>秀康卿仰せけるは、関東侍は馬上にて達者を働く由聞き及びぬ。さぞ強き馬を好みつらんと。
>朝倉犬也承りて、関東の侍あながち強き馬を好まず。ただ自力にかないたる馬をもっぱらに乗り候。
>それ馬に乗りて遠路を行くは足を休めんため、軍中にて乗るは馬上にて弓・槍を用に立てんためなるが故に、
>むかし関東にて戦場をいまだ踏まざる若き者は、広き野原へあまた伴い出でて、敵味方と人数を分ち、
>旗をさし弓・槍・長刀おのれおのれが得手の道具を持ちて馬に乗り、馬を試みんため鉄砲を鳴らし、
>矢叫びの声をあげて喚き叫ぶ時に、勇んで進む馬あり、おくれて退り、驚きて横へきるる馬あり。
>山へ乗上げ、岨の崖道を乗り、堀を飛ばせ、自由に働くようにと鍛錬いたし、
>先陣にぬきんで駆引き達者にふるまい、勝利に得んことを専らにたしなみ候。
(北条五代記)