしそのあと、憑き物が落ちたような明るい表情になった。
自分はハンターではなく領主である。領主の本分とは、領内の開拓を進めて最新の産業を
誘致し、関係者からリベートを受け取って私腹を肥やすことである。そう思い至ったのだ。
その後、領主は熱心に本分に励み、のちに最新事業に関係した巨大汚職と脱税が発覚して
領主の座を追われたという。
次回「その27」 山田の人生の流れにおいては、ここでフセイランとの関わりが一旦中断する。
そして新たなお題への挑戦が始まっていく。
しかし時系列を入れ替えて、そのあとフセイランがどうなったのかを語っておこう。
ーーーーーーーーーー
それから数年ののち、数々の事件が一段落した山田は、ふとフセイランのことを思い出した。
もしあの赤ん坊が順調に育っていたならば、今頃は全裸の美幼女に生長して森の中を
走り回っているはずである。母親は救うことができなかったが、あの子にはその分、
罪滅ぼしに手助けをしてやりたい。今、何か困っていることはないだろうか。
そう思った山田は、ふたたびフセイランの森を訪ねることにした。
今回は迷子にならぬようにと、レンタル騎乗獣(騎乗用具標準装備、隠れ外套オプション)
を利用した。行き先や道順を騎乗獣が覚えてくれるので、いわばカーナビ付きである。
♪そなたは森で わたしは里で 共に生きよう暮らしていこう 会いに行こうよ
騎乗獣に乗って♪
鼻歌を歌いつつ、のどかにポクポクと進んでいった。
空は青く晴れ、吹き渡る風はさわやか。まさに観光気分である。
次回「その28」 ところが、途中でどうも様子がおかしいことに気がついた。
周辺の木が切り払われて草原になっており、森へと向かう細い道が幅の広い
石畳の街道になっている。
これは!・・
胸騒ぎがした山田は、騎乗獣を急がせた。
進むにつれて嫌な予感はますます高まっていった。
そして行き着いた先に・・
森は無かった。
整地された平原に、領内の人々を幸せにするための最新の事業設備ーー
太陽光から光の精霊の魔力を抽出するための黒いパネルが、一面に並んでいた。
そこには木も草も無くーー
ーー 生き物の姿は、もうどこにも見当たらなかった。
次回「後日談その1」
あと数回でラスト。 そして、それからさらに数年後。
元・宮廷錬金術師(その頃には王宮を退職)は、山田に頼まれた買い物のため、隣国の
盆栽市を訪れていた。その時、露店で植物を物色している一人の男を見かけた。
見た瞬間、彼女は全身が総毛立つような戦慄を覚えた。魔道士のローブを着たその男は、
見た目にはただのさえない中年男にすぎなかった。しかし彼女の魔力知覚は、その男ーー
否、その「何か」は、この世ならざる場所に実体をもつ、名状しがたい怪しさの宝石箱
であることを告げていた。その身に纏う病的かつ冒涜的な禍々しい混沌とした変態の
オーラは、明らかに人間のものではありえなかった。
しかし、恐怖に駆られ、その場を逃げ出そうとした彼女の足が止まった。
その「何か」ーー便宜上「その男」と呼ぶがーーの隣にいた二人の女性を見た時、
錬金術師としての好奇心が恐怖を上回ったのである。
女性のうち一人はすらりとした長身の、凄みのある美女。もう一人はその女性に
よく似た顔のまだ幼い女の子。その二人は共に透き通るように肌が白く、髪の毛は
輝くような銀髪で、目が血のように赤かった。
次回「後日談その2」 意を決した彼女は、あの・・突然申し訳ありません。私は山田領の錬金術師で
ございますが・・と思い切って話しかけてみた。すると意外なことに、その男は
ああ、山田殿の・・彼の事はよく存じております、と答えた。
いえ、面識があるわけではないのですがね・・この子の・・
男のローブの裾を握っている女の子の頭を撫でて、男は続けた。
この子の乳母が、私がこの世界を留守にしている間に、姿の見えない神様に命を
救ってもらったというのでね。何があったのか「過去視の水晶玉」で調べたのです。
それで山田殿が何をしておられたのかを知りました。実に面白い方だ。
・・あの、こちらのご婦人は?・・まさか、そんな事が・・
ああ、保存されていた身体を盗み出してくれば、蘇生自体は簡単ですよ。
大変だったのは復活時に生命力を分けてくれる茸人達を、培養して殖やすことでした。
そ、それはどのような・・
そう問う錬金術師に男は言った。
次回「後日談その3」 「三者間共生培養」その一言だけで山田殿ならばご理解なさると思います。
が・・もし判らなかったとしても、意味を調べる必要はありません。
ヒトの身で、神木と茸人の秘密に関われば命を削られます。
「頑張れば育てられる」それは裏を返せば「少しでもつまずいた時は、すべて枯れる」
という意味でもあるのです。
永遠に頑張れるヒトなどおりません。血を吐きながら走り続けても、最後には自分の
身を滅ぼして背負う者と共倒れになるか、休むために背負っていたものを投げ捨てざるを
えなくなるか、どちらにしても最後に待っているのは絶望でしかありません。
栽培というものはね、頑張ろうと思った時点ですでに負けなのです。
そして挫折した自分を責めて自らの身を焼き尽くしても、心のどこかで諦めきれて
いなかった業の深い者は・・どれほど血を吐き続けても死ぬことのかなわぬ身に転生し、
魔の者とヒトが同じ場所で、共に幸せに暮らせる術(すべ)を見つけ出すことを夢見て、
終わりの見えない道を走り続けねばならぬ呪いをうけるのです・・
錬金術師が男の言葉を手帳に書き写している間に、男とその連れ達は雑踏の中に姿を消し、
あわてて探したが、それきり見つからなかった。
次回「後日談その4」 「頑張れば育てられる」それは裏を返せば「少しでもつまずいた時は、すべて枯れる」(至言 山田領に戻った錬金術師がその話を山田に伝えると、山田はしばらくポカンと口をあけていたが
やがて大笑いしはじめた。
「いやぁ参った。人間にはおこがましい事だとは思っていたが、この世界には人間でない
連中がいる事を忘れていた、こいつは本間先生もびっくりだ」
え?何?意味がわからない。ホンマって誰なの?と錬金術師が尋ねたが、山田は聞いては
いなかった。「よし、その男に弟子入りだ!」と叫んでそのまま外に飛び出していった。
そして数日後に「見つからなかった・・」と言ってシオシオと戻ってきた。
その男が何者で、どこから来て、どこに行ったのかはその後もとうとう判らなかった。
そして錬金術師は山田が何を理解し、何を言っていたのか最後まで全然わからなかった。
