ロシアのプーチン政権が経済協力などを通じた日本の対露接近を歓迎しつつ、領土問題では妥協しない姿勢を鮮明にしている。

 プーチン大統領は今月上旬、訪露した森喜朗元首相らに異例の歓待を見せたが、露政府は、北方四島での国内法に基づく「経済特区」設置に向け着々と手を打ち続けている。9月には露極東で日露首脳会談が予定されるが、ロシアが態度を軟化させる兆しは見えない。(露中部エカテリンブルク 黒川信雄、写真も)

 露中部エカテリンブルクに森元首相を迎えたプーチン氏は、深夜に及んだ9日の会談後、森氏を宿泊先まで送った。高齢の森氏を気遣った格好で、森氏は「彼ほど日本人の感性を持っている人はいない」と表情を緩ませた。

 翌朝にも、同市で開幕した産業展示会イノプロムの日本企業パビリオンを訪問。予定の倍の時間をかけた視察が日本企業関係者らを感激させた。

 プーチン氏が日本に重ねて配慮を見せた背景には、日本の対露経済協力への高い評価があるとみられる。イノプロムでは今年、前年比で約20倍の168もの日本の企業・団体が出展。会場で世耕弘成経済産業相は、「日露協力の潜在力の高さを理解してもらえたのでは」と胸を張った。

 ただ、経済の緊密化を通じ領土交渉を加速させたい日本政府の思惑が的中しているとは言い難い。

 露政府高官は今月6日、北方領土の「経済特区」指定を決めたと発表。8月中にも閣議にかける方針も示した。日露は北方四島で「特別な制度」に基づく共同経済活動の実現に向け交渉中だが、露側の法制度に沿った「特区」設置が障害となるのは必至だ。

 露専門家のガブエフ氏は「(共同経済活動は)ロシアの法に沿って実施されるという露政府の意思の表れ」と述べた。

 露極東での経済フォーラムで予定される首脳会談は9月に迫るが、プーチン氏側近のマトビエンコ上院議長は17日、平和条約締結には日本の8項目の経済協力実現が重要と強調。領土交渉で進展が見られないまま、露側のペースで日本の経済協力がさらに先行する事態が懸念されそうだ。

http://www.sankei.com/world/news/170723/wor1707230019-n1.html
http://www.sankei.com/world/news/170723/wor1707230019-n2.html

http://www.sankei.com/images/news/170723/wor1707230019-p1.jpg
森喜朗元首相(右)を宿泊先のホテルまで見送ったプーチン大統領=9日、ロシア中部エカテリンブルク(共同)