ある日、見知らぬ人から汚い言葉の抗議ハガキが大量に届いたら、あなたはどう思うだろうか。そんなことが、日本を代表する有名進学校で起きていた。「反日教育」「極左」などと書かれたハガキが200通以上届いた学校もある。しかも、差出人には安倍晋三首相の人脈に連なる人物も含まれていた。いま、日本の教育が危ない。

「集団的な脅しにしか思えなかった」
「教員を30年以上やってきたが、こんなことは初めての経験だった」

こう語るのは、毎年、東大や京大などの最難関大学の合格者数ランキングで上位に名を連ねる有名進学校の教員たちだ。いずれも伝統ある国立と私立の中高一貫校で、リベラルで自由闊達な校風で知られる。

その名門校をターゲットに「脅し」が始まったのは、昨年2月ごろ。「学び舎」が発行する中学生向けの歴史教科書「ともに学ぶ人間の歴史」を採択した灘、麻布などの名門中学に対し、内容が「反日極左」だとして使用中止を求める抗議ハガキが次々に届いたのだ。

抗議の焦点は、この教科書が慰安婦問題に言及していること。文面には「将来の日本を担っていく若者たちを養成する有名エリート校がなぜ採択したのでしょうか」「反日教育をする目的はなんですか」「OBとして募金に一切応じない」「『反日極左』の教科書」などと書かれている。

本誌は、学び舎の教科書を採択した全38の中学校に調査を実施。うち7校から抗議が「あった」との回答を得た。匿名を条件に取材に応じた私立中学校の教員は言う。

「『OB』と書かれているものは、すべて匿名。本当にわが校のOBなのか確認することもできなかった」

抗議行動の一連の経緯は、灘中の和田孫博校長がエッセーにまとめ、同人誌に寄稿。ネット上で昨年9月に公表された。エッセーには、ある会合で県議会議員から「なぜあの教科書を採択したのか」と問われ、国会議員からは「政府筋の問い合わせなのだが」と教科書の採択について電話があったと記されている。

和田校長によると、エッセーは大学の友人に向けて書いたもので世に問う意図はなかったが、今夏に毎日放送や神戸新聞などが内容を報じ、話題となった。

不気味さを際立たせているのは、抗議ハガキの多くが同一の書体で宛名と文章が印刷されていたことだ。国立中学校の教員は「組織的に送付されたものだとすぐにわかった」と話す。

差出人の名前には、安倍晋三首相の人脈に連なる人物の名前もあった。前出の国立中学校の教員は言う。

「同一書体のハガキは差出人だけ手書きで、森友学園(大阪市)の籠池泰典さんや山口県防府市の松浦正人市長の名前もありました」

今は決別しているが、当時の籠池氏は、安倍首相の熱烈な信奉者だった。経営する幼稚園では園児に教育勅語を暗唱させ、軍歌を歌わせるなど「愛国教育」をしていた。

その理念を小学校でも実現するために新設を目指した「瑞穂の國記念小學院」の名誉校長には、安倍昭恵首相夫人が就任(国会で問題になり、後に辞任)。ハガキが出されたのは、籠池氏が小学校新設に奔走していた時期と重なる。

同じくハガキの差出人となっていた防府市の松浦市長は、現在は全国市長会の会長で、安倍首相の教育政策に賛同する「教育再生首長会議」の会長でもある。

山口県が地元選挙区の安倍首相との関係は深く、松浦市長の活動報告誌「青眼」には首相官邸を訪問した写真がたびたび掲載されている。2014年1月15日号には、こう書かれている。

<約35年のお交き合いになります安倍総理は“日本を取り戻す”苦しい日々を闘っておられます>(原文ママ)

教育問題にも熱心で、日本について、<国辱とも言える歴史認識と正義が通らず、心ある者は口をつむぐ閉鎖社会>(原文ママ)と書いている。

松浦氏と籠池氏は同じ理念を共有する、いわば同志。松浦氏は、籠池氏が計画していた小学校建設のために寄付をしていた。また、森友学園の財務状況への懸念から、小学校の設置認可が保留となっていたときに、松浦氏は籠池氏に大阪維新の会に所属する大阪府議を14年12月に紹介。

https://dot.asahi.com/wa/2017082100086.html

>>2以降に続く)