この章終了。ちょっと長くなりすぎたようです。
次回「樹木人(トレント)の悩み」
お題:イチジクコバチ。 魔道士のローブを着た男ってまさか「その19」で話題に出てきた…
真相不明のままでいいけど読んでてわくわくする 樹人族トレント。樹木系のモンスターで、なおかつ自力で歩き回れる種族の総称。
その形態は生息している異世界ごとに異なっている。切り株に目鼻がついたような種族、
樹木が根をうごめかせながら這いずり回る種族、人間型で肌が樹皮に覆われたような
種族など、きわめて多様性に富んでおり、エルフのように定型的なイメージでは語れない。
そしてこの世界のトレント種族群は(種族によってかなりの違いはあったが)多くの種族
では美しい女性の姿をしていた。なお、この物語に登場する植物系の魔物がどれも
美女の姿をしているのは執筆者の趣味ではなく、収斂進化の奇跡と呼ばれる現象に
よるものである。
そして今回は、王都から山田を尋ねてトレントの夫婦が訪れてきていた。
濃緑色の肌に白い髪の毛の美形で、胸のニ個の貯水球はそれほど大きくはないが、
たいへん整った形状で素晴らしい弾力性を有している。
ちなみに彼らは雌雄異株であるが、カタセタム族のような性的ニ型ではない。
外見的には雌雄ともに人間の美女にしか見えない。そのためこの夫婦は、見た目には
樹木ではなく百合である。
次回「トレントその2」 この夫婦は結婚してだいぶ年月が経っているのだが、いまだに子供ができずに悩んでいた。
二人とも、王都ドームでおこなわれた園芸展で、王立園芸協会のメダル審査のオリハルコンメダルを
受賞した優良個体であり、周囲からは優秀な実生苗を生産することを期待されていた。
そのため特に妻の精神的プレッシャーが高く、最近では心を病みはじめてる兆候すらあった。
子供ができない原因を、植物の繁殖に詳しい山田に調べてほしいというのが夫妻の希望だった。
山田には療術師の資格は無いが、数々の難病・奇病を治した実績は王都ではよく知られていた。
「辺鄙(へんぴ)な土地に住み、女の子の助手を使って、誰にも治せない病気を次々と
治療している無免許の天才療術師」というのが山田の人物像として定着していたのである。
そして山田が夫妻の話を聞いてみたところ、夫妻は「子供の作り方」をまったく知らない、
ということが判明した。
次回「トレントその3」
「あの・・子供って、どうやって作るのですか?」
「えーとですね、オシベとメシベが・・」
「うあ?・・あ、あの、ご領主様、ストレートにそういう単語を口に出されると、
聞いているほうが恥ずかしくなってしまうのですけれど・・
(ピー)とか(ピーピー)とか、そういう言葉を使って説明できませんか」 ここで一般的なトレントの受粉過程について解説しておく。あたかも二人の美女が身体的な
接触を試みているかのような描写となるが、あくまでヒトに酷似した外見の植物が樹体を
接しているにすぎない。そこに扇情的な要素は微塵も無いことをあらかじめ申し上げておく。
受粉を試みるニ株は、樹体を覆う衣服、あるいはそれに類する被覆物をあらかじめ除去
しておく。次に受粉パートナー相互の樹体を、接触面積が最大になるような体勢で密着
させる。しかるのちに相互にパートナーの樹体に、さまざまな方法で刺激を加えていく。
積算刺激量が一定の閾値に達すると開花が開始される。膨張した花弁は大きく開かれ、
柱頭からは粘液が分泌、葯からは花粉が放出される。花蜜が生産され、あえぎ声と共に
花器から花粉媒介者を誘引するための揮発性物質が外部へと流出しはじめる。
この時点で周辺から花粉媒介者である、トレントコバチ(以下コバチ)と呼ばれる
小魔虫が集まってくる。ここでは詳細な解説は省略するが、トレントはコバチが
いなければ受粉できず、またコバチはトレントが存在しなければ繁殖ができない。
トレントの種族ごとに花粉を運ぶコバチの種類もほぼ決まっており、長く続いた
共進化の末に、1種対1種と言ってもさしつかえない密接な共生関係を築いている。
次回「トレントその4」 したがって受粉を希望するトレント夫婦の場合、彼らの種族に対応するコバチの生息域に
出向いて、そこで受粉パートナーと共に屋外受粉行為に励まねばならない。
そしてコバチによって雄株から雌株へと花粉を媒介してもらうのである。
問題の夫婦の場合、そのコバチがどのような種類で、どこに生息しているのかという
知識がまったく無かった。それ以前にコバチが必要であるという事実すら知らなかった。
とはいえ、人間であれば、むしろそういう特殊な知識を有する者のほうが珍しい。
通常はトレントの親から子供へと、性教育として伝えられるはずの知識であった。
だがこの夫婦の場合は、その知識を伝えられる前に親がいなくなっていた。
彼らは暗黒大陸から移民してきたシングルマザーの母親から生まれた双子の姉弟であるが、
母親は二人がまだ小さいうちに魔ナメクジに舐められ、この世を去っていたのである。
ちなみに姉と弟で子作りをするというのは、人間であれば非常にいけない行為である。
しかし、植物には自家受粉で子孫を作ってもまったく近交弱勢をおこさないような種類
も多いので、近親交配という行為が(実際には問題になる種類もかなり多いのだが)
ほとんど問題視されていない。判りやすく言えば、シブリングクロスごときで騒ぐ
園芸家はいないのである。
次回「トレントその5」 花粉媒介者がわからないのであれば、人工授粉するしかない。山田はちょうど開花中
だったトレントの花を詳細に観察し、構造をよく調べた。
ちなみにトレントの花は臍(へそ。トレントは地球のマングローブのように胎生種子で、
体内で実生を育てるため人間と同じように臍がある)の下方、右足の親指と左足の親指の
間に咲く。色は薄いピンク(個体差あり)で、地球のクリトリアの花に似ている。
すると、花の構造が他種族のトレントと大きく異なっていることが判った。
雄蘂(ゆうずい=おしべ)がすべて融合し、花粉は大きな集合塊となっている。
柱頭(ちゅうとう=めしべ先端)もそれに応じて巨大化している。この特徴から考えると
コバチが花粉媒介者だとは考えられない。
次回「トレントその6」
「話は変わりますが、メダル審査とはどういうものなのですか?」
「私達が足を広げて、審査員達が花を観察します。そして花の大きさや形、色艶などに対して
点数をつけていきます。その合計点に対応した各賞のメダルが取得できるという審査会です。
