「もういちど雨が」

両親を亡くし、天涯孤独の身となってから、旅先でアルバイトしながらの
働きながら旅をしていたことがあった。旅先で働いてみてはじめて気づく
ことも多い。今ではこの地が気に入り長く定住している。

この街で知らない人などいないほど有名な牛丼チェーン店で
バイトして生活している。このバイトを始めて、今日でちょうど半年になる。
ここで食べる牛丼が大好きで、僕は毎日、朝と夕方の二回、この店を訪れていた。

だから店長も、僕の顔を覚えていてくれていたらしく、僕がバイト志望者として
面接に訪れた時、受け取った履歴書なんか見もしなかった。

「あ、どうも。こりゃー驚いたなぁ」なんて一言から始まって、簡単な話をした後で、
すぐに採用という返事をもらえた。

今日も天気が良くない。雨が降ったりやんだり。此処の所、ずっと、ぐずついた天気だ。
「いらっしゃいませー!」と元気よく声を出した僕は、すぐにお茶の入った湯呑を手に取った。
透き通ったグリーンのお茶からは湯気が立つ。湯呑みは触っても熱くないほどの丁度いい
温まり具合。お客さんに提供するにはベストな状態のお茶だ。いつも来店する常連のおっちゃんだった。

おっちゃんは穴だらけの手袋と汚れた作業着で、肉体労働だと一目でわかる。
いつも頼む一番安い牛丼の並だけを頼むおっちゃん。おっちゃんは、いつも、
その牛丼をガツガツ一気に流し込むと豪快に「ごっそさん!」と言って
お代の400円を置いていく。

いつものように並みを頼んだおっちゃんに、今日は奮発して大盛なみのご飯を盛って出した。
おっちゃんはいつものようにガツガツ平らげ、「ごっそさん!」と言って大盛の料金を置いて出て行った。
「ありがとうございました!」僕は余計なことをしたと思った。