もし2年前の9月に、集団的自衛権の限定行使を容認する安全保障関連法が成立していなかったらと考えると、盛夏であるのに寒気立つ。北朝鮮が米領グアム周辺への中距離弾道ミサイル発射計画を公表し、ミサイルの日本上空通過も予告した件である。危機は目の前に迫っている。

 ▼小野寺五典防衛相は10日の国会閉会中審査で、北朝鮮が実際にミサイルを発射した場合、安保関連法に基づき集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に認定し、自衛隊が迎撃することは可能だとの認識を示した。一部の新聞は「拡大解釈」だとの悠長な懸念を伝えたが、なに相手にすることはない。

 ▼「日本の安全保障にとって、米側の抑止力・打撃力が(攻撃を受けて)欠如することは、日本の存立の危機に当たる可能性がないとはいえない」。こう淡々と述べた小野寺氏の説明は分かりやすかった。グアムは、日本有事の際の米軍来援の拠点なのだから当然である。

 ▼安保関連法案の審議時には、多くのマスコミやテレビコメンテーターらが「なぜ今なのか」「どうして急ぐのか」「議論が足りない」などとかしましかったが、当時もそれ以前も北朝鮮は着々と核・ミサイル開発を進めていた。少しは自分たちの不明を恥じてはどうか。

 ▼「座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨だとは考えられない」。鳩山一郎首相(当時)は昭和31年、敵基地攻撃能力の保有は合憲だとの政府統一見解を出し、歴代内閣も踏襲している。安倍晋三首相は6日、「現時点で具体的な検討を行う予定はない」と述べたが、ここは「君子は豹変(ひょうへん)す」でいくことを勧めたい。

 ▼安全保障の要諦は、実は誰でも知っている。「備えあれば憂いなし」。この一言で足りるのである。

http://www.sankei.com/column/news/170812/clm1708120004-n1.html


【主張】北のグアム攻撃 「存立危機事態」に備えよ

 小野寺五典防衛相が国会で、北朝鮮が米軍基地のあるグアム島を弾道ミサイルで攻撃した場合、集団的自衛権の行使が許される「存立危機事態」に該当する可能性があるとの見解を示した。

 グアム攻撃によって米軍の打撃力が損なわれれば、日本防衛にも支障がでるとの判断からだ。

 国民を守り抜くうえで極めて妥当な認識である。安全保障関連法は、国民の生命、自由などが「根底から覆される明白な危険がある事態」を、存立危機事態と位置づけている。

 北朝鮮はグアム島周辺30〜40キロの海域を目標とする4発のミサイルを準備中で、発射すれば日本の島根、広島、高知県の上空を通過すると発表した。

 万一の日本落下に備え、中国・四国や九州地方に地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を展開するのは必要な措置である。

 問題は、イージス艦の迎撃ミサイル(SM3)を含め自衛隊の現有装備では、グアムへ飛んでいく弾道ミサイルを迎撃するのが相当困難であることだ。

 それでも、自衛隊が米軍へミサイル関連情報を提供することにとどまらず、迎撃などを試みて米国と守り合う行動をとることには大きな意義がある。

 日本の防衛は専守防衛の自衛隊と打撃力を提供する米軍の存在によって構成されるからである。

 グアムはアジア太平洋地域における米軍の重要拠点だ。最近も北朝鮮のミサイル発射に対抗し、自衛隊機がグアムから飛来したB1爆撃機と共同訓練を行って、日米同盟の団結を示したところだ。

 もしも周辺の海域ではなく、グアムの米軍が損害を被ればどうなるか。グアム居住の米国一般市民に被害が及ぶかもしれない。在日米軍も含め、米国は自衛のための反撃に乗り出すと思われる。

 北朝鮮から直接武力攻撃があるまで日本が傍観し、「集団的自衛権の行使」から逃げれば、米国の政府や世論は、日本を身勝手な国で、守るに値しないとみなすだろう。日本の安全とアジア太平洋地域の繁栄の基盤である日米同盟の空洞化を意味する。

 常軌を逸した北朝鮮の軍事的威嚇を前に、日本が集団的自衛権の行使によって米国と守り合う姿勢を堅持することが肝要である。それが、日米同盟の抑止力を高めることになる。

http://www.sankei.com/column/news/170812/clm1708120003-n1.html