慰安婦問題で事実無根の日本非難に屈した外交の失敗を、わが国は再び、徴用工問題で繰り返してはならない。

 7月26日にソウルで封切られた映画「軍艦島」を機に、身に覚えのない非難を再び進んで受け入れ、慰安婦と同じ失敗の道をたどるのか。そう危惧せざるを得ない交渉を外務省は進めてきた。

 近代日本の石炭産業の発展を知るうえで貴重な長崎県端島炭坑(通称・軍艦島)は明治日本の産業革命遺産を構成する23遺跡のひとつとして2年前、世界遺産に登録された。

 映画「軍艦島」はしかし、虚偽と捏造でわが国の誇るべき産業革命の現場である端島を「地獄島」として描いた。徴用工は船底に押し込められて強制連行され、窓のない貨車に詰め込まれて長崎に運ばれたというのだ。

 ドイツのユダヤ人に対する仕打ちを連想させる場面があれば、家族連れで島に来た朝鮮の女性や女児が夫や父親と離され、遊郭で働かされる場面もある。

 反抗した罰に全身に入れ墨を彫られた女性、あるいは無数の五寸釘が突き出た戸板の上で転がされ、全身血だらけで殺される女性も登場する。

 虐殺に耐えかねて朝鮮人は集団脱出を決意、端島で日本人と朝鮮人が銃で撃ち合い、火炎瓶を投げ合って戦ったというのだ。あり得ない。

 五寸釘の戸板の罰は悪名高い国連特別報告者クマラスワミ氏の報告書にある北朝鮮の元慰安婦と称する人物の作り話で、これまたあり得ない。

 このようなでたらめ映画が製作され国際社会に流布されるそもそもの原因は、前述のようにわが国の外交にある。

 1993年、河野洋平氏の官房長官談話、クマラスワミ報告への長年にわたる反論なき沈黙、マイク・ホンダ前米下院議員の不条理な慰安婦非難への形だけの反論の結果、「日本軍=慰安婦=性奴隷」と決めつけられ、「国際社会の規範に違反して恥じない」日本国が徴用工も強制労働させたと論難されているのだ。

 韓国政府は複数のルートを駆使して、徴用工の強制労働、不当かつ非人道的な扱いに関する非を認めるよう日本政府に要求し続ける。外務省への直接の申し入れにとどまらない。

 端島を所管する長崎市の市長にも、昨年4月27日、朴鎭雄総領事らが「日本政府は世界遺産登録決定の際に強制労働を知らせるため、情報センター設置を含めて検討すると発言したが、目に見えてこない」として、政府への働きかけを要求した。

 先の映画は、「日本政府は朝鮮人への強制的な労務があったことを、2017年12月までに報告すると約束したが、現在それが履行される様子がない」の字幕で終わる。韓国政府の要求が明確に反映されているが、強制労働も朝鮮人徴用工の虐待も虐殺も事実ではない。

 九州大学教授の三輪宗弘氏は1945(昭和20)年に一旦朝鮮に戻った労働者の多くが再び日本に戻ろうとした事実を指摘する。

 米国国立公文書館の統計データ「Illegal Entry of Koreans」から、昭和20年段階で約1万人の朝鮮人が日本への密入国で捕まり、送り返されていたことが明らかだ。

 「奴隷労働や虐殺が行われていたとしたら、なぜ再び密入国してまで日本に戻ろうとするのか、説明できない」と三輪氏は話す。

 にもかかわらず、外務省は日本が朝鮮人労働者を虐待したかのように認めて、そのことを広報するための情報センターまで約束した。

 世界遺産への登録は、ユネスコの諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)の勧告によってなされる。2015年5月、日本は8県にまたがる23施設(端島含む)すべての登録が認められるとの満額回答を得た。

 しかし、外務省が「韓国の意向も尋ねなければ」と言い始めた。世界遺産への登録は各国の責任と判断で申請され、それをイコモスが判断する。韓国も中国も関係ないにもかかわらず、外務省は韓国に気兼ねし、韓国は日本の登録阻止に動いた。

 日本外務省は韓国に譲歩し、徴用工は「forced to work」と、自ら書いた。国際的に見れば、時効のない罪、強制労働を認めたに等しい。慰安婦と徴用工、すべて日本外交の国益なき敗北主義から生まれているのだ。

http://www.sankei.com/politics/news/170807/plt1708070012-n1.html

>>2以降に続く)