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2017/08/14(月) 12:49:46.39ID:CAP_USER上海協力機構(SCO)と聞いて、すぐに何のことか分かる人は少ないのではないだろうか。何かと話題になる「一帯一路」構想やアジアインフラ投資銀行(AIIB)と違って、SCOはニュースになることも少ない。だが、今後はもう少し注目したほうがよさそうだ。
SCOの歴史は意外に古く、そのルーツは90年代半ばにさかのぼる。中国、ロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの首脳が上海に集まったのは96年のこと。ソ連崩壊によって、よくも悪くも「親分」を失った中央アジア諸国のため、関係国が安全保障の枠組みを話し合うことにしたのだ。
SCOは01年、この5カ国にウズベキスタンを加えた6カ国で正式発足した。その最大の目的は、国際テロや宗教的過激主義といった「外敵」だけでなく、当時勢いづいていた各国内の分離独立運動への対応でも加盟国が協力することだった。
やがてアジアの周辺諸国も、SCOへの参加を希望するようになった。SCO加盟国から締め出された「不穏分子」が、周辺諸国に活動拠点を移すことが懸念されたためだ。
実際、分離独立主義者や過激派は、周辺諸国からSCO加盟国に向けて攻撃するだけでなく、これら周辺国の中でも破壊活動を始めた。こうしてアフガニスタン、モンゴルなどがオブザーバーとしてSCOに参加するようになった。
注目すべきは、インドとパキスタン、そしてイランも05年にオブザーバー参加を認められたことだろう。いずれも戦略地政学的に重要な位置にある上に、正常な統治を危うくしかねない国内外の脅威にさらされていた。これらの国にとってSCO参加は保険のようなものだった。
そして6月、カザフスタンの首都アスタナで開かれたSCO首脳会議で、インドとパキスタンが正式加盟国に昇格した。これによりSCOは域内人口が30億人を超え(世界人口の40%以上)、合計GDPは世界の約20%を占めるようになった。
これは地政学的に重要な転機になるかもしれない。政治的・軍事的に激しく対立してきたインドとパキスタンが、SCOという枠組みの中で手を組んだのだ。もちろんそれが2国間関係にどんな影響を与えるかは、もう少し時間がたってみないと分からないが。
中東の安全保障にも影響
インドが正式加盟したことで、SCOは安全保障だけでなく、経済、投資、貿易もカバーするようになるとの見方があるが、それは違う。そのことは一帯一路構想を見れば分かる。
中国は一帯一路の一環として、「中国・パキスタン経済回廊」なる大規模なインフラ整備プロジェクトを計画しているが、インドのことは完全に無視してきた。このためインドは最近、日本と組んで「アジア・アフリカ成長回廊」を整備する計画を発表した。
その背景には、経済面における中国とインドの競争激化がある。中国経済が一時のような勢いを失う一方で、インド経済は持ち直し、今や成長ペースでは中国を上回る。その競争は今後も収まる気配はない。
もしかすると、今年のSCO首脳会議で最も注目すべき出来事は、イランもオブザーバーから正式加盟国に昇格する見通しが高まったことかもしれない。早ければ来年にも実現する可能性があり、そうなればSCOは太平洋から中東までをカバーする巨大機構になる。
それだけではない。イランはペルシャ湾岸のアラブ諸国からのけ者にされているが、SCOに加盟すれば、アラブ諸国に対して大きな競争的優位を得る。それは中東の盟主の座をめぐるサウジアラビアとの争い、つまりは未来の中東の安全保障地図にも影響を与えるだろう。
SCOは発足から20年間は地味な存在だったが、ここへきて急速に拡大し、成熟しつつある。NATOなど世界の地域安全保障同盟は、その進化にもっと注目したほうがよさそうだ。
ハリー・ブロードマン(本誌コラムニスト、ジョンズ・ホプキンズ大学上級研究員)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/08/post-8201.php