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ゆゆし話184
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0001名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:04:08.48
残留話厳禁 残留ヲタ出禁 該当スレでどうぞ
■漏洩者の職業詮索禁止■
※私基地私さんおエラ婆こと髙橋婆出禁※

荒らしをかまうのも荒らし 徹底スルー
一例「◯◯なら辞めてない」は事務所信者もしくはアンチ思考なのでスルー

ここに落とす情報はアニマルのもの限定
残留情報の書き込み厳禁
アニマル名指しでない限りお仕事情報の書き込み禁止(残留情報の可能性大のため)

ここでは漏洩のみ可
情報垢やキロット先生以外の占いは禁止

★★漏洩まとめ★★
☆☆改定分☆☆

数字漏洩…垢削除済 脱退後について言及 スト&平野ヲタ
ナビ漏洩…日テレ系強い なにわ美少年KPヲタ
どうぶつ漏洩…数年鍵垢 関西に強い 関ジャニヲタ
スノ漏洩…政治記者 解禁前日に情報落す スノ渡辺ヲタ
ぶらっく…キンプる元スタッフ鍵垢近々垢削除髙橋ヲタ
ろうげ漏洩…ずっと鍵ほぼ動き無しのミッフィー垢 ネット記者のろうげと噂される 解禁前直前のみ漏洩新聞早刷り見られる

漏洩横流し
元りんね…小規模漏洩を網羅している自発無完全横流し垢
ai…自発なし横流し垢 残留ヲタ疑惑

準漏洩
ビックリマーク…現在小規模にて活動 ほぼ当てる スノ向井ヲタ

!!持ち込み厳禁!!
学科…妄想ガセ拡散垢 持ち込む信者複数有り 糖質疑惑(信者も同様)
みるく(のみもの)…虚言キッズ
一安心…プラベ流すヤラカシ垢
いろなが…KPアンチの愉快垢

