月刊WiLL 2021年2月号
■石平×北村稔×宮田昌明
「日中戦争」ー中国共産党が漁夫の利
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【北村】 ドイツは日本と同盟することに乗り気ではなかったのです。そもそも国民政府支持でしたから。でも、ヒトラーは東側
からソ連を牽制するために、日本との同盟に踏み切ったのです。30年ほど前までは、ドイツと中国の関係を研究することは
台湾ではタブー視されるほど、独中の関係は蜜月だった。日中戦争当時、中国軍の中核は、ドイツ製の武器で武装しドイツ式
の防衛陣地に立てこもる部隊であり、作戦はドイツ人軍事顧問が指導しています。一方、ドイツ側は、武器製造に不可欠な
タングステンなどの希少金属を中国側が提供することを望んでいました。
「日本の侵略戦争」と戦った中国の国民政府がナチス・ドイツの軍需産業の発展に大きな貢献をし、これがドイツのヨーロッパ
侵略の原動力となっていたとしたら、歴史の皮肉ではありませんか。
【宮田】 日本軍はそもそも汪兆銘と講和条約を結び、撤兵しようと考えていました。ですが、どういうタイミングと形で撤兵するか、
日本陸軍全体での合意がありませんでした。和平工作に携わった軍人は、汪兆銘政権が中国をまとめる実力を持ち、講和が
実現しそうになれば、その見通しを利用して陸軍全体を動かすことができるのではないか、と考えていたフシがあります。ですが、
汪兆銘自身にその力がなかった。それと華北では中国共産党軍が勢力を持ちすぎて、泥仕合になっていたのです。治安維持の
ため、日本軍の撤退は考えられない状況でした。
 華北地域の中国共産党の戦術はこういうものでした。つまり、農村地帯で日本軍の危険を訴える宣伝を行う一方で、ゲリラ兵
が日本軍の将校を狙い撃ちするような小さな攻撃を仕掛けた後、村落に避難する。日本軍はゲリラの捜索を行いますが、それに
よって関係のない農民が巻き込まれます。あるいは、日本軍を恐れる農民を退避させ、残った家にブービートラップを仕掛け、
捜索する日本兵を罠にかけて死傷させます。日本兵はトラップの危険のある家屋を焼却するよりなく、それが中国共産党の
宣伝の裏付けとなり、日本軍に対する農民の敵意を増幅させました。つまり、毛沢東はまったく関係のない農民を戦争に巻き
込んでいったのです。一方、蒋介石は民衆を戦争に巻き込むことができなかった。こうした戦争形態が、後の国共内戦における
中国共産党の勝利や、さらに長期的にはベトナム戦争にもつながっていったのかなと思っています。