1966年6月に静岡市(旧静岡県清水市)で一家4人が殺害された強盗殺人事件で死刑が確定し、再審開始が確定した袴田巌さん(87)について、検察当局が今後開かれる静岡地裁の再審公判で有罪立証を見送る方向で検討していることが関係者への取材で判明した。大きな争点がなくなることで審理が短縮され、袴田さんへの無罪判決が早まる見通しとなった。

袴田さんの再審開始を認めた13日の東京高裁差し戻し審決定は、血液が付着した衣類をみそ漬けした弁護側実験の信用性を認め、「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と判断した。検察当局は高裁が証拠の判断を著しく誤っていないか検討を重ねたものの、不服申し立ての期限だった20日に最高裁への特別抗告を断念した。再審公判は、確定審に出された証拠に再審請求審で認められた新証拠を加えて審理が進められる。

関係者によると、検察当局は特別抗告を断念した経緯から、弁護側のみそ漬け実験の新証拠が加わった状態で有罪立証を維持するのは困難との見方を強めている模様だ。今後進められる静岡地裁と静岡地検、弁護側の三者協議の中で詳しい立証方針を明らかにするとみられる。弁護側は早期の無罪確定を求めており、検察側が有罪立証をしなければ、早期に再審公判が結審する可能性がある。

袴田さんは66年6月に勤務していたみそ製造会社の専務の男性と妻、次女、長男を殺害したなどとして逮捕・起訴された。1審・静岡地裁で無罪を主張し、その後に会社のみそタンクの中から大量の血痕が付着した「5点の衣類」が発見された。確定判決は5点の衣類は犯行時の着衣で袴田さんがタンクの中に隠したと認定したが、13日の高裁決定は捜査機関による捏造(ねつぞう)の可能性に言及した。【井口慎太郎、北村秀徳】