金正恩氏にとって8月は、「怨念」のこもった月だ。

2015年8月、北朝鮮と韓国が対峙する軍事境界線の非武装地帯で、北側の仕掛けた地雷に韓国軍兵士2人が接触して爆発。身体の一部を吹き飛ばされる重傷を負う事件が発生した。

南北間の非難合戦は、すぐさま銃火の応酬に発展した。

韓国軍が地雷爆発事件に対する報復として対北心理戦の拡声器放送を11年ぶりに再開すると、朝鮮人民軍前線司令部が「心理戦放送を中止しなければ、無差別に打撃を加える」との警告を出し、実際に2度にわたり計7発の砲弾を韓国に向け発射。これに、韓国側も応射したのだ。

■爆発シーンの衝撃

その後も軍事危機はエスカレートし、一触即発の事態に発展。朝鮮半島には戦争前夜の空気が漂うことになる。

そして、南北はすんでの所で高位級会談を開き、40時間以上にも及んだ交渉により危機を収束させた。

だが、危機回避の南北合意は、双方が五分五分の関係で到達した結果ではなかった。爆発シーンの衝撃的な動画を見て「やるなら、やってやろうじゃないか」と盛り上がった世論を背景とした韓国政府が、強硬姿勢で北朝鮮を屈服させ、謝罪に追い込んだのである。

金正恩党委員長が、大きな屈辱を味わったであろうことは想像に難くない。「核戦力さえ整っていれば」と悔しがったのではないか。実際、北朝鮮側は早くも9月には「謝罪などしていない」と言い始め、合意に含まれていた南北交流の拡大も反故にするのである。

■性上納が横行

北朝鮮の軍事力は、核兵器抜きでは話にならないレベルにある。

いま、北朝鮮で最も飢えているのは軍隊だと言われており、とても戦争どころではないのが本当のところだ。

また、軍隊内では人事などを巡ってワイロが乱れ飛び、女性兵士に対しては「マダラス」と呼ばれる性上納の強要が横行している。軍紀も何も、あったものではないのだ。

ということはいま、弾道ミサイル実験に相次ぎ成功したことで、「ようやくケンカをできる体制が整った」と金正恩氏は考えているかもしれない。

2年前に屈辱を味わわされた韓国の朴槿恵前大統領はスキャンダルで転落したが、それで、金正恩氏の「敗北の歴史」が消え去るわけではない。

ここで米国相手に大立ち回りができれば、その「戦果」で過去の恥辱を覆い隠すことはできるだろう。

しかし問題は、米国は韓国よりも遥かに強大な相手であるということだ。

北朝鮮とトランプ大統領の「舌戦」は、2年前の南北の非難合戦を彷彿させる。それと同様に、金正恩氏がまたもや一敗地に塗れる可能性は小さくないだろう。

ただそうなった場合、金正恩氏の「逆恨み」がどのような形で爆発するのか、それもまた気になるところだ。

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金正男氏殺害の直後、暗い表情を見せた金正恩氏(朝鮮中央テレビ)