全世界を舞台に、熾烈な人材争奪戦を繰り広げていることで有名なシリコンバレー。その青田買いが韓国にもやってきたようだ。

韓国の複数の大手新聞によると、シリコンバレーにあるグーグル、アップル、マイクロソフトといった米国のIT企業が、韓国の学部生から博士課程の学生まで、次々と優秀な人材を採用して米国に連れていくのではないかと報じている。

シリコンバレーのIT企業が興味を持っているのは、韓国でも超難関国立大学であるKAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)やソウル大学理工学部の学生で、特に半導体の設計など電子工学を研究している学生が人気のようだ。

韓国の大学は国際学会に論文を投稿してこそ研究実績があるとみなすので、学生でも積極的に英語で論文を投稿する。論文を読んだシリコンバレーのIT企業担当者が学生に連絡し、インターンを提案するケースも増えている。

企業が全費用を負担し有給インターンとしてシリコンバレーに招待し、プロジェクトに参加させる。その結果を見て正社員として雇う流れになるという。

グーグルやアップルは、1日でも早く採用するため、画像面接やメッセンジャー面接で合格させる場合もあるようだ。以前はシリコンバレーで就職したといえば、米国の大学で留学している韓国人学生ばかりだったが、留学経験がない学生まで採用の対象にしている。

国立大学KAISTのパク・オオク副学長が韓国メディアのインタビューに応じた内容によると、「以前は教授になることを目標としていた優秀な学生が、最近はシリコンバレーをはじめ米国のIT企業に就職することを最優先する傾向が強くなった」という。

KAISTは学生の要望に応じて、毎年夏休みにシリコンバレーにあるスタートアップでインターンとして働けるチャンスを提供している。米国IT企業からKAISTに対して学生を推薦してほしいという依頼も増えているそうだ。

韓国ではもう20年近く就職難が続いている。そのため学生の間でも、就職できるなら国内だろうが海外だろうが関係ないという意識が高まっている。

加えて韓国の企業は、大学での成績や海外留学経験、外国語能力、親の職業や給料まで履歴書に書かせるが、海外の企業は本人のやる気と研究実績だけを見て評価する場合が多いのも魅力的だ。

もちろん、日本で就職したがる学生も多い。韓国のポータルサイトで「日本IT就職」で検索すると、数えきれないほど斡旋業者が出てくる。政府機関が主催する日本IT就職セミナーや、日本IT就職研修といったプログラムも毎月のように開催されている。

韓国では依然として理系は医学部が一番で、工学部はあまり優遇されない傾向があった。どんなに優秀な工学部の学生でも、韓国のIT企業では開発部隊の一人にすぎず、博士号を取得しても専攻を活かせる職種になかなか就けないことが多い。

さらにいえば、韓国では仕事の結果よりもどれだけ長時間会社にいたかで評価される傾向がある。だが、シリコンバレーでは新卒でも年収1500万円はもらえ、自分の仕事だけすればよいというところも大きな違いがある。

韓国科学技術政策研究院によると、理工学系博士号取得後海外で就職した人は2006年5397人、2008年6190人、2010年8080人、2013年8931人と増え続けている。

韓国メディアによると、米国ではトランプ大統領就任以降、米国人を優先する保護主義から外国人の就労ビザの発行が厳しくなっている。だが、シリコンバレーでは一般的な就労ビザではなく、特別な知識を持つ専門家に発給するビザを取得させている。

そこまで手間を惜しまず熱心に世界中の人材を囲い込んでいるのだ。一方で韓国は人材といえる人が海外にどんどん出ていくだけで、海外から入ってくる人はブルーカラーばかり。このままで大丈夫なのかという危機感も広がっている。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/549762/080900161/