フラグランス審査というのもあって、私はそちらでも高得点でした」 さらに、蜜腺が体内の奥深くに位置しており、花粉塊のある場所から蜜腺までの距離が
人間の前腕の長さほどもある。
山田は首をかしげつつ人工授粉を進めた。そして作業中に考えた仮説はこうである。
彼らの生まれ故郷である暗黒大陸では、コバチではないまったく別の花粉媒介者が
トレントの受粉に関与していて、その何者かは体内深くの蜜腺まで届くような長い
採蜜器官を持っている、と。
のちに暗黒大陸で山田の予言したとおりの特徴を持つ魔物が発見され、
その魔物には「予言された」という意味をもつ学術名がつけられることになった。
次回「トレントその7」 その魔物は寝ているトレントの美女へと忍び寄る。そしてぬめぬめとした赤く長い舌を
トレントの花へと差し込み、その蜜壺に(以下描写自粛)
山田の人工授粉によってトレントの妻は無事に結実し、珠のような雄株の実生苗を
授かった。その後も次々と実生繁殖を続け、アングレカム族のセスキとペダレの夫婦は
幸せに暮らしたという。
よく考えてみたらラン科は樹木ではなかったことに気がついたが、たぶんこの世界では
ランは樹木なのだ。うん、そういうことにしておこう。
そして次の事件がおこる。山田領の北部に巨大な火球が落下した。
次回「宇宙から落ちてきたもの」
マクロな空を貫き、山田領を雷(いかづち)が撃つ。 まさかオーバーテクノロジーでデカルチャーなものが…… 山田領の北部平原、火球落下跡の巨大クレーターの底から、馬車ほどもある巨大な
焼け焦げた塊が発見された。
当初は隕石だと思われていたが、左右対称の形状は自然の隕石だとは考えにくかった。
魔力探査による調査の結果、強靭な外殻と比較的柔らかい内部構造に分かれており、
内部からは生命反応が探知されることが判明した。
「この中には、宇宙から飛来した生命体が存在している」
その結論に山田領は震撼した。もしや飛翔魔法を遥かに超える、星間飛行魔法で飛ぶ宇宙船
だったのだろうか?
だが、識別魔法による鑑定は驚くべき結果を示した。
「宇宙巨大植物 レギオソプラントの種子」
それが謎の物体の正体だったのである。
山田は宇宙植物に造詣が深いといわれる、精霊島に住む精霊王を尋ねて対応策を乞う事にした。
次回「その名は精霊王」
そして山田が精霊島へと向かったその日の夜、クレーター内で雨にうたれた巨大種子には
びしり、とひびが入り、吸水を開始していた。 「はい、そういうわけでわしが精霊王です。セイちゃんと呼んでください」
「精霊王様、軽いです」
「あーいいのよヤマちゃん。趣味家ってのは趣味の分野ではみんな対等だからね。
立場とか肩書なんて無視していいの。あたしらの間では竜王はリュウちゃんだし、
海神王はカイちゃんだし。あー・・マーちゃん?あの人は当分封印されててほしいのう。
敬遠される人って、どうして『あの人』って呼ばれるんかね?」
「他人のふりをしたいからでは?そんな事より宇宙植物の件ですが」
「ああ、外宇宙の深淵から飛来した巨大植物じゃね。たぶん文明が滅ぼされたり
共生している巨大怪獣の群れが人間を襲ったり、街がふっとんだりはしないと思う。
しないんじゃないかな。まあ多少は覚悟しておけと」
「んな適当な。滅ぼされると滅ぼされないでは大違いなんですが」
「いやいや専門家って、断定はしないもんなのよ?いろいろ可能性を考えるからね。
それにねー、植物には個体差ってものがあってね。
あー、もうちょっと納得できるように説明したほうがいいかの?」
「年寄りの長い話は嫌われるんですけど・・ぜひお願いします」
「本音出とるよヤマちゃん。もう少し社交辞令というものをじゃね」
次回「個体差がうんたらかんたら」
その頃、宇宙植物は発芽を開始していた。 「たとえばじゃね、ヤマちゃんの寝室にサキュバスが現れたとするわな」
「サキュバスって・・女の淫魔ですよね?男性とエロい事して精力を吸い取る魔物」
「そうそう、男性の理想の女性に化けて、あんな事やこんな事をしてくれる女魔物。
自分の理想っちゅー部分が重要じゃね。ヤマちゃんは巨乳と貧乳とどっちが好きかの?」
「どちらかというと・・いや、私の性癖はこっちに置いといてですね、
それと植物とどういう関係が」
「まあそのうち判るから。で、ヤマちゃんのストライクゾーンど真ん中の女の子が
フェロモン全開で、すっげーエロい服装して現れて、頬を染めながら上目使いで
『山田さま・・』とか言ってくるわけね。んで、そこは寝室で、密室で、人目も無いと。」
「・・・すいません領館に戻って対魔結界消してサキュバス呼んでいいですか」
「悪霊も入ってくるから現実には駄目じゃけどね。で、ヤマちゃんは思わず彼女に
抱きついてキスしてしまう」
「そして高まるムードと共に彼女をベッドに押し倒して」
「んにゃ、真っ赤になって泣き出した彼女にひっぱたかれる」
「ええええええ何その展開。サキュバスですよ?淫魔ですよエロですよR18ですよ?」
次回「宇宙植物の話はどうなったんだよヲイ」
その頃、宇宙植物は種子の殻がうまく脱げなくて困っていた。 「何故かと言うと、その子は男性経験の無い純朴でオボコいサッちゃんだったのじゃね」
「純朴な淫魔って何ですかそれ。そんなものいるわけ・・いるんですか?」
「わしが知ってるキャラだけで数人おるね。エロい種族なのにウブい小娘、という設定が
たまらん、という客層は意外と多いらしくての」
「私の故郷で言うところの『ギャップ萌え』というやつですか」
「で、ちょっと聞いておきたいのじゃけど、ヤマちゃんは『抱きついてキスする』
って場面で、その先の展開に何も疑問を持たなかったじゃろ?」
「え、だってサキュバスですし」
「問題はそこなんじゃよね」
「え?」
「『サキュバスはエロい事を受け入れてくれる』それはまあ、一般論としては正しい。
しかしの、生物集団というのは例外の集合体みたいなもんじゃからね。
『エロい事をすると嫌われるサキュバス』というイレギュラーな個体もおる。
これが『個体差』というものじゃね」
次回「ようやく植物の話に戻るぞ」
その頃、宇宙植物はどうしても殻が脱げずに小休止していた。 「そうは言ってもそういうのは例外でしょう」
「では聞くが、ヤマちゃんは人間の女の子にいきなりキスするかの?」
「いや、さすがに人間相手なら、相手の反応を見ながら」
「『サキュバスにも純朴な個体がいる』と思っていれば、人間相手と同じ用心をしてるじゃろ?