>>950 次スレに添付願います
踏み逃げ禁止!立てられないなら踏まない!
立てられなかったら申し出る事

前スレ
ゆゆし話182
https://lavender.5ch.net/test/read.cgi/mog2/1697719356/
ゆゆし話183
https://lavender.5ch.net/test/read.cgi/mog2/1698445816/
0005名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:08:47.01
嗚呼、余はこの書を見て始めて我地位を明視し得たり。耻かしきはわが鈍き心なり。余は我身一つの進退につきても、また我身に係らぬ他人の事につきても、決斷ありと自ら心に誇りしが、此決斷は順境にのみありて、逆境にはあらず。我と人との關係を照さんとするときは、頼みし胸中の鏡は曇りたり
嗚呼、余はこの書を見て始めて我地位を明視し得たり。耻かしきはわが鈍き心なり。余は我身一つの進退につきても、また我身に係らぬ他人の事につきても、決斷ありと自ら心に誇りしが、此決斷は順境にのみありて、逆境にはあらず。我と人との關係を照さんとするときは、頼みし胸中の鏡は曇りたり
0007名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:09:33.20
「幾階か持ちて行くべき。」と鑼どらの如く叫びし馭丁は、いち早く登りて梯の上に立てり。
 戸の外に出迎へしエリスが母に、馭丁を勞ひ玉へと銀貨をわたして、余は手を取りて引くエリスに伴はれ、急ぎて室に入りぬ。一瞥して余は驚きぬ、机の上には白き木綿、白き「レエス」などを堆うづたかく積み上げたれば。
 エリスは打笑みつゝこれを指して、「何とか見玉ふ、この心がまへを。」といひつゝ一つの木綿ぎれを取上ぐるを見れば襁褓むつきなりき。「わが心の樂しさを思ひ玉へ。産れん子は君に似て黒き瞳子ひとみをや持ちたらん。この瞳子。嗚呼、夢にのみ見しは君が黒き瞳子なり。産れたらん日には君が正しき心にて、よもあだし名をばなのらせ玉はじ。」彼は頭を垂れたり。「穉しと笑ひ玉はんが、寺に入らん日はいかに嬉しからまし。」見上げたる目には涙滿ちたり。
0009名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:10:35.22
嗚呼、獨逸に來し初に、自ら我本領を悟りきと思ひて、また器械的人物とはならじと誓ひしが、こは足を縛して放たれし鳥の暫し羽を動かして自由を得たりと誇りしにはあらずや。足の絲は解くに由なし。曩さきにこれを繰つりしは、我某省の官長にて、今はこの絲、あなあはれ、天方伯の手中に在り。余が大臣の一行と倶にベルリンに歸りしは、恰も是れ新年の旦あしたなりき。停車場に別を告げて、我家をさして車を驅りつ。こゝにては今も除夜に眠らず、元旦に眠るが習なれば、萬戸寂然たり。寒さは強く、路上の雪は稜角かどある氷片となりて、晴れたる日に映じ、きら/\と輝けり。車はクロステル街に曲りて、家の入口に駐まりぬ。この時※(「窗/心」、第3水準1-89-54)を開く音せしが、車よりは見えず。馭丁に「カバン」持たせて梯きざはしを登らんとする程に、エリスの梯を駈け下るに逢ひぬ。彼が一聲叫びて我頸を抱きしを見て馭丁は呆れたる面もちにて、何やらむ髭の内にて云ひしが聞えず。
0010名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:11:05.60
たびの疲れやおはさんとて敢て訪とぶらはず、家にのみ籠り居しが、或る日の夕暮使して招かれぬ。往きて見れば待遇殊にめでたく、魯西亞行の勞を問ひ慰めて後、われと共に東にかへる心なきか、君が學問こそわが測り知る所ならね、語學のみにて世の用には足りなむ、滯留の餘りに久しければ、樣々の係累もやあらんと、相澤に問ひしに、さることなしと聞きて落居たりと宣ふ。其氣色辭むべくもあらず。あなやと思ひしが、流石に相澤の言を僞なりともいひ難きに、若しこの手にしも縋らずば、本國をも失ひ、名譽を挽きかへさん道をも絶ち、身はこの廣漠たる歐洲大都の人の海に葬られんかと思ふ念、心頭を衝いて起れり。嗚呼、何等の特操なき心ぞ、「承はり侍り」と應へたるは。
0013名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:16:50.02
黒がねの額ぬかはありとも、歸りてエリスに何とかいはん。「ホテル」を出でしときの我心の錯亂は、譬へんに物なかりき。余は道の東西をも分かず、思に沈みて行く程に、往きあふ馬車の馭丁に幾度か叱せられ、驚きて飛びのきつ。暫くしてふとあたりを見れば、獸苑の傍に出でたり。倒るゝ如くに路の邊の榻こしかけに倚りて、灼くが如く熱し、椎つちにて打たるゝ如く響く頭を榻背たふはいに持たせ、死したる如きさまにて幾時をか過しけん。劇しき寒さ骨に徹すと覺えて醒めし時は、夜に入りて雪は繁く降り、帽の庇、外套の肩には一寸許も積りたりき。
 最早十一時をや過ぎけん、モハビツト、カルヽ街通ひの鐵道馬車の軌道も雪に埋もれ、ブランデンブルゲル門の畔の瓦斯燈は寂しき光を放ちたり。立ち上らんとするに足の凍えたれば、兩手にて擦りて、漸やく歩み得る程にはなりぬ。
 足の運びの捗らねば、クロステル街まで來しときは、半夜をや過ぎたりけん。こゝ迄來し道をばいかに歩みしか知らず。一月上旬の夜なれば、ウンテル、デン、リンデンの酒家、茶店は猶ほ人の出入盛りにて賑はしかりしならめど、ふつに覺えず。我腦中には唯※(二の字点、1-2-22)我は免ゆるすべからぬ罪人なりと思ふ心のみ滿ち/\たりき。
0016名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:17:27.44
たちまち掩はれ、乍ちまた顯れて、風に弄ばるゝに似たり。戸口に入りしより疲を覺えて、身の節の痛み堪へ難ければ、這ふ如くに梯を登りつ。庖厨くりやを過ぎ、室の戸を開きて入りしに、机に倚りて襁褓縫ひたりしエリスは振り返へりて、「あ」と叫びぬ。「いかにかし玉ひし。おん身の姿は。」
 驚きしも宜なりけり、蒼然として死人に等しき我面色、帽をばいつの間にか失ひ、髮は蓬おどろと亂れて、幾度か道にて跌つまづき倒れしことなれば、衣は泥まじりの雪に※(「さんずい+于」、第3水準1-86-49)よごれ、處々は裂けたれば。
 余は答へんとすれど聲出でず、膝の頻りに戰かれて立つに堪へねば、椅子を握まんとせしまでは覺えしが、その儘に地に倒れぬ。
 人事を知る程になりしは數週の後なりき。熱劇しくて譫語うはことのみ言ひしを、エリスが慇ねもごろにみとる程に、或日相澤は尋ね來て、余がかれに隱したる顛末を審つばらに知りて、大臣には病の事のみ告げ、よきやうに繕ひ置きしなり。余は始めて病牀に侍するエリスを見て、その變りたる姿に驚きぬ。彼はこの數週の内にいたく痩せて、血走りし目は窪み、灰色の頬は落ちたり。相澤の助にて日々の生計には窮せざりしが、
0018名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:18:39.49
されど今こゝに心づきて、我心は猶ほ冷然たりし歟か。先に友の勸めしときは、大臣の信用は屋上の禽の如くなりしが、今は稍※(二の字点、1-2-22)これを得たるかと思はるゝに、相澤がこの頃の言葉の端に、本國に歸りて後も倶にかくてあらば云々といひしは、大臣のかく宣ひしを、友ながらも公事なれば明には告げざりし歟。今更おもへば、余が輕卒にも彼に向ひてエリスとの關係を絶たんといひしを、早く大臣に告げやしけん。
 嗚呼、獨逸に來し初に、自ら我本領を悟りきと思ひて、また器械的人物とはならじと誓ひしが、こは足を縛して放たれし鳥の暫し羽を動かして自由を得たりと誇りしにはあらずや。足の絲は解くに由なし。曩さきにこれを繰つりしは、我某省の官長にて、今はこの絲、あなあはれ、天方伯の手中に在り。余が大臣の一行と倶にベルリンに歸りしは、恰も是れ新年の旦あしたなりき。停車場に別を告げて、我家をさして車を驅りつ。こゝにては今も除夜に眠らず、元旦に眠るが習なれば、萬戸寂然たり。寒さは強く、路上の雪は稜角かどある氷片となりて、晴れたる日に映じ、きら/\と輝けり。車はクロステル街に曲りて、家の入口に駐まりぬ。この時※(「窗/心」、第3水準1-89-54)を開く音せしが、車よりは見えず。馭丁に「カバン」持たせて梯きざはしを登らんとする程に、エリスの梯を駈け下るに逢ひぬ。彼が一聲叫びて我頸を抱きしを見て馭丁は呆れたる面もちにて、何やらむ髭の内にて云ひしが聞えず。
0022名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:20:54.74
されど今こゝに心づきて、我心は猶ほ冷然たりし歟か。先に友の勸めしときは、大臣の信用は屋上の禽の如くなりしが、今は稍※(二の字点、1-2-22)これを得たるかと思はるゝに、相澤がこの頃の言葉の端に、本國に歸りて後も倶にかくてあらば云々といひしは、大臣のかく宣ひしを、友ながらも公事なれば明には告げざりし歟。今更おもへば、余が輕卒にも彼に向ひてエリスとの關係を絶たんといひしを、早く大臣に告げやしけん。
 嗚呼、獨逸に來し初に、自ら我本領を悟りきと思ひて、また器械的人物とはならじと誓ひしが、こは足を縛して放たれし鳥の暫し羽を動かして自由を得たりと誇りしにはあらずや。足の絲は解くに由なし。曩さきにこれを繰つりしは、我某省の官長にて、今はこの絲、あなあはれ、天方伯の手中に在り。余が大臣の一行と倶にベルリンに歸りしは、恰も是れ新年の旦あしたなりき。停車場に別を告げて、我家をさして車を驅りつ。こゝにては今も除夜に眠らず、元旦に眠るが習なれば、萬戸寂然たり。寒さは強く、路上の雪は稜角かどある氷片となりて、晴れたる日に映じ、きら/\と輝けり。車はクロステル街に曲りて、家の入口に駐まりぬ。この時※(「窗/心」、第3水準1-89-54)を開く音せしが、車よりは見えず。馭丁に「カバン」持たせて梯きざはしを登らんとする程に、エリスの梯を駈け下るに逢ひぬ。彼が一聲叫びて我頸を抱きしを見て馭丁は呆れたる面もちにて、何やらむ髭の内にて云ひしが聞えず。
0024名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:22:48.16
いつの頃であつたか。多分江戸で白河樂翁侯が政柄せいへいを執つてゐた寛政の頃ででもあつただらう。智恩院ちおんゐんの櫻が入相の鐘に散る春の夕に、これまで類のない、珍らしい罪人が高瀬舟に載せられた。
 それは名を喜助と云つて、三十歳ばかりになる、住所不定の男である。固より牢屋敷に呼び出されるやうな親類はないので、舟にも只一人で乘つた。
 護送を命ぜられて、一しよに舟に乘り込んだ同心羽田庄兵衞は、只喜助が弟殺しの罪人だと云ふことだけを聞いてゐた。さて牢屋敷から棧橋まで連れて來る間、この痩肉やせじしの、色の蒼白い喜助の樣子を見るに、いかにも神妙に、いかにもおとなしく、自分をば公儀の役人として敬つて、何事につけても逆はぬやうにしてゐる。しかもそれが、罪人の間に往々見受けるやうな、温順を裝つて權勢に媚びる態度ではない。
 庄兵衞は不思議に思つた。そして舟に乘つてからも、單に役目の表で見張つてゐるばかりでなく、絶えず喜助の擧動に、細かい注意をしてゐた。
0025名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:23:15.96
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
0026名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:23:48.10
「幾階か持ちて行くべき。」と鑼どらの如く叫びし馭丁は、いち早く登りて梯の上に立てり。
 戸の外に出迎へしエリスが母に、馭丁を勞ひ玉へと銀貨をわたして、余は手を取りて引くエリスに伴はれ、急ぎて室に入りぬ。一瞥して余は驚きぬ、机の上には白き木綿、白き「レエス」などを堆うづたかく積み上げたれば。
 エリスは打笑みつゝこれを指して、「何とか見玉ふ、この心がまへを。」といひつゝ一つの木綿ぎれを取上ぐるを見れば襁褓むつきなりき。「わが心の樂しさを思ひ玉へ。産れん子は君に似て黒き瞳子ひとみをや持ちたらん。この瞳子。嗚呼、夢にのみ見しは君が黒き瞳子なり。産れたらん日には君が正しき心にて、よもあだし名をばなのらせ玉はじ。」彼は頭を垂れたり。「穉しと笑ひ玉はんが、寺に入らん日はいかに嬉しからまし。」見上げたる目には涙滿ちたり。
0027名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 20:24:11.82
航海の習なるに、微恙びやうにことよせて房へやの裡にのみ籠りて、同行の人々にも物言ふことの少きは、人知らぬ恨に頭のみ惱ましたればなり。此恨は初め一抹の雲の如く我心を掠めて、瑞西スヰスの山色をも見せず、伊太利の古蹟にも心を留めさせず、中頃は世を厭ひ、身をはかなみて、腸はらわた日ごとに九廻すともいふべき慘痛をわれに負はせ、今は心の奧に凝り固まりて、一點の翳とのみなりたれど、文讀むごとに、物見るごとに、鏡に映る影、聲に應ずる響の如く、限なき懷舊の情を喚び起して、幾度となく我心を苦む。嗚呼、いかにしてか此恨を銷せうせむ。若し外の恨なりせば、詩に詠じ歌によめる後は心地すが/\しくもなりなむ。
0030名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:26:59.40
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
0031名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:27:34.47
嗚呼、余はこの書を見て始めて我地位を明視し得たり。耻かしきはわが鈍き心なり。余は我身一つの進退につきても、また我身に係らぬ他人の事につきても、決斷ありと自ら心に誇りしが、此決斷は順境にのみありて、逆境にはあらず。我と人との關係を照さんとするときは、頼みし胸中の鏡は曇りたり
黒がねの額ぬかはありとも、歸りてエリスに何とかいはん。
「ホテル」を出でしときの我心の錯亂は、譬へんに物なかりき。余は道の東西をも分かず、思に沈みて行く程に、往きあふ馬車の馭丁に幾度か叱せられ、驚きて飛びのきつ。暫くしてふとあたりを見れば、獸苑の傍に出でたり。倒るゝ如くに路の邊の榻こしかけに倚りて、灼くが如く熱し、椎つちにて打たるゝ如く響く頭を榻背たふはいに持たせ、死したる如きさまにて幾時をか過しけん。
劇しき寒さ骨に徹すと覺えて醒めし時は、夜に入りて雪は繁く降り、帽の庇、外套の肩には一寸許も積りたりき。
 最早十一時をや過ぎけん、モハビツト、カルヽ街通ひの鐵道馬車の軌道も雪に埋もれ、ブランデンブルゲル門の畔の瓦斯燈は寂しき光を放ちたり。立ち上らんとするに足の凍えたれば、兩手にて擦りて、漸やく歩み得る程にはなりぬ。
 足の運びの捗らねば、クロステル街まで來しときは、半夜をや過ぎたりけん。こゝ迄來し道をばいかに歩みしか知らず。一月上旬の夜なれば、ウンテル、デン、リンデンの酒家、茶店は猶ほ人の出入盛りにて賑はしかりしならめど、ふつに覺えず。我腦中には唯※(二の字点、1-2-22)我は免ゆるすべからぬ罪人なりと思ふ心のみ滿ち/\たりき。
0033名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:32:00.02
>>32
又程經てのふみは頗る思ひせまりて書きたる如くなりき。文をば否といふ字にて起したり。否、君を思ふ心の深き底そこひをば今ぞ知りぬる。君は故里に頼もしき族やからなしとのたまへば、此地に善き世渡のたつきあらば、留り玉はぬことやはある。又我愛もて繋ぎ留めでは止まじ。それも※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)かなはで東に還り玉はんとならば、親と共に往かんは易けれど、か程に多き路用を何處よりか得ん。怎いかなる業をなしても此地に留りて、君が世に出で玉はん日をこそ待ためと常には思ひしが、暫しの旅とて立出で玉ひしより此二十日ばかり、別離の思は日にけに茂りゆくのみ。袂を分つはたゞ一瞬の苦艱なりと思ひしは迷なりけり。我身の常ならぬが漸くにしるくなれる、それさへあるに、縱令いかなることありとも、我をば努ゆめな棄て玉ひそ。母とはいたく爭ひぬ。されど我身の過ぎし頃には似で思ひ定めたるを見て心折れぬ。わが東に往かん日には、ステツチンわたりの農家に、遠き縁者あるに、身を寄せんとぞいふなる。書きおくり玉ひし如く、大臣の君に重く用ゐられ玉はゞ、我路用の金は兎も角もなりなん。今は只管ひたすら君がベルリンにかへり玉はん日を待つのみ。
0034名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:32:59.95
喜助はにつこり笑つた。「御親切に仰やつて下すつて、難有うございます。なる程島へ往くといふことは、外の人には悲しい事でございませう。其心持はわたくしにも思ひ遣つて見ることが出來ます。
しかしそれは世間で樂をしてゐた人だからでございます。
京都は結構な土地ではございますが、その結構な土地で、これまでわたくしのいたして參つたやうな苦みは、どこへ參つてもなからうと存じます。
お上のお慈悲で、命を助けて島へ遣つて下さいます。
島はよしやつらい所でも、鬼の栖すむ所ではございますまい。わたくしはこれまで、どこと云つて自分のゐて好い所と云ふものがございませんでした。こん度お上で島にゐろと仰やつて下さいます。そのゐろと仰やる所に落ち著いてゐることが出來ますのが、先づ何よりも難有い事でございます。
それにわたくしはこんなにかよわい體ではございますが、つひぞ病氣をいたしたことがございませんから、島へ往つてから、どんなつらい爲事をしたつて、體を痛めるやうなことはあるまいと存じます。
それからこん度島へお遣下さるに付きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。
0036名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:34:37.88
たびの疲れやおはさんとて敢て訪とぶらはず、家にのみ籠り居しが、或る日の夕暮使して招かれぬ。
往きて見れば待遇殊にめでたく、魯西亞行の勞を問ひ慰めて後、われと共に東にかへる心なきか、君が學問こそわが測り知る所ならね、語學のみにて世の用には足りなむ、滯留の餘りに久しければ、樣々の係累もやあらんと、相澤に問ひしに、さることなしと聞きて落居たりと宣ふ。
其氣色辭むべくもあらず。あなやと思ひしが、流石に相澤の言を僞なりともいひ難きに、若しこの手にしも縋らずば、本國をも失ひ、名譽を挽きかへさん道をも絶ち、身はこの廣漠たる歐洲大都の人の海に葬られんかと思ふ念、心頭を衝いて起れり。
嗚呼、何等の特操なき心ぞ、「承はり侍り」と應へたるは。
0037名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:35:06.54
を圍繞ゐねうせしは、巴里絶頂の驕奢を、氷雪の裡に移したる王城の粧飾、故ことさらに黄蝋の燭を幾つ共なく點したるに、幾星の勳章、幾枝の「エポレツト」が映射する光、彫鏤の工たくみを盡したる「カミン」の火に寒さを忘れて使ふ宮女の扇の閃きなどにて、この間佛蘭西語を最も圓滑に使ふものはわれなるがゆゑに、賓主の間に周旋して事を辨ずるものもまた多くは余なりき。
 この間余はエリスを忘れざりき、否、彼は日毎に書を寄せしかばえ忘れざりき。
余が立ちし日には、いつになく獨りにて燈火に向はん事の心憂さに、知る人の許にて夜に入るまでもの語りし、疲るゝを待ちて家に還り、直ちにいねつ。
次の朝目醒めし時は、猶獨り跡に殘りしことを夢にはあらずやと思ひぬ。起き出でし時の心細さ、かゝる思ひをば、生計たつきに苦みて、けふの日の食なかりし折にもせざりき。
これ彼が第一の書ふみの略あらましなり。
0039名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:38:07.36
>>38
>>41
この日は飜譯の代しろに、旅費さへ添へて賜はりしを持て歸りて、飜譯の代をばエリスに預けつ。
これにて魯西亞より歸り來んまでの費つひえをば支へつべし。彼は醫者に見せしに常ならぬ身なりといふ。
貧血の性なりしゆゑ、幾月か心づかでありけん。座頭よりは休むことのあまりに久しければ籍を除きぬと言ひおこせつ。
まだ一月ばかりなるに、かく嚴しきは故あればなるべし。
旅立の事にはいたく心を惱ますとも見えず。
僞りなき我心を厚く信じたれば。
 鐵路にては遠くもあらぬ旅なれば、用意とてもなし。
身に合せて借りたる黒き禮服、新に買求めたるゴタ板の魯廷ろていの貴族譜、二三種の辭書などを、小「カバン」に入れたるのみ。
流石に心細きことのみ多きこの程なれば、出で行く跡に殘らんも物憂かるべく、又停車場にて涙こぼしなどしたらんには影護うしろめたかるべければとて、翌朝早くエリスをば母につけて知る人がり出しやりつ。
余は旅裝整へて戸を鎖し、鍵をば入口に住む靴屋の主人に預けて出でぬ。
0041名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/29(日) 20:39:46.17
>>52
>>46
嗚呼、獨逸に來し初に、自ら我本領を悟りきと思ひて、また器械的人物とはならじと誓ひしが、こは足を縛して放たれし鳥の暫し羽を動かして自由を得たりと誇りしにはあらずや。足の絲は解くに由なし。
曩さきにこれを繰つりしは、我某省の官長にて、今はこの絲、あなあはれ、天方伯の手中に在り。
余が大臣の一行と倶にベルリンに歸りしは、恰も是れ新年の旦あしたなりき。
停車場に別を告げて、我家をさして車を驅りつ。
こゝにては今も除夜に眠らず、元旦に眠るが習なれば、萬戸寂然たり。寒さは強く、路上の雪は稜角かどある氷片となりて、晴れたる日に映じ、きら/\と輝けり。車はクロステル街に曲りて、家の入口に駐まりぬ。この時※(「窗/心」、第3水準1-89-54)を開く音せしが、車よりは見えず。馭丁に「カバン」持たせて梯きざはしを登らんとする程に、エリスの梯を駈け下るに逢ひぬ。彼が一聲叫びて我頸を抱きしを見て馭丁は呆れたる面もちにて、何やらむ髭の内にて云ひしが聞えず。
0043名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 20:41:03.16
>>56
>>61
きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。
それをここに持つてをります。」かう云ひ掛けて、喜助は胸に手を當てた。
遠島を仰せ附けられるものには、鳥目二百銅を遣すと云ふのは、當時の掟であつた。
 喜助は語を續いだ。「お恥かしい事を申し上げなくてはなりませぬが、わたくしは今日まで二百文と云ふお足を、かうして懷に入れて持つてゐたことはございませぬ。
どこかで爲事しごとに取り附きたいと思つて、爲事を尋ねて歩きまして、それが見附かり次第、骨を惜まずに働きました。
そして貰つた錢は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。
それも現金で物が買つて食べられる時は、わたくしの工面の好い時で、大抵は借りたものを返して、又跡を借りたのでございます。
それがお牢に這入つてからは、爲事をせずに食べさせて戴きます。
わたくしはそればかりでも、お上に對して濟まない事をいたしてゐるやうでなりませぬ。
0044名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 20:41:53.77
>>68
>>79
大洋に舵を失ひしふな人が、遙なる山を望む如きは、相澤が余に示したる前途の方鍼ほうしんなり。
されどこの山は猶ほ重霧の間に在りて、いつ往きつかんも、否、果して往きつきぬとも、我中心に滿足を與へんも定かならず。
貧きが中にも樂しきは今の生活、棄て難きはエリスが愛。
わが弱き心には思ひ定めんよしなかりしが、姑しばらく友の言に從ひて、この情縁を斷たんと約しき。
余は守る所を失はじと思ひて、おのれに敵するものには抗抵かうていすれども、友に對して否とはえ對へぬが常なり。
 別れて出づれば風面を撲てり。二重の玻璃※(「窗/心」、第3水準1-89-54)ガラスまどを緊きびしく鎖して、大いなる陶爐に火を焚きたる「ホテル」の食堂を出でしなれば、薄き外套を透る午後四時の寒さは殊さらに堪へ難く、膚はだへ粟立つと共に、余は心の中に一種の寒さを覺えき。
0047名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 20:56:33.71
>>45
>>55
たびの疲れやおはさんとて敢て訪とぶらはず、家にのみ籠り居しが、或る日の夕暮使して招かれぬ。
往きて見れば待遇殊にめでたく、魯西亞行の勞を問ひ慰めて後、われと共に東にかへる心なきか、君が學問こそわが測り知る所ならね、語學のみにて世の用には足りなむ、滯留の餘りに久しければ、樣々の係累もやあらんと、相澤に問ひしに、さることなしと聞きて落居たりと宣ふ。
其氣色辭むべくもあらず。
あなやと思ひしが、流石に相澤の言を僞なりともいひ難きに、若しこの手にしも縋らずば、本國をも失ひ、名譽を挽きかへさん道をも絶ち、身はこの廣漠たる歐洲大都の人の海に葬られんかと思ふ念、心頭を衝いて起れり。
嗚呼、何等の特操なき心ぞ、「承はり侍り」と應へたるは。
0048名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 20:57:27.40
>>78
>>102
門者かどもりに祕書官相澤が室の番號を問ひて、久しく踏み慣れぬ大理石の階を登り、中央の柱に「プリユツシユ」を被へる「ゾフア」を据ゑつけ、正面には鏡を立てたる前房に入りぬ。外套をばこゝにて脱ぎ、廊わたどのをつたひて室の前まで往きしが、余は少し踟※(「足へん+厨」、第3水準1-92-39)ちちゆしたり。
同じく大學に在りし日に、余が品行の方正なるを激賞したる相澤が、けふは怎いかなる面もちして出迎ふらん。室に入りて相對して見れば、形こそ舊に比ぶれば肥えて逞ましくなりたれ、依然たる快活の氣象、我失行をもさまで意に介せざりきと見ゆ。
別後の情を細叙するにも遑あらず、引かれて大臣に謁し、委托せられしは獨逸語にて記せる文書の急を要するを飜譯せよとの事なり。余が文書を受領して大臣の室を出でし時、相澤は跡より來て余と午餐を共にせんといひぬ。
 食卓にては彼多く問ひて、我多く答へき。彼が生路は概ね平滑なりしに、轗軻數奇かんかさくきなるは我身の上なりければなり。
 余が胸臆を開いて物語りし不幸なる閲歴を聞きて、かれは屡※(二の字点、1-2-22)驚きしが、なか/\に余を譴せめんとはせず、却りて他の凡庸なる諸生輩を罵りき。
0052名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:02:50.39
>>73
>>89
思つてゐるのだから、暮しの穴を填うめて貰つたのに氣が附いては、好い顏はしない。
格別平和を破るやうな事のない羽田の家に、折々波風の起るのは、是が原因である。
 庄兵衞は今喜助の話を聞いて、喜助の身の上をわが身の上に引き比べて見た。
喜助は爲事をして給料を取つても、右から左へ人手に渡して亡くしてしまふと云つた。いかにも哀な、氣の毒な境界である。
しかし一轉して我身の上を顧みれば、彼と我との間に、果してどれ程の差があるか。
自分も上から貰ふ扶持米ふちまいを、右から左へ人手に渡して暮してゐるに過ぎぬではないか。
彼と我との相違は、謂はば十露盤そろばんの桁が違つてゐるだけで、喜助の難有がる二百文に相當する貯蓄だに、こつちはないのである。
 さて桁を違へて考へて見れば、鳥目二百文をでも、喜助がそれを貯蓄と見て喜んでゐるのに無理はない。
其心持はこつちから察して遣ることが出來る。しかしいかに桁を違へて考へて見ても、不思議なのは喜助の慾のないこと、足ることを知つてゐることである。
0053名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:03:54.52
>>96
>>105
庄兵衞は喜助の顏をまもりつつ又、「喜助さん」と呼び掛けた。
今度は「さん」と云つたが、これは十分の意識を以て稱呼を改めたわけではない。
其聲が我口から出て我耳に入るや否や、庄兵衞は此稱呼の不穩當なのに氣が附いたが、今さら既に出た詞を取り返すことも出來なかつた。
「はい」と答へた喜助も、「さん」と呼ばれたのを不審に思ふらしく、おそる/\庄兵衞の氣色を覗つた。
 庄兵衞は少し間の惡いのをこらへて云つた。
「色々の事を聞くやうだが、お前が今度島へ遣られるのは、人をあやめたからだと云ふ事だ。己に序にそのわけを話して聞せてくれぬか。」
 喜助はひどく恐れ入つた樣子で、「かしこまりました」と云つて、小聲で話し出した。
「どうも飛んだ心得違こゝろえちがひで、恐ろしい事をいたしまして、なんとも申し上げやうがございませぬ。
跡で思つて見ますと、どうしてあんな事が出來たかと、自分ながら不思議でなりませぬ。
全く夢中でいたしましたのでございます
0054名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:05:23.29
>>134
>>145
訝りつゝも披ひらきて讀めば、とみの事にて預め知らするに由なかりしが、昨夜こゝに着せられし天方大臣に附きてわれも來たり。
伯の汝を見まほしとのたまふに疾く來よ。
汝が名譽を恢復するも此時にあるべきぞ。
心のみ急がれて用事をのみいひ遣るとなり。
讀み畢りて茫然たる面もちを見て、エリス云ふ。「故郷よりの文なりや。
惡しき便にてはよも。」彼は例の新聞社の報酬に關する書状と思ひしならん。「否、心にな掛けそ。おん身も名を知る相澤が、大臣と倶にこゝに來てわれを呼ぶなり。急ぐといへば今よりこそ。」
 かはゆき獨り子を出し遣る母もかくは心を用ゐじ。
まみえもやせんと思へばならん、エリスは病をつとめて起ち、上襦袢も極めて白きを撰び、丁寧にしまひ置きし「ゲエロツク」といふ二列ぼたんの服を出して着せ、襟飾
0056名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:07:36.00
>>296
>>351
庄兵衞は不思議に思つた。
そして舟に乘つてからも、單に役目の表で見張つてゐるばかりでなく、絶えず喜助の擧動に、細かい注意をしてゐた。
 其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。
下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。
そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。
それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
0057名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:09:06.10
>>133
>>66
暫くして、庄兵衞はこらへ切れなくなつて呼び掛けた。
「喜助。お前何を思つてゐるのか。」
「はい」と云つてあたりを見廻した喜助は、何事をかお役人に見咎められたのではないかと氣遣ふらしく、居ずまひを直して庄兵衞の氣色を伺つた。
 庄兵衞は自分が突然問を發した動機を明して、役目を離れた應對を求める分疏いひわけをしなくてはならぬやうに感じた。
そこでかう云つた。「いや。別にわけがあつて聞いたのではない。實はな、己は先刻からお前の島へ往く心持が聞いて見たかつたのだ。己はこれまで此舟で大勢の人を島へ送つた。それは隨分いろいろな身の上の人だつたが、どれもどれも島へ往くのを悲しがつて、見送りに來て、一しよに舟に乘る親類のものと、夜どほし泣くに極まつてゐた。それにお前の樣子を見れば、どうも島へ往くのを苦にしてはゐないやうだ。一體お前はどう思つてゐるのだい。」
0059名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:15:00.70
>>58
>>67
たびの疲れやおはさんとて敢て訪とぶらはず、家にのみ籠り居しが、或る日の夕暮使して招かれぬ。
往きて見れば待遇殊にめでたく、魯西亞行の勞を問ひ慰めて後、われと共に東にかへる心なきか、君が學問こそわが測り知る所ならね、語學のみにて世の用には足りなむ、滯留の餘りに久しければ、樣々の係累もやあらんと、相澤に問ひしに、さることなしと聞きて落居たりと宣ふ。其氣色辭むべくもあらず。
あなやと思ひしが、流石に相澤の言を僞なりともいひ難きに、若しこの手にしも縋らずば、本國をも失ひ、名譽を挽きかへさん道をも絶ち、身はこの廣漠たる歐洲大都の人の海に葬られんかと思ふ念、心頭を衝いて起れり。嗚呼、何等の特操なき心ぞ、「承はり侍り」と應へたるは。
0061名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:17:31.39
>>120
>>100
騎兵を主力とする匈奴に向かって、一隊の騎馬兵をも連れずに歩兵ばかり(馬に跨またがる者は、陵とその幕僚ばくりょう数人にすぎなかった、)で奥地深く侵入することからして、無謀の極きわみというほかはない。
その歩兵も僅わずか五千、絶えて後援はなく、しかもこの浚稽山しゅんけいざんは、最も近い漢塞かんさいの居延きょえんからでも優に一千五百里(支那里程)は離れている。
統率者李陵への絶対的な信頼と心服とがなかったならとうてい続けられるような行軍ではなかった。
 毎年秋風が立ちはじめると決きまって漢の北辺には、胡馬こばに鞭むちうった剽悍ひょうかんな侵略者の大部隊が現われる。辺吏が殺され、人民が掠かすめられ、家畜が奪略される。五原ごげん・朔方さくほう・雲中うんちゅう・上谷じょうこく・雁門がんもんなどが、その例年の被害地である。大将軍衛青えいせい・嫖騎ひょうき
0062名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:18:56.11
>>60
>>134
毎年秋風が立ちはじめると決きまって漢の北辺には、胡馬こばに鞭むちうった剽悍ひょうかんな侵略者の大部隊が現われる。
人民が掠かすめられ、家畜が奪略される。
五原ごげん・朔方さくほう・雲中うんちゅう・上谷じょうこく・雁門がんもんなどが、その例年の被害地である。大将軍衛青えいせい・嫖騎ひょうき将軍霍去病かくきょへいの武略によって一時漠南ばくなんに王庭なしといわれた元狩げんしゅ以後元鼎げんていへかけての数年を除いては、ここ三十年来欠かすことなくこうした北辺の災いがつづいていた。
霍去病かくきょへいが死んでから十八年、衛青えいせいが歿ぼっしてから七年。※(「さんずい+足」、第4水準2-78-51)野侯さくやこう趙破奴ちょうはどは全軍を率いて虜ろに降くだり、光禄勲こうろくくん徐自為じょじいの朔北さくほくに築いた城障もたちまち破壊される。
全軍の信頼を繋つなぐに足る将帥しょうすいとしては、わずかに先年大宛だいえんを遠征して武名を挙あげた弐師じし将軍李広利りこうりがあるにすぎない。
 その年――天漢二年夏五
0063名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:20:51.78
>>69
>>88
酒泉しゅせん・張掖ちょうえきの騎各五千をもって出撃したほうが得策と信ずるという上奏文である。
もちろん、李陵はこのことをしらない。
武帝はこれを見ると酷ひどく怒った。李陵が博徳と相談の上での上書と考えたのである。わが前ではあのとおり広言しておきながら、いまさら辺地に行って急に怯気おじけづくとは何事ぞという。
たちまち使いが都から博徳と陵の所に飛ぶ。
李陵は少をもって衆を撃たんとわが前で広言したゆえ、汝なんじはこれと協力する必要はない。今匈奴が西河せいがに侵入したとあれば、汝なんじはさっそく陵を残して西河に馳はせつけ敵の道を遮さえぎれ、というのが博徳への詔である。李陵への詔には、ただちに漠北ばくほくに至り東は浚稽山しゅんけいざんから南は竜勒水りょうろくすいの辺までを偵察観望し、もし異状なくんば、※(「さんずい+足」、第4水準2-78-51)野侯さくやこうの故道に従って受降城じゅこうじょうに至って士を休めよとある。
博徳と相談してのあの上書はいったいなんたることぞ、という烈はげしい詰問きつもんのあったことは言うまでもな
0064名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:21:40.43
>>60
管理人さんありがとうございます
したらばでご迷惑になってしまうといけないので質問なんですが報告対象垢名IDダイレクトに書いて大丈夫でしょうか?
それとも検索キーワードやアイコンなど特定出来るヒントにとどめた方がいいでしょうか?
0068名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:26:44.48
>>156
>>72
南行三日めの午ひる、漢軍の後方はるか北の地平線に、雲のごとく黄塵こうじんの揚がるのが見られた。匈奴騎兵の追撃である。翌日はすでに八万の胡兵が騎馬の快速を利して、漢軍の前後左右を隙すきもなく取囲んでしまっていた。ただし、前日の失敗に懲こりたとみえ、至近の距離にまでは近づいて来ない。南へ行進して行く漢軍を遠巻きにしながら、馬上から遠矢を射かけるのである。李陵が全軍を停とめて、戦闘の体形をとらせれば、敵は馬を駆って遠く退き、搏戦はくせんを避ける。ふたたび行軍をはじめれば、また近づいて来て矢を射かける。行進の速度が著しく減ずるのはもとより、死傷者も一日ずつ確実に殖ふえていくのである。飢え疲れた旅人の後をつける曠野こうやの狼のように、匈奴の兵はこの戦法を続けつつ執念深く追って来る。
 かつ戦い、かつ退きつつ南行することさらに数日、ある山谷の中で漢軍は一日の休養をとった。負傷者
0069名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 21:27:51.14
>>79
>>147
次の日からまた、もとの竜城りゅうじょうの道に循したがって、南方への退行が始まる。
匈奴きょうどはまたしても、元の遠巻き戦術に還かえった。
五日め、漢軍は、平沙へいさの中にときに見出みいだされる沼沢地しょうたくちの一つに踏入った。
水は半ば凍り、泥濘でいねいも脛はぎを没する深さで、行けども行けども果てしない枯葦原かれあしはらが続く。風上かざかみに廻まわった匈奴の一隊が火を放った。
朔風さくふうは焔ほのおを煽あおり、真昼の空の下に白っぽく輝きを失った火は、すさまじい速さで漢軍に迫る。李陵はすぐに附近の葦あしに迎え火を放たしめて、かろうじてこれを防いだ。
火は防いだが、沮洳地そじょちの車行の困難は言語に絶した。休息の地のないままに一夜泥濘でいねいの中を歩き通したのち、翌朝ようやく丘陵地に辿たどりついたとたんに、先廻さきまわりして待伏せていた敵の主力の襲撃
0071名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 22:17:42.87
>>70
>>81
騎兵を主力とする匈奴に向かって、一隊の騎馬兵をも連れずに歩兵ばかり(馬に跨またがる者は、陵とその幕僚ばくりょう数人にすぎなかった、)で奥地深く侵入することからして、無謀の極きわみというほかはない。その歩兵も僅わずか五千、絶えて後援はなく、しかもこの浚稽山しゅんけいざんは、最も近い漢塞かんさいの居延きょえんからでも優に一千五百里(支那里程)は離れている。統率者李陵への絶対的な信頼と心服とがなかったならとうてい続けられるような行軍ではなかった。
 毎年秋風が立ちはじめると決きまって漢の北辺には、胡馬こばに鞭むちうった剽悍ひょうかんな侵略者の大部隊が現われる。辺吏が殺され、人民が掠かすめられ、家畜が奪略される。五原ごげん・朔方さくほう・雲中うんちゅう・上谷じょうこく・雁門がんもんなどが、その例年の被害地である。大将軍衛青えいせい・嫖騎ひょうき
0074名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 22:27:05.44
>>93
>>134
騎兵を主力とする匈奴に向かって、一隊の騎馬兵をも連れずに歩兵ばかり(馬に跨またがる者は、陵とその幕僚ばくりょう数人にすぎなかった、)で奥地深く侵入することからして、無謀の極きわみというほかはない。
その歩兵も僅わずか五千、絶えて後援はなく、しかもこの浚稽山しゅんけいざんは、最も近い漢塞かんさいの居延きょえんからでも優に一千五百里(支那里程)は離れている。
統率者李陵への絶対的な信頼と心服とがなかったならとうてい続けられるような行軍ではなかった。
 毎年秋風が立ちはじめると決きまって漢の北辺には、胡馬こばに鞭むちうった剽悍ひょうかんな侵略者の大部隊が現われる。辺吏が殺され、人民が掠かすめられ、家畜が奪略される。五原ごげん・朔方さくほう・雲中うんちゅう・上谷じょうこく・雁門がんもんなどが、その例年の被害地である。大将軍衛青えいせい・嫖騎ひょうき
0076名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 22:32:35.45
こんなとこにわざわざ書き込まんでも他のスレあるから
ここは虚しく一人で馬鹿みたいに連投させとけばいいよ
0077名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 22:58:44.49
>>76
>>389
南行三日めの午ひる、漢軍の後方はるか北の地平線に、雲のごとく黄塵こうじんの揚がるのが見られた。匈奴騎兵の追撃である。翌日はすでに八万の胡兵が騎馬の快速を利して、漢軍の前後左右を隙すきもなく取囲んでしまっていた。ただし、前日の失敗に懲こりたとみえ、至近の距離にまでは近づいて来ない。南へ行進して行く漢軍を遠巻きにしながら、馬上から遠矢を射かけるのである。李陵が全軍を停とめて、戦闘の体形をとらせれば、敵は馬を駆って遠く退き、搏戦はくせんを避ける。ふたたび行軍をはじめれば、また近づいて来て矢を射かける。行進の速度が著しく減ずるのはもとより、死傷者も一日ずつ確実に殖ふえていくのである。飢え疲れた旅人の後をつける曠野こうやの狼のように、匈奴の兵はこの戦法を続けつつ執念深く追って来る。少しずつ傷つけていった揚句あげく、いつかは最後の止とどめを刺そうとその機会を窺うかがっているのである。
 かつ戦い、かつ退きつつ南行することさらに数日、ある山谷の中で漢軍は一日の休養をとった。負傷者
0081名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 23:13:26.94
>>80
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
0083名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/29(日) 23:21:23.19
>>82
>>305
毎年秋風が立ちはじめると決きまって漢の北辺には、胡馬こばに鞭むちうった剽悍ひょうかんな侵略者の大部隊が現われる。辺吏が殺され、人民が掠かすめられ、家畜が奪略される。五原ごげん・朔方さくほう・雲中うんちゅう・上谷じょうこく・雁門がんもんなどが、その例年の被害地である。大将軍衛青えいせい・嫖騎ひょうき将軍霍去病かくきょへいの武略によって一時漠南ばくなんに王庭なしといわれた元狩げんしゅ以後元鼎げんていへかけての数年を除いては、ここ三十年来欠かすことなくこうした北辺の災いがつづいていた。霍去病かくきょへいが死んでから十八年、衛青えいせいが歿ぼっしてから七年。※(「さんずい+足」、第4水準2-78-51)野侯さくやこう趙破奴ちょうはどは全軍を率いて虜ろに降くだり、光禄勲こうろくくん徐自為じょじいの朔北さくほくに築いた城障もたちまち破壊される。全軍の信頼を繋つなぐに足る将帥しょうすいとしては、わずかに先年大宛だいえんを遠征して武名を挙あげた弐師じし将軍李広利りこうりがあるにすぎない。
0085名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 00:11:06.39
>>84
その晩、漢の軍侯ぐんこう、管敢かんかんという者が陣を脱して匈奴の軍に亡にげ降くだった。
かつて長安ちょうあん都下の悪少年だった男だが、前夜斥候せっこう上の手抜かりについて校尉こうい・成安侯せいあんこう韓延年かんえんねんのために衆人の前で面罵めんばされ、笞むち打たれた。
それを含んでこの挙に出たのである。先日渓間たにまで斬ざんに遭った女どもの一人が彼の妻だったとも言う。
管敢は匈奴の捕虜の自供した言葉を知っていた。
それゆえ、胡陣こじんに亡にげて単于ぜんうの前に引出されるや、伏兵を懼おそれて引上げる必要のないことを力説した。
言う、漢軍には後援がない。矢もほとんど尽きようとしている。
負傷者も続出して行軍は難渋なんじゅうを極めている。漢軍の中心をなすものは、李り将軍および成安侯韓延年の率いる各八百人だが、それぞれ黄と白との幟しをもって印としているゆえ、明日胡騎こきの精鋭をしてそこに攻撃を集中せしめてこれを破ったなら、
0087名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 00:14:06.49
>>86
思つてゐるのだから、暮しの穴を填うめて貰つたのに氣が附いては、好い顏はしない。格別平和を破るやうな事のない羽田の家に、折々波風の起るのは、是が原因である。
 庄兵衞は今喜助の話を聞いて、喜助の身の上をわが身の上に引き比べて見た。喜助は爲事をして給料を取つても、右から左へ人手に渡して亡くしてしまふと云つた。いかにも哀な、氣の毒な境界である。しかし一轉して我身の上を顧みれば、彼と我との間に、果してどれ程の差があるか。自分も上から貰ふ扶持米ふちまいを、右から左へ人手に渡して暮してゐるに過ぎぬではないか。彼と我との相違は、謂はば十露盤そろばんの桁が違つてゐるだけで、喜助の難有がる二百文に相當する貯蓄だに、こつちはないのである。
 さて桁を違へて考へて見れば、鳥目二百文をでも、喜助がそれを貯蓄と見て喜んでゐるのに無理はない。其心持はこつちから察して遣ることが出來る。しかしいかに桁を違へて考へて見ても、不思議なのは喜助の慾のないこと、足ることを知つてゐることである。
0104名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 06:22:52.98
新規平野ヲタは今のうちに降りといた方がいいよマジで
Number_i推しても不愉快な推し活しか待ってないから金と時間の無駄になるよ
0111名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 07:20:34.03
気を使ってるんじゃなくてマジで行きたいだけでは
Xで平野が岸くんのX宣伝してるって言ってる人もいたけど単にマジでツボってるだけだと思うw
0127名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 08:15:41.98
ぐうじって前からウィって言ってた?
0139名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 09:21:19.37
デビューから見ててもぐうじが面白い人とは知らなかったからあの番組で面白さを知れて好きになった
またいつか…って期待しちゃうよ
0140名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 09:23:44.92
あさこさんと2人でまったりトークしてた深夜時代の名所大好きだったよ
岸くんとババ抜きした話とか近所の名所はセブンイレブンとか
0145名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 11:30:41.80
大量コピペは噂板まで乗り込んでるからなんありのスクリプトでなく狙い撃ちでやってるよね
回避のために前に使ってたスレタイでもスレ立てして見つかりにくいようにしたほうがいいかもね
0148名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 12:02:01.99
高槻彰良の原作者さんも祝ってくれてる
地味メガネ役やらせてしまってと言ってるが深町くんきゃわだたよね
0155名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 15:15:07.02
善意だとしたら下手すぎて
参加した人は可哀想だけど自己満に留めてもらっていい感じのやつだけぐうじの目にとまって欲しい
0158名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 15:30:08.81
平野県民だから名古屋でブルーライトアップめっちゃ嬉しい
退所の時の栄エリアレッドライトアップもだけど良い感じのやつはいつか参加してみたいや
0163名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 17:33:08.12
>>165
>>170
酒泉しゅせん・張掖ちょうえきの騎各五千をもって出撃したほうが得策と信ずるという上奏文である。
もちろん、李陵はこのことをしらない。
武帝はこれを見ると酷ひどく怒った。
李陵が博徳と相談の上での上書と考えたのである。
わが前ではあのとおり広言しておきながら、いまさら辺地に行って急に怯気おじけづくとは何事ぞという。
たちまち使いが都から博徳と陵の所に飛ぶ。李陵は少をもって衆を撃たんとわが前で広言したゆえ、汝なんじはこれと協力する必要はない。今匈奴が西河せいがに侵入したとあれば、汝なんじはさっそく陵を残して西河に馳はせつけ敵の道を遮さえぎれ、というのが博徳への詔である。李陵への詔には、ただちに漠北ばくほくに至り東は浚稽山しゅんけいざんから南は竜勒水りょうろくすいの辺までを偵察観望し、もし異状なくんば、※(「さんずい+足」、第4水準2-78-51)野侯さくやこうの故道に従って受降城じゅこうじょうに至って士を休めよとある。
博徳と相談してのあの上書はいったいなんたることぞ、という烈はげしい詰問きつもんのあったことは言うまでもな
0164名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 17:34:13.62
>>166
>>172
その晩、漢の軍侯ぐんこう、管敢かんかんという者が陣を脱して匈奴の軍に亡にげ降くだった。
かつて長安ちょうあん都下の悪少年だった男だが、前夜斥候せっこう上の手抜かりについて校尉こうい・成安侯せいあんこう韓延年かんえんねんのために衆人の前で面罵めんばされ、笞むち打たれた。
それを含んでこの挙に出たのである。先日渓間たにまで斬ざんに遭った女どもの一人が彼の妻だったとも言う。
管敢は匈奴の捕虜の自供した言葉を知っていた。
それゆえ、胡陣こじんに亡にげて単于ぜんうの前に引出されるや、伏兵を懼おそれて引上げる必要のないことを力説した。
言う、漢軍には後援がない。矢もほとんど尽きようとしている。
負傷者も続出して行軍は難渋なんじゅうを極めている。
漢軍の中心をなすものは、李り将軍および成安侯韓延年の率いる各八百人だが、それぞれ黄と白との幟しをもって印としているゆえ、明日胡騎こきの精鋭をしてそこに攻撃を集中せしめてこれを破ったなら、他は容
0166名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 18:16:32.02
>>165
>>186
その晩、漢の軍侯ぐんこう、管敢かんかんという者が陣を脱して匈奴の軍に亡にげ降くだった。
かつて長安ちょうあん都下の悪少年だった男だが、前夜斥候せっこう上の手抜かりについて校尉こうい・成安侯せいあんこう韓延年かんえんねんのために衆人の前で面罵めんばされ、笞むち打たれた。
それを含んでこの挙に出たのである。先日渓間たにまで斬ざんに遭った女どもの一人が彼の妻だったとも言う。
管敢は匈奴の捕虜の自供した言葉を知っていた。
それゆえ、胡陣こじんに亡にげて単于ぜんうの前に引出されるや、伏兵を懼おそれて引上げる必要のないことを力説した。言う、漢軍には後援がない。
矢もほとんど尽きようとしている。
負傷者も続出して行軍は難渋なんじゅうを極めている。漢軍の中心をなすものは、李り将軍および成安侯韓延年の率いる各八百人だが、それぞれ黄と白との幟しをもって印としているゆえ、明日胡騎こきの精鋭をしてそこに攻撃を集中せしめてこれを破ったなら、他は容
0169名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 18:47:59.04
>>168
私さんに言おうよw
ごめんちょっと確認なんだけどヲタナリスレ潰してるのが私さんでこのスレ潰してるのがハート使いのラウールヲタでおk?
0171名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 18:50:46.01
髙橋婆ってめめこじ腐だから一時期の道枝みたいにラウールヲタヲタしてるだけだよw
ほんと腐女子なんだなって感じ
0177名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 18:55:24.23
綺麗なターコイズブルーに点灯してたね
エキスポシティに来てる一般の方もなんかあるん?って楽しんでくれたらいいね
0193名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 19:30:36.44
平野ヲタの有志の人達もいつも素敵なお祝いしてくれるからわいは楽しみにしてるよ
毎年ありがとうね
0198名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 19:45:54.74
誕プレインスタで見せてくれるのかわいらには秘密なのか
とりあえずシンガポールは確実なので楽しみ
0229名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 21:25:20.89
元文春記者がうやむやにされる空気あるけどまだまだ燃えるってポストしてたからまだ何か隠し球あるっぽい
0257名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:13:00.41
>>245
思つてゐるのだから、暮しの穴を填うめて貰つたのに氣が附いては、好い顏はしない。格別平和を破るやうな事のない羽田の家に、折々波風の起るのは、是が原因である。
 庄兵衞は今喜助の話を聞いて、喜助の身の上をわが身の上に引き比べて見た。喜助は爲事をして給料を取つても、右から左へ人手に渡して亡くしてしまふと云つた。
いかにも哀な、氣の毒な境界である。しかし一轉して我身の上を顧みれば、彼と我との間に、果してどれ程の差があるか。自分も上から貰ふ扶持米ふちまいを、右から左へ人手に渡して暮してゐるに過ぎぬではないか。彼と我との相違は、謂はば十露盤そろばんの桁が違つてゐるだけで、喜助の難有がる二百文に相當する貯蓄だに、こつちはないのである。
 さて桁を違へて考へて見れば、鳥目二百文をでも、喜助がそれを貯蓄と見て喜んでゐるのに無理はない。其心持はこつちから察して遣ることが出來る。しかしいかに桁を違へて考へて見ても、不思議なのは喜助の慾のないこと、足ることを知つてゐることである。
0258名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:13:36.84
>>252
>>300
毎年秋風が立ちはじめると決きまって漢の北辺には、胡馬こばに鞭むちうった剽悍ひょうかんな侵略者の大部隊が現われる。
人民が掠かすめられ、家畜が奪略される。五原ごげん・朔方さくほう・雲中うんちゅう・上谷じょうこく・雁門がんもんなどが、その例年の被害地である。
大将軍衛青えいせい・嫖騎ひょうき将軍霍去病かくきょへいの武略によって一時漠南ばくなんに王庭なしといわれた元狩げんしゅ以後元鼎げんていへかけての数年を除いては、ここ三十年来欠かすことなくこうした北辺の災いがつづいていた。霍去病かくきょへいが死んでから十八年、衛青えいせいが歿ぼっしてから七年。※(「さんずい+足」、第4水準2-78-51)野侯さくやこう趙破奴ちょうはどは全軍を率いて虜ろに降くだり、光禄勲こうろくくん徐自為じょじいの朔北さくほくに築いた城障もたちまち破壊される。全軍の信頼を繋つなぐに足る将帥しょうすいとしては、わずかに先年大宛だいえんを遠征して武名を挙あげた弐師じし将軍李広利りこうりがあるにすぎない。
 その年――天漢二年夏五
0259名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:14:30.22
>>214
>>312
次の日からまた、もとの竜城りゅうじょうの道に循したがって、南方への退行が始まる。
匈奴きょうどはまたしても、元の遠巻き戦術に還かえった。五日め、漢軍は、平沙へいさの中にときに見出みいだされる沼沢地しょうたくちの一つに踏入った。水は半ば凍り、泥濘でいねいも脛はぎを没する深さで、行けども行けども果てしない枯葦原かれあしはらが続く。
風上かざかみに廻まわった匈奴の一隊が火を放った。朔風さくふうは焔ほのおを煽あおり、真昼の空の下に白っぽく輝きを失った火は、すさまじい速さで漢軍に迫る。
李陵はすぐに附近の葦あしに迎え火を放たしめて、かろうじてこれを防いだ。火は防いだが、沮洳地そじょちの車行の困難は言語に絶した。
休息の地のないままに一夜泥濘でいねいの中を歩き通したのち、翌朝ようやく丘陵地に辿たどりついたとたんに、先廻さきまわりして待伏せていた敵の主力の襲撃
 その年――天漢二年夏五
0260名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:15:37.98
>>242
>>264
きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。
それをここに持つてをります。」かう云ひ掛けて、喜助は胸に手を當てた。遠島を仰せ附けられるものには、鳥目二百銅を遣すと云ふのは、當時の掟であつた。
 喜助は語を續いだ。
「お恥かしい事を申し上げなくてはなりませぬが、わたくしは今日まで二百文と云ふお足を、かうして懷に入れて持つてゐたことはございませぬ。
どこかで爲事しごとに取り附きたいと思つて、爲事を尋ねて歩きまして、それが見附かり次第、骨を惜まずに働きました。
そして貰つた錢は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。それも現金で物が買つて食べられる時は、わたくしの工面の好い時で、大抵は借りたものを返して、又跡を借りたのでございます。
それがお牢に這入つてからは、爲事をせずに食べさせて戴きます。
わたくしはそればかりでも、お上に對して濟まない事をいたしてゐるやうでなりませぬ。
0262名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:17:55.74
>>287
>>271
うすると夏目君の「我輩は猫である」に対して、「我輩も猫である」というようなものが出る。
「我輩は犬である」というようなものが出る。金井君はそれを見て、ついつい嫌いやになってなんにも書かずにしまった。
 そのうち自然主義ということが始まった。
金井君はこの流義の作品を見たときは、格別技癢をば感じなかった。
その癖面白がることは非常に面白がった。
面白がると同時に、金井君は妙な事を考えた。
 金井君は自然派の小説を読む度たびに、その作中の人物が、行住坐臥ざが造次顛沛てんぱい、何に就けても性欲的写象を伴うのを見て、そして批評が、それを人生を写し得たものとして認めているのを見て、
人生は果してそんなものであろうかと思うと同時に、或は自分が人間一般の心理的状態を外はずれて性欲に冷澹れいたんであるのではないか、特に frigiditas とでも名づくべき異常な性癖を持って生れたのではあるまいかと思った。
そういう想像は、zola の小説などを読んだ時にも起らぬではなかった。
しかしそれは Germinal やなんぞで、労働者の部落の人間が、困厄の極度に達した処を書いてあるとき、或る男女の逢引あいびきをしているのを覗のぞきに行く段などを見て、そう思ったのであるが、その時の疑は、なんで作者がそういう処を、わざとらしく書いているだろうというのであって、それが有
0263名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:19:55.35
>>279
>>285
たちまち掩はれ、乍ちまた顯れて、風に弄ばるゝに似たり。
戸口に入りしより疲を覺えて、身の節の痛み堪へ難ければ、這ふ如くに梯を登りつ。
庖厨くりやを過ぎ、室の戸を開きて入りしに、机に倚りて襁褓縫ひたりしエリスは振り返へりて、あと叫びぬ。
「いかにかし玉ひし。おん身の姿は。」
 驚きしも宜なりけり、蒼然として死人に等しき我面色、帽をばいつの間にか失ひ、髮は蓬おどろと亂れて、
幾度か道にて跌つまづき倒れしことなれば、衣は泥まじりの雪に※(「さんずい+于」、第3水準1-86-49)よごれ、處々は裂けたれば。
 余は答へんとすれど聲出でず、膝の頻りに戰かれて立つに堪へねば、椅子を握まんとせしまでは覺えしが、その儘に地に倒れぬ。
 人事を知る程になりしは數週の後なりき。熱劇しくて譫語うはことのみ言ひしを、
エリスが慇ねもごろにみとる程に、或日相澤は尋ね來て、余がかれに隱したる顛末を審つばらに知りて、大臣には病の事のみ告げ、よきやうに繕ひ置きしなり。
余は始めて病牀に侍するエリスを見て、その變りたる姿に驚きぬ。彼はこの數週の内にいたく痩せて、血走りし目は窪み、灰色の頬は落ちたり。
相澤の助にて日々の生計には窮せざりしが、
0264名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:21:18.05
>>249
>>267
たびの疲れやおはさんとて敢て訪とぶらはず、家にのみ籠り居しが、或る日の夕暮使して招かれぬ。
往きて見れば待遇殊にめでたく、魯西亞行の勞を問ひ慰めて後、われと共に東にかへる心なきか、君が學問こそわが測り知る所ならね、
語學のみにて世の用には足りなむ、滯留の餘りに久しければ、樣々の係累もやあらんと、相澤に問ひしに、さることなしと聞きて落居たりと宣ふ。
其氣色辭むべくもあらず。
あなやと思ひしが、流石に相澤の言を僞なりともいひ難きに、若しこの手にしも縋らずば、本國をも失ひ、名譽を挽きかへさん道をも絶ち、
身はこの廣漠たる歐洲大都の人の海に葬られんかと思ふ念、心頭を衝いて起れり。嗚呼、何等の特操なき心ぞ、「承はり侍り」と應へたるは。
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
0266名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:25:12.74
>>265
>>269
たびの疲れやおはさんとて敢て訪とぶらはず、家にのみ籠り居しが、或る日の夕暮使して招かれぬ。
往きて見れば待遇殊にめでたく、魯西亞行の勞を問ひ慰めて後、われと共に東にかへる心なきか、君が學問こそわが測り知る所ならね、
語學のみにて世の用には足りなむ、滯留の餘りに久しければ、樣々の係累もやあらんと、相澤に問ひしに、さることなしと聞きて落居たりと宣ふ。
其氣色辭むべくもあらず。
あなやと思ひしが、流石に相澤の言を僞なりともいひ難きに、若しこの手にしも縋らずば、本國をも失ひ、名譽を挽きかへさん道をも絶ち、
身はこの廣漠たる歐洲大都の人の海に葬られんかと思ふ念、心頭を衝いて起れり。嗚呼、何等の特操なき心ぞ、「承はり侍り」と應へたるは。
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
0267名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:27:13.17
>>271
>>280
早い月はすでに落ちた。
胡虜こりょの不意を衝ついて、ともかくも全軍の三分の二は予定どおり峡谷の裏口を突破した。
しかしすぐに敵の騎馬兵の追撃に遭あった。
徒歩の兵は大部分討たれあるいは捕えられたようだったが、混戦に乗じて敵の馬を奪った数十人は、その胡馬こばに鞭むちうって南方へ走った。
敵の追撃をふり切って夜目にもぼっと白い平沙へいさの上を、のがれ去った部下の数を数えて、
確かに百に余ることを確かめうると、李陵りりょうはまた峡谷の入口の修羅場しゅらばにとって返した。
身には数創を帯び、自みずからの血と返り血とで、戎衣じゅういは重く濡ぬれていた。
彼と並んでいた韓延年かんえんねんはすでに討たれて戦死していた。
麾下きかを失い全軍を失って、もはや天子に見まみゆべき面目はない。
彼は戟ほこを取直すと、ふたたび乱軍の中に駈入かけいった。
暗い中で敵味方も分らぬほどの乱闘のうちに、李陵の馬が流矢ながれやに当たったとみえてガックリ前にのめった
0269名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:28:49.98
>>268
>>278
翌、天漢てんかん三年の春になって、李陵りりょうは戦死したのではない。捕えられて虜ろに降ったのだという確報が届いた。
武帝ははじめて嚇怒かくどした。
即位後四十余年。
帝はすでに六十に近かったが、気象の烈はげしさは壮時に超えている。
神仙しんせんの説を好み方士巫覡ほうしふげきの類を信じた彼は、
それまでに己おのれの絶対に尊信する方士どもに幾度か欺あざむかれていた。
漢の勢威の絶頂に当たって五十余年の間君臨したこの大皇帝は、
その中年以後ずっと、霊魂の世界への不安な関心に執拗しつようにつきまとわれていた。それだけに、その方面での失望は彼にとって大きな打撃となった。
こうした打撃は、生来闊達かったつだった彼の心に、年とともに群臣への暗い猜疑さいぎを植えつけていった。李蔡りさい・青霍せいかく・趙周ちょうしゅうと、丞相じょうしょうたる者は相ついで死罪に行なわれた。
現在の丞相たる公孫賀こうそんがのごとき、命を拝したときに己おのが運命を恐れて帝の前で手離しで泣出したほどである。
硬骨漢こうこつかん汲黯きゅうあんが退いた後は、
帝を取巻くものは、佞臣ねいしんにあらずんば酷吏こくりであった。
0270名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/30(月) 22:30:30.72
>>275
>>279
世界への不安な関心に執拗しつようにつきまとわれていた。
それだけに、その方面での失望は彼にとって大きな打撃となった。
こうした打撃は、生来闊達かったつだった彼の心に、年とともに群臣への暗い猜疑さいぎを植えつけていった。
李蔡りさい・青霍せいかく・趙周ちょうしゅうと、丞相じょうしょうたる者は相ついで罪に行なわれた。
現在の丞相たる公孫賀こうそんがのごとき、命を拝したときに己おのが運命を恐れて帝の前で手離しで泣出したほどである。
硬骨漢こうこつかん汲黯きゅうあんが退いた後は、帝を取巻くものは、佞臣ねいしんにあらずんば酷吏こくりであった。
 さて、武帝は諸重臣を召して李陵の処置について計った。
李陵の身体は都にはないが、その罪の決定によって、彼の妻子眷属けんぞく家財などの処分が行なわれるのである。
酷吏として聞こえた一廷尉ていいが常に帝の顔色を窺うかがい合法的に法を枉まげて帝の意を迎えることに巧みであった。
ある人が法の権威を説いてこれを詰なじったところ、これに答えていう。
前主の是ぜとするところこれが律りつとなり、後主の是とするところこれが令りょうとなる。
当時の君主の意のほかになんの法があろうぞと。
群臣皆この廷尉の類であった。丞相じょうしょう公孫賀こうそんが、御史大夫ぎょしたいふ杜周としゅう、太常たいじょう、趙弟ちょうてい以下、誰一人として、帝の震怒しんどを犯してまで陵のために弁じようとする者はない。
口を極めて彼らは李陵の売国的行為を罵ののしる。
0273名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:48:01.59
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や、
彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が、この男には不思議に思われた。
いや、不思議ではない。
人間がそういうものとは昔からいやになるほど知ってはいるのだが、それにしてもその不愉快さに変わりはないのである。
下大夫かたいふの一人として朝ちょうにつらなっていたために彼もまた下問を受けた。
そのとき、この男はハッキリと李陵を褒ほめ上げた。
言う。
陵の平生を見るに、親に事つかえて孝、士と交わって信、常に奮って身を顧みずもって国家の急に殉ずるは誠まことに国士のふうありというべく、
今不幸にして事一度たび破れたが、身を全うし妻子を保やすんずることをのみただ念願とする君側の佞人ねいじんばらが、
この陵の一失いっしつを取上げてこれを誇大歪曲わいきょくしもって上しょうの聡明を蔽おおおうとしているのは、遺憾いかんこの上もない。
そもそも陵の今回の軍たる、五千にも満たぬ歩卒を率いて深く敵地に入り、匈奴きょうど数万の師を奔命ほんめいに疲れしめ、
転戦千里、矢尽き道窮きわまるに至るもなお全軍空弩くうどを張り、白刃はくじんを冒して死闘している。
部下の心を得てこれに死力を尽くさしむること、古いにしえの名将といえどもこれには過ぎまい。
軍敗れたりとはいえ、その善戦のあとはまさに天下に顕彰するに足る。
思うに、彼が死せずして虜ろに降くだったというのも、ひそかにかの地にあって何事か漢に報いんと期してのことではあるまいか。
>>272
>>284
0275名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:49:21.80
>>274
>>288
早い月はすでに落ちた。胡虜こりょの不意を衝ついて、ともかくも全軍の三分の二は予定どおり峡谷の裏口を突破した。
しかしすぐに敵の騎馬兵の追撃に遭あった。
徒歩の兵は大部分討たれあるいは捕えられたようだったが、混戦に乗じて敵の馬を奪った数十人は、
その胡馬こばに鞭むちうって南方へ走った。
敵の追撃をふり切って夜目にもぼっと白い平沙へいさの上を、のがれ去った部下の数を数えて、確かに百に余ることを確かめうると、李陵りりょうはまた峡谷の入口の修羅場しゅらばにとって返した。身には数創を帯び、自みずからの血と返り血とで、戎衣じゅういは重く濡ぬれていた。
彼と並んでいた韓延年かんえんねんはすでに討たれて戦していた。
麾下きかを失い全軍を失って、もはや天子に見まみゆべき面目はない。彼は戟ほこを取直すと、ふたたび乱軍の中に駈入かけいった。
暗い中で敵味方も分らぬほどの乱闘のうちに、李陵の馬が流矢ながれやに当たったとみえてガックリ前にのめった
0276名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:50:44.46
>>299
>>288
並いる群臣は驚いた。
こんなことのいえる男が世にいようとは考えなかったからである。
彼らはこめかみを顫ふるわせた武帝の顔を恐る恐る見上げた。
それから、自分らをあえて全躯保妻子くをまっとうしさいしをたもつの臣と呼んだこの男を待つものが何であるかを考えて、ニヤリとするのである。
 向こう見ずなその男――太史令たいしれい・司馬遷しばせんが君前を退くと、すぐに、「全躯保妻子くをまっとうしさいしをたもつの臣」の一人が、遷せんと李陵りりょうとの親しい関係について武帝の耳に入れた。
太史令は故ゆえあって弐師じし将軍と隙げきあり、遷が陵を褒ほめるのは、それによって、今度、陵に先立って出塞しゅっさいして功のなかった弐師将軍を陥おとしいれんがためであると言う者も出てきた。
ともかくも、たかが星暦卜祀せいれきぼくしを司つかさどるにすぎぬ太史令の身として、あまりにも不遜ふそんな態度だというのが、一同の一致した意見である。
おかしなことに、李陵の家族よりも司馬遷のほうが先に罪せられることになった。翌日、彼は廷尉ていいに下された。刑は宮きゅうと決まった。
 支那しなで昔から行なわれた肉刑にくけいの主おもなるものとして、黥けい、
※(「鼻+りっとう」、第3水準1-14-65)ぎ(はなきる)、※(「非+りっとう」、第4水準2-3-25)ひ(あしきる)、宮きゅう、の四つがある。
武帝の祖父・文帝ぶんていのとき、この四つのうち三つまでは廃せられたが、宮刑きゅうけいのみはそのまま残された。
宮刑とはもちろん、男を男でなくする奇怪な刑罰である。
これを一に腐刑ふけいともいうのは、その創きずが腐臭を放つがゆえだともいい、あるいは、腐木ふぼくの実を生ぜざるがごとき男と成り果てるからだともいう。
この刑を受けた者を閹人えんじんと称し、宮廷の宦官かんがんの大部分がこれであったことは言うまでもない
0277名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 22:52:43.71
>>362
翌、天漢てんかん三年の春になって、李陵りりょうは戦死したのではない。捕えられて虜ろに降ったのだという確報が届いた。
武帝ははじめて嚇怒かくどした。即位後四十余年。帝はすでに六十に近かったが、気象の烈はげしさは壮時に超えている。神仙しんせんの説を好み方士巫覡ほうしふげきの類を信じた彼は、それまでに己おのれの絶対に尊信する方士どもに幾度か欺あざむかれていた。漢の勢威の絶頂に当たって五十余年の間君臨したこの大皇帝は、その中年以後ずっと、霊魂の世界への不安な関心に執拗しつようにつきまとわれていた。それだけに、その方面での失望は彼にとって大きな打撃となった。こうした打撃は、生来闊達かったつだった彼の心に、年とともに群臣への暗い猜疑さいぎを植えつけていった。李蔡りさい・青霍せいかく・趙周ちょうしゅうと、丞相じょうしょうたる者は相ついで死罪に行なわれた。現在の丞相たる公孫賀こうそんがのごとき、命を拝したときに己おのが運命を恐れて帝の前で手離しで泣出したほどである。硬骨漢こうこつかん汲黯きゅうあんが退いた後は、帝を取巻くものは、佞臣ねいしんにあらずんば酷吏こくりであった。
早い月はすでに落ちた。胡虜こりょの不意を衝ついて、ともかくも全軍の三分の二は予定どおり峡谷の裏口を突破した。しかしすぐに敵の騎馬兵の追撃に遭あった。徒歩の兵は大部分討たれあるいは捕えられたようだったが、混戦に乗じて敵の馬を奪った数十人は、その胡馬こばに鞭むちうって南方へ走った。敵の追撃をふり切って夜目にもぼっと白い平沙へいさの上を、のがれ去った部下の数を数えて、確かに百に余ることを確かめうると、李陵りりょうはまた峡谷の入口の修羅場しゅらばにとって返した。身には数創を帯び、自みずからの血と返り血とで、戎衣じゅういは重く濡ぬれていた。彼と並んでいた韓延年かんえんねんはすでに討たれて戦していた。麾下きかを失い全軍を失って、もはや天子に見まみゆべき面目はない。彼は戟ほこを取直すと、ふたたび乱軍の中に駈入かけいった。暗い中で敵味方も分らぬほどの乱闘のうちに、李陵の馬が流矢ながれやに当たったとみえてガックリ前にのめった
0285名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:04:27.24
司馬氏は元もと周しゅうの史官であった。
後、晋しんに入り、秦しんに仕え、漢かんの代となってから四代目の司馬談しばたんが武帝に仕えて建元けんげん年間に太史令たいしれいをつとめた。
この談が遷の父である。
専門たる律りつ・暦れき・易えきのほかに道家どうかの教えに精くわしくまた博ひろく儒じゅ、墨ぼく、法ほう、名めい、諸家しょかの説にも通じていたが、
それらをすべて一家の見けんをもって綜すべて自己のものとしていた。
己おのれの頭脳や精神力についての自信の強さはそっくりそのまま息子むすこの遷に受嗣うけつがれたところのものである。
彼が、息子に施した最大の教育は、諸学の伝授を終えてのちに、海内かいだいの大旅行をさせたことであった。
当時としては変わった教育法であったが、これが後年の歴史家司馬遷に資するところのすこぶる大であったことは、いうまでもない。
 元封げんぽう元年に武帝が東、泰山たいざんに登って天を祭ったとき、たまたま周南しゅうなんで病床にあった熱血漢ねっけつかん司馬談しばたんは、天子始めて漢家の封ほうを建つるめでたきときに、
己おのれ一人従ってゆくことのできぬのを慨なげき、憤を発してそのために死んだ。
古今を一貫せる通史つうしの編述こそは彼の一生の念願だったのだが、単に材料の蒐集しゅうしゅうのみで終わってしまったのである。
その臨終りんじゅうの光景は息子・遷せんの筆によって詳しく史記しきの最後の章に描かれている。
それによると司馬談は己のまた起たちがたきを知るや遷を呼びその手を執とって、懇ねんごろに修史しゅうしの必要を説き、
己おのれ太史たいしとなりながらこのことに着手せず、賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。
「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき
>>283
>>279
0287名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:05:09.49
>>282
>>291
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や、彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が、この男には不思議に思われた。
いや、不思議ではない。人間がそういうものとは昔からいやになるほど知ってはいるのだが、それにしてもその不愉快さに変わりはないのである。
下大夫かたいふの一人として朝ちょうにつらなっていたために彼もまた下問を受けた。そのとき、この男はハッキリと李陵を褒ほめ上げた。
言う。陵の平生を見るに、親に事つかえて孝、士と交わって信、常に奮って身を顧みずもって国家の急に殉ずるは誠まことに国士のふうありというべく、今不幸にして事一度たび破れたが、身を全うし妻子を保やすんずることをのみただ念願とする君側の佞人ねいじんばらが、この陵の一失いっしつを取上げてこれを誇大歪曲わいきょくしもって上しょうの聡明を蔽おおおうとしているのは、遺憾いかんこの上もない。
そもそも陵の今回の軍たる、五千にも満たぬ歩卒を率いて深く敵地に入り、匈奴きょうど数万の師を奔命ほんめいに疲れしめ、転戦千里、矢尽き道窮きわまるに至るもなお全軍空弩くうどを張り、白刃はくじんを冒して死闘している。
部下の心を得てこれに死力を尽くさしむること、古いにしえの名将といえどもこれには過ぎまい。軍敗れたりとはいえ、その善戦のあとはまさに天下に顕彰するに足る。思うに、彼が死せずして虜ろに降くだったというのも、ひそかにかの地にあって何事か漢に報いんと期してのことではあるまいか。
0288名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:06:05.13
>>286
>>292翌、天漢てんかん三年の春になって、李陵りりょうは戦死したのではない。
捕えられて虜ろに降ったのだという確報が届いた。武帝ははじめて嚇怒かくどした。
即位後四十余年。帝はすでに六十に近かったが、気象の烈はげしさは壮時に超えている。
神仙しんせんの説を好み方士巫覡ほうしふげきの類を信じた彼は、それまでに己おのれの絶対に尊信する方士どもに幾度か欺あざむかれていた。漢の勢威の絶頂に当たって五十余年の間君臨したこの大皇帝は、
その中年以後ずっと、霊魂の世界への不安な関心に執拗しつようにつきまとわれていた。
それだけに、その方面での失望は彼にとって大きな打撃となった。こうした打撃は、
生来闊達かったつだった彼の心に、年とともに群臣への暗い猜疑さいぎを植えつけていった。李蔡りさい・青霍せいかく・趙周ちょうしゅうと、丞相じょうしょうたる者は相ついで死罪に行なわれた。
現在の丞相たる公孫賀こうそんがのごとき、命を拝したときに己おのが運命を恐れて帝の前で手離しで泣出したほどである。硬骨漢こうこつかん汲黯きゅうあんが退いた後は、帝を取巻くものは、
佞臣ねいしんにあらずんば酷吏こくりであった。
0290名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:06:38.05
>>286
>>292翌、天漢てんかん三年の春になって、李陵りりょうは戦死したのではない。
捕えられて虜ろに降ったのだという確報が届いた。武帝ははじめて嚇怒かくどした。
即位後四十余年。
帝はすでに六十に近かったが、気象の烈はげしさは壮時に超えている。
神仙しんせんの説を好み方士巫覡ほうしふげきの類を信じた彼は、それまでに己おのれの絶対に尊信する方士どもに幾度か欺あざむかれていた。漢の勢威の絶頂に当たって五十余年の間君臨したこの大皇帝は、
その中年以後ずっと、霊魂の世界への不安な関心に執拗しつようにつきまとわれていた。
それだけに、その方面での失望は彼にとって大きな打撃となった。こうした打撃は、
生来闊達かったつだった彼の心に、年とともに群臣への暗い猜疑さいぎを植えつけていった。李蔡りさい・青霍せいかく・趙周ちょうしゅうと、丞相じょうしょうたる者は相ついで死罪に行なわれた。
現在の丞相たる公孫賀こうそんがのごとき、命を拝したときに己おのが運命を恐れて帝の前で手離しで泣出したほどである。硬骨漢こうこつかん汲黯きゅうあんが退いた後は、帝を取巻くものは、
佞臣ねいしんにあらずんば酷吏こくりであった。
>>289
>>300
0293名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:08:12.00
>>292
>>295
賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。
「予よせば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、
これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき、遷は俯首流涕ふしゅりゅうていしてその命に背そむかざるべきを誓ったのである。
 父が死んでから二年ののち、はたして、司馬遷しばせんは太史令たいしれいの職を継いだ。
父の蒐集しゅうしゅうした資料と、宮廷所蔵の秘冊とを用いて、すぐにも父子相伝ふしそうでんの天職にとりかかりたかったのだが、任官後の彼にまず課せられたのは暦の改正という事業であった。
この仕事に没頭することちょうど満四年。太初たいしょ元年にようやくこれを仕上げると、すぐに彼は史記しきの編纂へんさんに着手した。
遷、ときに年四十二。
 腹案はとうにでき上がっていた。その腹案による史書の形式は従来の史書のどれにも似ていなかった。彼は道義的批判の規準を示すものとしては春秋しゅんじゅうを推したが、事実を伝える史書としてはなんとしてもあきたらなかった。
もっと事実が欲しい。教訓よりも事実が。
左伝さでんや国語こくごになると、なるほど事実はある。
左伝の叙事の巧妙さに至っては感嘆のほかはない。
しかし、その事実を作り上げる一人一人の人についての探求がない。
事件の中における彼らの姿の描出は鮮あざやかであっても、そうしたことをしでかすまでに至る彼ら一人一人の身許みもと調べの欠けているのが、司馬遷しばせんには不服だった
0294名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:08:43.50
>>299
>>297
賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。
「予よせば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、
これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき、遷は俯首流涕ふしゅりゅうていしてその命に背そむかざるべきを誓ったのである。
 父が死んでから二年ののち、はたして、司馬遷しばせんは太史令たいしれいの職を継いだ。
父の蒐集しゅうしゅうした資料と、宮廷所蔵の秘冊とを用いて、すぐにも父子相伝ふしそうでんの天職にとりかかりたかったのだが、任官後の彼にまず課せられたのは暦の改正という事業であった。
この仕事に没頭することちょうど満四年。太初たいしょ元年にようやくこれを仕上げると、すぐに彼は史記しきの編纂へんさんに着手した。
遷、ときに年四十二。
 腹案はとうにでき上がっていた。その腹案による史書の形式は従来の史書のどれにも似ていなかった。彼は道義的批判の規準を示すものとしては春秋しゅんじゅうを推したが、事実を伝える史書としてはなんとしてもあきたらなかった。
もっと事実が欲しい。教訓よりも事実が。
左伝さでんや国語こくごになると、なるほど事実はある。
左伝の叙事の巧妙さに至っては感嘆のほかはない。
しかし、その事実を作り上げる一人一人の人についての探求がない。
事件の中における彼らの姿の描出は鮮あざやかであっても、そうしたことをしでかすまでに至る彼ら一人一人の身許みもと調べの欠けているのが、司馬遷しばせんには不服だった
>>291
0302名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:10:37.78
>>301
>>307
これでいいのか? と司馬遷は疑う。こんな熱に浮かされたような書きっぷりでいいものだろうか? 
彼は「作ル」ことを極度に警戒した。自分の仕事は「述ベル」ことに尽きる。
事実、彼は述べただけであった。しかしなんと生気溌剌はつらつたる述べ方であったか? 異常な想像的視覚を有もった者でなければとうてい不能な記述であった。
彼は、ときに「作ル」ことを恐れるのあまり、すでに書いた部分を読返してみて、それあるがために史上の人物が現実の人物のごとくに躍動すると思われる字句を削る。すると確かにその人物はハツラツたる呼吸を止やめる。これで、「作ル」ことになる心配はないわけである。
しかし、(と司馬遷が思うに)これでは項羽こううが項羽でなくなるではないか。項羽も始皇帝しこうていも楚その荘王そうおうもみな同じ人間になってしまう。違った人間を同じ人間として記述することが、何が「述べる」だ? 
「述べる」とは、違った人間は違った人間として述べることではないか。そう考えてくると、やはり彼は削った字句をふたたび生かさないわけにはいかない。元どおりに直して、さて一読してみて、彼はやっと落ちつく。いや、彼ばかりではない。
そこにかかれた史上の人物が、項羽や樊※(「口+會」、第3水準1-15-25)はんかいや范増はんぞうが、みんなようやく安心してそれぞれの場所に落ちつくように思われる。
 調子のよいときの武帝ぶていは誠まことに高邁闊達こうまいかったつな・理解ある文教の保護者だったし、太史令たいしれいという職が地味な特殊な技能を要するものだったために、官界につきものの朋党比周ほうとうひしゅうの擠陥讒誣せいかんざんぶによる地位(あるいは生命)の不安定からも免れることができた。
>>296
0303名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:11:00.61
>>301
>>304
並いる群臣は驚いた。こんなことのいえる男が世にいようとは考えなかったからである。彼らはこめかみを顫ふるわせた武帝の顔を恐る恐る見上げた。それから、自分らをあえて全躯保妻子くをまっとうしさいしをたもつの臣と呼んだこの男を待つものが何であるかを考えて、ニヤリとするのである。
 向こう見ずなその男――太史令たいしれい・司馬遷しばせんが君前を退くと、すぐに、「全躯保妻子くをまっとうしさいしをたもつの臣」の一人が、遷せんと李陵りりょうとの親しい関係について武帝の耳に入れた。太史令は故ゆえあって弐師じし将軍と隙げきあり、遷が陵を褒ほめるのは、それによって、今度、陵に先立って出塞しゅっさいして功のなかった弐師将軍を陥おとしいれんがためであると言う者も出てきた。ともかくも、たかが星暦卜祀せいれきぼくしを司つかさどるにすぎぬ太史令の身として、あまりにも不遜ふそんな態度だというのが、一同の一致した意見である。おかしなことに、李陵の家族よりも司馬遷のほうが先に罪せられることになった。翌日、彼は廷尉ていいに下された。刑は宮きゅうと決まった。
 支那しなで昔から行なわれた肉刑にくけいの主おもなるものとして、黥けい、※(「鼻+りっとう」、第3水準1-14-65)ぎ(はなきる)、※(「非+りっとう」、第4水準2-3-25)ひ(あしきる)、宮きゅう、の四つがある。武帝の祖父・文帝ぶんていのとき、この四つのうち三つまでは廃せられたが、宮刑きゅうけいのみはそのまま残された。宮刑とはもちろん、男を男でなくする奇怪な刑罰である。これを一に腐刑ふけいともいうのは、その創きずが腐臭を放つがゆえだともいい、あるいは、腐木ふぼくの実を生ぜざるがごとき男と成り果てるからだともいう。この刑を受けた者を閹人えんじんと称し、宮廷の宦官かんがんの大部分がこれであったことは言うまでもない
0307名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:11:42.74
>>298
>>312
早い月はすでに落ちた。胡虜こりょの不意を衝ついて、ともかくも全軍の三分の二は予定どおり峡谷の裏口を突破した。
しかしすぐに敵の騎馬兵の追撃に遭あった。
徒歩の兵は大部分討たれあるいは捕えられたようだったが、混戦に乗じて敵の馬を奪った数
十人は、その胡馬こばに鞭むちうって南方へ走った。
敵の追撃をふり切って夜目にもぼっと白い平沙へいさの上を、のがれ去った部下の数を数えて、確かに百に余ることを確かめうると、李陵りりょうはまた峡谷の入口の修羅場しゅらばにとって返した。身には数創を帯び、自
みずからの血と返り血とで、戎衣じゅういは重く濡ぬれていた。彼と並んでいた韓延年かんえんねんはすでに討たれて戦死していた。麾下きかを失い全軍を失って、
もはや天子に見まみゆべき面目はない。彼は戟ほこを取直すと、ふたたび乱軍の中に駈入かけいった。暗い中で敵味方も分らぬほどの乱闘のうちに、李陵の馬が流矢ながれやに当たったとみえてガックリ前にのめった
0309名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:12:19.65
>>306
>>309
その晩、漢の軍侯ぐんこう、管敢かんかんという者が陣を脱して匈奴の軍に亡にげ降くだった。
かつて長安ちょうあん都下の悪少年だった男だが、前夜斥候せっこう上の手抜かりについて校尉こうい・
成安侯せいあんこう韓延年かんえんねんのために衆人の前で面罵めんばされ、笞むち打たれた。それを含んでこの挙に出たのである。先日渓間たにまで斬ざんに遭った女どもの一人が彼の妻だったとも言う。管敢は匈奴の捕虜の自供した言葉を知っていた。それゆえ、
胡陣こじんに亡にげて単于ぜんうの前に引出されるや、伏兵を懼おそれて引上げる必要のないことを力説した。言う、漢軍には後援がない。矢もほとんど尽きようとしている。
負傷者も続出して行軍は難渋なんじゅうを極めている。漢軍の中心をなすものは、李り将軍および成安侯韓延年の率いる各八百人だが、それぞれ黄と白との幟しをもって印としているゆえ、明日胡騎こきの精鋭をしてそこに攻撃を集中せしめてこれを破ったなら、他は容
0314名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:13:34.03
>>304
>>310
痛憤と煩悶はんもんとの数日のうちには、ときに、学者としての彼の習慣からくる思索が――反省が来た。いったい、今度の出来事の中で、何が――誰が――誰のどういうところが、悪かったのだという考えである。
日本の君臣道とは根柢こんていから異なった彼かの国のこととて、当然、彼はまず、武帝を怨うらんだ。一時はその怨懣えんまんだけで、いっさい他を顧みる余裕はなかったというのが実際であった。
しかし、しばらくの狂乱の時期の過ぎたあとには、歴史家としての彼が、目覚めてきた。
儒者じゅしゃと違って、先王の価値にも歴史家的な割引をすることを知っていた彼は、後王たる武帝の評価の上にも、私怨しえんのために狂いを来たさせることはなかった。
なんといっても武帝は大君主である。
そのあらゆる欠点にもかかわらず、この君がある限り、
漢の天下は微動だもしない。高祖はしばらく措おくとするも、仁君じんくん文帝ぶんていも名君景帝けいていも、この君に比べれば、やはり小さい。ただ大きいものは、その欠点までが大きく写ってくるのは、これはやむを得ない。
司馬遷しばせんは極度の憤怨ふんえんのうちにあってもこのことを忘れてはいない。
今度のことは要するに天の作なせる疾風暴雨霹靂へきれきに見舞われたものと思うほかはないという考えが、彼をいっそう絶望的な憤いきどおりへと駆かったが、
また一方、逆に諦観ていかんへも向かわせようとする。怨恨えんこんが長く君主に向かい得ないとなると、勢い、君側の姦臣かんしんに向けられる。彼らが悪い。
たしかにそうだ。しかし、この悪さは、すこぶる副次的な悪さである。
0318名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:14:03.47
>>315
>>318
次の日からまた、もとの竜城りゅうじょうの道に循したがって、南方への退行が始まる。匈奴きょうどはまたしても、元の遠巻き戦術に還かえった。五日め、漢軍は、平沙へいさの中にときに見出みいだされる沼沢地しょうたくちの一つに踏入った。水は半ば凍り、泥濘でいねいも脛はぎを没する深さで、行けども行けども果てしない枯葦原かれあしはらが続く。風上かざかみに廻まわった匈奴の一隊が火を放った。朔風さくふうは焔ほのおを煽あおり、真昼の空の下に白っぽく輝きを失った火は、すさまじい速さで漢軍に迫る。李陵はすぐに附近の葦あしに迎え火を放たしめて、かろうじてこれを防いだ。火は防いだが、沮洳地そじょちの車行の困難は言語に絶した。休息の地のないままに一夜泥濘でいねいの中を歩き通したのち、翌朝ようやく丘陵地に辿たどりついたとたんに、先廻さきまわりして待伏せていた敵の主力の襲撃
>>320
0320名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:14:39.65
>>316
>>317
司馬氏は元もと周しゅうの史官であった。後、晋しんに入り、秦しんに仕え、漢かんの代となってから四代目の司馬談しばたんが武帝に仕えて建元けんげん年間に太史令たいしれいをつとめた。この談が遷の父である。専門たる律りつ・暦れき・易えきのほかに道家どうかの教えに精くわしくまた博ひろく儒じゅ、墨ぼく、法ほう、名めい、諸家しょかの説にも通じていたが、それらをすべて一家の見けんをもって綜すべて自己のものとしていた。己おのれの頭脳や精神力についての自信の強さはそっくりそのまま息子むすこの遷に受嗣うけつがれたところのものである。彼が、息子に施した最大の教育は、諸学の伝授を終えてのちに、海内かいだいの大旅行をさせたことであった。当時としては変わった教育法であったが、これが後年の歴史家司馬遷に資するところのすこぶる大であったことは、いうまでもない。
 元封げんぽう元年に武帝が東、泰山たいざんに登って天を祭ったとき、たまたま周南しゅうなんで病床にあった熱血漢ねっけつかん司馬談しばたんは、天子始めて漢家の封ほうを建つるめでたきときに、己おのれ一人従ってゆくことのできぬのを慨なげき、憤を発してそのために死んだ。古今を一貫せる通史つうしの編述こそは彼の一生の念願だったのだが、単に材料の蒐集しゅうしゅうのみで終わってしまったのである。その臨終りんじゅうの光景は息子・遷せんの筆によって詳しく史記しきの最後の章に描かれている。それによると司馬談は己のまた起たちがたきを知るや遷を呼びその手を執とって、懇ねんごろに修史しゅうしの必要を説き、己おのれ太史たいしとなりながらこのことに着手せず、賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき
>>320
0322名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:15:09.42
その晩、漢の軍侯ぐんこう、管敢かんかんという者が陣を脱して匈奴の軍に亡にげ降くだった。
かつて長安ちょうあん都下の悪少年だった男だが、前夜斥候せっこう上の手抜かりについて校尉こうい・成安侯せいあんこう韓延年かんえんねんのために衆人の前で面罵めんばされ、笞むち打たれた。それを含んでこの挙に出たのである。先日渓間たにまで斬ざんに遭った女どもの一人が彼の妻だったとも言う。
管敢は匈奴の捕虜の自供した言葉を知っていた。
それゆえ、胡陣こじんに亡にげて単于ぜんうの前に引出されるや、伏兵を懼おそれて引上げる必要のないことを力説した。言う、漢軍には後援がない。矢もほとんど尽きようとしている。負傷者も続出して行軍は難渋なんじゅうを極めている。
漢軍の中心をなすものは、李り将軍および成安侯韓延年の率いる各八百人だが、それぞれ黄と白との幟しをもって印としているゆえ、明日胡騎こきの精鋭をしてそこに攻撃を集中せしめてこれを破ったなら、他は容
0328名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:16:42.56
>>321
>>324
司馬遷は最後に忿懣ふんまんの持って行きどころを自分に求めようとする。実際、何ものかに対して腹を立てなければならぬとすれば、結局それは自分自身に対してのほかはなかったのである。だが、自分のどこが悪かったのか? 
李陵りりょうのために弁じたこと、これはいかに考えてみてもまちがっていたとは思えない。方法的にも格別拙まずかったとは考えぬ。
阿諛あゆに堕だするに甘んじないかぎり、あれはあれでどうしようもない。それでは、
自ら顧みてやましくなければ、そのやましくない行為が、どのような結果を来たそうとも、士たる者はそれを甘受かんじゅしなければならないはずだ。なるほどそれは一応そうに違いない。
だから自分も肢解しかいされようと腰斬ようざんにあおうと、そういうものなら甘んじて受けるつもりなのだ。しかし、
この宮刑きゅうけいは――その結果かく成り果てたわが身の有様というものは、――これはまた別だ。同じ不具でも足を切られたり鼻を切られたりするのとは全然違った種類のものだ。士たる者の加えられるべき刑ではない。こればかりは、
身体のこういう状態というものは、どういう角度から見ても、完全な悪だ。飾言しょくげんの余地はない。そうして、心の傷だけならば時とともに癒いえることもあろうが、己おのが身体のこの醜悪な現実は死に至るまでつづくのだ。
動機がどうあろうと、このような結果を招くものは、結局「悪かった」といわなければならぬ。しかし、どこが悪かった? 己おのれのどこが? どこも悪くなかった。己は正しいことしかしなかった。強しいていえば、ただ、「我あり」という事実だけが悪かったのである。
>>330
>>331
0331名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:17:30.19
>>325
>>327
暫くして、庄兵衞はこらへ切れなくなつて呼び掛けた。「喜助。お前何を思つてゐるのか。」
「はい」と云つてあたりを見廻した喜助は、何事をかお役人に見咎められたのではないかと氣遣ふらしく、居ずまひを直して庄兵衞の氣色を伺つた。
 庄兵衞は自分が突然問を發した動機を明して、役目を離れた應對を求める分疏いひわけをしなくてはならぬやうに感じた。そこでかう云つた。「いや。別にわけがあつて聞いたのではない。實はな、己は先刻からお前の島へ往く心持が聞いて見たかつたのだ。己はこれまで此舟で大勢の人を島へ送つた。それは隨分いろいろな身の上の人だつたが、どれもどれも島へ往くのを悲しがつて、見送りに來て、一しよに舟に乘る親類のものと、夜どほし泣くに極まつてゐた。それにお前の樣子を見れば、どうも島へ往くのを苦にしてはゐないやうだ。一體お前はどう思つてゐるのだい。」
次の日からまた、もとの竜城りゅうじょうの道に循したがって、南方への退行が始まる。匈奴きょうどはまたしても、元の遠巻き戦術に還かえった。五日め、漢軍は、平沙へいさの中にときに見出みいだされる沼沢地しょうたくちの一つに踏入った。水は半ば凍り、泥濘でいねいも脛はぎを没する深さで、行けども行けども果てしない枯葦原かれあしはらが続く。風上かざかみに廻まわった匈奴の一隊が火を放った。
>>333
>>335
0333名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:18:11.54
>>329
>>338
騎兵を主力とする匈奴に向かって、一隊の騎馬兵をも連れずに歩兵ばかり(馬に跨またがる者は、陵とその幕僚ばくりょう数人にすぎなかった、)
で奥地深く侵入することからして、無謀の極きわみというほかはない。
その歩兵も僅わずか五千、絶えて後援はなく、しかもこの浚稽山しゅんけいざんは、最も近い漢塞かんさいの居延きょえんからでも優に一千五百里(支那里程)は離れている。統率者李陵への絶対的な信頼と心服とがなかったならとうてい続けられるような行軍ではなかった。
 毎年秋風が立ちはじめると決きまって漢の北辺には、胡馬こばに鞭むちうった剽悍ひょうかんな侵略者の大部隊が現われる。
辺吏がされ、人民が掠かすめられ、家畜が奪略される。
五原ごげん・朔方さくほう・雲中うんちゅう・上谷じょうこく・雁門がんもんなどが、その例年の被害地である。大将軍衛青えいせい・嫖騎ひょうき
>>342
>>346
0336名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:19:43.61
>>336
今なお耳底じていにある。しかし、今疾痛しっつう惨怛さんたんを極きわめた彼の心の中に在あってなお修史の仕事を思い絶たしめないものは、その父の言葉ばかりではなかった。
それは何よりも、その仕事そのものであった。
仕事の魅力とか仕事への情熱とかいう怡たのしい態ていのものではない。修史という使命の自覚には違いないとしてもさらに昂然こうぜんとして自らを恃じする自覚ではない。恐ろしく我がの強い男だったが、今度のことで、
己おのれのいかにとるに足らぬものだったかをしみじみと考えさせられた。理想の抱負のと威張いばってみたところで、
所詮しょせん己は牛にふみつぶされる道傍みちばたの虫けらのごときものにすぎなかったのだ。
「我」はみじめに踏みつぶされたが、修史という仕事の意義は疑えなかった。このような浅ましい身と成り果て、自信も自恃じじも失いつくしたのち、それでもなお世にながらえてこの仕事に従うということは、
どう考えても怡たのしいわけはなかった。それはほとんど、いかにいとわしくとも最後までその関係を絶つことの許されない人間同士のような宿命的な因縁いんねんに近いものと、
彼自身には感じられた。とにかくこの仕事のために自分は自らを殺すことができぬのだ(それも義務感からではなく、もっと肉体的な、この仕事との繋つながりによってである)ということだけはハッキリしてきた。
>>344
0337名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:20:15.01
痛憤と煩悶はんもんとの数日のうちには、ときに、学者としての彼の習慣からくる思索が――反省が来た。いったい、今度の出来事の中で、何が――誰が――誰のどういうところが、悪かったのだという考えである。日本の君臣道とは根柢こんていから異なった彼かの国のこととて、
当然、彼はまず、武帝を怨うらんだ。一時はその怨懣えんまんだけで、いっさい他を顧みる余裕はなかったというのが実際であった。しかし、しばらくの狂乱の時期の過ぎたあとには、歴史家としての彼が、目覚めてきた。儒者じゅしゃと違って、先王の価値にも歴史家的な割引をすることを知っていた彼は、後王たる武帝の評価の上にも、私怨しえんのために狂いを来たさせることはなかった。なんといっても武帝は大君主である。そのあらゆる欠点にもかかわらず、この君がある限り、漢の天下は微動だ
もしない。高祖はしばらく措おくとするも、仁君じんくん文帝ぶんていも名君景帝けいていも、この君に比べれば、やはり小さい。ただ大きいものは、その欠点までが大きく写ってくるのは、これはやむを得ない。司馬遷しばせんは極度の憤怨ふんえんのうちにあってもこのことを忘れてはいない。今度のことは要するに天の作なせる疾風暴雨霹靂へ
きれきに見舞われたものと思うほかはないという考えが、彼をいっそう絶望的な憤いきどおりへと駆かったが、また一方、逆に諦観ていかんへも向かわせようとする。怨恨えんこんが長く君主に向かい得ないとなると、勢い、君側の姦臣かんしんに向けられる。彼らが悪い。たしかにそうだ。しかし、この悪さは、すこぶる副次的な悪さである。
0341名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:21:37.82
>>500
>>402
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのち、ようやく、生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを、彼は発見した。
しかし、そのころになってもまだ、彼の完全な沈黙は破られなかったし、風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない。
稿をつづけていくうちに、宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると、彼は覚えず呻うめき声を発した。独り居室にいるときでも、夜、牀上しょうじょうに横になったときでも、ふとこの屈辱の思いが萌きざしてくると、たちまちカーッと、
焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる。彼は思わず飛上り、奇声を発し、呻きつつ四辺あたりを歩きまわり、さてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき、咄嗟とっさに彼は心を決めた。
自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるか、
それとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する――敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとして――か、この二つのほかに途みちはないのだが、
李陵は、後者を選ぶことに心を決めたのである。
0342名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:21:38.54
きしひらでどっちが早く送るか遊んでたなら岸くん罰ゲームだけど普通に考えたら6番目ってまあまあ早いw
0343名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:22:13.57
>>342
これでいいのか? と司馬遷は疑う。こんな熱に浮かされたような書きっぷりでいいものだろうか? 彼は「作ル」ことを極度に警戒した。自分の仕事は「述ベル」ことに尽きる。事実、彼は述べただけであった。
しかしなんと生気溌剌はつらつたる述べ方であったか? 異常な想像的視覚を有もった者でなければとうてい不能な記述であった。彼は、ときに「作ル」ことを恐れるのあまり、すでに書いた部分を読返してみて、
それあるがために史上の人物が現実の人物のごとくに躍動すると思われる字句を削る。すると確かにその人物はハツラツたる呼吸を止やめる。これで、「作ル」ことになる心配はないわけである。しかし、(と司馬遷が思うに)これでは項羽こううが項羽でなくなるではないか。項羽も始皇帝しこうていも楚その荘王そうおうもみな同じ人間になってしまう。違った人間を同じ人間として記述することが、何が「述べる」だ? 「述べる」とは、違った人間は違った人間として述べることではないか。
そう考えてくると、やはり彼は削った字句をふたたび生かさないわけにはいかない。元どおりに直して、さて一読してみて、彼はやっと落ちつく。いや、彼ばかりではない。そこにかかれた史上の人物が、項羽や樊※(「口+會」、第3水準1-15-25)はんかいや范増はんぞうが、みんなようやく安心してそれぞれの場所に落ちつくように思われる。
 調子のよいときの武帝ぶていは誠まことに高邁闊達こうまいかったつな・理解ある文教の保護者だったし、太史令たいしれいという職が地味な特殊な技能を要するものだったために、官界につきものの朋党比周ほうとうひしゅうの擠陥讒誣せいかんざんぶによる地位(あるいは生命)の不安定からも免れることができた。
0346名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:23:05.90
>>600
>>610
単于ぜんうは手ずから李陵の縄なわを解いた。その後の待遇も鄭重ていちょうを極めた。且※(「革+是」、第3水準1-93-79)侯そていこう単于とて先代の※(「口+句」、第3水準1-14-90)
犁湖くりこ単于の弟だが、骨骼こっかくの逞たくましい巨眼きょがん赭髯しゃぜんの中年の偉丈夫いじょうふである。
数代の単于に従って漢かんと戦ってはきたが、まだ李陵ほどの手強てごわい敵に遭あったことはないと正直に語り、
陵の祖父李広りこうの名を引合いに出して陵の善戦を讃ほめた。虎とらを格殺かくさつしたり岩に矢を立てたりした飛将軍ひしょうぐん李広の驍名ぎょうめいは今もなお胡地こちにまで語り伝えられている。
陵が厚遇を受けるのは、彼が強き者の子孫でありまた彼自身も強かったからである。
食を頒わけるときも強壮者が美味をとり老弱者に余り物を与えるのが匈奴きょうどのふうであった。ここでは、強き者が辱はずかしめられることはけっしてない。降将李陵は一つの穹盧きゅうろと数十人の侍者じしゃとを与えられ賓客ひんきゃくの礼をもって遇ぐうせられた。
 李陵にとって奇異な生活が始まった。家は絨帳じゅうちょう穹盧きゅうろ、食物は羶肉せんにく、飲物は酪漿らくしょうと獣乳と乳醋酒にゅうさくしゅ。
着物は狼おおかみや羊や熊くまの皮を綴つづり合わせた旃裘せんきゅう。牧畜と狩猟と寇掠こうりゃくと、このほかに彼らの生活はない。
一望際涯いちぼうさいがいのない高原にも、しかし、河や湖や山々による境界があって、単于ぜんう直轄地ちょっかつちのほかは左賢王さけんおう右賢王
0349名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:23:34.99
>>345
痛憤と煩悶はんもんとの数日のうちには、ときに、学者としての彼の習慣からくる思索が――反省が来た。いったい、今度の出来事の中で、何が――誰が――誰のどういうところが、悪かったのだという考えである。日本の君臣道とは根柢こんていから異なった彼かの国のこととて、
当然、彼はまず、武帝を怨うらんだ。一時はその怨懣えんまんだけで、いっさい他を顧みる余裕はなかったというのが実際であった。しかし、しばらくの狂乱の時期の過ぎたあとには、歴史家としての彼が、目覚めてきた。儒者じゅしゃと違って、先王の価値にも歴史家的な割引をすることを知っていた彼は、後王たる武帝の評価の上にも、私怨しえんのために狂いを来たさせることはなかった。なんといっても武帝は大君主である。
そのあらゆる欠点にもかかわらず、この君がある限り、漢の天下は微動だもしない。高祖はしばらく措おくとするも、仁君じんくん文帝ぶんていも名君景帝けいていも、この君に比べれば、やはり小さい。ただ大きいものは、その欠点までが大きく写ってくるのは、これはやむを得ない。司馬遷しばせんは極度の憤怨ふんえんのうちにあってもこのことを忘れてはいない。今度のことは要するに天の作なせる疾風暴雨霹靂へきれきに見舞われたものと思うほかはないという考えが、彼をいっそう絶望的な憤いきどおりへと駆かったが、
また一方、逆に諦観ていかんへも向かわせようとする。怨恨えんこんが長く君主に向かい得ないとなると、勢い、君側の姦臣かんしんに向けられる。彼らが悪い。たしかにそうだ。しかし、この悪さは、すこぶる副次的な悪さである。
0351名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:24:19.47
>>348
>>358
煩悶はんもんとの数日のうちには、ときに、学者としての彼の習慣からくる思索が――反省が来た。
いったい、今度の出来事の中で、何が――誰が――誰のどういうところが、悪かったのだという考えである。日本の君臣道とは根柢こんていから異なった彼かの国のこととて、当然、彼はまず、武帝を怨うらんだ。一時はその怨懣えんまんだけで、いっさい他を顧みる余裕はなかったというのが実際であった。
しかし、しばらくの狂乱の時期の過ぎたあとには、歴史家としての彼が、目覚めてきた。儒者じゅしゃと違って、先王の価値にも歴史家的な割引をすることを知っていた彼は、後王たる武帝の評価の上にも、私怨しえんのために狂いを来たさせることはなかった。なんといっても武帝は大君主である。そのあらゆる欠点にもかかわらず、この君がある限り、漢の天下は微動だもしない。高祖はしばらく措おくとするも、仁君じんくん文帝ぶんていも名君景帝けいていも、この君に比べれば、やはり小さい。
ただ大きいものは、その欠点までが大きく写ってくるのは、これはやむを得ない。司馬遷しばせんは極度の憤怨ふんえんのうちにあってもこのことを忘れてはいない。今度のことは要するに天の作なせる疾風暴雨霹靂へきれきに見舞われたものと思うほかはないという考えが、
彼をいっそう絶望的な憤いきどおりへと駆かったが、また一方、逆に諦観ていかんへも向かわせようとする。怨恨えんこんが長く君主に向かい得ないとなると、勢い、君側の姦臣かんしんに向けられる。彼らが悪い。たしかにそうだ。しかし、この悪さは、すこぶる副次的な悪さである。
0352名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:24:39.48
次の日からまた、もとの竜城りゅうじょうの道に循したがって、南方への退行が始まる。
匈奴きょうどはまたしても、元の遠巻き戦術に還かえった。五日め、漢軍は、平沙へいさの中にときに見出みいだされる沼沢地しょうたくちの一つに踏入った。水は半ば凍り、泥濘でいねいも脛はぎを没する深さで、
行けども行けども果てしない枯葦原かれあしはらが続く。風上かざかみに廻まわった匈奴の一隊が火を放った。朔風さくふうは焔ほのおを煽あおり、真昼の空の下に白っぽく輝きを失った火は、すさまじい速さで漢軍に迫る。李陵はすぐに附近の葦あしに迎え火を放たしめて、
かろうじてこれを防いだ。火は防いだが、沮洳地そじょちの車行の困難は言語に絶した。休息の地のないままに一夜泥濘でいねいの中を歩き通したのち、翌朝ようやく丘陵地に辿たどりついたとたんに、先廻さきまわりして待伏せていた敵の主力の襲撃
0355名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:25:17.46
>>353
司馬遷は最後に忿懣ふんまんの持って行きどころを自分に求めようとする。実際、何ものかに対して腹を立てなければならぬとすれば、結局それは自分自身に対してのほかはなかったのである。だが、自分のどこが悪かったのか? 
李陵りりょうのために弁じたこと、これはいかに考えてみてもまちがっていたとは思えない。方法的にも格別拙まずかったとは考えぬ。阿諛あゆに堕だするに甘んじないかぎり、あれはあれでどうしようもない。それでは、自ら顧みてやましくなければ、そのやましくない行為が、どのような結果を来たそうとも、士たる者はそれを甘受かんじゅしなければならないはずだ。なるほどそれは一応そうに違いない。だから自分も肢解しかいされようと腰斬ようざんにあおうと、そういうものなら甘んじて受けるつもりなのだ。しかし、
この宮刑きゅうけいは――その結果かく成り果てたわが身の有様というものは、――これはまた別だ。同じ不具でも足を切られたり鼻を切られたりするのとは全然違った種類のものだ。士たる者の加えられるべき刑ではない
こればかりは、身体のこういう状態というものは、どういう角度から見ても、完全な悪だ。飾言しょくげんの余地はない。そうして、心の傷だけならば時とともに癒いえることもあろうが、己おのが身体のこの醜悪な現実は死に至るまでつづくのだ。動機がどうあろうと、このような結果を招くものは、結局「悪かった」といわなければならぬ。しかし、どこが悪かった? 己おのれのどこが? どこも悪くなかった。己は正しいことしかしなかった。強しいていえば、ただ、「我あり」という事実だけが悪かったのである。
0357名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:26:07.94
>>354
>>360
一度単于は李陵を呼んで軍略上の示教を乞こうたことがある。それは東胡とうこに対しての戦いだったので、陵は快く己おのが意見を述べた。
次に単于が同じような相談を持ちかけたとき、それは漢軍に対する策戦についてであった。李陵はハッキリと嫌いやな表情をしたまま口を開こうとしなかった。
単于も強しいて返答を求めようとしなかった。それからだいぶ久しくたったころ、代・上郡を寇掠こうりゃくする軍隊の一将として南行することを求められた。このときは、漢に対する戦いには出られない旨を言ってキッパリ断わった。爾後じご、単于は陵にふたたびこうした要求をしなくなった。待遇は依然として変わらない。他に利用する目的はなく、ただ士を遇するために士を遇しているのだとしか思われない。とにかくこの単于は男だと李陵は感じた。
 単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。
初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした
0358名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:26:44.14
>>356
>>377
今なお耳底じていにある。しかし、今疾痛しっつう惨怛さんたんを極きわめた彼の心の中に在あってなお修史の仕事を思い絶たしめないものは、その父の言葉ばかりではなかった。
それは何よりも、その仕事そのものであった。仕事の魅力とか仕事への情熱とかいう怡たのしい態ていのものではない。
修史という使命の自覚には違いないとしてもさらに昂然こうぜんとして自らを恃じする自覚ではない。恐ろしく我がの強い男だったが、
今度のことで、己おのれのいかにとるに足らぬものだったかをしみじみと考えさせられた。理想の抱負のと威張いばってみたところで、所詮しょせん己は牛にふみつぶされる道傍みちばたの虫けらのごときものにすぎなかったのだ。「我」はみじめに踏みつぶされたが、修史という仕事の意義は疑えなかった。このような浅ましい身と成り果て、自信も自恃じじも失いつくしたのち、それでもなお世にながらえてこの仕事に従うということは、
どう考えても怡たのしいわけはなかった。
それはほとんど、いかにいとわしくとも最後までその関係を絶つことの許されない人間同士のような宿命的な因縁いんねんに近いものと、彼自身には感じられた。とにかくこの仕事のために自分は自らを殺すことができぬのだ(それも義務感からではなく、もっと肉体的な、この仕事との繋つながりによってである)ということだけはハッキリしてきた。
0360名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:27:08.88
>>359
>>364
痛憤と煩悶はんもんとの数日のうちには、ときに、学者としての彼の習慣からくる思索が――反省が来た。いったい、今度の出来事の中で、何が――誰が――誰のどういうところが、悪かったのだという考えである。日本の君臣道とは根柢こんていから異なった彼かの国のこととて、当然、彼はまず、武帝を怨うらんだ。
一時はその怨懣えんまんだけで、いっさい他を顧みる余裕はなかったというのが実際であった。しかし、しばらくの狂乱の時期の過ぎたあとには、歴史家としての彼が、目覚めてきた。儒者じゅしゃと違って、先王の価値にも歴史家的な割引をすることを知っていた彼は、後王たる武帝の評価の上にも、私怨しえんのために狂いを来たさせることはなかった。なんといっても武帝は大君主である。そのあらゆる欠点にもかかわらず、この君がある限り、漢の天下は微動だもしない。高祖はしばらく措おくとするも、仁君じんくん文帝ぶんていも名君景帝けいていも、この君に比べれば、やはり小さい。ただ大きいものは、その欠点までが大きく写ってくるのは、これはやむを得ない。司馬遷しばせんは極度の憤怨ふんえんのうちにあってもこのことを忘れてはいない。
今度のことは要するに天の作なせる疾風暴雨霹靂へきれきに見舞われたものと思うほかはないという考えが、彼をいっそう絶望的な憤いきどおりへと駆かったが、また一方、逆に諦観ていかんへも向かわせようとする。怨恨えんこんが長く君主に向かい得ないとなると、勢い、君側の姦臣かんしんに向けられる。彼らが悪い。たしかにそうだ。しかし、この悪さは、すこぶる副次的な悪さである。
0361名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:27:37.44
毎年秋風が立ちはじめると決きまって漢の北辺には、胡馬こばに鞭むちうった剽悍ひょうかんな侵略者の大部隊が現われる。
辺吏が殺され、人民が掠かすめられ、
家畜が奪略される。五原ごげん・朔方さくほう・雲中うんちゅう・上谷じょうこく・雁門がんもんなどが、その例年の被害地である。大将軍衛青えいせい・嫖騎ひょうき将軍霍去病かくきょへいの武略によって一時漠南ばくなんに王庭なしといわれた元狩げんしゅ以後元鼎げんていへかけての数年を除いては、ここ三十年来欠かすことなくこうした北辺の災いがつづいていた。霍去病かくきょへいが死んでから十八年、衛青えいせいが歿ぼっしてから七年。
※(「さんずい+足」、第4水準2-78-51)野侯さくやこう趙破奴ちょうはどは全軍を率いて虜ろに降くだり、光禄勲こうろくくん徐自為じょじいの朔北さくほくに築いた城障もたちまち破壊される。
全軍の信頼を繋つなぐに足る将帥しょうすいとしては、わずかに先年大宛だいえんを遠征して武名を挙あげた弐師じし将軍李広利りこうりがあるにすぎない。
 その年
0366名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:28:30.51
>>362
>>363
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのち、ようやく、生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを、
彼は発見した。しかし、そのころになってもまだ、彼の完全な沈黙は破られなかったし、風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない。稿をつづけていくうちに、宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると、彼は覚えず呻うめき声を発した。独り居室にいるときでも、夜、牀上しょうじょうに横になったときでも、ふとこの屈辱の思いが萌きざしてくると、たちまちカーッと、焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる。彼は思わず飛上り、奇声を発し、呻きつつ四辺あたりを歩きまわり、さてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである。



