その日は択一の発表日だった。
前田雅英は平野竜一の研究室に呼ばれていた。
「前田君、今度の判例研究会での君の報告だがね、順番をずらそうかと思うんだ
一応形だけでも司法試験ぐらいには受かってもらわないことには
君も肩身が狭いだろう。論文は択一と違って結構大変だから、どうかね?」
「あ、あの先生、実は」
「まあ、そんなことは杞憂か…むしろ、君の実力を過小評価してしまったかな、いかんなぁ」
「択一試験に落ち…」
そのとき、ドアが勢いよく開いた
「団、団藤先生、それに藤木(英雄)君」
「いや〜、聞いたよ前田君
た く い つ
に落ちたんだって
まあ、あんな下らない試験のことは気にしない方がいいよ
ところで、藤木君、君は確か大学3年で合格したんだよなぁ」
「はい」
「それも、トップで合格だ。
まあ、結果が全て。いやいや不合格の時点で結果は無価値だよな
択一で落ちようと論文で落ちようとどちらにしても。
いいなあ、結果無価値論は
本当に、いい弟子を持ったもんだ平野君は
結果無価値を体現してくれる弟子なんて滅多にいるもんじゃない
そうそう、前田君も今度の判例研究会での報告楽しみにしてるよ
時間は充分あるし、きっといい報告ができるだろう
では、お邪魔したね平野君」
団藤が去った3秒後
六法が時速150kmを超えるスピードで平野の手から前田に放たれた。