サキュバスだから楽勝だー!という先入観で行動して、個体差なんて頭に無かったじゃろ?」
「それはまあ」
「植物栽培でもな、そういう御仁が多い。量産園芸種や野菜の固定種ならば
性質が一定じゃからマニュアル栽培でええんじゃけど、野生植物の場合にはそれでは
駄目なんじゃよね。個体差というものを考えて手を出さないと、突然ひっぱたかれる」
次回「宇宙植物の出番はまだですか」
その頃、宇宙植物は殻脱ぎを再開していた。 「つまり種名で判断することなく、個体特性を見て栽培を変えなければ駄目だと」
「まあそういう事じゃね。とはいえ宇宙植物なんぞという栽培情報が皆無のものじゃと
特性を把握するまでに長い時間がかかって大変じゃったが」
「おお、宇宙植物を育てるとかマッド錬金術師のような。てか育てたんスか!」
「宇宙植物は漢(おとこ)のロマン」
「まあそこは否定しませんけどもね。生長して暴れだしたりしませんでしたか?」
「わしが育てた株はどれも大人しかったのう。とはいえ凶暴な個体がいてもおかしくない、
というのが個体差というものでの」
「いやちょっとその、いきなり人類SOSになったら困るんですが」
「まあそういう時はリュウちゃんに煉獄滅神ブレスを2,3発たたきこんでもらって
宇宙植物に教育的指導を」
「何ですかその怪獣大戦争」
次回「宇宙植物はこう育てる」
その頃、ガタガタ動く巨大種子の周りに領民が集まりはじめていた。 「というか、今『育てた株はどれも』って言いませんでした?複数株を育てたんですか?」
「おお、3株ほどだがの」
「うわ・・宇宙植物3株って何それ凄い」
「いや、別に凄くないじゃろ。『女性3人と付き合ったから俺は女性について語るぞ!』
っていう男がいたらただの痛い人じゃろ。威張れるのは女を知らない連中を相手に
している場合だけじゃよね。まあ栽培自慢ってそういう痛い人が多いんじゃけど」
「辛辣ですね精霊王様。それはともかく、宇宙植物ってどういう花が咲くんですか?」
「それがよく判らんのよ。うちで一番古い株は種子から育てて150年ぐらいになるん
じゃけども、一度も咲いたことがない。種子の大きさから考えて10階建ての建物ぐらいに
生長してもおかしくないと思うんじゃけど、一定の大きさから全然大きくならんからのう。
この星の気候に合わんのかもしれんの」
「150年とかあっさり言ってくれますね。えーと、大きくならないんですか?」
「そうじゃね、2階建ての建物の屋根を越えるぐらいで止まるかの。背丈は半年ぐらいで
急速にそこまで育つんじゃけど、そこで止まってあとは外見的にほとんど変化せんね」
「まあそれでも十分に大きい気がしますが。室内栽培は無理ですねそれ」
「いや巨人族のご家庭ならば何とか」
「その発想は無かった」
次回「宇宙植物の特徴」
その頃、巨大種子の周りに近寄らないように警戒線が張られていた。 「いずれにしても、宇宙植物の栽培に興味が出てきました。育ててみましょうかね」
「ヤマちゃんならそう言うとは思ったがの。ま、ヒトの身で育てられるものには限界が
あるからの。自信が無い時はやめておくのも選択肢じゃからの」
「あー・・園芸を極めようとすると、栽培やめますか、人間やめますか、と問われる領域に
なってくるんですね・・まあ芸事ってのは本来そういうものですけど、この世界の場合は
『人間やめる』が比喩じゃないからなあ・・」
「ヒトの身を捨てる決心がついた時には相談にのるからの」
「まあ死ぬまでには考えておきます。あ、聞き忘れてましたけど、宇宙植物の樹形と
いうのはどんな感じなのですか?」
「まあ普通の植物じゃね。この星の植物と外見的に大きな違いはないわの」
「・・この星の植物の普通って、怪獣ですよねそれ」
次回「宇宙植物目覚める」
その頃、山田領防衛隊が宇宙植物の周囲に布陣を完了していた。 「怪獣という感じではないがの。一番近い姿なのはドライアドかの」
「ああなるほど、ドライ・・え?」
「ドライアド」
