マカオにポルトガル人が入ってきたのは1557年の嘉靖年間

その後、朝廷が変わったりカトリック迫害が起こったりするけど
明・清の皇帝は宣教師の学問と知識を利用するために
ヨーロッパ人を完全に追い出すことはなかった

要するに16世紀から国際情勢が急変する19世紀に至るまで
宣教師や一部商人が澳門を通して往来するゆ〜るい対欧交易が行われていたというわけ

動く死体であるキョンシーが幼獣「コウ」に化けるという話や「飛ぶキョンシー」に関する話が出てきたのは
清中期ぐらい(18世紀)で、数世紀交流が続いてるわけだから舶来の伝承が入り混じってもおかしくないって話

ここで大事なのは入ってきた年度が重要なのではなく
キョンシーがコウに化けるという伝承が、西洋の吸血鬼伝説と酷似してて、中国では結構珍しい類型の話ってこと

吸血鬼はもともと人狼と同一の存在だったのが別の伝承に分化したもので
更にそのモチーフとなった物の一つは狂犬病と思われ、伝承によると吸血鬼と人狼は狂犬病患者に酷似した症状?を表す

キョンシーは、呪術で死体を自ら歩かせる運送法に関する伝承と生きた人間の精気を吸う死体
本来別々だったこの二つの要素が混じり合ったのが原型だと思われる

あと「コウ」は本来キョンシーとは関係のない幻想種で、荒々しいと言われるが神仏の乗り物なので神獣と言ってもいいだろう

例の説話(続子不語)では、キョンシーが人を追ってて、人が川を渡って逃げようとしたら
キョンシーは「川を渡れない」ため、水に入らずにイライラしてたら「コウ」に変身して空へ飛んで行ったという話で
この時点でキョンシーには「流水を渡れない」という吸血鬼っぽい弱点までついてる

血肉を食い散らかす死体ってのは案外珍しい、グールの場合、元の伝承では「アンデッド」ではないし
他に吸血を行う幻想種も大抵はそういう「生き物」ってことになっている

要するに「中国のアンデッドにはなかなか見られない特徴が多い」と「西洋の伝承と似てる部分が多い」
「伝説が流行った時期、西洋人と往来があった」 この三つの点から

今のキョンシーとは、中国の「動く死体伝説」と「西洋の吸血鬼&人狼伝説」が入り混じって
生まれた一種のハイブリッドなのではないかって話