 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき、咄嗟とっさに彼は心を決めた。自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるか、それとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する――敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとして――か、この二つのほかに途みちはないのだが、李陵は、後者を選ぶことに心を決めたのである。
0368名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:29:03.58
>>365
>>374
騎兵を主力とする匈奴に向かって、一隊の騎馬兵をも連れずに歩兵ばかり(馬に跨またがる者は、陵とその幕僚ばくりょう数人にすぎなかった、)
で奥地深く侵入することからして、無謀の極きわみというほかはない。その歩兵も僅わずか五千、絶えて後援はなく、しかもこの浚稽山しゅんけいざんは、最も近い漢塞かんさいの居延きょえんからでも優に一千五百里(支那里程)は離れている。
統率者李陵への絶対的な信頼と心服とがなかったならとうてい続けられるような行軍ではなかった。
 毎年秋風が立ちはじめると決きまって漢の北辺には、胡馬こばに鞭むちうった剽悍ひょうかんな侵略者の大部隊が現われる。辺吏が殺され、人民が掠かすめられ、家畜が奪略される。五原ごげん・朔方さくほう・雲中うんちゅう・上谷じょうこく・雁門がんもんなどが、その例年の被害地である。大将軍衛青えいせい・嫖騎ひょうき
>>378
0369名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:29:26.86
早い月はすでに落ちた。胡虜こりょの不意を衝ついて、ともかくも全軍の三分の二は予定どおり峡谷の裏口を突破した。しかしすぐに敵の騎馬兵の追撃に遭あった。
徒歩の兵は大部分討たれあるいは捕えられたようだったが、混戦に乗じて敵の馬を奪った数十人は、その胡馬こばに鞭むちうって南方へ走った。敵の追撃をふり切って夜目にもぼっと白い平沙へいさの上を、のがれ去った部下の数を数えて、確かに百に余ることを確かめうると、李陵りりょうはまた峡谷の入口の修羅場しゅらばにとって返した。身には数創を帯び、自みずからの血と返り血とで、戎衣じゅういは重く濡ぬれていた。
彼と並んでいた韓延年かんえんねんはすでに討たれて戦死していた。
麾下きかを失い全軍を失って、もはや天子に見まみゆべき面目はない。彼は戟ほこを取直すと、
ふたたび乱軍の中に駈入かけいった。暗い中で敵味方も分らぬほどの乱闘のうちに、李陵の馬が流矢ながれやに当たったとみえてガックリ前にのめった
0373名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:30:34.49
単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。
二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。
強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。
ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした。
左賢王さけんおうは、熱心な弟子となった。陵の祖父李広りこうの射における入神にゅうしんの技などを語るとき、蕃族ばんぞくの青年は眸ひとみをかがやかせて熱心に聞入るのである。よく二人して狩猟に出かけた。ほんの僅わずかの供廻ともまわりを連れただけで二人は縦横に曠野こうやを疾駆しっくしては狐きつねや狼おおかみや羚羊かもしかや
※(「周+鳥」、第3水準1-94-62)おおとりや雉子きじなどを射た。あるときなど夕暮れ近くなって矢も尽きかけた二人が――
二人の馬は供の者を遙はるかに駈抜かけぬいていたので――一群の狼に囲まれたことがある。馬に鞭むちうち全速力で狼群の中を駈け抜けて逃れたが、
そのとき、李陵の馬の尻しりに飛びかかった一匹を、
後ろに駈けていた青年左賢王が彎刀わんとうをもって見事みごとに胴斬どうぎりにした。あとで調べると二人の馬は狼どもに噛かみ裂かれて血だらけになっていた。そういう一日ののち、
夜、天幕てんまくの中で今日の獲物を羹あつものの中にぶちこんでフウフウ吹きながら啜すするとき、李陵は火影ほかげに顔を火照ほてらせた若い蕃王ばんおうの息子に、ふと友情のようなものをさえ感じることがあった。
0374名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:30:56.42
一度単于は李陵を呼んで軍略上の示教を乞こうたことがある。それは東胡とうこに対しての戦いだったので、陵は快く己おのが意見を述べた。次に単于が同じような相談を持ちかけたとき、それは漢軍に対する策戦についてであった。
李陵はハッキリと嫌いやな表情をしたまま口を開こうとしなかった。単于も強しいて返答を求めようとしなかった。それからだいぶ久しくたったころ、代・上郡を寇掠こうりゃくする軍隊の一将として南行することを求められた。このときは、漢に対する戦いには出られない旨を言ってキッパリ断わった。爾後じご、単于は陵にふたたびこうした要求をしなくなった。待遇は依然として変わらない。他に利用する目的はなく、ただ士を遇するために士を遇しているのだとしか思われない。とにかくこの単于は男だと李陵は感じた。
 単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした
0376名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:31:11.93
単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。
二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。
強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。
ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした。
左賢王さけんおうは、熱心な弟子となった。陵の祖父李広りこうの射における入神にゅうしんの技などを語るとき、蕃族ばんぞくの青年は眸ひとみをかがやかせて熱心に聞入るのである。よく二人して狩猟に出かけた。ほんの僅わずかの供廻ともまわりを連れただけで二人は縦横に曠野こうやを疾駆しっくしては狐きつねや狼おおかみや羚羊かもしかや
※(「周+鳥」、第3水準1-94-62)おおとりや雉子きじなどを射た。あるときなど夕暮れ近くなって矢も尽きかけた二人が――
二人の馬は供の者を遙はるかに駈抜かけぬいていたので――一群の狼に囲まれたことがある。馬に鞭むちうち全速力で狼群の中を駈け抜けて逃れたが、
そのとき、李陵の馬の尻しりに飛びかかった一匹を、
後ろに駈けていた青年左賢王が彎刀わんとうをもって見事みごとに胴斬どうぎりにした。あとで調べると二人の馬は狼どもに噛かみ裂かれて血だらけになっていた。そういう一日ののち、
夜、天幕てんまくの中で今日の獲物を羹あつものの中にぶちこんでフウフウ吹きながら啜すするとき、李陵は火影ほかげに顔を火照ほてらせた若い蕃王ばんおうの息子に、ふと友情のようなものをさえ感じることがあった。
0377名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:31:40.12
南行三日めの午ひる、漢軍の後方はるか北の地平線に、雲のごとく黄塵こうじんの揚がるのが見られた。匈奴騎兵の追撃である。
翌日はすでに八万の胡兵が騎馬の快速を利して、漢軍の前後左右を隙すきもなく取囲んでしまっていた。ただし、前日の失敗に懲こりたとみえ、至近の距離にまでは近づいて来ない。南へ行進して行く漢軍を遠巻きにしながら、馬上から遠矢を射かけるのである。李陵が全軍を停とめて、戦闘の体形をとらせれば、
敵は馬を駆って遠く退き、搏戦はくせんを避ける。
ふたたび行軍をはじめれば、また近づいて来て矢を射かける。行進の速度が著しく減ずるのはもとより、死傷者も一日ずつ確実に殖ふえていくのである。飢え疲れた旅人の後をつける曠野こうやの狼のように、匈奴の兵はこの戦法を続けつつ執念深く追って来る。
少しずつ傷つけていった揚句あげく、いつかは最後の止とどめを刺そうとその機会を窺うかがっているのである。
 かつ戦い、かつ退きつつ南行することさらに数日、ある山谷の中で漢軍は一日の休養をとった。負傷者
0378名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:31:55.05
長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。
二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。
強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。
ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした。
左賢王さけんおうは、熱心な弟子となった。陵の祖父李広りこうの射における入神にゅうしんの技などを語るとき、蕃族ばんぞくの青年は眸ひとみをかがやかせて熱心に聞入るのである。よく二人して狩猟に出かけた。ほんの僅わずかの供廻ともまわりを連れただけで二人は縦横に曠野こうやを疾駆しっくしては狐きつねや狼おおかみや羚羊かもしかや
※(「周+鳥」、第3水準1-94-62)おおとりや雉子きじなどを射た。あるときなど夕暮れ近くなって矢も尽きかけた二人が――
二人の馬は供の者を遙はるかに駈抜かけぬいていたので――一群の狼に囲まれたことがある。馬に鞭むちうち全速力で狼群の中を駈け抜けて逃れたが、
そのとき、李陵の馬の尻しりに飛びかかった一匹を、
後ろに駈けていた青年左賢王が彎刀わんとうをもって見事みごとに胴斬どうぎりにした。あとで調べると二人の馬は狼どもに噛かみ裂かれて血だらけになっていた。そういう一日ののち、
夜、天幕てんまくの中で今日の獲物を羹あつものの中にぶちこんでフウフウ吹きながら啜すするとき、李陵は火影ほかげに顔を火照ほてらせた若い蕃王ばんおうの息子に、ふと友情のようなものをさえ感じることがあった。
0379名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:32:49.69
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんをした。
これに酬むくいるとて、翌四年、漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ、歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた。
ひいて因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-13]将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を、游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんを、それぞれ進発する。
近来にない大北伐ほくばつである。単于ぜんうはこの報に接するや、ただちに婦女、老幼、畜群、資財の類をことごとく余吾水しょごすい(ケルレン河)北方の地に移し、自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり・路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った。連戦十余日。漢軍はついに退くのやむなきに至った。
李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは、別に一隊を率いて東方に向かい因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-18]将軍を迎えてさんざんにこれを破った。漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた。
北征は完全な失敗である。
李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず、水北に退いていたが、左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした。
もちろん、全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないが、どうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい。李陵はこれに気がついて激しく己を責めた。
0380名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:33:51.87
>>360
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんをした。
これに酬むくいるとて、翌四年、漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ、歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた。
ひいて因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-13]将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を、游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんを、それぞれ進発する。
近来にない大北伐ほくばつである。単于ぜんうはこの報に接するや、ただちに婦女、老幼、畜群、資財の類をことごとく余吾水しょごすい(ケルレン河)北方の地に移し、自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり・路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った。連戦十余日。漢軍はついに退くのやむなきに至った。
李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは、別に一隊を率いて東方に向かい因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-18]将軍を迎えてさんざんにこれを破った。漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた。
北征は完全な失敗である。
李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず、水北に退いていたが、左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした。
もちろん、全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないが、どうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい。李陵はこれに気がついて激しく己を責めた。
0381名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:34:20.40
>>368
単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。
二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。
強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。
ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした。
左賢王さけんおうは、熱心な弟子となった。陵の祖父李広りこうの射における入神にゅうしんの技などを語るとき、蕃族ばんぞくの青年は眸ひとみをかがやかせて熱心に聞入るのである。よく二人して狩猟に出かけた。ほんの僅わずかの供廻ともまわりを連れただけで二人は縦横に曠野こうやを疾駆しっくしては狐きつねや狼おおかみや羚羊かもしかや
※(「周+鳥」、第3水準1-94-62)おおとりや雉子きじなどを射た。あるときなど夕暮れ近くなって矢も尽きかけた二人が――
二人の馬は供の者を遙はるかに駈抜かけぬいていたので――一群の狼に囲まれたことがある。馬に鞭むちうち全速力で狼群の中を駈け抜けて逃れたが、
そのとき、李陵の馬の尻しりに飛びかかった一匹を、
後ろに駈けていた青年左賢王が彎刀わんとうをもって見事みごとに胴斬どうぎりにした。あとで調べると二人の馬は狼どもに噛かみ裂かれて血だらけになっていた。そういう一日ののち、
夜、天幕てんまくの中で今日の獲物を羹あつものの中にぶちこんでフウフウ吹きながら啜すするとき、李陵は火影ほかげに顔を火照ほてらせた若い蕃王ばんおうの息子に、ふと友情のようなものをさえ感じることがあった。
0384名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:36:29.54
>>381
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんを犯した。これに酬むくいるとて、翌四年、漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ、歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた。ひいて因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-13]将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を、游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんを、それぞれ進発する。近来にない大北伐ほくばつである。単于ぜんうはこの報に接するや、ただちに婦女、老幼、畜群、資財の類をことごとく余吾水しょごすい(ケルレン河)北方の地に移し、
自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり・路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った。連戦十余日。漢軍はついに退くのやむなきに至った。李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは、別に一隊を率いて東方に向かい因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-18]将軍を迎えてさんざんにこれを破った。漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた。北征は完全な失敗である。李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず、水北に退いていたが、左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした。もちろん、全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないが、どうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい。李陵はこれに気がついて激しく己を責めた。さ
0385名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:36:45.99
司馬遷は最後に忿懣ふんまんの持って行きどころを自分に求めようとする。実際、何ものかに対して腹を立てなければならぬとすれば、結局それは自分自身に対してのほかはなかったのである。だが、自分のどこが悪かったのか? 
李陵りりょうのために弁じたこと、これはいかに考えてみてもまちがっていたとは思えない。方法的にも格別拙まずかったとは考えぬ。阿諛あゆに堕だするに甘んじないかぎり、あれはあれでどうしようもない。それでは、自ら顧みてやましくなければ、そのやましくない行為が、どのような結果を来たそうとも、士たる者はそれを甘受かんじゅしなければならないはずだ。なるほどそれは一応そうに違いない。だから自分も肢解しかいされようと腰斬ようざんにあおうと、そういうものなら甘んじて受けるつもりなのだ。しかし、この宮刑きゅうけいは――その結果かく成り果てたわが身の有様というものは、――これはまた別だ。同じ不具でも足を切られたり鼻を切られたりするのとは全然違った種類のものだ。士たる者の加えられるべき刑ではない。こればかりは、身体のこういう状態というものは、どういう角度から見ても、完全な悪だ。飾言しょくげんの余地はない。
そうして、心の傷だけならば時とともに癒いえることもあろうが、己おのが身体のこの醜悪な現実は死に至るまでつづくのだ。動機がどうあろうと、このような結果を招くものは、結局「悪かった」といわなければならぬ。しかし、どこが悪かった? 己おのれのどこが? どこも悪くなかった。己は正しいことしかしなかった。強しいていえば、ただ、「我あり」という事実だけが悪かったのである。
0386名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:37:12.54
>>378
次の日からまた、もとの竜城りゅうじょうの道に循したがって、南方への退行が始まる。匈奴きょうどはまたしても、元の遠巻き戦術に還かえった。五日め、漢軍は、平沙へいさの中にときに見出みいだされる沼沢地しょうたくちの一つに踏入った。水は半ば凍り、泥濘でいねいも脛はぎを没する深さで、行けども行けども果てしない枯葦原かれあしはらが続く。風上かざかみに廻まわった匈奴の一隊が火を放った。
朔風さくふうは焔ほのおを煽あおり、真昼の空の下に白っぽく輝きを失った火は、すさまじい速さで漢軍に迫る。李陵はすぐに附近の葦あしに迎え火を放たしめて、かろうじてこれを防いだ。火は防いだが、沮洳地そじょちの車行の困難は言語に絶した。休息の地のないままに一夜泥濘でいねいの中を歩き通したのち、翌朝ようやく丘陵地に辿たどりついたとたんに、先廻さきまわりして待伏せていた敵の主力の襲撃
0387名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:38:03.09
その左賢王に打破られた公孫敖こうそんごうが都に帰り、士卒を多く失って功がなかったとの廉かどで牢ろうに繋つながれたとき、
妙な弁解をした。敵の捕虜ほりょが、匈奴軍の強いのは、漢から降くだった李り将軍が常々兵を練り軍略を授けてもって漢軍に備えさせているからだと言ったというのである。
だからといって自軍が敗まけたことの弁解にはならないから、もちろん、因※いんう[#「木+于」、U+6745、40-8]将軍の罪は許されなかったが、これを聞いた武帝が、李陵に対し激怒したことは言うまでもない。一度許されて家に戻っていた陵の一族はふたたび獄ごくに収められ、
今度は、陵の老母から妻・子・弟に至るまでことごとく殺された。軽薄なる世人の常とて、当時隴西ろうせい(李陵の家は隴西の出である)の士大夫したいふら皆李家を出したことを恥としたと記されている。
 この知らせが李陵の耳に入ったのは半年ほど後のこと、辺境から拉致らちされた一漢卒かんそつの口からである。それを聞いたとき、李陵は立上がってその男の胸倉むなぐらをつかみ、荒々しくゆすぶりながら、事の真偽を今一度たしかめた。
たしかにまちがいのないことを知ると、彼は歯をくい縛しばり、思わず力を両手にこめた。
男は身をもがいて、苦悶くもんの呻うめきを洩もらした。陵りょうの手が無意識のうちにその男の咽喉いんこうを扼やくしていたのである。陵が手を離すと、男はバッタリ地に倒れた。その姿に目もやらず、陵は帳房ちょうぼうの外へ飛出した。
 