「えーと・・植物系の魔物で、緑色の髪の女の子」
「そう、それ」
「背丈が2階建ての建物の屋根を越えるぐらいの」
「うん、正しく理解しとるね」
「・・宇宙巨大植物がどうして女の子の姿をしているんですか!」
「それは収斂進化の」
「うわあああ、こういう展開だとは思わなかったあああ」
次回「そういうわけで」
そのころ、おおきなたね は ぱかん、とわれて、なかから げんきな おんなのこが
うまれました。 その後しばらくして、山田のことを「お父様」と呼ぶ巨大美少女の肩に乗って、
領内を視察する山田の姿を山田領で見かけるようになった。
彼女は、のちに山田領に開業した巨人族用の喫茶店「お帰りなさいませご主人様」で
バイトをするようになり、異世界の装束を参考にした、個性的なデザインの店員制服が
よく似合う巨大看板娘となったという。
ヤック・デカルチャー(ドワーフ語で「めでたしめでたし」の意)
次回「新しい産業」
お題>>102 聖ヨウミツバチ。妖蜜蜂族の中で最も貯蜜の風味が良い魔蟲である。
山田領ではこの蟲を使役して妖蜜を生産することに成功し、領主の名を冠した妖蜂場の
経営を開始していた。
しかし最近になって急激に妖蜜の生産量が低下していた。妖蜂の女王の話を召喚士に通訳
してもらったところ、黒い妖蜂の集団が出没して盗蜜しているという。
山田と召喚士は苦労して黒い妖蜂の女王を見つけ、話を聞いてみた。すると彼女達は
精妖王魔ルハナ蜂と呼ばれる魔界の蟲であった。農場で花粉媒介のブラック労働を
させるために魔界から強制召喚された、人間の被害者とも言うべき蟲達だった。
そして自由を求めて脱走し、今日に至ったということが判明した。
次回「侵略的外来種」
黒幕にいるのは、いつも人間。 山田は黒い妖蜂達を魔界に送り返す方法を探し出した。
そして領民達を集め、樹木医の一族に伝わる集団舞踏魔術「蟲送り踊り」によって
魔界へとつながる転移門を呼び出した。
黒い妖蜂達は夜空に飛び上がり、感謝の意を伝える集団発光飛翔を舞いながら
大きく、そして高く燃え上がる篝火の上を超え、転移門の向こうへと還っていった。
そしてまたもや起きた事件。
アサシンギルドに資金提供をうけた一人の男が試みた、暗殺者を人工的に作り出す技。
次回「禁断の錬金術」
その姿、愛らしく可憐なることが優れた暗殺者の資質なり。 ・・おや、お嬢さん、目が覚めてしまったかな?施術が終わるまで眠っていてもらう
予定だったのだけれど・・
あ、動いてはいけない。手足が寝台に固定してあるから、無理に動いたら痛いよ。
もう一度寝ようね。今お薬を体に入れるから。
あー騒がないで。お嬢ちゃんは病気になっていたから、今治療をしているんだ。
心配しないで早く元気になろう。体が良くなればお父さんやお母さんの
ところに戻れるから。
ん?おじさんの赤い服が気になるのかい?ん〜ふふふ、素敵な服だろう?
これはねぇ、劇辛愛好会の限定商品なんだ。辛い食べ物って素晴らしいよねぇ。
熱さとも痛みともつかない刺激が脳をゆさぶるあの恍惚感・・うふうふうふうふふふ。
毒を持つ動物は多いけれど、あんな麻薬的な刺激成分を持つ動物なんて存在しない。
あれこそ植物の神秘・・溶血毒や心臓毒も凄いけれど、辛さこそが至高の植物成分だ。
お嬢ちゃんも・・そう思うよね?うふうふふふふ。
おじさんは思ったんだ。人間の姿と、激辛植物の辛さが一つになった時、素晴らしい
暗殺生物が生まれるって。あの人達は猛毒植物のほうがいい、って言ってたけど、何も
わかってないよね。激辛が一番なんだ。そうあの赤い赤い辛さが熱さがうふうふふ。
ああ、よけいな事を話しすぎたようだ・・そろそろお薬が効いてきたかな?
安心して眠りなさい。次にお嬢ちゃんが目が覚めた時には、素敵な体になっていて
みんなが褒めてくれるからね。
どうして泣くんだい?これが済んだらお父さんやお母さんのところに戻れるからね。
嘘だ?これからお化けにされるんだ、もう二度と家に帰してもらえない、って?
