就任100日を迎えた韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が、第2次大戦中の徴用工問題で、韓国人の個人請求権は消滅していないとの認識を示した。

強制連行されて日本企業などで働かされた韓国人の徴用工問題は、元従軍慰安婦への謝罪や補償とともに日韓の癒えない歴史問題の一つだ。目を背けることができない。

それでも文氏の今回の発言は首をかしげざるを得ない。

日韓両政府は1965年に請求権協定を結んでいる。日本政府は協定に基づき、3億ドルの無償資金を提供した。元徴用工への補償は「解決済み」との立場だ。

韓国政府もそれを認めてきた。2005年、3億ドルは慰安婦らを除き「強制動員の被害補償問題を解決する」資金だとして、日本政府による徴用工らへの補償措置は終わっているとの立場を示した。

12年に、韓国最高裁が元徴用工の個人請求権を認める判断を示した際も韓国政府は「個人と企業間の訴訟だ」と距離を置いた。その後、日本企業に損害賠償を求める訴訟が相次いだが、やはり静観してきた。

文氏はそれを覆した。

慰安婦問題でも文政権は、朴槿恵(パククネ)前政権が最終解決を確認した15年の日韓合意を「国民の大多数が受け入れられない」として、合意の成立過程を検証している。

この夏、韓国では徴用工の苦難を描いた映画「軍艦島」が観客600万人を超す人気になっている。日本企業に元徴用工への賠償を命じる下級審判決も相次いでいる。徴用工問題が国民の注目を集める中での大統領発言だった。

文氏は弁護士であり、かつて徴用工の裁判で弁護団の一員だった。特別な思いはあろう。9年ぶりに保守から革新への政権交代を果たし、前政権との違いをアピールする狙いもあったかもしれない。

だが、05年の政府見解の表明時に政権の座にあったのは革新の盧武鉉(ノムヒョン)氏であり、大統領府で側近として盧氏を支えていたのが文氏だ。整合性が問われる。

そもそも韓国では、日本が支払った3億ドルの大半がインフラ整備などに用いられ、元徴用工らの補償には充てられなかった現実がある。徴用工問題は内政問題の一面がある。

日本の植民地支配からの解放を記念する15日の式典で文氏は、日韓関係について「歴史問題にふたをして進むことはできない」と述べた。同感だ。日本は真摯(しんし)に歴史に向き合わなければならない。

同時に文氏は「シャトル外交を含め、多様な交流を拡大する」とも強調した。両国はいま、これまで以上に関係を密にしなければならない。安全保障面でも北朝鮮の核問題は緊迫度を増している。

こうした状況を踏まえ、徴用工問題を過度の外交論争にすることは避けなければならない。日本政府内では「蒸し返しだ」と反発する声が少なくないが、日韓ともに冷静な対応が求められる。

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