北方領土の元島民の高齢化が進む中、故郷の先祖を供養する「墓参」が改善される。出入域手続き地点を現在の国後島沖の1カ所から、30日の墓参以降は歯舞群島付近でもできるようにするほか、

来月には航空機による往来も実現する見通しだ。「せめて墓参りはしやすくして」という願いに日露両政府はどう応えようとしているのか、課題を探った。【田所柳子】

◇渡航時間を短縮

終戦時に四島に暮らしていた約1万7000人の元島民は現在までに約1万人が亡くなった。一方、生存者の平均年齢は82歳を超えており、墓参の利便性拡充は喫緊の課題となっている。

ロシアが実効支配している北方領土へ日本人が訪れる際には、墓参を含め「出入域手続き」が必要となる。

ビザ発行ではなく簡易な身分証明書を確認するもので、現在は国後島の古釜布(ふるかまっぷ)沖だけで実施。これを30日から歯舞群島の勇留(ゆり)、志発(しぼつ)両島へ海路で墓参する際は、両島沖で出入域の手続きを実施する。これにより渡航時間を少なくとも6時間以上、短縮できるとみられる。

空路による墓参は9月23日を軸に日露両政府が再調整中だ。こうした改善が実現すれば、元島民の墓参で利便性は向上する。

◇陸路移動を要望

一方、6月には予定されていた空路墓参が悪天候で中止されており、これらの改善だけでは元島民が求める確実な「上陸による墓参」につながるかは不透明だ。直近の今月7?10日にあった国後島への墓参では、今後改善すべき別の課題を口にする元島民らも目立った。

今年度3回目の墓参となる今回、元島民ら46人は国後島中部のラシコマンベツ、植内(うえんない)、植沖(うえおき)各墓地で墓参した。

谷内紀夫副団長(59)は終了後の記者会見で「3カ所に上陸できたのは6年ぶり。船で(墓地付近に)直接乗り付けるより、陸路で車両移動した方が確実に墓参りできる」と指摘した。また現在、日本人が宿泊できる施設がある国後島以外でも「宿泊拠点の整備が必要ではないか」とも語った。

墓参では、交流船「えとぴりか」で直接上陸せず、小型艇に乗り換えて最寄りの地点から直接上陸を試みるケースがほとんどだ。墓地周辺の多くでは桟橋や港などが整備されていないためだが、砂浜に直接上陸する小型艇は波やうねりの影響を受けやすい。

この結果、それほどの悪天候でなくても元島民の悲願である故郷への上陸がかなわず、「えとぴりか」での洋上慰霊に終わることも多い。

過去には整備された同島の古釜布港から車で墓地まで移動した例もある。このため、谷内さん以外の参加者からも陸路移動を求める声が多く上がった。

また、今回は穏やかな天候ながら台風11号の影響でうねりが高く、訪問の順番を変更したため、桜庭常治団長(91)はロシア側から上陸許可が出るまでに「一時的に足止めをくらった」と指摘した。今年は自由訪問で、上陸が不許可となるケースが出るなどロシア側の受け入れ態勢も課題になっている。

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■ことば
◇北方領土訪問の枠組み
ロシアが実効支配している北方領土を日本人が訪問するため、日露両政府間で決めた枠組みとしては▽元島民らがお墓参りする「墓参」▽元島民らが墓地以外の居住地跡も訪問できる「自由訪問」▽領土返還運動関係者、報道関係者、専門家らも対象となる「ビザなし交流」??の3種類がある。
また北方領土での日露共同経済活動に向けて、日本側は主権を害さない「特別な制度」に基づく共同経済活動を求めている。

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