どうしてそんな事を考えたのかなあ?・・さあ眠りなさい。おじさんはねぇ・・
・・君のような勘のいいガキは嫌いだよ。
次回「許されざる命」
山田領防衛隊が現場に踏み込んだのは、少女の生体錬成が終了した後だった。 暗殺用の合成生物、毒娘。体に流れる血潮はカプサイシン、その存在は歩くデス・ソース。
触れた者には辛さが染み渡り、皮膚が爛れて気道が腫れ塞がる呪われた少女。
生物錬成施設から助け出された彼女はただ一言だけつぶやいた。「・・死にたい」と。
山田は彼女の姿を見た時に驚いた。とても良く似ている・・前世の初恋の少女の面影に。
その絶望の涙を見た時に山田は思った。
自分が知っている、あの話と同じ結末にしてはならぬと。
たとえそれが、不可能と言われている事であったとしても。
次回「鋼の心の錬金術師」
「お前が死ぬ必要はない!なぜならば、俺が元の体に戻してやるからだっ!!!」 >>152
少女はその後、食事を摂ろうとはせず、しだいに衰弱していった。
だが、山田は結局、その苦しみの日々に終わりが来るまで何もできなかった。
生体錬成の術式は複雑きわまり、天才錬金術師でもなければ内容すら理解できない
ものだった。専門知識の無い山田がいかに意気込んだところで、どうにかなるもの
ではなかったのだ。それを悟った時、山田はーー
隣にいた天才錬金術師の肩をたたいて「頼むわー。費用は俺に回してくれ」
かくて錬金術師は無茶を言う山田に呪いの言葉を吐きつつも、不可能と言われている
生体再錬成に挑戦した。少女の両親の遺伝子構成と魔力属性を調べ、合成錬成体の
構成と比較。少女の体のオリジナル要素ではないと思われる構成因子を特定した。
次に外部由来の要素を排除するための膨大な術式を、並列式液浸型ゴーレム演算脳に
よる高速情報処理によって作成。これらの一連の処理をおこなわせる演算指示術式の
構築のため、錬金術師は徹夜の術式記述が続いた。しかし鋼の精神力によって
それを成し遂げた。
そしてついに、少女を元の体に戻すための並列三次元錬成魔法陣が完成したのである。
次回「そして」
山田は体力を使い果たした錬金術師におかゆ的な療養食を作った。 こうして少女は、生体錬成前の体に戻ることができた。
「元の・・あたしの体・・ご領主様・・あ、あああ・・」
泣き崩れる少女の背中を山田が優しく叩くと、少女の顔は少し赤くなった。
その後、彼女は無事に両親の元へと送りとどけられた。
「ご領主様、本当にありがとうございます。あ、あの・・ご領主様にまた会いに
行ってもよろしいですか?」山田は笑って、いつでも遊びにおいでと答えた。
「私・・ご領主様のことを・・す・・ええと、素晴らしい方だと思います」
そう言って真っ赤になった彼女は両親のところへ走っていった。
そして人間の姿から、激辛唐辛子キャロライナ・リーパーに似た肉塊のような姿に戻った
植物魔物の少女は、赤くて辛い汁を分泌しながら、帰っていく山田に向かっていつまでも
真っ赤な触手を振りつづけるのだった。
その後、錬金術師からの請求書を見た山田は泡を吹いて卒倒したという。
そして次の事件。山田領のはずれの廃屋に、猫獣人の浮浪者が住み着いた。
次回「野良猫が来た」
猫、それは害獣にして園芸家の天敵。 ある日、どこから来たのか、山田領に一人の猫獣人が現れた。
地球人であれば15歳か16歳ぐらいに見える若い娘でありながら、衣服を着たと言うよりも、
ボロ布を体に巻いたと言ったほうが適切な、すさまじい恰好をしていた。
その娘が一人で領境の廃屋に寝起きするようになった時、その噂はすぐに領内へと
広まった。彼女が人目を引いたのは、本来なら都市にしか生活していないはずの浮浪者が
辺境の地に現れるという異常な状況だったからでもある。だがそれ以上に
彼女の容貌が領民の興味を引き付けた。彼女は異様に可愛かったのである。
純白のつややかな髪に、オレンジと黒のメッシュという毛色も珍しかったが
黒目がちの大きな瞳に、整った小さな口の横から見える真っ白い小さい牙、
すらりと伸びた猫耳のバランスもまことに申し分なかった。人間の美少女の可憐さと
子猫の愛らしさに、さらに野獣の美しさを加えて3で割らずにそのまま、と
いった外見は、普通ですら可愛い猫獣人の標準をさらに上回っていた。
彼女ほどのお猫様ならば、下僕になりたがる人間はいくらでもいるはずである。
常識的に考えて、浮浪者になって廃屋で寝起きする必要はない。
何か特別な事情があって辺境まで逃げてきたのか、あるいは極度の人間嫌いか。
次回「野良猫その2」 どうやって生活していくつもりだろう? 領民の疑問はすぐに解消した。
専門知識も資格もない彼女が、生きるために選んだのは、体だけで始められる仕事。
人類最古の職業と言われる仕事の一つであり、普通の若い乙女ならば、考えただけで
躊躇するであろう汚れた生き方。
すなわち盗賊である。
最初に狙われたのは、なんと山田が暮らしている領館であった。
いかなる方法で忍び込んだのか、白昼堂々と数々の防犯結界をかいくぐり、
さらに警備の目も盗んで、領主室で仕事をしている山田ですら気づかぬうちに
ひそかに領主室に侵入していた。そして部屋に運ばれてきた昼食を食べようとして、
山田が手を洗いに行った隙に、彼女は領主机にそっと忍び寄った。
山田が領主室に戻ってきた時、美しき女盗賊は山田の昼食の焼き魚を口にくわえ、
二階の窓から風のように逃げ去っていった。
次に狙われたのは温泉旅館山田屋である。真夜中に金庫室前の警備当直室に
忍び込み、警備員の隙を見て鍵束を盗み取った。そして調理室の鍵を開け、収納庫内に
保管してあった、翌日の宿泊客の朝食に使われるはずだった魔獣サケハラスの切り身を
食い荒らした。
次回「野良猫その3」 その後、主婦の買い物かごから生魚が強奪される、愛玩獣の餌が横取りされるなど、
領民にも被害が広がった。そこで防衛隊が出動し、猫獣人の捕獲を試みた。
しかし姿を見つけて追跡してもすぐに見失い、また遠隔魔法の狙撃圏内までは
けっして近づいてこなかった。住居となっている廃屋を見張っていても、
敏感に気配を感じ取るのか、監視員がいる時には姿を見せなかった。
そこで山田は、餌付けを試みることにした。
食事を与えて満腹にしておけば、食糧が盗まれることはなくなると予想したのだ。
領館の家臣用食堂に定食が用意され、監視魔法で観察が行われた。しかし監視している