0388名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:38:37.85
>>459
>>512
単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。
二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。
強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。
ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした。
左賢王さけんおうは、熱心な弟子となった。陵の祖父李広りこうの射における入神にゅうしんの技などを語るとき、蕃族ばんぞくの青年は眸ひとみをかがやかせて熱心に聞入るのである。よく二人して狩猟に出かけた。ほんの僅わずかの供廻ともまわりを連れただけで二人は縦横に曠野こうやを疾駆しっくしては狐きつねや狼おおかみや羚羊かもしかや
※(「周+鳥」、第3水準1-94-62)おおとりや雉子きじなどを射た。あるときなど夕暮れ近くなって矢も尽きかけた二人が――
二人の馬は供の者を遙はるかに駈抜かけぬいていたので――一群の狼に囲まれたことがある。馬に鞭むちうち全速力で狼群の中を駈け抜けて逃れたが、
そのとき、李陵の馬の尻しりに飛びかかった一匹を、
後ろに駈けていた青年左賢王が彎刀わんとうをもって見事みごとに胴斬どうぎりにした。あとで調べると二人の馬は狼どもに噛かみ裂かれて血だらけになっていた。そういう一日ののち、
夜、天幕てんまくの中で今日の獲物を羹あつものの中にぶちこんでフウフウ吹きながら啜すするとき、李陵は火影ほかげに顔を火照ほてらせた若い蕃王ばんおうの息子に、ふと友情のようなものをさえ感じることがあった。
0390名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:39:41.44
打破られた公孫敖こうそんごうが都に帰り、士卒を多く失って功がなかったとの廉かどで牢ろうに繋つながれたとき、妙な弁解をした。敵の捕虜ほりょが、
匈奴軍の強いのは、漢から降くだった李り将軍が常々兵を練り軍略を授けてもって漢軍に備えさせているからだと言ったというのである。だからといって自軍が敗まけたことの弁解にはならないから、もちろん、因※いんう[#「木+于」、U+6745、40-8]将軍の罪は許されなかったが、これを聞いた武帝が、李陵に対し激怒したことは言うまでもない。一度許されて家に戻っていた陵の一族はふたたび獄ごくに収められ、今度は、陵の老母から妻・子・弟に至るまでことごとく殺された。軽薄なる世人の常とて、当時隴西ろうせい(李陵の家は隴西の出である)の士大夫したいふら皆李家を出したことを恥としたと記されている。
 この知らせが李陵の耳に入ったのは半年ほど後のこと、辺境から拉致らちされた一漢卒かんそつの口からである。それを聞いたとき、李陵は立上がってその男の胸倉むなぐらをつかみ、荒々しくゆすぶりながら、事の真偽を今一度たしかめた。たしかにまちがいのないことを知ると、彼は歯をくい縛しばり、思わず力を両手にこめた。男は身をもがいて、苦悶くもんの呻うめきを洩もらした。陵りょうの手が無意識のうちにその男の咽喉いんこうを扼やくしていたのである。陵が手を離すと、男はバッタリ地に倒れた。その姿に目もやらず、陵は帳房ちょうぼうの外へ飛出した。
 めちゃくちゃに
0391名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:40:05.28
>>77
その晩、漢の軍侯ぐんこう、管敢かんかんという者が陣を脱して匈奴の軍に亡にげ降くだった。かつて長安ちょうあん都下の悪少年だった男だが、前夜斥候せっこう上の手抜かりについて校尉こうい・
成安侯せいあんこう韓延年かんえんねんのために衆人の前で面罵めんばされ、笞むち打たれた。それを含んでこの挙に出たのである。先日渓間たにまで斬ざんに遭った女どもの一人が彼の妻だったとも言う。
管敢は匈奴の捕虜の自供した言葉を知っていた。それゆえ、胡陣こじんに亡にげて単于ぜんうの前に引出されるや、伏兵を懼おそれて引上げる必要のないことを力説した。言う、漢軍には後援がない。
矢もほとんど尽きようとしている。負傷者も続出して行軍は難渋なんじゅうを極めている。漢軍の中心をなすものは、李り将軍および成安侯韓延年の率いる各八百人だが、それぞれ黄と白との幟しをもって印としているゆえ、明日胡騎こきの精鋭をしてそこに攻撃を集中せしめてこれを破ったなら、他は容
0394名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:41:11.00
めちゃくちゃに彼は野を歩いた。激しい憤りが頭の中で渦うずを巻いた。老母や幼児のことを考えると心は灼やけるようであったが、涙は一滴も出ない。あまりに強い怒りは涙を涸渇こかつさせてしまうのであろう。
 今度の場合には限らぬ。今まで我が一家はそもそも漢から、どのような扱いを受けてきたか? 
彼は祖父の李広りこうの最期さいごを思った。(陵の父、当戸とうこは、彼が生まれる数か月前に死んだ。陵はいわゆる、遺腹の児である。だから、少年時代までの彼を教育し鍛えあげたのは、有名なこの祖父であった。)名将李広は数次の北征に大功を樹たてながら、君側の姦佞かんねいに妨げられて何一つ恩賞にあずからなかった。部下の諸将がつぎつぎに爵位しゃくい封侯ほうこうを得て行くのに、廉潔れんけつな将軍だけは封侯はおろか、終始変わらぬ清貧せいひんに甘んじなければならなかった。
最後に彼は大将軍衛青えいせいと衝突した。さすがに衛青にはこの老将をいたわる気持はあったのだが、その幕下ばっかの一軍吏ぐんりが虎とらの威いを借りて李広を辱はずかしめた。憤激した老名将はすぐその場で――陣営の中で自みずから首刎はねたのである。祖父の死を聞いて声をあげてないた少年の日の自分を、陵はいまだにハッキリと憶おぼえている。……
 陵の叔父
0395名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:41:39.36
単于は李陵を呼んで軍略上の示教を乞こうたことがある。それは東胡とうこに対しての戦いだったので、陵は快く己おのが意見を述べた。
次に単于が同じような相談を持ちかけたとき、それは漢軍に対する策戦についてであった。
李陵はハッキリと嫌いやな表情をしたまま口を開こうとしなかった。単于も強しいて返答を求めようとしなかった。それからだいぶ久しくたったころ、代・上郡を寇掠こうりゃくする軍隊の一将として南行することを求められた。このときは、漢に対する戦いには出られない旨を言ってキッパリ断わった。爾後じご、単于は陵にふたたびこうした要求をしなくなった。待遇は依然として変わらない。他に利用する目的はなく、
ただ士を遇するために士を遇しているのだとしか思われない。とにかくこの単于は男だと李陵は感じた。故
 単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした
0397名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:42:27.06
>>678
賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。
「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。
太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき、遷は俯首流涕ふしゅりゅうていしてその命に背そむかざるべきを誓ったのである。
 父が死んでから二年ののち、はたして、司馬遷しばせんは太史令たいしれいの職を継いだ。
父の蒐集しゅうしゅうした資料と、宮廷所蔵の秘冊とを用いて、すぐにも父子相伝ふしそうでんの天職にとりかかりたかったのだが、任官後の彼にまず課せられたのは暦の改正という事業であった。この仕事に没頭することちょうど満四年。太初たいしょ元年にようやくこれを仕上げると、すぐに彼は史記しきの編纂へんさんに着手した。遷、ときに年四十二。
 腹案はとうにでき上がっていた。その腹案による史書の形式は従来の史書のどれにも似ていなかった。彼は道義的批判の規準を示すものとしては春秋しゅんじゅうを推したが、事実を伝える史書としてはなんとしてもあきたらなかった。
もっと事実が欲しい。教訓よりも事実が。
左伝さでんや国語こくごになると、なるほど事実はある。左伝の叙事の巧妙さに至っては感嘆のほかはない。しかし、その事実を作り上げる一人一人の人についての探求がない。
事件の中における彼らの姿の描出は鮮あざやかであっても、そうしたことをしでかすまでに至る彼ら一人一人の身許みもと調べの欠けているのが、司馬遷しばせんには不服だった
0400名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:42:51.02
>>679
賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。
「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。
太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき、遷は俯首流涕ふしゅりゅうていしてその命に背そむかざるべきを誓ったのである。
 父が死んでから二年ののち、はたして、司馬遷しばせんは太史令たいしれいの職を継いだ。
父の蒐集しゅうしゅうした資料と、宮廷所蔵の秘冊とを用いて、すぐにも父子相伝ふしそうでんの天職にとりかかりたかったのだが、任官後の彼にまず課せられたのは暦の改正という事業であった。この仕事に没頭することちょうど満四年。太初たいしょ元年にようやくこれを仕上げると、すぐに彼は史記しきの編纂へんさんに着手した。遷、ときに年四十二。
 腹案はとうにでき上がっていた。その腹案による史書の形式は従来の史書のどれにも似ていなかった。彼は道義的批判の規準を示すものとしては春秋しゅんじゅうを推したが、事実を伝える史書としてはなんとしてもあきたらなかった。
もっと事実が欲しい。教訓よりも事実が。
左伝さでんや国語こくごになると、なるほど事実はある。左伝の叙事の巧妙さに至っては感嘆のほかはない。しかし、その事実を作り上げる一人一人の人についての探求がない。
事件の中における彼らの姿の描出は鮮あざやかであっても、そうしたことをしでかすまでに至る彼ら一人一人の身許みもと調べの欠けているのが、司馬遷しばせんには不服だった
>>398
0401名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:43:22.76
司馬遷しばせんの場合と違って、李陵のほうは簡単であった。憤怒ふんぬがすべてであった。
(無理でも、もう少し早くかねての計画――単于ぜんうの首でも持って胡地こちを脱するという――を実行すればよかったという悔いを除いては、)
ただそれをいかにして現わすかが問題であるにすぎない。
彼は先刻の男の言葉「胡地こちにあって李将軍が兵を教え漢に備えていると聞いて陛下が激怒され云々うんぬん」を思出した。ようやく思い当たったのである。もちろん彼自身にはそんな覚えはないが、同じ漢の降将に李緒りしょという者がある。元、塞外都尉さいがいといとして奚侯城けいこうじょうを守っていた男だが、これが匈奴きょうどに降くだってから常に胡軍こぐんに軍略を授け兵を練っている。現に半年前の軍にも、単于に従って、(問題の公孫敖こうそんごうの軍とではないが)漢軍と戦っている。これだと李陵りりょうは思った。同じ李り将軍で、李緒りしょとまちがえられたに違いないのである。
 その晩、彼は単身、李緒の帳幕ちょうばくへと赴おもむいた。一言も言わぬ、一言も言わせぬ。ただの一刺しで李緒は斃たおれた。
0402名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:43:43.80
世界への不安な関心に執拗しつようにつきまとわれていた。それだけに、その方面での失望は彼にとって大きな打撃となった。
こうした打撃は、生来闊達かったつだった彼の心に、年とともに群臣への暗い猜疑さいぎを植えつけていった。李蔡りさい・青霍せいかく・趙周ちょうしゅうと、丞相じょうしょうたる者は相ついで死罪に行なわれた。現在の丞相たる公孫賀こうそんがのごとき、命を拝したときに己おのが運命を恐れて帝の前で手離しで泣出したほどである。硬骨漢こうこつかん汲黯きゅうあんが退いた後は、帝を取巻くものは、佞臣ねいしんにあらずんば酷吏こくりであった。
 さて、武帝は諸重臣を召して李陵の処置について計った。李陵の身体は都にはないが、その罪の決定によって、彼の妻子眷属けんぞく家財などの処分が行なわれるのである。酷吏として聞こえた一廷尉ていいが常に帝の顔色を窺うかがい合法的に法を枉まげて帝の意を迎えることに巧みであった。ある人が法の権威を説いてこれを詰なじったところ、
これに答えていう。前主の是ぜとするところこれが律りつとなり、後主の是とするところこれが令りょうとなる。当時の君主の意のほかになんの法があろうぞと。群臣皆この廷尉の類であった。丞相じょうしょう公孫賀こうそんが、御史大夫ぎょしたいふ杜周としゅう、太常たいじょう、趙弟ちょうてい以下、誰一人として、帝の震怒しんどを犯してまで陵のために弁じようとする者はない。口を極めて彼らは李陵の売国的行為を罵ののしる。
0405名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:44:31.49
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、
やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 まともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは顏が縱から見ても、横から見ても、
いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
0406名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:44:55.11
>>403
めちゃくちゃに彼は野を歩いた。激しい憤りが頭の中で渦うずを巻いた。老母や幼児のことを考えると心は灼やけるようであったが、涙は一滴も出ない。あまりに強い怒りは涙を涸渇こかつさせてしまうのであろう。
 今度の場合には限らぬ。今まで我が一家はそもそも漢から、どのような扱いを受けてきたか? 彼は祖父の李広りこうの最期さいごを思った。(陵の父、当戸とうこは、彼が生まれる数か月前に死んだ。陵はいわゆる、遺腹の児である。だから、少年時代までの彼を教育し鍛えあげたのは、有名なこの祖父であった。)名将李広は数次の北征に大功を樹たてながら、君側の姦佞かんねいに妨げられて何一つ恩賞にあずからなかった。部下の諸将がつぎつぎに爵位しゃくい封侯ほうこうを得て行くのに、廉潔れんけつな将軍だけは封侯はおろか、終始変わらぬ清貧せいひんに甘んじなければならなかった。最後に彼は大将軍衛青えいせいと衝突した。さすがに衛青にはこの老将をいたわる気持はあったのだが、その幕下ばっかの一軍吏ぐんりが虎とらの威いを借りて李広を辱はずかしめた。憤激した老名将はすぐその場で――陣営の中で自みずから首刎はねたのである。祖父の死を聞いて声をあげてないた少年の日の自分を、陵はいまだにハッキリと憶おぼえている。……
 陵の叔父
0407名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:45:32.46
「はい」と云つてあたりを見廻した喜助は、何事をかお役人に見咎められたのではないかと氣遣ふらしく、居ずまひを直して庄兵衞の氣色を伺つた。
 庄兵衞は自分が突然問を發した動機を明して、役目を離れた應對を求める分疏いひわけをしなくてはならぬやうに感じた。そこでかう云つた。「いや。別にわけがあつて聞いたのではない。實はな、己は先刻からお前の島へ往く心持が聞いて見たかつたのだ。己はこれまで此舟で大勢の人を島へ送つた。それは隨分いろいろな身の上の人だつたが、どれもどれも島へ往くのを悲しがつて、見送りに來て、一しよに舟に乘る親類のものと、夜どほし泣くに極まつてゐた。それにお前の樣子を見れば、どうも島へ往くのを苦にしてはゐないやうだ。一體お前はどう思つてゐるのだい。」
 につこり笑つた。「御親切に仰やつて下すつて、難有うございます。なる程島へ往くといふことは、外の人には悲しい事でございませう。其心持はわたくしにも思ひ遣つて見ることが出來ます。しかしそれは世間で樂をしてゐた人だからでございます。京都は結構な土地ではございますが、その結構な土地で、これまでわたくしのいたして參つたやうな苦みは、どこへ參つてもなからうと存じます。お上のお慈悲で、命を助けて島へ遣つて下さいます。
0409名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:45:52.77
その左賢王に打破られた公孫敖こうそんごうが都に帰り、士卒を多く失って功がなかったとの廉かどで牢ろうに繋つながれたとき、妙な弁解をした。敵の捕虜ほりょが、匈奴軍の強いのは、漢から降くだった李り将軍が常々兵を練り軍略を授けてもって漢軍に備えさせているからだと言ったというのである。だからといって自軍が敗まけたことの弁解にはならないから、もちろん、因※いんう[#「木+于」、U+6745、40-8]将軍の罪は許されなかったが、これを聞いた武帝が、李陵に対し激怒したことは言うまでもない。一度許されて家に戻っていた陵の一族はふたたび獄ごくに収められ、今度は、陵の老母から妻・子・弟に至るまでことごとく殺された。軽薄なる世人の常とて、当時隴西ろうせい(李陵の家は隴西の出である)の士大夫したいふら皆李家を出したことを恥としたと記されている。
 この知らせが李陵の耳に入ったのは半年ほど後のこと、辺境から拉致らちされた一漢卒かんそつの口からである。それを聞いたとき、李陵は立上がってその男の胸倉むなぐらをつかみ、荒々しくゆすぶりながら、事の真偽を今一度たしかめた。たしかにまちがいのないことを知ると、彼は歯をくい縛しばり、思わず力を両手にこめた。男は身をもがいて、苦悶くもんの呻うめきを洩もらした。陵りょうの手が無意識のうちにその男の咽喉いんこうを扼やくしていたのである。陵が手を離すと、男はバッタリ地に倒れた。その姿に目もやらず、陵は帳房ちょうぼうの外へ飛出した。
 めちゃくちゃに
0410名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:46:06.07
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、
やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
0411名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:46:22.42
賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、
これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき、遷は俯首流涕ふしゅりゅうていしてその命に背そむかざるべきを誓ったのである。
 父が死んでから二年ののち、はたして、司馬遷しばせんは太史令たいしれいの職を継いだ。父の蒐集しゅうしゅうした資料と、宮廷所蔵の秘冊とを用いて、すぐにも父子相伝ふしそうでんの天職にとりかかりたかったのだが、任官後の彼にまず課せられたのは暦の改正という事業であった。この仕事に没頭することちょうど満四年。太初たいしょ元年にようやくこれを仕上げると、すぐに彼は史記しきの編纂へんさんに着手した。遷、ときに年四十二。
 腹案はとうにでき上がっていた。その腹案による史書の形式は従来の史書のどれにも似ていなかった。
彼は道義的批判の規準を示すものとしては春秋しゅんじゅうを推したが、事実を伝える史書としてはなんとしてもあきたらなかった。もっと事実が欲しい。教訓よりも事実が。左伝さでんや国語こくごになると、なるほど事実はある。左伝の叙事の巧妙さに至っては感嘆のほかはない。しかし、その事実を作り上げる一人一人の人についての探求がない。事件の中における彼らの姿の描出は鮮あざやかであっても、そうしたことをしでかすまでに至る彼ら一人一人の身許みもと調べの欠けているのが、司馬遷しばせんには不服だった
0412名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:46:40.64
痛憤と煩悶はんもんとの数日のうちには、ときに、学者としての彼の習慣からくる思索が――反省が来た。いったい、今度の出来事の中で、何が――誰が――誰のどういうところが、悪かったのだという考えである。日本の君臣道とは根柢こんていから異なった彼かの国のこととて、当然、彼はまず、武帝を怨うらんだ。
一時はその怨懣えんまんだけで、いっさい他を顧みる余裕はなかったというのが実際であった。しかし、しばらくの狂乱の時期の過ぎたあとには、歴史家としての彼が、目覚めてきた。儒者じゅしゃと違って、先王の価値にも歴史家的な割引をすることを知っていた彼は、後王たる武帝の評価の上にも、私怨しえんのために狂いを来たさせることはなかった。なんといっても武帝は大君主である。そのあらゆる欠点にもかかわらず、この君がある限り、漢の天下は微動だもしない。高祖はしばらく措おくとするも、仁君じんくん文帝ぶんていも名君景帝けいていも、この君に比べれば、やはり小さい。ただ大きいものは、その欠点までが大きく写ってくるのは、これはやむを得ない。司馬遷しばせんは極度の憤怨ふんえんのうちにあってもこのことを忘れてはいない。今度のことは要するに天の作なせる疾風暴雨霹靂へきれきに見舞われたものと思うほかはないという考えが、
彼をいっそう絶望的な憤いきどおりへと駆かったが、また一方、逆に諦観ていかんへも向かわせようとする。怨恨えんこんが長く君主に向かい得ないとなると、勢い、君側の姦臣かんしんに向けられる。彼らが悪い。たしかにそうだ。しかし、この悪さは、すこぶる副次的な悪さである。
0413名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:47:11.19
島はよしやつらい所でも、鬼の栖すむ所ではございますまい。
わたくしはこれまで、どこと云つて自分のゐて好い所と云ふものがございませんでした。こん度お上で島にゐろと仰やつて下さいます。そのゐろと仰やる所に落ち著いてゐることが出來ますのが、先づ何よりも難有い事でございます。それにわたくしはこんなにかよわい體ではございますが、つひぞ病氣をいたしたことがございませんから、島へ往つてから、どんなつらい爲事をしたつて、
體を痛めるやうなことはあるまいと存じます。それからこん度島へお遣下さるに付きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。それをここに持つてをります。」かう云ひ掛けて、喜助は胸に手を當てた。遠島を仰せ附けられるものには、鳥目二百銅を遣すと云ふのは、當時の掟であつた。
 語を續いだ。「お恥かしい事を申し上げなくてはなりませぬが、わたくしは今日まで二百文と云ふお足を、かうして懷に入れて持つてゐたことはございませぬ。どこかで爲事しごとに取り附きたいと思つて、爲事を尋ねて歩きまして、それが見附かり次第、骨を惜まずに働きました。そして貰つた錢は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。
0414名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:47:50.71
司馬氏は元もと周しゅうの史官であった。後、晋しんに入り、秦しんに仕え、漢かんの代となってから四代目の司馬談しばたんが武帝に仕えて建元けんげん年間に太史令たいしれいをつとめた。
この談が遷の父である。専門たる律りつ・暦れき・易えきのほかに道家どうかの教えに精くわしくまた博ひろく儒じゅ、墨ぼく、法ほう、名めい、諸家しょかの説にも通じていたが、それらをすべて一家の見けんをもって綜すべて自己のものとしていた。己おのれの頭脳や精神力についての自信の強さはそっくりそのまま息子むすこの遷に受嗣うけつがれたところのものである。彼が、息子に施した最大の教育は、諸学の伝授を終えてのちに、海内かいだいの大旅行をさせたことであった。当時としては変わった教育法であったが、これが後年の歴史家司馬遷に資するところのすこぶる大であったことは、いうまでもない。
 元封げんぽう元年に武帝が東、泰山たいざんに登って天を祭ったとき、たまたま周南しゅうなんで病床にあった熱血漢ねっけつかん司馬談しばたんは、天子始めて漢家の封ほうを建つるめでたきときに、己おのれ一人従ってゆくことのできぬのを慨なげき、憤を発してそのために死んだ。古今を一貫せる通史つうしの編述こそは彼の一生の念願だったのだが、単に材料の蒐集しゅうしゅうのみで終わってしまったのである。その臨終りんじゅうの光景は息子・遷せんの筆によって詳しく史記しきの最後の章に描かれている。それによると司馬談は己のまた起たちがたきを知るや遷を呼びその手を執とって、
懇ねんごろに修史しゅうしの必要を説き、己おのれ太史たいしとなりながらこのことに着手せず、賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき
0417名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:48:23.70
「うん、さうかい」とは云つたが、聞く事毎に餘り意表に出たので、これも暫く何も云ふことが出來ずに、考へ込んで默つてゐた。
 庄兵衞は彼此初老に手の屆く年になつてゐて、もう女房に子供を四人生ませてゐる。
それに老母が生きてゐるので、家は七人暮しである。平生人には吝嗇と云はれる程の、儉約な生活をしてゐて、衣類は自分が役目のために著るものの外、寢卷しか拵へぬ位にしてゐる。しかし不幸な事には、妻を好い身代の商人の家から迎へた。
そこで女房は夫の貰ふ扶持米で暮しを立てて行かうとする善意はあるが、裕な家に可哀がられて育つた癖があるので、夫が滿足する程手元を引き締めて暮して行くことが出來ない。動もすれば月末になつて勘定が足りなくなる。すると女房が内證で里から金を持つて來て帳尻を合はせる。それは夫が借財と云ふものを毛蟲のやうに嫌ふからである。さう云ふ事は所詮夫に知れずにはゐない。
庄兵衞は五節句だと云つては、里方から物を貰ひ、子供の七五三の祝だと云つては、里方から子供に衣類を貰ふのでさへ、心苦しく思つてゐるのだから、暮しの穴を填うめて貰つたのに氣が附いては、好い顏はしない。格別平和を破るやうな事のない羽田の家に、折々波風の起るのは、是が原因である。
0418名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:48:38.37
その左賢王に打破られた公孫敖こうそんごうが都に帰り、士卒を多く失って功がなかったとの廉かどで牢ろうに繋つながれたとき、妙な弁解をした。敵の捕虜ほりょが、匈奴軍の強いのは、漢から降くだった李り将軍が常々兵を練り軍略を授けてもって漢軍に備えさせているからだと言ったというのである。だからといって自軍が敗まけたことの弁解にはならないから、もちろん、因※いんう[#「木+于」、U+6745、40-8]将軍の罪は許されなかったが、これを聞いた武帝が、李陵に対し激怒したことは言うまでもない。一度許されて家に戻っていた陵の一族はふたたび獄ごくに収められ、今度は、陵の老母から妻・子・弟に至るまでことごとく殺された。軽薄なる世人の常とて、当時隴西ろうせい(李陵の家は隴西の出である)の士大夫したいふら皆李家を出したことを恥としたと記されている。
 この知らせが李陵の耳に入ったのは半年ほど後のこと、辺境から拉致らちされた一漢卒かんそつの口からである。それを聞いたとき、李陵は立上がってその男の胸倉むなぐらをつかみ、荒々しくゆすぶりながら、事の真偽を今一度たしかめた。たしかにまちがいのないことを知ると、彼は歯をくい縛しばり、思わず力を両手にこめた。男は身をもがいて、苦悶くもんの呻うめきを洩もらした。陵りょうの手が無意識のうちにその男の咽喉いんこうを扼やくしていたのである。陵が手を離すと、男はバッタリ地に倒れた。その姿に目もやらず、陵は帳房ちょうぼうの外へ飛出した。
 めちゃくちゃに
0420名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:49:32.25
云つてあたりを見廻した喜助は、何事をかお役人に見咎められたのではないかと氣遣ふらしく居ずまひを直して庄兵衞の氣色を伺つた。
 庄兵衞は自分が突然問を發した動機を明して役目を離れた應對を求める分疏いひわけをしなくてはならぬやうに感じた。そこでかう云つた。「いや。別にわけがあつて聞いたのではない。實はな、己は先刻からお前の島へ往く心持が聞いて見たかつたのだ。己はこれまで此舟で大勢の人を島へ送つた。それは隨分いろいろな身の上の人だつたがどれもどれも島へ往くのを悲しがつて見送りに來て一しよに舟に乘る親類のものと、夜どほし泣くに極まつてゐた。それにお前の樣子を見れば、どうも島へ往くのを苦にしてはゐないやうだ。一體お前はどう思つてゐるのだい。」
 喜助はにつこり笑つた。「御親切に仰やつて下すつて難有うございます。なる程島へ往くといふことは、外の人には悲しい事でございませう。其心持はわたくしにも思ひ遣つて見ることが出來ます。しかしそれは世間で樂をしてゐた人だからでございます。京都は結構な土地ではございますが、その結構な土地でこれまでわたくしのいたして參つたやうな苦みはどこへ參つてもなからうと存じますお上のお慈悲で、命を助けて島へ遣つて下さいます。
0421名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:49:50.10
これでいいのか? と司馬遷は疑う。こんな熱に浮かされたような書きっぷりでいいものだろうか? 彼は「作ル」ことを極度に警戒した。自分の仕事は「述ベル」ことに尽きる。事実、彼は述べただけであった。しかしなんと生気溌剌はつらつたる述べ方であったか? 
異常な想像的視覚を有もった者でなければとうてい不能な記述であった。彼は、ときに「作ル」ことを恐れるのあまり、すでに書いた部分を読返してみて、それあるがために史上の人物が現実の人物のごとくに躍動すると思われる字句を削る。すると確かにその人物はハツラツたる呼吸を止やめる。これで、「作ル」ことになる心配はないわけである。しかし、(と司馬遷が思うに)これでは項羽こううが項羽でなくなるではないか。項羽も始皇帝しこうていも楚その荘王そうおうもみな同じ人間になってしまう。違った人間を同じ人間として記述することが、何が「述べる」だ? 「述べる」とは、違った人間は違った人間として述べることではないか。そう考えてくると、やはり彼は削った字句をふたたび生かさないわけにはいかない。元どおりに直して、さて一読してみて、彼はやっと落ちつく。
いや、彼ばかりではない。そこにかかれた史上の人物が、項羽や樊※(「口+會」、第3水準1-15-25)はんかいや范増はんぞうが、みんなようやく安心してそれぞれの場所に落ちつくように思われる。
 調子のよいときの武帝ぶていは誠まことに高邁闊達こうまいかったつな・理解ある文教の保護者だったし、太史令たいしれいという職が地味な特殊な技能を要するものだったために、官界につきものの朋党比周ほうとうひしゅうの擠陥讒誣せいかんざんぶによる地位(あるいは生命)の不安定からも免れることができた。
0422名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:50:22.11
庄兵衞はいかに桁を違へて考へて見ても、ここに彼と我との間に、大いなる懸隔のあることを知つた。自分の扶持米で立てて行く暮しは、折々足らぬことがあるにしても、大抵出納が合つてゐる。
手一ぱいの生活である。然るにそこに滿足を覺えたことは殆ど無い。常は幸とも不幸とも感ぜずに過してゐる。しかし心の奧には、かうして暮してゐて、ふいとお役が御免になつたらどうしよう、
大病にでもなつたらどうしようと云ふ疑懼ぎくが潜んでゐて、折々妻が里方から金を取り出して來て穴填をしたことなどがわかると、此疑懼が意識の閾の上に頭を擡げて來るのである。
 一體此懸隔はどうして生じて來るだらう。只上邊だけを見て、それは喜助には身に係累がないのに、こつちにはあるからだと云つてしまへばそれまでである。
しかしそれは※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)である。よしや自分が一人者であつたとしても、どうも喜助のやうな心持にはなられさうにない。この根柢はもつと深い處にあるやうだと、庄兵衞は思つた。
0423名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:50:45.82
翌、天漢てんかん三年の春になって、李陵りりょうは戦死したのではない。捕えられて虜ろに降ったのだという確報が届いた。
武帝ははじめて嚇怒かくどした。即位後四十余年。帝はすでに六十に近かったが、気象の烈はげしさは壮時に超えている。神仙しんせんの説を好み方士巫覡ほうしふげきの類を信じた彼は、それまでに己おのれの絶対に尊信する方士どもに幾度か欺あざむかれていた。漢の勢威の絶頂に当たって五十余年の間君臨したこの大皇帝は、その中年以後ずっと、霊魂の世界への不安な関心に執拗しつようにつきまとわれていた。それだけに、その方面での失望は彼にとって大きな打撃となった。こうした打撃は、生来闊達かったつだった彼の心に、年とともに群臣への暗い猜疑さいぎを植えつけていった。李蔡りさい・
青霍せいかく・趙周ちょうしゅうと、丞相じょうしょうたる者は相ついで死罪に行なわれた。現在の丞相たる公孫賀こうそんがのごとき、命を拝したときに己おのが運命を恐れて帝の前で手離しで泣出したほどである。硬骨漢こうこつかん汲黯きゅうあんが退いた後は、帝を取巻くものは、佞臣ねいしんにあらずんば酷吏こくりであった。
0424名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:51:27.01
「かしこまりました」と云つて、小聲で話し出した。「どうも飛んだ心得違こゝろえちがひで、恐ろしい事をいたしまして、なんとも申し上げやうがございませぬ。
跡で思つて見ますと、どうしてあんな事が出來たかと、自分ながら不思議でなりませぬ。全く夢中でいたしましたのでございます。わたくしは小さい時に二親が時疫じえきで亡くなりまして、弟と二人跡に殘りました。初は丁度軒下に生れた狗いぬの子にふびんを掛けるやうに町内の人達がお惠下さいますので、近所中の走使などをいたして、飢ゑ凍えもせずに、育ちました。次第に大きくなりまして職を搜しますにも、なるたけ二人が離れないやうにいたして、一しよにゐて、助け合つて働きました。去年の秋の事でございます。わたくしは弟と一しよに、西陣の織場に這入りまして、空引そらびきと云ふことをいたすことになりました。そのうち弟が病氣で働けなくなつたのでございます。其頃わたくし共は北山の掘立小屋同樣の所に寢起をいたして、
紙屋川の橋を渡つて織場へ通つてをりましたが、わたくしが暮れてから、食物などを買つて歸ると、弟は待ち受けてゐて、わたくしを一人で稼がせては濟まない/\と申してをりました。或る日いつものやうに何心なく歸つて見ますと、弟は布團の上に突つ伏してゐまして、周圍は血だらけなのでございます。わたくしはびつくりいたして、手
0425名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:52:06.99
単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。
二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。
強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。
ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした。
左賢王さけんおうは、熱心な弟子となった。陵の祖父李広りこうの射における入神にゅうしんの技などを語るとき、蕃族ばんぞくの青年は眸ひとみをかがやかせて熱心に聞入るのである。よく二人して狩猟に出かけた。ほんの僅わずかの供廻ともまわりを連れただけで二人は縦横に曠野こうやを疾駆しっくしては狐きつねや狼おおかみや羚羊かもしかや
※(「周+鳥」、第3水準1-94-62)おおとりや雉子きじなどを射た。あるときなど夕暮れ近くなって矢も尽きかけた二人が――
二人の馬は供の者を遙はるかに駈抜かけぬいていたので――一群の狼に囲まれたことがある。馬に鞭むちうち全速力で狼群の中を駈け抜けて逃れたが、
そのとき、李陵の馬の尻しりに飛びかかった一匹を、
後ろに駈けていた青年左賢王が彎刀わんとうをもって見事みごとに胴斬どうぎりにした。あとで調べると二人の馬は狼どもに噛かみ裂かれて血だらけになっていた。そういう一日ののち、
夜、天幕てんまくの中で今日の獲物を羹あつものの中にぶちこんでフウフウ吹きながら啜すするとき、李陵は火影ほかげに顔を火照ほてらせた若い蕃王ばんおうの息子に、ふと友情のようなものをさえ感じることがあった。
0427名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:52:56.03
単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。
二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。
強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。
ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした。
左賢王さけんおうは、熱心な弟子となった。陵の祖父李広りこうの射における入神にゅうしんの技などを語るとき、蕃族ばんぞくの青年は眸ひとみをかがやかせて熱心に聞入るのである。よく二人して狩猟に出かけた。ほんの僅わずかの供廻ともまわりを連れただけで二人は縦横に曠野こうやを疾駆しっくしては狐きつねや狼おおかみや羚羊かもしかや
※(「周+鳥」、第3水準1-94-62)おおとりや雉子きじなどを射た。あるときなど夕暮れ近くなって矢も尽きかけた二人が――
二人の馬は供の者を遙はるかに駈抜かけぬいていたので――一群の狼に囲まれたことがある。馬に鞭むちうち全速力で狼群の中を駈け抜けて逃れたが、
そのとき、李陵の馬の尻しりに飛びかかった一匹を、
後ろに駈けていた青年左賢王が彎刀わんとうをもって見事みごとに胴斬どうぎりにした。あとで調べると二人の馬は狼どもに噛かみ裂かれて血だらけになっていた。そういう一日ののち、
夜、天幕てんまくの中で今日の獲物を羹あつものの中にぶちこんでフウフウ吹きながら啜すするとき、李陵は火影ほかげに顔を火照ほてらせた若い蕃王ばんおうの息子に、ふと友情のようなものをさえ感じることがあった。
0429名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:53:18.04
>>438
>>452
島はよしやつらい所でも、鬼の栖すむ所ではございますまい。わたくしはこれまで、どこと云つて自分のゐて好い所と云ふものがございませんでした。こん度お上で島にゐろと仰やつて下さいます。そのゐろと仰やる所に落ち著いてゐることが出來ますのが、先づ何よりも難有い事でございます。それにわたくしはこんなにかよわい體ではございますが、つひぞ病氣をいたしたことがございませんから、島へ往つてから、どんなつらい爲事をしたつて、體を痛めるやうなことはあるまいと存じます。それからこん度島へお遣下さるに付きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。それをここに持つてをります。」かう云ひ掛けて、喜助は胸に手を當てた。遠島を仰せ附けられるものには、鳥目二百銅を遣すと云ふのは、當時の掟であつた。
 喜助は語を續いだ。「お恥かしい事を申し上げなくてはなりませぬが、わたくしは今日まで二百文と云ふお足を、かうして懷に入れて持つてゐたことはございませぬ。どこかで爲事しごとに取り附きたいと思つて、爲事を尋ねて歩きまして、それが見附かり次第、骨を惜まずに働きました。そして貰つた錢は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。
0430名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:53:30.70
>>406
「はい」と云つてあたりを見廻した喜助は、何事をかお役人に見咎められたのではないかと氣遣ふらしく、居ずまひを直して庄兵衞の氣色を伺つた。
 庄兵衞は自分が突然問を發した動機を明して、役目を離れた應對を求める分疏いひわけをしなくてはならぬやうに感じた。そこでかう云つた。「いや。別にわけがあつて聞いたのではない。實はな、己は先刻からお前の島へ往く心持が聞いて見たかつたのだ。己はこれまで此舟で大勢の人を島へ送つた。それは隨分いろいろな身の上の人だつたが、どれもどれも島へ往くのを悲しがつて、見送りに來て、一しよに舟に乘る親類のものと、夜どほし泣くに極まつてゐた。それにお前の樣子を見れば、どうも島へ往くのを苦にしてはゐないやうだ。一體お前はどう思つてゐるのだい。」
 喜助はにつこり笑つた。「御親切に仰やつて下すつて、難有うございます。なる程島へ往くといふことは、外の人には悲しい事でございませう。其心持はわたくしにも思ひ遣つて見ることが出來ます。しかしそれは世間で樂をしてゐた人だからでございます。京都は結構な土地ではございますが、その結構な土地で、これまでわたくしのいたして參つたやうな苦みは、どこへ參つてもなからうと存じます。お上のお慈悲で、命を助けて島へ遣つて下さいます。
0432名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:54:07.25
>>406
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
0433名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:54:28.48
今なお耳底じていにある。しかし、今疾痛しっつう惨怛さんたんを極きわめた彼の心の中に在あってなお修史の仕事を思い絶たしめないものは、その父の言葉ばかりではなかった。それは何よりも、
その仕事そのものであった。仕事の魅力とか仕事への情熱とかいう怡たのしい態ていのものではない。修史という使命の自覚には違いないとしてもさらに昂然こうぜんとして自らを恃じする自覚ではない。
恐ろしく我がの強い男だったが、今度のことで、己おのれのいかにとるに足らぬものだったかをしみじみと考えさせられた。理想の抱負のと威張いばってみたところで、所詮しょせん己は牛にふみつぶされる道傍みちばたの虫けらのごときものにすぎなかったのだ。「我」はみじめに踏みつぶされたが、修史という仕事の意義は疑えなかった。このような浅ましい身と成り果て、自信も自恃じじも失いつくしたのち、それでもなお世にながらえてこの仕事に従うということは、どう考えても怡たのしいわけはなかった。それはほとんど、
いかにいとわしくとも最後までその関係を絶つことの許されない人間同士のような宿命的な因縁いんねんに近いものと、彼自身には感じられた。とにかくこの仕事のために自分は自らを殺すことができぬのだ(それも義務感からではなく、もっと肉体的な、この仕事との繋つながりによってである)ということだけはハッキリしてきた。
0434名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:55:13.82
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが、其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます。弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きました。
やう/\物が言へるやうになつたのでございます。『濟まない。どうぞ堪忍してくれ。どうせなほりさうにもない病氣だから、早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたのだ。笛を切つたら、すぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない。深く/\と思つて、力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた。刃は飜こぼれはしなかつたやうだ。これを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる。物を言ふのがせつなくつて可けない。どうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございます。弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏ります。わたくしはなんと云はうにも
0435名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:56:42.32
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ、東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0438名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:58:50.22
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ、東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0439名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:59:01.55
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが、其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます。弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きました。やう/\物が言へるやうになつたのでございます。『濟まない。どうぞ堪忍してくれ。どうせなほりさうにもない病氣だから、早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたのだ。笛を切つたら、すぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない。深く/\と思つて、力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた。刃は飜こぼれはしなかつたやうだ。これを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる。物を言ふのがせつなくつて可けない。どうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございます。弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏ります。わたくしはなんと云はうにも、
0443名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:59:40.81
「かしこまりました」と云つて、小聲で話し出した。「どうも飛んだ心得違こゝろえちがひで、恐ろしい事をいたしまして、なんとも申し上げやうがございませぬ。跡で思つて見ますと、どうしてあんな事が出來たかと、自分ながら不思議でなりませぬ。全く夢中でいたしましたのでございます。わたくしは小さい時に二親が時疫じえきで亡くなりまして、弟と二人跡に殘りました。
初は丁度軒下に生れた狗いぬの子にふびんを掛けるやうに町内の人達がお惠下さいますので、近所中の走使などをいたして、飢ゑ凍えもせずに、育ちました。次第に大きくなりまして職を搜しますにも、なるたけ二人が離れないやうにいたして、一しよにゐて、助け合つて働きました。去年の秋の事でございます。
わたくしは弟と一しよに、西陣の織場に這入りまして、空引そらびきと云ふことをいたすことになりました。そのうち弟が病氣で働けなくなつたのでございます。其頃わたくし共は北山の掘立小屋同樣の所に寢起をいたして、紙屋川の橋を渡つて織場へ通つてをりましたが、わたくしが暮れてから、食物などを買つて歸ると、弟は待ち受けてゐて、わたくしを一人で稼がせては濟まない/\と申してをりました。或る日いつものやうに何心なく歸つて見ますと、弟は布團の上に突つ伏してゐまして、周圍は血だらけなのでございます。わたくしはびつくりいたして、手
0445名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/30(月) 23:59:55.53
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
0449名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:00:11.18
>>444
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが、其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます。弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きました。やう/\物が言へるやうになつたのでございます。『濟まない。どうぞ堪忍してくれ。どうせなほりさうにもない病氣だから、早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたのだ。笛を切つたら、すぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない。深く/\と思つて、力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた。刃は飜こぼれはしなかつたやうだ。これを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる。物を言ふのがせつなくつて可けない。どうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございます。弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏ります。わたくしはなんと云はうにも、
0450名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:00:25.01
庄兵衞はいかに桁を違へて考へて見ても、ここに彼と我との間に、大いなる懸隔のあることを知つた。自分の扶持米で立てて行く暮しは、折々足らぬことがあるにしても、大抵出納が合つてゐる。手一ぱいの生活である。然るにそこに滿足を覺えたことは殆ど無い。常は幸とも不幸とも感ぜずに過してゐる。しかし心の奧には、かうして暮してゐて、ふいとお役が御免になつたらどうしよう、大病にでもなつたらどうしようと云ふ疑懼ぎくが潜んでゐて、折々妻が里方から金を取り出して來て穴填をしたことなどがわかると、此疑懼が意識の閾の上に頭を擡げて來るのである。
 一體此懸隔はどうして生じて來るだらう。只上邊だけを見て、それは喜助には身に係累がないのに、こつちにはあるからだと云つてしまへばそれまでである。しかしそれは※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)である。よしや自分が一人者であつたとしても、どうも喜助のやうな心持にはなられさうにない。この根柢はもつと深い處にあるやうだと、庄兵衞は思つた。
0453名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:00:34.24
単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。
二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。
強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。
ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした。
左賢王さけんおうは、熱心な弟子となった。陵の祖父李広りこうの射における入神にゅうしんの技などを語るとき、蕃族ばんぞくの青年は眸ひとみをかがやかせて熱心に聞入るのである。よく二人して狩猟に出かけた。ほんの僅わずかの供廻ともまわりを連れただけで二人は縦横に曠野こうやを疾駆しっくしては狐きつねや狼おおかみや羚羊かもしかや
※(「周+鳥」、第3水準1-94-62)おおとりや雉子きじなどを射た。あるときなど夕暮れ近くなって矢も尽きかけた二人が――
二人の馬は供の者を遙はるかに駈抜かけぬいていたので――一群の狼に囲まれたことがある。馬に鞭むちうち全速力で狼群の中を駈け抜けて逃れたが、
そのとき、李陵の馬の尻しりに飛びかかった一匹を、
後ろに駈けていた青年左賢王が彎刀わんとうをもって見事みごとに胴斬どうぎりにした。あとで調べると二人の馬は狼どもに噛かみ裂かれて血だらけになっていた。そういう一日ののち、
夜、天幕てんまくの中で今日の獲物を羹あつものの中にぶちこんでフウフウ吹きながら啜すするとき、李陵は火影ほかげに顔を火照ほてらせた若い蕃王ばんおうの息子に、ふと友情のようなものをさえ感じることがあった。
0456名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:00:59.70
>>429
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
0457名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:01:13.11
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんをした。
これに酬むくいるとて、翌四年、漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ、歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた。
ひいて因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-13]将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を、游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんを、それぞれ進発する。
近来にない大北伐ほくばつである。単于ぜんうはこの報に接するや、ただちに婦女、老幼、畜群、資財の類をことごとく余吾水しょごすい(ケルレン河)北方の地に移し、自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり・路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った。連戦十余日。漢軍はついに退くのやむなきに至った。
李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは、別に一隊を率いて東方に向かい因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-18]将軍を迎えてさんざんにこれを破った。漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた。
北征は完全な失敗である。
李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず、水北に退いていたが、左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした。
もちろん、全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないが、どうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい。李陵はこれに気がついて激しく己を責めた。
0460名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:01:35.22
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
0461名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:01:50.15
>>388
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんをした。
これに酬むくいるとて、翌四年、漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ、歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた。
ひいて因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-13]将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を、游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんを、それぞれ進発する。
近来にない大北伐ほくばつである。単于ぜんうはこの報に接するや、ただちに婦女、老幼、畜群、資財の類をことごとく余吾水しょごすい(ケルレン河)北方の地に移し、自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり・路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った。連戦十余日。漢軍はついに退くのやむなきに至った。
李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは、別に一隊を率いて東方に向かい因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-18]将軍を迎えてさんざんにこれを破った。漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた。
北征は完全な失敗である。
李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず、水北に退いていたが、左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした。
もちろん、全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないが、どうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい。李陵はこれに気がついて激しく己を責めた。
0462名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:02:16.69
>>461
一度単于は李陵を呼んで軍略上の示教を乞こうたことがある。それは東胡とうこに対しての戦いだったので、陵は快く己おのが意見を述べた。次に単于が同じような相談を持ちかけたとき、それは漢軍に対する策戦についてであった。李陵はハッキリと嫌いやな表情をしたまま口を開こうとしなかった。単于も強しいて返答を求めようとしなかった。それからだいぶ久しくたったころ、代・上郡を寇掠こうりゃくする軍隊の一将として南行することを求められた。このときは、漢に対する戦いには出られない旨を言ってキッパリ断わった。爾後じご、単于は陵にふたたびこうした要求をしなくなった。待遇は依然として変わらない。他に利用する目的はなく、ただ士を遇するために士を遇しているのだとしか思われない。とにかくこの単于は男だと李陵は感じた。
 単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした
0465名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:02:50.15
>>462
「はい」と云つてあたりを見廻した喜助は、何事をかお役人に見咎められたのではないかと氣遣ふらしく、居ずまひを直して庄兵衞の氣色を伺つた。
 庄兵衞は自分が突然問を發した動機を明して、役目を離れた應對を求める分疏いひわけをしなくてはならぬやうに感じた。そこでかう云つた。「いや。別にわけがあつて聞いたのではない。實はな、己は先刻からお前の島へ往く心持が聞いて見たかつたのだ。己はこれまで此舟で大勢の人を島へ送つた。それは隨分いろいろな身の上の人だつたが、どれもどれも島へ往くのを悲しがつて、見送りに來て、一しよに舟に乘る親類のものと、夜どほし泣くに極まつてゐた。それにお前の樣子を見れば、どうも島へ往くのを苦にしてはゐないやうだ。一體お前はどう思つてゐるのだい。」
 喜助はにつこり笑つた。「御親切に仰やつて下すつて、難有うございます。なる程島へ往くといふことは、外の人には悲しい事でございませう。其心持はわたくしにも思ひ遣つて見ることが出來ます。しかしそれは世間で樂をしてゐた人だからでございます。京都は結構な土地ではございますが、その結構な土地で、これまでわたくしのいたして參つたやうな苦みは、どこへ參つてもなからうと存じます。お上のお慈悲で、命を助けて島へ遣つて下さいます。
0468名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:03:06.08
>>462
庄兵衞はいかに桁を違へて考へて見ても、ここに彼と我との間に、大いなる懸隔のあることを知つた。自分の扶持米で立てて行く暮しは、折々足らぬことがあるにしても、大抵出納が合つてゐる。手一ぱいの生活である。然るにそこに滿足を覺えたことは殆ど無い。常は幸とも不幸とも感ぜずに過してゐる。しかし心の奧には、かうして暮してゐて、ふいとお役が御免になつたらどうしよう、大病にでもなつたらどうしようと云ふ疑懼ぎくが潜んでゐて、折々妻が里方から金を取り出して來て穴填をしたことなどがわかると、此疑懼が意識の閾の上に頭を擡げて來るのである。
 一體此懸隔はどうして生じて來るだらう。只上邊だけを見て、それは喜助には身に係累がないのに、こつちにはあるからだと云つてしまへばそれまでである。しかしそれは※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)である。よしや自分が一人者であつたとしても、どうも喜助のやうな心持にはなられさうにない。この根柢はもつと深い處にあるやうだと、庄兵衞は思つた。
0470名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:03:26.72
>>468
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが、其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます。弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きました。やう/\物が言へるやうになつたのでございます。『濟まない。どうぞ堪忍してくれ。どうせなほりさうにもない病氣だから、早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたのだ。笛を切つたら、すぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない。深く/\と思つて、力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた。刃は飜こぼれはしなかつたやうだ。これを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる。物を言ふのがせつなくつて可けない。どうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございます。弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏ります。わたくしはなんと云はうにも、
0472名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:04:00.35
いつの頃であつたか。多分江戸で白河樂翁侯が政柄せいへいを執つてゐた寛政の頃ででもあつただらう。智恩院ちおんゐんの櫻が入相の鐘に散る春の夕に、これまで類のない、珍らしい罪人が高瀬舟に載せられた。
 それは名を喜助と云つて、三十歳ばかりになる、住所不定の男である。固より牢屋敷に呼び出されるやうな親類はないので、舟にも只一人で乘つた。
 護送を命ぜられて、一しよに舟に乘り込んだ同心羽田庄兵衞は、只喜助がしの罪人だと云ふことだけを聞いてゐた。さて牢屋敷から棧橋まで連れて來る間、この痩肉やせじしの、色の蒼白い喜助の樣子を見るに、いかにも神妙に、いかにもおとなしく、自分をば公儀の役人として敬つて、何事につけても逆はぬやうにしてゐる。しかもそれが、罪人の間に往々見受けるやうな、温順を裝つて權勢に媚びる態度ではない。
 庄兵衞は不思議に思つた。そして舟に乘つてからも、單に役目の表で見張つてゐるばかりでなく、絶えず喜助の擧動に、細かい注意をしてゐた。
0473名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:04:15.65
:賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき、遷は俯首流涕ふしゅりゅうていしてその命に背そむかざるべきを誓ったのである。
 父が死んでから二年ののち、はたして、司馬遷しばせんは太史令たいしれいの職を継いだ。父の蒐集しゅうしゅうした資料と、宮廷所蔵の秘冊とを用いて、すぐにも父子相伝ふしそうでんの天職にとりかかりたかったのだが、任官後の彼にまず課せられたのは暦の改正という事業であった。この仕事に没頭することちょうど満四年。太初たいしょ元年にようやくこれを仕上げると、すぐに彼は史記しきの編纂へんさんに着手した。遷、ときに年四十二。
 腹案はとうにでき上がっていた。その腹案による史書の形式は従来の史書のどれにも似ていなかった。彼は道義的批判の規準を示すものとしては春秋しゅんじゅうを推したが、事実を伝える史書としてはなんとしてもあきたらなかった。もっと事実が欲しい。教訓よりも事実が。左伝さでんや国語こくごになると、なるほど事実はある。左伝の叙事の巧妙さに至っては感嘆のほかはない。しかし、その事実を作り上げる一人一人の人についての探求がない。事件の中における彼らの姿の描出は鮮あざやかであっても、そうしたことをしでかすまでに至る彼ら一人一人の身許みもと調べの欠けているのが、司馬遷しばせんには不服だった
0476名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:04:40.52
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ、東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0479名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:04:56.80
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0480名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:05:12.27
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は、黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つつ、東へ走つて、加茂川を横ぎつて下るのであつた。此舟の中で、罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ。いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である。護送の役をする同心は、傍でそれを聞いて、罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た。所詮町奉行所の白洲しらすで、表向の口供を聞いたり、役所の机の上で、口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である。
 同心を勤める人にも、種々の性質があるから、此時只うるさいと思つて、耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へば、又しみじみと人の哀を身に引き受けて、役柄ゆゑ氣色には見せぬながら、無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた。場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に心弱い、涙脆い同心が宰領して行くことになると、其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた。
 そこで高瀬舟の護送は、町奉行所の同心仲間で、不快な職務として嫌はれてゐた。
0482名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:05:28.92
司馬氏は元もと周しゅうの史官であった。後、晋しんに入り、秦しんに仕え、漢かんの代となってから四代目の司馬談しばたんが武帝に仕えて建元けんげん年間に太史令たいしれいをつとめた。この談が遷の父である。専門たる律りつ・暦れき・易えきのほかに道家どうかの教えに精くわしくまた博ひろく儒じゅ、墨ぼく、法ほう、名めい、諸家しょかの説にも通じていたが、それらをすべて一家の見けんをもって綜すべて自己のものとしていた。己おのれの頭脳や精神力についての自信の強さはそっくりそのまま息子むすこの遷に受嗣うけつがれたところのものである。
彼が、息子に施した最大の教育は、諸学の伝授を終えてのちに、海内かいだいの大旅行をさせたことであった。当時としては変わった教育法であったが、これが後年の歴史家司馬遷に資するところのすこぶる大であったことは、いうまでもない。
 元封げんぽう元年に武帝が東、泰山たいざんに登って天を祭ったとき、たまたま周南しゅうなんで病床にあった熱血漢ねっけつかん司馬談しばたんは、天子始めて漢家の封ほうを建つるめでたきときに、己おのれ一人従ってゆくことのできぬのを慨なげき、憤を発してそのために死んだ。古今を一貫せる通史つうしの編述こそは彼の一生の念願だったのだが、単に材料の蒐集しゅうしゅうのみで終わってしまったのである。その臨終りんじゅうの光景は息子・遷せんの筆によって詳しく史記しきの最後の章に描かれている。それによると司馬談は己のまた起たちがたきを知るや遷を呼びその手を執とって、懇ねんごろに修史しゅうしの必要を説き、己おのれ太史たいしとなりながらこのことに着手せず、賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき
0483名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:05:44.95
>>481
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0484名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:05:58.45
めちゃくちゃに彼は野を歩いた。激しい憤りが頭の中で渦うずを巻いた。老母や幼児のことを考えると心は灼やけるようであったが、涙は一滴も出ない。あまりに強い怒りは涙を涸渇こかつさせてしまうのであろう。
 今度の場合には限らぬ。今まで我が一家はそもそも漢から、どのような扱いを受けてきたか? 
彼は祖父の李広りこうの最期さいごを思った。(陵の父、当戸とうこは、彼が生まれる数か月前に死んだ。陵はいわゆる、遺腹の児である。だから、少年時代までの彼を教育し鍛えあげたのは、有名なこの祖父であった。)名将李広は数次の北征に大功を樹たてながら、君側の姦佞かんねいに妨げられて何一つ恩賞にあずからなかった。部下の諸将がつぎつぎに爵位しゃくい封侯ほうこうを得て行くのに、廉潔れんけつな将軍だけは封侯はおろか、終始変わらぬ清貧せいひんに甘んじなければならなかった。最後に彼は大将軍衛青えいせいと衝突した。さすがに衛青にはこの老将をいたわる気持はあったのだが、その幕下ばっかの一軍吏ぐんりが虎とらの威いを借りて李広を辱はずかしめた。憤激した老名将はすぐその場で――陣営の中で自みずから首刎はねたのである。祖父の死を聞いて声をあげてないた少年の日の自分を、陵はいまだにハッキリと憶おぼえている。……
 陵の叔父
0487名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:06:24.41
>>483
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ、東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0489名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:06:46.81
一度単于は李陵を呼んで軍略上の示教を乞こうたことがある。それは東胡とうこに対しての戦いだったので、陵は快く己おのが意見を述べた。次に単于が同じような相談を持ちかけたとき、それは漢軍に対する策戦についてであった。李陵はハッキリと嫌いやな表情をしたまま口を開こうとしなかった。単于も強しいて返答を求めようとしなかった。
それからだいぶ久しくたったころ、代・上郡を寇掠こうりゃくする軍隊の一将として南行することを求められた。このときは、漢に対する戦いには出られない旨を言ってキッパリ断わった。爾後じご、単于は陵にふたたびこうした要求をしなくなった。待遇は依然として変わらない。他に利用する目的はなく、ただ士を遇するために士を遇しているのだとしか思われない。とにかくこの単于は男だと李陵は感じた。
 単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした
0491名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:07:06.98
島はよしやつらい所でも、鬼の栖すむ所ではございますまい。わたくしはこれまで、どこと云つて自分のゐて好い所と云ふものがございませんでした。こん度お上で島にゐろと仰やつて下さいます。そのゐろと仰やる所に落ち著いてゐることが出來ますのが、先づ何よりも難有い事でございます。それにわたくしはこんなにかよわい體ではございますが、つひぞ病氣をいたしたことがございませんから、島へ往つてから、どんなつらい爲事をしたつて、體を痛めるやうなことはあるまいと存じます。それからこん度島へお遣下さるに付きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。それをここに持つてをります。」かう云ひ掛けて、喜助は胸に手を當てた。遠島を仰せ附けられるものには、鳥目二百銅を遣すと云ふのは、當時の掟であつた。
 喜助は語を續いだ。「お恥かしい事を申し上げなくてはなりませぬが、わたくしは今日まで二百文と云ふお足を、かうして懷に入れて持つてゐたことはございませぬ。どこかで爲事しごとに取り附きたいと思つて、爲事を尋ねて歩きまして、それが見附かり次第、骨を惜まずに働きました。そして貰つた錢は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。
0492名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:07:28.59
並いる群臣は驚いた。こんなことのいえる男が世にいようとは考えなかったからである。彼らはこめかみを顫ふるわせた武帝の顔を恐る恐る見上げた。それから、自分らをあえて全躯保妻子くをまっとうしさいしをたもつの臣と呼んだこの男を待つものが何であるかを考えて、ニヤリとするのである。
 向こう見ずなその男――太史令たいしれい・
司馬遷しばせんが君前を退くと、すぐに、「全躯保妻子くをまっとうしさいしをたもつの臣」の一人が、遷せんと李陵りりょうとの親しい関係について武帝の耳に入れた。太史令は故ゆえあって弐師じし将軍と隙げきあり、遷が陵を褒ほめるのは、それによって、今度、陵に先立って出塞しゅっさいして功のなかった弐師将軍を陥おとしいれんがためであると言う者も出てきた。ともかくも、たかが星暦卜祀せいれきぼくしを司つかさどるにすぎぬ太史令の身として、あまりにも不遜ふそんな態度だというのが、一同の一致した意見である。おかしなことに、李陵の家族よりも司馬遷のほうが先に罪せられることになった。翌日、彼は廷尉ていいに下された。刑は宮きゅうと決まった。
 支那しなで昔から行なわれた肉刑にくけいの主おもなるものとして、黥けい、※(「鼻+りっとう」、第3水準1-14-65)ぎ(はなきる)、※(「非+りっとう」、第4水準2-3-25)ひ(あしきる)、宮きゅう、の四つがある。武帝の祖父・文帝ぶんていのとき、この四つのうち三つまでは廃せられたが、宮刑きゅうけいのみはそのまま残された。宮刑とはもちろん、男を男でなくする奇怪な刑罰である。これを一に腐刑ふけいともいうのは、その創きずが腐臭を放つがゆえだともいい、あるいは、腐木ふぼくの実を生ぜざるがごとき男と成り果てるからだともいう。この刑を受けた者を閹人えんじんと称し、宮廷の宦官かんがんの大部分がこれであったことは言うまでもない
0493名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:07:47.43
>>499
一度単于は李陵を呼んで軍略上の示教を乞こうたことがある。それは東胡とうこに対しての戦いだったので、陵は快く己おのが意見を述べた。次に単于が同じような相談を持ちかけたとき、それは漢軍に対する策戦についてであった。李陵はハッキリと嫌いやな表情をしたまま口を開こうとしなかった。単于も強しいて返答を求めようとしなかった。それからだいぶ久しくたったころ、代・上郡を寇掠こうりゃくする軍隊の一将として南行することを求められた。このときは、漢に対する戦いには出られない旨を言ってキッパリ断わった。爾後じご、単于は陵にふたたびこうした要求をしなくなった。待遇は依然として変わらない。他に利用する目的はなく、ただ士を遇するために士を遇しているのだとしか思われない。とにかくこの単于は男だと李陵は感じた。
 単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした
0495名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:08:45.94
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きましたやう/\物が言へるやうになつたのでございます『濟まない
どうぞ堪忍してくれどうせなほりさうにもない病氣だから早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたの笛を切つたらすぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない深く/\と思つて力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた刃は飜こぼれはしなかつたやうだこれを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる
物を言ふのがせつなくつて可けないどうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございま弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏りますわたくしはなんと云はうにも
0497名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:09:16.74
いつの頃であつたか。多分江戸で白河樂翁侯が政柄せいへいを執つてゐた寛政の頃ででもあつただらう。智恩院ちおんゐんの櫻が入相の鐘に散る春の夕に、これまで類のない、珍らしい罪人が高瀬舟に載せられた。
 それは名を喜助と云つて、三十歳ばかりになる、住所不定の男である。固より牢屋敷に呼び出されるやうな親類はないので、舟にも只一人で乘つた。
 護送を命ぜられて、一しよに舟に乘り込んだ同心羽田庄兵衞は、只喜助が弟殺しの罪人だと云ふことだけを聞いてゐた。さて牢屋敷から棧橋まで連れて來る間、この痩肉やせじしの、色の蒼白い喜助の樣子を見るに、いかにも神妙に、いかにもおとなしく、自分をば公儀の役人として敬つて、何事につけても逆はぬやうにしてゐる。しかもそれが、罪人の間に往々見受けるやうな、温順を裝つて權勢に媚びる態度ではない。
 庄兵衞は不思議に思つた。そして舟に乘つてからも、單に役目の表で見張つてゐるばかりでなく、絶えず喜助の擧動に、細かい注意をしてゐた。
0498名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:09:26.01
いつの頃であつたか。多分江戸で白河樂翁侯が政柄せいへいを執つてゐた寛政の頃ででもあつただらう。智恩院ちおんゐんの櫻が入相の鐘に散る春の夕に、これまで類のない、珍らしい罪人が高瀬舟に載せられた。
 それは名を喜助と云つて、三十歳ばかりになる、住所不定の男である。固より牢屋敷に呼び出されるやうな親類はないので、舟にも只一人で乘つた。
 護送を命ぜられて、一しよに舟に乘り込んだ同心羽田庄兵衞は、只喜助が弟殺しの罪人だと云ふことだけを聞いてゐた。さて牢屋敷から棧橋まで連れて來る間、この痩肉やせじしの、色の蒼白い喜助の樣子を見るに、いかにも神妙に、いかにもおとなしく、自分をば公儀の役人として敬つて、何事
につけても逆はぬやうにしてゐる。しかもそれが、罪人の間に往々見受けるやうな、温順を裝つて權勢に媚びる態度ではない。
 庄兵衞は不思議に思つた。そして舟に乘つてからも、單に役目の表で見張つてゐるばかりでなく、絶えず喜助の擧動に、細かい注意をしてゐた。
0499名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 00:09:42.39
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きましたやう/\物が言へるやうになつたのでございます『濟まない
どうぞ堪忍してくれどうせなほりさうにもない病氣だから早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたの笛を切つたらすぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない深く/\と思つて力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた刃は飜こぼれはしなかつたやうだこれを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる
物を言ふのがせつなくつて可けないどうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございま弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏りますわたくしはなんと云はうにも
0501名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:10:00.48
>>341
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
0502名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:10:13.91
>>499
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は、黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つつ、東へ走つて、加茂川を横ぎつて下るのであつた。此舟の中で、罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ。いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である。護送の役をする同心は、傍でそれを聞いて、罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た。所詮町奉行所の白洲しらすで、表向の口供を聞いたり、役所の机の上で、口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である。
 同心を勤める人にも、種々の性質があるから、此時只うるさいと思つて、耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へば、又しみじみと人の哀を身に引き受けて、役柄ゆゑ氣色には見せぬながら、無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた。場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に心弱い、涙脆い同心が宰領して行くことになると、其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた。
 そこで高瀬舟の護送は、町奉行所の同心仲間で、不快な職務として嫌はれてゐた。
0504名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:10:40.98
>>501
「かしこまりました」と云つて、小聲で話し出した。「どうも飛んだ心得違こゝろえちがひで、恐ろしい事をいたしまして、なんとも申し上げやうがございませぬ。
跡で思つて見ますと、どうしてあんな事が出來たかと、自分ながら不思議でなりませぬ。全く夢中でいたしましたのでございます。わたくしは小さい時に二親が時疫じえきで亡くなりまして、弟と二人跡に殘りました。初は丁度軒下に生れた狗いぬの子にふびんを掛けるやうに町内の人達がお惠下さいますので、近所中の走使などをいたして、飢ゑ凍えもせずに、育ちました。次第に大きくなりまして職を搜しますにも、なるたけ二人が離れないやうにいたして、一しよにゐて、助け合つて働きました。去年の秋の事でございます。
わたくしは弟と一しよに、西陣の織場に這入りまして、空引そらびきと云ふことをいたすことになりました。そのうち弟が病氣で働けなくなつたのでございます。其頃わたくし共は北山の掘立小屋同樣の所に寢起をいたして、紙屋川の橋を渡つて織場へ通つてをりましたが、わたくしが暮れてから、食物などを買つて歸ると、弟は待ち受けてゐて、わたくしを一人で稼がせては濟まない/\と申してをりました。或る日いつものやうに何心なく歸つて見ますと、弟は布團の上に突つ伏してゐまして、周圍は血だらけなのでございます。わたくしはびつくりいたして、手
0505名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:10:55.45
>>503
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
0506名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:11:09.27
>>507
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は、黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つつ、東へ走つて、加茂川を横ぎつて下るのであつた。此舟の中で、罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ。いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である。護送の役をする同心は、傍でそれを聞いて、罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た。所詮町奉行所の白洲しらすで、表向の口供を聞いたり、役所の机の上で、口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である。
 同心を勤める人にも、種々の性質があるから、此時只うるさいと思つて、耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へば、又しみじみと人の哀を身に引き受けて、役柄ゆゑ氣色には見せぬながら、無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた。場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に心弱い、涙脆い同心が宰領して行くことになると、其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた。
 そこで高瀬舟の護送は、町奉行所の同心仲間で、不快な職務として嫌はれてゐた。
0508名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:11:45.11
>>505
「うん、さうかい」とは云つたが、聞く事毎に餘り意表に出たので、これも暫く何も云ふことが出來ずに、考へ込んで默つてゐた。
 庄兵衞は彼此初老に手の屆く年になつてゐて、もう女房に子供を四人生ませてゐる。それに老母が生きてゐるので、家は七人暮しである。平生人には吝嗇と云はれる程の、儉約な生活をしてゐて、衣類は自分が役目のために著るものの外、寢卷しか拵へぬ位にしてゐる。しかし不幸な事には、妻を好い身代の商人の家から迎へた。そこで女房は夫の貰ふ扶持米で暮しを立てて行かうとする善意はあるが、裕な家に可哀がられて育つた癖があるので、夫が滿足する程手元を引き締めて暮して行くことが出來ない。動もすれば月末になつて勘定が足りなくなる。すると女房が内證で里から金を持つて來て帳尻を合はせる。それは夫が借財と云ふものを毛蟲のやうに嫌ふからである。さう云ふ事は所詮夫に知れずにはゐない。庄兵衞は五節句だと云つては、里方から物を貰ひ、子供の七五三の祝だと云つては、里方から子供に衣類を貰ふのでさへ、心苦しく思つてゐるのだから、暮しの穴を填うめて貰つたのに氣が附いては、好い顏はしない。格別平和を破るやうな事のない羽田の家に、折々波風の起るのは、是が原因である。
0509名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:12:00.24
>>506
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は、黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つつ、東へ走つて、加茂川を横ぎつて下るのであつた。此舟の中で、罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ。いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である。護送の役をする同心は、傍でそれを聞いて、罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た。所詮町奉行所の白洲しらすで、表向の口供を聞いたり、役所の机の上で、口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である。
 同心を勤める人にも、種々の性質があるから、此時只うるさいと思つて、耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へば、又しみじみと人の哀を身に引き受けて、役柄ゆゑ氣色には見せぬながら、無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた。場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に心弱い、涙脆い同心が宰領して行くことになると、其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた。
 そこで高瀬舟の護送は、町奉行所の同心仲間で、不快な職務として嫌はれてゐた。
0510名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:12:29.16
>>509
司馬遷しばせんの場合と違って、李陵のほうは簡単であった。憤怒ふんぬがすべてであった。(無理でも、もう少し早くかねての計画――単于ぜんうの首でも持って胡地こちを脱するという――を実行すればよかったという悔いを除いては、)ただそれをいかにして現わすかが問題であるにすぎない。彼は先刻の男の言葉「胡地こちにあって李将軍が兵を教え漢に備えていると聞いて陛下が激怒され云々うんぬん」を思出した。ようやく思い当たったのである。もちろん彼自身にはそんな覚えはないが、同じ漢の降将に李緒りしょという者がある。元、塞外都尉さいがいといとして奚侯城けいこうじょうを守っていた男だが、これが匈奴きょうどに降くだってから常に胡軍こぐんに軍略を授け兵を練っている。現に半年前の軍にも、単于に従って、(問題の公孫敖こうそんごうの軍とではないが)漢軍と戦っている。これだと李陵りりょうは思った。同じ李り将軍で、李緒りしょとまちがえられたに違いないのである。
 その晩、彼は単身、李緒の帳幕ちょうばくへと赴おもむいた。一言も言わぬ、一言も言わせぬ。ただの一刺しで李緒は斃たおれた。
>>512
0511名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:13:00.48
>>554
その左賢王に打破られた公孫敖こうそんごうが都に帰り、士卒を多く失って功がなかったとの廉かどで牢ろうに繋つながれたとき、妙な弁解をした。敵の捕虜ほりょが、匈奴軍の強いのは、漢から降くだった李り将軍が常々兵を練り軍略を授けてもって漢軍に備えさせているからだと言ったというのである。だからといって自軍が敗まけたことの弁解にはならないから、もちろん、因※いんう[#「木+于」、U+6745、40-8]将軍の罪は許されなかったが、これを聞いた武帝が、李陵に対し激怒したことは言うまでもない。一度許されて家に戻っていた陵の一族はふたたび獄ごくに収められ、今度は、陵の老母から妻・子・弟に至るまでことごとく殺された。軽薄なる世人の常とて、当時隴西ろうせい(李陵の家は隴西の出である)の士大夫したいふら皆李家を出したことを恥としたと記されている。
 この知らせが李陵の耳に入ったのは半年ほど後のこと、辺境から拉致らちされた一漢卒かんそつの口からである。それを聞いたとき、李陵は立上がってその男の胸倉むなぐらをつかみ、荒々しくゆすぶりながら、事の真偽を今一度たしかめた。たしかにまちがいのないことを知ると、彼は歯をくい縛しばり、思わず力を両手にこめた。男は身をもがいて、苦悶くもんの呻うめきを洩もらした。陵りょうの手が無意識のうちにその男の咽喉いんこうを扼やくしていたのである。陵が手を離すと、男はバッタリ地に倒れた。その姿に目もやらず、陵は帳房ちょうぼうの外へ飛出した。
 めちゃくちゃに
0513名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:14:03.83
>>508
単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。
騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした。左賢王さけんおうは、熱心な弟子となった。陵の祖父李広りこうの射における入神にゅうしんの技などを語るとき、蕃族ばんぞくの青年は眸ひとみをかがやかせて熱心に聞入るのである。よく二人して狩猟に出かけた。ほんの僅わずかの供廻ともまわりを連れただけで二人は縦横に曠野こうやを疾駆しっくしては狐きつねや狼おおかみや羚羊かもしかや
※(「周+鳥」、第3水準1-94-62)おおとりや雉子きじなどを射た。あるときなど夕暮れ近くなって矢も尽きかけた二人が――二人の馬は供の者を遙はるかに駈抜かけぬいていたので――一群の狼に囲まれたことがある。馬に鞭むちうち全速力で狼群の中を駈け抜けて逃れたが、そのとき、李陵の馬の尻しりに飛びかかった一匹を、後ろに駈けていた青年左賢王が彎刀わんとうをもって見事みごとに胴斬どうぎりにした。あとで調べると二人の馬は狼どもに噛かみ裂かれて血だらけになっていた。そういう一日ののち、夜、天幕てんまくの中で今日の獲物を羹あつものの中にぶちこんでフウフウ吹きながら啜すするとき、李陵は火影ほかげに顔を火照ほてらせた若い蕃王ばんおうの息子に、ふと友情のようなものをさえ感じることがあった。
0514名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:14:29.96
>>510
「うん、さうかい」とは云つたが、聞く事毎に餘り意表に出たので、これも暫く何も云ふことが出來ずに、考へ込んで默つてゐた。
 庄兵衞は彼此初老に手の屆く年になつてゐて、もう女房に子供を四人生ませてゐる。それに老母が生きてゐるので、家は七人暮しである。平生人には吝嗇と云はれる程の、儉約な生活をしてゐて、衣類は自分が役目のために著るものの外、寢卷しか拵へぬ位にしてゐる。し
かし不幸な事には、妻を好い身代の商人の家から迎へた。そこで女房は夫の貰ふ扶持米で暮しを立てて行かうとする善意はあるが、裕な家に可哀がられて育つた癖があるので、夫が滿足する程手元を引き締めて暮して行くことが出來ない。動もすれば月末になつて勘定が足りなくなる。すると女房が内證で里から金を持つて來て帳尻を合はせる。それは夫が借財と云ふものを毛蟲のやうに嫌ふからである。さう云ふ事は所詮夫に知れずにはゐない。庄兵衞は五節句だと云つては、里方から物を貰ひ、子供の七五三の祝だと云つては、里方から子供に衣類を貰ふのでさへ、心苦しく思つてゐるのだから、暮しの穴を填うめて貰つたのに氣が附いては、好い顏はしない。格別平和を破るやうな事のない羽田の家に、折々波風の起るのは、是が原因である。
0515名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:14:48.63
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんをした。
これに酬むくいるとて、翌四年、漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ、歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた。
ひいて因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-13]将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を、游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんを、それぞれ進発する。
近来にない大北伐ほくばつである。単于ぜんうはこの報に接するや、ただちに婦女、老幼、畜群、資財の類をことごとく余吾水しょごすい(ケルレン河)北方の地に移し、自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり・路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った。連戦十余日。漢軍はついに退くのやむなきに至った。
李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは、別に一隊を率いて東方に向かい因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-18]将軍を迎えてさんざんにこれを破った。漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた。
北征は完全な失敗である。
李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず、水北に退いていたが、左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした。
もちろん、全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないが、どうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい。李陵はこれに気がついて激しく己を責めた。
0516名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:15:13.29
>>514
>>560
賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき、遷は俯首流涕ふしゅりゅうていしてその命に背そむかざるべきを誓ったのである。
 父が死んでから二年ののち、はたして、司馬遷しばせんは太史令たいしれいの職を継いだ。父の蒐集しゅうしゅうした資料と、宮廷所蔵の秘冊とを用いて、すぐにも父子相伝ふしそうでんの天職にとりかかりたかったのだが、任官後の彼にまず課せられたのは暦の改正という事業であった。この仕事に没頭することちょうど満四年。太初たいしょ元年にようやくこれを仕上げると、すぐに彼は史記しきの編纂へんさんに着手した。遷、ときに年四十二。
 腹案はとうにでき上がっていた。その腹案による史書の形式は従来の史書のどれにも似ていなかった。彼は道義的批判の規準を示すものとしては春秋しゅんじゅうを推したが、事実を伝える史書としてはなんとしてもあきたらなかった。もっと事実が欲しい。教訓よりも事実が。左伝さでんや国語こくごになると、なるほど事実はある。左伝の叙事の巧妙さに至っては感嘆のほかはない。しかし、その事実を作り上げる一人一人の人についての探求がない。事件の中における彼らの姿の描出は鮮あざやかであっても、そうしたことをしでかすまでに至る彼ら一人一人の身許みもと調べの欠けているのが、司馬遷しばせんには不服だった
0518名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:15:44.51
>>516
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0519名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:16:15.16
>>388
>>590
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0522名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:17:55.01
>>519
>>537
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0523名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:18:09.28
>>487
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0524名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:18:22.21
>>522
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きましたやう/\物が言へるやうになつたのでございます『濟まない
どうぞ堪忍してくれどうせなほりさうにもない病氣だから早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたの笛を切つたらすぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない深く/\と思つて力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた刃は飜こぼれはしなかつたやうだこれを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる
物を言ふのがせつなくつて可けないどうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございま弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏りますわたくしはなんと云はうにも
0525名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:18:39.94
>>532
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0527名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:18:58.94
>>468
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0528名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:19:13.00
>>527
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
0529名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:19:31.80
>>528
いつの頃であつたか。多分江戸で白河樂翁侯が政柄せいへいを執つてゐた寛政の頃ででもあつただらう。智恩院ちおんゐんの櫻が入相の鐘に散る春の夕に、これまで類のない、珍らしい罪人が高瀬舟に載せられた。
 それは名を喜助と云つて、三十歳ばかりになる、住所不定の男である。固より牢屋敷に呼び出されるやうな親類はないので、舟にも只一人で乘つた。
 護送を命ぜられて、一しよに舟に乘り込んだ同心羽田庄兵衞は、只喜助が弟殺しの罪人だと云ふことだけを聞いてゐた。さて牢屋敷から棧橋まで連れて來る間、この痩肉やせじしの、色の蒼白い喜助の樣子を見るに、いかにも神妙に、いかにもおとなしく、自分をば公儀の役人として敬つて、何事につけても逆はぬやうにしてゐる。しかもそれが、罪人の間に往々見受けるやうな、温順を裝つて權勢に媚びる態度ではない。
 庄兵衞は不思議に思つた。そして舟に乘つてからも、單に役目の表で見張つてゐるばかりでなく、絶えず喜助の擧動に、細かい注意をしてゐた。
0530名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:20:17.58
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが、其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます。弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きました。やう/\物が言へるやうになつたのでございます。『濟まない。どうぞ堪忍してくれ。どうせなほりさうにもない病氣だから、早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたのだ。笛を切つたら、すぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない。深く/\と思つて、力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた。刃は飜こぼれはしなかつたやうだ。これを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる。物を言ふのがせつなくつて可けない。どうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございます。弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏ります。わたくしはなんと云はうにも、
0531名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:20:39.86
>>540
司馬遷しばせんの場合と違って、李陵のほうは簡単であった。憤怒ふんぬがすべてであった。(無理でも、もう少し早くかねての計画――単于ぜんうの首でも持って胡地こちを脱するという――を実行すればよかったという悔いを除いては、)ただそれをいかにして現わすかが問題であるにすぎない。彼は先刻の男の言葉「胡地こちにあって李将軍が兵を教え漢に備えていると聞いて陛下が激怒され云々うんぬん」を思出した。ようやく思い当たったのである。もちろん彼自身にはそんな覚えはないが、同じ漢の降将に李緒りしょという者がある。元、塞外都尉さいがいといとして奚侯城けいこうじょうを守っていた男だが、これが匈奴きょうどに降くだってから常に胡軍こぐんに軍略を授け兵を練っている。現に半年前の軍にも、単于に従って、(問題の公孫敖こうそんごうの軍とではないが)漢軍と戦っている。これだと李陵りりょうは思った。同じ李り将軍で、李緒りしょとまちがえられたに違いないのである。
 その晩、彼は単身、李緒の帳幕ちょうばくへと赴おもむいた。一言も言わぬ、一言も言わせぬ。ただの一刺しで李緒は斃たおれた。
0533名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:21:16.68
>>525
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう
文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0534名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:21:41.59
>>533
島はよしやつらい所でも、鬼の栖すむ所ではございますまい。わたくしはこれまで、どこと云つて自分のゐて好い所と云ふものがございませんでした。こん度お上で島にゐろと仰やつて下さいます。そのゐろと仰やる所に落ち著いてゐることが出來ますのが、先づ何よりも難有い事でございます。それにわたくしはこんなにかよわい體ではございますが、つひぞ病氣をいたしたことがございませんから、島へ往つてから、どんなつらい爲事をしたつて、體を痛めるやうなことはあるまいと存じます。それからこん度島へお遣下さるに付きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。それをここに持つてをります。」かう云ひ掛けて、喜助は胸に手を當てた。遠島を仰せ附けられるものには、鳥目二百銅を遣すと云ふのは、當時の掟であつた。
 喜助は語を續いだ。「お恥かしい事を申し上げなくてはなりませぬが、わたくしは今日まで二百文と云ふお足を、かうして懷に入れて持つてゐたことはございませぬ。どこかで爲事しごとに取り附きたいと思つて、爲事を尋ねて歩きまして、それが見附かり次第、骨を惜まずに働きました。そして貰つた錢は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。
0535名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:22:12.01
>>525
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0536名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:25:08.98
>>540
その左賢王に打破られた公孫敖こうそんごうが都に帰り、士卒を多く失って功がなかったとの廉かどで牢ろうに繋つながれたとき、妙な弁解をした。敵の捕虜ほりょが、匈奴軍の強いのは、漢から降くだった李り将軍が常々兵を練り軍略を授けてもって漢軍に備えさせているからだと言ったというのである。だからといって自軍が敗まけたことの弁解にはならないから、もちろん、因※いんう[#「木+于」、U+6745、40-8]将軍の罪は許されなかったが、これを聞いた武帝が、李陵に対し激怒したことは言うまでもない。一度許されて家に戻っていた陵の一族はふたたび獄ごくに収められ、今度は、陵の老母から妻・子・弟に至るまでことごとく殺された。軽薄なる世人の常とて、当時隴西ろうせい(李陵の家は隴西の出である)の士大夫したいふら皆李家を出したことを恥としたと記されている。
 この知らせが李陵の耳に入ったのは半年ほど後のこと、辺境から拉致らちされた一漢卒かんそつの口からである。それを聞いたとき、李陵は立上がってその男の胸倉むなぐらをつかみ、荒々しくゆすぶりながら、事の真偽を今一度たしかめた。たしかにまちがいのないことを知ると、彼は歯をくい縛しばり、思わず力を両手にこめた。男は身をもがいて、苦悶くもんの呻うめきを洩もらした。陵りょうの手が無意識のうちにその男の咽喉いんこうを扼やくしていたのである。陵が手を離すと、男はバッタリ地に倒れた。その姿に目もやらず、陵は帳房ちょうぼうの外へ飛出した。
 めちゃくちゃに
0537名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:26:55.63
ジグさんもジグ担さんもこれヨロです!は
神宮寺も神宮寺担さんもこれからもよろしくです!
なのね
最初この絵文字を使って!って事かと思ったw
0539名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:28:37.03
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0540名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:28:57.11
>>524
島はよしやつらい所でも、鬼の栖すむ所ではございますまい。わたくしはこれまで、どこと云つて自分のゐて好い所と云ふものがございませんでした。こん度お上で島にゐろと仰やつて下さいます。そのゐろと仰やる所に落ち著いてゐることが出來ますのが、先づ何よりも難有い事でございます。それにわたくしはこんなにかよわい體ではございますが、つひぞ病氣をいたしたことがございませんから、島へ往つてから、どんなつらい爲事をしたつて、體を痛めるやうなことはあるまいと存じます。それからこん度島へお遣下さるに付きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。それをここに持つてをります。」かう云ひ掛けて、喜助は胸に手を當てた。遠島を仰せ附けられるものには、鳥目二百銅を遣すと云ふのは、當時の掟であつた。
 喜助は語を續いだ。「お恥かしい事を申し上げなくてはなりませぬが、わたくしは今日まで二百文と云ふお足を、かうして懷に入れて持つてゐたことはございませぬ。どこかで爲事しごとに取り附きたいと思つて、爲事を尋ねて歩きまして、それが見附かり次第、骨を惜まずに働きました。そして貰つた錢は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。
0541名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:29:14.97
>>522
その左賢王に打破られた公孫敖こうそんごうが都に帰り、士卒を多く失って功がなかったとの廉かどで牢ろうに繋つながれたとき、妙な弁解をした。敵の捕虜ほりょが、匈奴軍の強いのは、漢から降くだった李り将軍が常々兵を練り軍略を授けてもって漢軍に備えさせているからだと言ったというのである。だからといって自軍が敗まけたことの弁解にはならないから、もちろん、因※いんう[#「木+于」、U+6745、40-8]将軍の罪は許されなかったが、これを聞いた武帝が、李陵に対し激怒したことは言うまでもない。一度許されて家に戻っていた陵の一族はふたたび獄ごくに収められ、今度は、陵の老母から妻・子・弟に至るまでことごとく殺された。軽薄なる世人の常とて、当時隴西ろうせい(李陵の家は隴西の出である)の士大夫したいふら皆李家を出したことを恥としたと記されている。
 この知らせが李陵の耳に入ったのは半年ほど後のこと、辺境から拉致らちされた一漢卒かんそつの口からである。それを聞いたとき、李陵は立上がってその男の胸倉むなぐらをつかみ、荒々しくゆすぶりながら、事の真偽を今一度たしかめた。たしかにまちがいのないことを知ると、彼は歯をくい縛しばり、思わず力を両手にこめた。男は身をもがいて、苦悶くもんの呻うめきを洩もらした。陵りょうの手が無意識のうちにその男の咽喉いんこうを扼やくしていたのである。陵が手を離すと、男はバッタリ地に倒れた。その姿に目もやらず、陵は帳房ちょうぼうの外へ飛出した。
 めちゃくちゃに
0542名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:29:46.99
>>388
賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき、遷は俯首流涕ふしゅりゅうていしてその命に背そむかざるべきを誓ったのである。
 父が死んでから二年ののち、はたして、司馬遷しばせんは太史令たいしれいの職を継いだ。父の蒐集しゅうしゅうした資料と、宮廷所蔵の秘冊とを用いて、すぐにも父子相伝ふしそうでんの天職にとりかかりたかったのだが、任官後の彼にまず課せられたのは暦の改正という事業であった。この仕事に没頭することちょうど満四年。太初たいしょ元年にようやくこれを仕上げると、すぐに彼は史記しきの編纂へんさんに着手した。遷、ときに年四十二。
 腹案はとうにでき上がっていた。その腹案による史書の形式は従来の史書のどれにも似ていなかった。彼は道義的批判の規準を示すものとしては春秋しゅんじゅうを推したが、事実を伝える史書としてはなんとしてもあきたらなかった。もっと事実が欲しい。教訓よりも事実が。左伝さでんや国語こくごになると、なるほど事実はある。左伝の叙事の巧妙さに至っては感嘆のほかはない。しかし、その事実を作り上げる一人一人の人についての探求がない。事件の中における彼らの姿の描出は鮮あざやかであっても、そうしたことをしでかすまでに至る彼ら一人一人の身許みもと調べの欠けているのが、司馬遷しばせんには不服だった
0544名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:30:12.62
>>388
賢君忠臣の事蹟じせきを空むなしく地下に埋もれしめる不甲斐ふがいなさを慨なげいて泣いた。「予よ死せば汝なんじ必ず太史とならん。太史とならばわが論著せんと欲するところを忘るるなかれ」といい、これこそ己に対する孝の最大なものだとて、爾なんじそれ念おもえやと繰返したとき、遷は俯首流涕ふしゅりゅうていしてその命に背そむかざるべきを誓ったのである。
 父が死んでから二年ののち、はたして、司馬遷しばせんは太史令たいしれいの職を継いだ。父の蒐集しゅうしゅうした資料と、宮廷所蔵の秘冊とを用いて、すぐにも父子相伝ふしそうでんの天職にとりかかりたかったのだが、任官後の彼にまず課せられたのは暦の改正という事業であった。この仕事に没頭することちょうど満四年。太初たいしょ元年にようやくこれを仕上げると、すぐに彼は史記しきの編纂へんさんに着手した。遷、ときに年四十二。
 腹案はとうにでき上がっていた。その腹案による史書の形式は従来の史書のどれにも似ていなかった。彼は道義的批判の規準を示すものとしては春秋しゅんじゅうを推したが、事実を伝える史書としてはなんとしてもあきたらなかった。もっと事実が欲しい。教訓よりも事実が。左伝さでんや国語こくごになると、なるほど事実はある。左伝の叙事の巧妙さに至っては感嘆のほかはない。しかし、その事実を作り上げる一人一人の人についての探求がない。事件の中における彼らの姿の描出は鮮あざやかであっても、そうしたことをしでかすまでに至る彼ら一人一人の身許みもと調べの欠けているのが、司馬遷しばせんには不服だった
>>541
>>560
0546名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:31:38.99
>>544
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
0547名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:33:01.68
>>555
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
0549名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:33:39.64
な努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0550名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:34:01.34
>>561
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
0552名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:34:22.12
島はよしやつらい所でも、鬼の栖すむ所ではございますまい。わたくしはこれまで、どこと云つて自分のゐて好い所と云ふものがございませんでした。こん度お上で島にゐろと仰やつて下さいます。そのゐろと仰やる所に落ち著いてゐることが出來ますのが、先づ何よりも難有い事でございます。それにわたくしはこんなにかよわい體ではございますが、つひぞ病氣をいたしたことがございませんから、島へ往つてから、どんなつらい爲事をしたつて、體を痛めるやうなことはあるまいと存じます。それからこん度島へお遣下さるに付きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。それをここに持つてをります。」かう云ひ掛けて、喜助は胸に手を當てた。遠島を仰せ附けられるものには、鳥目二百銅を遣すと云ふのは、當時の掟であつた。
 喜助は語を續いだ。「お恥かしい事を申し上げなくてはなりませぬが、わたくしは今日まで二百文と云ふお足を、かうして懷に入れて持つてゐたことはございませぬ。どこかで爲事しごとに取り附きたいと思つて、爲事を尋ねて歩きまして、それが見附かり次第、骨を惜まずに働きました。そして貰つた錢は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。
0553名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:34:40.48
>>552
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0554名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:34:55.15
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きましたやう/\物が言へるやうになつたのでございます『濟まない
どうぞ堪忍してくれどうせなほりさうにもない病氣だから早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたの笛を切つたらすぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない深く/\と思つて力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた刃は飜こぼれはしなかつたやうだこれを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる
物を言ふのがせつなくつて可けないどうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございま弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏りますわたくしはなんと云はうにも
0555名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:35:31.69
>>511
>>566
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも
靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
>>570
0556名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:36:27.26
>>461
今なお耳底じていにある。しかし、今疾痛しっつう惨怛さんたんを極きわめた彼の心の中に在あってなお修史の仕事を思い絶たしめないものは、その父の言葉ばかりではなかった。それは何よりも、
その仕事そのものであった。仕事の魅力とか仕事への情熱とかいう怡たのしい態ていのものではない。修史という使命の自覚には違いないとしてもさらに昂然こうぜんとして自らを恃じする自覚ではない。恐ろしく我がの強い男だったが、今度のことで、己おのれのいかにとるに足らぬものだったかをしみじみと考えさせられた。理想の抱負のと威張いばってみたところで
、所詮しょせん己は牛にふみつぶされる道傍みちばたの虫けらのごときものにすぎなかったのだ。「我」はみじめに踏みつぶされたが、修史という仕事の意義は疑えなかった。このような浅ましい身と成り果て、自信も自恃じじも失いつくしたのち、それでもなお世にながらえてこの仕事に従うということは、どう考えても怡たのしいわけはなかった。それはほとんど、いかにいとわしくとも最後までその関係を絶つことの許されない人間同士のような宿命的な因縁いんねんに近いものと、彼自身には感じられた。とにかくこの仕事のために自分は自らを殺すことができぬのだ(それも義務感からではなく、もっと肉体的な、この仕事との繋つながりによってである)ということだけはハッキリしてきた。
0557名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:37:13.46
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きましたやう/\物が言へるやうになつたのでございます『濟まない
どうぞ堪忍してくれどうせなほりさうにもない病氣だから早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたの笛を切つたらすぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない深く/\と思つて力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた刃は飜こぼれはしなかつたやうだこれを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる
物を言ふのがせつなくつて可けないどうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございま弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏りますわたくしはなんと云はうにも
0559名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:38:00.62
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ、東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0560名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:38:31.96
>>559
>>568
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも
靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
0561名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:38:49.26
「うん、さうかい」とは云つたが、聞く事毎に餘り意表に出たので、これも暫く何も云ふことが出來ずに、考へ込んで默つてゐた。
 庄兵衞は彼此初老に手の屆く年になつてゐて、もう女房に子供を四人生ませてゐる。それに老母が生きてゐるので、家は七人暮しである。平生人には吝嗇と云はれる程の、儉約な生活をしてゐて、衣類は自分が役目のために著るものの外、寢卷しか拵へぬ位にしてゐる。しかし不幸な事には、妻を好い身代の商人の家から迎へた。そこで女房は夫の貰ふ扶持米で暮しを立てて行かうとする善意はあるが、裕な家に可哀がられて育つた癖があるので、夫が滿足する程手元を引き締めて暮して行くことが出來ない。動もすれば月末になつて勘定が足りなくなる。すると女房が内證で里から金を持つて來て帳尻を合はせる。それは夫が借財と云ふものを毛蟲のやうに嫌ふからである。さう云ふ事は所詮夫に知れずにはゐない。庄兵衞は五節句だと云つては、里方から物を貰ひ、子供の七五三の祝だと云つては、里方から子供に衣類を貰ふのでさへ、心苦しく思つてゐるのだから、暮しの穴を填うめて貰つたのに氣が附いては、好い顏はしない。格別平和を破るやうな事のない羽田の家に、折々波風の起るのは、是が原因である。
0562名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:39:05.48
>>568
島はよしやつらい所でも、鬼の栖すむ所ではございますまい。わたくしはこれまで、どこと云つて自分のゐて好い所と云ふものがございませんでした。こん度お上で島にゐろと仰やつて下さいます。そのゐろと仰やる所に落ち著いてゐることが出來ますのが、先づ何よりも難有い事でございます。それにわたくしはこんなにかよわい體ではございますが、つひぞ病氣をいたしたことがございませんから、島へ往つてから、どんなつらい爲事をしたつて、體を痛めるやうなことはあるまいと存じます。それからこん度島へお遣下さるに付きまして、二百文の鳥目てうもくを戴きました。それをここに持つてをります。」かう云ひ掛けて、喜助は胸に手を當てた。遠島を仰せ附けられるものには、鳥目二百銅を遣すと云ふのは、當時の掟であつた。
 喜助は語を續いだ。「お恥かしい事を申し上げなくてはなりませぬが、わたくしは今日まで二百文と云ふお足を、かうして懷に入れて持つてゐたことはございませぬ。どこかで爲事しごとに取り附きたいと思つて、爲事を尋ねて歩きまして、それが見附かり次第、骨を惜まずに働きました。そして貰つた錢は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。
0565名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:39:46.46
>>598
>>612
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんを犯した。これに酬むくいるとて、翌四年、漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ、歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた。ひいて因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-13]将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を、游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんを、それぞれ進発する。近来にない大北伐ほくばつである。単于ぜんうはこの報に接するや、ただちに婦女、老幼、畜群、資財の類をことごとく余吾水しょごすい(ケルレン河)北方の地に移し、自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり
路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った。連戦十余日。漢軍はついに退くのやむなきに至った。李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは、別に一隊を率いて東方に向かい因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-18]将軍を迎えてさんざんにこれを破った。漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた。北征は完全な失敗である。李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず、水北に退いていたが、左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした。もちろん、全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないが、どうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい。李陵はこれに気がついて激しく己を責めた。
0566名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:40:13.98
>>565
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0567名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:40:38.72
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ、東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0568名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:40:56.99
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんをした
これに酬むくいるとて翌四年、漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ、歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた。
ひいて因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-13]将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を、游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんを、それぞれ進発する。
近来にない大北伐ほくばつである。単于ぜんうはこの報に接するや、ただちに婦女、老幼、畜群、資財の類をことごとく余吾水しょごすい(ケルレン河)北方の地に移し、自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり・路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った。連戦十余日。漢軍はついに退くのやむなきに至った。
李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは、別に一隊を率いて東方に向かい因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-18]将軍を迎えてさんざんにこれを破った。漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた。
北征は完全な失敗である。
李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず、水北に退いていたが、左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした。
もちろん、全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないが、どうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい。李陵はこれに気がついて激しく己を責めた。
0569名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:41:31.95
>>689
庄兵衞は心の内に思つた。これまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない。しかし載せて行く罪人は、いつも殆ど同じやうに、目も當てられぬ氣の毒な樣子をしてゐた。それに此男はどうしたのだらう。遊山船にでも乘つたやうな顏をしてゐる。罪は弟を殺したのださうだが、よしや其弟が惡い奴で、それをどんな行掛りになつて殺したにせよ、人の情として好い心持はせぬ筈である。この色の蒼い痩男が、その人の情と云ふものが全く缺けてゐる程の、世にも稀な惡人であらうか。どうもさうは思はれない。ひよつと氣でも狂つてゐるのではあるまいか。いやいや。それにしては何一つ辻褄の合はぬ言語や擧動がない。此男はどうしたのだらう。庄兵衞がためには喜助の態度が考へれば考へる程わからなくなるのである。
0570名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:44:32.56
>>698
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんをした
これに酬むくいるとて翌四年漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた
ひいて将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんをそれぞれ進発する
近来にない大北伐ほくばつである単于ぜんうはこの報に接するやただちに婦女老幼畜群資財の類をことごとく余吾水しょごすいケルレン河北方の地に移し
自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った連戦十余日
漢軍はついに退くのやむなきに至った

