高まる緊張

北朝鮮がグアム近海へのミサイル発射を予告するなど、米朝間の緊張はまた高まっている。もしも米朝が一戦構えることになれば、日本も大きな被害を受ける可能性は大なのだが、メディアも国会もそこまでの緊張感はないようにも見える。

この数週間、メディアが好んで取り上げた政治関連の話題は、2つの「学園モノ」を除くと、内閣改造とそれに伴った新任大臣の間抜けな発言。閉会中審査が行なわれた国会でも、日報問題に関する水掛け論が繰り返されていた。

このような状況を作家の百田尚樹氏はどう見ているか。最新のインタビューを2回にわたってお届けしよう。

「北朝鮮を刺激するな」という人

北朝鮮の脅威に関する日本国内の報道は、3、4月のほうが緊張感を持って大きく伝えられていたように思えます。それに比べると今はかなり落ち着いてきた。

落ち着いた、というと聞こえは良いですが、要するに慣れてきて、情報を伝える側も受け取る側も飽きてしまった。テレビ局などは「新味がない」と判断しているのでしょう。

しかし、その後も北朝鮮は次々と技術が進歩していることを見せつけていて、危機が高まっていることは間違いありません。

アメリカに詳しい知人によれば、CNNなどでも北朝鮮関連のニュースがかなりの時間を占めており、どう対処すべきかが大きな政治的争点にまでなっているそうです。「早目に攻撃すべきだ」という立場と「そんなことをしてはいけない」という立場とで対立している。

しかしこれはおかしな話で、いくらアメリカに届くICBMを開発したといっても、有事の際に被害を受ける可能性が高いのはアメリカではなく韓国であり、日本なのです。ところがその日本では、ピントの外れた議論がいまだに平気で幅を利かせています。

その代表例が「ミサイルを迎撃したら北朝鮮を刺激するだけだ。もっと平和的な話し合いをすべきだ」という類の意見でしょう。

もちろん平和的な話し合い、外交的努力をおろそかにしてはなりません。

しかし一方で、最悪の事態、すなわち彼らが暴発してしまうことは想定しないといけないのです。迎撃も含めて、様々な事態に備えて日本に何ができるのか、何をすべきかを想定し、準備するのは当然です。

言霊信仰の弊害

ところが、日本人には昔から言霊信仰のようなものがあり、これが「最悪の事態」を想定することを邪魔してきました。

このことは新著の『戦争と平和』にも詳しく書いたのですが、「悪いことを言ったり考えたりすると、それが現実化する」という思考法が根強くあるのです。

日本の誇る最強の戦闘機、ゼロ戦とアメリカのグラマンとを比べた場合、前者は圧倒的に防御力がない。防御力を犠牲にしてでも、速度や旋回能力を向上させることにしたからです。当然、それではパイロットの命が危なくなるのですが、当時の海軍上層部は「撃たれなければいいのだ」と考えました。

「最悪の事態」を考慮しなかったのです。結果としてゼロ戦は非常に攻めに弱い戦闘機になりました。

作戦においても同様でした。ガダルカナルなどの戦いでは、実際の戦闘よりも餓死による犠牲者の方が多く出ました。これも、作戦がすごく順調に進んだ時だけを想定して、もしも長引いた時にどうするか、について真剣に考えなかったからです。

「もしもうまくいかず、長引いたらどうするんですか」

そんなことを言ったら「縁起でもないことを考えるな」と怒られるわけです。

そんなのは過去の話だ、と思われるでしょうか。

しかし、これも『戦争と平和』で触れましたが、たとえば福島第一原発事故に関連しても、同じようなことが見られました。

事故処理のためのロボットが無かったのは、以前から現場からは「深刻な事故に備えてロボットを開発すべきだ」という声があがっていたにもかかわらず、上層部が握りつぶしてしまい、開発が進まなかったからです。

仮に電力会社が開発を進めていたら、

「おたくは事故なんか起こらないと言ったじゃないか」

と責められる。それを怖れたのです。

https://www.dailyshincho.jp/article/2017/08210700/?all=1

>>2以降に続く)