間は手つかずのまま放置されていた。そこで試しに監視を切ってみたところ、短時間の
うちに完食されていた。その後も猫獣人はほとんど姿を見せなかったが、
人がいなくなった時に食堂に来て定食を食べているようだった。この餌やりによって
領内での食料品の盗難はおさまった。
次回「野良猫その4」 しかし盗難に代わって、領館敷地内での猫獣人による乱暴狼藉が新たな問題となった。
雨の日に泥足で入り込んで廊下中に足跡をつけていったり、家具で爪を研いだり、
室内に抜け毛を撒き散らしたりした。
さらに植物栽培場に入り込んで鉢植えを棚から落として割り、猫草に似た細長い葉の
植物は手当たり次第に葉先をかじられた。かじった時に力加減を間違えて鉢から草を
引き抜いてしまい、裸苗になった植物がころがっていたりもする。
とどめに、食べた草と一緒に毛玉を吐いて周辺を汚している。
ぐぬぬ、このような悪行でも可愛いから許されるというのだろうか>>157
苗を植えたばかりの花壇はほじくられて用を足され、庭園に来た妖精が追いかけ回されて
領館に寄り付かなくなった。裏庭で平飼いされている庭竜は、猫獣人が出入りをする
ストレスで卵を産まなくなった。
山田も頭をかかえたが、飼い獣人にして躾をしようと思っても、人慣れしていない
のではどうにもならない。家臣からは、あくまで冗談ではあったが、食事に魔動車用の
不凍液を混ぜてはどうか、などという不穏な発言まで出るようになっていた。
次回「野良猫その5」 そんなある日のこと、メイドのミヤゲが困惑した顔で山田を呼びに来た。
聞けば、猫娘が領館の屋根の上で、避雷針にしがみついてガタガタと震えながら、
変な声でうなっているという。
山田が屋根に昇ってみるとミヤゲの言葉通りに猫獣人がそこにおり、見るからに
様子がおかしい。近づいても逃げようとはせず、虚ろな目で避雷針を握ったまま
時々ピクピクと変な痙攣をしている。
ひとまず鎮静魔法で眠らせて、療術室で診察してみることにした。
彼女の体を調べてみると、背中が妙に白く、その部分が弾力を失って硬くなっている。
山田はこの症状を見て、昔読んだ学術書の記述を思いだした。
「病状が進行すると精神錯乱をおこして高い所に登りはじめ、やがて何かにしがみついた
状態で体が固まってきて、まもなく命を落とす」
まさに今回の症状と一致している。
それは猫獣人の間で最も恐れられている、凶悪きわまりない伝染病だったのだ。
次回「冬猫夏草」
彼女は明日になれば全身から子実体が伸びてきて、周囲に胞子を撒き散らす。 異世界もののなろう小説のセリフに鹿沼土とか出てきて爆笑した。 そして山田の抗真菌呪術により、彼女の治療はあっさり終了した。
魔法世界なので、有効な術式がある場合にはその場で治るのである。
だが彼女は、正気に戻ったとたん周囲の人間をシャー、フーと威嚇しはじめ、
隙を見て病衣のまま外へと逃げだしてしまった。
しかし自分が病気を治してもらった恩義はしっかりと理解していた。
その夜、猫美少女は山田の寝室にそっと忍び込んできた。そして、自分には
これぐらいしかできるお礼が無いの・・と恥ずかしそうに言うと、寝ている山田の
枕元に、ネズミに似た小動物の死骸をたくさん並べて帰っていった。
それ以降、徐々に気を許した彼女は山田達の姿を見ても逃げなくなった。そして
食事の時間になると家臣食堂に来て、ニャーニャーと鳴いて食事を要求するように
なった。食後に食堂で丸くなって昼寝をしたり、山田が近づいて頭をなでても
指に噛み付くだけで逃げないぐらいまで馴れたので、隷属証明の首輪(枝に引っかかった
時には強く引っ張ると分解するタイプ。鈴付き)を与えられ、領館の一員となった。
その後、「働かざるもの食うべからず」の方針により彼女はメイド服を与えられ、
新しくできたカフェで働くことになった。職場ではほぼ終日寝ていて、起きた時に
毛づくろいをしたり、たまにお客さんからオヤツを貰ったりして接客に努めたという。
次回「猫の日常」
今はまだ、平和な日々が続いていた。 そして本日はたいへん良い天気である。
猫娘は勤務先のカフェを抜け出して、領館の裏庭を散歩していた。
猫なので勤労に関しては特に意識していない。
花壇の土がやわらかくて具合が良かったので、掘って用を足していると
庭園の隅にキラリと光るものが見えた。花壇を埋め戻してから近寄ってみると、
それは金色の指輪だった。
彼女は、誰が落としたのか、などと深く考えることもなく指輪を拾って
ポケットにしまった。拾得物として報告しようとは思っていない。
猫にそのような行為を期待してはいけない。
なんと、その指輪は古代森エルフの王が所有していた伝説の魔道具だった。
それを手にした者はあらゆる植物の生育と死を支配し、王の中の王となって
この世のすべてを我が物となすこともできる恐るべき指輪。
神にも悪魔にもなれる力を、今、彼女は手にしたのだ。
次回「緑指王の指輪」
その大それた力のことを彼女はまだ知らない。 緑指王の指輪。それは森エルフの(中略)深い地中に埋もれ(中略)
長い時を経て(中略)領館の庭に現れた。
その新たな所有者となった猫娘は、家臣食堂の調理のおばちゃんに指輪を見せた。
おばちゃんが興味を持ったので、猫娘はシシャモ的な魚の干物3本と指輪を交換した。
猫は指輪になど興味は無いのである。
かくて究極の魔道具の所有権はおばちゃんへと移った。
おばちゃんの指は太くて指輪が入らなかったので、指輪に革紐を通して、ペンダント
として使う事にした。この使い方だと指輪の魔力は発動しない。
おばちゃんにとって、それはただの綺麗なペンダントであった。
そして誰も気づかず、誰も知らず、事件は何もおこらなかった。
空は青く澄み、世界は今日も平和であった。
明日もまた、平和な日が来ることだろう。
誰もがそう思っていた。その日までは。
明日も今日と変わりない日がやってくる、そんな保証はどこにも無いというのに。
最終章「終わりの始まり」
その日の夜、北の島のほこらにあった魔王の封印が何者かに破られた。
雷鳴が鳴り響いて大地震がおこり、島は砕けて住民と共に海中に飲み込まれた。 ついに園芸界最凶と恐れられた存在、魔王ガーデナーが復活した。
配下の邪培十傑衆が再集結し、全世界への侵攻が始まった。
魔王は入手した植物をすべて自己流の栽培法で育て、それに適応できぬ植物は枯れた。