李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは別に一隊を率いて東方に向かい因木将軍を迎えてさんざんにこれを破った
漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた
北征は完全な失敗である
李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず水北に退いていたが左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした
もちろん全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないがどうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい李陵はこれに気がついて激しく己を責めた
0572名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:46:32.80
>>570其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
0573名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:47:07.09
>>580
>>581
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
 庄兵衞は心の内に思つた。これまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない。
0576名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:48:19.90
一度単于は李陵を呼んで軍略上の示教を乞こうたことがある。それは東胡とうこに対しての戦いだったので、陵は快く己おのが意見を述べた。次に単于が同じような相談を持ちかけたとき、それは漢軍に対する策戦についてであった。李陵はハッキリと嫌いやな表情をしたまま口を開こうとしなかった。単于も強しいて返答を求めようとしなかった。それからだいぶ久しくたったころ、代・上郡を寇掠こうりゃくする軍隊の一将として南行することを求められた。このときは、漢に対する戦いには出られない旨を言ってキッパリ断わった。爾後じご、単于は陵にふたたびこうした要求をしなくなった。待遇は依然として変わらない。他に利用する目的はなく、ただ士を遇するために士を遇しているのだとしか思われない。とにかくこの単于は男だと李陵は感じた。
 単于の長子・左賢王さけんおうが妙に李陵に好意を示しはじめた。好意というより尊敬といったほうが近い。二十歳を越したばかりの・粗野そやではあるが勇気のある真面目まじめな青年である。強き者への讃美さんびが、実に純粋で強烈なのだ。初め李陵のところへ来て騎射きしゃを教えてくれという。騎射といっても騎のほうは陵に劣らぬほど巧うまい。ことに、裸馬らばを駆る技術に至っては遙はるかに陵を凌しのいでいるので、李陵はただ射しゃだけを教えることにした
0580名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:49:31.21
>>576
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
0581名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:50:11.54
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した
岸独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0582名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:50:28.46
凄惨せいさんな努力
を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した
岸独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
>>967
0583名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:51:34.80
あれは浪ばかり
「かしこまりました」と云つて、小聲で話し出した。「どうも飛んだ心得違こゝろえちがひで、恐ろしい事をいたしまして、なんとも申し上げやうがございませぬ。跡で思つて見ますと、どうしてあんな事が出來たかと、自分ながら不思議でなりませぬ。全く夢中でいたしましたのでご
ざいます。わたくしは小さい時に二親が時疫じえきで亡くなりまして、弟と二人跡に殘りました。初は丁度軒下に生れた狗いぬの子にふびんを掛けるやうに町内の人達がお惠下さいますので、近所中の走使などをいたして、飢ゑ凍えもせずに、育ちました。次第に大きくなりまして職を搜しますにも、なるたけ二人が離れないやうにいたして
、一しよにゐて、助け合つて働きました。去年の秋の事でございます。わたくしは弟と一しよに、西陣の織場に這入りまして、空引そらびきと云ふことをいたすことになりました。そのうち弟が病氣で働けなくなつたのでございます。其頃わたくし共は北山の掘立小屋同樣の所に寢起をいたして、紙屋川の橋を渡つて織場へ通つてをりましたが、わたくしが暮れてから、食物などを買つて歸ると、弟は待ち受けてゐて、わたくしを一人で稼がせては濟まない/\と申してをりました。或る日いつものやうに何心なく歸つて見ますと、弟は布團の上に突つ伏してゐまして、周圍は血だらけなのでございます。わたくしはびつくりいたして、手
0584名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 00:52:23.94
>>851
浪はところどころ歯をむいて
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
0585名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 00:52:52.01
>>574
単于ぜんうは手ずから李陵の縄なわを解いた。その後の待遇も鄭重ていちょうを極めた。且※(「革+是」、第3水準1-93-79)侯そていこう単于とて先代の※(「口+句」、第3水準1-14-90)犁湖くりこ単于の弟だが、骨骼こっかくの逞たくましい巨眼き
ょがん赭髯しゃぜんの中年の偉丈夫いじょうふである。数代の単于に従って漢かんと戦ってはきたが、まだ李陵ほどの手強てごわい敵に遭あったことはないと正直に語り、陵の祖父李広りこうの名を引合いに出して陵の善戦を讃ほめた。虎とらを格殺かくさつしたり岩に矢を立てたりした飛将軍ひしょうぐん李広の驍名ぎょうめいは今もなお胡地こちにまで語り伝えられている。陵が厚遇を受けるのは、彼が強き者の子孫でありまた彼自身も強かったからである。食を頒わけるときも強壮者が美味をとり老弱者に余り物を与えるのが匈奴きょうどのふうであった。ここでは、強き者が辱はずかしめられることはけっしてない。降将李陵は一つの穹盧きゅうろと数十人の侍者じしゃとを与えられ賓客ひんきゃくの礼をもって遇ぐうせられた。
 李陵にとって奇異な生活が始まった。家は絨帳じゅうちょう穹盧きゅうろ、食物は羶肉せんにく、飲物は酪漿らくしょうと獣乳と乳醋酒にゅうさくしゅ。着物は狼おおかみや羊や熊くまの皮を綴つづり合わせた旃裘せんきゅう。牧畜と狩猟と寇掠こうりゃくと、このほかに彼らの生活はない。一望際涯いちぼうさいがいのない高原にも、しかし、河や湖や山々による境界があって、単于ぜんう直轄地ちょっかつちのほかは左賢王さけんおう右賢王
0587名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:00:06.24
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
 庄兵衞は心の内に思つた。これまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない。
0588名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:01:43.94
>>601
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
0593名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:07:21.53
>>519
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんを犯した。これに酬むくいるとて、翌四年、漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ、歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた。ひいて因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-13]将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を、游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんを、それぞれ進発する。近来にない大北伐ほくばつである。単于ぜんうはこの報に接するや、ただちに婦女、老幼、畜群、資財の類をことごとく余吾水しょごすい(ケルレン河)北方の地に移し、自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり・路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った。
連戦十余日。漢軍はついに退くのやむなきに至った。李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは、別に一隊を率いて東方に向かい因※いんう[#「木+于」、U+6745、39-18]将軍を迎えてさんざんにこれを破った。漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた。北征は完全な失敗である。李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず、水北に退いていたが、左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした。もちろん、全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないが、どうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい。李陵はこれに気がついて激しく己を責めた。
0594名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:08:39.68
姑且水こじょすいを北に溯さかのぼり※(「到」の「りっとう」に代えて「おおざと」
第3水準1-92-67)居水しっきょすいとの合流点からさらに西北に森林地帯を突切るまだ所々に雪の残っている川岸を進むこと数日
ようやく北海ほっかいの碧あおい水が森と野との向こうに見え出したころこの地方の住民なる丁霊族ていれいぞくの案内人は李陵の一行を一軒の哀れな丸太小舎ごやへと導いた。小舎の住人が珍しい人声に驚かされて、弓矢を手に表へ出て来た
頭から毛皮を被かぶった鬚ひげぼうぼうの熊くまのような山男の顔の中に
李陵がかつての移中厩監いちゅうきゅうかん蘇子卿そしけいの俤おもかげを見出してからも
先方がこの胡服こふくの大官を前さきの騎都尉きとい李少卿りしょうけいと認めるまでにはなおしばらくの時間が必要であった
蘇武そぶのほうでは陵が匈奴きょうどに事つかえていることも全然聞いていなかったのである
 感動が陵の内に在あって今まで武との会見を避けさせていたものを一瞬圧倒し去った二人とも初めほとんどものが言えなかった
0595名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:11:10.59
司馬遷しばせんの場合と違って李陵のほうは簡単であった
憤怒ふんぬがすべてであった
無理でももう少し早くかねての計画単于ぜんうの首でも持って胡地こちを脱するというを実行すればよかったという悔いを除いては
ただそれをいかにして現わすかが問題であるにすぎない彼は先刻の男の言葉「胡地こちにあって李将軍が兵を教え漢に備えていると聞いて陛下が激怒され云々うんぬん」を思出した
ようやく思い当たったのである
もちろん彼自身にはそんな覚えはないが同じ漢の降将に李緒りしょという者がある
元塞外都尉さいがいといとして奚侯城けいこうじょうを守っていた男だがこれが匈奴きょうどに降くだってから常に胡軍こぐんに軍略を授け兵を練っている
現に半年前の軍にも単于に従って問題の公孫敖こうそんごうの軍とではないが漢軍と戦っている
これだと李陵りりょうは思った同じ李り将軍で
李緒りしょとまちがえられたに違いないのである
 その晩彼は単身李緒の帳幕ちょうばくへと赴おもむいた一言も言わぬ
一言も言わせぬただの一刺しで李緒は斃たおれた
0596名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:11:45.73
>>599
>>603
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんをした
これに酬むくいるとて翌四年漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた
ひいて将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんをそれぞれ進発する
近来にない大北伐ほくばつである単于ぜんうはこの報に接するやただちに婦女老幼畜群資財の類をことごとく余吾水しょごすいケルレン河北方の地に移し
自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った連戦十余日
漢軍はついに退くのやむなきに至った

