>>1の続き)

中国は対立を深め始めた米国から大量の大豆を輸入している。ブラジルやアルゼンチンからも輸入しているが、それは米国が制海権を有する太平洋を超えて運ばれて来る。南シナ海の制海権だけでは不十分である。中国は食料安全保障を完全に米国に握られてしまった。

米国が本気になって怒れば、中国人は豚肉を食べることができなくなる。それは、一度ぜいたくを覚えた中国人にとって大変な苦痛になろう。もし、そんなことになれば政権への怨嗟の声が国中に満ち溢れることになる。

中国が南シナ海やインド洋で米国との対立を辞さない行動に出るつもりなら、食生活の根本に関わる豚肉の飼料を米国やブラジルに依存するべきではなかった。飼料を完全に自給できる体制を整えてから、米国に喧嘩を売るべきであった。

エネルギーの安全保障を名目に南シナ海やインド洋に進出することによって、食料安全保障を危険にさらしている。マクロな視点から見れば、中国の対外戦略はただの思いつきの連続と言ってよく、そこに整合性を見ることはできない。

“場当たり的“と評されてもしかたがないものである。

川島 博之
東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。
東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など

(おわり)