適応できた植物は飽きて放置され枯らされた。
園芸初心者には上から目線で半可通な栽培法を押し付け、納得せぬ者は発酵堆肥の山に
生きたまま埋められた。園芸歴の長い者を老害と呼んで新しい植物の栽培を強要し、
逆らえば肉骨粉にして有機ボカシに加工した。
園芸オークションでは相場を無視した高額で入札し、落札してから出品者への
無償提供を強要した。それを拒否した者は一族もろとも野菜屑と混ぜられ、発酵槽へと
送られた。畑の土はみるみるうちに肥えていったが、肥料の原料を知っている人々は
そこで作物を育てようとはしなかった。
園芸界にもはや希望の太陽は無く、園芸関連株の取引きは魔王への恐怖でたちまち
凍りついた。世話する者を失った花は枯れ、飛龍は空を捨て、人は微笑みを無くして
いった。
次回「魔王その2」 それでもなお逆らおうとする人間達を、魔王は許さなかった。
魔王の極大魔法によって地軸はねじまがり、大陸は引き裂かれて海に沈み、
地上は核の炎につつまれて総人口の半分を死に至らしめた。
精霊王達の力をもってしてもこの惨劇を防ぐことはかなわず、
その後の修復と蘇生には3日を要した。
この事態に対し、世界人族王会議は緊急動議によって魔王への対抗策を
協議した。そして国家の枠組みを越え、異なる種族同士が手を取り合った。
勇者を中核として各国からヒトと亜人の精鋭を集結させることが決定し、
史上最強のアベンジャーズ・パーティーが結成されたのである。
次回「無敵の勇者、ここに見参!」
その頃、山田は赤黒く染まった空を見上げながら、世界の終わる時、自分に何が
できるのか考えていた。そして今は、ただ一人で畑で水を撒いていた。 優秀な植物系戦士を挿し木したり組織培養で増やすべきだ 勇者一行は魔王に敗北した。
園芸に関する知識が皆無であったため、邪培十傑衆の植物攻撃に、見当違いの対応を
して自滅したのだ。
魔王は山田領から「緑指王の指輪」を奪い去って生態系を改変し、すべての植物は
魔王のしもべとなった。
ついに世界を統べた魔王は言う。栽培とは、飢えた心を満たすための捕食だと。
園芸家は、植物の命を食い殺さねば心が保てない生き物なのだと。
それに応えて一人の男が言う。
ならば花を育て、殖やし、守りながら我々の飢えも満たしていこう。
食い殺す相手が滅びてしまえば、我々も飢えて死ぬのだからと。
凡人はたとえ未来を信じても、一人でそこにたどり着く力はない。
だが男は、彼を信じる仲間達の助けを得て、まだ見ぬ光景を目指して進んでいく。
昨日の妄想は今日の希望となる。そして明日は。
彼の想いは、いがみあう国々の間に絆を結び、人々の心に種を播く。
最終回「あの丘の向こうに」
山田の最後の戦いが始まる。その結末は、生か、死か。 <翻訳者あとがき>
邦題「転生者山田の、剣と魔法の怪しい園芸」を公開する機会を得たことを嬉しく
思う。発表の機会を提供してくださったスレ主と、読む事が苦痛でしかないクソのような
駄文の連投を、生暖かく放置してくださった寛大なスレ住人に御礼を申し上げる。
本書は原題「qあwせdrftgyふじこlp」、通称「ルルイエの薄い本」と呼ばれる奇書で
ある。太平洋グアム島沖の深海に発生した異世界転移ゲートの、破壊後サルベージ調査
において、解析不能の箱に納められた状態で、日本語の手書き辞書と共に発見された
ものである。そこには山田と呼ばれる人物が無職のニートから、錬金術師の家の居候を
経て、自らの園芸知識によって貴族にまで成りあがっていく過程が記録されている。
その内容には意味不明の単語、理解不能な表現が頻出し、翻訳に苦労させられたが、
できるかぎり意味が通じるよう訳出に努めた。
(続く) (続き)
しかし文体の統一感の無さ、誤字脱字、あーしまった変な文章を投稿した等々の欠陥と、
全体に漂う中二病臭&頭の悪そうな内容がものひどい。
これらは即興で書き進めたことにもよるが、主たる原因は翻訳者の文才の無さに起因
する。もし真面目にお読みくださった方がいらしたならば、深くお詫びを申し上げて
おく。馬鹿が書く文章には第三者の視点による査読と校正、ストーリー修正が不可欠
であることを改めて痛感した。
なお、本書で最終回と呼ばれる部分に関しては発見時にすでに失われており、
この物語がどのような結末を迎えたかについては想像するしかない。
新たな資料が発見された時には、改めてご報告したいと思う。
2018年8月3日 翻訳者 花咲 那奈志
―完― 最後世界がどうなったかより、こういう終わりの方がらしいというか
自分はすごく楽しませてもらったよ ありがとう 少し膨らませて、なろうとかで連載したら、デイリーランクインは硬いクオリティだったと思う 流石になろうのランキングには無理だろう
そもそも普通の人には園芸で使う用語がわからない
かといって解説つけたら無駄に文字数使って余計読まれない >>186
そだねー
専門的な用語や概念が多すぎて一般には無理っぽいね
園芸家には面白かったけど ご感想ありがとうございます>皆様
下書き段階で誰かに読んでもらって反応を見ないと、どこがウケてどこがキモがられるのか
全然わからないので書き進めにくいんですよねー。
ご指摘通り「なろう」で書ける内容ではないです。仮に書くとしたら専門家の爺さん博士と
素人青年のコンビが異世界転移して話が始まる。
「むう、これはモザイク病」「し、知っているのですか雷電博士」
「人間で言えばエイズに相当する不治の病。しかも治療薬が見つかっていない」
(民明堂新光社からの引用解説文が入る)
みたいな流れで進める事になるでしょうか。
まあ、一般向けであれば植物は判りにくいので動物ネタで進めます。
昆虫美少女しかいない異世界「むしフレンズ」でハーレムを目指す主人公とか。
トゲオオハリアリのお姫様に言い寄られる。「私のはじめての人になって・・
あなたとの子供で王国を作っていきたい・・」
「博士、やります!」「早まるな。トゲオオハリアリでググれ」
みたいな。いやまて、需要あるのかその話。
ご意見、ご感想は今後の参考にさせていただきます。でも罵倒は凹むので勘弁してね。
痛い話を書いてる自覚はあるんで。 カマキリ美女やクモ美少女とお付き合いするのも命がけだね ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています