社説
(社説)慰安婦問題 救済の努力を着実に
2017年8月10日05時00分

 今月初めに外相に就いた河野太郎氏と、韓国の康京和(カンギョンファ)外相がマニラで会談した。

 河野氏が、慰安婦問題をめぐる日韓合意の着実な履行を求めたのに対し、康氏は合意の過程などを検討する特別チームを発足させたことを説明した。

 2年前の合意の主眼の一つは元慰安婦らの心の傷をいやすための支援にある。そのため発足した財団に、日本政府は10億円を送り、元慰安婦らの7割以上が現金を受ける意思を示した。

 そこまで事業は進んできたが、韓国の世論は否定的だ。財団は理事長が辞任し、存続を危ぶむ声も出ている。

 文在寅(ムンジェイン)大統領にすれば、この合意は前政権によるものだ。しかし、政府間で公式に交わした合意である。高齢化が進む元慰安婦らの救済を履行せねばならない。それが日韓関係の発展にも資する賢明な道である。

 大統領は、国内の反対世論を強調するのではなく、この問題をどう着地させるのかを語り、指導力を発揮するべきだ。

 韓国政府の中には特別チームの性格について「問題をただす検証ではなく、過程をチェックする検討だ」との指摘があるが、どんな結論が出ても国際的合意と「民意」の板挟みになりかねない。

 安倍政権も、元慰安婦らへのおわびと反省を表明した1993年の「河野談話」の作成過程を、3年前に検証した。安倍氏自身が談話を疑問視していたうえ、一部の政治勢力におされて「検証」に踏み切った。

 だが、大きな問題は見つからず、安倍政権は談話の継承を改めて確認しただけだった。

 歴代政権が積み上げた対外的な談話や合意を、政治の思惑で安易に蒸し返すのは不毛というべきだ。文政権は、そんな過ちを繰り返してはならない。

 一方、韓国側の不信の背景には、日本政府の謝罪と反省の真意に対する疑念がある。

 河野談話は、歴史の真実を直視する、と表明した。政府は96年、慰安婦問題の資料が見つかれば直ちに報告するよう求める通知を各省庁に出した。

 だが、その努力は乏しい。今のインドネシアで、旧日本軍の部隊の命令で女性を連れ込んだとの証言資料が法務省にあったが、市民団体の指摘で内閣官房に提出されたのは今年2月だ。

 この資料は十数年前には法務省にあることが知られていた。こんな後ろ向きな動きも日韓の負の連鎖が続く一因である。

 日韓両政府は、約束を一つずつ守り、感情の対立をあおらない最善の努力を尽くすべきだ。

http://www.asahi.com/articles/DA3S13080297.html