ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。排他的コメントやヘイトスピーチへの対策が日本でも始まったことを報告し、今後の課題を指摘する。

*  *  *
ネット上ではびこる他人への攻撃的な投稿やヘイトスピーチに対して、ようやく日本のプラットフォーム事業者も具体的な取り組みを始めた。

大きな変化があったのは、排斥的なコメントが大多数を占め長年存在が問題視されてきたヤフーニュースのコメント欄。

6月以降、同じ文章を短期間に繰り返し投稿する行為や、複数のアカウントを利用して多くの意見に見せかける行為を、削除・非表示にする対策を強化した。その結果、多くの排他的コメントやヘイトスピーチが表示されないように変わった。

とはいえ、韓国や中国関連のニュースで、「嫌韓」「嫌中」意識が強く感じられるコメントが、大量に投稿される状況は変わらない。

「○○人はみんなそんな人ばかり」といった伏せ字を使うことで、監視の目をかいくぐるやり方もあれば、日韓協議のニュースに「国交断絶を速やかに実施できるよう両国共に頑張りましょう」といった皮肉交じりのコメントもある。

一見丁寧な物言いながら、背後には排外意識が強くにじみ出ている。

問題はこうした“他者や集団への極端ではない批判的投稿”を、プラットフォーム事業者がどう判断するかだ。極端な投稿こそ減っているが、現状はヤフーが掲げる「コメント欄を健全なネット言説空間にする」という理想には程遠い。

一方、やはり他者への攻撃的投稿やヘイトスピーチが問題視されているツイッタージャパンも、7月21日にユーザーの迷惑行為への対処状況を発表した。

それによると、何千もの攻撃的な行為を行っているアカウントに、機能の制限をかけたり凍結させたりする措置を、毎日行っているそうだ。その数は昨年の今頃と比較して10倍以上に及ぶ。

いきなりアカウント凍結を行うのではなく、一時的に機能を制限することでも効果が見られたという。攻撃的な行為を行うアカウントに対して一時的に機能を制限し、理由を伝えることで、その後の攻撃的な行為に関する報告が25%減少した。

制限がかかったアカウントのうちの65%は制限を受けた回数が1度だけだった。つまり、大多数のユーザーはプラットフォーム事業者から「それは利用規約違反ですよ」と警告を受ければ、ある程度は穏健化するということだ。

興味深い事実だが、他方でツイッターはヤフーのコメント欄と同じく、他者への攻撃的投稿を見かねたほかのユーザーが報告しても、「利用規約違反ではない」という理由ではねられるケースも多い。

ヤフーにしろ、ツイッターにしろ、極端な投稿への対処こそ進めているが、「グレーゾーン」の攻撃的表現までは手を付けられていないのが実情だ。

グレーゾーンの投稿をどう評価するかは表現の自由とも関わってくる難しい問題だ。

だからこそ、プラットフォーム事業者はこうした情報を積極的に開示し、どこからがアウトでどこまでがセーフなのか、外部のNPOなどと連携して、一定のガイドラインを作っていく必要がある。

※週刊朝日  2017年8月18−25号

https://dot.asahi.com/wa/2017081400015.html
https://dot.asahi.com/wa/2017081400015.html?page=2