ノーベル賞の湯川秀樹(1907〜1981)
『戦争は日本では関西が弱くてね。東から北へ行くほど強いんです』
『わたしたちの住んでいる京都周辺の兵が一番弱いんですね(笑)』
『北日本の方は体格が大きいこともそれに加わって、ますます強いことになる』


座談会 神宮と神社について(中央公論社)
湯川秀樹(東京生まれ、京都育ち、京都大学名誉教授、物理学者)
上田正昭(兵庫生まれ、京都育ち、京都大学教授、歴史学者)

上田「奈良には百済系が多いようです」
湯川「新羅系はどうですか」
上田「新羅系もありますが、むしろ少ないのではないでしょうか。しかし百済は近江にも多いでしょう」
湯川「そうですね」
上田「漢氏と秦氏とは、その性格や役割が相対的に違いますね」
湯川「もういっぺん愚問をさしていただきますが、漢と秦とはどちらも朝鮮系ですか……」
上田「朝鮮ですが、秦は新羅系なんです」
湯川「秦氏が新羅系で、漢氏が……」
上田「ええ、漢氏というのが百済系なんです。ですから聖徳太子の仏教はどちらかというと新羅系仏教なんです。
   それで蘇我氏の仏教は漢氏ですから、百済系仏教の方が強い。そういう意味で、太秦の広隆寺の秦氏の方は新羅仏教との関係が強いですよ」
湯川「新羅様式ですか」
上田「同じ朝鮮から来る仏教でも、新羅仏教と百済仏教というのは違うわけでしょうね」
湯川「日本でいう関東と関西というような違いでしょうかね。つまり朝鮮では東側に新羅、西側に百済と分かれていた。
   わたしが朝鮮の人から聞いた話では、朝鮮でも北の方が強いそうですね。日本では関西が弱くてね。
   東から北へ行くほど強いんです。わたしたちの住んでいるこのへんが一番弱いんですね(笑)」
上田「南船北馬じゃないですか。つまり狩猟的文化と海洋的文化といいましょうかね。
   日本でも、西日本は船の文化で、東は馬の文化」
湯川「日本の西の方は瀬戸内海がありますから、地中海を小型にしたようなものでして、そこで開ける文化は、広い意味で国際性を持ったものになりやすい。
   北へ行くほど閉鎖的というと悪いけど、自己充足的になる。従って団結心も強い。寒い方のかたが体格が大きいこともそれに加わって、ますます強いことになる」