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羅生門
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0001Mr.名無しさん
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2017/10/17(火) 07:03:39.17
ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。

広い門の下には、この男のほかに誰もいない。
ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている。

羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、
雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうなものである。

それが、この男のほかには誰もいない。
0002Mr.名無しさん
垢版 |
2017/10/17(火) 12:48:35.34
何故かと云うと、この二三年、京都には、地震とか辻風とか火事とか饑饉とか云う災がつづいて起った。

そこで洛中のさびれ方は一通りではない。
旧記によると、仏像や仏具を打砕いて、その丹がついたり、金銀の箔がついたりした木を、
路ばたにつみ重ねて、薪の料に売っていたと云う事である。

洛中がその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。
するとその荒れ果てたのをよい事にして、狐狸が棲む。盗人が棲む。

とうとうしまいには、引取り手のない死人を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。
そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、
この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。
0004Mr.名無しさん
垢版 |
2017/10/18(水) 07:36:50.34
その代りまた鴉がどこからか、たくさん集って来た。

昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾のまわりを啼きながら、飛びまわっている。

ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻をまいたようにはっきり見えた。

鴉は、勿論、門の上にある死人の肉を、啄みに来るのである。

――もっとも今日は、刻限が遅いせいか、一羽も見えない。

ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、
鴉の糞が、点々と白くこびりついているのが見える。

下人は七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした紺の襖の尻を据えて、
右の頬に出来た、大きな面皰を気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。
0007Mr.名無しさん
垢版 |
2017/10/19(木) 17:42:41.31
作者はさっき、「下人が雨やみを待っていた」と書いた。

しかし、下人は雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。

ふだんなら、勿論、主人の家へ帰る可き筈である。

所がその主人からは、四五日前に暇を出された。

前にも書いたように、当時京都の町は一通りならず衰微していた。

今この下人が、永年、使われていた主人から、暇を出されたのも、
実はこの衰微の小さな余波にほかならない。

だから「下人が雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられた下人が、
行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。

その上、今日の空模様も少からず、この平安朝の下人の心境 に影響した。

申の刻下りからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。

そこで、下人は、何をおいても差当り明日の暮しをどうにかしようとして――
云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、
さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。
0014Mr.名無しさん
垢版 |
2017/10/28(土) 17:46:36.70
雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。

夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、
斜につき出した甍の先に、重たくうす暗い雲を支えている。

 どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑はない。

選んでいれば、築土の下か、道ばたの土の上で、饑死をするばかりである。

そうして、この門の上へ持って来て、犬のように棄てられてしまうばかりである。

選ばないとすれば――下人の考えは、何度も同じ道を低徊した揚句に、
やっとこの局所へ逢着した。

しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。

下人は、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、
当然、その後に来る可き「盗人になるよりほかに仕方がない」と云う事を、
積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。
0018Mr.名無しさん
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2017/11/02(木) 14:09:07.61
下人は、大きな嚔をして、それから、大儀そうに立上った。

夕冷えのする京都は、もう火桶が欲しいほどの寒さである。

風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。

丹塗の柱にとまっていた蟋蟀も、もうどこかへ行ってしまった。

下人は、頸をちぢめながら、山吹の汗袗に重ねた、紺の襖の肩を高くして門のまわりを見まわした。

雨風の患のない、人目にかかる惧のない、一晩楽にねられそうな所があれば、
そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。

すると、幸い門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子が眼についた。

上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。

下人はそこで、腰にさげた聖柄の太刀が鞘走らないように気をつけながら、

藁草履をはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。
0023Mr.名無しさん
垢版 |
2017/11/10(金) 01:53:25.74
それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、
一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子を窺っていた。

楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。
短い鬚の中に、赤く膿を持った面皰のある頬である。

下人は、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと高を括っていた。
それが、梯子を二三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、
しかもその火をそこここと動かしているらしい。

これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛の巣をかけた天井裏に、
揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。

この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。

下人は、守宮のように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。

そうして体を出来るだけ、平にしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗いて見た。

見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸が、無造作に棄ててあるが、
火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。

ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、着物を着た死骸とがあるという事である。
勿論、中には女も男もまじっているらしい。

そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だと云う事実さえ疑われるほど、
土を捏ねて造った人形のように、口を開いたり手を延ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。

しかも、肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、
低くなっている部分の影を一層暗くしながら、永久に唖の如く黙っていた。
0051Mr.名無しさん
垢版 |
2017/12/31(日) 11:28:16.80
2017年最後のご挨拶行脚です。
来年もどうか宜しくお願い致します。
0063Mr.名無しさん
垢版 |
2018/03/13(火) 12:11:57.57
友達から教えてもらった自宅で稼げる方法
少しでも多くの方の役に立ちたいです
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