神道無念流の斎藤新太郎(江戸)
いやもう、いかにも新築の明倫館(長州藩)は立派なものだ、劍術をやる人は雲のやうに群がつてはゐるが、本當の劍士といふのは一人も無い、
丁度、黄金の鳥籠に雀を飼つてゐるやうなものだ。

神道無念流の斎藤歡之助(江戸)
當時、練兵館(江戸)の留守をあづかつてゐたのは、新太郎の弟歡之助であつた、歡之助時に年正に十七歳、剛勇無雙にして人呼んで鬼歡と云つた、
「お突き」を以て最も得意としてゐたが、遠來の長州藩士悉くこの鬼歡の爲に突き伏せられ、數日間、食物が咽喉を通らないで寝込んでしまつたものがある、
遠征の目的全く破れ、敗軍の士は、すごすごと竹刀をかついで長州へ歸つて行つた。