>>522
左の手はしつかり腮の下の所を押へてゐますが其指の間から黒血の固まりがはみ出してゐます弟は目でわたくしの傍へ寄るのを留めるやうにして口を利きましたやう/\物が言へるやうになつたのでございます『濟まない
どうぞ堪忍してくれどうせなほりさうにもない病氣だから早く死んで少しでも兄きに樂がさせたいと思つたの笛を切つたらすぐ死ねるだらうと思つたが息がそこから漏れるだけで死ねない深く/\と思つて力一ぱい押し込むと、横へすべつてしまつた刃は飜こぼれはしなかつたやうだこれを旨く拔いてくれたら己は死ねるだらうと思つてゐる
物を言ふのがせつなくつて可けないどうぞ手を借して拔いてくれ』と云ふのでございま弟が左の手を弛めるとそこから又息が漏りますわたくしはなんと云はうにも