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早い月はすでに落ちた。
胡虜こりょの不意を衝ついて、ともかくも全軍の三分の二は予定どおり峡谷の裏口を突破した。
しかしすぐに敵の騎馬兵の追撃に遭あった。
徒歩の兵は大部分討たれあるいは捕えられたようだったが、混戦に乗じて敵の馬を奪った数十人は、その胡馬こばに鞭むちうって南方へ走った。
敵の追撃をふり切って夜目にもぼっと白い平沙へいさの上を、のがれ去った部下の数を数えて、
確かに百に余ることを確かめうると、李陵りりょうはまた峡谷の入口の修羅場しゅらばにとって返した。
身には数創を帯び、自みずからの血と返り血とで、戎衣じゅういは重く濡ぬれていた。
彼と並んでいた韓延年かんえんねんはすでに討たれて戦死していた。
麾下きかを失い全軍を失って、もはや天子に見まみゆべき面目はない。
彼は戟ほこを取直すと、ふたたび乱軍の中に駈入かけいった。
暗い中で敵味方も分らぬほどの乱闘のうちに、李陵の馬が流矢ながれやに当たったとみえてガックリ前にのめった