独裁者アサドのシリア奪還を助けるロシアとイラン 2016年6月24日(金)12時00分
Putin and Khamenei are Delivering Syria to Assad
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/06/post-5383.php

<シリアの独裁者アサド大統領の演説が一変した。1年前には負けを認めていたのに、
今月の演説では全土を奪還すると宣言。いったいこの1年間に何が変わったのか?
大国の思惑でアサドが生かされ、戦闘と人道危機が続く構図を読み解く>

 シリアのバシャ ル・アサド大統領のシリア内戦に対する姿勢が、1年も経たないうちに
一変したのにお気づきだろうか。

 6月7日のシリア議会に向けた演説で、アサドは反政府勢力との和平交渉は敵の罠だと
一蹴し、国土の隅々まで支配権を取り戻すと誓った。

 2015年7月にアサドが行った演説とは対照的だ。当時、反政府勢力に国土の大きな
部分を奪われたアサドは、より重要な地域の守りを固めるために別の地域の一部を
開け渡した、と認めた。

 マーク・トナー米国務省報道官はアサドの最近の演説について、「独りよがりの妄想だ。
シリアの統治者には不適任だ」と述べた。確かにアサドは不適任かもしれない。だが彼が
言っていることは本当に妄想だろうか。2つの演説の違いはアサドの打算や計画について
何を物語っているだろう。

【参考記事】アサドを利する「シリア停戦」という虚構
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/05/post-5037.php

 2つの演説の間に、アサド率いるシリア政府軍は完全に形勢を立て直した。この間軍事的に
変わったことと言えば、ロシアの軍事介入だ。空爆やミサイル攻撃、軍事訓練といったロシア
軍の支援によって、アサド政権の中枢を担うアラウィ派イスラム教徒(シーア派の一派)が多く
暮らすシリア北西部の前線を固めることができた。

 一貫してシリアを支援してきたシーア派の大国イランとともに、ロシアは北部アレッポ県の
反政府勢力をほぼ壊滅させ、首都ダマスカス周辺でも反政府勢力を弱体化、南部では
反政府勢力の勢力拡張も阻止した。

 おかげで一息つけた政権側はテロ組織ISIS(自称「イスラム国」、別名ISIL)の掃討に傾注し、
シリアの東西を結ぶ戦略拠点であるパルミラを奪還、ISISが拠点とするタブカへ向けて進攻を
続けている。


│ ISISと戦う限り野放し

 ISISが「首都」と呼ぶラッカまで車で1時間以内の距離にあるタブカを掌握すれば、シリア
政府軍はクルド人やその他の反政府勢力に先んじて、ISISが宣言していた「イスラム国家」を
崩壊させたと主張できるかもしれない。

 アサド政権はこうして、欧米や反政府勢力にさしたる譲歩をすることもなく、戦略的な立場を
劇的に改善させることに成功した。

 アサド政権がISISと戦っている限り、欧米諸国はアサドを受け入れるか、対テロ戦争の
パートナーとして大目に見ている。アメリカ政府もアサド退陣より打倒ISISを目標に掲げて
いるので、事実上はアサドのパートナーということになる。

【参考記事】米国とロシアはシリアのアレッポ県分割で合意か?
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/06/post-5246.php

 現在ISIS掃討で最も成果を挙げているのは、シリアのクルド人主体の反政府勢力「シリア
民主軍(SDF)」とアサド軍、そしてその他いくつかの小規模な反政府勢力だ。アメリカはSDFを
支援しながらも、アサド政権を黙認している。