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 もっとも、韓国を吹き飛ばす核ミサイルは実戦配備済みだが、米国本土に届くICBM(長距離弾道ミサイル)の完成には少し時間がかかるし、米本土に陣取るICBM迎撃態勢網は信頼度を増している。米韓間の経済・金融関係にしても、関係悪化を受けて困るのは韓国の側だ。

 韓国と米国は「双方の利害が対立」していない。それどころか、韓国は明々白々の弱い立場で、韓米同盟は絶対に堅持せねばならぬのに、ケンカを売っている。文在寅・大統領の外交ブレーンが米国に出掛けて公言してしまう。いわく−

 「(北朝鮮がミサイル挑発を続けるのは)米軍戦略兵器の前線配置が原因だ」

 「(演習で)米空母などを展開する必要はない」

 「(北朝鮮との対話に関し、核放棄を前提とする米トランプ政権と韓国・文政権が)条件を合わせる必要はない」

 韓国の国民を守護すべく米国が供給する地上配備型高高度ミサイル迎撃システム(THAAD)に関しても、配備の延期や中止をもくろむ。

 中国は、THAADを構成する高性能レーダーの探知距離が捜索モードに徹すれば1000キロを超え北京・天津の手前までのぞけてしまうので猛烈に反対している。配備の延期・中止は中国におもねた結果だ。

 在韓米軍や在留米国人も北ミサイルより防御するTHAADの配備が中止されれば、在韓米軍が撤退を意識し出す起点となろう。

 米韓同盟が「双方の利害が一致しているのに一夜で消える」とすれば、同盟関係の例外として外交・安全保障史に残る。

 では、中朝同盟はどのような外交・安全保障史を刻むのだろうか。中国は、自国内がのぞかれるTHAAD配備の責任の一端は、核・ミサイル開発を猛進する金正恩政権にもあると、大きな不満を抱く。が、恐らくは「双方の利害が対立しても消えない」歴史をたどる。

金正恩政権ではなく北朝鮮の守護が目的の「中朝相互軍事援助条約」

 中朝同盟を正式には《中朝友好協力相互援助条約》という。条約締結は、韓国陸軍の朴正煕・少将(1917〜79年/後の大統領で朴槿恵・前大統領の実父)らがクーデターを起こし、反共色が強い軍事政権の樹立が契機となった。

 危機感を抱いた金委員長の祖父、金日成・主席(1912〜94年)が1961年、北京において、中国の周恩来・首相(1898〜1976年)と署名した。

 中朝友好協力相互援助条約は第2条で《いずれか一方に対する、いかなる国の侵略も防止する》と定め、一方の国が武力攻撃され戦争状態に陥った場合、もう一方の国は《直ちに全力をあげて軍事及びその他の援助を与える》と、参戦条項が明記されている。

 この中朝友好協力相互援助条約は、中国にとりすこぶる使い勝手が良い。中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は2016年、以下の主張を展開したが、深読みが必要だ。

 《中国は朝鮮半島の最悪事態に備え周到で綿密な準備をしなければならない。米国と韓国が38度線を突破し、全面的に軍事行動をとるのなら、中国が軍事介入する可能性も念頭に置かなければならない》 

 「血の友誼」がにじみ出た、北朝鮮にとっては涙が流れるほど頼もしい主張だ。これはこれで「本音」であろう。けれども、中国の場合、次のごとき「本音」がもう一つ隠されている。

 《中国は朝鮮半島の最悪事態に備え周到で綿密な準備をしなければならない。米国と韓国が金正恩政権を倒し、米韓主導の新政権樹立に向け動き出すのなら、中国が軍事介入する可能性も念頭に置かなければならない》 

 深読みすると、《軍事介入》の矛先は米韓だけでなく、金正恩政権にも向けられる−こんな動きが透けてくる。

 米韓軍は北朝鮮攻撃をいつでも始められる準備を完了していて、恒常的に繰り返す無人機での偵察やサイバー攻撃を中朝が「攻撃」と認定すれば、中朝友好協力相互援助条約の参戦条項の発動要件となる。

 しかし、それは「第1要件」で「第2要件」が隠れている。金正恩政権について、中国を守る米韓同盟への緩衝帯にならぬと判断した時も、中国が北朝鮮に参戦条項の発動を持ちかける時なのである。

 参戦条項の発動後、中国人民解放軍は鴨緑江(中朝国境)を渡河。中国が鴨緑江に架けた橋梁は軍用と観測されており、平壌まで200キロといった地の利も活かし、米韓の先手を打って金正恩政権を排し、中国の言いなりになる新政権を武威をもって建てるシナリオだ。

(続く)