李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは別に一隊を率いて東方に向かい因木将軍を迎えてさんざんにこれを破った
漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた
北征は完全な失敗である
李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず水北に退いていたが左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした
もちろん全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの
敗戦とを望んでいたには違いないがどうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい李陵はこれに気がついて激しく己を責めた
0597名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:12:44.71
>>777
>>701
「はい」と云つてあたりを見廻した喜助は、何事をかお役人に見咎められたのではないかと氣遣ふらしく、居ずまひを直して庄兵衞の氣色を伺つた。
 庄兵衞は自分が突然問を發した動機を明して、役目を離れた應對を求める分疏いひわけをしなくてはならぬやうに感じた。そこでかう云つた。「いや。別にわけがあつて聞いたのではない。實はな、己は先刻からお前の島へ往く心持が聞いて見たかつたのだ。己はこれまで此舟で大勢の人を島へ送つた。それは隨分いろいろな身の上の人だつたが、どれもどれも島へ往くのを悲しがつて、見送りに來て、一しよに舟に乘る親類のものと、夜どほし泣くに極まつてゐた。それにお前の樣子を見れば、どうも島へ往くのを苦にしてはゐないやうだ。一體お前はどう思つてゐるのだい。」
 喜助はにつこり笑つた。「御親切に仰やつて下すつて、難有うございます。なる程島へ往くといふことは、外の人には悲しい事でございませう。其心持はわたくしにも思ひ遣つて見ることが出來ます。しかしそれは世間で樂をしてゐた人だからでございます。京都は結構な土地ではございますが、その結構な土地で、これまでわたくしのいたして參つたやうな苦みは、どこへ參つてもなからうと存じます。お上のお慈悲で、命を助けて島へ遣つて下さいます。
0598名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:16:24.57
>>603
>>607
姑且水こじょすいを北に溯さかのぼり※(「到」の「りっとう」に代えて「おおざと」
第3水準1-92-67)居水しっきょすいとの合流点からさらに西北に森林地帯を突切るまだ所々に雪の残っている川岸を進むこと数日
ようやく北海ほっかいの碧あおい水が森と野との向こうに見え出したころこの地方の住民なる
丁霊族ていれいぞくの案内人は李陵の一行を一軒の哀れな丸太小舎ごやへと導いた
小舎の住人が珍しい人声に驚かされて弓矢を手に表へ出て来た
頭から毛皮を被かぶった鬚ひげぼうぼうの熊くまのような山男の顔の中に
李陵がかつての移中厩監いちゅうきゅうかん
蘇子卿そしけいの俤おもかげを見出してからも
先方がこの胡服こふくの大官を前さきの騎都尉きとい李少卿りしょうけいと認めるまでにはなおしばらくの時間が必要であった
蘇武そぶのほうでは陵が匈奴きょうどに事つかえていることも全然聞いていなかったのである
 感動が陵の内に在あって今まで武との会見を避けさせていたものを一瞬圧倒し去った二人とも初めほとんどものが言えなかった
0600名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:17:17.22
>>596
憤怒ふんぬがすべてであった
無理でももう少し早くかねての計画単于ぜんうの首でも持って胡地こちを脱するというを実行すればよかったという悔いを除いては
ただそれをいかにして現わすかが問題であるにすぎない彼は先刻の男の言葉「胡地こちにあって李将軍が兵を教え漢に備えていると聞いて陛下が激怒され云々うんぬん」を思出した
ようやく思い当たったのである
もちろん彼自身にはそんな覚えはないが同じ漢の降将に李緒りしょという者がある
元塞外都尉さいがいといとして奚侯城けいこうじょうを守っていた男だがこれが匈奴きょうどに降くだってから常に胡軍こぐんに軍略を授け兵を練っている
現に半年前の軍にも単于に従って問題の公孫敖こうそんごうの軍とではないが漢軍と戦っている
これだと李陵りりょうは思った同じ李り将軍で
李緒りしょとまちがえられたに違いないのである
 その晩彼は単身李緒の帳幕ちょうばくへと赴おもむいた一言も言わぬ
一言も言わせぬただの一刺しで李緒は斃たおれた
0601名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:17:45.68
>>596
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも
靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
0602名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:18:43.50
>>608
>>604
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
浪はところどころ歯をむいて其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも
靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
>>609
>>610
0604名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:24:24.03
>>602
司馬遷しばせんの場合と違って李陵のほうは簡単であった
無理でももう少し早くかねての計画単于ぜんうの首でも持って胡地こちを脱するというを実行すればよかったという悔いを除いては
ただそれをいかにして現わすかが問題であるにすぎない彼は先刻の男の言葉「胡地こちにあって李将軍が兵を教え漢に備えていると聞いて陛下が激怒され云々うんぬん」を思出した
ようやく思い当たったのである
もちろん彼自身にはそんな覚えはないが同じ漢の降将に李緒りしょという者がある
元塞外都尉さいがいといとして奚侯城けいこうじょうを守っていた男だがこれが匈奴きょうどに降くだってから常に胡軍こぐんに軍略を授け兵を練っている
現に半年前の軍にも単于に従って問題の公孫敖こうそんごうの軍とではないが漢軍と戦っている
これだと李陵りりょうは思った同じ李り将軍で
李緒りしょとまちがえられたに違いないのである
 その晩彼は単身李緒の帳幕ちょうばくへと赴おもむいた一言も言わぬ
一言も言わせぬただの一刺しで李緒は斃たおれた
0606名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:32:45.51
庄兵衞はいかに桁を違へて考へて見ても、ここに彼と我との間に、大いなる懸隔のあることを知つた。自分の扶持米で立てて行く暮しは、折々足らぬことがあるにしても、大抵出納が合つてゐる。
手一ぱいの生活である。然るにそこに滿足を覺えたことは殆ど無い。常は幸とも不幸とも感ぜずに過してゐる。しかし心の奧には、かうして暮してゐて、ふいとお役が御免になつたらどうしよう、大病にでもなつたらどうしようと云ふ疑懼ぎくが潜んでゐて、折々妻が里方から金を取り出して來て穴填をしたことなどがわかると、此疑懼が意識の閾の上に頭を擡げて來るのである。
 一體此懸隔はどうして生じて來るだらう。只上邊だけを見て、それは喜助には身に係累がないのに、こつちにはあるからだと云つてしまへばそれまでである。しかしそれは※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)である。よしや自分が一人者であつたとしても、どうも喜助のやうな心持にはなられさうにない。この根柢はもつと深い處にあるやうだと、庄兵衞は思つた。
0608名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:34:02.55
新会社の社長にのんのエージェント会社社長って文春来てる
アニマルには朗報だけどあの事務所が本当にこの人に頼むかな?
0610名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:48:04.90
>>602
いかに桁を違へて考へて見ても、ここに彼と我との間に、大いなる懸隔のあることを知つた。自分の扶持米で立てて行く暮しは、折々足らぬことがあるにしても、大抵出納が合つてゐる。手一ぱいの生活である。然るにそこに滿足を覺えたことは殆ど無い。常は幸とも不幸とも感ぜずに過してゐる。しかし心の奧には、かうして暮してゐて、ふいとお役が御免になつたらどうしよう、大病にでもなつたらどうしようと云ふ疑懼ぎくが潜んでゐて、折々妻が里方から金を取り出して來て穴填をしたことなどがわかると、此疑懼が意識の閾の上に頭を擡げて來るのである。
 一體此懸隔はどうして生じて來るだらう。只上邊だけを見て、それは喜助には身に係累がないのに、こつちにはあるからだと云つてしまへばそれまでである。しかしそれは※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)である。よしや自分が一人者であつたとしても、どうも喜助のやうな心持にはなられさうにない。この根柢はもつと深い處にあるやうだと、庄兵衞は思つた。
0611名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:48:35.85
>>610
>>620
いつの頃であつたか。多分江戸で白河樂翁侯が政柄せいへいを執つてゐた寛政の頃ででもあつただらう。智恩院ちおんゐんの櫻が入相の鐘に散る春の夕に、これまで類のない、珍らしい罪人が高瀬舟に載せられた。
 それは名を喜助と云つて、三十歳ばかりになる、住所不定の男である。固より牢屋敷に呼び出されるやうな親類はないので、舟にも只一人で乘つた。
 護送を命ぜられて、一しよに舟に乘り込んだ同心羽田庄兵衞は、只喜助が弟殺しの罪人だと云ふことだけを聞いてゐた。さて牢屋敷から棧橋まで連れて來る間、この痩肉やせじしの、色の蒼白い喜助の樣子を見るに、いかにも神妙に、いかにもおとなしく、自分をば公儀の役人として敬つて、何事につけても逆はぬやうにしてゐる。しかもそれが、罪人の間に往々見受けるやうな、温順を裝つて權勢に媚びる態度ではない。
 庄兵衞は不思議に思つた。そして舟に乘つてからも、單に役目の表で見張つてゐるばかりでなく、絶えず喜助の擧動に、細かい注意をしてゐた。
0612名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:49:13.63
>>598
>>612
その左賢王に打破られた公孫敖こうそんごうが都に帰り、士卒を多く失って功がなかったとの廉かどで牢ろうに繋つながれたとき、妙な弁解をした。敵の捕虜ほりょが、匈奴軍の強いのは、漢から降くだった李り将軍が常々兵を練り軍略を授けてもって漢軍に備えさせているからだと言ったというのである。だからといって自軍が敗まけたことの弁解にはならないから、もちろん、因※いんう[#「木+于」、U+6745、40-8]将軍の罪は許されなかったが、これを聞いた武帝が、李陵に対し激怒したことは言うまでもない。一度許されて家に戻っていた陵の一族はふたたび獄ごくに収められ、今度は、陵の老母から妻・子・弟に至るまでことごとく殺された。軽薄なる世人の常とて、当時隴西ろうせい(李陵の家は隴西の出である)の士大夫したいふら皆李家を出したことを恥としたと記されている。
 この知らせが李陵の耳に入ったのは半年ほど後のこと、辺境から拉致らちされた一漢卒かんそつの口からである。それを聞いたとき、李陵は立上がってその男の胸倉むなぐらをつかみ、荒々しくゆすぶりながら、事の真偽を今一度たしかめた。たしかにまちがいのないことを知ると、彼は歯をくい縛しばり、思わず力を両手にこめた。男は身をもがいて、苦悶くもんの呻うめきを洩もらした。陵りょうの手が無意識のうちにその男の咽喉いんこうを扼やくしていたのである。陵が手を離すと、男はバッタリ地に倒れた。その姿に目もやらず、陵は帳房ちょうぼうの外へ飛出した。
>>614
>>622
0613名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:50:43.71
>>596
>>689
李陵には土地は与えられない。単于麾下きかの諸将とともにいつも単于に従っていた。隙すきがあったら単于の首でも、と李陵は狙ねらっていたが、容易に機会が来ない。たとい、単于を討果たしたとしても、その首を持って脱出することは、非常な機会に恵まれないかぎり、まず不可能であった。胡地こちにあって単于と刺違えたのでは、匈奴きょうどは己おのれの不名誉を有耶無耶うやむやのうちに葬ってしまうこと必定ひつじょうゆえ、おそらく漢に聞こえることはあるまい。李陵は辛抱強しんぼうづよく、その不可能とも思われる機会の到来を待った。
 単于ぜんうの幕下ばっかには、李陵りりょうのほかにも漢の降人こうじんが幾人かいた。その中の一人、衛律えいりつという男は軍人ではなかったが、丁霊王ていれいおうの位を貰もらって最も重く単于に用いられている。その父は胡人こじんだが、故ゆえあって衛律は漢の都で生まれ成長した。武帝に仕えていたのだが、先年協律都尉きょうりつとい李延年りえんねんの事に坐ざするのを懼おそれて、亡にげて匈奴きょうどに帰きしたのである。血が血だけに胡風こふうになじむことも速く、相当の才物でもあり、常に且※(「革+是」、第3水準1-93-79)侯そていこう単于ぜんうの帷幄いあくに参じてすべての画策に与あずかっていた。李陵はこの衛律を始め、漢人かんじんの降くだって匈奴の中にあるものと、ほとんど口をきかなかった。彼の頭の中にある計画について事をともにすべき人物がいないと思われたのである。そういえば、他の漢人同士の間でもまた、互いに妙に気まずいものを感じるらしく、相互に親しく交わることがないようであった。
>>711
>>632
0614名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:51:25.46
場合と違って李陵のほうは簡単であった憤怒ふんぬがすべてであった
無理でももう少し早くかねての計画単于ぜんうの首でも持って胡地こちを脱するというを実行すればよかったという悔いを除いては
ただそれをいかにして現わすかが問題であるにすぎない彼は先刻の男の言葉「胡地こちにあって李将軍が兵を教え漢に備えていると聞いて陛下が激怒され云々うんぬん」を思出した
ようやく思い当たったのである
もちろん彼自身にはそんな覚えはないが同じ漢の降将に李緒りしょという者がある
元塞外都尉さいがいといとして奚侯城けいこうじょうを守っていた男だがこれが匈奴きょうどに降くだってから常に胡軍こぐんに軍略を授け兵を練っている
現に半年前の軍にも単于に従って問題の公孫敖こうそんごうの軍とではないが漢軍と戦っている
これだと李陵りりょうは思った同じ李り将軍で
李緒りしょとまちがえられたに違いないのである
 その晩彼は単身李緒の帳幕ちょうばくへと赴おもむいた一言も言わぬ
一言も言わせぬただの一刺しで李緒は斃たおれた
0615名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 01:54:05.93
>>864
李陵りりょうにとって蘇武そぶは二十年来の友であった。かつて時を同じゅうして侍中じちゅうを勤めていたこともある。片意地でさばけないところはあるにせよ、確かにまれに見る硬骨の士であることは疑いないと陵は思っていた。天漢元年に蘇武が北へ立ってからまもなく、武の老母が病死したときも、陵は陽陵ようりょうまでその葬を送った。蘇武の妻が良人おっとのふたたび帰る見込みなしと知って、去って他家に嫁かした噂うわさを聞いたのは、陵の北征出発直前のことであった。そのとき、陵は友のためにその妻の浮薄をいたく憤った。
 しかし、はからずも自分が匈奴きょうどに降くだるようになってからのちは、もはや蘇武に会いたいとは思わなかった。武が遙はるか北方に遷うつされていて顔を合わせずに済むことをむしろ助かったと感じていた。ことに、己おのれの家族が戮りくせられてふたたび漢に戻る気持を失ってからは、いっそうこの「漢節を持した牧羊者」との面接を避けたかった。
 狐鹿姑ころくこ単于ぜんうが父の後あとを嗣ついでから数年後
0617名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 02:14:20.11
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
0618名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 02:15:10.89
>>618
>>619
いかに桁を違へて考へて見ても、ここに彼と我との間に、大いなる懸隔のあることを知つた。自分の扶持米で立てて行く暮しは、折々足らぬことがあるにしても、大抵出納が合つてゐる。手一ぱいの生活である。然るにそこに滿足を覺えたことは殆ど無い。常は幸とも不幸とも感ぜずに過してゐる。しかし心の奧には、かうして暮してゐて、ふいとお役が御免になつたらどうしよう、大病にでもなつたらどうしようと云ふ疑懼ぎくが潜んでゐて、折々妻が里方から金を取り出して來て穴填をしたことなどがわかると、此疑懼が意識の閾の上に頭を擡げて來るのである。
 一體此懸隔はどうして生じて來るだらう。只上邊だけを見て、それは喜助には身に係累がないのに、こつちにはあるからだと云つてしまへばそれまでである。しかしそれは※(「言+墟のつくり」、第4水準2-88-74)である。よしや自分が一人者であつたとしても、どうも喜助のやうな心持にはなられさうにない。この根柢はもつと深い處にあるやうだと、庄兵衞は思つた。
0636名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:30:00.51
>>613
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが、其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます。弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きました。やう/\物が言へるやうになつたのでございます。『濟まない。どうぞ堪忍してくれ。どうせなほりさうにもない病氣だから、早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたのだ。笛を切つたら、すぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない。深く/\と思つて、力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた。刃は飜こぼれはしなかつたやうだ。これを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる。物を言ふのがせつなくつて可けない。どうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございます。弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏ります。わたくしはなんと云はうにも、
0637名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:30:24.11
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連や彼らの諂諛てんゆを見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
0638名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:31:20.45
>>635
>>648
しかし、はからずも自分が匈奴きょうどに降くだるようになってからのちは、もはや蘇武に会いたいとは思わなかった。武が遙はるか北方に遷うつされていて顔を合わせずに済むことをむしろ助かったと感じていた。ことに、己おのれの家族が戮りくせられてふたたび漢に戻る気持を失ってからは、いっそうこの「漢節を持した牧羊者」との面接を避けたかった。
 狐鹿姑ころくこ単于ぜんうが父の後あとを嗣ついでから数年後、一時蘇武が生死不明との噂うわさが伝わった。父単于がついに降服させることのできなかったこの不屈の漢使の存在を思出した狐鹿姑単于は、蘇武の安否を確かめるとともに、もし健在ならば今一度降服を勧告するよう、李陵に頼んだ。陵が武の友人であることを聞いていたのである。やむを得ず陵は北へ向かった。
 姑且水こじょすいを北に溯さかのぼり※(「到」の「りっとう」に代えて「おおざと」、第3水準1-92-67)居水しっきょすいとの合流点からさらに西北に森林地帯を突切る。まだ所々に雪の残っている川岸を進むこと数日
0639名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:33:18.94
>>630
>>649
岸を進むこと数日、ようやく北海ほっかいの碧あおい水が森と野との向こうに見え出したころ、この地方の住民なる丁霊族ていれいぞくの案内人は李陵の一行を一軒の哀れな丸太小舎ごやへと導いた。
小舎の住人が珍しい人声に驚かされて、弓矢を手に表へ出て来た、頭から毛皮を被かぶった鬚ひげぼうぼうの熊くまのような山男の顔の中に、李陵がかつての移中厩監いちゅうきゅうかん蘇子卿そしけいの俤おもかげを見出してからも、
先方がこの胡服こふくの大官を前さきの騎都尉きとい李少卿りしょうけいと認めるまでにはなおしばらくの時間が必要であった。蘇武そぶのほうでは陵が匈奴きょうどに事つかえていることも全然聞いていなかったのである。
 感動が、陵の内に在あって今まで武との会見を避けさせていたものを一瞬圧倒し去った。二人とも初めほとんどものが言えなかった。
0640名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:35:16.32
>>625
>>656
この男は何を目あてに生きているのかと李陵は怪しんだ。いまだに漢に帰れる日を待ち望んでいるのだろうか。蘇武の口うらから察すれば、いまさらそんな期待は少しももっていないようである。それではなんのためにこうした惨憺さんたんたる日々をたえ忍んでいるのか? 単于ぜんうに降服を申出れば重く用いられることは請合うけあいだが、それをする蘇武そぶでないことは初めから分り切っている。陵の怪しむのは、なぜ早く自みずから生命を絶たないのかという意味であった。李陵りりょう自身が希望のない生活を自らの手で断ち切りえないのは、いつのまにかこの地に根を下おろして了しまった数々の恩愛や義理のためであり、またいまさら死んでも格別漢のために義を立てることにもならないからである。蘇武の場合は違う。彼にはこの地での係累けいるいもない。漢朝に対する忠信という点から考えるなら、いつまでも節旄せつぼうを持して曠野こうやに飢えるのと、ただちに節旄を焼いてのち自ら首刎はねるのとの間
>>652
0641名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:36:28.26
>>639
場合と違って李陵のほうは簡単であった
がすべてであった
無理でももう少し早くかねての計画単于ぜんうの首でも持って胡地こちを脱するというを実行すればよかったという悔いを除いては
ただそれをいかにして現わすかが問題であるにすぎない彼は先刻の男の言葉「胡地こちにあって李将軍が兵を教え漢に備えていると聞いて陛下が激怒され云々うんぬん」を思出した
ようやく思い当たったのである
もちろん彼自身にはそんな覚えはないが同じ漢の降将に李緒りしょという者がある
元塞外都尉さいがいといとして奚侯城けいこうじょうを守っていた男だがこれが匈奴きょうどに降くだってから常に胡軍こぐんに軍略を授け兵を練っている
現に半年前の軍にも単于に従って問題の公孫敖こうそんごうの軍とではないが漢軍と戦っている
これだと李陵りりょうは思った同じ李り将軍で
李緒りしょとまちがえられたに違いないのである
 その晩彼は単身李緒の帳幕ちょうばくへと赴おもむいた一言も言わぬ
一言も言わせぬただの一刺しで李緒は斃たおれた
0642名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:37:42.00
>>633
>>652
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は、
黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つつ、東へ走つて、加茂川を横ぎつて下るのであつた。此舟の中で、罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ。いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である。護送の役をする同心は、傍でそれを聞いて、罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た。所詮町奉行所の白洲しらすで、表向の口供を聞いたり、役所の机の上で、口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である。
 同心を勤める人にも、種々の性質があるから、此時只うるさいと思つて、耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へば、又しみじみと人の哀を身に引き受けて、役柄ゆゑ氣色には見せぬながら、無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた。場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に心弱い、涙脆い同心が宰領して行くことになると、其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた。
 そこで高瀬舟の護送は、町奉行所の同心仲間で、不快な職務として嫌はれてゐた。
0643名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:38:47.64
>>641
恬てんとして既往を忘れたふりのできる顕官けんかん連
や彼らの諂諛てんゆを
見破るほどに聡明そうめいではありながらなお真実に耳を傾けることを嫌きらう君主が
浪はところどころ歯をむいて
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きました
0644名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:39:33.50
>>642
>>660
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
ゆえに
0645名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:40:03.55
>>618
>>664
「うん、さうかい」とは云つたが、聞く事毎に餘り意表に出たので、これも暫く何も云ふことが出來ずに、考へ込んで默つてゐた。
 庄兵衞は彼此初老に手の屆く年になつてゐて、もう女房に子供を四人生ませてゐる。それに老母が生きてゐるので、家は七人暮しである。平生人には吝嗇と云はれる程の、儉約な生活をしてゐて、衣類は自分が役目のために著るものの外、寢卷しか拵へぬ位にしてゐる。しかし不幸な事には、妻を好い身代の商人の家から迎へた。そこで女房は夫の貰ふ扶持米で暮しを立てて行かうとする善意はあるが、裕な家に可哀がられて育つた癖があるので、夫が滿足する程手元を引き締めて暮して行くことが出來ない。動もすれば月末になつて勘定が足りなくなる。すると女房が内證で里から金を持つて來て帳尻を合はせる。それは夫が借財と云ふものを毛蟲のやうに嫌ふからである。さう云ふ事は所詮夫に知れずにはゐない。庄兵衞は五節句だと云つては、里方から物を貰ひ、子供の七五三の祝だと云つては、里方から子供に衣類を貰ふのでさへ、心苦しく思つてゐるのだから、暮しの穴を填うめて貰つたのに氣が附いては、好い顏はしない。格別平和を破るやうな事のない羽田の家に、折々波風の起るのは、是が原因である。
0646名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:41:03.83
>>639
>>667
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ
東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく
思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに
胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐたと
0648名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:42:25.12
>>642
>>665
いつまでも節旄せつぼうを持して曠野こうやに飢えるのと、ただちに節旄を焼いてのち自ら首刎はねるのとの間に、別に差異はなさそうに思われる。はじめ捕えられたとき、いきなり自分の胸を刺した蘇武に、今となって急に死を恐れる心が萌きざしたとは考えられない。李陵は、若いころの蘇武の片意地を――滑稽こっけいなくらい強情な痩我慢やせがまんを思出した。単于ぜんうは栄華を餌えに極度の困窮こんきゅうの中から蘇武を釣つろうと試みる。餌につられるのはもとより、苦難に堪たええずして自ら殺すこともまた、単于に(あるいはそれによって象徴される運命に)負けることになる。蘇武はそう考えているのではなかろうか。運命と意地の張合いをしているような蘇武の姿が、しかし、李陵には滑稽や笑止しょうしには見えなかった。想像を絶した困苦・欠乏・酷寒・孤独を、(しかもこれから死に至るまでの長い間を)平然と笑殺していかせるものが、意地だとすれば、この意地こそは誠まことに凄すさまじくも壮大なものと言わねばならぬ。昔の多少は大人おとなげなく見えた蘇武の痩我慢やせがまんが
>>672 >>671
0649名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:45:02.42
>>694
>>678
誠まことに凄すさまじくも壮大なものと言わねばならぬ
昔の多少は大人おとなげなく見えた蘇武の痩我慢やせがまんが
かかる大我慢にまで成長しているのを見て李陵は驚嘆した
しかもこの男は自分の行ないが漢にまで知られることを予期していない
自分がふたたび漢に迎えられることはもとより
自分がかかる無人の地で困苦と戦いつつあることを漢はおろか匈奴きょうどの単于にさえ伝えてくれる人間の出て来ることをも期待していなかった
誰にもみとられずに独り死んでいくに違いないその最後の日に
自みずから顧みて最後まで運命を笑殺しえたことに満足して死んでいこうというのだ
誰一人己おのが事蹟じせきを知ってくれなくともさしつかえないというのである
李陵りりょうはかつて先代単于ぜんうの首を狙ねらいながら
その目的を果たすとも自分がそれをもって匈土きょうどの地を脱走しえなければせっかくの行為が空むなしく
漢にまで聞こえないであろうことを恐れてついに決行の機を見出しえなかった人に知られざることを憂えぬ蘇武そぶを前にして
彼はひそかに冷汗の出る思いであった
>>690 >>723
0650名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:45:47.14
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、
やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、
あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみであるか。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
 庄兵衞は心の内に思つた。これまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない。
0651名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 03:47:11.55
>>723
>>821
最初の感動が過ぎ、二日三日とたつうちに、李陵の中にやはり一種のこだわりができてくるのをどうすることもできなかった。
何を語るにつけても、己おのれの過去と蘇武のそれとの対比がいちいちひっかかってくる。
蘇武は義人ぎじん、自分は売国奴ばいこくどと、
それほどハッキリ考えはしないけれども、
森と野と水との沈黙によって多年の間鍛え上げられた蘇武の厳きびしさの前には己の行為に対する
唯一の弁明であった今までのわが苦悩のごときは一溜ひとたまりもなく圧倒されるのを感じないわけにいかない。
それに、気のせいか、日ひにちが立つにつれ、蘇武の己に対する態度の中に、何か富者が貧者に対するときのような
――己の優越を知ったうえで相手に寛大であろうとする者の態度を感じはじめた。
どことハッキリはいえないが、どうかした拍子ひょうしにひょいとそういうものの感じられることがある。
0654名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 04:27:59.82
>>648
>>653
いつまでも節旄せつぼうを持して曠野こうやに飢えるのと、ただちに節旄を焼いてのち自ら首刎はねるのとの間に、別に差異はなさそうに思われる。はじめ捕えられたとき
いきなり自分の胸を刺した蘇武に、今となって急に死を恐れる心が萌きざしたとは考えられない。
李陵は、若いころの蘇武の片意地を――滑稽こっけいなくらい強情な痩我慢やせがまんを思出した。単于ぜんうは栄華を餌えに極度の困窮こんきゅうの中から蘇武を釣つろうと試みる。餌につられるのはもとより、苦難に堪たええずして自ら殺すこともまた、単于に(あるいはそれによって象徴される運命に)負けることになる。蘇武はそう考えているのではなかろうか。運命と意地の張合いをしているような蘇武の姿が、しかし、李陵には滑稽や笑止しょうしには見えなかった。想像を絶した困苦・欠乏・酷寒・孤独を、(しかもこれから死に至るまでの長い間を)平然と笑殺していかせるものが、意地だとすれば、この意地こそは誠まことに凄すさまじくも壮大なものと言わねばならぬ。昔の多少は大人おとなげなく見えた蘇武の痩我慢やせがまんが、
0655名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 04:28:46.52
>>654
>>663
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも
靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れないと
0656名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 04:29:47.94
>>656
>>657
男は何を目あてに生きているのかと李陵は怪しんだ
いまだに漢に帰れる日を待ち望んでいるのだろうか。
蘇武の口うらから察すれば、いまさらそんな期待は少しももっていないようである。それではなんのためにこうした惨憺さんたんたる日々をたえ忍んでいるのか? 単于ぜんうに降服を申出れば重く用いられることは請合うけあいだが、それをする蘇武そぶでないことは初めから分り切っている。陵の怪しむのは、
なぜ早く自みずからを絶たないのかという意味であった。李陵りりょう自身が希望のない生活を自らの手で断ち切りえないのは、いつのまにかこの地に根を下おろして了しまった数々の恩愛や義理のためであり、またいまさら死んでも格別漢のために義を立てることにもならないからである。
蘇武の場合は違う。
彼にはこの地での係累けいるいもない。
漢朝に対する忠信という点から考えるなら、いつまでも節旄せつぼうを持して曠野こうやに飢えるのと、ただちに節旄を焼いてのち自ら首刎はねるのとの間
0657名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 04:33:28.44
誠まことに凄すさまじくも壮大なものと言わねばならぬ
昔の多少は大人おとなげなく見えた蘇武の痩我慢やせがまんが
かかる大我慢にまで成長しているのを見て李陵は驚嘆した
しかもこの男は自分の行ないが漢にまで知られることを予期していない
自分がふたたび漢に迎えられることはもとより
自分がかかる無人の地で困苦と戦いつつあることを漢はおろか匈奴きょうどの単于にさえ伝えてくれる人間の出て来ることをも期待していなかった
誰にもみとられずに独り死んでいくに違いないその最後の日に
自みずから顧みて最後まで運命を笑殺しえたことに満足して死んでいこうというのだ
誰一人己おのが事蹟じせきを知ってくれなくともさしつかえないというのである
李陵りりょうはかつて先代単于ぜんうの首を狙ねらいながら
その目的を果たすとも自分がそれをもって匈土きょうどの地を脱走しえなければせっかくの行為が空むなしく
漢にまで聞こえないであろうことを恐れてついに決行の機を見出しえなかった人に知られざることを憂えぬ蘇武そぶを前にして
彼はひそかに冷汗の出る思いであった
0674名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 07:09:23.75
〈古い芸能事務所の体質改善を望みます〉
〈のんのようにテレビ業界からしめ出される人が二度と出てこないようにしなくてはならない。一部の古い芸能事務所の体質改善を望みます。そして、タレントの移籍の自由を芸能界に受け入れて欲しい。芸能人の労務管理にもつながるため、公正取引委員会も支援するはずです〉

