0001名無しさん@実況で競馬板アウト
2017/08/11(金) 15:39:17.76ID:oDjVYX2X0動けなくて可哀想だよ?父さん、どうして?
テンちゃんが可哀想だよ!もう最後かもしれないんだから、自由に動ける様にしてあげてよ!
紐を解いてあげてよ…繋がないであげてよ…テンちゃんが苦しいって動きたいって、
僕の目を見て言ってきたんだ!お願いだよ父さん!テンちゃんを自由にしてあげる様に言って来てよ…」
邦彦は泣き喚く豊の声に、一言も答えず、静かに晩酌をしていた。
豊は家を飛び出した。
行き先は、河内の元である。
寮に忍び込み、河内の部屋のドアを叩いた。
河内は、普段から感情の起伏を見せず穏やかな子供であった筈の豊が、
泣きじゃくりながら怒った顔をしてるのを見て、驚いたと言う。
邦彦にブツけた同じ質問を、洋兄ちゃんに何度も浴びせて来た豊を、受け止め、宥めた。
「これも、サラブレッドの運命なんや。テンポイントは不幸だったと思うか?今が辛いから、
ずっと不幸だったのか?違うよな。
テンポイントは強くてカッコ良かったよな?それがテンポイントなんや。
今テンポイントは、
あの有馬を思い出してるかもしれん。
幸せだった事を思い出して、ありがとうと感謝してるんや。
だから、俺達もその思いに応えてやらなあかん。それは、豊が騎手になった時、必ず分かる時が来る」
と何度も言いながら宥めたと言う。
数日後、旅立ったテンポイントの葬儀が行われた。
河内は、豊の様子が気掛かりで見ていた。
しかし、そこには
テンポイントの遺影をジッと見つめる幼い豊の姿があった。
涙一つ零さずに、唇をギュッと噛み締め真っ直ぐに遺影をジッと見つめてるのだ。
河内は、その姿を見て鳥肌が立ったと言う。
あんなに取り乱して泣き喚いていた子が…そうか、この子は覚悟を決めたんや。死と向き合う覚悟を…。
この子が騎手になったらどうなるか…その片鱗をこの頃から見せていたと言う。
テンポイントの存在が、豊の騎手としての基盤に、多大な影響を与えたのは言うまでもない。