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しかし、私がワシントンに滞在していた2017年3月、米国外交専門誌『フォーリン・ポリシー』に米シンクタンク、カーネギー国際平和基金のマイケル・スウェイン研究員の手になる論文「米中両国は『一つの韓国』政策を必要としている」が載った。

北の核問題を根本的に解決するためには、中国によるこれまでとは異次元の関与が必要だが、「米国が同盟国である韓国主導の統一を画策して中国の利益を脅かすのではないか」という不安・不信感が障害となっている、この根本の障害を取り除かないかぎり、

いくら制裁を強化しても、アメを提供しても北の核問題は解決しないので、中米両国は「統一された、中立(non-aligned)の朝鮮半島」を未来像として共有すべきであり、そのために米国は在韓米軍を撤収する用意をすべき、といった主張が骨子の論文である。

この論文を読んで目が醒めたことには感謝しなければならない。「北朝鮮問題の解決」のためには、在韓米軍撤収、米韓相互防衛条約解消といった決断も必要になる。米国にはそういうことを論文に公然と書く専門家がいる。

そんな論者を1人見つけたら、背後には「同感だ」と思う識者が数十人いると思ったほうがいい。

もちろんトランプ政権の安保・外交を主導するジェームズ・マティス国防長官やハーバート・マクマスター補佐官ら軍人中心の主流派が、そんな提案に軽々に乗るはずはない。

しかし、この提案に乗らなければ、事態はじりじり悪化の一途をたどるだけだろう。「北朝鮮問題には出口がない」――。これまでみな感じてきたことだが、中国が本気になるなら話は別だ。

そして、「中国を本気にさせるには在韓米軍問題で取引することが必要条件の一つになる」――。突き放して考えると、それは事実だと私は思う。

一方で、論文のほかの論旨には怒りを覚えた。在韓米軍という対抗力が撤収すれば、朝鮮半島は「中立(non-aligned)」の状態にはならず、中国の衛星国と化すことは火を見るより明らかだ。

この論者はそんなことも見通せない愚か者なのか、いやそうではなく、不都合な真実は見ぬふりをしているのだろうと感じた。

「在韓米軍撤退」――。そうなるかもしれないが、日本にとっては国の安全保障の基本的前提条件の大転換になる。1世紀ちょっと前には、「朝鮮半島が清朝やロシアの支配下に入るのは、国の安全保障上許容できない」として、2度にわたって戦争をしたくらいなのだから。

日本も米国も北の核・ミサイル問題については、毎度「中国の努力を求める」とお経を唱えてきたが、その先に待ち構える事態を少し真剣に考えると、そう唱えて「事足れり」とする「思考停止」は止めなければならない。

スウェイン氏のような論文が出るところを見ると、トランプの米国では「お経を唱えて事足れり」のモードが変わりつつあるのかもしれないが、そんな談合が米中両国の間だけで内密に進められたら、日本はたまったものではない。

北朝鮮への経済協力も一つの手段

そういうことが起きないようにするために、日本は何をすべきで、何ができるだろうか。

「いの一番」に心掛けるべきことは、日本を蚊帳の外に置いて重大な合意・決定が行われることのないよう、朝鮮半島問題の討議の場に積極的に関与する(ことあるごとに首を突っ込む)ことだろう。

このことを考えたとき、決定的な役割を果たす中国との関係はもっと改善し、突っ込んだ話ができるように改めないと、わが国の安全を守ることができないと思う。

また、具体的には中国が進めてきた「6カ国協議」を再開・活性化する努力が必要だし、そこで「日本も呼ぼう」と思わせるような建設的な役割を果たさないといけないだろう。

(続く)