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だから、慰安婦問題についても、政府間で合意が成立しても、被害者が納得しない限り、それは「最終的な合意」にはならない。被害者が納得しなければ、「不可逆的な解決」にはならないのです。

政府が合意しても、被害者と国民が納得しなければ、「ゴールポスト」は固定されない。我々が対峙しているのは、そういう政治文化なのです。

平井:白黒をはっきりさせることが求められている社会であって、グレーをあまり認めたくないという感じが強いですね。

小此木:徹底的に白を追求していく。

平井:だから何かをするときに、名分というものが非常に重要になってくる。

小此木:日韓の慰安婦合意(編集部注:2015年12月に日韓政府が交わした合意。

これが「最終的かつ不可逆的」解決であることを確認し、日本から元慰安婦支援財団に10億円の拠出を、韓国は日本大使館前の少女像問題の解決を約束した)は政府間の合意だから、日本人の感覚としては、当然守るべきだ。

しかし、韓国では誤った合意を政府が押し付けてよいのかという設定になる。いくら政府が決めても、正しくなかったら守るべきでない。

平井:その意味では、日韓関係にとって重要なのは、相手の立場に少し立って考えるという思考法を、われわれが持つことが大事だと思いますね。

■「最終解決」は解決ではない

小此木:レッテルを貼ると思考停止になってしまう。私は韓国の文化や価値観が正しいとか、それに合わせろと言っているのではありません。相手の文化や思考を十分に知って対応することが重要だと言っているだけです。そうでないと、問題がどんどんこじれます。

軍艦島を世界遺産にして、徴用工問題に火をつけてもしょうがないでしょう。

文政権が「ツー・トラック」外交といって、新しい対日外交を模索しているのだから、こちら側も「ツー・トラック」外交でやってみたらどうなるか、などといろいろ考えてみることが必要です。

平井:その通りです。

この間ぼくはソウルで開かれたシンポジウムに出席して、そこで韓国の学者の方からこんな話を聞きました。「THAADの導入は朴槿恵前政権がやったこととして認めるけれども、慰安婦の問題では前政権のやったことは認められないというのは、ダブルスタンダードだ」と。

韓国人の中にある対米感情と対日感情の根本的な違いがあるから、こうしたことになるんだろうと思います。

小此木:「最終解決」だと盛り込めば、本当に最終解決になると考えるのが単純です。

平井:できないことをできると書いてしまった。だから解決はしないだろうと思います。あの合意は、政府を縛ることにはなっても民間を縛ることにはならないですし。少女像を作っているのは政府ではなく民間ですからね。

小此木:そうは言っても、自国政府が国際的に合意したことに関して、それを無視してもよいということにはならないし、国際礼儀は守ってほしいですね。それができなければ、当事者能力に疑問符が付く。

だから韓国の大統領は国民を説得しなければならないし、そのための環境整備に努力すべきでしょう。

平井:合意の見直しは難しいと思いますけどね。

小此木:やはり、これは韓国の国内問題ですね。韓国政府が国内政治問題として解決することです。しかし、それができますかね。支持率の高い政権だから、いい方法を考えてほしいですね。

平井:日韓基本条約(編集部注:1965年に締結。個人を含む対日請求権の完全かつ最終的な解決が確認され、日本は約11億ドルの経済協力を行った)の再交渉という声も大きい。

小此木:まあ、長期戦ですね。北朝鮮の軍事的な挑発もあって、日本政府も慎重に構えているようですが、それでいいと思います。

■本当に「反日」か

平井:ぼくは韓国で10年以上暮らしましたが、日本人だからと言って不快な思いをしたことはほとんどないですよ。この点については、日本の人たちが錯覚していると思います。

たとえば街頭で市民に、慰安婦問題についてどう思いますかと聞いたら、わーっと日本批判の声が聞こえてくるけれども、同じその人が日本人一般に対して批判的であるかどうかは、まったく別の問題ですね。

小此木:その意味での反日ではないですよね。

平井:彼らは上部概念の世界で、自分が正しいと思っていることについての意見を述べているんであって、それが彼らの横に現実に存在する日本人に対する価値観と同一ではないんです。
(続く)