要するに文法學とは國語の現象の中から意味、形態、職能といふ一定の標準に從つて通則を發見し、之を以て國語の特色を事實的に闡明しようとする學問なのである。
國語はかくなければならぬといふことを研究するのではない、國語はかくあるといふことを示すのである。
通則と除外例、規則と不規則との如何なるものであるかを示すだけであつて、これを以て正、不正の判斷を下すのではない。
何處までも國語事實を法則的に説明しようとするのが文法學の目的とする所である。
やがて思想に應じて國語を運用する術を明かにすることともなるのである。
(略)
 文法の研究には二の部門がある。
一は分析的研究であり、一は綜合的研究である。
分析的研究は語を主として意味と形態とに依つて品別して、其の語の文法的性質を明かにする研究であり、
綜合的研究は語の職能に基づく運用的關係に分析的研究を包含して、その語の文法的作用を明かにする研究である。
山田孝雄氏の「日本口語講義」(六頁)に從へば、「我々が語を用ゐる目的は思想をあらはすのにあるが、その思想をあらはす材料として語を見た場合と、
その材料を用ゐて目的である所の思想をあらはす方法と見た場合との二の區別がある筈である。
即ち一方は分析を主とした研究であり、一方は綜合を主とした研究である。」のである。
一はその研究の對象が單語であつて、所謂品詞論となり、一はその研究が文章であつて、所謂文章論となるのである。
品詞論と文章論とは文法學の二大研究分門である。

木枝揶黶E高等口語法講義より