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 Y編集委員の話に比べると救われるが、私にもこんなことがあった。リクルート事件を追っていた1988年、朝日が宮沢喜一蔵相にも未公開株が渡っていたと特報した。

 当時、私は「週刊朝日」編集部にいた(川村さんは副編集長の一人)。同僚が蔵相の緊急会見を取材し、誌面にねじこんだ。私は「それにしてもよく数えたな」と、同僚である後輩をねぎらった。会見で何を訊かれても、宮沢氏は「ノーコメント」で通し、その数13度に及んだと記事にあったからだ。

 彼は頭を掻いて照れた。「ウソに決まってんじゃないすか。死刑台の段数ですよ」「エッ、13回はウソ! 実際は?」「7、8回ですかねぇ」。鳥肌が立ちそうだった。

 その宮沢氏が首相となり、1992年1月に訪韓して盧泰愚(ノテウ)大統領との首脳会談に臨んだ。その直前、朝日は1面トップで、慰安施設に軍が関与していたことを示す資料が見つかったと伝えた。

 議題にはなかった慰安婦問題が急浮上し、韓国大統領府の発表によれば、首相は大統領に「反省」と「謝罪」を8回繰り返した。謝罪の回数を公表するとは心ないことをと思ったが、ひょっとすると大統領府は日本で話題を呼んだ、「週刊朝日」製の“13回のノーコメント”を参考にしたのかもしれない。いずれにしても、「13回」では宮沢氏に申し訳ないことをした。