米朝の軍事衝突を否定できないのには5つの理由がある。

北朝鮮という国と米国という国の歴史的成り立ちに起因する面もあるが、同時に金正恩第一書記とトランプ大統領を取り巻く内外の環境に起因するところも大きい。

問題の根源は北朝鮮にあることは疑いの余地はないが、日本を含め東アジア地域にとって深刻な犠牲を強いる軍事衝突は何としても避けなければいけない。

このためには、北朝鮮への制裁措置を実効性のあるものとしつつ、主要国と現状認識を共有し、問題解決のための外交を始動させなければならない。

現在ほど米朝対決リスクが高い時期はかつてない

米韓合同軍事演習も始まり、北朝鮮核・ミサイル問題を巡り再び緊迫を高めている。米朝間のやり取りは今後とも起伏があろうが、軍事衝突が起きる潜在的な危険は間違いなく存在している。

韓国の文大統領は8.15解放記念日(光復節)の演説で「朝鮮半島で二度と戦争があってはならない。誰も韓国の同意なく軍事行動を決定することはできない」と述べたが、日本も同じ立場にあるはずである。

軍事行動のコストは日本にとっては大き過ぎるし、もし軍事行動がとられれば、当然、日本にある米軍基地も巻き込まれるわけで、日米安保条約の事前協議の対象となる。

日本政府は弱腰ととられることを嫌うのか、「圧力が必要」「対話のための対話は意味がない」といった発言を前面に出し、真正面から交渉による解決を呼びかけるといったことはないように見受けられる。

もちろん、圧力は緩めてはならないし、とりわけ中国は国連安保理で同意した制裁措置を厳格に実行していかなければならない。

しかし、同時に日本にとって大きな犠牲を伴う朝鮮半島の戦争があってよいはずはなく、日本の外交は問題の平和的解決に向けて傍観者ではなく当事者として機能しなければならない。

筆者は安保問題や経済問題で長年米国と交渉した経験を持ち、北朝鮮とも厳しい交渉を長い間続けた。その経験から考えると、現在ほど米朝対決のリスクが高い時期はない。米朝の計算違いによる軍事衝突の可能性は低くないからだ。

そのことを日本を含む関係国は理解しなければならない。「5つの理由」をあげたいと思う。

お互い理解していない「米国の本質」と「北朝鮮の心理」

米朝間の軍事衝突が否定できない理由の一つは、北朝鮮が「米国の本質」を理解していないことだ。

米国は自国の安全が直接、脅かされていると認識した時はこれまでも、毅然とした対応をとってきた。日本軍の真珠湾攻撃が米国を太平洋戦争に駆り立てた。9.11同時多発テロは「ならず者国家は先制攻撃をもってでも撃つべし」といういわゆる「ネオコン」の主張に基づき、テロとの戦いやイラク戦争に米国を駆り立てた。

北朝鮮は米国に届く「核ミサイル」は攻撃されないための抑止力として自国の安全を担保するための最善の手段と考えているのかもしれないが、これは大きな間違いである。全く逆といってもよいかもしれない。

北朝鮮が米国本土を射程に収めるICBM(大陸間弾道弾)を持ち、核弾頭の小型化に成功すれば、米国による北朝鮮攻撃の蓋然性は増すことを北朝鮮は知るべきだ。

米国本土が北朝鮮の核攻撃のターゲットになり得るという状況を米国が許容するはずもない。北朝鮮の核施設を取り除くための米国の攻撃は仮借ないものとなるだろう。

グアム周辺に4発のミサイルを撃つという北朝鮮の計画が、かくも強いトランプ大統領の反発を引き起こしている背景である。

二つ目は、米国も「北朝鮮の心理」を理解していないことだ。

米国は唯一の超大国としての圧倒的力を背景に上から押さえつけるという態度をとりがちである。

これは日本も経験済みだ。日米経済関係が最も厳しかった80年代後半に数々の日米経済摩擦案件についての交渉を行ったときの常だったが、「米国の市場を閉められたくないのであれば日本の市場開放をしろ」と要求を突き付け、

自国企業の輸出努力の欠如などは一切問わず、議会の制裁決議などを背景に日本に譲歩を迫った。

http://diamond.jp/articles/-/139494

>>2以降に続く)