「お灸ってさ、すごく熱く感じる場所と、そうでもないところがあるでしょ。都議選のお灸は、自民党にとっては熱くないんだよ」

 都議選の選挙活動に携わった自民党細田派議員は、投票日前、独特の言い回しでそう語った。

「加計疑惑」や豊田真由子代議士の「ハゲーーーッ!」絶叫暴言などの影響で選挙期間中から劣勢が伝えられ、“一強の自民党に都民からお灸が据えられる”ことを覚悟している、ただし都議選で負けても党にとって致命的なダメージではない、という意味らしい。

 細田派は安倍首相の出身派閥。敗北を見越した上で、総理を守るためにハードルを下げておきたいという意図の表れだ。組織に綻びが見えると、内部分裂が始まる。どこにでも見られる風景だが、他派閥を含め党内でも強い求心力を保っていた安倍氏に、このところ身内から批判の矢が飛び始めた。額賀派(=平成研究会、旧経世会)議員が、こんな言い方をして党内で物議を醸している。

「最近の総理の言動が、鳩山さんに似てきているんじゃないか」

 もちろん、鳩山由紀夫・元首相のことである。政治信条はまったく逆のように思えるが、どこがどう似ているというのか。理由の一つとされているのが、対中政策だ。

鳩山氏は、日本と異なる価値観の中国などと共存共栄を目指す「友愛外交」と、日中韓を中心とする「東アジア共同体構想」を掲げてきた。首相退陣後も、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立にエールを送り、「顧問」に就任。最近も中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」についての国際フォーラムで講演し、「私は『一帯一路』の熱烈な支持者だ。日本もAIIBに参加すべきだと思っている」と語った。

 安倍氏もその支持層も、AIIBには批判的だった。ところが最近になって安倍氏は「公正なガバナンスが確立できるのかなどの疑問点が解消されれば(AIIB参加を)前向きに考える」と発言。6月には、一帯一路にも条件付きで協力する姿勢を示した。

 なぜ“宗旨替え”したのか。キーマンと目されているのが、安倍氏の右腕として知られる今井尚哉・首相秘書官だ。5月には親中派の二階俊博・幹事長に同行して訪中。首相以外の外遊に首相秘書官が随行するなど、超異例だ。額賀派議員が語る。

「今井秘書官は、今井敬・元経団連会長と今井善衛・元通産事務次官の2人から見て甥っ子で、本人も経産官僚であり、中国とビジネスを続けたい経団連の意向がバックにある。総理は、そんな今井秘書官から“中国と関係改善すべき”と強く進言されたのではないか。最近は、総理自身が訪中する気になっているらしい」

 加計疑惑などに追われる中、首相が周囲に押されて外交面で信念を貫けなくなっているという見方だ。

党内では、安倍政権がぶちあげた高等教育無償化も、「(鳩山政権の看板政策だった)高校授業料無償化のパクリじゃないか」という声が上がっているし、憲法9条の1項・2項をそのままに3項に「自衛隊」を書き込む安倍試案も、鳩山氏が2005年に発表した『新憲法試案』と似ていると言われている(鳩山氏は「陸海空その他の組織からなる自衛軍を保持する」などと記述)。

 むろん、「鳩山氏と似てきた」という物言いそのものが、党内で高まる勢力争いを反映していると言える。

「一強」と言われるが、その安倍政権を選んだのは有権者だ。国民は、経済の立て直しはもちろん、覇権を広げようとする中国に強い姿勢で対峙することを期待した。

 陰りが見える自民党内部でどんな権力闘争が起きようと、あの鳩山民主党の時のような日本に戻ってはならないことだけは確かだ。

※SAPIO2017年8月号


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2017.07.04 07:00