〈テレビ局の企画担当者は、誰が最初にのんや元SMAPの3人にオファーするか、勝負ですよ。そして局の上司の方々は、テレビマンの新しい企画に忖度(そんたく)せずに向きあってほしい。僕は才気あふれるのんや、元SMAPの3人をフックに、この芸能界の構造がもっと良くなってほしいと願っています〉

新社長のインタビュー
これはTOBEには追い風なんじゃ
0675名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 07:10:17.29
〈古い芸能事務所の体質改善を望みます〉
〈のんのようにテレビ業界からしめ出される人が二度と出てこないようにしなくてはならない。一部の古い芸能事務所の体質改善を望みます。そして、タレントの移籍の自由を芸能界に受け入れて欲しい。芸能人の労務管理にもつながるため公正取引委員会も支援するはずです〉

〈テレビ局の企画担当者は誰が最初にのんや元SMAPの3人にオファーするか勝負ですよ。そして局の上司の方々はテレビマンの新しい企画に忖度(そんたく)せずに向きあってほしい。僕は才気あふれるのんや元SMAPの3人をフックにこの芸能界の構造がもっと良くなってほしいと願っています〉
0677名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 07:11:31.97
〈古い芸能事務所の体質改善を望みます〉
〈のんのようにテレビ業界からしめ出される人が二度と出てこないようにしなくてはならない。一部の古い芸能事務所の体質改善を望みます。そしてタレントの移籍の自由を芸能界に受け入れて欲しい。芸能人の労務管理にもつながるため公正取引委員会も支援するはずです〉

