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─蓮舫氏の問題の場合、彼女の父親のルーツが台湾人、あるいは広い意味での「中国人」であるということが、さらに反応を大きくした要因であるようにも見えます。仮に彼女の父親がアメリカ人やドイツ人だったら、果たして同じような批判に晒されたのか、と。

マクニール 私もそう思います。今回の問題は「二重国籍疑惑」に加えて、彼女の父方の血が「中国系」であったことが過剰な反応を引き起こしたひとつの要因だったと言えるでしょう。一部の人たちは「中国」と聞くだけで過剰反応を起こし、中国系の血が入っているだけで「スパイだ」などと軽率に口にします。

確かに、中国という国や中国政府に対しては一定の警戒が必要かもしれませんが、それと個人の国籍に関する話をゴチャ混ぜにして根拠なく人格を批判したり、否定したりするのはパラノイア的な反応です。

沖縄の米軍基地反対運動でも同じことが起きています。沖縄の人たちが自分たちの生活を守るために米軍基地への反対運動をすると、それに対して必ず「中国人に操られている」「奴らは中国の手先だ」といったことを言う人たちがいて、挙句の果てには「そのうち沖縄が中国に侵略される」と根拠もなく主張する人たちが現れる。

蓮舫氏の「二重国籍問題」も、単なる国籍に関する問題をそうした「反中感情」に結びつけて民進党内の勢力争いに利用しようという人たちや、あるいは、その外側から民進党自体の信頼失墜に利用しようとする人たちによって、あれほど大きな騒ぎになったのだと思います。

そして、その背景には日本人の心の中にある「純粋な日本人」というモノへの志向、あるいは、日本社会の「同一性」への志向があるのだと思います。

─社会のグローバル化が進み、日本で暮らす外国人や海外で暮らす日本人、国際結婚のカップルやその子供たちも増えています。欧米では多くの国がなんらかの形で「二重国籍」を認めている中、それを認めない日本の国籍制度はどうあるべきなのでしょうか?

マクニール いわゆる二重国籍、多重国籍に関する各国の制度は様々で、私もそのすべてを知っているわけではありませんが、そもそもこうした多重国籍の問題は「複数の国の法制度」に関わる問題ですから、仮にひとつの国で制度を作ったとしても、それだけで対処できるとは限らないということを、まずは理解すべきだと思います。

また、仮に複数の国籍を持つ個人が日本国籍を選択したとしても、日本社会の中に根強い「同一性」への志向が残る限り、日本以外のルーツを持つ日本人が差別や区別を受けることなく「同じ、普通の日本人」として生きていける社会は実現できないでしょう。

実は、私の母国、アイルランドもかつては「社会の同一性」への志向が強く、人種差別も多かったのですが、この20年ほどで大きく変わり、今では人口の22〜24%がアイルランド以外の国から来た移民で占められていて、社会の多様性を積極的に受け入れる国へと大きく変貌しました。

私も日本人の妻との間にふたりの子供がいて、もうすぐ3人目が生まれるのですが、この子供たちが将来、「異質なモノ」として区別や差別を受けることなく、受け入れられるような「多様性」を日本社会が実現してくれることを祈っています。

(取材・文/川喜田 研 撮影/長尾 迪)

●デイヴィッド・マクニール

アイルランド出身。東京大学大学院に留学した後、2000年に再来日し、英紙「エコノミスト」や「インデペンデント」に寄稿している。著書に『雨ニモマケズ 外国人記者が伝えた東日本大震災』(えにし書房刊 ルーシー・バーミンガムとの共著)がある

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「二重国籍問題が民進党内の権力争いに利用されたことは、蓮舫氏だけでなく民進党にとっても非常に残念」と語るマクニール氏

(おわり)