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次の日からまた、もとの竜城りゅうじょうの道に循したがって、南方への退行が始まる。匈奴きょうどはまたしても、元の遠巻き戦術に還かえった。五日め、漢軍は、平沙へいさの中にときに見出みいだされる沼沢地しょうたくちの一つに踏入った。水は半ば凍り、泥濘でいねいも脛はぎを没する深さで、行けども行けども果てしない枯葦原かれあしはらが続く。風上かざかみに廻まわった匈奴の一隊が火を放った。朔風さくふうは焔ほのおを煽あおり、真昼の空の下に白っぽく輝きを失った火は、すさまじい速さで漢軍に迫る。李陵はすぐに附近の葦あしに迎え火を放たしめて、かろうじてこれを防いだ。火は防いだが、沮洳地そじょちの車行の困難は言語に絶した。休息の地のないままに一夜泥濘でいねいの中を歩き通したのち、翌朝ようやく丘陵地に辿たどりついたとたんに、先廻さきまわりして待伏せていた敵の主力の襲撃
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