〈テレビ局の企画担当者は誰が最初にのんや元SMAPの3人にオファーするか勝負ですよ。そして局の上司の方々はテレビマンの新しい企画に忖度(そんたく)せずに向きあってほしい。僕は才気あふれるのんや元SMAPの3人をフックにこの芸能界の構造がもっと良くなってほしいと願っています〉
0683名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 07:18:17.44
社名変更みたく悪足掻きしたけどやっぱり無理で諦めたのか
だったら素直に畳んでタレント解放してあげたら?と思うし訳分からん
てかのんはどうすんのかね
0691名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 07:25:53.38
まあどっちにしろもう以前の力はないし悪事はバラされる環境になってるから少しは大人しくなるかな
0692名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 07:26:27.82
新会社だから幹部も社員も最初から雇い直すことになるから旧体制を引き継ぐことはないよ
誰を雇うかは社長が決められる
0695名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 07:29:17.51
新社長の会社が社名変更で新会社になるみたいな感じ?
だったら普通に新社長のエージェント会社をタレントに紹介すれば済みそうなのにね
0698名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 07:37:05.68
タッキーも元はアイランド社長だったけど自由なんてなかったよね
で結局辞めることになったよね
お飾り雇われ社長になる未来しか見えない
0710名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 07:48:08.99
どう考えても事務所が何とか新会社作ろうとしてる時点で全くの別会社にはならないよね
そうなると大手スポンサー戻らないでしょ
だから二宮も退所したんじゃないの?
0713名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 07:55:04.51
岡田二宮は大きい仕事が飛んだか飛びそうで辞めたって言ってる情報垢あるしそうだと思う
どっかのコメンテーターが言ってたんだけど撮了済作品をお蔵入りさせて共演者関係者に迷惑かけるのが怖くなったのかもね
何より独立してやっていける
0715名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 07:57:28.10
>>710
ほん怖なんだけどスポンサーそ知らぬ顔して戻りつつある
小さい所だと森永なにわ関ジャニサイトから消してたのに戻したって
0718名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 08:01:49.65
タッキーのポストの答え合わせはできるのかできないのかわからんけど3色火山が並ぶのはいいね🌋🌋🌋
0719名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 08:05:11.31
映画のジャニ離れ始まってるらしいから映画に出たい人は退所かな
広告と一緒で映画も慎重に動くだろうから暫く様子見になるよね
0722名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 08:07:10.21
滝はThreadsにカッコイイ火山探検の動画をUPしてる
いま気持ちが乗ってる感じだね
年末から来年にかけて大きな仕事のオファーが入ってきたんじゃない
0724名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 08:10:34.48
番宣が消えたり冷遇されたりナビ?が雑誌すら消えてるって言ってる中番宣しまくり雑誌載りまくり大型ネトフリすら消えないながちゃん怖い
かいちゃんのご褒美主演ドラマも消えてないってKP怖すぎて離れられてほんと良かった
0736名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 08:30:25.77
>>731
多分普通の人はそこの見分けつかないと思うわ
少クラの特別版が少プレでしょ?同枠で一つ消えるならどっちも消えると思ってる
0740名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 08:38:31.55
>>734
1年もあれば終了だよ
被害者が補償額に納得いかなくて裁判になったら2年3年かかりそうだけど
いつ発症するかわからない公害などの健康被害と違って早いと思う
0743名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 08:42:09.46
>>740
一年では無理ってあちこちから突っ込まれてるじゃん
心のケアかなんかする機関も一年で縛ってるらしいけどとても無理って担当者が答えてるし延長する事になると思う
0744名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 08:43:22.95
>>741
代表取締役は継続してるから今のところ納税しなくていい
従業員が8割以下になったら条件を満たせなくなるから850億の税金が発生する
0745名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 08:44:31.53
連絡あった希望者全員とヒガシイノッチジュリーがセットで会って
しっかり在籍確認して
ってしてたらいつまで経っても終わらないよ
0757名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:02:33.72
のん側の人間入れて生まれ変わりましたアピール後スポンサー戻ってきたら
はいさようならで切るでしょ
その間スマイル社の権利移動させなきゃいい話
0759名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:03:36.54
そもそもなんだけどハムがこうなる前から忖度問題って出てたからね
受理になって弱体化してるし無くなる事はないけど昔みたく締め出すのも無理って言われてた
0760名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:04:50.68
>>756
証拠をある程度揃えないと訴えても訴訟要件を満たせず裁判所から却下されるから早く決着するよ
在籍確認とれない人たちのほとんどが裁判までいけないと思う
0765名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:10:32.52
文春はジャニに在籍してなかった他事務所とかの被害者を記事にしてくって
そんな簡単に沈静化されないよ
0779名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:16:10.06
>>774
それはジャニーズ事務所がやる事だね
1人1人にやってたら時間かかりそうだけどしょうがないわ
ファンが関係する事は一切ない
0785名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:17:58.38
のんの面倒見てる立場から芸能界の圧と忖度に物申す人
ジャニと辞めジャニの共演増えそうで良くも悪くもな感じ?
0787名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:18:41.27
>>774
テレ朝のプレハブに3階は無いとかNHK側が確認してるのに当時はジュニアが簡単にNHKに入れる訳ないから虚言とか言ってる人達の信憑性ってどの程度ある訳?
0799名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:23:49.78
カフェは忙しくて今止まってるよ
0803名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:25:04.77
新社長でちゃんとしたエージェント会社になるならタレント側も安心でしょ
人気と実力ある人は変わらず仕事続くだろうし変なゴリ押し無くなるなら一般視聴者にも嬉しい話だよね
0814名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:37:58.86
>>813
ここまで今までの圧力悪行バラされてるのに続けられると思う?
何も変わってないって蒸し返されてくから新会社にも影響出るけど良いの?
0816名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:44:27.76
昨日11時ぐうじおたおめアニマルのやりとり以降のフォロワー数推移
ぐうじ+2000動かせば増えるんかねおめ
岸くん+2000微増続けててすごいね
平野-1000なんでやw
0819名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:48:05.39
平野のフォロワー一般層多すぎてストーリー連発を嫌うのか馴れ合いを嫌うのかその両方か
まあそのうち戻すよね
0831名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 09:55:31.00
アニマルの絡みにイライラしてる層いるから
岸くんぐうじは普段より増えたし平野減ったといっても1000人
覚えといてね
0837名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 10:04:43.43
>>814
忖度圧力かけないまでもTVが勝手に忖度してる分まで止めれとは言わんだろう
言ったら英雄だけど
だから何も変わらないんじゃと危惧してる
0839名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 10:09:52.37
>>837
一部を除いて変わらんと思う
わいの予想
旧Jタレの露出は今までと変わらず地図山P赤西錦戸辺りの露出増のんの露出も増岩橋も増えるかもw
TOBE下げは変わらず
0842名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 10:12:04.68
>>837
テレビ局も忖度って言われるの嫌だからJ枠減らしたり他事務所のグループ出したりしてるでしょ
その他事務所の中にアニマルの入るならそれで良いよ
J排除まで行くとこっちも面倒だしさ
0849名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 10:18:35.04
経団連経済同友会日本商工会議所日本取締役協会岸田首相
この辺からの突き放しで流石に事務所も諦めたのかもね
0852名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 10:20:35.90
>>850
アニマルの絡むと平野フォロワーへる→平野はソロなるべきって流れに使われるかもしれないじゃん
なに余計な餌与えてんの
0859名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 10:25:42.71
@
【中丸くんの楽しい時間4 9/8 大阪ラスト】
質問コーナー「老後はどうしたいですか?」と聞かれて『好きなことをやりたい。イラストは描きたい。YouTuberも実はやりたい。でも都落ち感がどうしてもあるのと再生回数でるのがシビアでそこがきつい。』 都落ちwwwww
0860名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 10:28:21.67
ジンって昔から寒いなって誰か言ったら俺はこの季節好きとかナチュラルに肯定?出来るとこ尊敬するし本当に好き
0871名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 10:35:58.70
文春ってリークもらえる記者もいれば反J記者もいるある意味バランス取ってるとこだからあってるんじゃない
0885名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 10:53:38.10
同年代って言ってたけど同い年とはっきり言っていなかったよ
マネくん呼びってことは年上ではなさそう
0889名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 10:58:59.44
わいが逃した平野が声出演したぐうじソロインライでマネ共通っぽいことここで話題になってたような遠い記憶
0902名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:21:14.21
平野のこの前のインライでグループ結成後初で直接伝えられる場だったのにNumber_i結成おめでとうってコメントするの忘れてた
個人のインライだけどコメントでも自分が見れる範囲ではグループについてとか見なかったけどあった?
0903名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:22:14.69
マネが有能扱いされてるけどどの辺りが有能なのかさっぱり分からん
まだこれといった活動してないのに
0925名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:30:31.98
昨日から発狂すごいなw
ぐうじ誕生日成功アニマル仲良し
コスプレ海ちゃんの扱いに不満
新事務所の社長が不安
どれだ
0933名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:32:24.70
誠まことに凄すさまじくも壮大なものと言わねばならぬ
昔の多少は大人おとなげなく見えた蘇武の痩我慢やせがまんが
かかる大我慢にまで成長しているのを見て李陵は驚嘆した
しかもこの男は自分の行ないが漢にまで知られることを予期していない
自分がふたたび漢に迎えられることはもとより
自分がかかる無人の地で困苦と戦いつつあることを漢はおろか匈奴きょうどの単于にさえ伝えてくれる人間の出て来ることをも期待していなかった
誰にもみとられずに独り死んでいくに違いないその最後の日に
自みずから顧みて最後まで運命を笑殺しえたことに満足して死んでいこうというのだ
誰一人己おのが事蹟じせきを知ってくれなくともさしつかえないというのである
李陵りりょうはかつて先代単于ぜんうの首を狙ねらいながら
その目的を果たすとも自分がそれをもって匈土きょうどの地を脱走しえなければせっかくの行為が空むなしく
漢にまで聞こえないであろうことを恐れてついに決行の機を見出しえなかった人に知られざることを憂えぬ蘇武そぶを前にして
彼はひそかに冷汗の出る思いであった
0936名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:32:54.53
いつまでも節旄せつぼうを持して曠野こうやに飢えるのと、ただちに節旄を焼いてのち自ら首刎はねるのとの間に、別に差異はなさそうに思われる。はじめ捕えられたとき、いきなり自分の胸を刺した蘇武に、今となって急に死を恐れる心が萌きざしたとは考えられない。
李陵は、若いころの蘇武の片意地を――滑稽こっけいなくらい強情な痩我慢やせがまんを思出した。単于ぜんうは栄華を餌えに極度の困窮こんきゅうの中から蘇武を釣つろうと試みる。餌につられるのはもとより、苦難に堪たええずして自ら殺すこともまた、単于に(あるいはそれによって象徴される運命に)負けることになる。蘇武はそう考えているのではなかろうか。運命と意地の張合いをしているような蘇武の姿が、しかし、李陵には滑稽や笑止しょうしには見えなかった。想像を絶した困苦・欠乏・酷寒・孤独を、(しかもこれから死に至るまでの長い間を)平然と笑殺していかせるものが、意地だとすれば、この意地こそは誠まことに凄すさまじくも壮大なものと言わねばならぬ。昔の多少は大人おとなげなく見えた蘇武の痩我慢やせがまんが、
0937名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:33:12.90
李陵には土地は与えられない。単于麾下きかの諸将とともにいつも単于に従っていた。隙すきがあったら単于の首でも、と李陵は狙ねらっていたが、容易に機会が来ない。たとい、単于を討果たしたとしても、その首を持って脱出することは、非常な機会に恵まれないかぎり、まず不可能であった。胡地こちにあって単于と刺違えたのでは、匈奴きょうどは己おのれの不名誉を有耶無耶うやむやのうちに葬ってしまうこと必定ひつじょうゆえ、おそらく漢に聞こえることはあるまい。李陵は辛抱強しんぼうづよく、その不可能とも思われる機会の到来を待った。
 単于ぜんうの幕下ばっかには、李陵りりょうのほかにも漢の降人こうじんが幾人かいた。その中の一人、衛律えいりつという男は軍人ではなかったが、丁霊王ていれいおうの位を貰もらって最も重く単于に用いられている。その父は胡人こじんだが、故ゆえあって衛律は漢の都で生まれ成長した。武帝に仕えていたのだが、先年協律都尉きょうりつとい李延年りえんねんの事に坐ざするのを懼おそれて、亡にげて匈奴きょうどに帰きしたのである。血が血だけに胡風こふうになじむことも速く、相当の才物でもあり、常に且※(「革+是」、第3水準1-93-79)侯そていこう単于ぜんうの帷幄いあくに参じてすべての画策に与あずかっていた。李陵はこの衛律を始め、漢人かんじんの降くだって匈奴の中にあるものと、ほとんど口をきかなかった。彼の頭の中にある計画について事をともにすべき人物がいないと思われたのである。そういえば、他の漢人同士の間でもまた、互いに妙に気まずいものを感じるらしく、相互に親しく交わることがないようであった。
 一度単于は李陵
0940名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:33:25.17
李陵りりょうにとって蘇武そぶは二十年来の友であった。かつて時を同じゅうして侍中じちゅうを勤めていたこともある。片意地でさばけないところはあるにせよ、確かにまれに見る硬骨の士であることは疑いないと陵は思っていた。天漢元年に蘇武が北へ立ってからまもなく、武の老母が病死したときも、陵は陽陵ようりょうまでその葬を送った。蘇武の妻が良人おっとのふたたび帰る見込みなしと知って、去って他家に嫁かした噂うわさを聞いたのは、陵の北征出発直前のことであった。そのとき、陵は友のためにその妻の浮薄をいたく憤った。
 しかし、はからずも自分が匈奴きょうどに降くだるようになってからのちは、もはや蘇武に会いたいとは思わなかった。武が遙はるか北方に遷うつされていて顔を合わせずに済むことをむしろ助かったと感じていた。ことに、己おのれの家族が戮りくせられてふたたび漢に戻る気持を失ってからは、いっそうこの「漢節を持した牧羊者」との面接を避けたかった。
 狐鹿姑ころくこ単于ぜんうが父の後あとを嗣ついでから数年後、
0943名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:34:04.19
私さん元気?

296 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 14:25:37.57 ID:???
なんなら私がずっと突いてきたのはほくみちヲタ
だから私はJざつでもスノカケモ疑惑かけられたぐらいだわ
でもここ数日みてるとどうやらスノヲタ紛れていますよね?
だから消えろって私は忠告したよ

669 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 16:45:12.40 ID:???
何でスノの話題で私だと思うわけ?ww
私が前からJざつで突いてたのもストなにわだけどね
それで目黒平野カケモ疑惑かけられたんだしw
0944名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:34:24.43
296 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 14:25:37.57 ID:???
なんなら私がずっと突いてきたのはほくみちヲタ
だから私はJざつでもスノカケモ疑惑かけられたぐらいだわ
でもここ数日みてるとどうやらスノヲタ紛れていますよね?
だから消えろって私は忠告したよ

669 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 16:45:12.40 ID:???
何でスノの話題で私だと思うわけ?ww
私が前からJざつで突いてたのもストなにわだけどね
それで目黒平野カケモ疑惑かけられたんだしw
0947名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:35:09.82
各方面荒らしておいてここが許されると思ったのかな

296 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 14:25:37.57 ID:???
なんなら私がずっと突いてきたのはほくみちヲタ
だから私はJざつでもスノカケモ疑惑かけられたぐらいだわ
でもここ数日みてるとどうやらスノヲタ紛れていますよね?
だから消えろって私は忠告したよ

669 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 16:45:12.40 ID:???
何でスノの話題で私だと思うわけ?ww
私が前からJざつで突いてたのもストなにわだけどね
それで目黒平野カケモ疑惑かけられたんだしw
0948名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:35:16.34
各方面荒らしておいてここが許されると思ったのかな

296 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 14:25:37.57 ID:???
なんなら私がずっと突いてきたのはほくみちヲタ
だから私はJざつでもスノカケモ疑惑かけられたぐらいだわ
でもここ数日みてるとどうやらスノヲタ紛れていますよね?
だから消えろって私は忠告したよ

669 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 16:45:12.40 ID:???
何でスノの話題で私だと思うわけ?ww
私が前からJざつで突いてたのもストなにわだけどね
それで目黒平野カケモ疑惑かけられたんだしw
0949名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:35:47.62
李陵には土地は与えられない。単于麾下きかの諸将とともにいつも単于に従っていた。隙すきがあったら単于の首でも、と李陵は狙ねらっていたが、容易に機会が来ない。たとい、単于を討果たしたとしても、その首を持って脱出することは、非常な機会に恵まれないかぎり、まず不可能であった。胡地こちにあって単于と刺違えたのでは、匈奴きょうどは己おのれの不名誉を有耶無耶うやむやのうちに葬ってしまうこと必定ひつじょうゆえ、おそらく漢に聞こえることはあるまい。李陵は辛抱強しんぼうづよく、その不可能とも思われる機会の到来を待った。
 単于ぜんうの幕下ばっかには、李陵りりょうのほかにも漢の降人こうじんが幾人かいた。その中の一人、衛律えいりつという男は軍人ではなかったが、丁霊王ていれいおうの位を貰もらって最も重く単于に用いられている。その父は胡人こじんだが、故ゆえあって衛律は漢の都で生まれ成長した。武帝に仕えていたのだが、先年協律都尉きょうりつとい李延年りえんねんの事に坐ざするのを懼おそれて、亡にげて匈奴きょうどに帰きしたのである。血が血だけに胡風こふうになじむことも速く、相当の才物でもあり、常に且※(「革+是」、第3水準1-93-79)侯そていこう単于ぜんうの帷幄いあくに参じてすべての画策に与あずかっていた。李陵はこの衛律を始め、漢人かんじんの降くだって匈奴の中にあるものと、ほとんど口をきかなかった。彼の頭の中にある計画について事をともにすべき人物がいないと思われたのである。そういえば、他の漢人同士の間でもまた、互いに妙に気まずいものを感じるらしく、相互に親しく交わることがないようであった。
 一度単于は李陵
0950名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:36:01.34
各方面荒らしておいてここが許されると思ったのかな

296 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 14:25:37.57 ID:???
なんなら私がずっと突いてきたのはほくみちヲタ
だから私はJざつでもスノカケモ疑惑かけられたぐらいだわ
でもここ数日みてるとどうやらスノヲタ紛れていますよね?
だから消えろって私は忠告したよ

669 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 16:45:12.40 ID:???
何でスノの話題で私だと思うわけ?ww
私が前からJざつで突いてたのもストなにわだけどね
それで目黒平野カケモ疑惑かけられたんだしw
0951名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:36:15.44
姑且水こじょすいを北に溯さかのぼり※(「到」の「りっとう」に代えて「おおざと」
第3水準1-92-67)居水しっきょすいとの合流点からさらに西北に森林地帯を突切るまだ所々に雪の残っている川岸を進むこと数日
ようやく
北海ほっかいの碧あおい水が森と野との向こうに見え出したころこの地方の住民なる丁霊族ていれいぞくの案内人は李陵の一行を一軒の哀れな丸太小舎ごやへと導いた
小舎の住人が珍しい人声に驚かされて弓矢を手に表へ出て来た
頭から毛皮を被かぶった鬚ひげぼうぼうの熊くまのような山男の顔の中に
李陵がかつての移中厩監いちゅうきゅうかん蘇子卿そしけいの俤おもかげを見出してからも
先方がこの胡服こふくの大官を前さきの騎都尉きとい李少卿りしょうけいと認めるまでにはなおしばらくの時間が必要であった
蘇武そぶのほうでは陵が匈奴きょうどに事つかえていることも全然聞いていなかったのである
 感動が陵の内に在あって今まで武との会見を避けさせていたものを一瞬圧倒し去った二人とも初めほとんどものが言えなかった
0952名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 11:36:54.94
各方面荒らしておいてここが許されると思ったのかな

296 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 14:25:37.57 ID:???
なんなら私がずっと突いてきたのはほくみちヲタ
だから私はJざつでもスノカケモ疑惑かけられたぐらいだわ
でもここ数日みてるとどうやらスノヲタ紛れていますよね?
だから消えろって私は忠告したよ

669 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 16:45:12.40 ID:???
何でスノの話題で私だと思うわけ?ww
私が前からJざつで突いてたのもストなにわだけどね
それで目黒平野カケモ疑惑かけられたんだしw
0954名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:37:28.50
>>698
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんをした
これに酬むくいるとて翌四年漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた
ひいて将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんをそれぞれ進発する
近来にない大北伐ほくばつである単于ぜんうはこの報に接するやただちに婦女老幼畜群資財の類をことごとく余吾水しょごすいケルレン河北方の地に移し
自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った連戦十余日
漢軍はついに退くのやむなきに至った

李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは別に一隊を率いて東方に向かい因木将軍を迎えてさんざんにこれを破った
漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた
北征は完全な失敗である
李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず水北に退いていたが左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした
もちろん全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないがどうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい李陵はこれに気がついて激しく己を責めた
0955名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:38:16.12
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ
は東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0961名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:40:01.28
李陵りりょうにとって蘇武そぶは二十年来の友であった。かつて時を同じゅうして侍中じちゅうを勤めていたこともある。片意地でさばけないところはあるにせよ、確かにまれに見る硬骨の士であることは疑いないと陵は思っていた。天漢元年に蘇武が北へ立ってからまもなく、武の老母が病死したときも、陵は陽陵ようりょうまでその葬を送った。蘇武の妻が良人おっとのふたたび帰る見込みなしと知って、去って他家に嫁かした噂うわさを聞いたのは、陵の北征出発直前のことであった。そのとき、陵は友のためにその妻の浮薄をいたく憤った。
 しかし、はからずも自分が匈奴きょうどに降くだるようになってからのちは、もはや蘇武に会いたいとは思わなかった。武が遙はるか北方に遷うつされていて顔を合わせずに済むことをむしろ助かったと感じていた。ことに、己おのれの家族が戮りくせられてふたたび漢に戻る気持を失ってからは、いっそうこの「漢節を持した牧羊者」との面接を避けたかった。
 狐鹿姑ころくこ単于ぜんうが父の後あとを嗣ついでから数年後、
0968名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:41:23.88
この男は何を目あてに生きているのかと李陵は怪しんだ。いまだに漢に帰れる日を待ち望んでいるのだろうか。蘇武の口うらから察すれば、いまさらそんな期待は少しももっていないようである。それではなんのためにこうした惨憺さんたんたる日々をたえ忍んでいるのか? 単于ぜんうに降服を申出れば重く用いられることは請合うけあいだが、それをする蘇武そぶでないことは初めから分り切っている。陵の怪しむのは、なぜ早く自みずから生命を絶たないのかという意味であった。李陵りりょう自身が希望のない生活を自らの手で断ち切りえないのは、いつのまにかこの地に根を下おろして了しまった数々の恩愛や義理のためであり、またいまさら死んでも格別漢のために義を立てることにもならないからである。蘇武の場合は違う。彼にはこの地での係累けいるいもない。漢朝に対する忠信という点から考えるなら、いつまでも節旄せつぼうを持して曠野こうやに飢えるのと、ただちに節旄を焼いてのち自ら首刎はねるのとの間
0970名無し戦隊ナノレンジャー!
垢版 |
2023/10/31(火) 11:42:12.63
庄兵衞は心の内に思つた。これまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない。しかし載せて行く罪人は、いつも殆ど同じやうに、目も當てられぬ氣の毒な樣子をしてゐた。それに此男はどうしたのだらう。遊山船にでも乘つたやうな顏をしてゐる。罪は弟を殺したのださうだが、よしや其弟が惡い奴で、それをどんな行掛りになつて殺したにせよ、人の情として好い心持はせぬ筈である。この色の蒼い痩男が、その人の情と云ふものが全く缺けてゐる程の、世にも稀な惡人であらうか。どうもさうは思はれない。ひよつと氣でも狂つてゐるのではあるまいか。いやいや。それにしては何一つ辻褄の合はぬ言語や擧動がない。此男はどうしたのだらう。庄兵衞がためには喜助の態度が考へれば考へる程わからなくなるのである。
0972名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:42:32.60
其日は暮方から風が歇やんで、空一面を蔽つた薄い雲が、月の輪廓をかすませ、やうやう近寄つて來る夏の温さが、兩岸の土からも、川床の土からも、靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた。下京の町を離れて、加茂川を横ぎつた頃からは、あたりがひつそりとして、只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである。
 夜舟で寢ることは、罪人にも許されてゐるのに、喜助は横にならうともせず、雲の濃淡に從つて、光の増したり減じたりする月を仰いで、默つてゐる。其額は晴やかで目には微かなかがやきがある。
 庄兵衞はまともには見てゐぬが、始終喜助の顏から目を離さずにゐる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返してゐる。それは喜助の顏が縱から見ても、横から見ても、いかにも樂しさうで、若し役人に對する氣兼がなかつたなら、口笛を吹きはじめるとか、鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである。
 庄兵衞は心の内に思つた。これまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない。
0974名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:43:08.99
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも、
また靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
0977名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:43:55.21
凄惨せいさんな努力を一年ばかり続けたのちようやく生きることの歓よろこびを失いつくしたのちもなお表現することの歓びだけは生残りうるものだということを彼は発見したしかしそのころになってもまだ彼の完全な沈黙は破られなかったし
風貌ふうぼうの中のすさまじさも全然和やわらげられはしない稿をつづけていくうちに宦者かんじゃとか閹奴えんどとかいう文字を書かなければならぬところに来ると彼は覚えず呻うめき声を発した独り居室にいるときでも夜牀上しょうじょうに横になったときでもふとこの屈辱の思いが萌きざしてくるとたちまちカーッと焼鏝やきごてをあてられるような熱い疼うずくものが全身を駈かけめぐる彼は思わず飛上り奇声を発し呻きつつ四辺あたりを歩きまわりさてしばらくしてから歯をくいしばって己おのれを落ちつけようと努めるのである
 乱軍の中に気を失った李陵りりょうが獣脂じゅうしを灯ともし獣糞じゅうふんを焚たいた単于ぜんうの帳房ちょうぼうの中で目を覚ましたとき咄嗟とっさに彼は心を決めた自みずから首刎はねて辱はずかしめを免れるかそれとも今一応は敵に従っておいてそのうちに機を見て脱走する敗軍の責を償つぐなうに足る手柄を土産みやげとしてかこの二つのほかに途みちはないのだが李陵は後者を選ぶことに心を決めたのである
0978名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:44:17.78
李陵には土地は与えられない。単于麾下きかの諸将とともにいつも単于に従っていた。隙すきがあったら単于の首でも、と李陵は狙ねらっていたが、容易に機会が来ない。たとい、単于を討果たしたとしても、その首を持って脱出することは、非常な機会に恵まれないかぎり、まず不可能であった。胡地こちにあって単于と刺違えたのでは、匈奴きょうどは己おのれの不名誉を有耶無耶うやむやのうちに葬ってしまうこと必定ひつじょうゆえ、おそらく漢に聞こえることはあるまい。李陵は辛抱強しんぼうづよく、その不可能とも思われる機会の到来を待った。
 単于ぜんうの幕下ばっかには、李陵りりょうのほかにも漢の降人こうじんが幾人かいた。その中の一人、衛律えいりつという男は軍人ではなかったが、丁霊王ていれいおうの位を貰もらって最も重く単于に用いられている。その父は胡人こじんだが、故ゆえあって衛律は漢の都で生まれ成長した。武帝に仕えていたのだが、先年協律都尉きょうりつとい李延年りえんねんの事に坐ざするのを懼おそれて、亡にげて匈奴きょうどに帰きしたのである。血が血だけに胡風こふうになじむことも速く、相当の才物でもあり、常に且※(「革+是」、第3水準1-93-79)侯そていこう単于ぜんうの帷幄いあくに参じてすべての画策に与あずかっていた。李陵はこの衛律を始め、漢人かんじんの降くだって匈奴の中にあるものと、ほとんど口をきかなかった。彼の頭の中にある計画について事をともにすべき人物がいないと思われたのである。そういえば、他の漢人同士の間でもまた、互いに妙に気まずいものを感じるらしく、相互に親しく交わることがないようであった。
 一度単于は李陵
0980名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:45:22.75
こそは誠まことに凄すさまじくも壮大なものと言わねばならぬ。昔の多少は大人おとなげなく見えた蘇武の痩我慢やせがまんが、かかる大我慢にまで成長しているのを見て李陵は驚嘆した。しかもこの男は自分の行ないが漢にまで知られることを予期していない。自分がふたたび漢に迎えられることはもとより、自分がかかる無人の地で困苦と戦いつつあることを漢はおろか匈奴きょうどの単于にさえ伝えてくれる人間の出て来ることをも期待していなかった。誰にもみとられずに独り死んでいくに違いないその最後の日に、自みずから顧みて最後まで運命を笑殺しえたことに満足して死んでいこうというのだ。誰一人己おのが事蹟じせきを知ってくれなくともさしつかえないというのである。李陵りりょうは、かつて先代単于ぜんうの首を狙ねらいながら、その目的を果たすとも、自分がそれをもって匈土きょうどの地を脱走しえなければ、せっかくの行為が空むなしく、漢にまで聞こえないであろうことを恐れて、ついに決行の機を見出しえなかった。人に知られざることを憂えぬ蘇武そぶを前にして、彼はひそかに冷汗の出る思いであった。
0982名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:45:43.42
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ、東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0983名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:46:15.13
最初の感動が過ぎ、二日三日とたつうちに、李陵の中にやはり一種のこだわりができてくるのをどうすることもできなかった。何を語るにつけても、己おのれの過去と蘇武のそれとの対比がいちいちひっかかってくる。
蘇武は義人ぎじん、自分は売国奴ばいこくどと、
それほどハッキリ考えはしないけれども、森と野と水との沈黙によって多年の間鍛え上げられた蘇武の厳きびしさの前には己の行為に対する唯一の弁明であった今までのわが苦悩のごときは一溜ひとたまりもなく圧倒されるのを感じないわけにいかない。それに、気のせいか、日ひにちが立つにつれ、蘇武の己に対する態度の中に、何か富者が貧者に対するときのような――己の優越を知ったうえで相手に寛大であろうとする者の態度を感じはじめた。どことハッキリはいえないが、どうかした拍子ひょうしにひょいとそういうものの感じられることがある。
0984名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:46:30.02
上げ
0985名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:46:49.91
296 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 14:25:37.57 ID:???
なんなら私がずっと突いてきたのはほくみちヲタ
だから私はJざつでもスノカケモ疑惑かけられたぐらいだわ
でもここ数日みてるとどうやらスノヲタ紛れていますよね?
だから消えろって私は忠告したよ

669 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 16:45:12.40 ID:???
何でスノの話題で私だと思うわけ?ww
私が前からJざつで突いてたのもストなにわだけどね
それで目黒平野カケモ疑惑かけられたんだしw
0986名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:47:06.19
川岸を進むこと数日、ようやく北海ほっかいの碧あおい水が森と野との向こうに見え出したころ、
この地方の住民なる丁霊族ていれいぞくの案内人は李陵の一行を一軒の哀れな丸太小舎ごやへと導いた。小舎の住人が珍しい人声に驚かされて、弓矢を手に表へ出て来た、頭から毛皮を被かぶった鬚ひげぼうぼうの熊くまのような山男の顔の中に、李陵がかつての移中厩監いちゅうきゅうかん蘇子卿そしけいの俤おもかげを見出してからも、先方がこの胡服こふくの大官を前さきの騎都尉きとい李少卿りしょうけいと認めるまでにはなおしばらくの時間が必要であった。蘇武そぶのほうでは陵が匈奴きょうどに事つかえていることも全然聞いていなかったのである。
 感動が、陵の内に在あって今まで武との会見を避けさせていたものを一瞬圧倒し去った。二人とも初めほとんどものが言えなかった。
 陵の供廻ともまわりどもの穹廬きゅうろがい
0987名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:47:31.67
姑且水こじょすいを北に溯さかのぼり※(「到」の「りっとう」に代えて「おおざと」
第3水準1-92-67)居水しっきょすいとの合流点からさらに西北に森林地帯を突切るまだ所々に雪の残っている川岸を進むこと数日
ようやく
北海ほっかいの碧あおい水が森と野との向こうに見え出したころこの地方の住民なる丁霊族ていれいぞくの案内人は李陵の一行を一軒の哀れな丸太小舎ごやへと導いた
小舎の住人が珍しい人声に驚かされて弓矢を手に表へ出て来た
頭から毛皮を被かぶった鬚ひげぼうぼうの熊くまのような山男の顔の中に
李陵がかつての移中厩監いちゅうきゅうかん蘇子卿そしけいの俤おもかげを見出してからも
先方がこの胡服こふくの大官を前さきの騎都尉きとい李少卿りしょうけいと認めるまでにはなおしばらくの時間が必要であった
蘇武そぶのほうでは陵が匈奴きょうどに事つかえていることも全然聞いていなかったのである
 感動が陵の内に在あって今まで武との会見を避けさせていたものを一瞬圧倒し去った二人とも初めほとんどものが言えなかった
0992名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:48:16.15
天漢三年の秋に匈奴きょうどがまたもや雁門がんもんをした
これに酬むくいるとて翌四年漢は弐師じし将軍李広利りこうりに騎六万歩七万の大軍を授さずけて朔方さくほうを出でしめ歩卒一万を率いた強弩都尉きょうどとい路博徳ろはくとくにこれを援たすけしめた
ひいて将軍公孫敖こうそんごうは騎一万歩三万をもって雁門を游撃ゆうげき将軍韓説かんせつは歩三万をもって五原ごげんをそれぞれ進発する
近来にない大北伐ほくばつである単于ぜんうはこの報に接するやただちに婦女老幼畜群資財の類をことごとく余吾水しょごすいケルレン河北方の地に移し
自みずから十万の精騎を率いて李広利りこうり路博徳ろはくとくの軍を水南すいなんの大草原に邀むかえ撃った連戦十余日
漢軍はついに退くのやむなきに至った

李陵りりょうに師事する若き左賢王さけんおうは別に一隊を率いて東方に向かい因木将軍を迎えてさんざんにこれを破った
漢軍の左翼たる韓説かんせつの軍もまた得るところなくして兵を引いた
北征は完全な失敗である
李陵は例によって漢との戦いには陣頭に現われず水北に退いていたが左賢王の戦績をひそかに気遣きづかっている己おのれを発見して愕然がくぜんとした
もちろん全体としては漢軍の成功と匈奴きょうどの敗戦とを望んでいたには違いないがどうやら左賢王だけは何か負けさせたくないと感じていたらしい李陵はこれに気がついて激しく己を責めた
0993名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:48:33.85
いつまでも節旄せつぼうを持して曠野こうやに飢えるのと、ただちに節旄を焼いてのち自ら首刎はねるのとの間に、別に差異はなさそうに思われる。はじめ捕えられたとき、いきなり自分の胸を刺した蘇武に、今となって急に死を恐れる心が萌きざしたとは考えられない。李陵は、若いころの蘇武の片意地を――滑稽こっけいなくらい強情な痩我慢やせがまんを思出した。単于ぜんうは栄華を餌えに極度の困窮こんきゅうの中から蘇武を釣つろうと試みる。餌につられるのはもとより、苦難に堪たええずして自ら殺すこともまた、単于に(あるいはそれによって象徴される運命に)負けることになる。蘇武はそう考えているのではなかろうか。運命と意地の張合いをしているような蘇武の姿が、しかし、李陵には滑稽や笑止しょうしには見えなかった。想像を絶した困苦・欠乏・酷寒・孤独を、(しかもこれから死に至るまでの長い間を)平然と笑殺していかせるものが、意地だとすれば、この意地こそは誠まことに凄すさまじくも壮大なものと言わねばならぬ。昔の多少は大人おとなげなく見えた蘇武の痩我慢やせがまんが、
0994名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:48:54.74
入相いりあひの鐘の鳴る頃に漕ぎ出された高瀬舟は黒ずんだ京都の町の家々を兩岸に見つ、東へ走つて加茂川を横ぎつて下るのであつた
此舟の中で罪人と其親類の者とは夜どほし身の上を語り合ふ
いつもいつも悔やんでも還らぬ繰言である護送の役をする同心は傍でそれを聞いて罪人を出した親戚眷族けんぞくの悲慘な境遇を細かに知ることが出來た
所詮町奉行所の白洲しらすで表向の口供を聞いたり役所の机の上で口書くちがきを讀んだりする役人の夢にも窺ふことの出來ぬ境遇である
 同心を勤める人にも種々の性質があるから此時只うるさいと思つて耳を掩ひたく思ふ冷淡な同心があるかと思へばしみじみと人の哀を身に引き受けて
役柄ゆゑ氣色には見せぬながら無言の中に私かに胸を痛める同心もあつた
場合によつて非常に悲慘な境遇に陷つた罪人と其親類とを、特に弱い涙脆い同心が宰領して行くことになると其同心は不覺の涙を禁じ得ぬのであつた
そこで高瀬舟の護送は町奉行所の同心仲間で不快な職務として嫌はれてゐた
0995名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:49:01.20
>>903
TOBEはアーカイブ残さないのに平野垢は残せるようにした
インスタの写真が上手い
FC動画も上手い
蜘蛛を素手で逃がせる
0996名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:49:09.85
各方面荒らしておいてここが許されると思ったのかな

296 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 14:25:37.57 ID:???
なんなら私がずっと突いてきたのはほくみちヲタ
だから私はJざつでもスノカケモ疑惑かけられたぐらいだわ
でもここ数日みてるとどうやらスノヲタ紛れていますよね?
だから消えろって私は忠告したよ

669 名無しさん? sage 2023/10/14(土) 16:45:12.40 ID:???
何でスノの話題で私だと思うわけ?ww
私が前からJざつで突いてたのもストなにわだけどね
それで目黒平野カケモ疑惑かけられたんだしw
0997名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:49:30.04
李陵りりょうにとって蘇武そぶは二十年来の友であった。かつて時を同じゅうして侍中じちゅうを勤めていたこともある。片意地でさばけないところはあるにせよ、確かにまれに見る硬骨の士であることは疑いないと陵は思っていた。天漢元年に蘇武が北へ立ってからまもなく、武の老母が病死したときも、陵は陽陵ようりょうまでその葬を送った。蘇武の妻が良人おっとのふたたび帰る見込みなしと知って、去って他家に嫁かした噂うわさを聞いたのは、陵の北征出発直前のことであった。そのとき、陵は友のためにその妻の浮薄をいたく憤った。
 しかし、はからずも自分が匈奴きょうどに降くだるようになってからのちは、もはや蘇武に会いたいとは思わなかった。武が遙はるか北方に遷うつされていて顔を合わせずに済むことをむしろ助かったと感じていた。ことに、己おのれの家族が戮りくせられてふたたび漢に戻る気持を失ってからは、いっそうこの「漢節を持した牧羊者」との面接を避けたかった。
 狐鹿姑ころくこ単于ぜんうが父の後あとを嗣ついでから数年後、
0998名無し戦隊ナノレンジャー!
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2023/10/31(火) 11:50:15.42
其日は暮方から風が歇やんで空一面を蔽つた薄い雲が
月の輪廓をかすませやうやう近寄つて來る夏の温さが兩岸の土からも川床の土からも
靄になつて立ち昇るかと思はれる夜であつた下京の町を離れて加茂川を横ぎつた頃からはあたりがひつそりとして只舳へさきに割かれる水のささやきを聞くのみである
 夜舟で寢ることは罪人にも許されてゐるのに喜助は横にならうともせず雲の濃淡に從つて光の増したり減じたりする月を仰いで默つてゐる其額は晴やかで目には微かなかがやきがある
 庄兵衞はまともには見てゐぬが始終喜助の顏から目を離さずにゐるそして不思議だ不思議だと心の内で繰り返してゐるそれは喜助の顏が縱から見ても横から見てもいかにも樂しさうで若し役人に對する氣兼がなかつたなら口笛を吹きはじめるとか鼻歌を歌ひ出すとかしさうに思はれたからである
 庄兵衞は心の内に思つたこれまで此高瀬舟の宰領をしたことは幾度だか知れない
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